JP4403621B2 - 電気脱イオン装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、陰極と陽極との間に、複数のアニオン交換膜とカチオン交換膜とを交互に配列して濃縮室と脱塩室とを交互に形成してなる電気脱イオン装置に係り、特に、濃縮室の構成を改良することにより、濃縮室内でのスケールの発生を防止した電気脱イオン装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、半導体製造工場、液晶製造工場、製薬工業、食品工業、電力工業等の各種の産業又は民生用ないし研究施設等において使用される脱イオン水の製造には、図3(a)に示す如く、電極(陽極11,陰極12)の間に複数のアニオン交換膜13及びカチオン交換膜14を交互に配列して濃縮室15と脱塩室16とを交互に形成し、脱塩室16にイオン交換樹脂、イオン交換繊維もしくはグラフト交換体等からなるアニオン交換体及びカチオン交換体を混合もしくは複層状に充填した電気脱イオン装置が多用されている(特許第1782943号、特許第2751090号、特許第2699256号)。なお、図3(a)において、17は陽極室、18は陰極室である。
【0003】
電気脱イオン装置は、水解離によってH+イオンとOH−イオンを生成させ、脱塩室内に充填されているイオン交換体を連続して再生することによって、効率的な脱塩処理が可能であり、従来から広く用いられてきたイオン交換樹脂装置のような薬品を用いた再生処理を必要とせず、完全な連続採水が可能で、高純度の水が得られるという優れた効果を発揮する。
【0004】
しかしながら、浄水場等で河川水、地下水等を除濁、脱塩素、軟化処理した水道水を電気脱イオン装置の被処理水として直接用いた場合、
▲1▼ 濃縮室内でのスケール発生
▲2▼ CO2負荷増大による処理水導電率の悪化
が起こることから、従来において、水道水を直接電気脱イオン装置の被処理水として通水することは行われていない。
【0005】
上記▲1▼,▲2▼の問題点のうち、▲2▼のCO2負荷の増大については、比較的安価な脱炭酸装置を電気脱イオン装置の前処理装置として用いることにより解決できる。しかし、▲1▼のスケールを防止するためには更に軟化装置等を設置して水中の硬度成分を完全に除去することが必要となるが、軟化装置を用いた場合にはその再生が必要となり、再生不要の電気脱イオン装置を用いることによる利点が失われてしまう。
【0006】
このような問題点を解決するために、従来から電気脱イオン装置の前処理装置として、硬度成分及びCO2濃度を低減させるために、一般的に逆浸透膜装置(RO膜装置)を設置する方法が用いられている。
【0007】
なお、特公平7−57308号公報には、処理水量及び処理水質の向上のために、脱塩室内にバイポーラ膜を設けることが記載されているが、スケール防止についての検討はなされていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、RO膜装置は1〜2MPaという高圧で運転することから、高価な設備が必要となり、運転費用も上昇する。そして、このことが電気脱イオン装置が広く一般産業ないし民生用の脱イオン水の製造装置として普及していくために解決すべき課題となっていた。
【0009】
しかも、電気脱イオン装置の前処理装置としてRO膜装置を用いた場合でも、RO膜からわずかにリークしてくるカルシウムによって、電気脱イオン装置の濃縮室内で炭酸カルシウムスケールが発生するため、長期間安定運転を行うことはできないという問題もあった。
【0010】
