しかし、上記の多層光ディスクにおいては、次のような問題点を有している。つまり、上述の効果を実現させるためには、レーザ光の照射により選択反射膜の温度を上昇させることが必要である。しかし、透明膜では光がほとんど透過してしまうために、光から熱への変換効率が非常に悪い。したがって、レーザ光の照射により選択反射膜の温度を上昇させて反射膜にするための熱の利用の観点からすると優れていない。また、特許文献1に示されている、選択反射膜Ag2O及びAgNO3が、透明膜から反射膜に変化することを示すそれぞれの化学式、2Ag2O→4Ag+O2及びAgNO3→Ag+NO2+Oは、ともに物質の変化を伴っており、さらに気体の発生を伴っている。そのため、透明膜と反射膜との間の変化において、可逆性及び反応速度に乏しい。また、選択反射膜は透明膜と反射膜との間の変化なので、適用される光ディスクのタイプとしては、読み出し(再生)専用型(ROM型)のみであり、記録層自身の反射光量の変化を利用する追記型や書き換え可能型、記録層自身のカー回転の偏光を利用する書き換え可能型の光ディスクには利用することができない。
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、レーザ光の照射による温度上昇を効率的に行うことができ、温度による反応速度及び可逆性に優れ、ROM型、追記型及び書き換え可能型に利用可能であり、所望の記録層以外からの層間クロストーク及びFESの層間干渉を低減し、従来のものに比して高密度な多層型光情報記録媒体及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明に係る多層型光情報記録媒体は、上記課題を解決するために、光照射により記録及び/又は再生を行う記録層を少なくとも2層以上有する多層型光情報記録媒体において、前記記録層の少なくとも1層の光照射側に、温度の変化に基づいて屈折率及び/又は消衰係数が変化する温度変調層が積層されていることを特徴としている。
上記構成によれば、記録層に温度変調層が積層されているので、温度変調層における温度変化を起こすための熱の発生が、温度変調層自身からだけでなく、記録層からも起こる。つまり、記録層は、光を熱に変換する吸熱層としても機能することができる。そのため、熱を効率良く利用することができるという効果を奏する。
また、光照射側に温度変調膜が積層されているため、照射光が集光されない面(デフォーカス面)からの反射を抑えるようにすることができる。
温度変調層は、温度の変化に基づいて屈折率及び/又は消衰係数が変化するので、照射光の集光状態の差による温度変化に応じて、反射率及び/又は透過率を適切に変化させることができる。この場合、光学定数の温度による変化によって反射率及び/又は透過率を変化させているので、物質の変化や気体の発生を伴わない。そのため、反射率及び/又は透過率の変化における反応速度および可逆性に優れている。
また、上記構成は、ROM型、追記型及び書き換え可能型の光情報記録媒体に利用することが可能である。
また、温度変調膜を積層するというだけで、容易に現行の多層型光情報記録媒体への応用することができるため、現行の装置を利用して製造することができる。そのため、コスト面で優れている。また、安定性がある現行の多層型光情報記録媒体において、記録層に温度変調層を積層すると、温度変調層は、温度変化に対して可逆性があり安定であるため、安定性に優れた光記録媒体とすることができる。
本発明に係る多層型光情報記録媒体は、上記構成に加え、上記温度変調層及び該温度変調層が積層された記録層からの反射率が、上記温度変調層の温度が高温のときに高くなるのが好ましい。
上記構成によれば、入射光がフォーカス状態で温度変調層及び該温度変調層が積層された記録層に照射されると、高温状態の温度変調層及び記録層からの反射率を高くすることができる。また、光がデフォーカス状態で照射されると、温度が低温状態の温度変調層及び記録層からの反射率を低くすることができる。よって、所望の記録層以外からの層間クロストーク及びFESの層間干渉を低減することができる。
なお、温度変調層の材料及び膜厚を適宜選択することで入射光がフォーカス状態での反射率を、入射がデフォーカス状態での反射率より高くすることができる。
また、照射光のスポット内での温度差を利用し、実質的な照射光のサイズが縮小されることによる超解像効果を有しているため、従来の多層型光情報記録媒体に比して、高密度な多層型光情報記録媒体とすることができる。
