JP4357163B2 - 微細炭素繊維及びそれを含む組成物 - Google Patents

微細炭素繊維及びそれを含む組成物 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は特異な構造を持つ微細炭素繊維とそれを含む組成物に関し、特に樹脂、ゴム等複合材のフィラー、半導体材料、触媒、あるいはガス吸蔵材料として適した微細炭素繊維、及びそれを含む組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
炭素繊維は、その高強度、高弾性率、高導電性等の優れた特性から各種の複合材料に使用されている。従来から応用されてきた優れた機械的特性ばかりでなく、炭素繊維あるいは炭素材料に備わった導電性を生かし、近年のエレクトロニクス技術の発展に伴い、電磁波シールド材、静電防止材用の導電性樹脂フィラーとして、あるいは樹脂への静電塗装のためのフィラーとしての用途が期待されてきている。また、炭素材料としての化学的安定性、熱的安定性と微細構造との特徴を生かし、フラットディスプレー等の電界電子放出材料としての用途が期待されている。
【0003】
従来の炭素繊維は、PAN、ピッチ、セルロース等の繊維を熱処理し炭化することにより製造するいわゆる有機系カーボンファイバーとして生産されている。これらを繊維強化複合材のフィラーとして用いる場合、母材との接触面積を大きくするために、径を細くすること、長さを長くすること等が補強効果を上げるために望ましい。また、母材との接着性を改善するためには、炭素繊維の表面が滑らかでなく、ある程度荒れている方が好ましく、このために空気中で高温に晒し酸化させたり、表面にコーティングを施こしたり等の表面処理が行なわれている。
【0004】
しかし、これらの炭素繊維は、その原料となる有機繊維の糸径が5〜10μm程度であり、径の小さい、炭素繊維の製造は不可能であった。また、径に対する長さの比(アスペクト比)に限界があり、細くてアスペクト比の大きい炭素繊維が要望されていた。
【0005】
また、自動車ボディーへの樹脂の使用、あるいは電子機器への樹脂・ゴム等の使用に関しては、金属並の導電性を要求され、これに伴い、フィラー材としての炭素繊維もこれら各種導電性塗料、導電性樹脂などの要求を満たすために導電性を上げる必要が出てきた。
【0006】
そのための手段として、黒鉛化することでこれら特性を向上させる必要があり、このために更に高温での黒鉛化処理が行なわれるのが通例である。しかし、この黒鉛化処理によっても金属並の導電性は得られず、これを補うために配合量を多くすると加工性や機械的特性が低下するという問題が生じ、繊維自体の更なる導電性の改良、繊維の細径化による強度の向上等が必要とされてきた。
【0007】
その後、1980年代後半に、これら有機系繊維と製法を全く異にするものとして、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber;以下VGCFと略す。)が研究されるようになった。
【0008】
このVGCFは、炭化水素等のガスを有機遷移金属系触媒の存在下で気相熱分解することによって直径1μm以下、数100nmまでの炭素繊維が得られることが知られている。
【0009】
たとえば、ベンゼン等の有機化合物を原料とし、触媒としてのフェロセン等の有機遷移金属化合物をキャリアーガスとともに高温の反応炉に導入し、基盤上に生成させる方法(特開昭60−27700号公報)、浮遊状態でVGCFを生成させる方法(特開昭60−54998号公報)、あるいは反応炉壁に成長させる方法(特許2778434号)等が開示されている。
【0010】
これら製法によれば、比較的細くて導電性に優れ、アスペクト比の大きいフィラー材に適した炭素繊維が得られるようになり、100〜200nm程度の径で、アスペクト比10〜500程度のものが量産化され、導電性フィラー材として樹脂用フィラーや鉛蓄電池の添加材等に使用されるようになった。
【0011】