本発明は上記従来の問題点を解決し、被処理水中に硬度成分が含まれていても、スケールを発生させることなく、長期間安定に運転することができる電気脱イオン装置を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の電気脱イオン装置は陰極と陽極との間に、複数のアニオン交換膜とカチオン交換膜とを交互に配列して濃縮室と脱塩室とを交互に形成してなり、被処理水から高純度の脱イオン水を製造する電気脱イオン装置において、該濃縮室にバイポーラ膜よりなる炭酸カルシウムスケール防止手段を設けて、該濃縮室内を陰極側と陽極側とに区画した電気脱イオン装置であって、該脱塩室内にアニオン交換体及びカチオン交換体を充填しており、該炭酸カルシウムスケール防止手段は、アニオン交換膜側の脱塩室から該濃縮室内に透過してきた炭酸水素イオンと、カチオン交換膜側の脱塩室から該濃縮室内に透過してきたカルシウムイオンとを遮断することにより、該濃縮室内における該アニオン交換膜の表面又はその近傍に炭酸カルシウムスケールが発生することを防止するものであることを特徴とする。
【0012】
本発明の電気脱イオン装置におけるスケール防止機構を説明するに先立ち、まず、従来の電気脱イオン装置において、スケールが発生するメカニズムを図3(b)を参照して説明する。
【0013】
電気脱イオン装置のスケール発生因子として最も問題となるのが炭酸カルシウムである。電気脱イオン装置では、濃縮室の供給水として一般的に被処理水が分岐して用いられる。この濃縮室内においては、カチオン交換膜14側の脱塩室からカルシウムイオン(Ca2+)がイオン交換されて透過し、電気的作用によってアニオン交換膜13の表面に近づいてくる。一方、アニオン交換膜13側の脱塩室からは炭酸水素イオン(HCO3 −)が透過し、濃縮室内ではカルシウムイオンと炭酸イオンによって炭酸カルシウム(CaCO3)が形成される。
【0014】
一般に、炭酸カルシウムの飽和条件は下記式で表される。
log[Ca2+]+log[HCO3 −]+pHs=log(Ks/K2)
Ks:炭酸カルシウムの溶解度積
K2:炭酸の第2解離定数
pHs:炭酸カルシウムの飽和pH
実際の水溶液中のpHと炭酸カルシウムの飽和pH(pHs)との差はランジェリア指数(LSI)と呼ばれ、
LSI=pH−pHs>0
となると炭酸カルシウムが析出することになる。
【0015】
電気脱イオン装置の濃縮室内にもアニオン交換膜13側から脱塩室内の水解離で発生したOH−イオンが透過してくるため、局所的にアルカリ性となっている。そのため、アニオン交換膜13の表面でのLSIは正(>0)となることから、この濃縮室内のアニオン交換膜13の近傍、炭酸カルシウムスケールが析出することになる。
【0016】
このような濃縮室内での炭酸カルシウムスケールの発生を防止するために、本発明者らは種々研究を重ねた結果、濃縮室内をバイポーラ膜で区画することによってこの問題が解決できることを見出した。
【0017】
バイポーラ膜とは陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とが貼り合わさった構造とされた複合膜の一種である。バイポーラ膜は、水の電気分解に用いる隔膜として、或いは、酸とアルカリの中和生成物である塩の水溶液から酸とアルカリを再生する際の分離膜等として従来より広く使用されている公知のイオン交換膜であり、種々の製造方法が提案されている。
【0018】
本発明においては、このようなバイポーラ膜を電気脱イオン装置の陽極側にバイポーラ膜のアニオン交換膜面が、陰極側にバイポーラ膜のカチオン交換膜面が位置するように濃縮室内に設置する。なお、バイポーラ膜内では理論水電解電圧(0.83V)以上の電圧を印加することによって、水解離が発生するので電流は流れる。このため、バイポーラ膜を濃縮室内に設置することで電気脱イオン装置の脱イオン性能が損なわれることはない。
【0019】
本発明に従って、図1(b)に示す如く、濃縮室内にバイポーラ膜20を配置すると、アニオン交換膜13側の脱塩室から濃縮室内に透過してきた炭酸水素イオンと、カチオン交換膜14側から透過してきたカルシウムイオンとは、それぞれバイポーラ膜20のカチオン交換膜20Aとアニオン交換膜20Bにより遮断されるため、濃縮室内で炭酸カルシウムを形成することはない。このため、濃縮室内での炭酸カルシウムスケールの発生は防止される。
【0020】
