はじめに、本発明で使用する層状珪酸塩について説明する。
層状珪酸塩は、ポリ乳酸組成物の耐熱性、ガスバリヤ性及び機械的強度を向上させる事を目的として使用するものである。ポリ乳酸は通常結晶化が非常に遅いポリマーであり、例えば、70〜130℃に加熱した金型で成形する場合、十分に結晶化するまでに長時間かかる。また、金型の温度を室温以下に冷却した場合には、得られる成形品が非結晶のものとなってしまう。層状珪酸塩を使用してナノコンポシット化した本発明のポリ乳酸組成物は結晶化速度が速く、結晶化温度(70〜130℃)に加熱した金型で成形する場合に結晶化が十分に進行し、短時間で成形品を製造することができる。
層状珪酸塩を使用しないポリ乳酸組成物の耐熱温度、即ちビカット軟化点温度は、45℃〜70℃未満であったのに対し、層状珪酸塩を添加することで70℃以上に向上でき、更には乳酸系ブロック共重合ポリエステル及び層状珪酸塩の種類及び含有量、成形時間等を調整することで100℃以上に向上する事が可能となる。更に層状珪酸塩を後述するポリエステル(I)の製造段階の早い時期から使用し、層状珪酸塩を分散させると、ポリ乳酸に直接層状珪酸塩をブレンドする場合に比べ効率よく微分散でき、層状珪酸塩の使用量が従来より少なくとも、優れた耐熱性を付与することができる。それに伴い、透明性の消失も抑制できる。
また、層状珪酸塩を使用することで、本発明のポリ乳酸組成物にガスバリア性を付与することができる。ここで言うガスバリア性は、酸素、窒素、二酸化炭素、水蒸気等のガスバリヤ性であり、その透過度を層状珪酸塩を使用しない場合の1/2〜1/5程度に減少できるものである。これはいわゆる「回り道理論」効果で発現する。
回り道理論とは、微分散した層状珪酸塩がガス分子の透過路を遮断し、ガス分子がそれを迂回して透過しようとすることで透過するまでの距離が長くなるものである。
また、層状珪酸塩は、タルクやガラス繊維等の強化材を使用する場合と同等以上の機械的強度をポリ乳酸組成物に付与することができる。層状珪酸塩は、その大きさがナノレベルでタルクやガラス繊維より小さく、また官能基を有することも可能なため、高分子鎖とより緻密な複合体構造をとることができる
前記層状珪酸塩としては、例えばアルミニウム、マグネシウム、リチウム等の元素を含む8面体シートの上下に珪酸4面体シートが重なって1枚の板状結晶層を形成している2:1型の構造を持つものが挙げられ、その板状結晶層の層間に交換性陽イオンを有しているものが好ましい。前記板状結晶層の大きさは、通常幅0.05〜0.5μm、厚さ6〜15オングストロームのものが好ましい。
前記交換性陽イオンのカチオン交換容量は、0.2〜3meq/gのものが好ましく、0.8〜1.5meq/gのものがより好ましい。
本発明に使用する層状珪酸塩の具体例としては、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト等のスメクタイト系粘土鉱物、バーミキュライト、ハロイサイト、カネマイト、ケニヤイト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウム等の各種粘土鉱物、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素マイカ、Li型四珪素フッ素マイカ等の膨潤性マイカ等が挙げられ、天然のものでも合成されたものでもよい。これらの中でもモンモリロナイト、ヘクトライト等のスメクタイト系粘土鉱物やNa型四珪素フッ素マイカ、Li型フッ素テニオライト等の膨潤性合成マイカが好ましい。
前記層状珪酸塩としては、予め有機カチオン処理を施したものが好ましい。有機カチオン処理は層状珪酸塩の有する交換性陽イオンを有機カチオンとイオン交換するもので、それにより層状珪酸塩の層間距離を大きくでき、層間剥離やポリマーの層間挿入によって層状珪酸塩の分散性を向上させることができ、透明性の良いポリ乳酸組成物を製造できる。
前記有機カチオン処理は、例えば、層状珪酸塩を水またはアルコール中に分散させたものに有機カチオンを塩の形で添加し攪拌混合することで層状珪酸塩の交換性陽イオンを有機カチオンとイオン交換させた後、濾別・洗浄・乾燥する方法であり、これにより得られた有機オニウム塩化された層状珪酸塩を使用することが好ましい。
前記有機カチオンとしては、例えば1級又は3級アミンおよびそれらの塩、4級アンモニウム塩、有機ホスホニウム塩等が挙げられる。1級アミンとしては、例えばオクチルアミン、ドデシルアミン、オクタデシルアミン等が挙げられる。3級アミンとしては、例えばトリオクチルアミン、ジメチルドデシルアミン、ジドデシルモオメチルアミン等が挙げられる。4級アンモニウムイオンとしては、例えばテトラエチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、ジメチルジオクタデシルアンモニウム、ジヒドロキシエチルメチルオクタデシルアンモニウム、メチルドデシルビス(ポリエチレングリコール)アンモニウム、メチルジエチル(ポリプロピレングリコール)アンモニウム等が挙げられる。有機ホスホニウムイオンとしては、例えばテトラエチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、ヘキサデシルトリブチルホスホニウム、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム、2−ヒドロキシエチルトリフェニルホスホニウム等が挙げられる。これらの有機カチオンは単独で使用してもよいが2種以上を組合せて使用してもよい。
前記層状珪酸塩としては、水酸基、カルボキシル基を有するものを使用することが好ましい。本発明では、前記層状珪酸塩の存在下でジカルボン酸及びジオールを反応させポリエステル樹脂(Ia)を製造することから、前記層状珪酸塩が水酸基又はカルボキシル基を有していると、それらの官能基を介してポリエステル樹脂(Ia)中に層状珪酸塩を導入することができ、これにより層状珪酸塩の分散性を向上できる。
本発明で用いられる第1及び第2の有機オニウム塩の炭素数はそれぞれ6以上であることが好ましい。該炭素数が6以上であれば、層状珪酸塩の層間距離を十分に広げることができ、分散性を向上できる。
前記層状珪酸塩は、本発明のポリ乳酸組成物に対して0.1〜20重量%となるよう使用することが好ましく、0.5〜10重量%の範囲がより好ましく、1〜5重量%の範囲がさらに好ましい。かかる範囲で用いることで、充分な結晶化速度の促進効果を得ることができ、さらに成形がしやすく、ポリ乳酸組成物成分の分子量の低下を引き起こさず、短期及び長期に渡る機械物性の安定性に優れたポリ乳酸組成物を得ることができるが、本発明のポリ乳酸組成物の透明性を考慮すると、可能な限り少ない方が好ましい。
前記層状珪酸塩は、後述するジカルボン酸及びジオールを反応させポリエステル樹脂(Ia)を製造する過程で使用するものである。層状珪酸塩をポリエステル樹脂(Ia)の製造過程で使用することで、従来のようにポリエステル樹脂と層状珪酸塩とを混合した場合よりも、より微分散できる。
前記層状珪酸塩は、ポリエステル樹脂(Ia)をラクタイド(II)又はポリ乳酸(II’)と反応させ、後述する乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(IIIa)を製造する過程で再度使用しても良く、後述する乳酸系共重合ポリエステル樹脂(IIIa)とポリ乳酸(IV)とを溶融ブレンドする場合に再度使用しても良い。その場合、前記層状珪酸塩をポリ乳酸組成物中に均一且つナノレベルで分散させるのが難しいため、混練能力が高いスクリューを使用したり、2軸押出機であれば回転数を上げる必要がある。
次に本発明で使用できるカーボンナノチューブについて説明する。
カーボンナノチューブは、前記層状珪酸塩同様、本発明のポリ乳酸組成物の耐熱性、ガスバリヤ性及び機械的強度を向上させる目的で使用するものであるが、カーボンナノチューブを使用する場合は、さらに導電性導電性、熱伝導性、電磁波シールド性等の機能を本発明のポリ乳酸組成物に付与することができる。
ポリ乳酸は通常結晶化が非常に遅いポリマーであり、例えば、70〜130℃に加熱した金型で成形する場合、十分に結晶化するまでに長時間かかる。また、金型の温度を室温以下に冷却した場合には、得られる成形品が非結晶のものとなってしまう。カーボンナノチューブを使用してナノコンポシット化した本発明のポリ乳酸組成物は結晶化速度が速く、結晶化温度(70〜130℃)に加熱した金型で成形する場合に結晶化が十分に進行し、短時間で成形品を製造することができる。
