JP4396907B2 - 電荷輸送方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶性化合物を用いた新規な電荷輸送方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、エレクトロルミネッセンス素子を構成する正孔輸送材料や電荷輸送材料として、有機材料を使用した有機エレクトロルミネッセンス素子の研究が活発に行われている。
【0003】
このような、電荷輸送材料としては、従来より、アントラセン誘導体、アントラキノリン誘導体、イミダゾール誘導体、スチリル誘導体、ヒドラゾン誘導体、トリフェニルアミン化合物、ポリ−N−ビニルカルバゾールやオキサジアゾール等の化合物が知られている。
【0004】
液晶化合物は、表示材料として種々の機器で応用され、例えば、時計、電卓、テレビ、パソコン、携帯電話等で利用されている。液晶物質には、相転移を与える手段に基づいて、サーモトロピック液晶(温度転移型液晶)とリオトロピック液晶(濃度転移型液晶)に分類される。これらの液晶は分子配列的に見ると、スメクチック液晶、ネマチック液晶およびコレスチック液晶の三種類に分類される。液晶は異方性液体と別称されるように、光学的一軸性結晶と同様な光学的異方性を示す。オルソスコープ観測は通常の直交ニコル間の観察であり、液晶の種類の識別や液晶相の転移温度の決定に有用で、この観測により各液晶は特徴的な複屈折性光学模様により、更にスメクチック液晶は、A、B、C、D、E、F、G等に分類される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
半那らは、液晶相がスメクチック相を有する液晶性化合物が電荷輸送能を有し、これらを用いた電荷輸送材料を提案している。例えば、スメクチック液晶性を有し、且つ標準参照電極(SCE)に対し還元電位が−0.3〜−0.6(Vvs.SEC)の範囲にある液晶性電荷輸送材料(特開平09−316442号公報)、自己配向性を有するスメクチック相を示す液晶性化合物に、増感作用を有するフラーレンC70を所定量配合した液晶性電荷輸送材料(特開平11−162648号公報)、スメクチック相を示す液晶性化合物を有機高分子マトリックス中に含有させた液晶性電荷輸送材料分散型高分子膜(特開平11−172118号公報)、スメクチック液晶性化合物を含む混合物を含有させた液晶性電荷輸送材料(特開平11−199871号公報)、スメクチック液晶性を有し、且つ電子移動度または正孔移動度速度が1×10-5cm2 /v・s以上である液晶性電荷輸送材料(特開平10−312711号公報)、1分子中に分子間或いは分子内で新たな結合を形成し得る官能基と正孔及び/又は電子電荷輸送性を有す官能基を有するスメクチック液晶性化合物を含む液晶性電荷輸送材料(特開平11−209761号公報)等を提案している。
【0006】
上記で提案されたスメクチック液晶性化合物は、ベンゼン環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、トロポロン環等の6π電子系芳香環、ナフタレン環、アズレン環、ベンゾフラン環、インドール環、インダゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キナゾリン環、キノキサリン環等の10π電子系芳香族、又はフェナントン環、アントラセン等の14π電子系芳香環を有するスメクチック液晶性化合物を用い、スメクチックA相の液晶状態で、電荷の輸送を行うものである。これらスメクチックA相による電荷輸送の機構は、分子内の共役系の広がりを利用した電荷の輸送であり、従って、いずれも、光等によって、励起させた状態でないと優れた電荷輸送能を発現しないし、また電流密度も大きくてもナノA/cm2 オーダと言う低い値であった。
【0007】
本発明は、この様な従来技術に鑑みてなされたものであり、液晶相としてスメクチックB相を有する液晶性化合物にスメクチックB相の液晶状態で電圧を印加することにより、電流密度が高く電荷輸送能に優れた電荷輸送方法を提供することを目的とするものである。
【0008】
また、本発明は、液晶相としてスメクチック相を有する液晶性化合物にスメクチック相から降温して相転移した固体状態で電圧を印加することにより、電流密度が高く電荷輸送能に優れた電荷輸送方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、液晶相としてスメクチックB相を有する下記一般式(1)で表されるピペラジン系液晶性化合物にスメクチックB相の液晶状態で電圧を印加することを特徴とする電荷輸送方法である。
