しかしながら、上記従来技術では、記録層101、記録層である光吸収層107、及び光ディスク基板100の変形を伴うため、記録層除去領域103、変形領域105及び変質領域109が広がり易く、微細パターンを安定して形成できないという問題がある。
例えば、図4に示すように、記録層101を蒸発させて除去する場合、除去された記録層101の近傍の記録層101も溶融状態となっており、該溶融状態の記録層101が不均一に固化することにより、変形領域103のエッジ部分が不明瞭となり、微細パターンの形成が阻害される。
また、図5に示すように、記録層101を光ディスク基板100から剥離する場合、記録層101と光ディスク基板100との密着状態の変動や記録層101自体の強度変動により、変形領域105のエッジ部分が不明瞭となり、微細パターンの形成が阻害される。
さらに、図6に示すように、記録層である光吸収層107と樹脂からなる光ディスク基板100とを溶解混合する場合、温度が十分に上昇した集光ビーム102中心付近においては、十分な混合溶解が発生するが、その周辺領域においては、混合溶解が不十分となる。その結果、変質領域109のエッジ部分が不明瞭となり、微細パターンの形成が阻害されるとともに、再生時のジッタが悪化する傾向があった。
本発明は、上記のような従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、記録マークのエッジ部分が明瞭で、かつ、より微細な記録マークを形成し得るメモリ素子、記録層に対する記録方法、及び記録装置を提供することにある。
本発明のメモリ素子は、上記の課題を解決するために、情報が記録される記録層と、上記記録層を間に挟んで設けられた第1の保護層及び第2の保護層とを備え、上記記録層の気体化温度が、上記第1の保護層の融点及び上記第2の保護層の融点よりも低くなっていることを特徴としている。
上記の構成によれば、記録層の気体化温度が、記録層を間に挟んで設けられた第1の保護層及び第2の保護層、すなわち該記録層の両面に設けられた第1の保護層及び第2の保護層の融点よりも低くなっているため、例えば、光ビームが集光照射され、記録層が気体化温度以上の温度に温度上昇した場合においても、第1の保護層及び第2の保護層の温度が融点に達しておらず、第1の保護層と第2の保護層とが大きく溶融変形することなく、記録層が気体化し、該記録層に空洞領域が形成される。このとき、記録層が気体化した領域の周辺には、記録層が溶融した溶融領域が形成されるが、第1の保護層及び第2の保護層の溶融変形が抑制されていることにより、該溶融領域は、記録層が気体化した結果として空洞領域内に生じる圧力を受け、非溶融領域に押し付けられるように圧縮されることになる。
この結果、第1の保護層と第2の保護層との間の限られた空間の中で、記録層の気体化にともなう空洞領域が形成されるため、該空洞領域の拡大が、周囲に存在する溶融領域及び非溶融領域の記録層により抑制される。溶融領域は、光ビームの集光照射から外れると、そのまま凝固する。それゆえ、上記の構成によれば、従来の光メモリ素子による記録マークと比較して、記録マークのエッジ部分が明瞭で、かつ、より微細な記録マークを形成することができる。
なお、第1の保護層及び第2の保護層の形成材料として、記録層の一部が気体化しても、そのときの温度及びそれによって生じる圧力に対して、溶融変形しない材料を選択することが好ましい。これは、記録マークのエッジ部分を一層明瞭にするのに有効である。
また、本発明のメモリ素子では、上記記録層は、光ビームの集光照射により、その一部が気体化する材料で形成されていることが好ましい。
上記の構成により、光ビームを用いた情報の記録再生を行うことができる光メモリ素子の用途に本発明のメモリ素子を供することができる。このような光メモリ素子としては、例えば、追記型のDVDやCD等の光ディスクが挙げられる。
また、本発明のメモリ素子では、上記第1の保護層または上記第2の保護層が、光ビームを吸収する光吸収層であることが好ましい。
上記の構成によれば、上記第1の保護層または上記第2の保護層の何れかに相当する光吸収層が、光ビームを吸収する。このため、光吸収層の温度は、上記記録層の気体化温度以上にまで温度上昇する。そして、光吸収層に接する記録層では、気体化されて、空洞領域が形成されることで、記録マークが形成される。上記の構成によれば、光吸収層ではない場合と比べて、昇温速度が速くなり、光ビームの低出力化または高速記録に有利になるという効果がある。
ここで、例えば、第2の保護層が光吸収層である場合、上記記録層の気体化温度が、記録層の両面に設けられた第1の保護層及び光吸収層の融点よりも低くなっている。このため、光ビームが集光照射され、記録層が気体化温度以上の温度に温度上昇した場合においても、第1の保護層及び光吸収層の温度が融点に達しておらず、第1の保護層及び光吸収層が大きく溶融変形することなく記録層が気体化し、該記録層に空洞領域が形成される。この際、記録層が気体化した領域の周辺には、該記録層が溶融した溶融領域が形成されるが、第1の保護層及び光吸収層の溶融変形が抑制されていることにより、該溶融領域は、該記録層が気体化した空洞領域における圧力を受け、非溶融領域に対して圧縮されることになる。
