JP4406530B2 - 3,3’−置換−2,2’−ビスアルコキシカルボニル−1,1’−ビナフチルとこれを原料とするn−スピロ4級アンモニウム塩の製造方法 - Google Patents
3,3’−置換−2,2’−ビスアルコキシカルボニル−1,1’−ビナフチルとこれを原料とするn−スピロ4級アンモニウム塩の製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、3,3’−置換−2,2’−ビスアルコキシカルボニル−1,1’−ビナフチルおよびそれを用いたN−スピロ4級アンモニウム塩の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、有機化合物を立体特異的に合成するために用いられる触媒化合物の原料として重要な、3,3’−置換−2,2’−ビスアルコキシカルボニル−1,1’−ビナフチル、およびこれを用いた相関移動触媒(すなわち、軸不斉N−スピロ4級アンモニウム塩)の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、例えば、医薬品、農薬、または液晶材料の分野に使用される有機化合物(例えば、天然または非天然のアミノ酸およびβ−ヒドロキシケトン化合物、ならびにオリゴペプチドおよびβ−ヒドロキシアミン)を立体特異的に合成するために、いくつかの触媒化合物が使用されている。
【0003】
このような触媒化合物の一例として、シンコナアルカロイド誘導体を用いることが知られている(非特許文献1)。
【0004】
しかし、上記触媒化合物を用いて所望の有機化合物を合成する場合、ハロゲン系溶媒を使用する必要があり、かつ不斉収率を向上させるためには低温条件をも必要とする。その結果、反応に長時間を要して、工業的生産性に欠けるという問題があった。さらに、上記触媒化合物は、シンコナアルカロイドを原料として調製されるため、触媒構造を自由に改変して所望の立体選択性を発揮することもしばしば困難であった。
【0005】
他方、上記問題を克服するために、触媒化合物として、軸不斉を有するN−スピロ4級アンモニウム塩を用いることが知られている。特開2001−48866号公報は、2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビナフチルまたは3,3’−ジブロモ−2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビナフチルを出発原料として、軸不斉を有するN−スピロ4級アンモニウム塩を製造し、そして得られた当該光学活性な4級アンモニウム塩を相関移動触媒として使用することを開示している(特許文献1)。
【0006】
特開2001−48866号公報に相関移動触媒は、種々のアミノ酸およびヒドロキシケトンを立体配置を制御して合成するために適切な触媒である。しかし、触媒化合物の工業的生産性を高めるためのバリエーションを考慮すれば、特開2001−48866号公報に記載される製造工程のみが、必ずしも適切な方法であるとは言えない。
【0007】
【非特許文献1】
コーリー,イー.ジェイ.(Corey,E.J.)ら、ジャーナルオブアメリカンケミカルソサイエティ(Journal ofAmerican Chemical Society),(米国)、1997年,第119巻,p.12414−12415
【特許文献1】
特開2001−48866号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、相関移動触媒として有用な、軸不斉を有するN−スピロ4級アンモニウム塩を、短縮された工程で、より高純度かつ高収率で得ることのできる製造方法ならびにその方法に使用される中間体を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、式(I):
【0010】
【化11】
【0011】
(ここで、X1およびX2はそれぞれ独立して、ボロン酸誘導体と反応し得る基であり、かつR1およびR2はそれぞれ独立して、C1〜C4の分岐していてもよいアルキル基である)で表される、ビナフチル化合物である。
【0012】
好ましい実施態様では、上記式(I)で表される化合物は、式(II):
【0013】
【化12】
【0014】
で示される立体配置を有する。
【0015】
本発明はまた、軸不斉を有するN−スピロ4級アンモニウム塩の製造方法であって、式(I):
【0016】
【化13】
【0017】
(ここで、X1およびX2は、それぞれ独立して、ボロン酸誘導体と反応し得る基であり、かつR1およびR2はそれぞれ独立して、C1〜C4の分岐していてもよいアルキル基である)で表されるビナフチル化合物に、式(III):
【0018】
【化14】
【0019】
(ここで、Arは、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基か、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基か、ハロゲン原子か、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素か、で置換されていてもよい、アリール基;もしくはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基か、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基か、ハロゲン原子か、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素か、で置換されていてもよい、ヘテロアリール基;である)で示される化合物の少なくとも1種を反応させて、アルコキシカルボニル基を有する中間体を得る工程;該アルコキシカルボニル基を有する中間体のアルコキシカルボニル基をハロゲノメチル基に置換する工程;および該ハロゲノメチル基を有する中間体を、S体またはR体の1,2−ジヒドロ−7H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピンと反応させる工程;を包含する、方法である。
【0020】
本発明はまた、軸不斉を有するN−スピロ4級アンモニウム塩の製造方法であって、式(I’):
【0021】
【化15】
【0022】
(ここで、R1およびR2はそれぞれ独立して、C1〜C4の分岐していてもよいアルキル基である)で表されるビナフチル化合物に、式(III’):
【0023】
【化16】
【0024】
(ここで、Arは、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基か、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基か、ハロゲン原子か、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素か、で置換されていてもよい、アリール基;もしくはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基か、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基か、ハロゲン原子か、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素か、で置換されていてもよい、ヘテロアリール基;であり、そしてXは、ヨウ素原子、臭素原子、塩素原子またはトリフルオロメタンスルホニルオキシである)で示される化合物の少なくとも1種を反応させて、アルコキシカルボニル基を有する中間体を得る工程;該アルコキシカルボニル基を有する中間体のアルコキシカルボニル基をハロゲノメチル基に置換する工程;および該ハロゲノメチル基を有する中間体を、S体またはR体の1,2−ジヒドロ−7H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピンと反応させる工程;を包含する、方法である。
【0025】
本発明はまた、式(IV):
【0026】
【化17】
【0027】
