JP4405650B2 - 炭素質ナノチューブ、繊維集合体及び炭素質ナノチューブの製造方法 - Google Patents

炭素質ナノチューブ、繊維集合体及び炭素質ナノチューブの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、炭素質ナノチューブ、繊維集合体及び炭素質ナノチューブの製造方法に関し、更に詳しくは、優れた導電性、及び、樹脂に対する優れた濡れ性を有する炭素質ナノチューブ、繊維集合体及び炭素質ナノチューブの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術と発明が解決しようとする課題】
従来から、例えば、有機金属化合物及び無機金属化合物からなる群より選択される少なくとも一種と、有機化合物と、キャリアガスとを、1000℃近傍に加熱された反応領域に送入して、気相成長炭素繊維を製造する方法等が流動気相法として知られている。
【0003】
この流動気相法は、例えば、極めて小粒径の金属粒子を気相中に発生させて、この気相中に浮遊する金属粒子上で有機化合物を分解させることにより、前記金属粒子上に炭素を析出させることができ、析出した炭素が一方向に成長することによって気相成長炭素繊維を得ることができる。
【0004】
前記流動気相法によれば、例えば、その外周直径が0.05μm〜10μmであり、その長さが0.2μm〜2000μmである一定のアスペクト比を有する気相成長炭素繊維を、工業的に容易に製造することができる(M.Hatano,T.Ohsaki,K.Arakawa ;30th National SAMPE Symposium preprint 1467(1985)、特公昭62−49363号公報等)。
【0005】
前記流動気相法によれば、その直径が0.05〜2μmである高結晶化炭素繊維(特公平3−61768号公報)、その直径が0.01〜0.5μmである高結晶化炭素繊維(特公平5−36521号公報)、その直径が3.5〜70nmの気相成長炭素繊維(特公平3−64606号公報、特公平3−77288号公報)等を製造することができる。
【0006】
従来から、黒鉛電極間のアーク放電によって黒鉛質ナノチューブを製造する方法がある。
【0007】
この方法によると、その内周面から外周面に向かって黒鉛層が複数層積層してなり、その外周直径が10ナノメートル以下であり、その内周直径が数ナノメートルであり、しかも水素原子を含まない黒鉛質ナノチューブを得ることができる。
【0008】
しかしながら、この方法においては、例えば、(イ)真空又は減圧下で反応を行わなければならないこと、及び電極間のアーク放電により消耗する黒鉛の供給が困難であること等の製造方法が煩雑であるという問題、(ロ)製造された黒鉛質ナノチューブが水素を含まない黒鉛質で形成されてなること、製造された黒鉛質ナノチューブにフラーレン構造活性点が少ないこと等により、黒鉛質ナノチューブの化学反応性が乏しいという問題、(ハ)黒鉛質ナノチューブと樹脂とを複合して得られる複合材料において、黒鉛質ナノチューブの樹脂に対する濡れ性が乏しいことから、前記複合材料の機械的強度を向上させることができないという問題等があった。
【0009】
前記高結晶化炭素繊維(特公平5−36521号公報)等においても、例えば、高結晶化炭素繊維が、結晶性の高い黒鉛質であるので化学反応性に乏しいという問題、高結晶化炭素繊維と樹脂とを複合して得られる複合材料において、高結晶化炭素繊維の樹脂に対する濡れ性が乏しいことから、前記複合材料の機械的強度を向上させることができないという問題等があった。
【0010】
前記高結晶化炭素繊維(特公平5−36521号公報)、その直径が3.5〜70nmの気相成長炭素繊維(特公平3−64606号公報、特公平3−77288号公報)等の炭素繊維は、例えば、炭素繊維に熱処理を施して黒鉛化炭素繊維とすることにより、炭素繊維を更に完全な黒鉛結晶に近づけ、その表面をより化学的に安定化させていた。
【0011】
前記黒鉛化炭素繊維においては、例えば、黒鉛構造が高度に発達しているので、導電性は極めて高いが、その反面、繊維表面が化学的に安定なので化学反応性に乏しく、例えば、前記炭素繊維と接着剤とを混合して導電性塗料を得、この導電性塗料を被塗装物に塗布した場合に、炭素繊維と接着剤との親和性が低いこと、炭素繊維と被塗装物との親和性が低いこと等によって、塗布膜が剥がれる等の不都合を生じることがあった。
