JP4508771B2 - 圧力容器用ステンレス製ボルトナット材及びその製造方法 - Google Patents
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ボルトとナットの高強度化はそれらを作製するためのステンレス鋼素材の高強度化に依存し、ステンレス鋼素材の高強度化を達成するためには結晶組織の微細化を図ることが必要となる。しかし、これまでに行なわれた結晶組織の微細化手法は、結晶粗大化阻害材料を添加するものが殆どであった。例えば、特許文献1には、結晶粗大化阻害材料として炭化物を用いることが、特許文献2には酸化物を用いることが開示されている。その他、酸化物を用いたものの代表例としては、既に製品化もされているODSフェライト系耐熱鋼等があり、特許文献3ではSiO2 、MnO、TiO2 、Al2 O3 、Cr2 O3 、CaO、TaO、Y2 O3 を含有したメカニカルアロイングにより作製された金属粉末を高温で固化成形してなる高強度超細粒鋼が開示されている。
クロムを2.24重量%以上かつ2.33重量%以下、モリブデンを0.92重量%以上かつ1.01重量%以下、及びジルコニウムを0.92重量%以上かつ2.85重量%以下含有し、残部が鉄及び不可避不純物よりなり、しかも、該不可避不純物として含有される酸素、炭素、及び窒素の含有量の合計がジルコニウムの含有量の20重量%未満であり、
前記熱間押出し成形時にジルコニウムと酸素、窒素、及び炭素がそれぞれ反応し、形成された酸化物、窒化物、及び炭化物が粒界に析出して固定され、引張強さが1400MPa以上、かつシャルピー衝撃値が0.9MJ/m2以上である。
前記作製された粉末を、押出し温度が700℃以上かつ950℃以下、及び押出し比が5以上かつ7以下である熱間押出し成形により固化成形すると共に、ジルコニウムと酸素、窒素、及び炭素をそれぞれ反応させて形成される酸化物、窒化物、及び炭化物を粒界に析出させて固定する成形工程とを有する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係る圧力容器用ステンレス製ボルトナット材の製造方法に使用するアトリッションミルの説明図である。
しかし、機械的破砕処理により粉末を作製する場合、大気雰囲気中に存在するガス成分である酸素と窒素、特に酸素の混入は素材の機械的性質に重大な悪影響を及ぼす。一方、窒素は素材を構成する結晶粒子の表面に偏析する場合を除いて、少量であれば素材を脆化させる恐れは殆どなく、素材の特性を改善するために積極的に活用すべき元素にもなっている。また、機械的破砕処理を行なう破砕装置の冶具には摩耗損傷に備えて高強度材料、例えば、炭素含有量の多いSKD11材やSUJ2材等を用いる必要がある。このため、機械的破砕処理中に治具との接触により炭素が粉末中に混入してくる。従って、機械的破砕処理により得られた粉末をそのまま使用すると、機械的破砕処理時に混入した酸素、窒素、及び炭素が固化成形時に形成される粉末間の境界に集積し素材の脆化を招く恐れがある。
クロム及びモリブデンの含有量が圧力容器用素材と近く、かつジルコニウムを最大で3重量%含むような組成、例えば、鉄を90重量%以上かつ95重量%以下、クロムを2重量%以上かつ2.5重量%以下、モリブデンを0.9重量%以上かつ1.1重量%以下、及びジルコニウムを0.3重量%以上かつ3重量%以下含有する組成は溶製ではできないため、ガスアトマイズ法で製造された鉄、クロム、及びモリブデンを含有した粉末とジルコニウムの粉末との混合粉末を準備し、この混合粉末に対して機械的破砕処理(メカニカルアロイング処理)を行なって粉末を形成するようにした。なお、機械的破砕処理中、鉄、クロム、及びモリブデンを含有した粉末とジルコニウムの粉末は相互に衝突を繰り返しながら粉砕と凝集が繰り返され、このとき両粉末の衝突箇所では両粉末の成分間の相互溶け込みが生じて合金化(メカニカルアロイング)が進行する。このため、機械的破砕処理を行なって得られる粉末は内部歪みが大きく、鉄−クロム−モリブデン−ジルコニウム系の合金組成になっている。
このような構成とすることにより、ステンレス製粉砕タンク11内に混合粉末と粉砕用鋼製ボール12を投入し開口部を蓋部材16で閉じて、図示しない排気口から空気を脱気した後に高純度アルゴンガスを吹き込み、更に、水冷ジャケット19でステンレス製粉砕タンク11の側部を冷却することにより、機械的破砕処理による酸素、窒素、及び炭素の混入を抑えると共に、機械的破砕処理中の発熱を抑えながらメカニカルアロイング法で合金化した粉末を作製することができる(粉末製造工程)。
ここで、粉末中には機械的破砕処理により酸素、窒素、及び炭素が混入すると共に、合金化によりジルコニウムが存在するようになっているので、固化成形時にジルコニウムと酸素、窒素、及び炭素がそれぞれ反応して酸化物、窒化物、及び炭化物が形成され粒界に析出する。このため、形成された酸化物、窒化物、及び炭化物がピンニング粒子として結晶粒界移動の抵抗となるので、結晶粒粗大化が抑制される。更に、混入した酸素、窒素、及び炭素はジルコニウムの酸化物、窒化物、及び炭化物として固定される。これによって、引張強さが1400MPa以上、シャルピー衝撃値が0.9MJ/m2 以上の素材が得られる。