カーボンナノチューブは、直径1nm〜数十nm、長さは0.1〜数μm程度のチューブ状分子であり、中空構造をなしている壁の層数により単層タイプと多層タイプがあるが、本発明ではいずれも使用することができる。カーボンナノチューブは極細で長く、機械的強度が高く、導電性に優れ、構造安定性が高いなどの利点を有する。
カーボンナノチューブは、通常カーボンナノチューブ同士が絡まり合った固まりで構成された粉末状であり、これを分散させるには、カーボンナノチューブ表面に官能基を有するものを使用することが好ましい。表面に官能基を有するカーボンナノチューブとは、カーボンナノチューブ外表面に少なくとも1種類以上の官能基を有するカーボンナノチューブであり、かかる官能基の種類は特に限定されないが、例えば、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、ニトロ基、スルホン基、エーテル基、などが挙げられる。
かかるカーボンナノチューブを使用することで、カーボンナノチューブ外表面に存在する官能基同士が反発し、絡まり合っていたカーボンナノチューブがほぐれ、この結果、ポリエステル樹脂(Ib)を製造する過程に於ける分散性を向上できる。
カーボンナノチューブの表面に官能基を付与する方法としては、例えば構造の結合が切れた部位に生じるカルボキシル基を用いる方法、高温フッ素による方法、ポリメチルメタクリレート中での超音波処理による欠陥生成法、芳香族分子による修飾法、プラズマ処理などがある。
本発明では、カーボンナノチューブ存在下でジカルボン酸及びジオールを反応させポリエステル樹脂(Ib)を製造する必要があるが、この際、ジカルボン酸とジオールとが反応して得られるポリエステルがカーボンナノチューブの表面を被覆するため、本発明のポリ乳酸組成物においてカーボンナノチューブ同士の凝集を抑制でき、溶融混練等の機械的分散の際により優れた分散性を発現できる。
カーボンナノチューブはアスペクト比が高いため、層状珪酸塩同様タルク、ガラス繊維、カーボンブラック(例えば炭素繊維)と比べ、その使用量は少量で良く、本発明のポリ乳酸組成物に対して0.1〜20重量%となるよう使用することが好ましく、0.5〜10重量%の範囲がより好ましく、0.5〜5重量%の範囲がさらに好ましい。かかる範囲で用いることで、充分な結晶化速度の促進効果を得ることができ、さらに成形がしやすく、ポリ乳酸組成物成分の分子量の低下を引き起こさず、短期及び長期に渡る機械物性の安定性に優れたポリ乳酸組成物を得ることができるが、本発明のポリ乳酸組成物の透明性を考慮すると、可能な限り少ない方が好ましい。
次に、本発明に使用するポリエステル樹脂(Ia)及び(Ib)について説明する。
本発明に使用するガラス転移温度20℃以下で重量平均分子量3000〜250000を有するポリエステル樹脂(Ia)とは、前記層状珪酸塩の存在下、ジオールとジカルボン酸とを反応させて得られるものであり、ポリエステル樹脂(Ib)とはカーボンナノチューブの存在下、ジオールとジカルボン酸とを反応させて得られるポリエステル樹脂(Ib)である(以下、ポリエステル樹脂(Ia)及び(Ib)を併せて「ポリエステル樹脂(I)」と省略。)。
ポリエステル樹脂(Ia)は、層状珪酸塩の層間にジオールが含浸した後、ジカルボン酸と前記ジオールとが反応することで、層状珪酸塩の層間中に生成するポリエステルが挿入された構造であり、ジオールとジカルボン酸とを反応させた通常のポリエステルに層状珪酸塩を混合した場合に比べ、層状珪酸塩の凝集が少なく、ポリエステルが層間挿入している割合も格段に高くなる。
また、カーボンナノチューブは通常、強固に絡まり合った形態を取っているため、ジオールとジカルボン酸とを反応させた通常のポリエステルとカーボンナノチューブを単に混合した場合では絡まりをほぐすことが難しく、カーボンナノチューブは固まりとして存在する。これに対し、本発明のポリエステル樹脂(Ib)は、カーボンナノチューブにジオールが含浸した後に、ジカルボン酸と反応する為、カーボンナノチューブの表面をポリエステルが被覆した構造となることで絡まりがほぐれ、カーボンナノチューブの本来の形態である繊維状に均一に分散されている。
前記ジオールとしては、炭素数2〜40のものを使用することができ、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1.3−プロパンジオール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル1,5−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ダイマージオールが挙げられ、これらを単独又は2種以上併用して使用できる。
前記ジオールには、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのブロック共重合体、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオールを併用して使用することもできる。
前記ポリエーテルポリオールの数平均分子量としては特に制限はないが、高分子量になるとポリエステル樹脂(I)を製造する際に後述するジカルボン酸との反応性が悪く、ポリエステル樹脂(I)の高分子量化に時間が掛かり好ましくないため、200〜6000が好ましく、200〜4000がより好ましく、200〜600更に好ましい。
前記ジオールとしては、特に本発明に使用するジオールの10重量%以上がポリエチレングリコール等のポリエーテルポリオールであることが好ましく、30重量%以上がより好ましく、50重量%以上が更に好ましい。ポリエーテルポリオールを前記範囲だけ使用することで、耐衝撃性、柔軟性、透明性の優れたポリ乳酸組成物を得ることができる。
また前記ジオールとしては、特に本発明に使用するジオールの50重量%以上がプロピレングリコールような側鎖を有するジオール又はダイマージオールであることが好ましく、70重量%以上がより好ましく、90重量%以上が更に好ましい。プロピレングリコールような側鎖を有するジオール又はダイマージオールを前記範囲だけ使用することで、耐衝撃性、柔軟性、透明性の優れたポリ乳酸組成物を得ることができる。
ジカルボン酸としては、炭素数2〜42のものを使用することができ、例えばコハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカン二酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、テレフタル酸及びイソフタル酸等が挙げられるが、生分解性を考慮すれば、脂肪族ジカルボン酸を使用することが好ましい。
前記ジカルボン酸には、前記した以外にポリエステル樹脂を分岐或いはより高分子量にする目的のためグリセリン、ペンタエリスリトール、トリメリット酸等の3価以上の多価オール或いはカルボン酸を、本発明の効果を達成する範囲内で少量併用することができる。
耐衝撃性に優れたポリ乳酸組成物を得るためには、前記ジカルボン酸としては、本発明で使用するジカルボン酸のうち50重量%以上がダイマー酸或いはカルボキシル基の炭素を除いた炭素数が8(例えば、セバシン酸)以上のジカルボン酸であることが好ましく、70重量%以上がより好ましく、90重量%以上が更に好ましい。
また、柔軟性に優れたポリ乳酸組成物を得るためには、前記ジカルボン酸としては、本発明で使用するジカルボン酸のうち50重量%以上がカルボキシル基の炭素を除いた炭素数が8未満のジカルボン酸であることが好ましく、70重量%以上がより好ましく、90重量%以上が更に好ましい。更にはカルボキシル基の炭素を除いた炭素数が4以下であるものを使用することがより好ましい。
また、透明性に優れたポリ乳酸組成物を得るためには、前記ジカルボン酸としては、本発明で使用するジカルボン酸としてカルボキシル基の炭素を除いた炭素数が8以下のジカルボン酸を使用することが好ましく、前記炭素数が4以下であるものを使用することがより好ましく、更には、それらのジカルボン酸が、本発明で使用するジカルボン酸のうち50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上がより好ましく、90重量%以上が更に好ましい。