【0012】
本発明は、従来からの諸問題を解消することを目的とする。
本発明の目的は、優れた導電性、及び、樹脂に対する優れた濡れ性を有する炭素質ナノチューブ、繊維集合体及び炭素質ナノチューブの製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するための第1の手段は、大きくともその内径が5nmである中空部と大きくとも10nm、好ましくは、大きくとも5nmである肉厚部(外周面から内周面までの厚みを有する部分)とを有し、水素原子及び炭素原子を含有する炭素質で形成されてなることを特徴とする炭素質ナノチューブであり、
前記課題を解決するための第2の手段は、前記第1の手段において更に遷移金属原子を含有してなる炭素質ナノチューブであり、
前記課題を解決するための第3の手段は、前記請求項1に記載された炭素質ナノチューブが全体に対して少なくとも70重量%の割合で含有され、全体に対する水素原子の含有割合が0.1〜1重量%であり、全体に対する炭素原子の含有割合が少なくとも98.5重量%であり、全体に対する遷移金属原子の含有割合が0.005〜1重量%であることを特徴とする繊維集合体であり、
前記課題を解決するための第4の手段は、遷移金属原子を含有する遷移金属化合物と、硫黄原子を含有する硫黄化合物と、炭化水素を含有する有機化合物と、キャリヤガスとを混合して得られる原料混合物を、
前記原料混合物中における前記遷移金属原子の濃度が0.025〜0.5モル%の範囲内、及び
前記原料混合物中における前記炭化水素の濃度が{273/(T−1000)}4〜10{273/(T−1000)}(ただし、Tは反応領域の絶対温度(K)を示す。)モル%の範囲内になるように、
反応管内における900〜1,300℃の温度に維持された反応領域に供給することを特徴とする炭素質ナノチューブの製造方法である。
【0014】
【発明の実施の形態】
<炭素質ナノチューブ>
本発明の炭素質ナノチューブは、大きくともその内径が5nmである中空部と大きくとも10nmである肉厚部、好ましくは大きくとも5nmである肉厚部とを有し、水素原子及び炭素原子を含有する炭素質で形成されてなる。
【0015】
前記中空部における内径の値、及び前記肉厚部における厚さの値は、例えば、任意に100本のサンプルを透過型顕微鏡で観察し、その内径及びその厚さを計測して平均値を算出することにより、求めることができる。
【0016】
前記炭素質ナノチューブは、例えば、その平均外周直径が3〜12nm、その平均内周直径が2〜5nmであるのが好ましい。
【0017】
肉厚部が最大の10nmの時は、平均内周直径が2〜5nmであり、平気外周直径は22nm〜25nmになる。肉厚が厚くなると,機械的性質・電気的性質等で悪化するので,この程度の肉厚が上限となる。
【0018】
本発明の炭素質ナノチューブを透過型顕微鏡で観察すると、この炭素質ナノチューブを形成する炭素質が、不完全な黒鉛層であり、部分的な乱層構造を有することを確認することができる。
【0019】
また、この炭素質ナノチューブを元素分析することにより、この炭素質ナノチューブを形成する炭素質が水素原子及び炭素原子を含有することを確認することができる。
【0020】
本発明においては、この炭素質ナノチューブを形成する炭素質が乱層構造を有し、かつ水素原子を含有することにより、この乱層構造部分が活性点として作用し、炭素質における化学反応性を増大させることができ、例えば、この炭素質ナノチューブと樹脂との複合材料において、炭素質ナノチューブの樹脂に対する濡れ性を大幅に向上させることができる。
【0021】
本発明においては、従来の炭素繊維が黒鉛質であることに由来する化学的安定性の問題、言い換えると、従来の炭素繊維における活性の無さの問題等を解決することができる。換言すると、本発明における炭素質ナノチューブは水素原子を有するから、黒鉛の六角網面構造に乱れを生じ、この六角網面構造の乱れが乱層構造部分を生じて化学的活性点を生じている。しかも、乱層構造を有するにも関わらず、その機械的構造の低下が少ない。
【0022】
本発明に係る炭素質ナノチューブは更に遷移金属原子を含有することができる。この遷移金属原子は、チューブ先端に粒子状で含まれている場合が主であるが、チューブを形成する炭素層内に原子状又はクラスター状となって含まれることもある。この遷移金属原子は炭素質内に含まれる水素原子と同様に化学的活性を有する。また、炭素質チューブを形成した後に、チューブを切断処理すると、得られる炭素質チューブは、チューブ先端に遷移金属粒子を持つものと持たないものとの混合物である。