【化12】
(式中、R 1 は水素原子又はメチル基、R 2 は炭素数1〜22の直鎖状又は分岐状のアルキル基、Aはアルキレン基を示す。)
【0010】
また、本発明は、液晶相としてスメクチック相を有する下記一般式(6)で表される液晶性化合物にスメクチック相からの相転移で生じる固体状態で電圧を印加することを特徴とする電荷輸送方法である。
【化13】
(式中、R 3 は−C n H 2n+1 、−O−C n H 2n+1 又は下記一般式
【化14】
[R 1 は水素原子又はメチル基を示す。]で表される基を示す。R 4 は−C n H 2n+1 を示す。nは1〜18の整数を示す。)
【0011】
前記液晶性化合物は強塩基性部分を構造骨格に持つスメクチック液晶性化合物であるのが好ましい。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の第一の発明の電荷輸送方法は、液晶相としてスメクチックB相を有する液晶性化合物にスメクチックB相の液晶状態で電圧を印加することを特徴とする。
【0015】
この本発明の電荷輸送方法は、液晶相としてスメクチックB相を有する液晶性化合物をスメクチックB相の液晶状態で、電圧を印加することにより、光による励起させた状態にしなくとも、電圧の印加のみでより高い電荷輸送能を発現し、特に、強塩基性部分を構造骨格に持つ液晶性化合物を用いた場合には、該強塩基性部分、すなわち電子密度の高い部分を基本骨格に持つ液晶分子を、スメクチックB相という分子の重なりが密な液晶状態を用いて重ねることにより、スメクチックA相における様な共役系の大きな広がりがない状態で、従来の電荷輸送材料にない少なくともマイクロA/cm2 オーダの高い電流密度で電荷の輸送を可能すると言う新しい知見に基づいて完成されたものである。
【0016】
本発明の電荷輸送方法に用いられる液晶は、液晶相としてスメクチックB相を有する液晶性化合物であれば特に限定はなく、公知のものに対して適用することが出来る。また、スメクチックB相を有する液晶性化合物は、スメクチックB相のみを液晶相として持つものであっても、B相とB相以外のいくつかのスメクチック相をもつもの、例えば、A相とB相、A相とB相とC相を合わせ持つものの等のスメクチックB相を有するものであればよい。また、スメクチックB相を有する高分子液晶化合物であってもよい。
【0017】
また、本発明の電荷輸送方法で用いるスメクチックB相を有する液晶性化合物の中で、強塩基性部分を構造骨格に持つものが好ましく、単環式複素環を構造骨格に持つものが特に好ましい。
【0018】
好ましい単環式複素環としては、例えばピペリジン、ピペラジン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン等が挙げられ、この中でピペラジンを骨格構造に持つものが特に好ましい。
【0019】
より具体的には、下記一般式(1)
【0020】
【化2】
で表されるピペラジン系液晶性化合物がより好ましい。
【0021】
前記一般式(1)で表されるピペラジン系液晶性化合物の式中、R1 は水素原子またはメチル基を表す。
【0022】
R2 は炭素数1〜22の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示し、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基等が挙げられ、この中、炭素数8〜14のものが特に好ましい。
【0023】
Aはアルキレン基であり、好ましくは炭素数6〜10のものが好ましい。具体的には、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、エチルエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、オクタデシレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基等が挙げられる。
【0024】
前記一般式(1)で表されるピペラジン系液晶性化合物の好ましい化合物としては、
1−[ 4−(6−ヘプテニルオキシ)フェニル] −4−オクチルピペラジン、
1−[ 4−(6−ヘプテニルオキシ)フェニル] −4−ノニルピペラジン、
1−[ 4−(6−ヘプテニルオキシ)フェニル] −4−デシルピペラジン、