前記ジオール及びジカルボン酸の組み合わせは、それらを反応させて得られるポリエステル樹脂の主鎖の炭素数(エステル基の炭素は除く)の合計が、10以上であることが好ましい。前記炭素数の合計を10以上にすることで耐衝撃性の優れたポリ乳酸組成物を得ることができる。一方で、前記炭素数の合計が10未満であるこれば柔軟性に優れたポリ乳酸組成物を得ることができ、前記炭素数の合計が11以下であれば透明性の良好なポリ乳酸組成物を得ることができることから、本発明のポリ乳酸組成物に付与しうる特性に応じて選択することができる。
前記ポリエステル樹脂(I)は、σ/ρ値として7.80以上9.20未満の範囲を有するものが好ましく、7.80以上8.54未満の範囲を有するものがより好ましく、7.80以上8.40以下がさらに好ましく、7.80以上8.37以下が特に好ましい。かかる範囲のポリエステル樹脂(I)を使用することで、優れた柔軟性及び良好な透明性を有するポリ乳酸組成物を得ることができる。一方で、前記σ/ρ値が8.54以上9.20未満であると耐衝撃性を付与する効果が強くなり好ましく、8.58以上9.00未満であるとより好ましく、8.70以上8.90未満が更に好ましい。
なお、本発明で言うσ/ρ値とは、Hoyの計算式(ディー.アール.ポール、シーモール ニューマン編, 「ポリマーブレンド」1巻, アカデミックプレス, 46-47頁 (1978)(英語標記;D.R.PAUL and SEYMOUR NEWMAN, POLYMER BLENDS, vol 1, ACADEMIC PRESS, p.46-47 (1978)))により得られる値のことである。これはHoyの求めた置換基定数をポリマーの繰り返し単位あたりの数値として算出し、これを繰り返し単位あたりの分子量で割った値であり、σ/ρ=ΣFi/M (但し、Fiが置換基定数、Mが繰り返し単位あたりのモル分子量)で示される。表1に置換基定数の例を示した。
例として、エチレングリコールとコハク酸とを重縮合して得られる脂肪族ポリエステルについて具体的にその計算方法を説明すると、該脂肪族ポリエステルは
−(CH2−CH2−COO−CH2−CH2−COO)−で表される繰り返し単位を有することから4つの置換基−(CH2)−と、2つの置換基−COOを有することとなるため、
ΣFi=(131.5×4+326.58×2)=1179.16
となる。一方、繰り返し単位あたりのモル分子量(M)は144.13であるから、σ/ρ=1179.16/144.13=8.2という値が得られる。表1右欄にいくつかの例を示した。
EG:エチレングリコールの略、SuA:コハク酸の略、DA:ダイマー酸の略
PLA:ポリ乳酸の略である。
したがって、本発明のポリ乳酸組成物においてマトリックスとなる後述するポリ乳酸(IV)と近いσ/ρ値を有するポリマーは、ポリ乳酸(IV)と相溶性が高く、即ち柔軟性或いは透明性の維持を付与する効果が強くなり、該値が大きく異なるとポリ乳酸(IV)との相溶性が低下するため、ポリ乳酸(IV)の海相における乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(IIIa)又は(IIIb)の島相が大きくなり、耐衝撃性を向上させることができる
前記σ/ρ値及び合計の炭素数をふまえ、好ましいポリエステル樹脂(I)としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸と、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールとの組み合わせが挙げられる。
次に前記ポリエステル樹脂(I)の製造方法について説明する。
ポリエステル樹脂(Ia)を製造する方法としては、はじめに、前記層状珪酸塩を例えばポリエステル樹脂(I)の原料であるジオールに膨潤処理させる必要がある。かかる膨潤処理方法としては、例えば、ジオール中に層状珪酸塩を長時間浸漬する方法、ジオール中に層状珪酸塩を分散させ加熱撹拌する方法、あるいは超音波処理など任意の方法を採用できる。これにより膨潤した層状珪酸塩が脂肪族ポリエステル樹脂中に十分に分散できることから好ましい。
ポリエステル樹脂(Ib)を製造する方法としては、はじめに、前記カーボンナノチューブを例えばポリエステル樹脂(I)の原料であるジオールに膨潤処理させる必要がある。かかる膨潤処理方法としては、例えば、ジオール中にカーボンナノチューブを長時間浸漬する方法、ジオール中にカーボンナノチューブを分散させ加熱撹拌する方法、あるいは超音波処理など任意の方法を採用できる。これにより膨潤したカーボンナノチューブが脂肪族ポリエステル樹脂中に十分に分散できることから好ましい。
次いで、前記層状珪酸塩又はカーボンナノチューブを膨潤処理したジオールにジカルボン酸をジオールとジカルボン酸をモル比で1:1〜1.5:1の割合になるだけ使用し、窒素雰囲気下で130℃〜240℃の範囲で1時間に5〜20℃の割合で徐々に昇温させながら撹拌し反応させ、生成した水を留去する。4〜12時間反応後、エステル交換触媒及び酸化防止剤を添加して徐々に減圧度を上げながら過剰のジオールを留去し、最終的には0.5kPa以下で減圧しながら200〜250℃で4〜24時間反応し、反応終了後触媒失活剤を投入する方法で製造できる。
エステル交換反応触媒としては、例えば、Sn、Ti、Zr、Zn、Ge、Ni、Co、Fe、Al、Mn、Hf等のアルコキサイド、酢酸塩、酸化物、塩化物等が挙げられる。具体的には、チタンテトラプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンビスアセチルアセトナート、アルミニウムアセチルアセトナート、4塩化ジルコニウム、4塩化ジルコニウム2THF錯体、4塩化ハフニウム、4塩化ハフニウム2THF錯体などである。また、これら触媒は反応終了後除去するか、触媒失活剤で不活性化することが望ましい。
触媒失活剤としては、特にキレート化剤及び/又は酸性リン酸エステル類が好ましい。キレート化剤としては、特に限定されないが、例えば、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、しゅう酸、リン酸、ピロリン酸、アリザリン、アセチルアセトン、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、カテコール、4−t−ブチルカテコール、L(+)−酒石酸、DL−酒石酸、グリシン、クロモトロープ酸、ベンゾイルアセトン、クエン酸、没食子酸、ジメルカプトプロパノール、トリエタノールアミン、シクロヘキサンジアミン四酢酸、ジトルオイル酒石酸、ジベンゾイル酒石酸が挙げられる。
前記酸性リン酸エステル類は、ヒドロキシカルボン酸系ポリエステル樹脂中に含有される触媒の金属イオンと錯体を形成し、触媒活性を失わせ、ポリマー鎖の切断抑制効果を示すものであり、例えば従来公知の酸性リン酸エステル、ホスホン酸エステル、アルキルホスホン酸等及びその混合物が挙げられ、例えば2−エチルヘキサンホスフェートが挙げられる。上記した酸性リン酸エステル類は、有機溶剤との溶解性がよいため作業性に優れ、乳酸系ポリエステル樹脂との反応性に優れ、重合触媒の失活に優れた効果を示す。
上述の製造方法により得られたポリエステル樹脂(I)は、これをさらに無水ピロメリット酸等の酸無水物やヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネートと反応させて高分子量化することもできる。
かくして得られるポリエステル樹脂(I)は、ガラス転移温度(以下、Tgと省略。)20℃以下を有する必要があり、Tgが20℃を超えるとポリ乳酸組成物として、室温での耐衝撃性或いは柔軟性を発現出来ない。なお、本発明で言うTgとは、示差走査熱量測定装置(DSC)を用い、昇温速度10℃/分で測定したものである。
前記ポリエステル樹脂(I)のTgは、低いほど耐衝撃性、柔軟性がより低い温度で発現するため、0℃以下がより好ましく、−20℃以下が更に好ましく、−30℃以下がより更に好ましく、−40℃以下であれば特に好ましい。かかるTgの下限値に関しては、特に限定されるものではないが、現行のポリエステル樹脂を考慮した場合、―70℃である。
また、ポリエステル樹脂(I)の融点(以下、Tmと省略。)は、柔軟性付与及び透明性維持という効果の点から120℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。さらに、10℃以下であれば室温で液体のため柔軟性を発現しやすくなり、透明性維持にも寄与するため更に好ましく、−20℃以下が特に好ましい。
