以下、本発明の好ましい実施の形態を挙げて、さらに詳しく説明する。
本発明者らは、懸濁重合法を用いる磁性トナーの製造方法において、重合性単量体と多官能性単量体および連鎖移動剤との共存下、重合条件の操作によって所定時間重合後の重合転化率を制御するとともに、得られる重合体粒子の樹脂成分中のテトラヒドロフラン(THF)不溶分量を制御することにより、良好な低温定着性と耐高温オフセット性とを両立した磁性トナーの実現が可能であることを見出し、本発明に至った。
ここで、本発明の製造方法の特徴としての懸濁重合法について説明する。
本発明に係る磁性トナーは、以下のような懸濁重合法によって製造される。
まず、トナー組成物、すなわちバインダー樹脂となる重合性単量体に、少なくとも磁性体粒子、多官能性単量体および連鎖移動剤を加え、ホモジナイザー、ボールミル、コロイドミル、超音波分散機等の分散機を用いてこれらを均一に溶解あるいは分散させた単量体組成物を調製する。このとき、上記単量体組成物中には、離型剤、荷電制御剤、可塑剤、場合によって着色剤などのトナーとして必要な成分や、さらにその他の添加剤、例えば、高分子重合体、分散剤などを適宜加えることができる。
次いで、上記単量体組成物を、予め用意した分散安定剤を含有する水系媒体中に懸濁させ、造粒を行う。このとき、高速撹拌機もしくは超音波分散機のような高速分散機を使用して一気に所望の粒子サイズとすることにより、得られるトナー粒子の粒度分布をシャープにすることができる。重合開始剤の添加時期としては、重合性単量体中に他の添化剤を添加する際同時に加えてもよく、水系媒体中に懸濁させる直前に混合してもよい。また、造粒直後、重合反応を開始する前に、重合性単量体または他の溶媒に溶解した状態で加えることもできる。
その後、得られた懸濁液を、通常の撹拌機を用い、粒子状態が維持され且つ粒子の浮遊や沈降が生じない程度に撹拌しながら重合反応を行う。重合反応後は、公知の方法によって濾過し、洗浄し、乾燥を行って本発明の磁性トナーとなる。
本発明の製造方法において、上記重合反応は、重合性単量体と多官能性単量体および連鎖移動剤との共存下、重合を開始してから2時間経過後の重合転化率が90%以上となるような条件で行う。このような短時間で重合転化率を上昇させるためには、重合初期の遊離ラジカル量を飛躍的に増大させる必要があり、例えば前記重合開始剤の10時間半減期温度に対して、30℃以上高い温度で重合を行うことによって達成することができる。これにより、該重合開始剤の開裂が促進され、重合反応が速やかに完結するため、得られるトナー中の樹脂成分の分子量を効果的に低下させることができる。
一般に、重合反応において、重合温度が高い程、生成する樹脂成分の分子量は低下する傾向を示すが、重合温度を過度に高くするとラジカルの失活速度が増大するため、重合開始剤の利用効率が低下し、重合反応の完結後に未反応の重合性単量体が残留してしまうことがある。したがって、通常、重合温度は、重合開始剤の10時間半減期温度に対して5〜20℃高い温度範囲に設定され、上記単量体組成物中に離型剤としてワックスを含有させる場合には、該ワックスの析出を防止するため、ワックスの単量体組成物への溶解温度も考慮して適宜選択される。
上記単量体組成物中に共存させる連鎖移動剤は、上記樹脂成分の分子量分布における低分子量成分量を増大させる作用を有しており、これにより低温定着性が向上する。本発明においては、重合温度を高くすることによって、この作用が効果的に発現される。
一方、該樹脂成分の低分子量化は耐高温オフセット性の低下を招くが、上記単量体組成物中に共存させる多官能性単量体の作用によって、樹脂成分中にTHF不溶分(架橋成分)が形成されるため、これを防止することができる。ところが、通常、多官能性単量体を用いると、僅かな添加量でも架橋部位は複雑な三次元網目構造となり、硬質で多量のTHF不溶分が形成されるため、低温定着性を阻害する傾向を示す。本発明によれば、上記した方法によって重合を短時間に完結させるので、架橋反応は低分子量の高分子鎖間で行われ、しかも適度に抑制されるため、形成されるTHF不溶分は比較的軟質なものになると考えられる。したがって、定着時においては、トナー変形しやすく、ワックスの染み出しが容易であるため、低温定着性の低下が緩和されるものと考えられる。
本発明において、樹脂成分中の好ましいTHF不溶分量は10〜50重量%である。THF不溶分量が10重量%未満になると、耐高温オフセット性に対する改善効果が得られず、THF不溶分が50重量%を超えると低温定着性に対する改善効果が損なわれてしまう。
また、本発明において、重合開始剤は、2種以上を併用することができる。このとき、重合温度は、最も低い10時間半減期温度を示す重合開始剤の該10時間半減期温度に対して、少なくとも30℃以上高く、最も高い10時間半減期温度を示す重合開始剤の該10時間半減期温度に対して、少なくとも20℃以上高くならない温度で行うことが好ましい。これにより、重合反応の終期における開始剤の不足が回避され、未反応の重合性単量体の残留を防止することができる。
また、本発明において、トナー中の樹脂成分の好ましい分子量は、THF可溶分のゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によって得られる分子量分布における、メインピークのピーク分子量(Mp)として3000〜20000の範囲である。
このように、本発明の製造方法は、重合反応を短時間で完結させることによって多官能性単量体と連鎖移動剤による新たな作用効果を付加するものであり、また、これによって派生する不具合をも解決するものであって、単に架橋反応と連鎖移動反応とのバランスを調節することによって定着性の改善を図ろうとする従来の技術とは異にするものである。
以上の通りであるから、本発明の製造方法によれば、良好な低温定着性と耐高温オフセット性とを両立した磁性トナーの実現が可能である。
なお、重合初期の遊離ラジカル量を増大させる方法としては、上述した重合温度による方法の他、例えば、重合開始剤を重合性単量体あるいは他の溶媒に溶解した溶液を予め加熱した後、前記単量体組成物に添加する方法であってもよく、また、重合開始剤を添加した前記単量体組成物に、紫外線や電子線などの放射線を照射する方法であってもよい。