これらVGCFは、形状や結晶構造に特徴があり、炭素六角網面の結晶が年輪状に円筒形に巻かれ積層した構造を示し、その中心部には極めて細い空洞部を有する繊維である。
【0012】
また、このVGCFよりも更に細い炭素繊維として、飯島らによりヘリウムガス中でアーク放電により炭素電極を蒸発させた煤の中から、多層カーボンナノチューブが発見された。この多層カーボンナノチューブの直径は、1nm〜30nmであり、VGCFと同様に炭素六角網面の結晶が繊維の軸を中心に年輪状に幾重にも重なり円筒状に閉じられており、その中心部に空洞径を有する微細炭素繊維である。
【0013】
このアーク放電を使用する方法については、その製法から量産には向かず実用化には至っていない。
【0014】
一方、気相法によるものは大きなアスペクト比、高導電性の可能性があり、この方法を改良し、より細い炭素繊維を製造しようとする試みがなされている。米国特許第4663230号、特公平3−64606号公報では、約3.5〜70nmの径でアスペクト比100以上の黒鉛質からなる円柱状の炭素フィブリルが開示されている。その構造は、規則的に配列した炭素原子の連続層が多層にわたり円柱軸に対し同心的に配列され、炭素原子の各層のC軸がフィブリルの円柱軸に実質的に直交しており、全体に熱分解により析出する熱炭素被膜を含まず、滑らかな表面を持っているものである。
【0015】
同様に、特開昭61−70014号公報には、10〜500nmでアスペクト比2〜30000の気相法による炭素繊維が紹介されており、熱分解炭素層の厚みが直径の20%以下であることが記されている。
【0016】
上述のこれらの炭素繊維は、いずれも表面が滑らかなため接着性、濡れ性、親和性に乏しく、複合材料として用いる場合には表面を十分酸化処理する等の表面処理が必要になってくる。また、ガス吸蔵材料として用いる場合には、空洞が多い方がよい。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明においては、導電性の良い特に500nm以下のフィラー材として樹脂等への接着性の良い微細な炭素繊維を量産規模で得ること、また、ガス吸蔵性に優れた炭素繊維材料を得ることが目的である。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記目的を達成するために下記を提供するものである。
(1)筒状の層状炭素が重なり合い多層構造の年輪構造をなし、その中心軸が空洞構造である微細炭素繊維であって、その炭素繊維の多層構造が繊維の外側に拡大し又は肉厚化した瘤状部を有し、炭素繊維本体の外径が1〜500nm、アスペクト比が10〜15000であり、炭素繊維表面に存在する瘤状部を含めた繊維径d’と瘤状部以外の炭素繊維径dとの比d’/dが2より大きく6以下であり、瘤状部の長さ(繊維方向)は炭素繊維径dの2〜30倍であり、炭素繊維表面に存在する瘤状部の内部が空洞構造であることを特徴とする微細炭素繊維。
(2)炭素繊維表面に存在する瘤状部が、炭素繊維軸に沿った円筒状炭素であることを特徴とする上記(1)に記載の微細炭素繊維。
(3)外径1〜500nm、アスペクト比10〜15000の微細炭素繊維中に上記(1)又は(2)に記載の微細炭素繊維が5〜95質量%を占める微細炭素繊維。
(4)上記(1)〜(3)に記載の微細炭素繊維が樹脂またはゴムに含まれることを特徴とする微細炭素繊維組成物。
(5)上記(1)〜(3)に記載の微細炭素繊維が含まれる樹脂。
(6)上記(1)〜(3)に記載の微細炭素繊維を使用した気体の吸蔵性材料。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、導電性の良い、外径約500nm以下のフィラー材として樹脂等への接着性の良い、微細な炭素繊維を得るために、微細なVGCFの製造条件をいろいろと変えて検討を進める中で、或る製造条件下で、従来知られていない形態の微細な炭素繊維が得られ、これが導電性が高く、また樹脂等への接着性にも優れており、さらにはガス吸蔵特性に優れた炭素繊維材料を与え得ることを見出したものである。本発明の微細炭素繊維は基本的に微細なVGCFを製造しようとする過程に得られる1形態の炭素繊維であると理解される。