前記Tm又はTgの温度範囲内においては、本発明のポリ乳酸組成物の結晶化温度(以下、Tcと省略。)がホモポリ乳酸のTcより下がるため、アニール温度(結晶化促進温度)を低く抑える又は結晶化速度を速くすることが出来る。即ち、乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(IIIa)又は(IIIb)は、層状珪酸塩或いはカーボンナノチューブとともにポリ乳酸(IV)の結晶化を促進する働きもするため、成形時のアニール温度或いは金型温度を従来の120℃といった高い温度でなく、Tg近傍の温度でも同程度の耐熱性(結晶化度)を実現できる。もちろん成形時間を更により短縮する、結晶化度をより挙げる又は耐熱温度をより高くするためには、アニール温度或いは金型温度は高い方が望ましい。
前記ポリエステル樹脂(I)の重量平均分子量としては、耐衝撃性を付与する場合は大きいほど望ましく、柔軟性を付与する場合は小さい方が望ましいが、あまり低分子量ではブリードアウトを引き起こしやすくなり、反対に高分子量になるほどポリ乳酸(IV)との相溶性が減少し、物性が発現しにくくなる。これらを鑑みると重量平均分子量で3000〜250000である必要があり、5000〜200000がより好ましく、10000〜200000が更に好ましく、20000〜150000がより更に好ましい。
次に、前記ポリエステル樹脂(I)に共重合するラクタイド(II)及びポリ乳酸(II’)について説明する。
ラクタイド(II)とは、乳酸2分子が脱水縮合で環状2量化した化合物で、立体異性体を有するモノマーであり、L−乳酸2分子からなるL−ラクタイド、D−乳酸2分子からなるD−ラクタイド、及びD−乳酸及びL−乳酸からなるmeso−ラクタイドが挙げられる。L−ラクタイド、又はD−ラクタイドのみを含む共重合体は結晶化し、高融点であり、用途に応じてこれら3種類のラクタイドを種々の割合で組み合わせることにより好ましい樹脂特性を実現できる。また、ラクタイド(II)のL−ラクタイドとD−ラクタイドの構成割合と、ポリ乳酸(IV)のD−乳酸とL−乳酸の構成割合が極端に異なる場合、例えばラクタイド(II)がD−ラクタイド、ポリ乳酸(IV)がポリ(L−乳酸)の様な場合、ポリ乳酸組成物がステレオコンプレックスを形成するため、高融点で、耐熱性、機械的物性等に優れるので好ましい。
ポリ乳酸(II’)は、構造単位がL−乳酸であるポリ(L−乳酸)、構造単位がD−乳酸であるポリ(D−乳酸)、構造単位がL−乳酸及びD−乳酸であるポリ(DL−乳酸)やこれらの混合体をいう。また、ポリ乳酸(II’)のD−乳酸とL−乳酸の構成割合と、ポリ乳酸(IV)のD−乳酸とL−乳酸の構成割合が極端に異なる場合、例えばポリ乳酸(II’)がポリ(D−乳酸)、ポリ乳酸(IV)がポリ(L−乳酸)の様な場合、ポリ乳酸組成物がステレオコンプレックスを形成するため、高融点で、耐熱性、機械的物性等に優れるので好ましい。
前記したポリ乳酸(II’)は、重量平均分子量5万〜40万を有するものが好ましく、10万〜25万であることがより好ましい。かかる範囲の重量平均分子量を有するポリ乳酸を用いることで、機械物性や耐熱性等の実用物性を発現でき、さらに適度な溶融粘度となることから成形加工性に優れた乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(III)を得ることができる。
ポリ乳酸(II’)は、層状珪酸塩或いはカーボンナノチューブとの相溶性を向上させることを目的として、無水マレイン酸、無水ピロメリット酸、無水トリメリット酸等の酸無水物で変性したものであっても良い。酸無水物の添加量としては、ポリ乳酸(IV)に対して好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.05〜5重量%、特に好ましくは0.1〜3重量%である。かかる範囲の量を添加することによって、ポリ乳酸の分子量を維持し、層状珪酸塩或いはカーボンナノチューブとの相溶性が発現せしめることができる。変性方法に関しては、種々の方法が有るが、通常の2軸押出機によるリアクティブプロセシングを用いる方法が適用できる。
前記ポリ乳酸(II’)には、分子量増大を目的として少量の鎖伸長剤、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物、エポキシ化合物などを使用することができる。
次に本発明で用いる乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(IIIa)及び(IIIb)(以下、乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(IIIa)及び(IIIb)を併せて「乳酸系ブロック共重合体ポリエステル樹脂(III)」と省略。)について説明する。
本発明で使用する乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(IIIa)とは、前記ポリエステル樹脂(Ia)とラクタイド(II)又はポリ乳酸(II’)とを共重合させて得られる重量平均分子量3000〜250000を有するブロック共重合体であり、乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(IIIb)とは、前記ポリエステル樹脂(Ib)とラクタイド(II)又はポリ乳酸(II’)とを共重合させて得られる重量平均分子量3000〜250000を有するブロック共重合体である。乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(IIIa)又は(IIIb)は、後述するポリ乳酸(IV)に添加することで、本発明のポリ乳酸組成物耐衝撃性、柔軟性及び耐熱性に優れたものとなる。
ここで、乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(IIIa)又は(IIIb)は、ブロック共重合体であることが重要である。これがランダム共重合体である場合、後述するポリ乳酸(IV)との相溶成分であるラクタイド(II)又はポリ乳酸(II’)由来の乳酸ブロックが存在しないため、本発明の乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(IIIa)又は(IIIb)とポリ乳酸との界面の密着性を良好にして界面剥離を抑制する機構が働かず、ブリードアウトを起こし、更には耐衝撃性の向上にもマイナスに作用する。一方で、前記ポリエステル樹脂(I)由来のポリエステルブロックも存在しないため耐衝撃性、柔軟性を十分付与することが出来ない。
乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(IIIa)又は(IIIb)の重量平均分子量は3000〜250000である必要があり、かかる重量平均分子量が3000未満であると耐衝撃性付与の発現しにくく、250000を超えると柔軟性付与が十分でなくなり、更に、溶融粘度も高くなり、後述するポリ乳酸(IV)への分散性も悪くなる。かかる重量平均分子量は、10000〜250000の範囲であることが好ましく、20000〜200000の範囲であることがより好ましく、30000〜150000の範囲であることが更に好ましい。
前記ラクタイド(II)又はポリ乳酸(II’)由来のポリ乳酸ブロックの平均鎖長は、長いほど好ましいが、その製造方法から考えると実質は、乳酸の水酸基のHとカルボキシル基のOHを除いた乳酸残基を1ユニットとする場合、好ましくは5〜3000ユニットであり、より好ましくは10〜2000ユニットであり、更に好ましくは50〜1000ユニットであり、より更に好ましくは100〜1000ユニットである。かかる範囲になるよう製造することで、ポリ乳酸ブロックが後述するポリ乳酸(IV)とより相溶しやすくなり、乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(III)とポリ乳酸(IV)との界面の密着性を良好にして界面剥離を抑制し、更にはブリードアウトも防ぐことが可能となり、さらに適度な粘度に維持できることから、ポリ乳酸(IV)中に乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(III)を均一分散せしめることができる。なお、上記したユニットを数平均分子量に換算する為には、乳酸残基1ユニットの分子量(72)×ユニット数となり、例えば10ユニットは数平均分子量で720となる。