ここで、重合転化率とは、上記単量体組成物中の重合性単量体の仕込み重量に対する、実際に重合反応に供された重合性単量体重量の比率を示し、所定時間経過後の上記懸濁液中に残存する重合性単量体の重量から算出することができる。具体的には、反応容器からスラリーの一部を抜き取り、該スラリーに対して20〜50倍量のアセトンを加え、超音波分散器で約30分間処理して未反応の重合性単量体を抽出する。次いで、この抽出液を孔径0.5μmの耐溶剤性メンブランフィルターで濾過し、濾液中の重合性単量体量をガスクロマトグラフィーにより測定する。ガスクロマトグラフィー測定装置としては、例えば横河アナリティカルシステムズ社製「6890N」が使用できる。
また、10時間半減期温度とは、重合開始剤の開裂の起こりやすさを表す指標であり、該重合開始剤を一定温度下に保持したとき、これが分解して10時間後に元の開始剤量の1/2となる温度を示す。
また、THF不溶分量は、以下のようにして測定することができる。
まず、試料トナーを秤量し、円筒濾紙(例えば、東洋濾紙社製No.86R:サイズ28×100mm)に入れて、これをソックスレー抽出器に挿入する。抽出溶媒としてTHF200mlを用い、THFの抽出サイクルが約4〜5分に1回となるような還流速度で、20時間抽出を行う。抽出終了後、円筒濾紙を取り出して乾燥し、残留するトナー重量を秤量することによってTHF不溶分を算出する。トナー中に樹脂成分以外の磁性体や顔料のような不溶分を含有している場合は、円筒濾紙に入れたトナーの重量をW1とし、抽出されたTHF可溶樹脂成分の重量をW2とし、トナーに含まれている樹脂成分以外のTHF不溶成分の重量をW3としたとき、トナー中の樹脂成分のTHF不溶分は下記式を用いて算出する。
THF不溶分(重量%)=〔(W1−(W3+W2))/(W1−W3)〕×100
また、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)による、分子量分布およびピーク分子量(Mp)は、以下のようにして測定することができる。
まず、試料トナーをTHFに浸漬し、樹脂成分の濃度が0.05〜0.6重量%となるように抽出を行い、この抽出液を孔径0.5μmの耐溶剤性メンブランフィルターで濾過して試料溶液とする。次いで、カラムを40℃のヒートチャンバー中で安定させ、この温度におけるカラムに、溶媒としてTHFを1ml/minの流速で流し、上記試料溶液を50〜200μl注入して測定する。試料の分子量測定にあたっては、試料の有する分子量分布を数種の単分散ポリスチレン標準試料により作成された検量線の対数値とカウント数の関係から算出する。検量線作成用の標準ポリスチレン試料としては、例えばPressure Chemical Co.製あるいは東ソー製の分子量が6×102、2.1×103、4×103、1.75×104、5.1×104、1.1×105、3.9×105、8.6×105、2×106、4.48×106のものを用い、少なくとも10点程度の標準ポリスチレン試料を用いるのが適当である。また、検出器にはRI(屈折率)検出器を使用する。
なお、カラムとしては、103〜2×106の分子量領域を適格に測定するために、市販のポリスチレンゲルカラムを複数組み合わせるのがよく、本発明においては、次の条件で測定される。
GPC測定条件
装置:HLC−8120GPC(東ソー製)
カラム:KF801,802,803,804,805,806,807(Shodex製)
カラム温度:40℃
solv.:THF
本発明の製造方法において、上記分散安定剤としては、公知の界面活性剤や有機分散剤、無機分散剤が使用できる。中でも無機分散剤は、有害な超微粉が生成しにくく、その立体障害性により分散安定性を得ているので重合温度を変化させても安定性が崩れにくく、洗浄も容易でトナーに悪影響を与えにくいので、好適に使用することができる。こうした無機分散剤の例としては、燐酸カルシウム、燐酸マグネシウム、燐酸アルミニウム、燐酸亜鉛などのリン酸多価金属塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩、メタ硅酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの無機塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、ベントナイト、アルミナなどの無機酸化物が挙げられる。
これら無機分散剤を用いる場合、そのまま水系媒体中に添加して用いてもよいが、より細かい粒子を得るため、該無機分散剤を生成し得る化合物を用いて水系媒体中にて無機分散剤粒子生成させて用いることもできる。例えば、燐酸カルシウムの場合、高速撹拌下、燐酸ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液とを混合して、水不溶性の燐酸カルシウムを生成させることができ、より均一で細かな分散が可能となる。この時、同時に水溶性の塩化ナトリウムが副生するが、水系媒体中に水溶性塩が存在すると、重合性単量体の水への溶解が抑制されて、乳化重合による超微粒径トナーが発生しにくくなるので、より好都合である。無機分散剤は、重合終了後に酸あるいはアルカリを加えて溶解することにより、ほぼ完全に取り除くことができる。
また、これらの無機分散剤は、重合性単量体100重量部に対して0.2〜20重量部を単独で使用することが望ましいが、必要に応じて、0.001〜0.1重量部の界面活性剤を併用してもよい。該界面活性剤としては、例えばドデシルベンゼン硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ペンタデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウムなどが挙げられる。
本発明において使用される磁性粉体は、四三酸化鉄、γ−酸化鉄などの酸化鉄を主成分とするものである。一般に、磁性粉体は親水性を有しているため、懸濁重合法によって磁性トナーを製造する場合、分散媒としての水との相互作用によって磁性粉体が粒子表面に偏在しやすく、得られるトナー粒子は、表面に露出した磁性粉体のために流動性および摩擦帯電の均一性に劣るものとなる。
