JP4397451B2 - 透明導電性薄膜及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は液晶ディスプレイ等の表示デバイスや太陽電池等の透明電極として使用できる透明導電性薄膜及びその製造方法に関し、特に、超高導電性を有する透明導電性薄膜及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
透明電極材料にはITO(Indium Tin Oxide)、ATO(Antimony doped Tin Oxide)、AZO(Aluminum doped Zinc Oxide)などがあり、液晶ディスプレイには主にITOが、太陽電池には主にATOが用いられている。しかし、液晶ディスプレイの大型化と高精細化が進むに連れて、ITOの導電率を高める必要性が生じている。例えば、STN型液晶ディスプレイの場合、透明電極は信号電極を兼ねており、ストライプ状の形状をしている。ディスプレイの大型化はストライプが長くなることを意味し、高精細化はストライプが細くなることを意味する。このため、ストライプ端点間の抵抗値が大きくなり、電圧降下を生じるので、液晶分子の適切なスイッチングか困難になる。また例えば、TFT型液晶ディスプレイの場合、信号電極には金属材料を用いるのが通常であるが、素子構成を単純化して製造工程を単純化し、ひいては製造コストを圧縮するために、信号電極としても透明電極が用いられ始めている。しかしこの場合にもディスプレイが大型化し、または、高精細化するに連れて電極端点間の抵抗値が増大するので、現状では対角11インチ以下のディスプレイに対してのみ、透明電極を信号電極として用いることができるにとどまっている。
【0003】
また、太陽電池の場合には、高効率化が最大の課題である。効率の向上に寄与する主な要素は、▲1▼材料に入射した光エネルギーの有効な閉じこめ、▲2▼光生成キャリアの有効な収集と光起電力効果への寄与の増大、▲3▼光生成キャリアの再結合損失の軽減、▲4▼直列抵抗損失の軽減、▲5▼電圧因子損失の軽減、▲6▼より広い光エネルギースペクトルの収集などがある。透明電極の電気抵抗は電池の直列抵抗損失として作用し、特に大面積の素子に対してはその変換効率に大きく影響を与える。そこで、太陽電池の場合にも、透明電極の導電率を高めることが求められている。
【0004】
透明電極の導電率を高めるために、導電率の限界を支配する機構であるイオン化不純物散乱の現象を抑制することにより、高い導電率を実現しようとする方法が提案されている。例えば、Raufは温度勾配を付けた基板上に、電子ビーム蒸着法によりITO薄膜を載せた(J.Mater.Sci.Lett.12,1902〜1905(1993))。これは単結晶精製に用いられるゾーン・リファイニング法を応用したもので、温度勾配にしたがって温度の高いところから低いところへ、不純物Snイオンが移動し、Sn濃度の高い部分と低い部分が形成される。Sn濃度の高い部分で生成したキャリアが低濃度部分に染み出して移動するならば、低濃度部分でのイオン化不純物散乱の頻度は小さいので、移動度の低下が抑えられることになる。Raufはこの方法により2×105S/cmという非常に高い導電率を得たと報告している。
【0005】
Raufの方法では、膜の面内方向にSn濃度の高低がストライプ状に形成されるので、膜の面内方向に導電率の異方性が生まれる。そこでSn濃度の高低を、膜の厚さ方向に作製すれば、膜の面内方向の異方性を解決できると考えられる。すなわち、Sn濃度の高いキャリア生成層とSn濃度の低いキャリア移動層を交互に積層する構造である。このような構造を有する透明導電性薄膜は、キャリア生成とキャリア移動の二つの機能を有する層を交互に積層した薄膜であるので、本明細書では交互積層型透明導電性薄膜と呼ぶことにする。
【0006】
このような交互積層構造を持ち、高い導電率を有する透明導電性薄膜が、大野らによって提案されている(特開平6−103817号公報)。大野らの薄膜は、伝導キャリア濃度の高い層(キャリア生成層)と伝導キャリア濃度の低い層(キャリア移動層)を交互に積層し、かつキャリア生成層の厚みを20nm以下としたものである。大野らはこの膜を、蒸着法やスパッタリング法などで作製できるとし、特にイオンビームスパッタ法が有力な方法であると述べている。イオンビームスパッタ法は、膜表面がプラズマに曝されることが無く、また、大面積への均質な成膜も可能であるからである。