前記ラクタイド(II)又はポリ乳酸(II’)由来のポリ乳酸ブロックと、前記ポリエステル樹脂(I)由来のポリエステルブロックの重量比は、耐衝撃性、柔軟性をどの程度付与したいかにより異なるが、少なくともラクタイド(II):ポリエステル樹脂(I)、又は、ポリ乳酸(II’):ポリエステル樹脂(I)=10:90〜90:10の範囲内で共重合する必要があり、好ましくは25:75〜70:30、より好ましくは30:70〜60:40、さらに好ましくは40:60〜60:40である。耐衝撃性、柔軟性を大きく付与したい場合は、前記ポリエステル樹脂(I)の量を多くすることが望ましい。
次に、乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(IIIa)及び(IIIb)の製造方法を説明する。
乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(IIIa)及び(IIIb)は、例えば
(1)ラクタイド(II)とポリエステル樹脂(I)とを、重合触媒の存在下で反応させる方法、
(2)乳酸の直接重縮合或いはラクタイドの開環重合により得られたポリ乳酸(II’)と、ポリエステル樹脂(I)とを溶融混合後、エステル化或いはエステル交換触媒の存在下、減圧で脱水、重縮合する方法、
(3)ポリ乳酸(II’)とポリエステル樹脂(I)と高沸点溶媒との共存下、エステル交換触媒を加え、減圧で共沸脱水重縮合即ち直接重縮合反応させる方法などが挙げられる。
まず、(1)ラクタイド(II)とポリエステル樹脂(I)の共重合法について説明する。
反応温度はラクタイド(II)の着色及び分解を防ぐという点で220℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは190℃以下の反応温度が好ましく、また反応系内の水分の存在は好ましくない為、ポリエステル樹脂(I)は十分に乾燥させておく必要がある。このような条件下、ラクタイド(II)とポリエステル樹脂(I)を100℃〜220℃で混合して溶解する。この際、必要に応じてこれらの合計重量に対して1〜30重量部のトルエン等非反応性の溶剤を用いてもよい。更に、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、140〜220℃で重合触媒(例えば、オクタン酸錫)をラクタイド及びポリエステル樹脂の合計量に対して50〜5000ppmを添加し重合させる。なお、用いる重合触媒は、上記ポリエステル樹脂(I)で述べたものと同様なものが使用できる。
(2)ポリ乳酸(II’)とポリエステル樹脂(I)の共重合法について説明する。
ポリ乳酸(II’)とポリエステル樹脂(I)を溶融混合後、触媒存在下、減圧重縮合反応を行うことで乳酸系ブロック共重合体ポリエステル樹脂(III)を得ることができる。ポリエステル樹脂(I)はポリ乳酸(II’)と溶融混合する前にポリエステル樹脂(I)合成で使用した触媒を除去しておくか、触媒失活剤で触媒を不活性しておくことが好ましい。その理由は、ポリエステル樹脂の残存活性触媒がポリ乳酸のエステル交換触媒として作用することでポリ乳酸分子鎖を過剰に切断し、重合開始時点でのポリ乳酸分子量を大きく低下させ、重縮合反応終了後に得られる乳酸系ブロック共重合体ポリエステル樹脂(III)の分子量を必要以上に低下させるためである。重合温度は、高すぎるとポリ乳酸が熱分解によりラクタイドに分解するため、170〜220℃が好ましく、180〜210℃がより好ましい。減圧度は高真空であるほど重合が速く進行するので好ましく、2kPa以下が好ましく、1kPa以下がより好ましく、0.5kPa以下が更に好ましい。
上記製造方法で使用できる重合触媒は、前記ポリエステル樹脂(I)を製造する際に使用できるものとして記載したものと同様なものが使用できる。なかでも、テトライソプロピルチタネート、テトラブトキシチタン、チタンオキシアセチルアセトナート、鉄(III)アセチルアセトナート、アルミニウムアセチルアセトナート、4塩化ジルコニウム、4塩化ジルコニウム・2THF錯体、塩化ハフニウム、4塩化ハフニウム・2THF錯体は、反応が早くなり好ましく、アルミニウムアセチルアセトナート、4塩化ジルコニウム、4塩化ジルコニウム・2THF錯体、塩化ハフニウム、4塩化ハフニウム・2THF錯体は得られるポリマーの着色が少ないのでより好ましい。触媒の使用量はポリ乳酸とポリエステル総量の50〜500ppmが好ましい。
次に、(3)ポリ乳酸(II’)とポリエステル樹脂(I)と高沸点溶媒との共存下、エステル交換触媒を加え、減圧で共沸脱水重縮合即ち直接重縮合反応させる方法について説明する。
(3)の方法は、キシレン、アニソール、ジフェニルエーテル等の高沸点溶媒を使用する以外は(2)と同様な条件で行う。しかし、(2)に比べ、最終的には溶媒を除去する必要があるため、製造方法としては(1)か(2)が好ましい。
さらに乳酸系ブロック共重合体ポリエステル樹脂(III)は重合終了後、溶媒により重合触媒を抽出除去するか、又は前述した触媒失活剤により重合触媒を失活させることにより、その保存安定性を更に向上させることができる。
次に、本発明のポリ乳酸組成物について説明する。
ポリ乳酸組成物は、乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(III)とポリ乳酸(IV)を含有してなり、その重量比に関しては、耐衝撃性、柔軟性をどの程度付与したいかにより調整すれば良く、乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(III)の使用量が多いほど、耐衝撃性、柔軟性を大きく付与でき、ポリ乳酸組成物の粘度も下げることができるため加工が良好になり望ましいことから、好ましくはポリ乳酸(IV):乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(III)=97:3〜40:60、より好ましくは95:5〜50:50、更に好ましくは95:5〜60:40である
かかるポリ乳酸(IV)は、前記ポリ乳酸(II’)として記載したものと同様のものを使用することができる。また、ポリ乳酸(IV)はその構成成分の30重量%以下の範囲であれば、グリコール酸、カプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等の多価カルボン酸、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等のポリオールと共重合したものでも良い。
また、上記したポリ乳酸(IV)と乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(III)のモルフォロジーに関しては、ポリ乳酸(IV)が海相であるのに対し乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(III)は島相になるが、この島の粒径が小さいと柔軟性、透明性維持が優れ、島相が大きいと耐衝撃性に優れる。すなわち、平均粒径が0.20〜2μmと比較的大きいと、耐衝撃性及びポリ乳酸(IV)と乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(III)の界面密着性にも優れ、より好ましくは0.2〜1μm、更に好ましくは0.3μm〜1μm、更により好ましくは0.5〜1μmである。
一方、島の平均粒径が0.02〜1μmと比較的小さい粒径であると、であると、柔軟性、透明性維持が良好になることから好ましく、より好ましくは0.5μm以下、更に好ましくは0.02〜0.3μm、より更に好ましくは0.02〜0.2μmであり、当然相溶していれば一番好ましい。なお、本発明で言う平均粒径とは島相の長軸及び短軸の長さの平均値を言う。
本発明のポリ乳酸組成物中には、乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(III)が存在するため、優れた耐衝撃性、柔軟性を示す。また、層状珪酸塩或いはカーボンナノチューブの存在により、耐熱性が向上する。更にはガスバリヤ性も向上し、例えば層状珪酸塩或いはカーボンナノチューブが存在しないポリ乳酸組成物と比べて酸素透過度が1/3〜1/4程度まで減少する。また、乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(III)の添加量を調整することにより、実施例に記載の方法で、3(kJ/m2)以上、好ましくは4〜20(kJ/m2)、より好ましくは5〜20(kJ/m2)、特に好ましくは7〜20(kJ/m2)のIZOD衝撃強度を有する。または、無延伸フィルム或いは延伸フィルムで0.2J以上、好ましくは0.3〜5Jのデュポン衝撃強度を有し、または、延伸熱セットフィルムで1J以上、好ましくは1〜10Jのフィルムインパクトを有する。
