JP4408617B2 - 成形品とその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、成形品とその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、合金元素の添加あるいは調質処理によらず超微細組織によって高強度および高靭性が確保されている成形品と、これを簡便に製造することができる方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】
従来より、金属や合金の成形品の製造方法としては、一般的には、鋼の棒材あるいは線材を素材として用い、これに冷間や温間加工を施して成形した後、焼入れ、浸炭焼入れおよび焼戻しの調質処理を施すようにしている。しかしながら、これら成形品の製造において、焼入れ焼戻しの調質処理は手間のかかる工程であり、調質処理を省く非調質での製造が可能となれば、生産性が向上し、工業的にきわめて有利となる。
【0003】
なお、ここで、「成形品」は、ネジ、ボルト、ナット、シャフト、リベット、ピン、スタッドボルト、ファスナー類、歯車、軸類、バネ、その他機械構造部品(日本鉄鋼協会発行、渡辺敏幸著 機械用構造用鋼P46、P97)などが対象とされている。
【0004】
最近になって、ネジ、ボルトの分野ではJIS強度区分で8.8までの製造においては、非調質による製造が可能となっている。この非調質による製造の場合には、原料である素材そのものの強度を高める必要があるために、素材にCr、Ti、Nb、B等の合金元素の添加が必要とされている。しかしながら、これらの合金元素の添加は成形品に靭性の低下をもたらすなど、必ずしも好ましい手段ではなかった。したがって、JIS強度区分で8.8までであっても、大半のネジ、ボルトは、従来どおりの調質による製造方法によって製造されている。そして、引張強さで800MPa以上の高強度を有する高強度ネジ、ボルトの製造方法としては、依然として焼入れ焼戻しの調質処理が必須のものとされている。
【0005】
そこで、この出願の発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、合金元素の添加あるいは調質処理によらず超微細組織によって強度が確保されている高強度な成形品、たとえば圧造品や、各種の部品、部材と、そしてその高強度な成形品を簡便に製造することができる、ネジ、ボルトをはじめとする高強度な成形品とその製造方法を提供することを課題としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
そこで、この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、以下の通りの発明を提供する。
【0007】
すなわち、この出願の発明は、まず第1には、少なくとも一部分が圧造により成形加工された成形品であって、短径の平均粒径が1μm以下の伸長したフェライト粒からなる超微細組織を有し、調質処理が施されていないことを特徴とする成形品を提供する。
【0008】
ここで、フェライト粒からなる超微細組織とは、フェライト粒が主体の組織を意味する。この意味では、フェライト粒組織は、フェライト単相組織でも、第2相として炭化物、パーライト、マルテンサイト、オーステナイトなどを含んでもよい。さたに、微細な炭窒化物などの析出物を含んでいてもよい。
【0009】
そしてこの出願の発明は、上記の発明について、第には、前記成形品は、その頭部が圧造により成型加工されたねじ、ボルト又はリベットのいずれかであることを特徴とする成形品を、第には、前記成形品は、JIS強度区分において8.8以上の強度を有することを特徴とする成形品を提供する。
【0010】
また、この出願の発明は、第には、短径の平均粒径が1μm以下の伸長したフェライト粒からなる超微細組織を有する棒材または線材を素材とする成形品の製造方法であって、少なくとも前記成形品の一部分を圧造により成形加工し、調質処理を施さないことを特徴とする成形品の製造方法を提供する。
【0011】
さらにこの出願の発明は、第には、上記の発明について、少なくとも前記成形品の頭部を圧造により成形加工し、その他を転造により成形加工して、ねじ、ボルト又はリベットに成形することを特徴とする成形品の製造方法を提供する。
【0013】
この出願の発明者らは、長年にわたって、フェライト鋼における結晶粒の微細化について鋭意研究を重ねてきた。この結晶粒の超微細化は、合金元素の添加によらず、結晶粒の微細化だけで鋼材の強度を上昇させる方法であって、同時に靭性をも向上させることのできる唯一の方法である。そのため、鋼材における最も理想的な高強度化方法として知られている。
【0014】
そして、最近になって、この出願の発明者らは、従来の5μm程度という微細化の限界をはるかに超えた、0.5μmまでの結晶粒の超微細化を実現(特開平11−315342、特開2000−309850、特願2002−54670)するに至っている。そして、この結晶粒の超微細化の技術を高強度圧造品の素材に適用することで、十分な高強度化を実現可能なことを想到し、この出願の発明に至ったものである。
【0015】
今回、さらに、鋭意研究の結果、フェライト粒がひとつの方向に伸長した粒であったとしても、その短径を制御することによって、高強度素材および高強度成形品として、各種の圧造品や、部品、部材が得られることを見出した。このことは、生産技術上きわめて有利である。
【0016】