(ここで、Ar1およびAr2はそれぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基か、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基か、ハロゲン原子か、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素か、で置換されていてもよい、アリール基;もしくはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基か、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基か、ハロゲン原子か、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素か、で置換されていてもよい、ヘテロアリール基;であり、そしてR1およびR2はそれぞれ独立して、C1〜C4の分岐していてもよいアルキル基である)で表される、化合物である。
【0028】
好ましい実施態様では、Ar1およびAr2が同一の基である。
【0029】
さらに好ましい実施態様では、上記式(IV)で表される化合物が、式(IV−1):
【0030】
【化18】
【0031】
で表される立体配置を有する。
【0032】
本発明はまた、式(V):
【0033】
【化19】
【0034】
(ここで、Ar1およびAr2はそれぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基か、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基か、ハロゲン原子か、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素か、で置換されていてもよい、アリール基;もしくはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基か、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基か、ハロゲン原子か、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素か、で置換されていてもよい、ヘテロアリール基である)で表される、化合物である。
【0035】
好ましい実施態様では、Ar1およびAr2が同一の基である。
【0036】
さらに好ましい実施態様では、上記式(V)で表される化合物が、式(VI):
【0037】
【化20】
【0038】
で表される立体配置を有する。
【0039】
以下、本明細書中に用いられる用語を定義する。
【0040】
用語「C1〜C4のアルキル基」は、任意の炭素数1個〜4個を有する、直鎖、分岐鎖および環状アルキル基を包含していい、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチルおよびシクロブチルが挙げられる。さらに、用語「ハロゲン原子で置換されていてもよいC1からC4のアルキル基」は、未置換の上記C1〜C4のアルキル基、および上記C1〜C4のアルキル基を構成する少なくとも1個の水素原子が後述するハロゲン原子に置換された、アルキル基を包含していう。
【0041】
用語「C1〜C4のアルコキシ基」は、任意の炭素数1個〜4個を有する、直鎖、分岐鎖および環状アルコキシ基を包含していい、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシを包含していう。さらに、用語「ハロゲン原子で置換されていてもよいC1からC4のアルコキシ基」は、未置換の上記C1〜C4のアルコキシ基、および上記C1〜C4のアルコキシ基を構成する少なくとも1個の水素原子が後述するハロゲン原子に置換された、アルコキシ基を包含していう。
【0042】
本発明における「ハロゲン原子」の例としては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。
【0043】
本発明に用いられる「芳香族炭化水素」の例としては、フェニル、トリル、キシリル、ナフチル、およびアントラセニルが挙げられる。さらに、用語「ハロゲン原子で置換されていてもよいC1からC4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1からC4のアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素」は、未置換の上記芳香族炭化水素、および上記芳香族炭化水素を構成する少なくとも1個の水素原子が上記ハロゲン原子で置換されていてもよいC1からC4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1からC4のアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換された、芳香族炭化水素を包含していう。
【0044】
本発明における「アリール基」の例としては、フェニル、およびナフチルが挙げられる。また、本発明における「ヘテロアリール基」の例としては、ピリジル、ピロリル、イミダゾリル、フリル、インドリル、チエニル、オキサゾリル、チアゾリル、およびテトラゾリルが挙げられる。
【0045】
本発明者は、種々の構造を有する軸不斉N−スピロ4級アンモニウム塩の合成を効率よく行うための最適な方法の探索を重ね本発明に到達したものであって、簡便にして、且つ、効率のよい合成ルートの確立に必要不可欠な中間体化合物の創製とこれを使用した合成ルートを見出したものである。
【0046】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳述する。
【0047】
本発明のビナフチル化合物は、式(I):
【0048】
【化21】
【0049】
(ここで、X1およびX2はそれぞれ独立して、ボロン酸誘導体と反応し得る基であり、かつR1およびR2はそれぞれ独立して、C1〜C4の分岐していてもよいアルキル基である)により表される化合物である。
【0050】
本明細書中に用いられる用語「ボロン誘導体と反応し得る基」とは、後述するボロン酸誘導体との反応性を有する基であって、例えば、ヨウ素原子、臭素原子、塩素原子、およびトリフルオロメタンスルホニルオキシが挙げられる。本発明において、式(I)で表されるビナフチル化合物のX1およびX2は、同一の基であっても互いに異なる基であってもよいが、同一の基であることが好ましく、特に両者がともに臭素原子であることが好ましい。他方、式(I)で表されるビナフチル化合物のR1およびR2は、同一の基であっても互いに異なる基であってもよいが、特に両者が同一の基でありかつ上記に定義されるもののうち、イソプロピルがさらに好ましい。
【0051】
本発明においては、上記式(I)で表されるビナフチル化合物は、S体およびR体のいずれの立体配置を有する化合物も包含する。なお、本発明においては、例えば、相関移動触媒の1種である式(VII):
【0052】
【化22】
【0053】
で表される化合物のようなS体の軸不斉を有するN−スピロ4級アンモニウム塩の製造に使用することを考慮すれば、S体、すなわち、式(II):
【0054】
【化23】
【0055】
で表される立体配置(ここで、X1、X2、R1およびR2は上記定義と同様である)を有していることが好ましい。
【0056】
本発明の上記式(I)で表されるビナフチル化合物は、以下のようにして製造される。
【0057】
まず、1,1’−ビナフチル−2,2’−ジカルボン酸がエステル化物に誘導される。
【0058】
1,1’−ビナフチル−2,2’−ジカルボン酸は、通常、その立体配置において、S体とR体との混合物であるラセミ体として存在する。本発明の式(I)で表される化合物を合成する際、後述する相関移動触媒自体に所望される立体配置(S体またはR体)に応じて、S体またはR体のいずれかを使用することが好ましい。そのため、この1,1’−ビナフチル−2,2’−ジカルボン酸のラセミ体を、当該分野において通常使用される分割剤(例えば、キニン、ブルシン、または1−シクロヘキシルアミン)を用いて、予め当業者に公知の手段により光学分割しておくことが好ましい。
【0059】
当該ジカルボン酸へのエステル化物への誘導にあたっては、1,1’−ビナフチル−2,2’−ジカルボン酸を、例えば、酸ハロゲン化物に変換させた後、アルコールと反応させる;あるいは縮合剤(例えばDCC)の存在下でアルコールと反応させる;ことにより達成することができる。
【0060】