そこで、本発明で使用される磁性粉体は、カップリング剤によって表面を均一に疎水化処理することが好ましい。磁性粉体表面の疎水化処理は、水系媒体中で磁性粉体が一次粒子となるように分散しつつ、カップリング剤を加水分解しながら処理する方法を用いることが特に好ましい。この方法によれば、クロロシラン類やシラザン類のようなガス発生を伴うカップリング剤を使用する必要がなく、気相中で疎水化処理する場合と比べて磁性粉体同士の合一が生じにくいため、高粘性のカップリング剤の使用も可能になる。
本発明に係る磁性粉体の表面処理において、使用できるカップリング剤としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤などが挙げられる。特に好ましく用いられるのはシランカップリング剤であり、一般式
RmSiYn
[式中、Rはアルコオキシ基を示し、mは1〜3の整数を示し、Yはアルキル基、ビニル基、グリシドキシ基、メタクリル基などの炭化水素基を示し、nは1〜3の整数を示す。]で示されるものである。例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、ヒドロキシプロピリトリメトキシシラン、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリメトキシシランなどを挙げることができる。これらカップリング剤は単独で用いてもよく、複数種組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、磁性粉体に十分な疎水性を持たせるため、以下の一般式
CpH2p+1−Si−(OCqH2q+1)3
[式中、pは2〜20の整数を示し、qは1〜3の整数を示す]で示されるアルキルトリアルコキシシランカップリング剤を少なくとも一種以上用いることがより好ましい。上記一般式におけるpが2より小さいと、疎水化処理は容易となるが、疎水性を十分に付与することが困難となり、トナー粒子からの磁性粒子の露出を抑制するのが難しくなる。また、pが20より大きいと、疎水性は十分になるが、磁性粉体同士の合一が多くなり、磁性粉体粒子を十分に分散性させることが困難になるため、帯電均一性が損なわれてしまう。また、上記一般式におけるqが3より大きいと、シランカップリング剤の反応性が低下して疎水化処理が十分に行われなくなる。特に、式中のpが2〜20の整数(より好ましくは、3〜15の整数)を示し、qが1〜3の整数(より好ましくは、1又は2の整数)を示すアルキルトリアルコキシシランカップリング剤を使用するのがよい。カップリング剤の総処理量は、磁性粉体100重量部に対して0.05〜20重量部、好ましくは0.1〜10重量部であり、磁性粉体の表面積やカップリング剤の反応性に応じて処理剤の量を適宜調整することが好ましい。
本発明で使用される磁性粉体の体積平均粒径は、0.05〜0.4μmであることが好ましく、0.1〜0.3μmであることがより好ましい。体積平均径が0.05μm未満の場合、黒色度の低下が顕著で、白黒用トナーの着色剤としては着色力が不十分となる上に、磁性粉体どうしの凝集が生じやすくなるため、分散性が低下する。また、上述した磁性粉体表面の均一処理が困難なものとなる。一方、体積平均粒径が0.4μmを超えると、一般の着色剤と同様に着色力が不足するようになる。加えて、小粒径トナー用の着色剤として使用する場合には、個々のトナー粒子に磁性粉体を均一に分散させることが確率的に困難となるため、トナーの均一帯電性が損なわれる。
また、該磁性粉体は、窒素吸着法によるBET比表面積が2〜30m2/g、好ましくは3〜28m2/gであり、さらにモース硬度が5〜7であるものが好ましい。そして、磁性粉体中には、リン、コバルト、ニッケル、銅、マグネシウム、マンガン、アルミニウム、珪素などの元素が含有されていてもよい。
磁性粉体の形状としては、多面体、8面体、6面体、球形、針状、燐片状などがあるが、多面体、8面体、6面体、球形などの異方性の少ないものが画像濃度を高める上で好ましい。このような磁性粉体の形状は、例えばSEMによって確認することができる。
磁性粉体の添加量は、バインダー樹脂100重量部に対して10重量部〜200重量部であることが好ましい。より好ましくは、20重量部〜180重量部である。10重量部未満ではトナーの着色力が乏しく、カブリの抑制も困難である。一方、200重量部を超えると、個々のトナー粒子への磁性粉体の均一な分散が難しくなるだけでなく、トナー担持体への磁力による保持力が強まることによる現像性の低下や、定着性の低下といった不具合が生じる。
なお、トナー中の磁性粉体の含有量は、パーキンエルマー社製熱分析装置「TGA7」を用いて測定することができる。本発明では、トナーを窒素雰囲気下にて昇温速度25℃/minで常温から900℃まで加熱し、100℃から750℃までの間の減量質量%をバインダー樹脂量とし、残存重量を近似的に磁性粉体量とした。
本発明で使用される重合性単量体としては、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−エチルスチレンなどのスチレン系単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−クロルエチル、アクリル酸フェニルなどのアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどのメタクリル酸エステル類、その他、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドなどの単量体が挙げられる。これらの単量体は、単独もしくは混合して使用することができる。これらの単量体の中でも、スチレンまたはスチレン誘導体を単独で、あるいは他の単量体と混合して使用することが、トナーの現像特性および耐久性の点から好ましい。
また、本発明で使用される多官能性単量体としては、主として2個以上の重合可能な二重結合を有する化合物が用いられ、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレンなどの芳香族ジビニル化合物、例えば、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレートなどの二重結合を2個有するカルボン酸エステル、または、ジビニルアニリン、ジビニルエーテル、ジビニルスルフィド、ジビニルスルホンなどのジビニル化合物、さらに、3個以上のビニル基を有する化合物が挙げられる。これらの多官能性単量体は、単独もしくは混合物として使用することができる。該多官能性単量体の好ましい添加量としては、重合性単量体100重量部に対して0.02〜10重量部であり、0.05〜5重量部であることがより好ましい。