【0023】
本発明の炭素質ナノチューブを形成する炭素質においては、通常、その水素原子の含有割合が0.1〜1重量%、炭素原子の含有割合が少なくとも98.5重量%、遷移金属原子の含有割合が0.005〜1重量%であり、好ましくは、その水素原子の含有割合が0.15〜0.7重量%、炭素原子の含有割合が少なくとも99重量%、遷移金属原子の含有割合が0.01〜0.7重量%であり、更に好ましくは、その水素原子の含有割合が0.2〜0.5重量%、炭素原子の含有割合率が少なくとも99重量%、遷移金属原子の含有割合が0.02〜0.5重量%である。
【0024】
本発明の炭素質ナノチューブを形成する炭素質においては、その水素原子の含有割合が0.1〜1重量%であると、例えば、この炭素質ナノチューブと樹脂との複合材料において、炭素質ナノチューブの樹脂に対する濡れ性をより効果的に向上させることができる。この濡れ性の向上は、水素原子の存在に由来する炭素質ナノチューブの表面における化学的活性点の増大に基づくものと考えられる。
【0025】
前記水素原子の含有割合、炭素原子の含有割合、及び遷移金属原子の含有割合は、従来公知の元素分析方法により測定することができる。
【0026】
本発明に係る炭素質ナノチューブは、これに2000℃以上、好ましくは2500〜3000℃に加熱する熱処理をすると、黒鉛質ナノチューブになる。
<炭素質ナノチューブの製造方法>
本発明に係る炭素質ナノチューブは、本発明に係る炭素質ナノチューブの特性を有するように製造することができる限りその製造方法に限定はない。
【0027】
水素原子と遷移金属原子と炭素原子とを含有し、大きくともその内径が5nmである中空部と大きくとも2nmである肉厚部とを有する炭素質ナノチューブを製造するには、本発明の製造方法が好適であり、さらにこの方法の中でも炭化水素として炭素数3以上の炭化水素を使用する方法が特に好適である。
【0028】
本発明に係る炭素質ナノチューブの製造方法では、遷移金属原子を含有する遷移金属化合物と、硫黄原子を含有する硫黄化合物と、炭素数3以上の炭化水素を含有する有機化合物と、キャリヤガスとを混合して得られる原料混合物を、反応管内における900〜1,300℃の温度に維持された反応領域に供給する。
−遷移金属化合物−
本発明における遷移金属化合物は、遷移金属原子を含有し、反応管内で分解することにより、触媒としての遷移金属粒子を発生することができる。
【0029】
前記遷移金属化合物における分解温度は、通常50〜900℃であり、好ましくは70〜800℃、より好ましくは100〜700℃である。
【0030】
前記遷移金属化合物は、反応管内における900〜1,300℃の温度に維持された反応領域に、気体の状態で供給されるのが好ましい。ただし、同一反応容器で前記反応領域より少し上流側で前記温度より低めの温度、例えば400〜900℃の帯域に前記遷移金属化合物が供給された場合でも、実質的に同様の結果を得ることができる。前記遷移金属化合物は、所定の反応温度にまで昇温される前に完全に気化することができるものが好適である。
【0031】
前記遷移金属原子としては、例えば、周期律表第VIII族に属する金属を挙げることができ、好適な遷移金属原子としては、鉄、ニッケル、コバルト等を挙げることができる。これらの他に遷移金属原子の具体例としては、例えば、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン等を挙げることができる。これらの中でも好ましいのは鉄、コバルト、ニッケル等の第VIII族金属である。
【0032】
前記遷移金属化合物としては、例えば、有機遷移金属化合物、無機遷移金属化合物等を挙げることができる。
【0033】
前記有機遷移金属化合物としては、例えば、フェロセン、ニッケロセン、コバルトセン、鉄カルボニル、アセチルアセトナート鉄、オレイン酸鉄等を挙げることができ、前記無機遷移金属化合物としては、例えば、塩化鉄等を挙げることができる。これらの中でも好ましいのは、周期律表第VIII族に属する金属のメタロセンであり、特にフェロセン及びニッケロセンが好ましい。
−硫黄化合物−