【0007】
また、福吉らは、キャリア高移動度膜(キャリア移動層)とキャリア高濃度膜(キャリア生成層)を交互に積層した薄膜において、キャリア移動層の基材の金属酸化物の金属よりも仕事関数の小さい金属をドーパントとしてキャリア移動層に添加した薄膜を提案した(特開平8−69981号公報)。福吉らは、キャリア生成層として銀などの金属を考え、キャリア移動層としてSnを添加していないIn2O3層(IO層)やITO層を考えた。さらに、Ag層とIO層またはITO層の界面に、ある種の拡散電位が生じているか、もしくは界面準位のディストーションが生じていると仮定し、ジルコニウムなどをIO層またはITO層に添加することによって、IO層またはITO層の仕事関数を下げることによって、透明性と導電性を向上させることができたとしている。成膜法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などが例示されている。
【0008】
さらに福吉らは、ドーパント高濃度薄膜(キャリア生成層)として10重量%の酸化錫が添加された酸化インジウム膜を選び、ドーパント低濃度薄膜(キャリア移動層)として0.3重量%の酸化錫が添加された酸化インジウム膜を選んで、これらを互いに隣接してスパッタ法にて成膜し、そののち加熱アニーリング処理して、一層のキャリア移動層を二層のキャリア生成層で挟み込んだ、三層構造からなる透明導電膜を提案した(特開平8−43841号公報)。この透明導電膜においては、三層が相互に作用し合うため、全体として高い導電性が得られるとしている。
【0009】
なお、キャリアの生成と移動に関する概念を基礎にはしていないが、同様の積層構造が谷口らによって提案されている(特開平6−60723号公報)。谷口らは、ITOの成膜工程において、薄膜は成長初期においては二次元成長するが、膜厚が厚くなるにつれて三次元成長に移動し、結晶配向が(001)から(211)に変化し、電気光学的特性が劣化することを発見した。そこで谷口らは、二次元成長が支配的で、かつ(100)配向している部分のみを有効に利用するため、透明絶縁膜であるIO膜を、ITO膜と交互に積層し、多層構造とすれば、積層数を増やすに連れて導電率を向上しうることを見出した。成膜法には、スパッタリング法を用いている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
キャリア生成機能を担うITO層とキャリア移動機能を担うIO層を交互に積層して透明導電性薄膜とする方法は、不純物Snイオンによるキャリア電子の散乱現象を原理的に回避しようとする点で優れているが、大野らが指摘しているように一層の膜厚は20nm程度でなくてはならず、また福吉が指摘しているように、二つの層の界面にはポテンシャルの変形が生じるので、極めて薄い膜を、界面粗さを極めて小さく抑えて作製しなければ、意図した高い伝導率を実現することは困難である。
【0011】
例えば、スパッタリング法は、大野らが上記公報中で指摘しているように、膜表面がプラズマに曝されていることから、プラズマによる損傷を受けやすい。すなわち、プラズマ中には、散乱反射中性イオン、スパッタリング中性粒子、正の二次イオン、負の二次イオン、および、高エネルギー中性散乱粒子が存在している。このうち、負の二次イオンと高エネルギー中性散乱粒子は高エネルギー粒子と呼ばれ、高エネルギーをもって基板を衝撃する。高エネルギー粒子の基板衝撃は、再スパッタリングを引き起こすほどのものであって、薄膜に大きなダメージを与える(石橋啓次、セラミックス、33巻、10号、801頁、1998年)。このため、界面粗さは非常に大きくなり、交互積層型透明導電性薄膜の製造方法として適さない。
【0012】
また例えば、蒸着法は、大野らが上記公報中で指摘しているように、基板面内に均質に成膜することが難しい。このため、キャリア移動層やキャリア生成層の厚みを、20nmといった領域において精密に制御することが困難であり、交互積層型透明導電性薄膜の製造方法として適さない。
【0013】