その結果、第1の保護層と光吸収層との間の限られた空間の中で、記録層の気体化にともなう空洞領域が形成されるため、該空洞領域の拡大が、周囲に存在する溶融領域及び非溶融領域の記録層により抑制される。それゆえ、上記の構成によれば、従来の光メモリ素子による記録マークと比較して、記録マークのエッジ部分が明瞭で、かつ、より微細な記録マークを形成することができる。なお、上記第1の保護層が光吸収層である場合でも、同様の効果を奏する。
また、上記光吸収層が上記記録層において光ビームが入射する側と反対側の面に設けられている構成、あるいは、上記光吸収層が上記記録層において光ビームが入射する側の面に設けられている構成であっても、光吸収層の温度は、上記記録層の気体化温度以上にまで温度上昇し、光吸収層に接する記録層では、気体化されて、空洞領域が形成されることで、記録マークが形成されるので、従来の光メモリ素子による記録マークと比較して、記録マークのエッジ部分が明瞭で、かつ、より微細な記録マークを形成することが可能である。
また、光メモリ素子が、記録層において光ビームが入射する側の面に、光吸収層が形成された構成である場合、この光吸収層を半透明な光吸収層とすることで、読み出し時にも記録層の空洞が見え、記録マークのエッジ部分が明瞭で、かつ、より微細な記録マークを形成することが可能である。
また、さらに、上記記録層において光吸収層と反対側に設けられた保護層が、光ビームを透過する透明保護層であってもよい。この構成は、光ビームが上記透明保護層を透過し、記録層を経て、光吸収層にて集光照射するような構成である。すなわち、上記光吸収層が上記記録層において光ビームが入射する側と反対側の面に設けられている構成である。
また、本発明のメモリ素子では、さらに、上記第2の保護層上に被覆層が形成されていることが好ましい。
上記の構成によれば、さらに、上記第2の保護層上に被覆層が形成されている。すなわち、上記の構成は、第1の保護層、記録層、第2の保護層、被覆層が順次形成された構成である。上記第2の保護層上に被覆層が形成されていることにより、第1の保護層、記録層、及び第2の保護層の損傷(擦り傷など)を抑制することができる。
上述の構成としては、例えば、さらに、透明基板を備え、上記透明基板上に、少なくとも、上記第1の保護層としての透明保護層、上記記録層としての樹脂層、上記第2の保護層としての光吸収層が順次形成されている構成が挙げられる。この構成は、第1の保護層として透明保護層を、記録層として樹脂層を、第2の保護層として光吸収層を用いた構成である。
また、さらに、基板を備え、上記基板上に、少なくとも、上記第1の保護層としての光吸収層と、上記記録層としての樹脂層と、上記第2の保護層としての透明保護層が順次形成されている構成が挙げられる。この構成は、第1の保護層として光吸収層を、記録層として樹脂層を、第2の保護層として透明保護層を用いた構成である。
上記の構成によれば、上記透明保護層側から入射した光ビームは、上記光吸収層にて集光照射され、該光吸収層の温度を該樹脂層の気体化温度以上の温度まで温度上昇させ、該光吸収層に接する該樹脂層を気体化させて、空洞領域を形成することにより、記録マークが形成される。ここで、該樹脂層の気体化温度が、該樹脂層の両面に設けられた該透明保護層の融点及び該光吸収層の融点よりも低いため、光ビームが集光照射され、該樹脂層が気体化温度以上の温度に温度上昇した場合においても、該透明保護層と該光吸収層の温度が融点に達しておらず、該透明保護層と該光吸収層とが大きく溶融変形することなく該樹脂層が気体化し、該樹脂層に空洞領域が形成される。この際、該樹脂層が気体化した領域の周辺には、該樹脂層が溶融した溶融領域が形成されるが、該透明保護層と該光吸収層の溶融変形が抑制されていることにより、該溶融領域は、該樹脂層が気体化した空洞領域における圧力を受け、非溶融領域に対して圧縮されることになる。
その結果、透明保護層と光吸収層との間の限られた空間の中で、樹脂層の気体化にともなう空洞領域が形成されるため、該空洞領域の拡大が、周囲に存在する溶融領域及び非溶融領域の樹脂層により抑制され、従来の方法による記録マークと比較して、記録マークのエッジ部分が明瞭で、かつ、より微細な記録マークを形成することができる。
ここで、メモリ素子が、透明基板上に、少なくとも、上記第1の保護層としての透明保護層、上記記録層としての樹脂層、上記第2の保護層としての光吸収層が順次形成された構成である場合、透明保護層側から光ビームを集光照射することが必要であるため、基板は、光ビームを透過する透明基板である。このような透明基板としては、ガラス基板やポリカーボネイト等の透明樹脂基板が挙げられる。また、さらに、第2の保護層としての光吸収層上に被覆層が形成されている場合、光吸収層とは反対側の透明保護層側から光ビームを集光照射させているので、この被覆層は、光ビームを透過する透明被覆層である必要はない。
一方、光メモリ素子が、基板上に、少なくとも、上記第1の保護層としての光吸収層と、上記記録層としての樹脂層と、上記第2の保護層としての透明保護層が順次形成された構成である場合、基板に光ビームを透過させる必要がないため、基板は、透明基板である必要はない。このため、この場合、基板として、金属基板や紙基板等を使用することが可能であるが、ガラス基板やポリカーボネイト等の透明樹脂基板を用いることも可能である。また、さらに、第2の保護層としての透明保護層上に被覆層が形成されている場合、透明保護層側から光ビームを集光照射させているので、この被覆層は、光ビームを透過する透明被覆層である。
次に、上記記録層としては、例えば、フォトレジスト層や紫外線硬化樹脂層等の樹脂層が挙げられる。