【0020】
本発明の微細炭素繊維について説明する。
本発明の微細炭素繊維の特徴を添付図面(図1〜図)を用いて説明する。
本発明の微細炭素繊維は、従来の微細炭素繊維と同様に繊維径約1〜500nm程度、好ましくは約5〜200nm、アスペクト比約10〜15000、好ましくは約10〜10000の微細炭素繊維を本体とし、その本体は円筒状の炭素層が重なり合い多層構造(年輪構造)をなし、その中心軸が空洞構造のものであるが、その途中に以下に説明するような瘤状部を有することを特徴とするものである。
【0021】
図1を参照すると、空洞構造2を有する微細炭素繊維1の途中で円筒状の多層炭素層の径が大きくなった部分3が存在し、瘤状部の内部は空洞4をなしている。瘤状部3の多層炭素層の厚さは微細炭素繊維本体1の多層炭素層の厚さと実質的に同じであるが、あるいはそれより厚くあるいは薄くてもよい。特に黒鉛化前の微細炭素繊維では空洞部に触媒金属粒子(金属炭化物粒子)あるいは炭素片又は炭素中空微粒子が含まれている場合が見られる。この場合は、限定するわけではないが、例えば、微細炭素繊維が成長する過程で多数の触媒金属粒子を取り込み内部に触媒金属粒子(金属炭化物粒子)等が含まれた微細炭素繊維が生成し、そのような炭素繊維を黒鉛化するときに、内部の触媒金属粒子(金属炭化物粒子)等が気化し、それら触媒粒子の影響で微細炭素繊維の黒鉛化がより進み、平面構造をとろうとして多層炭素層を外側に拡大させる力が働いて図1に示すような形状の瘤状部が形成された可能性がある。
【0022】
なお、本発明では以下の場合も同じであるが、瘤状部の最大径d’は微細炭素繊維本体の径dより大きく、一般的には約1.5〜10倍の範囲内であり、より好ましくは約2〜6倍である。
【0023】
【0024】
を参照すると、微細炭素繊維の途中に瘤状部が存在するが、その形状は一定ではなく、径が拡張あるいは縮小する角度及び長さがいろいろであり、また瘤状部の途中の径が一定の部分の長さもいろいろであり、しかもその形状が軸対称でない場合もあるが、要するに、微細炭素繊維の途中に多層炭素層が微細炭素繊維本体と異なる形で、通常は微細炭素繊維本体より径が拡大して、成長して瘤状部を形成したものである。この瘤状部の特徴は、あくまでも、多層炭素層から構成された微細炭素繊維と同質の炭素の結晶組織が微細炭素繊維から異常な方向にまた異常な太さで結晶成長して形成されたものであることである。従来、微細炭素繊維の外側に強制的に炭素微粒子を凝集付着させることが提案されているが、本発明の微細炭素繊維はそれとは異なるものである。電子顕微鏡で観察すると、瘤状部は炭素結晶の成長方向はいろいろであるが、微細炭素繊維から連続して成長しており、微粒子が凝集付着したものではないことが確認される。なお、図の如く一定しない形状の瘤状部の場合にも、微細炭素繊維の内部には空洞構造が存在するものと考えられる。微細炭素繊維の空洞部に触媒金属粒子(金属炭化物粒子)あるいは炭素片又は炭素中空微粒子が含まれていてもよい。
【0025】
この形状の微細炭素繊維は、微細炭素繊維が成長する過程で、微細炭素繊維の成長先端部に触媒金属粒子(金属炭化物粒子)等が介在し、微細炭素繊維の成長が継続されたり、温度の局部的低下のため成長速度が遅くなったりして、繊維軸に対して種々の方向に成長が起こり、その後元の成長速度に戻って元の微細炭素繊維が形成されたものでもよい。さらには、そのようにして触媒金属粒子(金属炭化物粒子)等が空洞部に残存する微細炭素繊維を黒鉛化するときに、触媒金属粒子(金属炭化物粒子)等が気化し、その気化の際に繊維の形状が変形たり、また同時に多層炭素層の表面に新たな炭素層が成長して多層炭素層の厚みが増加したりして、図に示すような複雑な形状の瘤状部を形成したものもある。いろいろな原因が複合して形成されている可能性が高い。
【0026】
