JP4390867B2 - 結晶性物質の精製方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、不純物を含有する結晶性物質の精製方法に関し、さらに詳しくは不純物を含有する結晶性物質を固体状で連続晶析精製装置に装入し、晶析精製する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
結晶性物質を精製する方法としては、不純物を含む結晶性物質に溶剤を添加し又は添加しないでいったん溶液又は融解液を形成し、次いでこれを冷却して目的の結晶を析出させる方法が知られている。連続晶析法においては、連続晶析精製装置の下部に備えられた加熱手段で析出した結晶を再融解し、融解液として抜き出し、精製結晶を回収する。この晶析法は、処理能力が高く、比較的容易に高純度に精製できるという特長を有している。
【0003】
特公昭58−46322号公報には、撹拌機を備え、上方に冷却帯域とその下方に精製帯域を有する塔型の連続晶析装置を用い、冷却帯域と精製帯域との中間部から原料を装入し、上下方向への結晶移送力を実質的に与えず、同一平面内のみを撹拌しながら、冷却帯域でゆるやかに冷却して結晶を析出させ、純度を高めた結晶スラリーを精製帯域で母液との向流接触によりさらに純度を高めた結晶とし、その下部に備えた加熱手段により融解し、融解液として回収する精製方法が記載されている。この精製方法は極めて簡便な装置で実施でき、生産性が高く、比較的小規模設備から中規模設備として実用性が高いが、結晶性物質の種類によっては晶析精製が困難であったり、不可能のものもあり、適用が限定されるという問題があった。
【0004】
さらに、特公昭63−36802号公報には、上記特公昭58−46322号公報記載の塔型の連続晶析装置と同様な装置を用い、不純物を含有する結晶性物質をいったん融解し、冷却し、固化し、さらに細分して得た粉・粒子の形状で装入する精製法が知られている。この精製方法によれば、連続晶析装置に装入される原料結晶の調製が容易であるという利点があるが、前記と同様な問題が残ることがあることが判明した。
【0005】
【解決を要する課題】
したがって、本発明の目的は、不純物を含有する結晶性物質供給原料を固体状で装入する連続晶析精製方法において、比較的広い範囲の供給原料に適用でき、効率の高い連続操業が可能な晶析精製方法を提供することにある。
【0006】
すなわち、本発明は、不純物を含有する結晶性物質供給原料を固体状で、撹拌手段を備えた塔型の連続晶析精製装置の上部より装入し、下部に備えられた加熱手段により沈降した結晶を融解させて生ずる融解液と向流接触させて精製し、精製された結晶性物質を下部より融解液として抜き出し、不純物が濃縮された母液を上部より抜き出すことよりなる結晶性物質の精製方法において、連続晶析精製装置の塔上部であって、母液層に相当する塔上部を加熱する加熱手段を設け、上部に存在する母液を加熱し、該母液温度がその母液の凝固点より2℃以上高い温度となるようにする結晶性物質の精製方法である。ここで、供給原料結晶の平均粒径を2.5mm以上とすることがよく、また供給原料結晶を加熱して、例えば常温より10℃以上高めることもよい。
【0007】
【発明の実施の態様】
図1は、本発明の結晶性物質の精製方法を実施するための連続晶析精製装置の一例を示す断面図であり、必要により設けられる結晶加熱装置1とそれに連結された塔型の連続晶析精製装置(以下、晶析塔という)2で構成される。晶析塔2は、その上部に結晶装入部3、残液抜出部4及び撹拌羽根5を有する撹拌手段6を備え、その下部に加熱手段7及び製品抜出部8を備えている。晶析塔2の内部は上部に母液層、中間から下部にかけてスラリー層があり、最下層に融液層があるのが典型的であるが、条件によっては明確に層が識別できないときもある。本発明においては、この母液層に相当する晶析塔2上部に加熱手段9を設けるものである。この加熱手段9は晶析塔2の外部にジャケットを設け、ここに熱媒体を流して加熱するようなものであってもよいし、直接加熱管を母液層中に投入するようなものであってもよい。
【0008】
図1において、常温で供給される原料結晶は、必要により結晶加熱装置1でその融点より10℃以下の温度に加熱された後、固体状のままで晶析塔2に送られる。晶析塔2の上部に存在する母液層はこの結晶の顕熱により冷却されるが、冷却が激しいと微細な結晶が多数発生して羽毛状のダマになりやすい結晶が生成することが多くなる。
【0009】