これらに対して、イオンビームスパッタ法は、大野らが上記公報中で指摘しているように、膜表面がプラズマに曝されることが無く、均質な成膜が可能である点で、交互積層型透明導電性薄膜の製造方法として適している。しかし、この方法はせいぜい数kVの電圧で加速したイオンビームをターゲットに照射して、スパッタリング中性粒子をターゲットから叩き出す方法であるので、スパッタリング中性粒子の持つ運動エネルギーは数10eVに過ぎず、基板表面に衝突すると容易にエネルギーを失うため、薄膜の結晶性を十分に高められない傾向がある。キャリア移動層の結晶性が十分に高くない場合には、交互積層型透明導電性薄膜の移動度を充分に高めることができない。また、キャリア生成層の結晶性が十分に高くない場合には、交互積層型透明導電性薄膜のキャリア濃度を十分に高めることができない。移動度もしくはキャリア濃度が十分に高くなければ、交互積層型透明導電性薄膜の導電率を十分に高くすることはできない。
【0014】
本発明の目的は、キャリア移動層とキャリア生成層を交互に積層してなる透明導電性薄膜において、充分に結晶性が高く、移動度が高く、キャリア濃度が高い薄膜と、その製造方法を提供することである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため本発明は以下の構成としてある。
【0016】
(構成1)キャリア生成層とキャリア移動層とを交互に積層してなる薄膜であって、それぞれの層の界面における表面粗さが自乗平均平方根粗さRmsで10nm以下であることを特徴とする透明導電性薄膜。
【0017】
(構成2)キャリア生成層とキャリア移動層とを交互に積層してなる薄膜であって、それぞれの層の界面における表面粗さが自乗平均平方根粗さRmsで3nm以下であることを特徴とする透明導電性薄膜。
【0018】
(構成3)それぞれの層の厚みが30nm以下であり、かつ、2nm以上であることを特徴とする構成1又は2記載の透明導電性薄膜。
【0019】
(構成4)構成1乃至3の透明導電性薄膜において、キャリア生成層がIn2O3、ZnO及びSnO2のうちの一つであり、キャリア移動層がドーパントを添加した、In2O3、ZnO及びSnO2のうちの一つであることを特徴とする透明導電性薄膜。
【0020】
(構成5)パルスレーザー蒸着法を用い、基板上に、In2O3、ZnO又はSnO2からなるキャリア生成層と、ドーパントを添加した、In2O3、ZnO又はSnO2からなるキャリア移動層と、を交互に積層することを特徴とする透明導電性薄膜の製造方法。
【0021】
(構成6)前記基板が、YSZ単結晶基板であることを特徴とする構成5記載の透明導電性薄膜の製造方法。
【0022】
(構成7)キャリア生成層とキャリア移動層とを、一原子層毎に原子層成長モードで交互に積層することを特徴とする構成5又は6記載の透明導電性薄膜の製造方法。
【0023】
本発明では、交互積層型透明導電性薄膜の成膜方法として、パルス・レーザー・蒸着法(PLD法:Pulsed Laser Deposition法)を用いる。PLD法は、レーザー光を原料蒸発源とする物理的成膜法の一つであり、高出力パルスレーザー光をターゲット表面に集光・照射し、光・固体相互作用により、ターゲット最表面を瞬時に2000℃以上の高温に加熱する。そのとき起こる極表層部での構成元素の瞬間的な剥離(アブレーション)を利用して、アブレートされた原子、分子、イオンやクラスターを基板上に堆積させる。ターゲット上でプラズマ発光柱(プルーム)の発生が観察されることから、単なる熱的な過程だけでなく、光イオン化過程が複雑に関与していると言われる。PLD法は、スパッタ法や蒸着法などの他の物理的成膜法に比べて、極めて清浄なプロセスであり、酸素圧を高く設定することができ、膜厚の制御性が良い点で優れている。
【0024】
ターゲットには高純度In2O3の焼結体や圧粉体、高純度In金属、高純度ITOの焼結体や圧粉体、高純度InSn合金などを用いることができる。圧粉体の場合には、ターゲットの調製が容易であるが、真空容器内が粉体で汚れやすいという欠点がある。また、金属の場合には、純度を非常に高くすることが可能であるが、レーザー光を反射するために効率的に蒸発が起こらないという欠点がある。焼結体については、近年、緻密化の技術が進み、相対密度99%以上、純度99.99%程度のものが市販されるに至っており、真空容器を汚しにくく、レーザー光を反射しない点で優れている。
【0025】