また、本発明で使用される連鎖移動剤としては、n−ペンチルメルカプタン、イソペンチルメルカプタン、2−メチルブチルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−ヘプチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、t−ノニルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、t−テトラデシルメルカプタン、n−ペンタデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、t−ヘキサデシルメルカプタン、ステアリルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン類、チオグリコール酸のアルキルエステル類、メルカプトプロピオン酸のアルキルエステル類、クロロホルム、四塩化炭素、臭化エチレン、四臭化炭素などのハロゲン化炭化水素類、α−メチルスチレンダイマーが挙げられる。これらの連鎖移動剤は、単独もしくは混合物として使用することができる。該連鎖移動剤の好ましい添加量としては、重合性単量体100重量部に対して0.05〜20重量部であり、0.1〜10重量部であることがより好ましい。
さらに、本発明で使用される重合開始剤としては、公知のアゾ系重合開始剤、過酸化物系重合開始剤などがあり、アゾ系重合開始剤としては、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリルなどが例示され、過酸化物系重合開始剤としては、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシアセテート、t−ヘキシルパーオキシラウレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、 t−ヘキシルパーオキシイソブチレート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、α,α‘−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシ−m−トルオイルベンゾエート、ビス(t−ブチルパーオキシ)イソフタレート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサンなどのパーオキシエステル、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、 ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートなどのパーオキシジカーボネート、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン、1,1−ジ−t−ヘキシルパーオキシシクロヘキサン、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ジ−t−ブチルパーオキシブタンなどのパーオキシケタール、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキサイド、その他として、t−ブチルパーオキシアリルモノカーボネートなどが挙げられる。これらの重合開始剤の中でも、分解物の残留が少ない過酸化物系重合開始剤が好適に用いられる。また、これらの重合開始剤は、必要に応じて10時間半減期温度の異なる2種以上を併用することもできる。10時間半減期温度は、30〜100℃のものが特に好適に用いられる。
本発明の製造方法によって得られる磁性トナーは、定着性向上のために離型剤を含有することが好ましい。使用可能な離型剤としては、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラクタムなどの石油系ワックスおよびその誘導体、モンタンワックスおよびその誘導体、フィッシャートロプシュ法による炭化水素ワックスおよびその誘導体、ポリエチレンに代表されるポリオレフィンワックスおよびその誘導体、カルナバワックス、キャンデリラワックスなど、天然ワックスおよびその誘導体などが挙げられる。誘導体には、酸化物やビニル系モノマーとのブロック共重合物、グラフト変性物などが含まれる。中でも、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックスをスチレン系モノマー又は不飽和カルボン酸系モノマーでグラフト変性したものは、変性部位とトナー樹脂成分との相溶性が高いため、ワックスの脱離が起こりにくくなり好ましい。さらには、高級脂肪族アルコール、ステアリン酸、パルミチン酸などの脂肪酸、あるいはその化合物、酸アミドワックス、エステルワックス、ケトン、硬化ヒマシ油およびその誘導体、植物系ワックス、動物性ワックスなども使用できる。
離型剤の含有量は、バインダー樹脂に対し1〜30重量%であることが好ましく、3〜25重量%であることがより好ましい。離型剤の含有量が1重量%未満では、十分な添加効果が得られず、オフセット抑制効果も不十分である。一方、30重量%を超えると、長期間の保存性が低下するとともに、離型剤や磁性粉体など他のトナー材料の分散性が悪くなり、磁性トナーの流動性の低下や画像特性の低下を招く。また、定着時以外の離型剤成分の染み出しが生じるようになり、高温高湿下での耐久性に劣るものとなる。さらに、多量の離型剤を内包するために、トナー形状が歪になりやすい。また、これらの離型剤は単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