本発明における硫黄化合物は、硫黄原子を含有し、触媒としての遷移金属と相互作用して、炭素質ナノチューブの生成を促進することができる。
【0034】
前記硫黄化合物としては、例えば、有機硫黄化合物、無機硫黄化合物等を挙げることができる。
【0035】
前記有機硫黄化合物としては、例えば、チアナフテン、ベンゾチオフェン、チオフェン等の含硫黄複素環式化合物等を挙げることができ、前記無機硫黄化合物としては、例えば、硫化水素等を挙げることができる。
−有機化合物−
本発明における有機化合物は、炭素質ナノチューブを形成する炭素質における炭素源として採用されることができ、炭化水素を含有するのが好ましく、炭化水素を含有するのがより好ましい。
【0036】
前記有機化合物として具体的には、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、アントラセン等の芳香族炭化水素、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ヘプタン、ヘキサン、エチレン、プロピレン、アセチレン等の脂肪族炭化水素、ガソリン、軽油、灯油、重油、アントラセン油、クレオソート油、天然ガス等の混合物、アルコール、フラン等の含酸素有機物、アミン、ピリジン等の含窒素有機物等を挙げることができる。前記有機化合物中に遊離炭素が含まれている場合には、予め遊離炭素を除去するのが好ましい。
【0037】
前記有機化合物が室温例えば20℃で液状である場合は、取り扱い性の観点から好適である。また、前記有機化合物が室温で固体状や粘性液状である場合は、この有機化合物を、例えばトルエン、ヘキサン等の低粘性溶媒に溶かして使用することができる。前記有機化合物として、前記含酸素有機物、前記含窒素有機物等を採用する場合には、炭化水素と併用するのが好ましい。
【0038】
−キャリヤガス−
本発明におけるキャリアガスとしては、例えば、水素等を好適に採用することができる。前記キャリヤガスには、水素以外に、例えば、炭素質ナノチューブの生成反応に影響を与えない非反応性ガス、炭素質ナノチューブの生成反応を促進することができる反応促進ガス、炭素質ナノチューブの生成反応を阻害することができる反応阻害ガス等を添加することができる。
【0039】
前記非反応性ガスとしては、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガス、窒素等を挙げることができ、前記反応促進ガスとしては、例えば、一酸化炭素、二酸化炭素、メタン等を挙げることができ、前記反応阻害ガスとしては、例えば、酸素、空気等を挙げることができる。
【0040】
前記非反応性ガス及び前記反応促進ガスからなる群より選択される少なくとも一種のガスは、例えば、キャリアガス中に50体積%以下添加することができ、好ましくは5〜40体積%、更に好ましくは10〜30体積%の範囲で添加することができる。
【0041】
前記反応阻害ガスは、例えば、キャリアガス中に30体積%以下添加することができ、好ましくは20体積%以下、更に好ましくは1〜10体積%の範囲で添加することができる。
【0042】
−原料混合物−
本発明における原料混合物は、前記遷移金属化合物と、前記硫黄化合物と、前記有機化合物と、前記キャリヤガスとを混合して得ることができる。
【0043】
前記原料混合物においては、原料混合物中における前記遷移金属原子の濃度が、0.025〜0.5モル%の範囲内になるように、原料混合物中に前記遷移金属化合物を配合し、原料混合物中における前記炭化水素の濃度が{273/(T−1000)}4〜10{273/(T−1000)}(ただし、Tは反応領域の絶対温度(K)を示す。)モル%の範囲内になるように、原料混合物中に前記有機化合物を配合することができる。
【0044】
本発明においては、前記原料混合物中における前記遷移金属原子の濃度を0.025〜0.5モル%の範囲内に調整することにより、炭素質繊維の軸線方向に沿って特定の内径を有する中空部が形成された炭素質ナノチューブを効果的に製造することができる。
【0045】
前記遷移金属原子の濃度が0.5モル%を上回る場合には、得られる炭素質ナノチューブの収率が下がることがあり、前記遷移金属原子の濃度が0.025モル%を下回ると炭素質ナノチューブが生成しないことがある。
【0046】