真空容器の真空到達度は、少なくとも1×10-7Torr以下とすることが好ましい。これより真空度が低いと、真空容器中のガスはH2Oが支配的となり、ターゲットや基板の表面に多量に付着して、作製するIn2O3薄膜の特性を劣化させる怖れがある。できれば、真空到達度が1×10-7〜1×10-10Torrに至る、超高真空容器を用いることが好ましい。排気用ポンプには、分子ターボポンプもしくはソープションポンプが適当である。成膜中にO2ガス等の酸化性ガスを流すためである。真空容器中には、ターゲットを設置し、これに対向する位置に基板を配置する。ターゲットと基板の間の距離は、通常、数cmから10cm程度である。ターゲットは自転させることが好ましい。レーザー光の照射によって照射部分が蒸発するため、凹部が形成されるからである。また、基板も自転させることが好ましい。レーザー光の照射によってターゲット表面から爆発的に蒸発する物質は、プルームと呼ばれる気球形状の発光を伴うが、プルームの径はせいぜい数cmから10cm程度に過ぎず、その範囲内で物質が基板上に堆積するためである。より広い面積に、均一に成膜することを意図するならば、基板を回転させることが好ましいのである。レーザー光は、ターゲット表面に焦点を絞るように導入する。焦点の面積とレーザー光のエネルギー値とから、ターゲットに入射するレーザー光のパワー密度が求まる。パワー密度が低すぎれば、爆発的な蒸発現象が起こらず、薄膜を作製することができない。パワー密度が高すぎれば、成膜速度が大きくなりすぎて、良好な膜質が得られなくなるなどの問題が生じる。そこで適当なパワー密度が得られるように、レーザ光の焦点面積とエネルギーとを調節する必要がある。レーザー光の波長は紫外領域のものを選ぶのが通常である。可視領域の光はターゲットに吸収されないので、爆発的な蒸発が起こらない。紫外レーザーとしては通常、XeCl、KrF、ArF等のエキシマーレーザーや、Nd:YAGレーザーの4倍波などを用いる。Nd:YAGレーザーの様に連続光を発振できるものは、連続光のまま入射させても良いが、モードロック方式やQスイッチ方式によってパルス状に発振させた方が、エネルギーの尖塔値が高くなり、爆発的な蒸発現象を、より効率的に誘起することができる。
【0026】
基板温度は200℃〜1000℃の範囲に選び、酸素分圧は0〜1kPaの間で選ぶ。200℃以下では、酸化インジウム相の結晶化が進行せず、1000℃以上では酸化インジウムの気化が進行して膜質が悪化する。この温度範囲内では、基板温度を高くするほど、酸化インジウム薄膜の結晶性は向上し、粒子径が大きくなる傾向がある。粒子形状は、200℃〜500℃の領域では球形であるが、500℃以上とすると、次第に酸化インジウムの結晶構造を反映して立方形に変化する。粒子が大きくなりすぎると、表面粗さが大きくなりすぎて好ましくない。本発明の交互積層透明導電性薄膜の表面粗さは、自乗平均平方根粗さRmsで表現すると、10nm以下であり、好ましくは3nmであり、さらに好ましくは1nm以下である。本発明においては各層を交互に積層するので、成膜途中における薄膜の表面粗さは、成膜終了時における薄膜の各層の間の界面粗さに対応する。
【0027】
各層の厚みは、ターゲットに照射されるレーザー光のエネルギー密度や照射パルス数によって制御することができる。各層の厚みは30nm以下、かつ2nm以上でなければならない。30nm以上では、キャリア生成層からキャリア移動層にキャリアが有効に染み出さず、充分に高い導電率を得ることができない。2nm以下ではキャリア生成とキャリア移動の機能を十分に分離できず、充分に高い伝導率を得ることができない。各層の厚みは好ましくは20nm以下、5nm以上である。
交互積層の層数(各層の合計層数)は2〜100層程度が好ましく、2〜30層程度がさらに好ましい。1層では当然積層効果は現れない。層数が増えるとプロセスが複雑になる。積層の層数は、全膜厚と各層の好ましい厚みとの兼ね合いで決める。
【0028】
特にレーザー光のエネルギー密度やターゲット基板間距離を適切に制御することによって、薄膜の堆積速度を十分に小さくすると、酸化インジウムが一格子ずつ堆積して一つのテラスを作った後に、次のテラスを作るべく、再び一格子ずつ堆積するという、いわゆる原子層成長モードを達成することができる。このような原子層成長モードが実際に実現しているか否かは、例えば成長途中の薄膜の表面モフォロジーを、原子間力顕微鏡で観察したり、高速電子線による回折強度をモニタリングすることによって判断することができる。原子層成長モードでは、薄膜が一格子単位でテラス状に成長するために、基板全域にわたって、極めて良い精度で、均一な膜厚を実現することができる。このことは、交互積層透明導電性薄膜の高い導電率を得る上で、極めて有効な事実である。
【0029】