酸ハロゲン化物を経由する反応の場合は、1,1’−ビナフチル−2,2’−ジカルボン酸に、塩化チオニル、三塩化リン、三臭化リンなどの物質を反応させて、酸ハロゲン化物が生成される。次いで、得られた酸ハロゲン化物を、ピリジン、ジメチルアニリン、またはトリエチルアミンのような塩基の存在下にて、適切なアルコール(例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、および/またはイソブチルアルコール)と反応させることにより、所望のエステル化物を得ることができる。このようなエステル化物を得る手法は当業者に公知である。
【0061】
あるいは、縮合剤を使用する場合は、1,1’−ビナフチル−2,2’−ジカルボン酸を、DCCのような縮合剤の存在下にて、適切なアルコール(例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、および/またはイソブチルアルコール)と直接反応させることにより、所望のエステル化物をより少ない工程で得ることができる。このようなエステル化物を得る手法もまた当業者に公知である。
【0062】
次いで、上記より得られた1,1’−ビナフチル−2,2’−ジカルボン酸エステルのうち、式(I)のX1およびX2に相当する部分に、ボロン酸誘導体と反応し得る基が例えば、以下のようにして導入される。
【0063】
まず、上記1,1’−ビナフチル−2,2’−ジカルボン酸エステルを、マグネシウムビス−2,2,6,6−テトラメチルピペラミドと反応させ、その反応生成物が生成される。
【0064】
具体的には、別途、マグネシウムビス−2,2,6,6−テトラメチルピペラミドの溶液を以下のようにして製造する:すなわち、削状マグネシウムを、適切な溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテルおよびジオキサン)中にて1,2−ジブロモエタンと反応させて、臭化マグネシウムの懸濁液を製造する。次いで、この懸濁液に、同様の溶媒中、2,2,6,6−テトラメチルピペリジンとブチルリチウムとから得られるリチウム2,2,6,6−テトラメチルピペラミド溶液を加え、さらに撹拌して得ることができる。
【0065】
その後、J.Am.Chem.Soc.,111,8016(1989)に記載の方法に基づいて、マグネシウムビス−2,2,6,6−テトラメチルピペラミドの溶液に、上記1,1’−ビナフチル−2,2’−ジカルボン酸エステルの溶液が添加され、反応が行われる。この反応における条件は特に限定されず、通常は、適切な溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルおよびジイソプロピルエーテル)中、室温または冷却下にて数時間撹拌することにより行われる。このようにして、1,1’−ビナフチル−2,2’−ジカルボン酸エステルと、マグネシウムビス−2,2,6,6−テトラメチルピペラミドとの反応生成物が生成される。
【0066】
その後、得られた反応生成物に対して、式(I)のX1およびX2に相当する部分に、ボロン酸誘導体と反応し得る基を導入する工程が行われる。
【0067】
この工程を説明するために、まず第一の手法として、式(I)のX1およびX2に相当する部分に、ボロン酸誘導体と反応し得る基としてヨウ素原子、臭素原子または塩素原子を導入する場合について説明する。
【0068】
上記より得られた反応生成物は、単離されることなく、そのまま、ヨウ素、臭素、または塩素のような導入物質との反応に供される。なお、上記反応における導入物質の使用量は、特に限定されないが、例えば、上記式(I)のX1およびX2を同一の基として一度に導入する場合は、上記反応生成物を得るために使用した1,1’−ビナフチル−2,2’−ジカルボン酸エステル1モルに対し、好ましくは2モル〜5モルである。
【0069】
この反応における反応条件もまた特に限定されないが、好ましくは−80℃付近の低温で行われ、その後、室温で数時間撹拌することにより反応は完了する。さらに反応終了後、当業者に周知の手段により精製されることが好ましい。
【0070】
このようにして、X1およびX2の部分に、ヨウ素原子、臭素原子または塩素原子でなるボロン酸誘導体と反応し得る基が導入された、本発明の式(I)で表されるビナフチル化合物が製造される。
【0071】
次に、第二の手法として、式(I)のX1およびX2に相当する部分に、ボロン酸誘導体と反応し得る基としてトリフルオロメタンスルホニルオキシ基を導入する場合について説明する。
【0072】
まず、上記で得られた反応生成物を、適切な溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ジクロロメタン、ジクロロエタン、およびエチレングリコールジメチルエーテル)中にて、式(VIII):
【0073】
【化24】
【0074】
(ここで、Rは、C1〜C3のアルキル基またはフェニル基である)で表される化合物と反応させ、当該反応生成物の対応する部分に−B(OR)2基が導入される。式(VIII)で表される化合物の例としては、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリイソプロピル等が挙げられる。この反応における式(VIII)で表される化合物の使用量は、特に限定されないが、好ましくは上記反応生成物を得るために使用した1,1’−ビナフチル−2,2’−ジカルボン酸エステル1モルに対し、好ましくは2モル〜10モルである。
【0075】
この後、反応物は、所定量(好ましくは2当量〜10当量)の過酸化水素と反応させて、導入された−B(OR)2基を水酸基に変換し、適切な溶媒(例えば、ジクロロメタンまたはトルエン)中、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン等の塩基の存在下にて、さらにトリフルオロメタンスルホン酸無水物および/またはトリフルオロメタンスルホン酸クロリドとの反応に供される。なお、この反応におけるトリフルオロメタンスルホン酸無水物および/またはトリフルオロメタンスルホン酸クロリドの使用量は、特に限定されないが、好ましくは上記反応生成物を得るために使用した1,1’−ビナフチル−2,2’−ジカルボン酸エステル1モルに対し、好ましくは2モル〜5モルである。
【0076】
この反応における反応条件もまた特に限定されないが、好ましくは室温または冷却下にて撹拌することにより反応は完了する。さらに反応終了後、当業者に周知の手段により精製されることが好ましい。
【0077】
このようにして、X1およびX2の部分に、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基でなるボロン酸誘導体と反応し得る基が導入された、本発明の式(I)で表されるビナフチル化合物が製造される。
【0078】
なお、この式(I)で表されるビナフチル化合物に関連し、上記式(VII)で表される軸不斉を有するN−スピロ4級アンモニウム塩は、以下の式(I’):
【0079】
【化25】
【0080】
(ここで、R1およびR2はそれぞれ独立して、C1〜C4の分岐していてもよいアルキル基である)で表されるビナフチル化合物を用いて製造することができる。
【0081】
上記式(I’)で表される化合物は、例えば、以下のようにして製造される。
【0082】
まず、上記式(I)で表されるビナフチル化合物を製造する場合と同様にして、1,1’−ビナフチル−2,2’−ジカルボン酸エステルと別途調製されるマグネシウムビス−2,2,6,6−テトラメチルピペラミドとの反応により得られる反応生成物が合成される。
【0083】
次いで、この反応生成物を、適切な溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ジクロロメタン、ジクロロエタン、およびエチレングリコールジメチルエーテル)中にて、式(VIII):
【0084】
【化26】
【0085】
ここで、Rは、C1〜C3のアルキル基またはフェニル基である)と反応させ、当該反応生成物の対応する部分に−B(OR)2基が導入される。式(VIII)で表される化合物の例としては、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリイソプロピル等が挙げられる。その後、−B(OR)2基を導入した当該反応生成物を、塩酸、硫酸、塩化アンモニウム水のような酸を用いて加水分解が行われる。なお、上記反応における酸の使用量は、特に限定されない。反応条件も特に限定されず、当業者に公知の手段を用いて行うことができる。さらに反応終了後、当業者に周知の手段により精製されることが好ましい。