また、透明保護層としては、記録または再生を行うための光ビームを透過するものが望ましく、例えば、窒化アルミ二ウム、窒化シリコン、酸化アルミニウム、または酸化シリコン等の透明誘電体層が挙げられる。これらの透明誘電体は、記録層である樹脂層の気体化温度よりも高い融点を有している。
また、光吸収層は、記録再生を行うための光ビームを吸収して、記録層としての樹脂層の気体化温度以上の温度まで温度上昇することが必要である。このため、光吸収層としては、例えば、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、モリブテン(Mo)、ハフニウム(Hf)、またはタンタル(Ta)等の金属層や、シリコン(Si)もしくはゲルマニウム(Ge)からなる半導体層を用いることが可能である。これらの金属や半導体は、記録層である樹脂層の気体化温度よりも高い融点を有している。
したがって、空洞領域が形成される樹脂層が、該樹脂層の気体化温度よりも高い融点を有する透明保護層と光吸収層との間に挟まれて、該空洞領域が形成される空間が限定されることにより、従来の方法によるパターンと比較して、記録マークのエッジ部分が明瞭で、かつ、より微細なパターンを形成することができる。
ここで、本明細書における記録層の気体化温度とは、記録層が温度上昇により気体化する温度のこと意味している。例えば、記録層として樹脂層を用いた場合、樹脂を構成する分子がばらばらになり、気体化する温度のことを意味している。 また、記録層に対する記録方法は、上記の課題を解決するために、第1の保護層及び第2の保護層の間に挟んで設けられた記録層であって、気体化温度が、上記第1の保護層の融点及び上記第2の保護層の融点よりも低くなっている記録層の一部を昇温して気体化させることにより、該記録層に空洞領域を形成することを特徴としている。
上記の構成によれば、記録層の気体化温度が、第1の保護層の融点及び第2の保護層の融点よりも低くなっており、該記録層の一部を昇温させているので、第1の保護層と第2の保護層との間の限られた空間の中で、記録層の気体化にともなう空洞領域が形成される。それゆえ、該空洞領域の拡大が、周囲に存在する溶融領域及び非溶融領域の記録層により抑制され、従来の光メモリ素子による記録マークと比較して、記録マークのエッジ部分が明瞭で、かつ、より微細な記録マークを形成することができる。
また、本発明の記録層に対する記録方法では、上記第1の保護層、記録層または上記第2の保護層の何れか1層に、光ビームを集光照射することにより、記録層の一部を昇温して気体化させることが好ましい。
なお、第1の保護層、記録層または第2の保護層のいずれか1層に光ビームを集光照射するとは、光ビームを第1の保護層、記録層または第2の保護層のいずれか1層に集中的に照射することをいう。したがって、例えば、第1の保護層に集光照射したときには、光ビームは記録層及び第2の保護層にも照射されている。
上記の構成により、光ビームを用いた、光メモリ素子による情報の記録再生の用途に本発明の記録層に対する記録方法を適用することができる。
また、さらに、上記第1の保護層または第2の保護層のうち、一方が光ビームを透過する透明保護層であり、他方が光ビームを吸収する光吸収層であって、上記光吸収層に、上記透明保護層側から光ビームを集光照射してもよい。
本発明の記録再生装置は、上記の課題を解決するために、上述のメモリ素子に対して、少なくとも記録を行う記録装置であって、記録すべき情報に基づいて、上記第1の保護層、記録層または上記第2の保護層の何れかに、光ビームを集光照射し、記録層を気体化させることにより、該記録層に空洞領域を形成する光照射手段を備えていることを特徴としている。
このように、光照射手段が、上記第1の保護層、記録層または上記第2の保護層の何れか1層に、光ビームを集光照射し、記録層の一部を気体化させることにより、該記録層に空洞領域を形成するので、従来の光メモリ素子による記録マークと比較して、記録マークのエッジ部分が明瞭で、かつ、より微細な記録マークを形成することができる記録再生装置を実現することができる。
以上のように、本発明のメモリ素子は、情報が記録される記録層と、上記記録層を間に挟んで設けられた第1の保護層及び第2の保護層とを備え、上記記録層の気体化温度が、上記第1の保護層の融点及び上記第2の保護層の融点よりも低くなっていることを特徴とするメモリ素子である。
また、本発明の記録層に対する記録方法は、第1の保護層及び第2の保護層の間に挟んで設けられた記録層であって、気体化温度が、上記第1の保護層の融点及び上記第2の保護層の融点よりも低くなっている記録層の一部を昇温して気体化させることにより、該記録層に空洞領域を形成することを特徴とする記録層に対する記録方法である。
また、本発明の記録装置は、記録すべき情報に基づいて、上記第1の保護層、記録層または上記第2の保護層の何れかに、光ビームを集光照射し、記録層を気体化させることにより、該記録層に空洞領域を形成する光照射手段を備えていることを特徴とする記録装置である。