の微細炭素繊維では、微細炭素繊維の途中から短い微細炭素繊維が分岐成長したような形の瘤状部が存在する。分岐状の瘤状部の内部にも空洞構造あるいはその痕跡が見られる。分岐状の瘤状部の形状あるいは径は図の場合だけではなく、異なっていてもよい。しかしその場合にも瘤状部の外径d’は微細炭素繊維本体の径dの10倍以内である点で分岐した繊維とは区別される。この場合は、微細炭素繊維の成長の起点である触媒金属粒子が何らかの影響で分割し、一方は本来の繊維の成長に、もう一方が瘤状部の成長に関与したと考えられる。
上記の如く、微細炭素繊維の瘤状部の空洞内は、空洞のままでも、また触媒金属粒子(金属炭化物粒子)あるいは炭素片又は炭素中空微粒子が存在してもよい。
【0027】
の微細炭素繊維は、図と同様に、複数の触媒金属粒子が関与し、空洞を伴った瘤状部を成長すると考えられる。
【0028】
また、瘤状部の長さは、一般的には微細炭素繊維の径dの約2〜30倍程度である
【0029】
【0030】
以上、本発明の微細炭素繊維の瘤状部および繰返す繊維径拡大部の代表的な形状を説明したが、本発明では、微細炭素繊維それ自体の結晶組織の延長としての瘤状部(外径d’≦約10d)が存在するか又は繰返される外形拡大部(約1.05d≦外径d”≦約3d程度)が存在して繊維径が繊維長に沿って変動する微細炭素繊維であって、繊維径が約1〜500nm、アスペクト比が約10〜15000の微細炭素繊維であればよい。中心軸の空洞部の内径は一定でなくてもよい。また、炭素層によって構成される炭素繊維の先端部や周囲に不定形炭素が存在しても、本発明の微細炭素繊維は影響されない。
【0031】
本発明の微細炭素繊維の上記のような形態は、従来の各種気相法による炭素繊維では報告されておらず、新規なものである。
【0032】
これら本発明の微細炭素繊維は、従来の炭素繊維に対し瘤状部又は繊維径変動が存在し、異形をしているので、異形内部空間に水素等のガスを吸蔵しやすい構造であり、また導電性フィラー等として使用した場合、異形表面での樹脂等への接着性が向上する効果がある。
【0033】
また、本微細炭素繊維を約5質量%以上さらに約5〜95質量%、好ましくは約10〜70質量%、特に約10〜50質量%を含むとその構造の特徴により、内部空間が大きいので水素等のガスの吸蔵量を増加できる効果があり、また導電性フィラー等として使用して樹脂等への接着性が向上する効果がある。また、透過型電子顕微鏡による観察にて微細炭素繊維の構造は確認できるが、本発明の微細炭素繊維を微細炭素繊維全体を基準に約3〜80体積%さらに、約5〜70体積%、好ましくは約10〜50体積%含むと水素等のガスの吸蔵量を増加できる効果があり、また導電性フィラー等として使用して樹脂等への接着性などが向上する効果がある。
【0034】
本発明の微細炭素繊維は、外径が約1〜500nmで、アスペクト比約10〜15000の微細で長い繊維が得られるので、フィラー材として多量に添加が可能であり補強効果に優れるものであり、またガス吸蔵性にも優れるものである。
【0035】
以下に本発明の微細な炭素繊維を製造するために好適な方法について説明する。
本発明のような微細炭素繊維は遷移金属触媒を用いて有機化合物、特に炭化水素類を熱分解することにより微細炭素繊維を得ることができる。この得られた微細炭素繊維は、好ましくは、その表面に付着したタールなどを除くため、約900〜1300℃で熱処理を行う。そして、更には、それを約2000〜3500℃、好ましくは約2500〜3500℃の熱処理を行ってグラファイト化している。
【0036】
即ち、微細炭素繊維は遷移金属触媒を用いて有機化合物、特に炭化水素類を熱分解することにより得ることができる。
【0037】
炭素繊維の原料となる有機化合物は、ベンゼン、トルエン、キシレン、メタノール、エタノール、ナフタレン、フェナントレン、シクロプロパン、シクロペンテン、シクロヘキサン有機化合物や揮発油、灯油等あるいはCO、天然ガス、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、ブタジエン等のガス及びそれらの混合物も可能である。中でもベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物が特に好ましい。
【0038】