【0086】
このようにして、式(I’)で表されるビナフチル化合物を製造することができる。
【0087】
本発明に用いられる上記式(I)で表されるビナフチル化合物、および式(I’)で表されるビナフチル化合物はいずれも、後述するような、有機化合物を立体特異的に合成するために用いられる相関移動触媒(例えば、軸不斉を有するN−スピロ4級アンモニウム塩)の製造に有用である。
【0088】
次に、相関移動触媒の1種として重要な、本発明の、軸不斉を有するN−スピロ4級アンモニウム塩を製造する方法について説明する。
【0089】
本発明の、軸不斉を有するN−スピロ4級アンモニウム塩の製造方法を説明するために、まず、本発明の上記式(I)で表されるビナフチル化合物を使用する場合の方法(本発明の第一の方法)について説明する。
【0090】
本発明の第一の方法においては、まず、上記式(I):
【0091】
【化27】
【0092】
(ここで、X1およびX2は、それぞれ独立して、ボロン酸誘導体と反応し得る基であり、かつR1およびR2はそれぞれ独立して、C1〜C4の分岐していてもよいアルキル基である)で表されるビナフチル化合物に、式(III):
【0093】
【化28】
【0094】
(ここで、Arは、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基か、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基か、ハロゲン原子か、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素か、で置換されていてもよい、アリール基;もしくはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基か、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基か、ハロゲン原子か、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素か、で置換されていてもよい、ヘテロアリール基;である)で示される化合物(ボロン酸誘導体)の少なくとも1種を反応させて、アルコキシカルボニル基を有する中間体が合成される。
【0095】
上記式(III)で表されるボロン酸誘導体において、Arのより具体的な例としては、フェニル、トリル、キシリル、ビフェニル、α−ナフチル、β−ナフチル、アントリル、フェナントリル、ピリジル、3,4,5−トリフルオロフェニル、3,5−ジメチルフェニル、3,5−ジ−トリフルオロメチルフェニル、3,5−ジ−t−ブチルフェニル、3,5−ジフェニルフェニル、3,5−ビス(3’,5’−ジトリフルオロメチルフェニル)フェニル、3,5−ビス(3’,4’,5’−トリフルオロフェニル)フェニル、3,5−ビス(3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)フェニル、p−ビフェニル、p−メシチルフェニル、およびp−(2−ナフチル)フェニルが挙げられる。また、上記式(III)で表されるボロン酸誘導体のさらに具体的な例としては、3,5−ジメチルフェニルボロン酸、3,4,5−トリフルオロフェニルボロン酸が挙げられる。本発明において式(III)で表されるボロン誘導体は、単独種類が用いられてもよく、複数種類を混合して用いてもよい。
【0096】
この反応工程において、上記式(III)で表されるボロン酸誘導体は、一例として、式(I)で表されるビナフチル化合物1モルに対して、好ましくは2モル〜4モルが使用される。単独種類の当該ボロン酸誘導体をこのような範囲で使用することにより、上記式(I)で表されるビナフチル化合物中の置換基X1およびX2はいずれも、同一の置換基Arに置換され得る。
【0097】
あるいは、他の例として、上記式(III)で表されるボロン酸誘導体を、必要に応じて、式(I)で表されるビナフチル化合物1モルに対して、好ましくは2モル未満の量で使用することもできる。この場合は、上記式(I)で表されるビナフチル化合物中の基X1およびX2の少なくともいずれか一方のみを、基Arに置換することができる。次いで、先と構造の異なるボロン酸誘導体を再度、同様に反応させることにより、上記式(I)で表されるビナフチル化合物のうち、未反応のまま残存する基X1またはX2が新たなArによって置換される。これにより、互いに異なるArによって置換された化合物をも生成することができる。
【0098】
本発明の第一の方法において、上記式(I)で表されるビナフチル化合物と、式(III)で表されるボロン酸誘導体との反応は、好ましくは適切な溶媒中、塩基およびパラジウム触媒の存在下にて行われる。
【0099】
上記溶媒の例としては、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタンおよびジエトキシメタンが挙げられる。
【0100】
上記塩基の例としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、燐酸ナトリウム、リン酸カリウムおよび水酸化バリウムが挙げられる。このような塩基は、式(I)で表されるビナフチル化合物1モルに対して、好ましくは2モル〜5モルが使用される。
【0101】
上記パラジウム触媒は、例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム単独(好ましくは、式(I)で表されるビナフチル化合物1モルに対して、0.005モル〜0.2モル)が使用されるか、あるいは酢酸パラジウム(好ましくは、式(I)で表されるビナフチル化合物1モルに対して、0.005モル〜0.2モル)とトリフェニルホスフィン(好ましくは、式(I)で表されるビナフチル化合物1モルに対して、0.02モル〜1モル)との混合物を上記反応系内に仕込んで使用される。
【0102】
上記式(I)で表されるビナフチル化合物と、式(III)で表されるボロン酸誘導体との反応における他の反応条件は、当業者に任意に設定され得る。この反応は好ましくは還流下にて行われ、反応時間は好ましくは0.5時間〜40時間である。
【0103】
上記のようにして、式(I)で表されるビナフチル化合物と、式(III)で表されるボロン酸誘導体とが反応し、以下の式(IV):
【0104】
【化29】
【0105】
(ここで、Ar1およびAr2はそれぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基か、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基か、ハロゲン原子か、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素か、で置換されていてもよい、アリール基;もしくはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基か、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基か、ハロゲン原子か、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素か、で置換されていてもよい、ヘテロアリール基;であり、そしてR1およびR2はそれぞれ独立して、C1〜C4の分岐していてもよいアルキル基である)で表される、
アルコキシカルボニル基を有する化合物を得ることができる。
【0106】
本発明の第一の方法においては、次いで、上記アルコキシカルボニル基を有する化合物のアルコキシカルボニル基がハロゲノメチル基に置換される。
【0107】
この工程は、通常、上記式(IV)で表されるアルコキシカルボニル基を有する化合物内のアルコキシカルボニル基を一旦ヒロドキシメチル基に置換し、その後、置換されたヒロドキシメチル基をハロゲノメチル基にさらに置換することにより達成される。
【0108】
この式(IV)の化合物におけるアルコキシカルボニル基からヒロドキシメチル基への置換は、還元剤の存在下、適切な溶媒中にて行われることが好ましい。
【0109】
使用され得る還元剤は、エステルをアルコールに還元可能な金属ヒドリド化合物であれば、当業者に任意に選択され得る。使用され得る還元剤の例としては、水素化ジイソブチルアルミニウム、ボラン、ナトリウム水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウム、水素化リチウムアルミニウム、および水素化ホウ素ナトリウムが挙げられる。還元剤は、式(IV)で表される化合物1モルに対して、好ましくは1モル〜8モルが使用される。