また、これらの離型剤の中でも、示差熱分析による吸熱ピークが40〜130℃のもの、すなわち、示差走差熱量計により測定されるDSC曲線において昇温時に40〜130℃の領域に最大吸熱ピークを有するものが好ましく、さらには45〜120℃の領域に有するものがより好ましい。上記温度領域に最大吸熱ピークを有することにより、低温定着性に大きく寄与しつつ、離型性をも効果的に発現する。最大吸熱ピークが40℃未満であると離型剤成分の自己凝集力が弱くなり、結果として耐高温オフセット性が悪化する。また、定着時以外での離型剤の染み出しが生じやすくなり、トナーの帯電量が低下するとともに、高温高湿下での耐久性が低下する。一方、最大吸熱ピークが130℃を超えると定着温度が高くなり、低温オフセットが発生しやすくなるため好ましくない。さらに、懸濁重合法によって直接トナーを製造する場合、該最大吸熱ピーク温度が高いと、主に造粒中に離型剤成分が析出するなどの問題を生じ、離型剤の分散性が低下するため好ましくない。
なお、離型剤の最大吸熱ピーク温度の測定は、「ASTM D 3418−8」に準じて行う。測定には、例えばパーキンエルマー社製DSC−7を用いることができる。装置検出部の温度補正にはインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。測定用のサンプル容器にはアルミニウム製のパンを用い、対照用に空のパンをセットし、試料を一度200℃まで昇温させて熱履歴を除いた後、急冷し、再度、昇温速度10℃/minにて温度30〜200℃の範囲で昇温させた時に測定されるDSC曲線を用いる。
また、本発明の製造方法によって得られる磁性トナーは、荷電特性を安定化するため、必要に応じて荷電制御剤を配合することができる。荷電制御剤としては、公知のものが利用できるが、直接重合法によってトナーを製造する場合には、重合阻害性が低く、水系分散媒体への可溶化物を実質的に含まない荷電制御剤が特に好ましい。具体的な化合物としては、ネガ系荷電制御剤として、サリチル酸、アルキルサリチル酸、ジアルキルサリチル酸、ナフトエ酸、ダイカルボン酸などの芳香族カルボン酸の金属化合物、アゾ染料あるいはアゾ顔料の金属塩または金属錯体、スルホン酸又はカルボン酸基を側鎖に持つ高分子型化合物、ホウ素化合物、尿素化合物、ケイ素化合物、カリックスアレーンなどが挙げられる。また、ポジ系荷電制御剤として、四級アンモニウム塩、該四級アンモニウム塩を側鎖に有する高分子型化合物、グアニジン化合物、ニグロシン系化合物、イミダゾール化合物などが挙げられる。
これらの電荷制御剤の使用量としては、結着樹脂の種類、他の添加剤の有無、分散方法を含めたトナー製造方法によって決定されるもので、一義的に限定されるものではないが、好ましくは結着樹脂100重量部に対して0.1〜10重量部、より好ましくは0.1〜5重量部の範囲で用いられる。
また、上述した単量体組成物中に樹脂を添加して重合してもよい。例えば、単量体としては水溶性であり、水性懸濁液中では溶解して乳化重合を起こすために使用できないアミノ基、カルボキシル基、水酸基、グリシジル基、ニトリル基など親水性官能基含有の単量体成分をトナー中に導入したい時には、これらとスチレンあるいはエチレンなどのビニル化合物とのランダム共重合体、ブロック共重合体、あるいはグラフト共重合体など、共重合体の形にして、あるいはポリエステル、ポリアミドなどの重縮合体、ポリエーテル、ポリイミンなどの重付加重合体の形にして使用することが可能となる。こうした極性官能基を含む高分子重合体をトナー中に共存させると、前述のワックス成分を相分離させ、より内包化が強力となり、耐ブロッキング性、現像性の良好なトナーを得ることができる。
また、材料の分散性や定着性、あるいは画像特性の改良などを目的として上記以外の樹脂を単量体組成物中に添加してもよく、用いられる樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリビニルトルエンなどのスチレンおよびその置換体の単独重合体、スチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ビニルトルエン共重合体、スチレン−ビニルナフタリン共重合体、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体、スチレン−アクリル酸オクチル共重合体、スチレン−アクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン−メタアクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタアクリル酸エチル共重合体、スチレン−メタアクリル酸ブチル共重合体、スチレン−メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン−ビニルメチルエーテル共重合体、スチレン−ビニルエチルエーテル共重合体、スチレン−ビニルメチルケトン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸エステル共重合体などのスチレン系共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルブチラール、シリコン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリル酸樹脂、ロジン、変性ロジン、テンペル樹脂、フェノール樹脂、脂肪族または脂環族炭化水素樹脂、芳香族系石油樹脂などが単独あるいは混合して使用できる。これら樹脂の添加量としては、重合性単量体100重量部に対して1〜20重量部が好ましい。1重量部未満では添加効果が小さく、一方20重量部以上添加すると重合トナーの種々の物性設計が難しくなる。さらに、重合性単量体を重合して得られるトナーの分子量範囲とは異なる分子量の重合体を、単量体組成物中に溶解して重合すれば、分子量分布の広い、耐オフセット性の高いトナーを得ることができる。
本発明の製造方法は、得られたトナー粒子を分級して粗粉や微分を除去する工程をさらに含んでいてもよい。そして、本発明の製造方法によって得られる磁性トナーには、流動性向上剤が外部添加されていることが画質向上のために好ましい。
流動性向上剤としては、ケイ酸微粉体、酸化チタン、酸化アルミニウムなどの無機微粉体が好適に用いられる。該無機微粉体は、シランカップリング剤、シリコーンオイルまたはそれらの混合物などの疎水化剤で疎水化処理されていることが好ましい。