それゆえ、本発明によれば、記録層の気体化温度が、該記録層の両面に設けられた第1の保護層の融点及び第2の保護層の融点よりも低いため、光ビームが集光照射され、記録層が気体化温度以上の温度に温度上昇した場合においても、第1の保護層と第2の保護層の温度が融点に達しない。その結果、第1の保護層と第2の保護層とが大きく溶融変形することなく、記録層が気体化し、該記録層に空洞領域が形成される。この際、記録層が気体化した領域の周辺には、記録層が溶融した溶融領域が形成されるが、第1の保護層と第2の保護層の溶融変形が抑制されていることにより、該溶融領域は、記録層が気体化した空洞領域における圧力を受け、非溶融領域に対して圧縮されることになる。以上のように、第1の保護層と第2の保護層との間の限られた空間の中で、記録層の気体化にともなう空洞領域が形成されるため、該空洞領域の拡大が、周囲に存在する溶融領域及び非溶融領域の記録層により抑制され、従来の方法による記録マークと比較して、記録マークのエッジ部分が明瞭で、かつ、より微細な記録マークを形成することができる。
〔実施の形態1〕
本発明の実施の一形態について、図1に基づいて説明する。図1は、本実施形態における光メモリ素子及びその記録マークについて説明するための断面図である。
図1に示すように、光ディスク(メモリ素子)10は、スパイラル状に形成された案内溝6を有するディスク基板(透明基板)1上に、第1の保護層としての透明保護層2と、記録層としての樹脂層3と、第2の保護層としての光吸収層4とが順次形成された構成である。また、光ディスク10は、透明保護層2と樹脂層3と光吸収層4との損傷等を防ぐ目的で、図示するように、被覆層としての保護層5が設けられていることが望ましい。
光ディスク10では、透明保護層2側、すなわち、ディスク基板1側から光ビーム7が照射するようになっている。光ビーム7は、ディスク基板1と透明保護層2と樹脂層3とを透過して、光吸収層4へと集光され、案内溝6に沿って光ディスク10上の任意の位置に照射される。これにより、光吸収層4の温度が樹脂層3の気体化温度以上に上昇し、樹脂層3の温度が気体化温度まで温度上昇する。そして、樹脂層3の一部を気体化して空洞領域8が形成される。この空洞領域8が光ディスク10の記録マークとなる。
ここで、光ディスク10では、樹脂層3の気体化温度が、樹脂層3の両面に位置する透明保護層2の融点と光吸収層4の融点よりも低くなっている。このようにすることで、光ビーム7が集光照射され、樹脂層3が気体化温度以上の温度に温度上昇した場合においても、透明保護層2及び光吸収層4の温度が融点に達しておらず、透明保護層2と光吸収層4とが大きく溶融変形することなく、樹脂層3の一部が気体化し、該樹脂層3に空洞領域8が形成される。この際、樹脂層3が気体化した空洞領域8の周辺には、樹脂層3が溶融した溶融領域9が形成される。ここで、樹脂層3においては、光吸収層4に接した部分の温度がより高くなり、光吸収層4側において樹脂層3の気体化が始まるため、溶融領域9は空洞領域8の側面と透明保護層2側に存在することになる。また、この溶融領域9は、集光ビーム通過後、温度が下がることにより、樹脂層3の一部となる。
光ディスク10による記録マークの形成方法、すなわち記録方法においては、透明保護層2と光吸収層4の溶融変形が抑制されていることにより、溶融領域9は、樹脂層3が気体化した空洞領域8における圧力を受け、非溶融領域に対して圧縮されることになる。したがって、透明保護層2と光吸収層4との間の限られた空間の中で、樹脂層3の気体化にともなう空洞領域8が形成されるため、空洞領域8の拡大が、周囲に存在する溶融領域9及び非溶融領域の樹脂層3により抑制され、従来の光メモリ素子における記録マークと比較して、記録マーク(空洞領域8)のエッジ部分が明瞭で、かつ、より微細な記録マークを形成することができる。
また、光ディスク10に記録された情報の再生は、空洞領域8において屈折率が変わることに起因する反射光量変化を検出することにより可能である。
すなわち、本実施形態のメモリ素子及び記録層に対する記録方法においては、ディスク基板1上に、透明保護層2(第1の保護層)、樹脂層3(記録層)、光吸収層4(第2の保護層)が順次積層された構成のメモリ素子において、樹脂層3(記録層)の気体化温度を、樹脂層3(記録層)の両面に設けられた透明保護層2(第1の保護層)の融点と光吸収層4(第2の保護層)の融点よりも低い構成の多層構造に対して、光吸収層4(第2の保護層)に光ビームを集光照射することにより、樹脂層3(記録層)に、記録マークのエッジ部分が明瞭で、かつ、より微細なパターンを形成することができる。
次に、本実施形態のメモリ素子の記録再生を行うための記録再生装置を、図2に基づいて説明する。図2は、本実施形態のメモリ素子の記録再生を行うための記録再生装置の構成を示す図である。
図2に示すように、光ディスク再生装置(記録装置)50は、光ディスク10を固定するスピンドル11と、光ディスク10の再生を行う光ピックアップとを備えている。
スピンドル11に固定された光ディスク10は、スピンドル制御回路12により、スピンドル11とともに回転駆動される。
光ディスク10の再生を行う光ピックアップは、フォーカシングとトラッキングを行うために、集光レンズ20を駆動するアクチュエータ14と、光学系部分13とで構成されている。この光学系部分13は、光ディスク10へのレーザ光18の照射、及び、光ディスク10からの反射された戻り光の検出を行う。
光学系部分13は、半導体レーザ光源15、コリメータレンズ17、ビームスプリッタ19、ビームスプリッタ21、集光レンズ22、シリンドリカルレンズ23、制御用光検出器24、集光レンズ26、及び、再生用光検出器27を備えている。
なお、「光照射手段」は、集光レンズ20、アクチュエータ14、及び、光学系部分13を備えたものである。