そこで、本発明では晶析塔2の上部に加熱手段9を設けて、この部分の母液を加熱することにより、結晶の析出速度を遅くし、これにより析出する結晶の性状を改善するものである。この加熱は、母液温度がその母液の凝固点の2℃以上、好ましくは5〜15℃高い温度となるようにすることがよい。ここで、母液層に温度勾配がある場合は、この温度は平均の温度をいう。更に、母液温度を上記のように制御すると同時に、結晶が持ち込む顕熱の少なくとも1部、好ましくは10〜70%程度を補償する程度がよい。加熱が過ぎると母液の温度が上がり過ぎて結晶の析出がなくなるか、必要以上に減少する。
【0010】
また、この加熱手段9による加熱と共に、原料結晶を加温、例えば常温より10℃以上高くしたり、供給原料の平均粒径を2.5mm以上としたりすれば、母液の急激な冷却がより防止され、析出する結晶の性状をより良好なものとする。しかしながら、母液の加熱だけでも効果が生じるため、これらの要件は必ずしも必要ではないし、結晶を加熱することは、母液からの結晶の析出量を減らすことにもつながるので、熱バランスに注意する必要がある。
【0011】
また、原料結晶の形状は、球状、フレーク状等があるが球状若しくはこれに近い形状が好ましいが、成形のしやすさの点からすればフレーク状が有利である。フレーク状とする場合、その厚みは0.3mm以上、好ましくは0.5mm以上とすることがよい。ここで、平均粒径は平均的な粒子をいくつか取り出し、その縦(x)、横(y)、厚み(z)の各長さを測定し、(x+y+z)/3の式で計算したものである。また、原料結晶の嵩密度は比較的大きいことが好ましく、0.30g/cm3 以上とすることがよい。
【0012】
原料結晶は、結晶装入部3から晶析塔2に装入される。装入された原料結晶は、塔内を上昇してきた母液の最上部に落下し、母液との比重差によりゆっくり降下してスラリー層の上部に達すると共に一部は母液に溶解する。また、同時にその周囲の温度を低下させて結晶を析出させる。この母液層を結晶降下帯域Aという。結晶降下帯域Aの下方部は、スラリー状の結晶が存在するスラリー層となっており、この結晶が上昇する母液と接触して降下する間に溶解、析出をくり返し、晶析精製が行われる。なお、この結晶降下帯域Aにおいて、原料結晶の顕熱や溶解熱により母液は冷却されるので、本発明では、過激な冷却を防止するため結晶降下帯域Aに加熱手段9を設け、加熱する。
【0013】
結晶降下帯域Aの下方部のスラリー層の結晶は、母液との比重差により更に降下する際、結晶の溶解と再結晶が無数に繰り返され、結晶中の不純物は結晶から母液に移行して結晶精製が行われるので、この帯域を結晶精製帯域Bという。結晶降下帯域Aと結晶精製帯域Bは、明確な区分はなく、図1に示すように、結晶降下帯域Aの下端部と結晶精製帯域Bの上端部は重なり合っている。
【0014】
結晶精製帯域Bにおいて、結晶精製を効率的に行うには、スラリー層が安定に存在することが重要であり、それには結晶の密度、形状等が関係する。特に、スラリー層上部にできる結晶の性状が重要であり、比較的密度の大きい、引き締った結晶を作ることが望ましい。そのためには、母液層の温度を制御して、急激な冷却を防止することが重要である。スラリー層が不安定であると母液との向流接触が不十分となったり、ダマができたりして晶析精製が殆ど不能となる。また、塔内には、下部の温度が高く、上部の温度が低いという温度勾配を有する部分があることが望ましいが、これもスラリー層の安定性に関係する。
【0015】
更に、撹袢もスラリー層の晶析精製効果を高めるのに重要である。撹袢は、上下方向への結晶移送力を実質的に与えず、同一平面内のみを撹拌することが肝要である。このため、晶析塔2内には、晶析塔2の上下に連通して設置され、モーター等で駆動される回転軸に棒状体の撹拌羽根5を多数取り付けた撹拌手段6を設置する。この撹拌羽根5の断面形状は特に限定されないが、断面が円形、楕円形、矩形、三角形等の適当形状の棒状体が好ましい。更に、該棒状体には、その先端に晶析塔2の内壁に付着する結晶の掻取刃を取り付けたり、その中間に直交する棒状体を取り付けたりしてもよい。このような撹拌手段6を設置することにより、スラリー層を安定化し、温度勾配を保持し、晶析精製効果を高める。
【0016】
結晶精製帯域Bで精製された高純度結晶は、結晶融解帯域Cに降下し、ここで融解され、一部は還流として母液となり、残部は液状で製品抜出部8から晶析塔2から抜き出される。このため、晶析塔2の下部には、スチーム加熱や熱媒体加熱等の加熱手段8が設置されている。結晶精製帯域Bと結晶融解帯域Cも、明確な区分があるのではなく、図1に示すように、結晶精製帯域Bの下端部と結晶融解帯域Cは重なり合っている。なお、結晶融解帯域Cは格別広くとる必要はない。液状で製品抜出部8から晶析塔2から抜き出された高純度品は、フレーカー等の固化装置により製品とされる。