【0110】
使用され得る溶媒は、使用する上記還元剤の種類に応じて当業者に任意に選択される。還元剤として水素化ジイソブチルアルミニウムを使用する場合の溶媒の例には、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、およびこれらの組合せが挙げられる。還元剤としてナトリウム水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムを使用する場合の溶媒の例には、トルエンおよびテトラヒドロフランが挙げられる。還元剤として水素化リチウムアルミニウムを使用する場合の溶媒の例には、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルおよびジオキサンが挙げられる。還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを使用する場合の溶媒の例には、低級アルコール(例えば、メチルアルコール、エチルアルコールおよびイソプロピルアルコール)および水、ならびにこれらの組合せが挙げられる。
【0111】
式(IV)の化合物におけるアルコキシカルボニル基からヒロドキシメチル基への置換はまた、好ましくは室温または冷却下にて、撹拌混合することにより行われる。
【0112】
上記のようにして、式(IV)で表される化合物のアルコキシカルボニル基がヒドロキシメチル基に置換され、以下の式(V):
【0113】
【化30】
【0114】
(ここで、Ar1およびAr2はそれぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基か、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基か、ハロゲン原子か、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素か、で置換されていてもよい、アリール基;もしくはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基か、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基か、ハロゲン原子か、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素か、で置換されていてもよい、ヘテロアリール基である)で表される化合物を得ることができる。
【0115】
この式(V)の化合物におけるヒロドキシメチル基からハロゲノメチル基への置換は、適切な溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテルおよびジイソプロピルエーテル)中、式(V)で表される化合物をハロゲン化剤と反応させることにより達成される。
【0116】
使用され得るハロゲン化剤の例としては、塩化水素、塩化チオニル、三塩化リン、五塩化リンまたはオキシ塩化リンのような塩素化剤;および臭化水素、三臭化リン、五臭化リンまたはオキシ臭化リンのような臭素化剤;が挙げられる。ハロゲン化剤は、式(V)で表される化合物1モルに対して、好ましくは2モル〜5モルが使用される。
【0117】
上記式(V)の化合物におけるヒロドキシメチル基からハロゲノメチル基への置換にかかる他の条件は、特に限定されず、当業者によって適切に選択され得る。
【0118】
上記のようにして、上記式(IV)で表される、アルコキシカルボニル基を有する化合物のアルコキシカルボニル基がハロゲノメチル基に置換される。
【0119】
さらに、本発明の第一の方法においては、上記より得られる当該ハロゲノメチル基を有する化合物を、S体またはR体の1,2−ジヒドロ−7H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピンと反応させることにより、軸不斉を有するN−スピロ4級アンモニウム塩を得ることができる。この反応工程は当業者に公知であり、例えば、特開平2001−48866号公報に記載されている。
【0120】
具体的には、上記ハロゲノメチル基を有する化合物を、S体またはR体の1,2−ジヒドロ−7H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピンとともに、適切な溶媒中、酸補足剤の存在下にて加温または還流することにより行われる。使用され得る溶媒の例としては、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシドが挙げられる。また、使用され得る酸補足剤の例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ピリジンおよびトリエチルアミンが挙げられる。酸補足剤は、当該ハロゲノメチル基を有する化合物1モルに対して、好ましくは2モル〜4モルが使用される。この反応は、撹拌下にて好ましくは30分〜12時間をかけて行われる。
【0121】
上記のようにして軸不斉を有するN−スピロ4級アンモニウム塩が製造される。本発明の第一の方法では、使用する式(I)で表されるビナフチル化合物(より具体的には、式(I)の化合物を得るために使用される原料としての1,1’−ビナフチル−2,2’−ジカルボン酸)の立体配置を利用して、(S,S体)、(S,R体)、(R,S)体、および(R,R)体の任意の立体配置を有するN−スピロ4級アンモニウム塩を製造することができる。このことにより、当業者は所望するN−スピロ4級アンモニウム塩の立体配置に応じて、任意の立体配置を有する原料を容易に選択することができる。
【0122】
さらに、本発明の第一の方法により、得ることのできるN−スピロ4級アンモニウム塩は、軸不斉に関して純粋な形態を有し、天然または非天然のアミノ酸およびβ−ヒドロキシケトン化合物、ならびにオリゴペプチドおよびβ−ヒドロキシアミンのような有機化合物を立体特異的に合成するための相関移動触媒として有用である。ここで、「軸不斉に関して純粋な形態」とは、軸不斉に基づいて考えられる各種立体異性体のうち、1つの特定の異性体の存在率が他の異性体の存在率よりも大きいことをいう。本発明の第一の方法用いて得られたN−スピロ4級アンモニウム塩における当該1つの特定の異性体の存在率は、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上であり、さらにより好ましくは98%以上である。
【0123】
次に、本発明の、軸不斉を有するN−スピロ4級アンモニウム塩の製造方法を説明するために、上記式(I’)で表されるビナフチル化合物を使用する場合の方法(本発明の第二の方法)について説明する。
【0124】
本発明の第二の方法においては、まず、式(I’):
【0125】
【化31】
【0126】
(ここで、R1およびR2はそれぞれ独立して、C1〜C4の分岐していてもよいアルキル基である)で表されるビナフチル化合物に、式(III’):
【0127】
【化32】
【0128】
(ここで、Arは、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基か、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基か、ハロゲン原子か、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素か、で置換されていてもよい、アリール基;もしくはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基か、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基か、ハロゲン原子か、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素か、で置換されていてもよい、ヘテロアリール基;であり、そしてXは、ヨウ素原子、臭素原子、塩素原子またはトリフルオロメタンスルホニルオキシである)で示される化合物の少なくとも1種を反応させて、アルコキシカルボニル基を有する中間体が合成される。
【0129】