1−[ 4−(6−ヘプテニルオキシ)フェニル] −4−ウンデシルピペラジン、
1−[ 4−(6−ヘプテニルオキシ)フェニル] −4−ドデシルピペラジン、
1−[ 4−(6−ヘプテニルオキシ)フェニル] −4−トリデシルピペラジン、
1−[ 4−(6−ヘプテニルオキシ)フェニル] −4−テトラデシルピペラジン、
1−[ 4−(6−ヘプテニルオキシ)フェニル] −4−ペンタデシルピペラジン、
1−[ 4−(6−ヘプテニルオキシ)フェニル] −4−ヘキサデシルピペラジン、
1−[ 4−(6−ヘプテニルオキシ)フェニル] −4−ヘプタデシルピペラジン、
1−[ 4−(6−ヘプテニルオキシ)フェニル] −4−オクタデシルピペラジン、
【0025】
1−[ 4−(7−オクテニルオキシ)フェニル] −4−オクチルピペラジン、
1−[ 4−(7−オクテニルオキシ)フェニル] −4−ノニルピペラジン、
1−[ 4−(7−オクテニルオキシ)フェニル] −4−デシルピペラジン、
1−[ 4−(7−オクテニルオキシ)フェニル] −4−ウンデシルピペラジン、
1−[ 4−(7−オクテニルオキシ)フェニル] −4−ドデシルピペラジン、
1−[ 4−(7−オクテニルオキシ)フェニル] −4−トリデシルピペラジン、
1−[ 4−(7−オクテニルオキシ)フェニル] −4−テトラデシルピペラジン、
1−[ 4−(7−オクテニルオキシ)フェニル] −4−ペンタデシルピペラジン、
1−[ 4−(7−オクテニルオキシ)フェニル] −4−ヘキサデシルピペラジン、
1−[ 4−(7−オクテニルオキシ)フェニル] −4−ヘプタデシルピペラジン、
1−[ 4−(7−オクテニルオキシ)フェニル] −4−オクタデシルピペラジン、
【0026】
1−[ 4−(8−ノネニルオキシ)フェニル] −4−オクチルピペラジン、
1−[ 4−(8−ノネニルオキシ)フェニル] −4−ノニルピペラジン、
1−[ 4−(8−ノネニルオキシ)フェニル] −4−デシルピペラジン、
1−[ 4−(8−ノネニルオキシ)フェニル] −4−ウンデシルピペラジン、
1−[ 4−(8−ノネニルオキシ)フェニル] −4−ドデシルピペラジン、
1−[ 4−(8−ノネニルオキシ)フェニル] −4−トリデシルピペラジン、
1−[ 4−(8−ノネニルオキシ)フェニル] −4−テトラデシルピペラジン、
1−[ 4−(8−ノネニルオキシ)フェニル] −4−ペンタデシルピペラジン、
1−[ 4−(8−ノネニルオキシ)フェニル] −4−ヘキサデシルピペラジン、
1−[ 4−(8−ノネニルオキシ)フェニル] −4−ヘプタデシルピペラジン、
1−[ 4−(8−ノネニルオキシ)フェニル] −4−オクタデシルピペラジン、
【0027】
1−[ 4−(9−デセニルオキシ)フェニル] −4−オクチルピペラジン、
1−[ 4−(9−デセニルオキシ)フェニル] −4−ノニルピペラジン、
1−[ 4−(9−デセニルオキシ)フェニル] −4−デシルピペラジン、
1−[ 4−(9−デセニルオキシ)フェニル] −4−ウンデシルピペラジン、
1−[ 4−(9−デセニルオキシ)フェニル] −4−ドデシルピペラジン、
1−[ 4−(9−デセニルオキシ)フェニル] −4−トリデシルピペラジン、
1−[ 4−(9−デセニルオキシ)フェニル] −4−テトラデシルピペラジン、
1−[ 4−(9−デセニルオキシ)フェニル] −4−ペンタデシルピペラジン、
1−[ 4−(9−デセニルオキシ)フェニル] −4−ヘキサデシルピペラジン、
1−[ 4−(9−デセニルオキシ)フェニル] −4−ヘプタデシルピペラジン、
1−[ 4−(9−デセニルオキシ)フェニル] −4−オクタデシルピペラジン、
【0028】
1−[ 4−(10−ウンデセニルオキシ)フェニル] −4−オクチルピペラジン、
1−[ 4−(10−ウンデセニルオキシ)フェニル] −4−ノニルピペラジン、
1−[ 4−(10−ウンデセニルオキシ)フェニル] −4−デシルピペラジン、
1−[ 4−(10−ウンデセニルオキシ)フェニル] −4−ウンデシルピペラジン、
1−[ 4−(10−ウンデセニルオキシ)フェニル] −4−ドデシルピペラジン、
1−[ 4−(10−ウンデセニルオキシ)フェニル] −4−トリデシルピペラジン、
1−[ 4−(10−ウンデセニルオキシ)フェニル] −4−テトラデシルピペラジン、
1−[ 4−(10−ウンデセニルオキシ)フェニル] −4−ペンタデシルピペラジン、
1−[ 4−(10−ウンデセニルオキシ)フェニル] −4−ヘキサデシルピペラジン、