半導体レーザ光源15は、レーザ制御回路16により駆動される。光ディスク再生装置50においては、レーザ制御回路16により駆動された半導体レーザ光源15からレーザ光18が放射される。そして、コリメータレンズ17により、レーザ光18が平行光束となる。なお、光ディスク再生装置50においては、半導体レーザ光源15からのレーザ光放射が楕円形状であるため、適宜、ビーム形状の整形を行ってもよい。
上記平行光束となったレーザ光18は、ビームスプリッタ19を通過し、集光レンズ20に入射し、光ディスク10の記録層上に集光照射される。光ディスク10からの反射光は、入射光の光路を戻り、ビームスプリッタ19により反射され、ビームスプリッタ21へと導かれる。
そして、ビームスプリッタ21を通過したレーザ光18は、集光レンズ22とシリンドリカルレンズ23を通過して、制御用光検出器24へと導かれる。そして、制御用光検出器24にて、非点収差法によりフォーカシング信号が生成され、プッシュプル法によりトラッキング信号が生成される。このフォーカシング信号及びトラッキング信号に基づき、フォーカシング回路とトラッキング回路とを有するフォーカシング/トラッキング回路25が、アクチュエータ14を駆動する。これにより、光ディスク再生装置50では、光ディスク10上の記録層へのフォーカシングと、光ディスク10上の案内溝へのトラッキングが行なわれる。
一方、ビームスプリッタ21に反射されたレーザ光18は、集光レンズ26により集光され、再生用光検出器27へと導かれる。
また、光ディスク10へ情報を記録する際には、半導体レーザ光源15は、記録情報に対応したパルス状のレーザ光を出射し、記録情報に対応した空洞領域8(記録マーク)を光ディスク10の記録層に形成する。一方、光ディスク10に記録された情報を再生する際には、半導体レーザ光源15は、記録層に空洞領域8を形成しない強度の連続光を出射する。そして、光ディスク再生装置50は、空洞領域8による反射光量変化を再生用光検出器27にて検出することにより、光ディスク10の再生を実現する。
再生用光検出器27から出力される信号は、復調回路28及びエラー訂正回路29を経た後、再生信号として出力され、情報の再生が行われる。
次に、光ディスク10において、ディスク基板1、透明保護層2、樹脂層3、光吸収層4、保護層5として使用可能な材料について説明する。
まず、ディスク基板1としては、記録再生のためのレーザ光7が透過するようなものが望ましい。ディスク基板1として、例えば、ソーダライムガラス等の透明ガラス基板、または、ポリカーボネイトやポリオレフィン等の透明プラスチック基板を用いることが可能である。
次に、透明保護層2(第1の保護層)としては、同様に、記録再生のためのレーザ光7が透過するものが望ましい。透明保護層2として、例えば、窒化アルミニウム,窒化シリコン,酸化アルミニウム,酸化シリコン等の透明誘電体を用いることが可能である。
これらの窒化物または酸化物はいずれも、融点が1500℃以上と高融点である。
次に、光吸収層4(第2の保護層)としては、使用する光ビームをある程度吸収して記録層である樹脂層の気体化温度以上まで温度上昇することが必要であり、例えば、バナジウム(V:融点1915℃)、ニオブ(Nb:融点2468℃)、モリブテン(Mo:融点2620℃)、ハフニウム(Hf:融点2231℃)、またはタンタル(Ta:融点2980℃)等のこれらの高融点金属層を用いることが好ましい。または、シリコン(Si:融点1420℃)もしくはゲルマニウム(Ge:融点945℃)からなる半導体層を用いることも可能である。
次に、樹脂層3(記録層)としては、記録再生のためのレーザ光7が透過するものが望ましい。樹脂層3として、例えば、フォトレジスト等の樹脂層や紫外線硬化樹脂層を用いることが可能である。このようなノボラック樹脂材料やアクリル樹脂材料をその構成要素とする材料においては、その気体化温度(あるいは分解温度)を、透明保護層2や光吸収層4の材料よりも融点より低くすることが可能である。
また、これらの有機材料からなる樹脂層3の気体化温度は透明保護層2および光吸収層4を構成する材料の融点よりも低く、記録時に空洞領域8を形成した場合であっても、光吸収層4およぎ透明保護層2の溶融変形がない。
次に、保護層5としては、透明保護層2と樹脂層3と光吸収層4の損傷を防ぐことができれば特に限定されるものではない。例えば、保護層5として、紫外線硬化樹脂を用いることが望ましい。
しかしながら、透明保護層2、樹脂層3及び光吸収層4は、上記材料に限られるものではない。すなわち、樹脂層3(記録層)の気体化温度が、透明保護層2(第1の保護層)の融点と光吸収層4(第2の保護層)の融点よりも低い構成であれば、樹脂層3(記録層)に空洞領域8を形成する際に、透明保護層2(第1の保護層)と光吸収層4(第2の保護層)の溶融変形が抑制され、記録マーク(空洞領域8)のエッジ部分が明瞭で、かつ、より微細な記録マークを形成することが可能することができる。
また、光ディスク10は、光吸収層4が樹脂層(記録層)3において光ビーム7が入射する側と反対側の面に設けられている構成、すなわち、透明保護層2側から光ビーム7が入射するような構成であったが、これに限定されるものではない。本実施形態のメモリ素子は、光吸収層が樹脂層(記録層)において光ビームが入射する側の面に設けられている構成、すなわち、光吸収層側から光ビームが入射するような構成であっても、光吸収層の温度は、上記記録層の気体化温度以上にまで温度上昇し、光吸収層に接する記録層では、気体化されて、空洞領域が形成されることで、記録マークが形成されるので、従来の光メモリ素子による記録マークと比較して、記録マークのエッジ部分が明瞭で、かつ、より微細な記録マークを形成することが可能である。