しかし、濃縮室内にバイポーラ膜を配置した場合であっても、水道水のようにカルシウム濃度の高い水を処理する場合には、スケールが発生する恐れがあるため、この場合には、脱塩室から得られる脱イオン水の一部を濃縮室に導入して、濃縮室循環水を脱イオン水で希釈してカルシウム濃度を低減することが好ましい。
【0021】
本発明の電気脱イオン装置を用いることにより、従来、用いられてきたRO膜装置による前処理を行うことなく、安定した脱イオン処理が可能となる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下に図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0023】
図1は本発明の電気脱イオン装置の実施の形態を示す構成図、図2は同系統図である。図1において、図3に示す部材と同一機能を奏する部材には同一符号を付してある。
【0024】
本発明の電気脱イオン装置は、濃縮室15内にバイポーラ膜20を設けて、濃縮室15内を陰極側と陽極側とに区画したこと以外は図3に示す従来の電気脱イオン装置と同様の構成とされている。
【0025】
前述の如く、このバイポーラ膜20は、陽極11側にバイポーラ膜20のアニオン交換膜20B側が、陰極12側にバイポーラ膜20のカチオン交換膜20A側が位置するように濃縮室15内に設置する。
【0026】
これにより、図1(b)に示す如く、アニオン交換膜13側の脱塩室から透過してきた炭酸水素イオンと、カチオン交換膜14側から透過してきたカルシウムイオンとは、それぞれバイポーラ膜20のカチオン交換膜20Aとアニオン交換膜20Bにより遮断されるため、これらが反応することによる炭酸カルシウムのスケールの発生は防止される。
【0027】
なお、本発明で用いるバイポーラ膜としては、陰イオン交換層と陽イオン交換層とを有し、水電解効率が高いものであれば良く、特に制限はない。
【0028】
本発明の電気脱イオン装置は、濃縮室にこのようなバイポーラ膜を用いること以外は、従来の電気脱イオン装置と同様の構成とされ、脱塩室16内には、イオン交換繊維もしくはグラフト交換体等からなるアニオン交換体及びカチオン交換体を混合もしくは複層状に充填されていることが、得られる脱イオン水の向上の面で好ましい。このようなイオン交換体は、濃縮室や電極室に充填しても良い。
【0029】
本発明の電気脱イオン装置では、上述の如く、濃縮室にバイポーラ膜を設けることで、濃縮室内での炭酸カルシウムスケールを有効に防止することができるが、この場合においても、水道水のようにカルシウム濃度の高い水を処理する場合には、スケールが発生する恐れがある。従って、この場合には、図2に示す如く、脱塩室32から得られる脱イオン水の一部を濃縮室33に導入して、濃縮室33の循環水を脱イオン水で希釈してカルシウム濃度を低減することが好ましい。同様に電極室31内の水についても、脱イオン水を用いることが好ましい。
【0030】
また、濃縮室に導入する被処理水のみ軟化処理するようにしても良く、この場合には、軟化装置が必要となるが、全ての被処理水を軟化処理する場合に比べてその処理コストは大幅に低減される。
【0031】
【実施例】
以下に比較例及び実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0032】
なお、以下の比較例及び実施例で用いた試験装置は、下記の装置を活性炭装置、電気脱イオン装置の順で直列に配置したものである。
【0033】
比較例1
電気脱イオン装置のイオン交換膜及び脱塩室に充填するイオン交換樹脂として次のものを用い、市水を被処理水として表1に示す条件で通水を行い、得られた処理水の導電率0.2μs/cm、及び濃縮室流量を25L/hrで通水したときの濃縮室の差圧の経時変化を調べ、結果を表1に示した。なお、濃縮室循環水の補給水及び電極室水としては、被処理水を用いた。
アニオン交換膜: 旭化成工業(株)「アシプレックスA501SB」
カチオン交換膜: 旭化成工業(株)「アシプレックスK501SB」
イオン交換樹脂: アニオン交換樹脂;三菱化学(株)製「SA10A」とカチオン交換樹脂;三菱化学(株)製「SK1B」とを体積混合比率6:4で混合したもの。