1−[ 4−(10−ウンデセニルオキシ)フェニル] −4−ヘプタデシルピペラジン、
1−[ 4−(10−ウンデセニルオキシ)フェニル] −4−オクタデシルピペラジン、
等を例示することができる。
【0029】
前記一般式(1)で表されるピペラジン系液晶性化合物は、例えば、下記反応式(1)および(2)に従って、製造することが出来る。
【0030】
【化3】
【0031】
【化4】
【0032】
(式中、R1 およびR2 は前記と同じであり、Xは塩素原子、フッ素原子等のハロゲン原子を示し、Mはカリウム、ナトリウム等のアルカリ金属を示す。)
【0033】
すなわち、前記反応式(1)において、一般式(4)で表されるピペラジン誘導体は、一般式(2)で表されるハロゲン化物と、一般式(3)で表されるアルコラート類とを有機溶媒中で反応させことにより容易に得ることが出来る。
【0034】
ハロゲン化物(一般式(2))に対するアルコラート類(一般式(3))のモル比は、通常1〜4、好ましくは1〜2、反応温度は、通常0〜100℃、好ましくは10〜40℃であり、反応時間は、通常1〜50時間、好ましくは10〜30時間である。
【0035】
反応溶媒としては、ハロゲン化物及びアルコラート類が溶解するもので、かつ不活性なものであれば特に限定はないが、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン及び1,1,2,2−テトラクロロエタン等のハロアルカン類、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられ、これらは1種又は2種以上組合わせて用いることができる。反応終了後は抽出、再結晶等の常法の精製方法により前記一般式(4)で表されるピペラジン誘導体を得る。
【0036】
次に、前記反応式(2)に示す反応により、前記一般式(1)で表されるピペリジン系液晶性化合物は、前記一般式(4)で表されるピペリジン誘導体と前記一般式(5)で表されるハロゲン化アルキルとを塩基の存在下に有機溶媒中で反応させることにより容易に得ることができる。
【0037】
前記一般式(4)で表されるピペリジン誘導体に対する前記一般式(5)で表されるハロゲン化アルキルに対するモル比は、通常1〜4、好ましくは1〜2であり、反応温度は、通常0〜100℃、好ましくは20〜80℃、反応時間は、通常1〜60時間、好ましくは24〜50時間である。
【0038】
塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等の無機塩基類、トリメチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジエチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N’−ジメチルピペラジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、4−エチルモルホリン、トリエチレンジアミン、1,3−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン、N−エチルピペリジン、キノリン、イソキノリン、N,N−ジメチルピペラジン、N,N−ジエチルピペラジン、キナルジン、2−エチルピリジン、4−エチルピリジン、3,5−ルチジン、2,6−ルチジン、4−メチルモルホリン、2,4,6−コリジン等の有機塩基類、ピリジル基やジメチルアミノベンジル基を有するイオン交換樹脂等が挙げられるが、特に制限されるものではない。
【0039】
塩基の使用量は、副生成物として生成するハロゲン化水素を捕獲するに足りる量があればよく、通常、副生ハロゲン化水素の化学量論量に対して1〜6倍、好ましくは1〜3倍、より好ましくは1.1〜2倍である。
【0040】
反応溶媒としては、前記ハロゲン化アルキルと前記一般式(4)で表されるピペリジン誘導体が溶解でき、かつ不活性な溶媒であれば特に限定はなく、例えば、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル等のエーテル類、アセトニトリル、プロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド等の1種又は2種以上が挙げられ、このうち、1種又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0041】