また、光メモリ素子が、記録層において光ビームが入射する側の面に、光吸収層が形成された構成である場合、この光吸収層を半透明な光吸収層とすることで、読み出し時にも記録層の空洞が見え、記録マークのエッジ部分が明瞭で、かつ、より微細な記録マークを形成することが可能である。
また、メモリ素子の記録方式には、一定の長さの空洞領域を用い、間隙部の長さを変えることにより、マークがある場所を1無い場所を0として記録するマーク記録と、ひとつのマーク(空洞領域)の前後(間隙部→空洞領域、空洞領域→間隙部)における再生信号の変動を読み出すエッジ記録とがある。エッジ記録では、信号の変動があれば1、なければ0のように読み出す。マーク記録に適したデータ変換方式としては、2−7変調が挙げられる。また、エッジ記録に適したデータ変換方式としては、1−7変調が挙げられる。
エッジ記録では、空洞領域の長さと間隙部の長さを変更することにより、記録密度を上げることができるが、空洞領域の長さがあいまいであれば、正確に読み出すことができない。
本発明では、空洞領域の境界部を明確にすることで、空洞領域の長さを正確に表すことが可能である。このため、本発明は、記録方式として、エッジ記録が適している。
〔実施の形態2〕
本発明の実施の他の形態について、図3に基づいて説明する。図3は、本実施形態のメモリ素子及びその記録マークについて説明するための断面図である。なお、本実施の形態において説明すること以外の構成は、上記実施の形態1と同じである。
図3に示すように、光ディスク(光メモリ素子)40は、スパイラル状に形成された案内溝35を有するディスク基板(基板)30上に、第1の保護層としての光吸収層31と、記録層としての樹脂層32と、第2の保護層としての透明保護層33が順次積層された構成である。また、光ディスク40は、光吸収層31と樹脂層32と透明保護層33の損傷を抑制することを目的で、図示するように、被覆層としての透明カバー層34が設けられていることが望ましい。
光ディスク40では、透明保護層33側、すなわち、透明カバー層34側から光ビーム36が照射するようになっている。光ビーム36は、透明カバー層34と透明保護層33と樹脂層32とを透過して、光吸収層31へと集光され、案内溝35に沿って光ディスク40上の任意の位置に照射される。これにより、光吸収層31の温度を樹脂層32の気体化温度以上に上昇させ、樹脂層32の温度を気体化温度まで温度上昇させることで、樹脂層32の一部を気体化して空洞領域37が形成される。空洞領域37が光ディスク40の記録マークとなる。
ここで、光ディスク40では、樹脂層32の気体化温度が、該樹脂層32の両面に位置する透明保護層33の融点と光吸収層31の融点よりも低くなっている。このようにすることで、光ビーム36が集光照射され、樹脂層32が気体化温度以上の温度に温度上昇した場合においても、透明保護層33と光吸収層31の温度が融点に達しておらず、透明保護層33と光吸収層31とが大きく溶融変形することなく、樹脂層32の一部が気体化し、樹脂層32に空洞領域38が形成される。この際、樹脂層32が気体化した空洞領域37の周辺には、樹脂層32が溶融した溶融領域38が形成される。ここで、樹脂層32においては、光吸収層31に接した部分の温度がより高くなり、光吸収層31側において樹脂層32の気体化が始まるため、溶融領域38は空洞領域37の側面と透明保護層33側に存在することになる。また、この溶融領域38は、集光ビーム通過後、温度が下がることにより、樹脂層32の一部となる。
光ディスク40による記録マークの形成方法、すなわち樹脂層32(記録層)に対する記録方法においては、透明保護層33と光吸収層31の溶融変形が抑制されていることにより、溶融領域38は、樹脂層32が気体化した空洞領域37における圧力を受け、非溶融領域に対して圧縮されることになる。したがって、透明保護層33と光吸収層31との間の限られた空間の中で、樹脂層32の気体化にともなう空洞領域37が形成されるため、空洞領域37の拡大が、周囲に存在する溶融領域38及び非溶融領域の樹脂層32により抑制され、従来の方法による記録マークと比較して、記録マーク(空洞領域37)のエッジ部分が明瞭で、かつ、より微細な記録マークを形成することができる。
また、光ディスク40に記録された情報の再生は、空洞領域37において屈折率が変わることに起因する反射光量変化を検出することにより可能である。
すなわち、本発明のメモリ素子及び記録層に対する記録方法においては、ディスク基板30上に、光吸収層31(第1の保護層)、樹脂層32(記録層)、透明保護層33(第2の保護層)が順次積層された構成のメモリ素子において、樹脂層32(記録層)の気体化温度を、該樹脂層32(記録層)の両面に設けられた光吸収層31(第1の保護層)の融点と透明保護層33(第2の保護層)の融点よりも低い構成の多層構造に対して、該光吸収層31(第1の保護層)に光ビームを集光照射することにより、該樹脂層32(記録層)に、記録マークのエッジ部分が明瞭で、かつ、より微細なパターンを形成することができる。