さらに、乳酸系ブロック共重合ポリエステル樹脂(III)の添加量を調整することにより、優れた柔軟性を呈し、例えば、ポリ乳酸組成物をフィルム化し、レオメトリクス株式会社製のRSAIIで測定した20℃、1Hzでの貯蔵弾性率(E’)は0.5〜5.0GPaの範囲を示し、より優れたものは、0.6〜3GPa、更に優れたものは0.6〜2.5GPaの範囲を示す。
また、本発明のポリ乳酸組成物は、層状珪酸塩或いはカーボンナノチューブの使用量が少量の場合、ポリエステル樹脂(I)重合時に微分散されるため、ポリ乳酸組成物中においても、機械的混練より良好に分散するため、透明性を損ないにくくなる。この際の透明性は、ポリ乳酸組成物の厚さ200μmプレスフィルムのヘイズ値が35%以下を指し、より好ましくは1〜30%、さらに好ましくは1〜25%、更により好ましくは1〜20%のものが挙げられる。
本発明のポリ乳酸組成物には、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)、ブチル・ヒドロキシアニソール(BHA)の様な酸化防止剤、サリチル酸誘導体、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤、および、燐酸エステル、イソシアネート、カルボジイミド、カルボジライト等の安定剤を使用し、重合時或いは成形時の熱的安定性を向上させることもできる。これらの安定剤の添加量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、特に限定されるものではないが、添加対象ポリマーに対して、通常0.01〜10%の量で添加することが好ましい。
また、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシュウム等の金属石鹸類、鉱油、流動パラフィン、エチレンビスステアリルアマイド等の滑剤、グリセリン脂肪酸エステル、しょ糖脂肪酸エステル等の非イオン系、アルキルスルホン酸塩等のイオン系等の界面活性剤、酸化チタン、カーボンブラックの様な着色剤、リン系、臭素系、シリコーン系のような難燃剤等の添加も何等差し支えない。
また、塩化ビニル系樹脂によく使われる可塑剤、例えばアジピン酸ジオクチル(DOA)、アセチルトリブチルクエン酸アセチルトリブチル(ATBC)、セバシン酸ジオクチル(DOS)、トリメリット酸可塑剤、アジピン酸系ポリエステル等の低分子可塑剤を使用しても構わない。この添加により特に引張伸度が向上し、柔軟性も更に向上する。低分子可塑剤使用量はあまり多くなると耐熱性を大幅に下げることになるため、ポリ乳酸組成物に対し、0.5〜30重量%が好ましく、1〜20重量%がより好ましく、1〜10重量%が更に好ましい。
また、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム等の無機系発泡剤、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、スルホニルヒドラジド等の有機系発泡剤等の添加により、もしくはペンタン、ブタン、フレオン等の発泡剤を本発明ポリマーに事前に含浸させるか、押出工程の途中で押出機内に直接供給することにより発泡体とすることもできる。また押出ラミ、ドライラミ或いは共押出により紙、アルミホイル或いは他の分解性ポリマーフィルムとの積層化も可能である。
上記した本発明のポリ乳酸組成物を用いた成形物に関しては、下記に示す成形方法によって成形されたものであり、かかる成形品又はフィルム(10×10cm正方形、250μm厚の)に関しては、35℃、湿度80%の恒温恒湿器に放置したとき、該成形品表面から60日以上、好ましくは180日以上ブリード物が現れないものである。
本発明のポリ乳酸組成物からなる成形物としては、射出成形物、繊維或いはTダイキャスト成形やインフレーション成形等の押出成形によるフィルム等が挙げられる。また、複数の押出機による多層化フィルムを行うことも可能である。なお、通常厚みによりシート、フィルムを慣用的に使い分けているが、本発明では混乱を避けるために総称してフィルムというものとする。本発明のフィルムの厚みは特に制限されないが、一般的に用いられている5μm〜2mmを言うものとする。
また、本発明のポリ乳酸組成物の成形方法に、ポリ乳酸組成物を結晶化温度でアニーリングする方法がある。例えば、真空成形、圧空成形、射出成形、ブロー成形及び圧縮成形の場合、金型温度をDSCの降温時結晶化開始温度から終了温度の範囲に設定して、本発明の組成物を金型内で結晶化をさせる。この方法により、耐熱性、耐衝撃強度に優れた耐熱性乳酸系ポリマー成形物を得ることができる。金型温度は、70〜130℃で、80〜120℃が好ましく、80℃〜110℃がより好ましく、90〜110℃がより好ましい。この温度範囲だと、容易に結晶化し、また成形後、型内から成形物を取出すとき固化して寸法精度の良い成形物を得ることができる。この温度範囲を外れると、結晶化の速度が遅い場合があり、成形物の固化時間を要するため、実用性に劣る場合がある。結晶化時間としては1秒から10分間であるが、生産性等の実用性を考えた場合、この時間は短い程良いため、好ましくは1秒〜3分間、より好ましくは1秒〜1分間である。
また、本発明のポリ乳酸組成物は、吸湿性が高いために加水分解しやすいことから、射出成形、繊維或いはフィルム包装材等の加工にあたっては、成型機或いは押出機内での加水分解を避けるため事前に真空乾燥器等により除湿乾燥を行い、原料中の水分を50ppm以下に抑えるのが好ましい。
次に本発明のポリ乳酸組成物を用いて得られるフィルムに関しては、そのフィルム成膜する際の押出機スクリューは、通常、スクリューのニーディング部の長さ(L)とニーディングスクリューの径(D)との比であるL/D比が、20〜50程度のフルフライトタイプで良く、ベントを付設しても良い。適正な押出温度は使用するポリ乳酸組成物の分子量、組成、粘度によって異なるが、流動開始温度以上が望ましい。
Tダイキャスト成形でポリ乳酸組成物をフィルム化する際の溶融温度は、特に限定されないが、通常、ポリ乳酸(VI)の融点より10〜60℃高い温度である。溶融押し出されたフィルムは、通常、所定の厚みになるようにキャスティングされ、必要により冷却される。その際、フィルム厚が厚い場合は、タッチロール、エアーナイフ、薄い場合には静電ピンニングを使い分けることにより均一なフィルムとする。
成膜されたフィルムは、ガラス転移温度以上、融点以下の温度でテンター方式やインフレーション方式等で、一軸および二軸に延伸することができる。さらに延伸処理を施すことにより、分子配向を生じさせ、耐衝撃性、剛性、透明性等の物性を改良することが出来る。
一軸延伸の場合は、ロール法による縦延伸又はテンターによる横延伸により、縦方向又は横方向に1.3〜10倍延伸するのが好ましい。二軸延伸の場合は、ロール法による縦延伸及びテンターによる横延伸が挙げられ、その方法としては、一軸目の延伸と二軸目の延伸を逐次的に行っても、同時に行っても良い。延伸倍率は、縦方向及び横方向にそれぞれ1.3〜6倍延伸するのが好ましい。延伸倍率がこれ以上低いと十分に満足し得る強度を有するフィルムが得難く、また、高いと延伸時にフィルムが破れてしまい良くない。なお、シュリンクフィルム等の特に加熱時の収縮性を要求するような場合には、一軸或いは二軸方向への3〜6倍等の高倍率延伸が好ましい。
延伸温度は、ポリ乳酸組成物のガラス転移温度(以下、Tgという。)〜(Tg+50)℃の範囲が好ましく、Tg〜(Tg+30)℃の範囲が特に好ましい。かかる範囲の延伸温度にすることで、充分に延伸することができ、さらに延伸による強度も向上することができる。
また、本発明のポリ乳酸組成物を用いて得られるフィルムの耐熱性をより向上させるために、延伸直後の緊張下で熱セット処理(結晶化処理)を行うと、歪の除去或いは結晶化を促進することにより耐熱特性を向上させることができる。かかる熱セット処理温度は、70〜130℃で、70〜120℃が好ましく、80℃〜110℃がより好ましく、90〜110℃がより好ましい。このような範囲で行うと耐熱性だけではなく、引張伸び等他のフィルム物性も向上するので、望ましい。その際の熱セット処理時間は通常1秒〜3分間、好ましくは1秒〜1分間であり、1秒から30秒がより好ましい。