この炭素質ナノチューブに形成された中空部の内径、言い換えると炭素質ナノチューブにおける内周直径は、前記遷移金属化合物の分解により反応管内において発生する遷移金属粒子の粒子径と関連し、前記遷移金属粒子の粒子径が大きい程、前記中空部の内径、即ち炭素質ナノチューブにおける内周直径が大きくなる傾向があると考えられる。
【0047】
生成した炭素質ナノチューブの先端に含まれる遷移金属粒子を観察した結果から判断すると、反応管内で発生する前記遷移金属粒子の粒子径が1.5〜6nm、好ましくは2〜5nmであると、例えばその平均外周直径が3〜12nm、その平均内周直径が2〜5nmである炭素質ナノチューブを効果的に製造することができると言える。したがって、前記遷移金属原子の濃度と下記炭化水素濃度と温度とを適切に選択すると、適度な粒子径を有する遷移金属を生成させ、これにより、本発明の炭素質チューブを得ることができる。
【0048】
本発明においては、前記原料混合物中における前記炭化水素の濃度が{273/(T−1000)}4〜10{273/(T−1000)}(ただし、Tは反応領域の絶対温度(K)を示す。)モル%の範囲内になるように、前記原料混合物中に前記有機化合物を配合することができる。
【0049】
前記原料混合物中における前記炭化水素の濃度は、例えば、前記遷移金属原子に対する炭素比率と、前記原料混合物中の有機物濃度と、反応領域の温度との関係で決定することができる。
【0050】
例えば、水素雰囲気下における炭化水素の熱分解温度が一般に知られている窒素等の不活性ガス雰囲気下における炭化水素の熱分解温度より高くなること、トルエン等においては水素雰囲気下の高温で簡単にメチル基が外れることがあるが、それ以上の分解には到らないこと等を考慮して、前記原料混合物中における前記炭化水素の濃度を決定することができる。
【0051】
前記原料混合物中における前記炭化水素の濃度は、反応温度が1,000〜1,200℃の範囲内である場合には特に、{273/(T−1000)}3〜10{273/(T−1000)}2(ただし、Tは反応領域の絶対温度(K)を示す。)モル%の範囲内になるように、前記原料混合物中に前記有機化合物を配合するのが好ましい。
【0052】
前記原料混合物中における前記炭化水素の濃度が、10{273/(T−1000)}モル%を上回ると、炭素質ナノチューブにおける内周面から外周面までの距離、言い換えると炭素質ナノチューブにおける肉厚部の厚さが不必要に厚くなったり、炭素質ナノチューブを形成する炭素質中の水素原子含有割合が1%を越えることがある。前記炭素質中の水素原子含有割合が1%を越えると、炭素質ナノチューブの電気伝導性を低下させるという不都合を生じることがある。
【0053】
前記原料混合物中における前記炭化水素の濃度が、{273/(T−1000)}4を下回ると、炭素質ナノチューブが生成しなくなったり、生産性が低下することがある。
【0054】
本発明においては、前記原料混合物中の硫黄原子の濃度が、前記遷移金属原子の濃度に対して1/4〜5倍、特に1/2〜3倍の範囲内であるのが好ましく、前記原料混合物中における前記硫黄原子の濃度が、0.00625〜2.5モル%の範囲内、好ましくは0.0125〜1.5モル%の範囲内になるように、前記原料混合物中に前記硫黄化合物を配合することができる。
【0055】
前記原料混合物中における前記硫黄原子の濃度が、0.00625〜2.5モル%の範囲内であると、前記遷移金属粒子が前記有機化合物を分解して、炭素を一方向に析出させる核としての活性を良好に保つことができ、曲がりくねりの少ないチューブ状の炭素質ナノチューブを効率良く容易に製造することができる。曲がりくねりは結晶成長が異常であったことの結果であり、曲がりくねりが少ないことは炭素質ナノチューブ本来の特性(機械的性質、電気的性質、熱的性質等)が得られると言う利点を有する。更に曲がりくねりの少ない炭素質ナノチューブは樹脂・ゴムへの分散が容易で、方向性をもたせた配列で分散させることができる。
【0056】
前記硫黄原子の濃度が2.5モル%を上回ると、炭素質ナノチューブが生成しにくくなることがあり、前記硫黄原子の濃度が0.00625モル%を下回ると、曲がった炭素質ナノチューブが多量に生成したり、炭素質ナノチューブが生成しにくくなることがある。
【0057】
前記反応管内における反応領域に前記原料混合物を供給する場合には、例えば、前記原料混合物を、炭化水素、他の有機溶媒、或いは、少量の無機溶媒等に溶解して供給すると安定して供給することができる。