ネジの軸径が2.0mm以下の小ねじなどの場合、焼入後の残留応力や浸炭焼入の場合の浸炭層の深さとネジ径、ネジ山の大きさとの関係から焼入などの熱処理が困難な場合がある。このような微小部材でなおかつ高強度な部材を得ようとしたときに、本発明の手段は極め有効な方法といえる。
【0017】
【発明の実施の形態】
この出願の発明は、上記の通りの特徴を持つものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0018】
この出願の発明が提供する高強度な成形品は、本質的に、短径の平均粒径が1μm以下の伸長したフェライト粒からなる超微細組織を有する鋼が素材とされている。このようなフェライト粒からなる超微細組織を有することは、成形品においては全く想定されていなかったことであり、この出願の発明によってはじめてなされるものである。
【0019】
この素材としての短径が平均で1μm以下のフェライト粒からなる超微細組織を有する鋼は、製造方法および組成は特に制限されない。素材が冷間加工、または温間加工されフェライト粒が伸長していてもよい。
【0020】
たとえば、好適には、この出願の発明者らが提案(特願2002−54670)している超微細粒組織を有する厚鋼板を棒材あるいは線材としたものを用いることができる。すなわち、厚鋼板に温間温度域における多方向多パス圧延を施してある臨界歪よりも大きな歪を導入することにより、平均粒径が1μm以下の超微細粒組織が形成された鋼材等を用いることができる。たとえばこのような超微細組織を有する鋼においては、結晶粒の微細化により高強度化が実現されており、相変態による高強度化の機構を全く利用していない。そのため、このような鋼材を素材とした圧造品は、製造に際して、浸炭焼入れまたは焼入れ、焼戻し等の調質処理が一切必要とされず、高強度な成形品として提供されることになる。
【0021】
なお、参考として、この出願の発明の高強度成形品における高強度とは、フェライト粒の平均粒径が3μmである場合に、ビッカース硬さで200以上のものとして定義することができる。
【0022】
さらに組成の面においては、相変態による高強度化の機構を全く利用せず、強度を高めるための合金元素の添加を必要としないために鋼の組成が制限されることがなく、たとえば、フェライト単相鋼や、オーステナイト単相鋼等のような相変態の存在しない鋼種等の、広い成分範囲の鋼材を用いることができる。より具体的には、たとえば、組成が、重量%で、
C:0.001%以上1.2%以下、
Si:2%以下、
Mn:3%以下、
P:0.2%以下、
S:0.1%以下、
Al:0.3%以下、
N:0.02%以下、
Cr,Mo,Cu,Niが合計で5%以下、
Nb,Ti,Vが合計で0.5%以下、
B:0.01以下、
残部Feおよび不可避的不純物といった組成のものを1つの例として示すことができる。もちろん、上記のCr、Mo、Cu、Ni、Nb、Ti、V、B等の合金元素は、必要に応じて上記の範囲を超えて添加することも可能であるし、逆に全く含まれていなくてもよい。
【0023】
以上のようなこの出願の発明の高強度ネジについてさらに具体的に例示すると、たとえば主組成が0.15%C−0.3Si−1.5%Mnの高強度ネジについては、代表的には、図1に例示したように、フェライト平均粒径が1.0μmで引張強さが700MPa、0.7μmで800MPaのものとして実現される。また、JIS強度区分において8.8以上の強度を十分に満足する高強度ネジとしては、平均粒径0.7μm以下のものとして提供されることになる。もちろん、これらの値は一つの例であって、組成の異なるネジについてはより高強度なネジを実現することができる。
【0024】
なお、この出願の発明において、フェライト粒の平均粒径は、JIS G0552フェライト結晶粒度試験方法における切断法により規定され、短径は、伸長した粒の垂直断面の粒径と定義できる。
【0025】
以上のこの出願の発明が提供する高強度成形品の製造方法は、短径の平均粒径が1μm以下のフェライト粒からなる超微細組織を有する鋼を素材として用い、調質処理を一切施すことなく、圧造等の成形のみを行うことを特徴としている。
【0026】
成形の手段については特に制限されず、目的とする規格や形状等に応じて、圧造、鍛造、切削、ねじであれば、ヘッダ成型、転造などの公知の各種の方法を利用して行うことができる。たとえば、具体的には、超微細組織鋼からなる棒材あるいは線材を素材とし、この素材の先端部をヘッダ加工して圧造品頭部を形成した後、所定の長さに切断し、次いで転造加工によって圧造品ネジ部を成形することなどが例示される。
【0027】
このように、そこで出願の発明者らは、この超微細粒組織鋼を素材とすることで、少なくともビッカース硬さ200以上の、さらにはJIS強度区分で8.8以上の圧造品(少なくともビッカース硬さ250以上)を、調質処理を必要とせずに簡便に製造することができる。すなわち、浸炭や、焼入れ、焼戻しといった調質処理を一切行うことなく、高い芯部強さ、引張り応力、せん断応力とを備えた高強度成形品、圧造品、部品、部材を製造することができる。
【0028】
以下に実施例を示し、この発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0029】
【実施例】
<実施例1−4>
表1に示す化学成分の鋼材を溶製し、温間温度域において臨界歪よりも大きな歪を導入することにより、平均粒径1μm以下の超微細組織棒鋼を作成した。この鋼材の外形像と、その組織の走査型電子顕微鏡(SEM)像を図2に例示した
【0030】
【表1】
Figure 0004408617
【0031】