また、本実施形態の光ディスク(メモリ素子)に対する記録再生は、上記実施の形態1において説明した記録再生装置(図2)と同様の記録再生装置を用いて行われる。
次に、光ディスク40において、ディスク基板30、光吸収層31、樹脂層32、透明保護層33、透明カバー層34として使用可能な材料について説明する。
まず、ディスク基板30は、上記実施の形態1記載のディスク基板1とは異なり、記録再生のためのレーザ光36が通過しない。このため、ディスク基板30は、光ディスクとしての機械的強度を維持することができれば、特に限定されるものではない。ディスク基板30として、例えば、ソーダライムガラス等の透明ガラス基板、または、ポリカーボネイトやポリオレフィン等の透明プラスチック基板、さらに、ステンレスシートやアルミシート等の金属基板や紙基板等の不透明基板を用いることが可能である。
次に、透明保護層2(第1の保護層)としては、同様に、記録再生のためのレーザ光7が透過するものが望ましい。透明保護層2として、例えば、窒化アルミニウム,窒化シリコン,酸化アルミニウム,酸化シリコン等の透明誘電体を用いることが可能である。
これらの窒化物または酸化物はいずれも、融点が1500℃以上と高融点である。
次に、光吸収層4(第2の保護層)としては、使用する光ビームをある程度吸収して記録層である樹脂層の気体化温度以上まで温度上昇することが必要であり、例えば、バナジウム(V:融点1915℃)、ニオブ(Nb:融点2468℃)、モリブテン(Mo:融点2620℃)、ハフニウム(Hf:融点2231℃)、またはタンタル(Ta:融点2980℃)等のこれらの高融点金属層を用いることが好ましい。または、シリコン(Si:融点1420℃)もしくはゲルマニウム(Ge:融点945℃)からなる半導体層を用いることも可能である。
次に、樹脂層3(記録層)としては、記録再生のためのレーザ光7が透過するものが望ましい。樹脂層3として、例えば、フォトレジスト等の樹脂層や紫外線硬化樹脂層を用いることが可能である。このようなノボラック樹脂材料やアクリル樹脂材料をその構成要素とする材料においては、その気体化温度(あるいは分解温度)を、透明保護層2や光吸収層4の材料よりも融点より低くすることが可能である。
また、これらの有機材料からなる樹脂層3の気体化温度は透明保護層2および光吸収層4を構成する材料の融点よりも低く、記録時に空洞領域8を形成した場合であっても、光吸収層4およぎ透明保護層2の溶融変形がない。
次に、透明保護層33(第2の保護層)としては、同様に、記録再生のためのレーザ光36が透過するものが望ましい。透明保護層33として、例えば、窒化アルミニウム,窒化シリコン,酸化アルミニウム,酸化シリコン等の透明誘電体を用いることが可能である。また、これらの材料の融点は、有機材料からなる樹脂層32の気体化温度よりも高く、空洞領域37を形成する際の透明保護層33の溶融変形を抑制することができる。
次に、透明カバー層34としては、光吸収層31と樹脂層32と透明保護層33の損傷を抑制することができれば特に限定されるものではない。例えば、透明カバー層34として、紫外線硬化樹脂を用いることが望ましい。
しかしながら、光吸収層31、樹脂層32、及び、透明保護層33は、上記材料に限られるものではない。すなわち、樹脂層32(記録層)の気体化温度が、光吸収層31(第1の保護層)の融点と透明保護層33(第2の保護層)の融点よりも低い構成であれば、樹脂層32(記録層)に空洞領域37を形成する際に、光吸収層31(第1の保護層)と透明保護層33(第2の保護層)の溶融変形が抑制され、記録マーク(空洞領域37)のエッジ部分が明瞭で、かつ、より微細な記録マークを形成することが可能することができる。
以下、実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
〔実施例1〕
本実施例では、上記実施の形態1のメモリ素子(光ディスク10)について行った検証実験について説明する。
まず、幅0.4μm、段差50nmの凸状の案内溝6が、0.6μmピッチでスパイラル状に形成された、ディスク基板1としての直径120mmのポリカーボネイト製光ディスク基板上に、Siターゲットを用いた反応性スパッタリングにより、膜厚60nmの窒化シリコンからなる層を形成し、透明保護層2(第1の保護層)とした。なお、反応性スパッタリングにおいては、Arガスと窒素ガスの混合ガスを使用してスパッタリングを行った。
次に、透明保護層2の上に、紫外線硬化樹脂をスピンコート法により塗布した後、紫外線を照射して紫外線硬化樹脂を硬化し、膜厚100nmの層を形成し、樹脂層3(記録層)とした。次に、Taターゲットを用いたスパッタリングにより層厚40nmのタンタル(Ta)膜を形成し、光吸収層4(第2の保護層)とした。さらに、紫外線硬化樹脂をスピンコート法により塗布した後、紫外線を照射して、膜厚5μmの保護層5を形成した。
上記ディスク基板1を、図2に示す光ディスク再生装置50(記録装置)のスピンドル11に固定し、光ディスク基板1を回転させながら、記録情報に対応した、光強度8mWのパルス状レーザ光を、上記光ディスク基板1上の光吸収層4に、光ディスク基板1側から集光照射した。そして、光吸収層4の温度を樹脂層3の気体化温度以上とすることにより、樹脂層3に空洞領域8を形成し、半径40mmの位置の案内溝6上に、記録マーク列を形成した。なお、このとき、光ディスク再生装置50における半導体レーザ光源15の波長は、405nmであり、レーザ光18を集光する対物レンズ20の開口数は、0.65であった。