しかしながら、本素材には、結晶粒粗大化を抑制するピンニング粒子が理想的に結晶粒界に生成しているので、大気圧下で、単純に材料履歴上の最高温である熱間押出し成形温度以上の温度に保持しても、結晶粗大化のスピードが遅く、さしたる強度の低下をもたらさずに靭性を向上させることができるという利点を有する。
[試験例1]
ガスアトマイズ法で作製した2.25重量%クロム、1重量%モリブデン、及び残部を鉄と不可避不純物とする組成(JIS SCMV4材 相当の組成)の原料粉末5kgにジルコニウムを1重量%、2重量%、3重量%、4重量%、及び5重量%それぞれ添加して混合粉末を作製し、この混合粉末をアトリッションミルを用いて回転数を100rpmとしてメカニカルアロイング法による合金化処理を行い、粉末を作製した。この粉末を軟鋼製の缶に詰め、真空ポンプで脱気した後封入し、押出し比6.8、押出し温度800℃で熱間押出し成形を行なった。作製した素材の化学成分を表3に示す。
ガスアトマイズ法で作製した2.25重量%クロム、1重量%モリブデン、及び残部を鉄と不可避不純物とする組成(JIS SCMV4材 相当の組成)の原料粉末5kgにジルコニウムを1重量%添加した混合粉末をアトリッションミルを用いて、回転数を100rpm〜300rpmまで変化させてメカニカルアロイング法により合金化処理を行い、粉末を作製した。この粉末を軟鋼製の缶に詰め、真空ポンプで脱気した後封入し、押出し比6.8、押出し温度800℃で熱間押出し成形を行なった。作製した素材の化学成分を表4に示す。
また、作製した素材から引張り試験片及びシャルピー衝撃試験片を作製し、引張り試験及びシャルピー衝撃試験を行なった。得られた引張り強さ及びシャルピー衝撃値の平均値を表4に示す。アトリッションミルの回転数が大きくなる程、引張り強さ及びシャルピー衝撃値のばらつきが大きくなり、平均値は低下する傾向を示した。この原因は、粉末中に混入する酸素量、窒素量、及び炭素量の増加によるものと判断される。また、回転数が300rpmではシャルピー衝撃値が大幅に低下しているため、回転数を250rpm以下にすると、粉末中に混入する酸素、炭素、及び窒素の絶対値の合計をジルコニウムの絶対値の20重量%未満にすることができると判断される。
試験例2で使用したのと同一の粉末を軟鋼製の缶に詰め、真空ポンプで脱気した後封入し、押出し比を4.2、5.2、6.8、及び7.5の4条件、押出し温度を650℃、700℃、750℃、800℃、850℃、900℃、950℃、及び1,000℃の8条件として熱間押出し成形を行なった。得られた各素材の化学成分、密度、引張り強さ強度、及びシャルピー衝撃値を表5に示す。
試験例3で作製した実施例11の素材(熱間押出し成形の条件が押出し比6.8で押出し温度750℃)を温度900℃のアルゴン雰囲気(大気圧)中で3時間熱処理してから、引張り強さとシャルピー衝撃値を測定した。その結果を表6に示す。
試験例3で作製した実施例11の素材(熱間押出し成形の条件が押出し比6.8で押出し温度750℃)と、比較材であるSCMV4材(JIS G 4109に示される圧力容器用クロムモリブデン鋼)の物性を比較した結果を表7に示す。
Claims (3)
- メカニカルアロイング法で合金化した粉末の熱間押出し成形で得られる平均結晶粒径が1μm以下である微結晶金属素材から作製され、
クロムを2.24重量%以上かつ2.33重量%以下、モリブデンを0.92重量%以上かつ1.01重量%以下、及びジルコニウムを0.92重量%以上かつ2.85重量%以下含有し、残部が鉄及び不可避不純物よりなり、しかも、該不可避不純物として含有される酸素、炭素、及び窒素の含有量の合計がジルコニウムの含有量の20重量%未満であり、
前記熱間押出し成形時にジルコニウムと酸素、窒素、及び炭素がそれぞれ反応し、形成された酸化物、窒化物、及び炭化物が粒界に析出して固定され、引張強さが1400MPa以上、かつシャルピー衝撃値が0.9MJ/m2以上であることを特徴とする圧力容器用ステンレス製ボルトナット材。 - 鉄、クロム、及びモリブデンを含みジルコニウムを含まないガスアトマイズ法にて製造された粉末とジルコニウムの粉末とを混合し、メカニカルアロイング処理にてクロムを2.24重量%以上かつ2.33重量%以下、モリブデンを0.92重量%以上かつ1.01重量%以下、及びジルコニウムを0.92重量%以上かつ2.85重量%以下含有し、残部が鉄及び不可避不純物よりなり、しかも、該不可避不純物として含有される酸素、炭素、及び窒素の含有量の合計がジルコニウムの含有量の20重量%未満である粉末を作製する粉末製造工程と、
前記作製された粉末を、押出し温度が700℃以上かつ950℃以下、及び押出し比が5以上かつ7以下である熱間押出し成形により固化成形すると共に、ジルコニウムと酸素、窒素、及び炭素をそれぞれ反応させて形成される酸化物、窒化物、及び炭化物を粒界に析出させて固定する成形工程とを有することを特徴とする圧力容器用ステンレス製ボルトナット材の製造方法。 - 請求項2記載の圧力容器用ステンレス製ボルトナット材の製造方法において、前記熱間押出し成形で得られた成形物を、更に大気圧下で前記押出し温度以上の温度で熱処理することを特徴とする圧力容器用ステンレス製ボルトナット材の製造方法。
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