【0058】
前記原料混合物の反応領域における滞在時間(反応領域の長さ/反応温度での原料混合物の流速)は、通常1分以内であり、好ましくは0.1〜30秒、特に好ましくは1〜20秒の範囲である。
【0059】
<繊維集合体>
本発明の炭素質ナノチューブの製造方法によると、上述した本発明の炭素質ナノチューブが全体に対して少なくとも70重量%の割合で含有され、全体に対する水素原子の含有割合が0.1〜1重量%であり、全体に対する炭素原子の含有割合が少なくとも98.5重量%であり、全体に対する遷移金属原子の含有割合が0.005〜1重量%である繊維集合体を得ることができる。
【0060】
前記繊維集合体は、例えば、煤、タール状物、及び中空部を有していない非中空炭素質繊維等の副生成物等を含んでいても良い。
【0061】
前記繊維集合体中の前記タール状物は、例えば、トルエン、アセトン等の有機溶剤で洗浄することにより除去しても良いし、前記タール状物を約1,000℃程度の不活性雰囲気で蒸発させてこの蒸発したタール状物を分解することにより除去しても良い。
【0062】
前記繊維集合体においては、前記細径の炭素質ナノチューブを、通常少なくとも70体積%、好適には少なくとも80体積%含有するのが良い。
【0063】
前記繊維集合体中に、前記細径の炭素質ナノチューブを、少なくとも70体積%含有させることにより、例えば、前記繊維集合体と樹脂との複合材料において、この複合材料における強度、弾性率等の機械的特性や電気伝導性・熱伝導性を効果的に向上させることができる
また、前記繊維集合体においては、この繊維集合体中に、その直径が数nm、例えば、1〜10nmの遷移金属粒子が炭素質で覆われた炭素被覆金属粒子を含有する場合がある。前記炭素被覆金属粒子は、例えば、酸洗浄等で前記繊維集合体から除去しても良いが、1重量%を越えない範囲内で前記繊維集合体中に含有させることにより、例えば、前記繊維集合体と樹脂との複合材料において、繊維集合体の樹脂に対する濡れ性を効果的に向上させることができ、この複合材料における強度、弾性率等の機械的特性を効果的に向上させることができる。
【0064】
【実施例】
(実施例1)
図1に示すように、縦型の気相成長炭素繊維製造装置1を使用して炭素質ナノチューブの製造を行なった。
【0065】
前記気相成長炭素繊維製造装置1は、原料タンク2、原料ポンプ3、原料気化器4、予熱器5、第1キャリヤガス流量計6、第2キャリヤガス流量計7、第3キャリヤガス流量計8、原料混合ガス供給ノズル9、反応管10、整流器11、第2キャリヤガス供給ノズル12、第3キャリヤガス供給ノズル13、電気炉14、繊維捕集器15、及びガス排出口16を有する。
【0066】
前記反応管10の内径は8.5cmである。
【0067】
前記整流器11の下端部から繊維捕集器15に向かって約80cmの位置までを反応領域とし、この反応領域が1100℃に維持され、更に前記反応領域から下流に向かって徐々に低温となり、繊維捕集器15の温度が100〜300℃になるように、反応管10内の温度を制御した。
【0068】
原料タンク2には、フェロセン:チオフェン:トルエンの混合比が、モル比で0.5:0.2:99.3の原料溶液を貯留した。
【0069】
原料ポンプ3により、原料供給管17を介して原料溶液を原料気化器4に供給し、原料溶液を気化させて原料ガスとした後、この原料ガスが4体積%となるように、原料ガスと第1キャリヤガスとを混合した。
【0070】
前記第1キャリヤガスは、水素:窒素の混合比が、体積比で80:20であり、第1キャリヤガス供給管18を通じて原料ガス配管19内に供給され、原料ガスと混合される。
【0071】
前記原料ガスと前記第1キャリヤガスとを、原料ガスが4体積%になるように混合して得られた原料混合ガスを、予熱器5により予熱した後、原料混合ガス供給管20を介して、原料混合ガス供給ノズル9に供給した。この原料混合ガスが本発明における原料混合物に相当する。
【0072】
前記原料混合ガス供給ノズル9の内径は2cmで、原料混合ガス供給ノズル9内が温度約400℃に制御されている。
【0073】
前記原料混合ガスは室温で2L/分で供給されるので、原料混合ガス供給ノズル9からは、400℃で、24cm/秒の速度で原料混合ガスが吹き込まていたことになる。
【0074】
第2キャリヤガスは、純水素であり、第2キャリヤガス供給管21を介して、第2キャリヤガス供給ノズル12から整流器11に供給される。