本発明に係る多層型光情報記録媒体は、上記構成に加え、上記温度変調層の室温でのバンドギャップを光の波長換算したときの値λEが、光源波長λSに対して、0.8×λS≦λE≦λSの関係式を満たしていてもよい。
通常、バンドギャップより若干低いエネルギーの光から吸収が起こる。そのため、上記構成のように、温度変調層として光源波長の近辺にバンドギャップを持つ材料を利用すると、温度変調層を通る光の一部が吸収されて温度変調層自身の発熱が起きる。この発熱により、光照射による温度変調層の温度上昇が、より起こりやすくなり、所望の記録層以外からの層間クロストーク及びFESの層間干渉を低減することに関してより優れた効果を奏する。
本発明に係る多層型光情報記録媒体は、上記構成に加え、上記温度変調層が、金属酸化物からなっていてもよい。
上記構成によれば、例えば、蒸着法やスパッタリング法を用いることができるため、容易に温度変調層を形成することができる。
本発明に係る多層型光情報記録媒体は、上記構成に加え、上記温度変調層が酸化亜鉛(ZnO)からなっていてもよい。
上記構成によると、光学定数である屈折率および消衰係数が可逆的に変化することがわかっており、その安定性、反射率及び透過率の変化等が示されているため、温度変調層として、容易に実現することが可能である。また、温度変調層を安価で容易に製造することができる。
本発明に係る多層型光情報記録媒体は、上記構成に加え、上記温度変調層の厚さが、20〜300nmであってもよい。
温度変調層の厚さが薄すぎると温度による反射率の変化が小さくなり、反対に厚すぎると記録層から発生する熱が十分に伝わらなくなる。そこで、上記構成のようにすることで、より確実に所望の記録層以外からの層間クロストーク及びFESの層間干渉を低減することができる。
本発明に係る多層型光情報記録媒体は、上記構成に加え、上記記録層が、少なくとも、信号を記録したピット列と前記ピット列を覆うように形成された反射層とからなっていてもよい。
上記構成によると、ピット列により反射光の量が変化して読み出しを行う読み出し専用型(ROM型)の多層型光情報記録媒体において、所望の記録層以外からの層間クロストーク及びFESの層間干渉を低減することができる。
本発明に係る多層型光情報記録媒体は、上記構成に加え、上記反射層が、金属からなっていてもよい。
上記構成によれば、光源波長として300〜800nmの光に対して、比較的反射率が高いため光量を有効に利用することができる。さらに、蒸着法やスパッタリング法により容易に反射層を形成することができる。
本発明に係る多層型光情報記録媒体は、上記構成に加え、上記反射層の厚さが、2〜30nmであってもよい。
ここで、反射層の厚さが薄すぎると所望の記録層からの反射光量が不十分となり、厚すぎると入射光側から見て奥側の記録層に光が届かなくなる。これらいずれの場合も信号の再生が難しくなる。しかし、上記構成のように反射層の厚さを2〜30nmとすることで、各記録層からの信号の再生をより確実に行うことができる。
本発明に係る多層型光情報記録媒体は、上記構成に加え、上記記録層が、少なくとも色素を用いた有機化合物層を含んでいてもよい。
上記構成によると、光照射により有機化合物層の不可逆変化を起こすことで反射光量が変化する追記型の多層型光情報記録媒体において、所望の記録層以外からの層間クロストーク及びFESの層間干渉を低減した多層型光情報記録媒体を提供することができる。
本発明に係る多層型光情報記録媒体は、上記構成に加え、上記記録層が、少なくとも光照射により結晶状態と非晶質状態との間に相転移が発生する層を含んでいてもよい。
上記構成によると、相転移によって反射光量が変化する相変化を用いた書き換え可能型の多層型光情報記録媒体において、所望の記録層以外からの層間クロストーク及びFESの層間干渉を低減した多層型光情報記録媒体を提供することができる。
本発明に係る多層型光情報記録媒体は、上記構成に加え、上記記録層が、少なくとも磁性層を含んでいてもよい。
上記構成によると、光照射により磁性層を加熱し漏洩磁界または外部磁界によって磁化の方向を制御することで信号を記録し、また読み出し(再生)には偏光のカー回転を利用する、光磁気を用いた書き換え可能型の多層型光情報記録媒体において、所望の記録層以外からの層間クロストーク及びFESの層間干渉を低減した多層型光情報記録媒体を提供することができる。
本発明に係る多層型光情報記録媒体は、上記構成に加え、上記記録層間の距離が、5μm〜70μmであってもよい。