有機遷移金属化合物は、触媒となる遷移金属を含むものである。遷移金属としては、周期律表第IVa,Va,VIa,VIIa,VIII族の金属を含む有機化合物である。中でもフェロセン、ニッケルセン等の化合物が好ましい。触媒としての有機遷移金属化合物の含有量としては、有機化合物の炭素量に対して約0.5〜15質量%、好ましくは約1〜10質量%、より好ましくは約2〜8質量%が良い。
【0039】
本発明によれば、反応装置の形態、反応系、反応条件のほか、特に有機化合物と触媒となる有機遷移金属化合物の種類と量、さらには助触媒の種類と量を或る種の条件などに選択、制御することにより、本発明の瘤状部又は繊維径変動を有する微細炭素繊維を得ることができることが見出された。
【0040】
特に有機化合物と触媒となる有機遷移金属化合物の種類として、一般的に、有機化合物としてベンゼン、トルエン、アセチレン、エチレン、ブタジエンあるいはそれらの混合物から選択したものと、有機遷移金属化合物としてニッケロセンあるいはフェロセンとを組み合わせることが好ましく、中でもベンゼンとフェロセンを組合せることが、本発明の目的のためには好適である。
【0041】
本発明では、限定するものではないが、さらに助触媒として硫黄化合物を用い、特にその使用量を従来よりも多くした場合に、特異的に有利に本発明の瘤状部又は繊維径変動を有する微細炭素繊維を得ることができた。硫黄化合物の形態は特に制限は無く、炭素源である有機化合物に溶解するものなら良く、その硫黄化合物としてチオフェンや各種チオールあるいは、無機硫黄等が用いられる。硫黄化合物の使用量は硫黄原子を基準にして、有機化合物(炭化水素などの炭素原料)に対して約0.01〜5質量%、好ましくは、約0.03〜5質量%、さらに好ましくは約0.5〜4質量%が良い。硫黄が少ないと微細炭素繊維の成長が遅く、瘤状部又は繊維径変動の生成がみられない。一方、硫黄が多すぎると微細炭素繊維の成長が短くなり、短い繊維しか得られない。
【0042】
また、そのほかでは原料供給量が多いと瘤状部又は繊維径変動が発生しやすいことが分かっており、その目安としては原料を標準状態でガス換算したとき(原料)/(キャリアーガス)≧約0.03の流量の場合に瘤状部又は繊維径変動が生成しやすかった。
【0043】
このように、反応系、特に有機化合物と触媒となる有機遷移金属化合物の種類と量、さらには助触媒の種類と量などを選択、制御することにより、特定の結晶組織及び形状の瘤状部又は繊維径変動を有する微細炭素繊維を製造することができるということは従来知られておらず、またこの新規な微細炭素繊維の有用性も知られていなかったものであり、本発明によりこの新規な構造の微細炭素繊維が提供されることは、産業上有用なものである。
【0044】
キャリヤーガスとしては、通常水素ガスをはじめとする還元性のガスが使用される。キャリヤーガスを予め約500〜1300℃に加熱しておくことが好ましい。加熱する理由は、反応時に触媒の金属の生成と炭素化合物の熱分解による炭素源の供給を一致させ、反応を瞬時に起こすようにして、より微細な炭素繊維が得られるようにするためである。キャリアーガスを原料と混合した際に、キャリアーガスの加熱温度が約500℃未満では、原料の炭素化合物の熱分解が起こりにくく、約1300℃をこえると炭素繊維の径方向の成長が起こり、径が太くなりやすい。
【0045】
キャリアーガスの使用量は、炭素源である有機化合物1.0モル部に対し約1〜70モル部が適当である。炭素繊維の径は、炭素源とキャリアーガスの比率を変えることにより、制御することが出来る。
【0046】
原料は、炭素源の有機化合物に遷移金属化合物及び助触媒の硫黄化合物を溶解し調整する。そして原料は液体のままキャリアーガスで噴霧して反応炉へ供給することも出来るが、キャリアーガスの一部をパージガスとして気化させて反応炉へ供給し反応させることも出来る。繊維径の細い炭素繊維を得る場合は原料は気化して反応炉へ供給した方が好ましい。
【0047】