上記式(III’)で表される化合物において、Arのより具体的な例としては、フェニル、トリル、キシリル、ビフェニル、α−ナフチル、β−ナフチル、アントリル、フェナントリル、ピリジル、3,4,5−トリフルオロフェニル、3,5−ジメチルフェニル、3,5−ジ−トリフルオロメチルフェニル、3,5−ジ−t−ブチルフェニル、3,5−ジフェニルフェニル、3,5−ビス(3’,5’−ジトリフルオロメチルフェニル)フェニル、3,5−ビス(3’,4’,5’−トリフルオロフェニル)フェニル、3,5−ビス(3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)フェニル、p−ビフェニル、p−メシチルフェニル、およびp−(2−ナフチル)フェニルが挙げられる。また、上記式(III’)で表される化合物のさらに具体的な例としては、1−ブロモ−3,4,5−トリフルオロベンゼン、1−ブロモ−4−フェニルベンゼン、1−ブロモ−4−メシチルベンゼン、1−ブロモ−4−(2−ナフチル)ベンゼンが挙げられる。本発明において式(III’)で表される化合物は、単独種類が用いられてもよく、複数種類を混合して用いてもよい。
【0130】
この反応工程において、上記式(III’)で表される化合物は、一例として、式(I’)で表されるビナフチル化合物1モルに対して、好ましくは2モル〜5モルが使用される。単独種類の当該ボロン酸誘導体をこのような範囲で使用することにより、上記式(I’)で表されるビナフチル化合物中の2つの置換基−B(OH)2はいずれも、同一の置換基Arに置換され得る。
【0131】
あるいは、他の例として、上記式(III’)で表される化合物を、必要に応じて、式(I’)で表されるビナフチル化合物1モルに対して、好ましくは2モル未満の量で使用することもできる。この場合は、上記式(I’)で表されるビナフチル化合物中の2つの−B(OH)2基の少なくともいずれか一方のみを、基Arに置換することができる。次いで、先とは構造の異なる式(III’)で表される化合物を再度、同様に反応させることにより、上記式(I’)で表されるビナフチル化合物のうち、未反応のまま残存する他方の−B(OH)2基が新たなArによって置換される。これにより、互いに異なるArによって置換された化合物をも生成することができる。
【0132】
本発明の第二の方法において、上記式(I’)で表されるビナフチル化合物と、式(III’)で表される化合物との反応は、好ましくは適切な溶媒中、塩基およびパラジウム触媒の存在下にて行われる。
【0133】
上記溶媒の例としては、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタンおよびジエトキシエタンが挙げられる。
【0134】
上記塩基の例としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、燐酸ナトリウム、リン酸カリウムおよび水酸化バリウムが挙げられる。このような塩基は、式(I’)で表されるビナフチル化合物1モルに対して、好ましくは2モル〜5モルが使用される。
【0135】
上記パラジウム触媒は、例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム単独(好ましくは、式(I)で表されるビナフチル化合物1モルに対して、0.005モル〜0.2モル)が使用されるか、あるいは酢酸パラジウム(好ましくは、式(I)で表されるビナフチル化合物1モルに対して、0.005モル〜0.2モル)とトリフェニルホスフィン(好ましくは、式(I)で表されるビナフチル化合物1モルに対して、0.02モル〜1モル)との混合物を上記反応系内に仕込んで使用される。
【0136】
上記式(I’)で表されるビナフチル化合物と、式(III’)で表される化合物との反応における他の反応条件は、当業者に任意に設定され得る。この反応は好ましくは還流下にて行われ、反応時間は好ましくは0.5時間〜40時間である。
【0137】
上記のようにして、式(I’)で表されるビナフチル化合物と、式(III’)で表される化合物とが反応し、以下の式(IV):
【0138】
【化33】
【0139】
(ここで、Ar1およびAr2はそれぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基か、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基か、ハロゲン原子か、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素か、で置換されていてもよい、アリール基;もしくはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基か、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基か、ハロゲン原子か、あるいはハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1〜C4のアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい芳香族炭化水素か、で置換されていてもよい、ヘテロアリール基;であり、そしてR1およびR2はそれぞれ独立して、C1〜C4の分岐していてもよいアルキル基である)で表される、アルコキシカルボニル基を有する化合物を得ることができる。
【0140】
本発明の第二の方法においては、上記のようにして式(IV)で表される、アルコキシカルボニル基を有する化合物を得た後、これを上記本発明の第一の方法と同様にして、当該化合物中のアルコキシカルボニル基をハロゲノメチル基に置換される。さらに、その後、ハロゲノメチル基に置換された当該化合物を、本発明の第一の方法と同様にして、S体またはR体の1,2−ジヒドロ−7H−ジナフト[2,1−c:1’,2’−e]アゼピンと反応させることにより、軸不斉を有するN−スピロ4級アンモニウム塩を得ることができる。
【0141】
本発明の第二の方法では、使用する式(I’)で表されるビナフチル化合物(より具体的には、式(I’)の化合物を得るために使用される原料としての1,1’−ビナフチル−2,2’−ジカルボン酸)の立体配置を利用して、(S,S体)、(S,R体)、(R,S)体、および(R,R)体の任意の立体配置を有するN−スピロ4級アンモニウム塩を製造することができる。このことにより、当業者は所望するN−スピロ4級アンモニウム塩の立体配置に応じて、任意の立体配置を有する原料を容易に選択することができる。
【0142】
さらに、本発明の第二の方法により、得ることのできるN−スピロ4級アンモニウム塩もまた、軸不斉に関して純粋な形態を有し、天然または非天然のアミノ酸およびβ−ヒドロキシケトン化合物、ならびにオリゴペプチドおよびβ−ヒドロキシアミンのような有機化合物を立体特異的に合成するための相関移動触媒として有用である。本発明の第二の方法を用いて得られたN−スピロ4級アンモニウム塩における当該1つの特定の異性体の存在率は、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上であり、さらにより好ましくは98%以上である。
【0143】
【実施例】
以下、本発明を具体的に記述するために実施例を記載する。しかし、これによって本発明は特に限定されない。
【0144】
<製造例1:(S)−2,2’−ビス(イソプロポキシカルボニル)−1,1’−ビナフチルの合成>
(S)−1,1’−ビナフチル−2,2’−ジカルボン酸([α]25 546=−127.0(c=1.0,1N NaOH)1.71g(5.0mmol)をフラスコに仕込み、アルゴン雰囲気下にて撹拌しながら、塩化チオニル5mLを添加した。混合物を4時間撹拌し、過剰の塩化チオニルを減圧下にて取り除いた。次いで、この混合物に、イソプロピルアルコール5mLおよびピリジン1mLを添加し、1時間加熱還流した。
【0145】
得られた溶液を水洗し、酢酸エチルで抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、そして濃縮して、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液として、酢酸エチル/ヘキサン1:4を使用)にかけ、白色結晶でなる標題化合物を得た(収量2.05g、収率94%)。
【0146】
本製造例にて得られた白色結晶についての分析結果は以下の通りであった。
【0147】