本発明のフィルムの二次加工法としては、真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法等が利用できる。本発明のポリ乳酸組成物のフィルム化は、汎用樹脂のフィルム製造に使用されている既存装置を用い、成形することが可能である。
かかるフィルムの成形法に関しては、真空成形、真空圧空成形の場合には、プラグアシスト成形を行っても良い。延伸フィルムについては圧空成形を行うのが好ましい。なおこれら成形時に金型の加熱、冷却も任意に併用することができる。特に、金型を結晶化温度以上に加熱し、結晶化を積極的に進めることにより耐熱性能を向上させることもできる。
インフレーション成形の際は、通常のサーキュラーダイ、エアーリングを備えた成形装置で容易に成形でき、特別の付属装置は必要としない。なおこの際偏肉を避けるため、ダイ、エアリング或いはワインダーの回転を行っても良い。
フィルムの製造に関しては、横ピロー製袋機、縦ピロー製袋機、ツイストバック製袋機等通常の製袋機で容易にヒートシールし、袋状物を得ることができる。
これらフィルム以外の加工製品を得る際には、通常の射出成型機を用いて容器等の型物を問題なくを得ることができる。
またブロー成形も容易で、既存の成型機を使用することにより単層、多層ボトルを容易に成形を行うことができる。プレス成形についても特段の問題はなく通常の成型機で単層或いは積層製品を得ることができる。
本発明のポリ乳酸組成物の用途としては、各種成形品、成形用樹脂、包装用材料、塗料用樹脂、インキ用樹脂、トナー用樹脂、接着剤用樹脂、衛生材料、医療用材料、繊維材料、農業資材、漁業資材、紙等へのラミネーション用材料、発泡樹脂材料等として有用である。より具体的には例えば、各種成形品としてはトレー、カップ、皿、ブリスター、ブロー成形品、シャンプー瓶、化粧品瓶、飲料瓶、オイル容器、射出成形品(ゴルフティー、綿棒の芯、キャンディーの棒、ブラシ、歯ブラシ、ヘルメット、注射筒、皿、カップ、櫛、剃刀の柄、テープのカセットおよびケース、使い捨てのスプーンやフォーク、ボールペン等の文房具等)等に有用である。包装材料としては、シート用材料、フィルム用材料等、より具体的には、シュリンクフィルム、蒸着フィルム、ラップフィルム、食品包装、その他一般包装、ゴミ袋、レジ袋、一般規格袋、重袋等の袋類等、衛生材料としては紙おむつ、生理用品、医療用材料としては創傷被覆材、縫合糸等、繊維材料としては織物や編物をはじめ、レース、組物、網、フェルト、不織布等、農業資材として発芽フィルム、種ヒモ、農業用マルチフィルム、緩効性農薬及び肥料のコーテイング剤、防鳥ネット、養生フィルム、苗木ポット等、漁業資材としては漁網、海苔養殖網、釣り糸、船底塗料等、また、紙へのラミネーション製品としては、トレー、カップ、皿、メガホン等に、その他に、結束テープ(結束バンド)、プリペイカード、風船、パンティーストッキング、ヘアーキャップ、スポンジ、セロハンテープ、傘、合羽、プラ手袋、ヘアーキャップ、ロープ、チューブ、発泡トレー、発泡緩衝材、緩衝材、梱包材、煙草のフィルター等、多岐にわたる用途が挙げられる。
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
実施例で行った測定は以下の通りである。
(分子量測定)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定装置(以下、GPCと省略する。東ソー株式会社製HLC−8020、カラム温度40℃、テトラヒドロフラン溶媒)によりポリスチレン標準サンプルとの比較で測定した。
(熱的物性測定)
示差走査熱量測定装置(以下、DSCと省略する。セイコー電子工業株式会社製DSC220C)を用い、−100〜200℃の範囲を昇温速度10℃/分で測定した。
(ビカット軟化点温度)
東洋精機社製ヒートデスターテーションを用い、ASTM−D1525に従い、荷重1kgf、昇温速度50℃/時間の条件で成形後の試験片を測定。
(貯蔵弾性率(E’);以下、DMAと省略する。)
レオメトリックス社製RSAIIを用い、厚さ200μm×幅5mm×長さ35mmのフィルムをFILM TEXTUREジオメトリーにより、チャック間22.4mm、6.28rad、−50〜120℃の条件で測定した。
(透明性測定;以下、「ヘイズ」と省略する。)
縦10cm×横10cmのフィルムを縦5cm×横5cmに切り、濁度計(日本電色工業株式会社製ND−1001DP)にて測定した。
(アイゾット衝撃試験;以下、IZODと省略する。)
JIS K 7110に準拠したアイゾット衝撃試験法(ノッチ付き)により測定した。
(デュポン衝撃強度試験)
JIS K 5400のデュポン衝撃強度測定法を用いて、一定重さの重錘の高さを変えて落下させ、破壊の有無により、得られたフィルムの50%破壊エネルギーを求めた。フィルムとの打突部は鋼製であり、半径6.3mmの滑らかな半球状(ウエシマ製作所製)である。
(フィルムインパクト試験)
ASTMD−3420に準拠した方法で測定した。
(引張試験)
島津製作所社製テンシロンを用い、JIS−K7127に従い測定した。試験片はJIS2号ダンベル、引張速度5mm/minで行った。
(参考例1)(ポリエステル(PG−SuA)の合成:A−1)
フルゾーン翼、精留器、ガス導入管を付した5L反応槽に、プロピレングリコール(以下PGと略)を1.48kgと層状珪酸塩(コープケミカル社製ME100)を0.32kg仕込み24時間放置後、コハク酸(以下SuAと略)を2.00kgを仕込み、窒素気流下で150℃から1時間に15℃ずつ昇温させながら加熱撹拌した。生成する水を留去しながら230℃まで昇温し、1時間後、エステル交換触媒としてチタンテトラブトキサイド60ppmを添加し、0.1KPaまで減圧後8時間撹拌、その後触媒失活剤として2−エチルヘキサン酸ホスフェート(大八化学社製AP−8)を50ppm添加し、ポリエステル(A−1)を3.23kg得た。
(参考例2)(ポリエステル(1,3BG−SuA)の合成:A−2)
1,3ブタンジオール(以下1,3BGと略)0.88kgと、カーボンナノチューブ(Hyperion社製)0.06kgとを仕込み、24時間放置後、SuAを1.0kg仕込み、参考例1と同様な条件で重合し、ポリエステル(A−2)を1.53kg得た。
(参考例3)(ポリエステル(PEG/PG−SuA)の合成:A−3)
PGを0.55kgと、数平均分子量200のポリエチレングリコール(以下PEGと略)を0.52kgと、層状珪酸塩(コープケミカル社製SAN)を0.08kg仕込み24時間放置後、SuAを1.00kg仕込み、参考例1と同様な条件で重合し、ポリエステル(A−3)を1.60kg得た。
(参考例4)(ポリエステル(PG−SeA)の合成:A−4)
フルゾーン翼、精留器、ガス導入管を付した50L反応槽に、PGを5.10kgと層状珪酸塩(コープケミカル社製ME100)を5.91kg仕込み12時間放置後、セバシン酸(以下SeAと略)を10.00kg仕込み、参考例1と同様な条件で重合し、ポリエステル(A−4)を19.71kg得た。
(参考例5)(ポリエステル(PG−DA/AA)の合成:A−5)
PGを0.78kgと、カーボンナノチューブ(Hyperion社製)を0.2kg仕込み4時間放置後、アジピン酸(以下AAと略)を1.00kgと、ダイマー酸(コグニス社製エンポール1061、以下DAと略)を1.15kg仕込み、参考例1と同様な条件でポリエステルを合成したところ、Mn=30,000、Mw=53,000のポリエステルを2.84kg得た。得られたポリエステル1.00kgを100℃に加熱後ヘキサメチレンジイソシアネート(以下HDIと略)0.01kgとチタンテトラブトキサイド50ppmを添加し、窒素気流下で2時間撹拌し高分子量化ポリエステル(A−5)を得た。
(比較参考例1)(ポリエステル(PG−SuA)の合成:HA−1)
SeAを3.00kgと、PGを1.30kgとを仕込み、参考例1と同様な条件で重合し、ポリエステル(HA−1)を得た。
(製造例1)(改質剤B−1の合成)
ポリエステル(A−1)1.00kgと、ポリ乳酸(三井化学社製レイシアH−400、以下PLAと略)1.00kgを5Lの反応釜に仕込み、200℃で攪拌溶融後触媒としてチタンテトラブトキサイド150ppmを添加し、0.1kPa減圧下4.5時間重合した。その後、触媒失活剤としてエチレンジアミン4酢酸(以下EDTAと略)120ppmを添加、0.1kPa減圧下1時間残留ラクタイドを脱揮して重合を終了し、改質剤(B−1)を得た。