反応炉は、通常縦型の電気炉を使用する。反応炉温度は約800〜1300℃、好ましくは約1000〜1300℃である。所定の温度に昇温した反応炉へ、原料液とキャリアーガスあるいは原料を気化させた原料ガスとキャリアーガスとを供給し、反応させ炭素繊維を得る。
【0048】
このようにして反応炉に吹き込まれたガスが熱分解し、有機化合物は炭素源となり、有機遷移金属化合物は触媒の遷移金属粒子となり、この遷移金属粒子を核とした微細炭素繊維の生成が行われる。
【0049】
得られた微細炭素繊維は、さらに、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気化で、約900〜1500℃の熱処理を行い、更に約2000〜3500℃の熱処理を行う、あるいは、反応により得られた状態の微細炭素繊維を不活性ガス雰囲気化、直接約2000〜3500℃の熱処理を行うことが好ましい。
【0050】
反応により得られた状態の微細炭素に、あるいはその微細炭素繊維を不活性ガス雰囲気下で約900〜1500℃の熱処理を行った後に、炭化ホウ素(BC)、酸化ホウ素(B)、元素状ホウ素、ホウ酸(HBO)、ホウ酸塩等のホウ素化合物と混合して、更に不活性ガス雰囲気下約2000〜3500℃で熱処理を行ってもよい。ホウ素化合物の添加量は、用いるホウ素化合物の化学的特性、物理的特性に依存するために限定されないが、例えば炭化ホウ素(BC)を使用した場合には、微細炭素繊維に対して約0.05〜10質量%、好ましくは約0.1〜5質量%の範囲が良い。
【0051】
【実施例】
以下、本発明の実施例をあげて説明する。
(実施例)
概略図の図に示すように縦型加熱炉11(内径170mm、長さ1500mm)の頂部に、原料気化器15を通して気化させた原料を供給する原料供給管14と、キャリアーガス供給配管16を取りつけた。
原料供給管14からは、フェロセン4質量%、チオフェン3質量%(硫黄原子換算1.1質量%)溶解したベンゼンを気化させ200℃に保って30g/分で供給し、キャリアーガスとして水素を用い、180リットル/分で供給し反応させた。
【0052】
この反応で得られた微細炭素繊維をAr(アルゴン)雰囲気下1300℃で熱処理し、更に1300℃処理品をAr雰囲気下2800℃で熱処理し、熱処理工程での質量回収率90%で微細炭素繊維を得た。
【0053】
得られた微細炭素繊維の透過型電子顕微鏡写真を図〜図に示す。図〜図のいずれでも、微細炭素繊維本体は炭素原子からなる筒状の炭素層が重なりあった多層構造であり、その中心軸が空洞構造である。繊維の外径は10〜100nm程度で、アスペクト比が約10以上の繊維であった。
【0054】
では、例えば図に矢印で示した部分に、図の模式図の如く繊維表面に凹凸と瘤の連続した部位が見られる。この矢印部分の連続的複合瘤状部は、その径あるいは太さ(繊維横断面方向寸法)は本体繊維径の8倍程度、その瘤状部の長さは本体繊維径の3倍程度である。なお写真の矢印部分の下にも別の連続的複合瘤状部が見られる。
【0055】
では、図の矢印*1の部分では、図1の模式図の如く繊維の一部が太くなっており、その太さ(繊維横断面方向寸法)が本体繊維径の3倍程度、その部分の長さは本体繊維径の2倍程度であるが、この瘤状部の炭素層は本体繊維部分と同様に整然としていることが見られる。また。図の矢印*2の部分では、図の模式図の如く繊維表面に凹凸と瘤が連続して入り組んでいる部位が見られる。この部分の複合瘤状部はその径(繊維横断面方向寸法)が本体繊維径の3倍程度であり、その瘤状部の内部に炭素粒子が見られる。また、図の矢印*3の部分では、図の模式図の如く、本体繊維径に対して太さが2倍程度の瘤が片側についたものが見られる。
【0056】
では、微細炭素繊維の一部で繊維が太くなっている。その部分(瘤状部)は円筒状で、太さ(径)が微細炭素繊維本体の4倍程度、長さが本体の繊維径の20倍程度である。さらに拡大した観察から、瘤状部は途中に形状が一部変形(欠損形状)しているが、瘤状部は炭素層が整然と成長して形成されたものであることが観察された。また、従って、瘤状部の中心には空洞が存在するものと推察された。
【0057】
【0058】
【0059】
(比較例)