【0034】
実施例1
比較例1で用いた電気脱イオン装置の濃縮室にバイポーラ膜を設けて図1に示す電気脱イオン装置を組み立て、この電気脱イオン装置を用いたこと以外は同様にして、表1に示す通水条件で試験を行い、結果を表1に示した。
【0035】
なお、バイポーラ膜としては特許第2524012号の実施例1に示された方法、すなわち徳山ソーダ製カチオン交換膜(CMB)を塩化第一鉄水溶液に25℃で1時間浸漬した後、イオン交換水で十分に洗浄して、風乾した後、ポリマー被膜法によりカチオン交換膜表面に4級塩基化したアミノ基を含むポリマーを塗布して製作したものを用いた。
【0036】
実施例2
実施例1において、図2に示す如く、被処理水の代りに脱塩室から得られた脱イオン水の一部(20%)を濃縮室循環水の補給水及び電極室水として送給したこと以外は、同様にして、表1に示す通水条件で試験を行い、結果を表1に示した。
【0037】
【表1】
【0038】
表1より明らかなように、比較例1の電気脱イオン装置では1週間で濃縮室側の差圧が上昇してしまい、運転不能となったが、実施例1、2の電気脱イオン装置では、3ヶ月間安定して運転することができた。特に実施例2の電気脱イオン装置では、脱イオン水を濃縮水として循環したことにより、差圧の上昇は殆ど起こらなかった。
【0039】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明の電気脱イオン装置によれば、水道水のように硬度成分を含む水を処理する場合においても、濃縮室内での炭酸カルシウムスケールの発生を有効に防止することができ、長期間に亘って安定した運転を継続できる。このため、本発明の電気脱イオン装置によれば、従来、前処理装置として必要とされていたRO膜装置を省くことができ、設備コスト、処理コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電気脱イオン装置の実施の形態を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明の電気脱イオン装置の実施の形態を示す系統図である。
【図3】従来の電気脱イオン装置を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
10 イオン交換体
11 陽極
12 陰極
13 アニオン交換膜
14 カチオン交換膜
15 濃縮室
16 脱塩室
17 陽極室
18 陰極室
20 バイポーラ膜
20A カチオン交換膜
20B アニオン交換膜
Claims (4)
- 陰極と陽極との間に、複数のアニオン交換膜とカチオン交換膜とを交互に配列して濃縮室と脱塩室とを交互に形成してなり、被処理水から高純度の脱イオン水を製造する電気脱イオン装置において、
該濃縮室にバイポーラ膜よりなる炭酸カルシウムスケール防止手段を設けて、該濃縮室内を陰極側と陽極側とに区画した電気脱イオン装置であって、
該脱塩室内にアニオン交換体及びカチオン交換体を充填しており、
該炭酸カルシウムスケール防止手段は、アニオン交換膜側の脱塩室から該濃縮室内に透過してきた炭酸水素イオンと、カチオン交換膜側の脱塩室から該濃縮室内に透過してきたカルシウムイオンとを遮断することにより、該濃縮室内における該アニオン交換膜の表面又はその近傍に炭酸カルシウムスケールが発生することを防止するものであることを特徴とする電気脱イオン装置。 - 請求項1において、該バイポーラ膜は、アニオン交換層面が陽極側に、カチオン交換層面が陰極側に位置するように設けられていることを特徴とする電気脱イオン装置。
- 請求項1又は2において、該脱塩室の流出水の一部を該濃縮室の流入側へ供給する流路を設けたことを特徴とする電気脱イオン装置。
- 請求項1ないし3のいずれか1項において、該被処理水は水道水であることを特徴とする電気脱イオン装置。
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