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ8.17(2H,d,J=8.7Hz,Ar−H),8.01(2H,d,J=9.1Hz,Ar−H)7.92(2H,d,J=8.3Hz,Ar−H),7.50(2H,ddd,J=1.2,6.7,7.9Hz,Ar−H),7.24(2H,ddd,J=1.2,6.7,7.9Hz,Ar−H),7.13(2H,d,J=8.7Hz,Ar−H),4.75(2H,sept,J=6.3Hz,OCH),0.76(6H,d,J=6.3Hz,CH3),0.44(6H,d,J=6.3Hz,CH3)ppm。
【0148】
IR(KBr)2980,2361,1697,1458,1371,1317,1281,1109,770cm−1。
【0149】
HRMS(ESI−TOF)C28H26O4Na([M+Na]+)に対する計算値449.1723、実測値449.1723。
【0150】
<実施例1:(S)−3,3’−ジブロモ−2,2’−ビス(イソプロポキシカルボニル)−1,1’−ビナフチルの合成>
テトラヒドロフラン中の削状マグネシウム55.0mg(2.25mmol)に1,2−ジブロモエタンを添加して、臭化マグネシウムの懸濁液を作製した。他方、テトラヒドロフラン2.25mL中に、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン759μL(4.5mmol)と1.6Mのn−ブチルリチウムn−ヘキサン溶液2.8mL(4.5mmol)とを添加してリチウム2,2,6,6−テトラメチルピペラミド溶液を調製した。
【0151】
次いで、上記臭化マグネシウムの懸濁液と、このリチウム2,2,6,6−テトラメチルピペラミド溶液とを合わせ、0℃で2時間撹拌して、マグネシウムビス−2,2,6,6、−テトラメチルピペラミドの透明褐色溶液(0.31M)を得た。
【0152】
得られた溶液に、アルゴン気流中、製造例1で得た(S)−2,2’−ビス(イソプロポキシカルボニル)−1,1’−ビナフチル213mg(0.5mmol)のテトラヒドロフラン2.0mL溶液を0℃で添加し、室温で3時間撹拌した。次いで、この溶液を−78℃まで冷却した後、臭素264μL(5.0mmol)を添加し、室温でさらに1時間撹拌した。
【0153】
上記混合物を、冷却した1規定塩酸に添加し、亜硫酸ナトリウム飽和水溶液で洗浄し、そして酢酸エチルで抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮して、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液として、酢酸エチル/ヘキサン1:20〜1:10を使用)で精製して、白色結晶でなる標題化合物を得た(収量260mg、収率89%)。
【0154】
本実施例にて得られた白色結晶についての分析結果は以下の通りであった。
【0155】
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ8.24(2H,s,Ar−H),7.82(2H,d,J=8.3Hz,Ar−H),7.53(2H,ddd,J=1.2,7.1,8.3Hz,Ar−H),7.34(2H,ddd,J=1.2,7.1,8.3Hz,Ar−H),7.19(2H,d,J=7.9Hz,Ar−H),4.78(2H,sept,J=6.3Hz,OCH),0.78(6H,d,J=6.3Hz,CH3),0.67(6H,d,J=6.3Hz,CH3)ppm。
【0156】
IR(KBr)2982,1726,1582,1443,1373,1279,1163,1142,1103,986,901,837,748cm−1。
【0157】
HRMS(ESI−TOF)C28H24Br2O4Na([M+Na]+)に対する計算値604.9934、実測値604.9932。
【0158】
<実施例2:(S)−2,2’−ビス(イソプロポキシカルボニル)−3,3’−ビス(3,5−ジメチルフェニル)−1,1’−ビナフチルの合成>
実施例1で得られた化合物((S)−3,3’−ジブロモ−2,2’−ビス(イソプロポキシカルボニル)−1,1’−ビナフチル)635mg(1.0mmol)、3,5−ジメチルフェニルボロン酸330mg(2.2mmol)、酢酸パラジウム1.16mg(0.05mmol)、トリフェニルホスフィン5.35mg(0.2mmol)、炭酸水素ナトリウム255mg(3.0mmol)を、9.0mLのDMEと水1.0mLとでなる混合溶媒中で、アルゴン気流中、20時間還流した。
【0159】
次いで、反応混合物を室温まで冷却し、塩化アンモニウム飽和水溶液に注いで、酢酸エチルで抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮して、残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液として、酢酸エチル/ヘキサン1:20〜1:10を使用)で精製して、白色結晶でなる標題化合物を得た(収量597mg、収率94%)。
【0160】
本実施例にて得られた白色結晶についての分析結果は以下の通りであった。
【0161】
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ7.94(2H,s,Ar−H),7.90(2H,d,J=7.9Hz,Ar−H),7.52−7.48(2H,m,Ar−H),7.34−7.29(4H,m,Ar−H),7.16(4H,s,Ar−H),6.99(2H,s,Ar−H),4.50(2H,sept,J=6.3Hz,OCH),2.34(12H,s,Ar−CH3),0.57(6H,d,J=6.3Hz,OC−CH3),0.55(6H,d,J=6.3Hz,OC−CH3)ppm。
【0162】
IR(KBr)3039,2978,1722,1603,1452,1373,1277,1252,1105,851,752cm−1。
【0163】
HRMS(ESI−TOF)C44H42O4Na([M+Na]+)に対する計算値657.2975、実測値657.3003。
【0164】
<実施例3:(S)−2,2’−ビス(ジブロモメチル)−3,3’−ビス(3,5−ジメチルフェニル)−1,1’−ビナフチルの合成>
水素化リチウムアルミニウム142mg(3.0mmol)をテトラヒドロフラン3.0mlに添加し、さらに実施例2で得られた化合物((S)−2,2’−ビス(イソプロポキシカルボニル)−3,3’−ビス(3,5−ジメチルフェニル)−1,1’−ビナフチル)635mg(1.0mmol)を、0℃で分割添加し、混合物を室温で4時間撹拌した。次いで、この混合物に、ジエチルエーテル3mlを添加し、水142μL、15%NaOH142μL、水284μLをこの順に添加して、反応を停止させた。さらに、反応混合物を、室温で1時間撹拌した後、濾過し、濾液を濃縮して、粗生成物を得た。
【0165】
得られた粗生成物の一部を採取して、テトラヒドロフラン/ヘキサンで再結晶し、得られた結晶の物性測定を行った。得られた結晶についての分析結果は以下の通りであった。
【0166】
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ7.92(2H,s,Ar−H),7.91(2H,d,J=7.5Hz,Ar−H),7.49−7.45(2H,m,Ar−H),7.30(4H,s,Ar−H),7.27−7.23(2H,m,Ar−H),7.07(2H,s,Ar−H),7.04(2H,d,J=8.7Hz,Ar−H),4.45(2H,d,J=11.7Hz,Ar−CH2),4.13(2H,d,J=11.7Hz,Ar−CH2),2.41(12H,s,CH3)ppm。
【0167】
IR(KBr)3259,3058,2948,1602,1456,1209,1026,891,851,754,710cm−1。
【0168】
MS:m/z522(M+),504,487,460。
【0169】
HRMS(FAB)C38H34O2(M+)に対する計算値522.2559、実測値522.2545。
【0170】
これらの結果より、上記にて得られた粗生成物は、(S)−3,3’−ビス(3,5−ジメチルフェニル)−2,2’−ビス(ヒドロキシメチル)−1,1’−ビナフチルであると同定された。
【0171】