本発明の製造方法によって得られる磁性トナーの平均円形度は、0.970以上であることが好ましい。平均円形度とは、トナー粒子の凹凸度合いを表す指標であり、トナーが完全な球形の場合1.000を示し、表面形状が複雑になるほど小さな値となる。すなわち、平均円形度が0.970以上であるということは、トナー形状が実質的に球形であることを意味している。また、本発明の製造方法によって得られる磁性トナーのモード円形度は、0.99以上であることが好ましい。モード円形度とは、円形度分布における頻度値が最大となる円形度の値である。すなわち、モード円形度が0.99以上であるということは、トナー粒子の多くが真球に近いことを意味している。したがって、このような形状を有するトナーは、帯電が均一になりやすく、カブリやスリーブゴーストの抑制に効果的である。また、トナー担持体上に形成されるトナーの穂が均一であるため、現像部での制御が容易となる。さらに、球形であるが故に流動性も良好であり、現像器内でのストレスを受けにくいため、高湿度下での長期の使用においても帯電性が低下しにくい。そして、定着時においても熱や圧力がトナー全体に均一にかかりやすいため、定着性の向上にも寄与する。
なお、本発明における平均円形度およびモード円形度は、粒子の形状を定量的に表現する方法として用いたものであり、東亞医用電子製フロー式粒子像分析装置「FPIA−1000」を用いて測定を行い、3μm以上の円相当径の粒子群について求めたものである。
ここで、平均円形度(C)は、各粒子の円形度(Ci)を下式(1)によってそれぞれ求め、さらに下式(2)に示すように、測定された全粒子の円形度の総和を全粒子数(m)で除した値として定義される。
式(1)
円形度(Ci)
=(粒子像と同じ投影面積を持つ円の周囲長)/(粒子の投影像の周囲長)
式(2)
また、モード円形度は、上記式(1)によって求められる円形度を0.40から1.00の範囲で0.01毎に61分割し、それぞれの粒子の円形度に応じて各分割範囲に割り振って得られる円形度分布において、頻度値が最大となるピーク円形度の値として定義される。
但し、本発明に用いた測定装置「FPIA−1000」では、各粒子の円形度から平均円形度およびモード円形度を算出するに当たって、求められた円形度の値によって円形度0.40から1.00の範囲を61分割した分割範囲に振り分けた後、各々の分割範囲の中心値とその時の頻度値を用いて算出する方法を用いている。この算出法で算出される平均円形度およびモード円形度の各値と、上述した各粒子の円形度を直接用いる算出法によって算出される平均円形度およびモード円形度の各値との誤差は極めて少なく、実質的に無視できる程度のものであるため、一部変更したこのような算出法を用いても何ら問題はない。
測定手順としては、以下の通りである。
界面活性剤約0.1mgを溶解した水10mlに、試料トナー約5mgを分散させて分散液を調製し、該分散液に5分間超音波分散処理(20KHz、50W)を施した後、分散液濃度を5000〜2万個/μlとして前記装置により測定を行い、3μm以上の円相当径を有する粒子群の平均円形度およびモード円形度を求める。
なお、本測定において3μm以上の円相当径の粒子群についてのみ円形度を測定する理由は、3μm未満の円相当径の粒子群にはトナー粒子とは独立して存在する外部添加剤の粒子群も多数含まれるため、その影響によりトナー粒子群についての円形度が正確に見積もれないためである。
本発明の製造方法によって得られる磁性トナーの重量平均粒径は、より微小な潜像ドットを忠実に現像し、高画質な画像を得るため、3〜10μmであることが好ましい。重量平均粒径が3μm未満になると、転写効率の低下から感光体上の転写残トナーが多くなり、接触帯電工程における感光体の削れやトナー融着の抑制が難しくなる。また、トナー全体の表面積が増大することに加え、粉体としての流動性および撹拌性が低下し、個々のトナー粒子を均一に帯電させることが困難となることから、ゴースト、カブリ、転写性が低下する傾向となり好ましくない。一方、重量平均粒径が10μmを超えると、文字やライン画像に飛び散りが生じやすく、高解像度が得られにくくなる。また、装置が高解像度になっていくと、1ドットの再現性が悪化する傾向になる。
ここで、トナーの平均粒径および粒度分布は、コールターカウンターTA−II型あるいはコールターマルチサイザー(いずれもコールター社製)などを用いて測定することが可能である。本発明では、コールターマルチサイザーを用い、これに個数分布と体積分布を出力するインターフェイス(日科機製)、およびPC9801パーソナルコンピューター(NEC製)を接続した。また、電解液には、1級塩化ナトリウムを用いて調製した1%NaCl水溶液を使用した。
測定法としては、前記電解液100〜150ml中に分散剤として界面活性剤、好ましくはアルキルベンゼンスルフォン酸塩を0.1〜5ml加え、さらに測定試料を2〜20mg加える。次いで、この電解液に超音波分散器で約1〜3分間分散処理を施し、前記コールターマルチサイザーにより、アパーチャーとして100μmアパーチャーを用いて2μm以上のトナー粒子の体積および個数を測定して体積分布と個数分布とを算出する。それから、体積分布から求めた体積基準の重量平均粒径(D4)、個数分布から求めた個数基準の長さ平均粒径、すなわち個数平均粒径(D1)を求める。
本発明の製造方法によって得られる磁性トナーは、実質的に磁性粉体がトナー表面に露出していないことが好ましい。本発明において、実質的に磁性粉体がトナー表面に露出していない状態とは、X線光電子分光分析(ESCA)により測定されるトナー粒子の表面に存在する炭素元素の含有量(A)に対する鉄元素の含有量(B)の比(B/A)が、0.001未満であることで定義される。磁性粉体が実質的に露出しないことによって、磁性トナーの流動性および摩擦帯電性が改善され、カブリの抑制、転写性の向上、ゴーストの抑制等といったトナーに要求される種々の性能を向上させることができる。なお、(B/A)が0.001以上になると、トナーの流動性や摩擦帯電性の低下のみならず、トナー表面に露出している磁性粉体によってサーフ定着フィルムの傷や一層オフセットの原因となり好ましくない。