また、かかる反応は、所望により、重合禁止剤の存在下に反応を行うことが出来る。重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジン、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、チオ尿素、尿素、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニルジアミン等が挙げられるが特に制限されるものではない。重合禁止剤の添加量は、得られる目的物に対して100〜100,000ppm、好ましくは500〜5,000ppm程度である。
【0042】
反応終了後は、抽出、再結晶等の常法の精製方法により前記一般式(1)で表されるピペラジン系液晶性化合物を得る。
かくすることにより、前記一般式(1)で表されるピペラジン系液晶性化合物を容易に得ることが出来、この化合物は、サーモトロピックに安定な液晶状態を示し、液晶相としてスメクチックB相を有するものである。
【0043】
また、前記一般式(1)で表されるピペラジン系液晶性化合物は、不飽和結合を有しているので、重合反応を行ってポリマー化することにより、高分子の電荷輸送材料として用いることが出来る。
【0044】
図1は本発明の電荷輸送素子の一実施態様を示す概略図である。同図1において、本発明の電荷輸送素子は、2枚のガラス基板1a,1bの表面に、各々ITO等の透明電極からなる電極2a,2bを設け、該電極を設けた一対の基板をスペーサー4を介してセル間隔を一定にたもって接着剤で貼り合わせてセルを作成し、該セル内に液晶相として上記のスメクチックB相を有する液晶性化合物を注入して液晶層3を電極間に設け、該電極2a,2bには液晶相3の液晶性化合物にスメクチックB相の液晶状態で電圧を印加する電圧印加手段5を接続してなるものである。電圧印加手段5および液晶相の温度調節手段(不図示)等からなる電荷輸送手段により、液晶層3の液晶性化合物にスメクチックB相の液晶状態において電圧を印加すると、液晶層を通して高い電流密度が得られ、電荷の輸送を行うことができる。
【0045】
上記の本発明の電荷輸送方法および電荷輸送素子は、液晶相としてスメクチックB相を有する化合物を用いて、スメクチックB相の液晶状態で電圧を印加して電荷の輸送を行うものである。特に、強塩基性の構造骨格を有する液晶性化合物の場合には、強塩基性部分、すなわち電子密度の高い部分を基本骨格に持つ液晶分子を、スメクチックB相という分子の重なりが密な液晶状態を用いて重ねることにより、共役系の大きな広がりなしで、従来の電荷輸送材料にないマイクロA/cm2 オーダの電流密度で電荷の輸送を可能にし、電荷輸送性を利用した光センサ、エレクトロルミネッンス素子、光導電体、空間変調素子、薄膜トランジスター、その他のセンサー等の電荷輸送方法および電荷輸送素子として好適に用いることが出来る。
【0046】
次に、本発明の第二の発明の電荷輸送方法は、液晶相としてスメクチック相を有する液晶性化合物にスメクチック相からの相転移で生じる固体状態で電圧を印加することを特徴とする。
【0047】
この本発明の電荷輸送方法は、液晶相としてスメクチック相を有する液晶性化合物をスメクチック相の状態を保った状態での固体相への転移により、固体状態においても塩基性部分がより密に重なり、電圧を印加することにより、光による励起させた状態にしなくとも、電圧の印加のみで高い電流密度でより大きな電荷の輸送を可能すると言う知見に基づいて完成されたものである。
【0048】
本発明の電荷輸送方法に用いられる液晶は、スメクチック相を有する液晶性化合物であれば特に限定はなく、公知のものに対して適用することが出来るが、液晶相としてスメクチックB相を有するものが好ましい。また、スメクチック相を有する高分子液晶化合物であってもよい。
【0049】
また、本発明の電荷輸送方法で用いるスメクチック相を有する液晶性化合物の中で、強塩基性部分を構造骨格に持つものが好ましい。
【0050】
より具体的には、下記一般式(6)
【0051】
【化5】
(式中、R 3 は−C n H 2n+1 、−O−C n H 2n+1 又は下記一般式
【化15】
[R 1 は水素原子又はメチル基を示す。]で表される基を示す。R 4 は−C n H 2n+1 を示す。nは1〜18の整数を示す。)
で表される液晶性化合物が挙げられる。
式中、ピペラジン環は、塩基性を有する環である。
【0058】
また、上記の液晶性化合物は、不飽和結合を有しているものは、重合反応を行ってポリマー化して、高分子の電荷輸送材料として用いることも出来る。
【0059】