この超微細組織鋼をφ1.3mmの線材とし、先端部をヘッダ成形してネジ頭部を形成した後、所定の長さに切断し、転造によってネジ部を成形して、十字穴付M1.6なべ小ネジを製造した(実施例1〜4)。
【0032】
得られたネジの上面図および側面図を図3に例示した。比較のために、化学成分が表1の3および7で、フェライト粒径20μmの線材を素材として用い、同様にネジを製造した(比較例1、2)。さらに、化学成分が表1の7を素材として、成形を行い、従来法に従って焼入れ焼戻しによる調質処理を行ってネジを製造した。
【0033】
これらのネジについて、組織のフェライト粒径と、引張強さおよびネジ芯部硬さを測定してその結果を表2に示した。また、実施例1と比較例1のネジについては、ネジ部の断面組織像を図4(a)(b)にそれぞれ例示した。
【0034】
【表2】
Figure 0004408617
【0035】
焼入れ焼戻しの調質処理を行わなかった比較例1、2のネジは、ビッカース硬さが190に達しないのに対し、実施例1、2、4のネジではビッカース硬さが250を越え、実施例3においても230を越えている高硬度を有することがわかった。これは、比較例3の従来法による調質処理を施したネジと同等あるいはそれ以上の硬さである。
【0036】
また、図4より、実施例1のこの出願の発明の高強度ネジは、比較例1のネジに比べて極めて微細な組織を有することが確認された。さらに、実施例1の高強度ネジについては、焼入れで生じるマルテンサイト組織の全く観察されなかった。
【0037】
以上のことから、この出願の発明のネジはその超微細組織により調質処理を施さなくても高強度を有することが確認された。
【0038】
もちろん、この発明は以上の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
<実施例5−8、参考例
表1の組成の超微細組織鋼をφ8mmの線材とし、先端部をヘッダ加工してボルト頭部を形成した後、所定の長さに切断し、転造加工によって、M8ボルト形状の圧造品を製造した(実施例5、7、参考例)。また、この超微細組織鋼をφ3mmの線材とし、先端部をヘッダ加工した後、所定の長さに切断し、リベットを製造した(実施例6、)。図5は実施例6の外形を例示した写真である。
【0039】
比較のために、化学成分が表1の組成でフェライト粒径20μmの線材を素材として用い、同様にボルト、リベットを製造した(比較例4−6)。さらに、化学成分が表1の7を素材として用いて冷間圧造を行い、従来法に従って焼入れ焼戻しによる調質処理を行った。
【0040】
これらの圧造品について、組織のフェライト粒径と、引張強度および成形品芯部硬さを測定してその結果を表3に示した。
【0041】
【表3】
Figure 0004408617
【0042】
焼入れ焼戻しの調質処理を行わなかった比較例4、5の冷間圧造ボルトは、ビッカース硬さが190に満たないのに対し、実施例5−8及び参考例の圧造品ではビッカース硬さが200を超え、実施例5、6、においては250を超えていることがわかった。これは、比較例6の従来法による調質処理を施した圧造品と同等あるいはそれ以上の強度である。
【0043】
さらに、実施例5−8及び参考例の高強度成形品については、焼入れで生じるマルテンサイト組織の全く観察されなかった。
【0044】
以上のことから、この出願の発明の圧造品はその超微細組織により調質処理を施さなくても高強度を有することが確認された。
【0045】
もちろん、この発明は以上の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0046】
【発明の効果】
以上詳しく説明した通り、この発明によって、合金元素の添加あるいは調質処理によらず超微細組織によって高強度および高靭性が確保されている高強度成形品と、これを簡便に製造することができる高強度成形品の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】フェライト粒径と引張り強さとの関係を例示した図である。
【図2】平均粒径1μm以下の超微細組織棒鋼の外形とSEM像を例示した写真図である。
【図3】実施例において製造した圧造品の上面図および側面図を例示した図である。
【図4】(a)この出願の発明の圧造品および(b)従来の圧造品の圧造品部の断面組織像を例示した写真図である。
【図5】実施例の例を示した外形写真図である。

Claims (5)

  1. 少なくとも一部分が圧造により成形加工された成形品であって、
    短径の平均粒径が1μm以下の伸長したフェライト粒からなる超微細組織を有し、
    調質処理が施されていないことを特徴とする成形品。
  2. 前記成形品は、その頭部が圧造により成型加工されたねじ、ボルト又はリベットであることを特徴とする請求項1に記載の成形品。
  3. 前記成形品は、JIS強度区分において8.8以上の強度を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の成形品。
  4. 短径の平均粒径が1μm以下の伸長したフェライト粒からなる超微細組織を有する棒材または線材を素材とする成形品の製造方法であって、少なくとも前記成形品の一部分を圧造により成形加工し、調質処理を施さないことを特徴とする成形品の製造方法。
  5. 少なくとも前記成形品の頭部を圧造により成形加工し、その他を転造により成形加工して、ねじ、ボルト又はリベットに成形することを特徴とする請求項4に記載の成形品製造方法。
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