【0017】
晶析塔2の本体は、塔型の円筒形状でよいが、例えば結晶降下帯域Aにおける滞留時間を長くして晶析条件をより穏やかにする場合等においては、この結晶降下帯域Aの内径を他部より大きくするなど変形してもよい。また、晶析塔2の長さは、原料結晶の組成と結晶成分の物性、撹拌手段6の撹拌効果、生産性及び要求される純度など種々の要因に支配されるが、高純度製品を得るには結晶精製帯域Bの長さを長くすればよく、適宜設定できる。
【0018】
本発明の精製方法が適用される結晶性物質としては、晶析精製が可能なものであれば、有機、無機を問わず格別な制限はないが、常温で固体である化合物が好ましい。このような化合物としては、ナフタレン、安息香酸、ジクロロベンゼン等の多数の結晶性化合物が挙げられる。特に、本発明は、結晶の性状が悪いため、従来連続晶析精製が困難であった安息香酸などに対しても有効である。
【0019】
【実施例】
実施例1
トルエンの液相酸化によって得られた粗製安息香酸結晶を、図1に示す連続晶析精製装置により精製した。晶析塔2には、内径50mm、長さ600mmのガラス製円筒を用い、その外周をジャケットとし、熱媒体を循環させて温度調整可能とした。また、塔底には結晶を融解させるための熱媒体が循環する加熱手段7を設けた。また、晶析塔2の頂部付近に残液抜出部4を、底部に製品抜出部8をそれぞれ設けると共に、円筒棒状の撹拌羽根5を塔内壁に接触するギリギリに50mm間隔で取付けてなる撹拌手段6を頂部に設けた。
【0020】
平均粒径2mm、厚み0.2mmのフレーク状の粗製安息香酸結晶(安息香酸純度98.5重量%)を常温のまま、晶析塔2の頂部から300g/hrで装入し、連続晶析精製した。定常状態での晶析塔2の結晶降下帯域Aの高さを約150mm、結晶精製帯域Bの高さを約400mmとし、撹袢手段6の回転数を50rpmとして運転を行った。晶析塔2の上部ジャケットには125℃の熱媒体を流して温度を119℃とし、中段の温度は118℃、下部の温度は122℃とした。製品抜出部8から精製された安息香酸の融解液を製品として150g/hrで抜き出し、残液抜出部4から母液を150g/hrで抜き出した。製品の純度は99.98%であり、母液中の安息香酸濃度は96%であった。
【0021】
実施例2
粗製安息香酸結晶の装入量を400g/hrとし、精製された安息香酸を200g/hrで抜き出し、母液を200g/hrで抜き出した他は実施例1と同様にして精製を行った。製品の純度は99.95%であった。
【0022】
比較例1〜2
塔上部のジャッケット9に熱媒体を流さない他は、実施例1及び2と同様な実験を行った。晶析塔2の母液表面にはダマが生成し、安定状態にもちこむことができなかった。
【0023】
【発明の効果】
本発明の連続晶析精製方法によれば、比較的結晶の性状が悪いとされる原料化合物であっても、晶析塔内に良好な結晶を生成させることができ、高純度の結晶製品を高い製品歩留で得ることが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の結晶性物質の精製方法を実施するための連続晶析精製装置の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
1 : 結晶加熱装置
2 : 晶析塔
3 : 結晶装入部
4 : 残液抜出部
5 : 撹拌羽根
6 : 撹拌手段
7 : 加熱手段
8 : 製品抜出部
9 : 加熱手段

Claims (3)

  1. 不純物を含有する結晶性物質供給原料を固体状で、撹拌手段を備えた塔型の連続晶析精製装置の上部より装入し、下部に備えられた加熱手段により沈降した結晶を融解させて生ずる融解液と向流接触させて精製し、精製された結晶性物質を下部より融解液として抜き出し、不純物が濃縮された母液を上部より抜き出すことよりなる結晶性物質の精製方法において、連続晶析精製装置の塔上部であって、母液層に相当する塔上部に別個の加熱手段を設け、上部に存在する母液を加熱し、該母液温度がその母液の凝固点より2℃以上高い温度となるようにすること特徴とする結晶性物質の精製方法。
  2. 供給原料結晶の平均粒径を2.5mm以上とする請求項1記載の結晶性物質の精製方法。
  3. 供給原料結晶を加熱して装入する請求項1又は2記載の結晶性物質の精製方法。
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