次に、光強度1mWの連続レーザ光を、上記記録マークが形成された案内溝6をトラッキングするように集光照射した。そして、その反射光強度を再生用光検出器27により検出することにより、記録情報に対応した情報を再生することができた。
また、本実施例のメモリ素子(光ディスク10)の比較例として、光ディスク10から透明保護層2としての窒化シリコンからなる層(第1の保護層)のない構成の光ディスクを作製した。すなわち、比較例では、ディスク基板としての直径120mmのポリカーボネイト製光ディスク基板上に、樹脂層(記録層)としての膜厚100nmの紫外線硬化樹脂からなる層、及び光吸収層(第2の保護層)としての層厚40nmのタンタル(Ta)膜を順次形成した光メモリ素子(光ディスク)を作製した。
比較例の光ディスクに対して、光ディスク10と同様の記録再生を行った場合、再生時のジッタが20%以上であった。一方、本実施例の光ディスク10に対して記録再生を行った場合、再生時のジッタは10%〜15%であった。比較例の光ディスクと比較して、本実施例の光ディスク10では、再生時のジッタを5%乃至10%以上改善することができた。
これは、上記比較例の光ディスクでは、光を照射して記録を行う際に、記録層としての紫外線硬化樹脂からなる層とディスク基板のポリカーボネイト樹脂とが混ざり合い、記録マークのエッジ部が不明瞭なものとなるのに対して、本実施例の光ディスク10では、透明保護層2としての窒化シリコンからなる層によって、樹脂層3(記録層)としての紫外線硬化樹脂からなる層とディスク基板1のポリカーボネイトとが混ざるのが抑制されるため、記録マークのエッジ部分が明瞭となっているためである。
また、上記樹脂層3として、紫外線硬化樹脂からなる層の代わりに、膜厚50nmのフォトレジストからなる層を用いた場合も、同様にして記録再生を行うことができた。
〔実施例2〕
本実施例では、上記実施の形態2のメモリ素子(光ディスク40)について行った検証実験について説明する。
幅0.2μm、段差40nmの凸状案内溝35が、0.3μmピッチでスパイラル状に形成された、ディスク基板30としての直径120mmのポリカーボネイト製光ディスク基板上に、Taターゲットを用いたスパッタリングにより層厚40nmのタンタル(Ta)膜を形成し、光吸収層31(第1の保護層)とした。次に、光吸収層31上に、フォトレジスト(富士フィルムアーチ社FH−EX3L1)をスピンコート法により塗布した後、95℃の温度で30分間ベーキングすることにより、膜厚40nmの層を形成し、樹脂層32(記録層)とした。次に、樹脂層32上に、Alターゲットを用いた反応性スパッタリングにより、膜厚60nmの窒化アルミニウムからなる層を形成し、透明保護層33(第2の保護層)とした。なお、上記反応性スパッタリングにおいては、Arガスと窒素ガスの混合ガスを使用してスパッタリングを行った。次に、透明保護層33の上に、紫外線硬化樹脂をスピンコート法により塗布した後、紫外線を照射して、膜厚50μmの層を形成し、透明カバー層34とした。
上記ディスク基板30を、図2に示す光ディスク再生装置50(記録装置)のスピンドル11に固定し、光ディスク基板30を回転させながら、記録情報に対応した、光強度6mWのパルス状レーザ光を、光ディスク基板30上の光吸収層31に、透明カバー層34側から集光照射した。そして、光吸収層31の温度を樹脂層32の気体化温度以上とすることにより、樹脂層32に空洞領域37を形成し、半径40mmの位置の案内溝35上に、記録マーク列を形成した。なお、このとき、光ディスク再生装置50における半導体レーザ光源15の波長は、405nmであり、レーザ光18を集光する対物レンズ20の開口数は、0.85であった。
次に、光強度0.5mWの連続レーザ光を、上記記録マークが形成された案内溝35をトラッキングするように集光照射した。そして、その反射光強度を再生用光検出器27により検出することにより、記録情報に対応した情報を再生することができた。
また、本実施例の光メモリ素子(光ディスク40)の比較例として、ディスク基板としての直径120mmのポリカーボネイト製光ディスク基板上に、光吸収層としての層厚40nmのタンタル(Ta)膜を形成した後、樹脂層(記録層)としての膜厚100nmのフォトレジストからなる層を形成した光メモリ素子(光ディスク)を作製した。
また、上記比較例の光ディスクに対して、光ディスク40と同様の記録再生を行った場合、再生時のジッタは25%以上であった。一方、本実施例の光ディスクに対して記録再生を行った場合、再生時のジッタは12%〜20%であった。比較例の光ディスクと比較して、本実施例の光ディスク40では、再生時のジッタを5%乃至13%以上改善することができた。
上記比較例の光メモリ素子(光ディスク)では、記録層の片面が大気になっている。このため、光ディスクに光を照射して記録を行う際に、気体化温度まで上昇させられた記録層の溶融変形が自由になる。そして、記録マークの周囲の溶融変形が多様化するため、記録マークのエッジ部が不明瞭なものとなる。これに対して、本実施例の光メモリ素子(光ディスク40)では、透明保護層33としての窒化アルミニウムからなる層によって、樹脂層(記録層)としてのフォトレジストからなる層の表面の溶融変形が抑制されるため、記録マークのエッジ部分が明瞭なものとなる。