交互積層透明導電性薄膜は、単結晶基板やガラス基板等の上に形成する。単結晶基板の結晶性は良好であることが好ましく、In2O3結晶と対称性が合い、格子定数が合い、ヘテロエピタキシャル成長に適合するものであることが好ましい。また、単結晶基板は、成膜前に、高温における熱処理または酸によるエッチング処理によって、基板表面を原子オーダーで超平坦化しておくことが好ましい。例えば、YSZ(Yttrium Stabilized Zirconia:イットリウム安定化ジルコニア)単結晶基板の場合、熱処理によって超平坦化することが可能であり、熱処理の温度域は1200℃以上1500℃以下とすることが好ましい。1200℃以下では、YSZの蒸気圧が低すぎて超平坦化が困難であり、1500℃以上では、YSZの蒸気圧が高すぎて基板表面に突起が形成される。好ましくは1300℃〜1400℃の範囲で処理することが適当である。YSZ単結晶の面方位は、(100)面でもよく(111)面でもよく、また他の面でもIn2O3格子と対称性と格子定数が合う面であればよい。(100)面を選ぶ場合には、立方形状のIn2O3結晶子が緻密に整列する。(111)面を選ぶ場合には、In2O3結晶子は(111)方位を基板法線方向に向け、(100)面を表面に露出した三角錐状の構造を作り、緻密に整列する。このため、正三角形状の断面が原子間力顕微鏡や走査電子顕微鏡によって観察される。
【0030】
ガラス基板の上に作製する場合には、YSZ等の単結晶基板の場合と異なって、基板に結晶性がないため、ヘテロエピタキシャル成長を実現することができない。このため、In2O3膜には配向性がなく、多結晶となり、移動度が小さくなる傾向がある。配向性が重要な場合には、例えばガラス基板上にZnOのc軸配向膜を作製し、その上にIn2O3膜を形成するならば、In2O3の(111)方位を向いた配向膜が得られる。ZnOのc軸配向膜は、パルスレーザー蒸着法の他、スパッタ法、CVD法によって作製することができ、市販もされている。
【0031】
【実施例】
以下、実施例により、本発明を説明する。
【0032】
実施例1
日本真空技術(株)製レーザーアブレーション用超高真空容器にYSZ単結晶基板(001)面(フルウチ化学(株)製)を設置し、IRランプヒーターによって800℃に加熱した。容器中に1.2×10-3Paの酸素を導入し、ラムダフィジクス(株)製KrFエキシマーレーザー光を高純度In2O3ターゲット(東ソー(株)製)に照射、ターゲットから30mm離して対向させた基板上にIOを堆積させた。膜厚は200nmとした。理学電機製X線回折装置により、試料の回折パターンを測定し、高配向性の薄膜となっていることが明かとなった。ファンデアパウ法により電気特性を測定した結果、基板温度を上げるに従い移動度が増大し、YSZ基板上で、800℃で81cm2/Vsの移動度を得た。キャリア密度は4×1018/cm3、導電率は47S/cmであった。
【0033】
次にターゲットを高純度ITOターゲット(東ソー(株)製、SnO2を5重量%含有)に交換し、同じ条件でレーザー光を照射、新しいYSZ(100)単結晶基板上に、200nmのITOを積層させた。X線回折パターンは、高配向性の薄膜となっていることを示し、ファンデアパウ法による測定の結果、7×1020/cm3のキャリア密度を得た。移動度は36cm2/Vs、導電率は3850S/cmであった。
【0034】
さらに新しいYSZ(100)単結晶基板を用意し、上記の条件で、まずIO層を20nm積層し、続いてITO層を20nm積層した。交互の積層をさらに3回繰り返して、厚みが160nmでYSZ/IO/ITO/IO/ITO/IO/ITO/IO/ITOの構造を有する交互積層型薄膜を形成した。X線回折パターンは高配向性の薄膜となっていることを示しており、ファンデアパウ法による測定の結果、移動度70cm2/Vs、キャリア密度4×1021/cm3、導電率4500S/cmの特性が得られた。また、交互積層透明導電性薄膜の表面粗さは自乗平均平方根粗さRmsで10nm以下であった。
なお、交互積層透明導電性薄膜表面の表面粗さを自乗平均平方根粗さRmsで0.3nm以下としたところ、X線回折パターンは高配向性の薄膜となっていることを示しており、ファンデアパウ法による測定の結果、移動度70cm2/Vs、キャリア密度6×1020/cm3、導電率6700S/cmの特性が得られた。
【0035】
比較例1