概略図の図に示すように縦型加熱炉11(内径170mm、長さ1500mm)の頂部に、原料気化器15を通して気化させた原料を供給する原料供給管14と、キャリアーガス供給配管16を取りつけた。
原料供給管14からは、フェロセン4質量%、チオフェン0.5質量%(硫黄原子換算0.2質量%)溶解したトルエンを気化させ200℃に保って15g/分で供給し、キャリアーガスとして水素を用い、180リットル/分で供給し反応させた。
【0060】
この反応で得られた微細炭素繊維をAr(アルゴン)雰囲気下1300℃で熱処理し、更に1300℃処理品をAr雰囲気下2800℃で熱処理し質量回収率96%で微細炭素繊維を得た。
透過電子顕微鏡で観察したが、均一な繊維径をもち、瘤状部がない以外は実施例の微細炭素繊維と同様の微細炭素繊維であった。
【0061】
(複合材調製)
実施例及び比較例で得られた微細炭素繊維を用いてポリアセタールとの複合材を調整し、複合材の引張強度及び体積固有抵抗を測定した。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1から、反応条件を選択することにより、微細炭素繊維の形状を変えることができ、その効果は、樹脂との接着性に優れた微細炭素繊維を得ることができることが確認された。
【0064】
【発明の効果】
本発明によれば、従来の炭素繊維や気相法炭素繊維と異なり、外径が約1〜500nmであり、そのアスペクト比が約10〜15000で、炭素繊維に瘤状部を有しあるいは繊維径が繰返して変動することを特徴とする微細炭素繊維を提供でき、気体の吸蔵性材料、樹脂用導電性フィラーなどとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の微細炭素繊維の構造を説明するための模式断面図である。
【図2】本発明の微細炭素繊維の構造を説明するための模式断面図である。
【図3】本発明の微細炭素繊維の構造を説明するための模式断面図である。
【図4】本発明の微細炭素繊維の構造を説明するための模式断面図である。
【図5】本発明の実施例に示す製造のための装置の概略図である。
【図6】実施例の微細炭素繊維の透過電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例の微細炭素繊維の透過電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例の微細炭素繊維の透過電子顕微鏡写真である。

Claims (6)

  1. 筒状の層状炭素が重なり合い多層構造の年輪構造をなし、その中心軸が空洞構造である微細炭素繊維であって、その炭素繊維の多層構造が繊維の外側に拡大し又は肉厚化した瘤状部を有し、炭素繊維本体の外径が1〜500nm、アスペクト比が10〜15000であり、炭素繊維表面に存在する瘤状部を含めた繊維径d’と瘤状部以外の炭素繊維径dとの比d’/dが2より大きく6以下であり、瘤状部の長さ(繊維方向)は炭素繊維径dの2〜30倍であり、炭素繊維表面に存在する瘤状部の内部が空洞構造であることを特徴とする微細炭素繊維。
  2. 炭素繊維表面に存在する瘤状部が、炭素繊維軸に沿った円筒状炭素であることを特徴とする請求項1に記載の微細炭素繊維。
  3. 外径1〜500nm、アスペクト比10〜15000の微細炭素繊維中に、請求項1又は2に記載の微細炭素繊維が5〜95質量%を占める微細炭素繊維。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の微細炭素繊維が樹脂またはゴムに含まれることを特徴とする微細炭素繊維組成物。
  5. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の微細炭素繊維が含まれる樹脂。
  6. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の微細炭素繊維を使用した気体の吸蔵性材料。
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