一般的に光情報記録媒体においては、多層化による高密度化を図るにあたり、記録層を何層でも積層できるわけではなく、ごみの問題やチルトマージンの問題や収差の問題等から記録層を配置できる範囲が限定される。しかし、本発明に係る多層型光情報記録媒体では、最近接の記録層間の距離を、温度変調層を積層しない場合に比して小さくすることができる。よって、上記のような距離とすることができる。そのため、限定された範囲に配置できる記録層の数を増やすことができ、高密度化が可能となる。
本発明に係る多層型光情報記録媒体の製造方法は、上記課題を解決するために、基板上に、光照射により記録及び/又は再生を行う記録層を作成する記録層作成工程と、前記記録層の光照射側に、温度の変化に基づいて屈折率及び/又は消衰係数が変化する温度変調層を積層する温度変調層積層工程とを有することを特徴としている。
上記方法によると、記録層に温度変調層が積層されているので、温度変調層における温度変化を起こすための熱の発生が、温度変調層自身からだけでなく、記録層からも起こる。つまり、記録層は、光を熱に変換する吸熱層としても機能することができる。そのため、熱を効率良く利用することができる多層型光情報記録媒体を製造することができる。
本発明に係る多層型光情報記録媒体は、以上のように、記録層の少なくとも1層の光照射側に、温度の変化に基づいて屈折率及び/又は消衰係数が変化する温度変調層が積層されている。
上記構成によれば、記録層に温度変調層が積層されているので、温度変調層における温度変化を起こすための熱の発生が、温度変調層自身からだけでなく、記録層からも起こる。つまり、記録層は、光を熱に変換する吸熱層としても機能することができる。そのため、熱を効率良く利用することができるという効果を奏する。
また、光照射側に温度変調膜が積層されているため、照射光が集光されない面(デフォーカス面)からの反射を抑えるようにすることができる。
温度変調層は、温度の変化に基づいて屈折率及び/又は消衰係数が変化するので、照射光の集光状態の差による温度変化に応じて、反射率及び/又は透過率を適切に変化させることができる。この場合、光学定数の温度による変化によって反射率及び/又は透過率を変化させているので、物質の変化や気体の発生を伴わない。そのため、反射率及び/又は透過率の変化における反応速度および可逆性に優れている。
また、上記構成は、ROM型、追記型及び書き換え可能型の光情報記録媒体に利用することが可能である。
また、温度変調膜を積層するというだけで、容易に現行の多層型光情報記録媒体への応用することができるため、現行の装置を利用して製造することができる。そのため、コスト面で優れている。また、安定性がある現行の多層型光情報記録媒体において、記録層に温度変調層を積層すると、温度変調層は、温度変化に対して可逆性があり安定であるため、安定性に優れた光記録媒体とすることができる。
〔実施の形態1〕
以下に、本発明に係る多層型光情報記録媒体の実施の一形態を図1〜6に基づいて詳細に説明する。
本実施の形態の多層型光情報記録媒体100は、読み出し(再生)専用型(ROM型)の多層型光情報記録媒体である。図1は、多層型光情報記録媒体100の断面図である。図1に示すように、多層型光情報記録媒体100は、光透過層1と、第1の温度変調層2と、第1の記録層31と、第2の温度変調層4と、第2の記録層51と、第3の温度変調層6と、第3の記録層71と、基板9とをこの順で備える。また、第1の記録層31と第2の温度変調層4との間及び第2の記録層51と第3の温度変調層6との間に形成されたスペーサ層8を備える。以下の説明において、第1、第2、第3といった序数詞を省くこともある。つまり、例えば、第1の記録層31は、単に、記録層31と記載することもある。
光透過層1及び基板9は、多層型光情報記録媒体100を傷や酸化から保護する役割を担う保護材である。光透過層1及び基板9のうち、少なくとも記録再生に用いるレーザ光が通過しうる側は、レーザ光に対して光吸収が生じない材料、或いは光吸収が生じても無視できる程度に小さい材料(例えば10%以下等)を使用するのが好ましい。なぜなら、用いるレーザ光の波長において光吸収が生じると、レーザ光の光量を有効に活用することができず、記録再生時の信号振幅を大きく取る上で不利になる等の理由のためである。