また、電荷輸送における電圧の印加は、液晶相としてスメクチック相を有する液晶性化合物が、スメクチック相からの降温過程で相転移で生じる固体状態、具体的には結晶相、ガラス状態、不定形固体等の固体相において電圧の印加を行なことができる。
【0060】
図2は本発明の電荷輸送素子の他の実施態様を示す概略図である。同図2において、本発明の電荷輸送素子は、2枚のガラス基板1a,1bの表面に、各々ITO等の透明電極からなる電極2a,2bを設け、該電極を設けた一対の基板をスペーサー4を介してセル間隔を一定にたもって接着剤で貼り合わせてセルを作成し、該セル内に液晶相として上記のスメクチック相を有する液晶性化合物を注入して液晶層13を電極間に設け、該電極2a,2bには液晶相13の液晶性化合物にスメクチック相からの相転移で生じる固体状態で電圧を印加する電圧印加手段5を接続してなるものである。電圧印加手段5および液晶相の温度調節手段(不図示)等からなる電荷輸送手段により、液晶層13の液晶性化合物にスメクチック相からの相転移で生じる固体状態で電圧を印加すると、液晶層を通して高い電流密度が得られ、電荷の輸送を行うことができる。
【0061】
上記の本発明の電荷輸送方法および電荷輸送素子は、液晶相としてスメクチック相を有する液晶性化合物にスメクチック相からの降温により相転移で生じる固体状態で電圧を印加して電荷の輸送を行うものであり、スメクチック相の配列を保った固体状態への転移により、特に塩基性の構造骨格を有する液晶性化合物の塩基性部分の重なりが密になっていることから、従来の電荷輸送材料にないマイクロA/cm2 オーダ以上、好ましくはミリA/cm2以上の電流密度で電荷の輸送を可能にし、電荷輸送性を利用した光センサ、エレクトロルミネッンス素子、光導電体、空間変調素子、薄膜トランジスター、その他のセンサー等の電荷輸送方法および電荷輸送素子として好適に用いることが出来る。
【0062】
【実施例】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
参考例1
<1−[ 4−(9−デセニルオキシ)フェニル] −4−オクチルピペラジンの合成>
メタノール50mLに水酸化ナトリウム(94%)0.72g(0.017モル)を室温で溶解し、冷却後、1−(4−ヒドロキシフェニル)ピペラジンを3g(0.017モル)を加え、過剰のメタノールを減圧除去した。N,N−ジメチルホルムアミド50mLに、10−ブロモ−1−デセン3.7g(0.017モル)を加えた後、室温で24時間攪拌する。溶液を300mL氷水中に注ぎ、ジエチルエーテル300mLで2回抽出し、蒸留水300mLで洗浄を行い、溶液に無水硫酸ナトリウムを加え、一晩脱水した。濾過後ヘキサンを加え、可溶分と不溶分とで分離を行い、ヘキサン溶解分をエーテルとヘキサン(1:3)で再結晶して、1−[ 4−(9−デセニルオキシ)フェニル] ピペラジンを得た。
【0064】
N,N−ジメチルホルムアミドに重合禁止剤(フェノチアジン)0.2gを溶解させ、そこへオクチルブロマイド0.62g(0.0032モル)と1,8−ジアザビシクロ[ 5.4.0] −7−ウンデセン(DBU)2.5g(0.016モル)、上記で得られた1−[ 4−(9−デセニルオキシ)フェニル] ピペラジンを1g(0.0032モル)溶解させ、窒素雰囲気下60℃で48時間攪拌して反応させた。反応終了後、溶液を氷水中に注ぎ、ジエチルエーテル300mLで2回抽出し、蒸留水(300mL)で洗浄を行い、溶液に無水硫酸ナトリウムを加え、一晩脱水した。濾過後ヘキサンを加え、可溶分と不溶分とで分離し、ヘキサン溶解分をエーテルとヘキサン(1:3)で再結晶して目的物の1−[ 4−(9−デセニルオキシ)フェニル] −4−オクチルピペラジン得た。
【0065】
(同定データ)
1H−NMR(ppm;CDCl3 )δ
0.8(t,3H)、1.2〜2.5(m,3OH)、2.5〜3.2(dt,8H)、3.8〜4.0(t,2H)、4,8〜5.2(m,2H)、5.5〜6.2(m,lH)、6.7〜7.1(d,4H)
IR;ν(KBr)cm-1;
2800〜3000、1517、1251、1031
MASS(FAB)m/z;428(M+1)
【0066】
さらに得られた化合物の相転移温度を測定し、下記の結果が得られた。また、図3に得られた1−[ 4−(9−デセニルオキシ)フェニル] −4−オクチルピペラジンのX線チャートを示す。
【0067】
【数1】
Cryst.:結晶、SmB:スメクチックB相、Iso.:等方性液体、
【0068】