IO成膜時に基板加熱温度を800℃とし、酸素分圧を3×10-4Paとして、IO膜の表面粗さを自乗平均平方根粗さRmsで10nm超としたこと以外は実施例1と同様にして、交互積層型薄膜を形成した。X線回折パターンは高配向性の薄膜となっていることを示しており、ファンデアパウ法による測定の結果、移動度35cm2/Vs、キャリア密度3×1021/cm3、導電率1700S/cmの特性が得られた。
【0036】
比較例2
ターゲットに照射されるレーザー光のエネルギー密度、及び照射パルス数を制御して、各層の厚みを30nm超、及び、2nm未満としたこと以外は実施例1と同様にして、交互積層型薄膜を形成した。X線回折パターンは高配向性の薄膜となっていることを示しており、ファンデアパウ法による測定の結果、各層の厚みが30nm超の場合にあっては、移動度60cm2/Vs、キャリア密度1×1020/cm3、導電率960S/cmの特性が得られた。各層の厚みが2nm未満の場合にあっては、移動度35cm2/Vs、キャリア密度4×1021/cm3、導電率2240S/cmの特性が得られた。
【0037】
実施例2
パルスレーザー蒸着法を用い、YSZ単結晶基板上に、ZnOからなるキャリア生成層と、ドーパントとしてアルミニウムを添加したZnOからなるキャリア移動層と、を交互に積層して、交互積層型薄膜を形成した。X線回折パターンは高配向性の薄膜となっていることを示しており、ファンデアパウ法による測定の結果、移動度60cm2/Vs、キャリア密度9×1020/cm3、導電率860S/cmの特性が得られた。交互積層透明導電性薄膜の表面の表面粗さは自乗平均平方根粗さRmsで3nmであった。
【0038】
実施例3
パルスレーザー蒸着法を用い、YSZ単結晶基板上に、SnO2からなるキャリア生成層と、ドーパントとしてをSb添加したSnO2からなるキャリア移動層と、を交互に積層して、交互積層型薄膜を形成した。X線回折パターンは高配向性の薄膜となっていることを示しており、ファンデアパウ法による測定の結果、移動度50cm2/Vs、キャリア密度2×1021/cm3、導電率1600S/cmの特性が得られた。交互積層透明導電性薄膜の表面粗さは自乗平均平方根粗さRmsで4nmであった。
【0039】
以上実施例をあげて本発明を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではない。
【0040】
例えば、ターゲットや膜の組成、レーザーアブレーションによる成膜条件、膜の種類や組合せ、交互積層数、基板の種類等は、上記実施例に限定されず、適宜変更して実施できる。
また、得られた透明電極はエッチングなどによって任意のパターニングを施こすことができる。
【0041】
【発明の効果】
本発明によれば、キャリア移動層とキャリア生成層を交互に積層してなる透明導電性薄膜であって、充分に結晶性が高く、移動度が高く、キャリア濃度が高い透明導電性薄膜が得られる。
本発明の超高導電性透明導電性薄膜は、液晶ディスプレイの大型化や高精細化に寄与するばかりでなく、太陽電池の高効率化にも寄与し、社会の情報化と省エネルギー化を進める上で重要な技術を提供する。
Claims (5)
- キャリア生成層とキャリア移動層とを交互に積層してなる薄膜であって、それぞれの層の界面における表面粗さが自乗平均平方根粗さRmsで10nm以下であり、前記キャリア生成層がZnO及びSnO 2 のうちの一つであり、前記キャリア移動層がドーパントを添加したZnO及びSnO 2 のうちの一つであることを特徴とする透明導電性薄膜。
- キャリア生成層とキャリア移動層とを交互に積層してなる薄膜であって、それぞれの層の界面における表面粗さが自乗平均平方根粗さRmsで3nm以下であり、前記キャリア生成層がZnO及びSnO 2 のうちの一つであり、前記キャリア移動層がドーパントを添加したZnO及びSnO 2 のうちの一つであることを特徴とする透明導電性薄膜。
- それぞれの層の厚みが30nm以下であり、かつ、2nm以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の透明導電性薄膜。
- 前記透明導電性薄膜が、YSZ単結晶基板上に形成されてなることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の透明導電性薄膜。
- 基板上に、前記キャリア生成層と前記キャリア移動層とを交互に積層することにより請求項1乃至4いずれかに記載の透明導電性薄膜を形成することを特徴とする透明導電性薄膜の製造方法。
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