【0075】
前記第2キャリヤガスは室温で7L/分で供給されるので、整流器11に設けられた整流筒11aにおける内周壁面(内径7cm)と前記原料混合ガス供給ノズル9における外周壁面(外径4cm)との間隙を、約1100℃で21cm/秒で流下していたことになる。
【0076】
第3キャリヤガスは、窒素:空気の混合比が、体積比で80:20であり、第3キャリヤガス供給管22を介して、第3キャリヤガス供給ノズル13から整流器11に供給される。
【0077】
前記第3キャリヤガスは室温で3L/分で供給されるので、整流器11に設けられた整流筒11aにおける外周壁面(外径7.5cm)と前記反応管10における内周壁面(内径8.5cm)との間隙を、約1100℃で19cm/秒で流下していたことになる。
【0078】
この反応装置においては対流が起こらず、ガスの流れ方向が鉛直上方から鉛直下方へのピストンフローに近い気流であった。
【0079】
前記原料混合ガス供給ノズル9から流下した原料混合ガスは、周囲の純水素ガスを巻き込むことにより、原料混合ガス中の原料ガスは水素中に拡散しながら流下した。
【0080】
前記原料混合ガス及び純水素ガスは、更に反応管10の内周壁面に沿って流下する第3キャリヤガスと接触していると考えられ、前記原料混合ガス及び純水素ガスと前記反応管10の内周壁面との間に前記第3キャリヤガスを介在させることにより、例えば、前記反応管10の内周壁面に生成物が付着すること等を防止することができる。
【0081】
反応領域での原料濃度は、ノズルから吹き出した直後は4%であるが、反応管中を流下するに従い、第2キャリアガスと混合して徐々に希釈される。しかし、ピストンフローに近い流れの為、完全混合には至っていないと推察される。第3キャリアガスとも徐々に混合されるが、反応管壁に近い処は窒素/空気成分が多く、反応管内部は原料成分/水素が多い流れになっているいるものと推察される。
【0082】
この状態を30分間維持した後、原料供給ポンプ3を停止して5分放置後、反応管10内を窒素ガスで置換した。
【0083】
前記ガス排出口16におけるフィルター部から0.5g、前記繊維捕集器15から2.2gの繊維が採集された。
【0084】
前記フィルター部から採集された繊維、及び前記繊維捕集器15から採集された繊維を、それぞれ高分解能透過型顕微鏡で観察した。
【0085】
前記フィルター部から採集された繊維を観察したところ、外周直径5〜8nmの繊維が混在しており、平均外周直径が6nm、平均内周直径が4nmである中空炭素繊維であった。この中空炭素繊維を試料1とする。
【0086】
前記繊維捕集器15から採集された繊維を観察したところ、外周直径8〜30nmの繊維が混在しており、平均外周直径が23nm、平均内周直径が4nmである中空炭素繊維であった。この中空炭素繊維を試料2とする。
【0087】
(実施例2)
反応領域を1150℃に維持し、原料溶液としてフェロセン:チオフェン:トルエンの混合比がモル比で1.5:0.8:97.7の溶液を採用し、第1キャリヤガス及び第2キャリヤガスとしてそれぞれ純水素ガスを採用し、第3キャリヤガスとして純窒素ガスを採用し、前記原料溶液を気化させて原料ガスとした後、この原料ガスが2体積%となるように原料ガスと第1キャリヤガスとを混合して、原料混合ガスを得、この原料混合ガスを30cm/秒の速度で流下させ、前記第2キャリヤガスを12cm/秒で流下させ、前記第3キャリヤガスを12cm/秒で流下させた以外は、実施例1と同様に炭素繊維の製造を行なった。
【0088】
前記繊維捕集器15から1.5g、前記ガス排出口16におけるフィルター部から1.0gの繊維が採集された。
前記フィルター部から採集された繊維、及び前記繊維捕集器15から採集された繊維を、それぞれ高分解能透過型顕微鏡で観察した。
【0089】
前記フィルター部から採集された繊維を観察したところ、外周直径5〜9nmの繊維が混在しており、平均外周直径が7nm、平均内周直径が3.5nmである中空炭素繊維であった。この中空炭素繊維を試料3とする。
【0090】
前記繊維捕集器15から採集された繊維を観察したところ、外周直径7〜25nmの繊維が混在しおり、平均外周直径が20nm、平均内周直径が4nmである中空炭素繊維であった。この中空炭素繊維を試料4とする。
【0091】
(比較例1)