図1に示す多層型光情報記録媒体100は、光透過層1をレーザ光入射側とし、そのため、光透過層1は、レーザ光に対して光吸収が生じない、或いは生じたとしても無視できる程度に小さい材料を用いる。光透過層1をレーザ光入射側とするので、基板9を構成する材料の光学的特性は、特に限定されるものではなく、透明でも不透明であってもよい。
光透過層1及び基板9を形成する材料としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート、熱可塑型ポリイミド、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエーテルニトリル)、PES(ポリエーテルサルホン)等の熱可塑性透明樹脂(プラスチック);熱硬化型ポリイミド、紫外線硬化型アクリル樹脂等の熱硬化性透明樹脂、ガラス、およびこれらの組合せ等が挙げられる。
光透過層1の厚みは特に限定されるものでなく、通常、1〜100μm程度の厚みを有することが適当である。また、光透過層1は、0.1〜1.2mm程度の厚みを有していてもよく、その場合、多層型光情報記録媒体100に適当な強度を付与することができる。また、基板9の厚みも、特に限定されるものではなく、多層型光情報記録媒体100に適当な強度を付与するためには、例えば、0.1〜1.2mm程度が適当である
第1の記録層31は、信号を記録した物理的な凸凹であるピット列311および、ピット列311を覆うように形成された反射膜312から成る。また、第2の記録層51は、信号を記録した物理的な凸凹であるピット列511および、ピット列511を覆うように形成された反射膜512から成る。また、第3の記録層71は、信号を記録した物理的な凸凹であるピット列711および、ピット列711を覆うように形成された反射膜712から成る。
反射膜312は、レーザ光により、反射膜312を通して記録層51及び記録層71の信号が読み取れて、かつ、記録層31の信号が読み取れるように、レーザ光の波長である程度の透過率と反射率とを持つことが必要である。例えば、透過率は10%〜98%で、反射率は2%〜90%であればよく、好ましくは、透過率が70%〜95%で、反射率が5%〜30%であればよい。また、反射膜512は、レーザ光により、反射膜512を通して記録層71の信号が読み取れて、かつ、記録層51の信号が読み取れるように、レーザ光の波長である程度の透過率と反射率とを持つことが必要である。例えば、透過率は20%〜80%で、反射率は20%〜80%であればよく、好ましくは、透過率が30%〜50%で、反射率が50%〜70%であればよい。反射膜712は、レーザ光により記録層71の信号が読み取れるように、レーザ光の波長である程度の反射率が必要である。例えば、反射率は30%〜100%であればよく、好ましくは、80%〜100%であればよい。即ち、レーザ光の入射側(光透過層1の側)から最も遠い位置に存在する反射膜712のみが、レーザ光を透過する必要がない。
反射膜312、512、712を形成する材料としては、特に限定されるものではないが、好ましくは、Al合金、Au、Cu、Agなどに代表される金属である。これらの金属を用いて反射膜312、512、712を形成することにより、現在の技術で光源波長として考えられる300〜800nmの光に対して、比較的反射率が高いため光量を有効に利用できる。加えて、蒸着法やスパッタリング法により容易に反射膜312、512、712を形成することができる。また、反射膜312および512の厚さについては、特に限定されるものではないが、上述したようにある程度の透過率及び反射率を持つためには、好ましくは、2〜30nmである。また、反射膜712の厚さについては、特に限定されるものではない。
温度変調層2、4、6は、温度の変化により、光学定数である屈折率n及び/又は消衰
係数kが可逆的に変化する材料であり、温度上昇に応じてレーザ光の波長における透過率が低下し、反射率が上昇する材料を含んで構成される。
温度変調層2、4、6を構成する材料としては、上記条件を満たすものであれば特に限定されるものではないが、具体例としては、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム(In2O3)、酸化スズ(SnO、SnO2)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化セリウム(CeO2)、酸化バナジウム(VO2、V2O5、V4O9、V3O7、V6O13、V5O9、V6O11、V7O13、V8O15、V2O4、V2O3、V3O5、V3O4、V7O3、V16O3、V9O、VO)などの金属酸化物や、GaNなどの窒化物、SiCなどの炭化物、及びそれらの混合物等が挙げられる。形成方法が容易であるという点から、金属酸化物が好ましく、その中でも特に、酸化亜鉛(ZnO)がより好ましい。ここで、化学量論組成は化学式で記載されたものに限定されるものではない。