(製造例2)(改質剤B−2の合成)
ポリエステル(A−2)を0.90kgと、PLAを1.10kgとを仕込、触媒に4塩化ハフニウム・2THFを150ppm使用した以外は製造例1と同様な条件で重合し、改質剤(B−2)を得た。
(製造例3)(改質剤B−3の合成)
ポリエステル(A−3)を1.4kgと、PLAを0.60kgと、層状珪酸塩(コープケミカル社製SAN)とを仕込み、窒素雰囲気下、触媒に4塩化ジルコニウム・2THFを150ppm使用した以外は製造例1と同様な条件で重合し、改質剤(B−3)を得た。
(製造例4)(改質剤B−4の合成)
ポリエステル(A−4)を1.00kgと、PLAを1.00kgと、層状珪酸塩(コープケミカル社製ME100)とを仕込み、触媒にチタンテトラブトキサイドを200ppm使用した以外は製造例1と同様な条件で重合し、改質剤(B−4)を得た。
(製造例5)(改質剤B−5の合成)
ポリエステル(A−4)を1.00kgと、PLAを1.00kgとを仕込み、製造例1と同様な条件で重合し、改質剤(B−5)を得た。
(製造例6)(改質剤B−6の合成)
ポリエステル(A−4)を1.50kgと、L−ラクタイド(以後L−LDと略)を3.50kgと、トルエン0.50kgとを10L反応釜に仕込み、窒素雰囲気下185℃で溶解した。触媒オクタン酸錫200ppm添加し、3時間攪拌反応後、触媒失活剤AP−8(大八化学社製)を160ppm添加、0.1kPa減圧下1時間で残留ラクタイドを脱揮し、改質剤(B−6)を得た。
(製造例7)(改質剤B−7の合成)
ポリエステル(A−5)を1.00kgと、L−LDを1.00kgとを使用し、製造例6と同様な条件で重合し、改質剤(B−7)を得た。
(比較製造例1)(改質剤HB−1の合成)
ポリエステル(HA−1)を1.40kgと、L−LDを0.60kg仕込み、製造例6と同様な条件で重合し、改質剤(HB−1)を得た。
(比較製造例2)(改質剤HB−2の合成)
ポリエステル(HA−1)を1.00kgと、PLAを1.00kgとを仕込み、製造例1と同様な条件で重合し、改質剤(HB−2)を得た。
(比較製造例3)(改質剤HB−3の合成)
50L反応釜にPGを0.20kgと、層状珪酸塩(コープケミカル社製ME100)を0.22kg仕込み、24時間放置後、SeAを1.20kgと、90%L−乳酸を1.10kgと、金属錫3.75gとを加え、窒素を0.5L/min流すことにより系外に水を留出しながら加熱攪拌し、室温から1時間かけて常圧で150℃にし、その後6時間そのまま反応を行った。これにDean Stark tripを取り付け、ジフェニルエーテル3.00kgを加え、150℃/5kPaで8時間共沸脱水反応を行い水分を除去し、その後、Dean Stark tripをはずし、モレキュラーシーブ3Aを1.00kg充填した管を取り付け、留出する溶媒がモレキュラーシーブを通って再び系内に戻るようにした。130℃で41時間反応を行った。得られた反応物を10Lのクロロホルムに溶かし、100Lのアセトンに加え再沈した後、減圧下60℃で6時間乾燥し、粘調な流動体の改質剤(HB−3)を得た。
(実施例1)(ポリマーブレンド物P−1の作製)
PLAを4.20kgと、改質剤(B−1)を1.80kgと、セバシン酸ジオクチルを0.3kgとを、ドライブレンド後、L/D=36の2軸押出機(東芝機械社製)、シリンダー温度200℃で溶融混練し、コンパウンドしたペレット(P−1)を得た。。
(実施例2,4,6,7)(ポリマーブレンド物P−2,4,6,7の作製)
実施例1と同様な条件でペレットを得た。
(実施例3)(ポリマーブレンド物P−3の作製)
PLAを4.2kgと、改質剤(B−3)を1.80kgと、層状珪酸塩(コープケミカル社製SAN)を0.09kgと、無水マレイン酸(以下MAと略)を0.03kg用い、実施例1と同様な条件でペレット(P−4)を得た。
(実施例5)(ポリマーブレンド物P−5の作製)
PLAを9.00kgと、改質剤(B−5)を1.00kgと層状珪酸塩(コープケミカル社製ME100)を0.15kgと、MAを0.05kgを用い、実施例1と同様な条件でペレット(P−5)を得た。
(比較例1)(ポリマーブレンド物HP−1の作製)
PLAを9.00kgと、改質剤(HB−1)を1.00kgとを用い、実施例1と同様な条件でペレットを得た。
(比較例2)(ポリマーブレンド物HP−2の作製)
PLAを9.00kgと、改質剤(HB−2)を1.00kgと、層状珪酸塩(コープケミカル社製ME100)を0.30kgと、MAを0.05kgとを用い、実施例1と同様な条件でペレット(HP−2)を得た。
(比較例3)(ポリマーブレンド物HP−3の作製)
PLAを4.20kgと、改質剤(HB−3)を1.80kgと、層状珪酸塩(コープケミカル社製ME100)を0.30kgと、MAを0.05kgとを用い、実施例1と同様な条件でペレット(HP−3)を得た。
(比較例4)(ポリマーブレンド物HP−4の作製)
PLAのペレット(HP−4)とした。
(試験例1)(ポリマーブレンド物の評価(結晶化温度))
実施例1〜7及び比較例1〜4で得た各ポリマーブレンド物について、DSCにより、結晶化温度を測定し、その結果を表7〜9にまとめて示した。
(試験例2)(ポリマーブレンド物の射出成形及び評価)
実施例1〜7及び比較例1〜4で得た各ポリマーブレンド物を、100℃で6時間減圧乾燥後、1オンスの射出成形機で射出成形後、100℃に温調した金型内で30秒結晶化させ、IZOD試験片を得た。これらのビカット軟化点温度、IZOD衝撃強度(ノッチ付き)を測定し、その結果を表7〜9にまとめて示した。
(試験例3)(200μmフィルムの成膜及び評価)
実施例1〜7及び比較例1〜4で得た各ポリマーブレンド物を、100℃で6時間減圧乾燥後、L/D=36の50mm単軸押出機(田辺プラスチック社製)、シリンダー温度220℃で溶融混練し、ダイスから幅30cm、厚さ200μmのシートに押出した。ダイス出口で熱溶融したシートの冷却は、実施例4〜7に関してはタッチロールを用い、それ以外はエアーナイフを用いた。フィルムは100℃で1分間熱セットを行い結晶化させた。得られた200μmフィルムは、デュポン衝撃値、ヘイズ、引張弾性率、引張伸度及びDMAでの20℃の貯蔵弾性率を測定し、その結果を表7〜9にまとめて示した。
(試験例4)(フィルムの生分解性試験)
上記試験例3で得た200μmフィルムのうち、実施例1〜7で得た各ポリマーブレンド物からなるフィルムを金網で挟み、45℃に保った電動コンポスト装置中に放置した。嫌気環境にならないように数時間おきに撹拌を行った。30日後にフィルムを取り出したところ、ボロボロで殆ど原形をとどめていなかった。60日後には、フィルムは消失して確認できなかった。
(試験例5)(2軸延伸熱セットフィルムの成膜及び評価)
実施例1〜7及び比較例1〜4で得た各ポリマーブレンド物を、L/D=36の50mm単軸押出機(田辺プラスチック社製)、シリンダー温度220℃で溶融混練し、ダイスから幅30cm、厚さ100μmのシートに押出した。ダイス出口で熱溶融したシートの冷却はエアーナイフを用いた。更に延伸温度条件70℃、延伸速度10mm/秒で逐次延伸により、縦方向、横方向同倍率の2倍にそれぞれ延伸後、140℃で50秒熱セットを行い、厚さ25μmの2軸延伸熱セットフィルムを得た。これについて、フィルムインパクト、ヘイズ、引張弾性率及び引張伸度を測定し、その結果を表7〜9にまとめて示した。
(試験例6)(フィルムのブリードアウト評価)
また、試験3及び5で得たフィルムを35℃、湿度80%に保ったタバイエスペック社製恒温恒湿器PR−2F中に放置した。毎日フィルムの状態を観察し、ブリードアウトが始まる日数で評価し、その結果を表7〜9にまとめて示した。なお、実施例はいずれも評価中にはブリードアウトしなかった。
本発明のポリ乳酸組成物は、比較例1〜4のビカット軟化点温度が80℃未満なのに対し、実施例はいずれも80℃以上と高い耐熱性を示し、且つ耐衝撃性或いは柔軟性は同等かそれ以上の数値を実現している。これは比較例が無機物を機械的混練りで分散させたのに対し、実施例は無機物をポリエステル重合時に微分散させたため、ポリ乳酸組成物での分散が大きく違うためと考える。比較例3は実施例4〜6と違い、乳酸系共重合体がランダムなため耐熱性、耐衝撃性が劣り、更にはブリードアウトが数日内に起きてしまった。