次いで、上記にて得られた粗生成物((S)−3,3’−ビス(3,5−ジメチルフェニル)−2,2’−ビス(ヒドロキシメチル)−1,1’−ビナフチル)523mg(1.0mmol)を精製することなく、テトラヒドロフラン3mlに溶解させ、これに、0℃にて三臭化リン52.8μL(0.5mmol)を滴下した。混合物を、室温で1時間撹拌した後、水に注ぎ、酢酸エチルで抽出し、抽出液を合わせ、硫酸ナトリウムで乾燥した。揮発物を取り除いた後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液として、酢酸エチル/ヘキサン1:10を使用)にかけて精製し、白色の標題化合物を得た(収量590mg(0.91mmol)、収率91%(二工程の合算))。
【0172】
上記にて得られた白色化合物についての分析結果は以下の通りであった。
【0173】
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ7.90(2H,d,J=7.5Hz,Ar−H),7.89(2H,s,Ar−H),7.50(2H,m,Ar−H),7.28(2H,m,Ar−H),7.24(4H,s,Ar−H),7.15(2H,d,J=7.5Hz,Ar−H),7.08(2H,s,Ar−H),4.30(2H,d,J=10.1Hz,Ar−CH2),4.27(2H,d,J=10.1Hz,Ar−CH2),2.41(12H,s,CH3)ppm。
【0174】
IR(KBr)2962,2361,1603,1437,1217,1024,893,853,750,704cm−1。
【0175】
MS:m/z646(M+),567,487,460。
【0176】
HRMS(FAB)C38H34Br2(M+)に対する計算値646.0871、実測値646.0850。
【0177】
<実施例4:軸不斉を有するN−スピロ4級アンモニウム塩の合成>
【0178】
【化34】
【0179】
実施例3で得られた(S)−2,2’−ビス(ジブロモメチル)−3,3’−ビス(3,5−ジメチルフェニル)−1,1’−ビナフチル(化合物1)324mg、(S)−1,2−ジヒドロ−7H−ジナフト[2,1−c,1’,2’−e]アゼピン(化合物2)147mg(0.5mmol)および炭酸カリウム139mg(1.0mmol)を、アセトニトリル3.0mL中で、6時間加熱還流した。反応混合物を水に注ぎ、ジクロロメタンで抽出した。抽出液を硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮して、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液として、メタノール/ジクロロメタン1:10を使用)にかけ、白色の化合物3を得た(収量414mg(0.48mmol)、収率96%)。
【0180】
本実施例にて得られた白色化合物についての分析結果は以下の通りであった。
【0181】
1H−NMR(400MHz,CD2Cl2)δ8.36(2H,s,Ar−H),8.15(2H,d,J=8.3Hz,Ar−H),7.93(2H,d,J=7.9Hz,Ar−H),7.70−7.22(4H,br,3,5−ジ−Me−Ph−H),7.70−7.66(2H,m,Ar−H),7.57−7.53(2H,m,Ar−H),7.45(2H,s,3,5−ジ−Me−Ph−H)7.42(2H,d,J=8.3Hz,Ar−H),7.38−7.34(2H,m,Ar−H),7.26−7.22(2H,m,Ar−H),7.15(4H,d,J=7.9Hz,Ar−H),6.37(2H,d,J=7.9Hz,Ar−CH),4.99(2H,d,J=13.9Hz,Ar−CH2),4.06(2H,d,J=13.9Hz,Ar−CH2),3.98(2H,d,J=12.9Hz,Ar−CH2),3.63(2H,d,J=12.9Hz,Ar−CH2),2.88−1.18(12H,br,CH3)ppm。
【0182】
IR(KBr)3398,3335,1614,1599,1456,1398,853,752,714cm−1。
【0183】
HRMS(ESI−TOF)C60H48N(M+)に対する計算値782.3781、実測値782.3778。
【0184】
<実施例5:(S)−2,2’−ビス(イソプロポキシカルボニル)−3,3’−ビス(3,4,5−トリフルオロフェニル)−1,1’−ビナフチルの合成>
実施例2において使用した3,5−ジメチルフェニルボロン酸の代わりに3,4,5−トリフルオロフェニルボロン酸を使用したこと以外は、実施例2と同様にして標題化合物を得た。
【0185】
本実施例で得られた化合物についての分析結果は以下の通りであった。
【0186】
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ7.93(2H,d,J=8.7Hz,Ar−H),7.92(2H,s,Ar−H),7.57(2H,ddd,J=1.2,6.7,7.9Hz,Ar−H),7.38(2H,ddd,J=1.2,6.7,7.9Hz,Ar−H)、7.28(2H,d,J=8.3Hz,Ar−H),7.16−7.13(4H,m,C6H2F3),4.55(2H,sept,J=6.3Hz,OCH),0.61(6H,d,J=6.3Hz,CH3),0.54(6H,d,J=6.3Hz,CH3)ppm。
【0187】
IR(KBr)2980,1722,1616,1531,1448,1373,1531,1273,1096,1054,752cm−1。
【0188】
HRMS(ESI−TOF)C40H28F6O4Na([M+Na]+)に対する計算値709.1784、実測値709.1780。
【0189】
<実施例6:(S)−2,2’−ビス(ヒドロキシメチル)−3,3’−ビス(3,4,5−トリフルオロフェニル)−1,1’−ビナフチルの合成>
実施例3において使用した(S)−2,2’−ビス(イソプロポキシカルボニル)−3,3’−ビス(3,5−ジメチルフェニル)−1,1’−ビナフチルの代わりに、(S)−2,2’−ビス(イソプロポキシカルボニル)−3,3’−ビス(3,4,5−トリフルオロフェニル)−1,1’−ビナフチルを使用したこと以外は、実施例3と同様にして標題化合物を得た。
【0190】
本実施例で得られた化合物についての分析結果は以下の通りであった。
【0191】
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ7.94(2H,d,J=8.7Hz,Ar−H),7.93(2H,s,Ar−H),7.54−7.51(2H,m,Ar−H),7.45−7.42(4H,m,C6H2F3),7.31−7.27(2H,m,Ar−H),6,97(2H,d,J=8.3Hz,Ar−H),4.32(2H,d,J=11.1Hz,Ar−CH2),4.15(2H,d,J=11.1Hz,Ar−CH2),1.59(2H,br,OH)ppm。
【0192】
IR(KBr)3288,3057,2957,1616,1528,1437,1367,1242,1045,899,862,750cm−1。
【0193】
HRMS(ESI−TOF)C34H20F6O2Na([M+Na]+)に対する計算値597.1260、実測値597.1254。
【0194】
【発明の効果】
本発明によれば、有用な軸不斉を有するN−スピロ4級アンモニウム塩を短縮された工程で、より高純度かつ高収率で製造することができる。さらに本発明によれば、適切な立体配置を有する原料を使用することにより、製造される当該N−スピロ4級アンモニウム塩の立体配置を、(S,S体)、(S,R体)、(R,S)体、および(R,R)体のうちから任意に設計することができる。本発明により製造される、軸不斉を有するN−スピロ4級アンモニウム塩は、天然または非天然のアミノ酸およびβ−ヒドロキシケトン化合物、ならびにオリゴペプチドおよびβ−ヒドロキシアミンのような有機化合物を立体特異的に合成する際の相関移動触媒として有用である。
Claims (10)
- 以下の式(IV’)で表されるアルコキシカルボニル基を有する化合物:
R 1 およびR 2 はそれぞれ独立して、C 1 〜C 4 の分岐していてもよいアルキル基である、
の製造方法であって、
式(I):
- 以下の式(IV’)で表されるアルコキシカルボニル基を有する化合物:
R 1 およびR 2 はそれぞれ独立して、C 1 〜C 4 の分岐していてもよいアルキル基である、
の製造方法であって、式(I’):
を包含する、方法。 - Ar1およびAr2が同一の基である、請求項5に記載の化合物。
- Ar1およびAr2が同一の基である、請求項8に記載の化合物。
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