本発明において、ESCA測定に用いた装置および測定条件は以下の通りである。
装置:PHI社(Physical Electronics Industries,Inc.)製,1600S型
測定条件:X線源MgKα(400W),分光領域800μmφ
なお、本発明では、測定された各元素のピーク強度から、PHI社提供の相対感度因子を用いて表面原子濃度(原子%)を算出した。また、測定するトナーに外添剤が添加されている場合には、イソプロパノールのようなトナーを溶解しない溶剤を用いてトナーを洗浄し、外添剤を取り除いた後に測定を行った。
本発明の製造方法によって得られる磁性トナーは、トナーの投影面積相当径をCとし、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた該トナーの断面観察における磁性粉体とトナー表面との距離の最小値をDとしたとき、D/C≦0.02の関係を満たすトナーが50個数%以上であることが好ましい。D/C≦0.02の関係を満たすトナーが50個数%未満であるということは、トナー中における磁性粉体の分散状態のバラツキが大きいことを意味し、長期使用によるトナー物性の変化が生じやすく、また、トナーの帯電均一性も損なわれ、尾引きやゴーストを生じやすくなり好ましくない。
本発明において、TEMによる具体的なD/Cの測定方法としては、常温硬化性のエポキシ樹脂中に観察すべき粒子を十分に分散させた後、温度40℃の雰囲気下で2日間硬化させ、得られた硬化物をそのまま、あるいは凍結して、ダイヤモンド歯を備えたミクロトームを用いて薄片状のサンプルとして取り出し、観察する方法が好ましい。
該当する粒子数の割合を決定するための具体的な方法は、以下の通りである。
TEMにてD/Cの測定を行う粒子は、顕微鏡写真による断面積から円相当径を求め、その値がコールターカウンターによって測定される個数平均粒径(D1)の±10%の幅に含まれるものを該当粒子とする。その該当粒子について、磁性粉体とトナー粒子表面との距離の最小値を計測し、D/Cを計算する。また、その該当粒子100個について、D/C値が0.02以下となる粒子の割合を計算する。このときの顕微鏡写真は、精度の高い測定を行うため、1万〜2万倍の倍率が好適である。なお、本発明では、透過型電子顕微鏡(日立製H−600型)を用い、加速電圧100kVで観察し、拡大倍率1万倍の顕微鏡写真を用いて測定した。
次に、本発明の製造方法によって得られる磁性トナーを、好適に用いることのできる画像形成装置の一例を、図に沿って具体的に説明する。
図1において、100は感光体ドラムで、その周囲に帯電ローラー117、現像装置140、転写ローラー114、クリーナー116、給紙ローラー124などが設けられている。感光体ドラム100は、帯電ローラー117によって−700Vに帯電される。次いで、レーザー発生装置121から照射されるレーザー光123によって露光される。こうして感光体ドラム100上に形成された静電潜像は、現像装置140によって磁性トナーで現像される。感光体ドラム100上のトナー画像は、転写材を介して感光体ドラム100に当接された転写ローラー114により転写材上へ転写される。トナー画像をのせた転写材は搬送ベルト125によって搬送され、定着装置126で定着される。また、一部感光体ドラム100上に残されたトナーは、クリーナー116によってクリーニングされる。現像装置140には、図1に示すように、感光体ドラム100に近接してアルミニウム、ステンレスなど非磁性金属で作られた円筒状のトナー坦持体102(以下現像スリーブと称す)が配設され、感光体ドラム100と現像スリーブ102との間隙は、図示されないスリーブ/感光体間隙保持部材などによって約230μmに維持されている。現像スリーブ102内には、不図示のマグネットローラーが現像スリーブ102と同心的に配設、固定されており、現像スリーブ102のみ回転する構造となっている。マグネットローラーには、複数の磁極が具備されており、S1は現像、N1はトナーコート量規制、S2はトナーの取り込み/搬送、N2はトナーの吹き出し防止にそれぞれ寄与している。さらに、現像スリーブ102に付着して搬送される磁性トナー量を規制する部材として、弾性ブレードが配設されており、現像スリーブ102に対する当接圧により現像領域に搬送されるトナー量が制御される。現像領域では、感光体ドラム100と現像スリーブ102との間に直流および交流の現像バイアスが印加され、現像スリーブ102上の磁性トナーは、静電潜像に応じて感光体ドラム100上に飛翔して可視像となる。
以下、本発明の製造方法について、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、これら実施例により何ら限定するものではない。
なお、以下の実施例および比較例において、部数および%は、特に断りのない限り重量基準である。
実施例2の磁性トナーの製造において、重合温度を75℃としたこと以外は、実施例2と同様にして磁性トナーを作製した。尚、本実施例は、参考例として示すものである。
(比較例1)
実施例2の磁性トナーの製造において、ジビニルベンゼンを用いなかったこと以外は、実施例2と同様にして磁性トナーを作製した。
(比較例2)
実施例2の磁性トナーの製造において、ドデカンチオールを用いなかったこと以外は、実施例2と同様にして磁性トナーを作製した。
(比較例3)
実施例2の磁性トナーの製造において、重合温度を60℃としたこと以外は、実施例2と同様にして磁性トナーを作製した。
実施例1乃至7および比較例1乃至3で作製した各磁性トナーについて、物性値を表1にまとめて示した。なお、重合転化率は、重合開始2時間後および8時間後(重合完了後)に反応容器からスラリーの一部をサンプリングし、上述した方法によって測定した。
※1:トナー粒子表面の炭素元素含有量Aと、鉄元素含有量Bの比
※2:下記C値およびD値の比D/Cが、0.02以下になるトナー粒子の割合
(C:トナーの投影面積相当径,D:磁性粉体−トナー表面間距離の最小値)
表1に示すように、本発明の実施例においては、いずれも重合反応が速やかに進行していることがわかる。また、得られた磁性トナーの分子量(Mp)は、重合温度の異なる実施例7を除くと、いずれも10000〜11000程度の低い値を示し、且つ、いずれの磁性トナーも、THF不溶分が適度に形成されていることがわかる。