参考例2
<1−[ 4−(9−デセニルオキシ)フェニル] −4−デシルピペラジンの合成>
オクチルブロマイドに代えて、デシルブロマイド0.71(0.0032モル)とした以外は、参考例1と同様な操作で目的物を合成し、 1H−NMR分析、MASS分析、IR分析の結果、1−[4−(9−デセニルオキシ)フェニル]−4−デシルピペラジンであることが確認された。
【0069】
さらに得られた化合物の相転移温度を測定し、下記の結果が得られた。
【0070】
【数2】
【0071】
参考例3
<1−[ 4−(9−デセニルオキシ)フェニル] −4−ウンデシルピペラジンの合成>
オクチルブロマイドに代えて、ウンデシルブロマイド0.75(0.0032モル)とした以外は、参考例1と同様な操作で目的物を合成し、 1H−NMR分析、MASS分析、IR分析の結果、1−[ 4−(9−デセニルオキシ)フェニル] −4−ウンデシルピペラジンを確認した。
【0072】
さらに得られた化合物の相転移温度を測定し、下記の結果が得られた。
【0073】
【数3】
【0074】
参考例4
<1−[ 4−(9−デセニルオキシ)フェニル] −4−ドデシルピペラジンの合成>
オクチルブロマイドに代えて、ドデシルブロマイド0.80(0.0032モル)とした以外は、参考例1と同様な操作で目的物を合成し、 1H−NMR分析、MASS分析、IR分析の結果、1−[ 4−(9−デセニルオキシ)フェニル] −4−ドデシルピペラジンであることを確認した。
【0075】
さらに得られた化合物の相転移温度を測定し、下記の結果が得られた。
【0076】
【数4】
【0077】
実施例1
真空成膜によりITO電極を設けた2枚のガラス基板を、それぞれのITO電極が対向するように、スペーサー粒子によってギャップ(約15μm)を設け、貼り合わせてセルを作成した。
【0078】
そのセルに上記の参考例2で得られた1−[ 4−(9−デセニルオキシ)フェニル] −4−デシルピペラジン20mgを110℃の条件下にセル中に注入した。
【0079】
次いで、スメクチックB相状態(70℃)における、0V、5V、10V、15V、20Vでの暗電流と、電圧による電流量の変化を測定した。その結果を図4および図5に示す。
【0080】
また、等方性液体状態(75℃)における、0V、5V、10V、15V、20Vでの暗電流と、電圧による電流量の変化を測定した。その結果を図6および図7に示す。また、図5および図7より電流密度を求め、その結果を表1に示した。
【0081】
【表1】
【0082】
図4〜図8の結果より、本発明の電荷輸送の機構は、光電効果によるものではなく、化合物自体の作用であることが解る。更にスメクチックB相において、その電荷輸送の効果が高くなることが解る。
【0083】
実施例2
実施例1と同様な操作で、セルを作成し、参考例4で得られた1−[4−(9−デセニルオキシ)フェニル]−4−デシルピペラジンを110℃の条件下にセル中に注入し、55℃まで冷却してスメクチックB相の配向を持つた固体状態のものを得た。
次いで、実施例1と同様な方法で電流密度を求め、5Vの際の電流密度は、103mA/cm2 であった。
【0084】
【発明の効果】
以上説明した様に、本発明の電荷の輸送方法および電荷輸送素子によれば、スメクチックB相の液晶状態、またはスメクチック相からの相転移で生じる固体状態で電圧を印加することにより、電流密度がμA/cm2 〜mA/cm2 オ−ダの優れた電荷輸送能を可能とすると言う極めて優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電荷輸送素子の一実施態様を示す概略図である。
【図2】本発明の電荷輸送素子の他の実施態様を示す概略図である。
【図3】参考例1で得られた1−[ 4−(9−デセニルオキシ)フェニル] −4−オクチルピペラジンのX線チャートを示す図である。
【図4】実施例1における液晶のスメクチックB相状態における暗電流を示す図である。
【図5】実施例1における液晶のスメクチックB相状態における電圧による電流量の変化を示す図である。
【図6】実施例1における液晶の等方性液体状態における暗電流を示す図である。
【図7】実施例1における液晶の等方性液体状態における電圧による電流量の変化を示す図である。
【符号の説明】
1a,1b ガラス基板
2a,2b 電極
4 スペーサー
3,13 液晶層
5 電圧印加手段
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