平均外周直径が200nm、平均内周直径が3nmである黒鉛化処理後の気相成長炭素繊維を用意した。この黒鉛化処理後の気相成長炭素繊維を試料5とする。
−評価−
前記試料1〜5のそれぞれにおける、結晶面間隔d002、水素原子の含有割合、炭素原子の含有割合、遷移金属原子の含有割合、比表面積、水分保持率、水素吸着量、エポキシ樹脂と混合して複合材料とした時の曲げ強度、曲げ弾性率、及び比抵抗を表1に示す。
【0092】
前記複合材料には、各試料を10vol%配合した。
【0093】
前記実施例1及び実施例2で得られた試料1及び試料3が、本発明の最も好適な炭素質ナノチューブである。
【0094】
【表1】
Figure 0004405650
【0095】
【発明の効果】
本発明の炭素質ナノチューブによれば、例えば、炭素質ナノチューブと樹脂とを複合して得られる複合材料において、炭素質ナノチューブが、樹脂に対して優れた濡れ性を有するので、前記複合材料の機械的強度を効果的に向上させることができる。
【0096】
本発明の炭素質ナノチューブ及びこの炭素質ナノチューブが全体に対して少なくとも70重量%の割合で含有されてなる繊維集合体によれば、優れた導電性を有し、かつ、その表面に活性点を有するので、従来からの複合材料における濡れの問題等を解決することができ、例えば、比抵抗等の優れた電気的特性と、曲げ強度、曲げ弾性率等の優れた機械的特性と、水分保持性能、吸着性能等の優れた化学的特性とを兼ね備えた高性能の複合材料を得ることができる。
【0097】
本発明の炭素質ナノチューブの製造方法によれば、前記炭素質ナノチューブ、及び、前記繊維集合体を容易に得ることができる。
【0098】
本発明の炭素質ナノチューブ及び繊維集合体は、比表面積が大きく、活性点が多く、しかも優れた耐薬品性を有するので、例えば、吸着剤、保持材等として効果的に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の炭素質ナノチューブの製造方法に採用することができる縦型の気相成長炭素繊維製造装置の概略図である。
【符号の説明】
1・・・気相成長炭素繊維製造装置、2・・・原料タンク、3・・・原料ポンプ、4・・・原料気化器、5・・・予熱器、6・・・第1キャリヤガス流量計、7・・・第2キャリヤガス流量計、8・・・第3キャリヤガス流量計、9・・・原料混合ガス供給ノズル、10・・・反応管、11・・・整流器、11a・・・整流筒、12・・・第2キャリヤガス供給ノズル、13・・・第3キャリヤガス供給ノズル、14・・・電気炉、15・・・繊維捕集器、16・・・ガス排出口、17・・・原料供給管、18・・・第1キャリヤガス供給管、19・・・原料ガス配管、20・・・原料混合ガス供給管、21・・・第2キャリヤガス供給管、22・・・第3キャリヤガス供給管。

Claims (5)

  1. 大きくともその内径が5nmである中空部と大きくとも10nmである肉厚部とを有し、水素原子及び炭素原子を含有する炭素質で形成されてなることを特徴とする炭素質ナノチューブ。
  2. 大きくともその内径が5nmである中空部と大きくとも5nmである肉厚部とを有し、水素原子及び炭素原子を含有する炭素質で形成されてなることを特徴とする炭素質ナノチューブ。
  3. 更に遷移金属原子を含有してなる前記請求項1又は2に記載の炭素質ナノチューブ。
  4. 前記請求項3に記載された炭素質ナノチューブが全体に対して少なくとも70重量%の割合で含有され、全体に対する水素原子の含有割合が0.1〜1重量%であり、全体に対する炭素原子の含有割合が少なくとも98.5重量%であり、全体に対する遷移金属原子の含有割合が0.005〜1重量%であることを特徴とする繊維集合体。
  5. 遷移金属原子を含有する遷移金属化合物と、硫黄原子を含有する硫黄化合物と、炭化水素を含有する有機化合物と、キャリヤガスとを混合して得られる原料混合物を、前記原料混合物中における前記遷移金属原子の濃度が0.025〜0.5モル%の範囲内、及び前記原料混合物中における前記炭化水素の濃度が{273/(T−1000)}4〜10{273/(T−1000)}(ただし、Tは反応領域の絶対温度(K)を示す。)モル%の範囲内になるように、反応管内における900〜1,300℃の温度に維持された反応領域に供給することを特徴とする炭素質ナノチューブの製造方法。
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