また、上記実施例の中でも、特に実施例1の磁性トナーは、重合完了後の転化率も向上していることがわかる。すなわち、2種類の重合開始剤を併用することによって開始剤効率が向上し、未反応単量体の残留を防止できることがわかった。
一方、多官能性単量体を用いなかった比較例1、および連鎖移動剤を用いなかった比較例2の磁性トナーは、ともに重合反応は速やかに進行するものの、低分子量化に対する効果は必ずしも十分ではなく、THF不溶分量の制御が困難であることがわかった。さらに、重合温度を60℃とした比較例3においては、重合反応は緩やかに進行し、得られた磁性トナーは、30000を超える高い分子量(Mp)を有するものであった。
(磁性トナーの評価)
磁性トナーの評価には、画像形成装置としてLBP−1760を改造し、概ね図1に示される構造のものを使用した。
帯電部材としては、導電性カーボンを分散しナイロン樹脂で被覆したゴムローラー帯電器を使用し、静電荷像坦持体(感光体ドラム)に当接させて(当接圧59N/m)、直流電圧−650Vdcに交流電圧1.8kVppを重畳したバイアスを印加する。
次いで、レーザー光で画像部分を露光することにより静電潜像を形成する。この時、暗部電位Vdを−650V、明部電位VLを−130Vとした。
トナー担持体として、表面をブラストした直径16mmのアルミニウム円筒上に、下記の構成の層厚約7μm、JIS中心線平均粗さ(Ra)1.0μmの樹脂層を形成した現像スリーブを使用し、現像磁極85mT(850ガウス)、トナー規制部材として厚み1.0mm、自由長0.5mmのウレタン製ブレードを39.2N/m(40g/cm)の線圧で当接させた。また、感光体ドラムと現像スリーブとの間隙は270μmとした。
フェノール樹脂:100重量部
グラファイト(粒径約7μm):90重量部
カーボンブラック:10重量部
現像バイアスとして、直流バイアスVdcは−450Vとし、重畳する交流バイアスVppは1.6kVとし、周波数は2400Hzを用いた。また、現像スリーブの周速は、感光体ドラムの周速(94mm/sec)に対して、順方向に110%のスピード(103mm/sec)とした。
また、転写部材としては、導電性カーボンを分散したエチレン−プロピレンゴム製のローラー(導電性弾性層の体積抵抗値108Ωcm、表面ゴム硬度24°、直径20mm、当接圧59N/m)を使用し、周速は感光体ドラムの周速に対して等速とし、転写バイアスは直流1.5kVとした。
定着部材としては、オイル塗布機能のない、フィルムを介してヒーターにより加熱圧着するフィルム定着方式の定着装置を用いた。このとき加圧ローラーには、フッ素系樹脂の表面層を有する、直径30mmのものを使用した。また、定着温度は180℃とし(定着性評価を除く)、ニップ幅を7mmに設定した。
磁性トナー特性の評価方法および判断基準は、以下の通りである。
(1)画像濃度
画像濃度はベタ画像部を形成し、このベタ画像をマクベス反射濃度計(マクベス社製)にて測定を行った。
(2)転写効率
ベタ黒画像転写後の感光体ドラム上の転写残トナーをマイラーテープによりテーピングしてはぎ取り、これを紙上に貼リ付けてマクベス濃度を測定し、その値をAとし、転写後定着前のトナーの載った紙上にマイラーテープを貼リ付けてマクベス濃度を測定し、その値をBとし、未使用の紙上にマイラーテープのみを貼リ付けてマクベス濃度を測定し、その値をCとした。転写効率は、近似的に以下の式により算出した。
転写効率(%)=(B−A)/(B−C)×100
上記の計算式から得られた転写効率を以下の基準で判断した。
A:転写効率が96%以上
B:転写効率が92%以上,96%未満
C:転写効率が89%以上,92%未満
D:転写効率が89%未満
(3)カブリ
カブリの測定は、東京電色社製のREFLECTMETER MODEL TC−6DSを使用して測定した。フィルターはグリーンフィルターを用い、下式により算出した。
カブリ(%)=標準紙の反射率(%)−サンプル非画像部の反射率(%)
なお、カブリの判断基準は以下の通りである。
A:非常に良好(1.5%未満)
B:良好(1.5%以上,2.5%未満)
C:普通(2.5%以上,4.0%未満)
D:悪い(4%以上)
(4)定着性
単位面積当たりのトナー載り量を0.7mg/cm2に調整したベタ画像部を形成し、定着器の設定温度を130〜230℃の範囲で順次昇温し、5℃毎に定着画像を出力した。得られた定着画像は、4.9kPa(50g/cm2)の荷重をかけたシルボン紙で5往復摺擦し、摺擦前後の画像濃度の低下率が10%以下となる温度を定着開始温度とした。また、高温オフセット温度については、定着画像面上の非画像部および紙裏の汚れの有無を、目視にて観察し、評価した。
実施例1乃至7および比較例1乃至3で作製した各磁性トナーについて、常温常湿環境下(23℃,60%RH)にて、画像濃度、転写効率、カブリの各評価と、定着性の評価を行った。次いで、印字率2%の横線のみからなる画像パターンで、2000枚の画出し耐久試験を行った。耐久試験後に、再度、画像濃度、転写効率、カブリの各評価を行った。なお、転写材としては75g/m2の紙を使用した。
定着性の評価結果を表2に、初期および画出し耐久後の画像濃度、転写効率、カブリの各評価結果を表3にそれぞれまとめて示した。
表2に示すように、本発明の実施例によって得られた磁性トナーは、いずれも良好な低温定着性を示し、且つ、耐高温オフセット性にも優れており、広い定着領域を有していることがわかった。これに対し、比較例1の磁性トナーは、低温定着性には優れるものの、早期に高温オフセットが発生し、定着領域の狭いものであった。また、比較例2および3の磁性トナーは、ともに低温定着性に劣っていた。
また、表3に示すように、本発明の実施例によって得られた各磁性トナーは、画像特性の評価でも概ね良好な結果が得られ、画出し耐久試験を行った後も著しい性能低下が生じることはなく、通常の重合温度で作製した比較例3の磁性トナーに比べて、遜色のないレベルであることがわかった。これに対し、多官能性単量体を用いなかった比較例1、および連鎖移動剤を用いなかった比較例2の各磁性トナーは、初期においては比較的良好な画像特性が得られたものの、画出し耐久試験後の性能低下が実施例の磁性トナーに比べて相対的に大きかった。