例えば、温度変調層2、4、6としてZnOを選択したとする。ここで、Blue-ray Discなどの記録再生に用いられている波長405nmのレーザ光に対する、ZnOの光学定数である屈折率n及び消衰係数kの温度依存性を図2に示す。光学定数である屈折率n及び消衰係数kの測定には、サンプルの温度を所望の温度に設定できるエリプソメーターを用いた。図2からわかるように、ZnOの光学定数である屈折率n及び消衰係数kは温度により変化する。また、図2に示す屈折率n及び消衰係数kの温度変化に可逆性があることは、測定により確認した。つまり、屈折率n及び消衰係数kの測定において、温度を上げていく測定と下げていく測定とでは、同じ変化を示した(同じ数値になった)。なお、ZnOにおいて、温度により光学定数が変化する原因は、ZnOの温度が上昇することにより格子間距離が広がり、それによりバンドギャップが小さくなるために、波長405nmでの屈折率n及び消衰係数kが変化するためと考えられる。
このように、本発明では、光学定数の温度による変化によって反射率および透過率を変化させているので、物質の変化や気体の発生を伴わない。そのため、反射率および透過率の変化における反応速度および可逆性に優れている。
また、温度変調層2、4、6を構成する材料としては、室温でのバンドギャップを光の波長換算したときの値λEが、光源波長λSに対して、0.8×λS≦λE≦λSの関係式を満たすことが好ましい。なぜなら、通常、バンドギャップより若干低いエネルギーの光から吸収が起こるので、温度変調層として光源波長の近辺にバンドギャップを持つ材料を用いると、温度変調層を通るレーザ光の一部が吸収されて温度変調層自身の発熱が起きる。そのため、レーザ光の照射による温度変調層の温度上昇がより起こりやすくなり、所望の記録層以外からの層間クロストーク及びFESの層間干渉を低減することに関して、より優れているからである。
また、温度変調層2、4、6の厚さは、特に限定されるものではないが、薄すぎると、屈折率n及び消衰係数kの温度変化による反射率及び透過率の変化の効果が小さくなってしまう。反対に厚すぎると、反射膜312、512、712で発生した熱が、それぞれ温度変調層2、4、6に十分伝わらず温度上昇が十分に行われない。従って、温度変調層2、4、6の厚さは、20〜300nmであることが好ましい。
この温度変調層2、4、6の材料及び膜厚を調整することにより、温度変調層2及び反射膜312、温度変調層4及び反射膜512、温度変調層6及び反射膜712での反射率を室温のときに低く、高温のときに高くすることが可能である。また、温度変調層2、4、6の材料及び膜厚、反射膜312、512、712の材料及び膜厚を調整することにより、温度変調層2及び反射膜312、温度変調層4及び反射膜512、温度変調層6及び反射膜712での透過率をそれぞれ任意に設定することができる。このように、温度変調層の膜厚の調整で、温度上昇により反射率が上がり透過率が下がるように調整することができる。
例えば、温度変調層2、4、6としてZnOを、反射膜312、512、712としてAlを採用したものについて考える。基板9としてのガラス上に8nmの厚さのAl、130nmの厚さのZnOをマグネトロンスパッタリング法にて成膜したサンプルに、ZnO側からレーザ光を入射させたときの、30℃、100℃及び250℃での反射率及び透過率の波長依存性の違いを図3に示す。測定には分光器を用いた。図3からわかるように、波長405nmのレーザ光を入射した際の反射率は、30℃で3.8%、100℃で5.6%、250℃で7.2%となっている。つまり、温度が高くなると反射率は上昇している。これに対し、波長405nmのレーザ光を入射した際の透過率は、30℃で52.3%、100℃で50.1%、250℃で44.4%となっている。すなわち、温度が高くなると透過率は減少している。
次に、5nmのAl、130nmのZnOを成膜したサンプルの、30℃及び250℃での反射率及び透過率の波長依存性の違いを図4に、30nmのAl、140nmのZnOを成膜したサンプルの、30℃及び250℃での反射率及び透過率の波長依存性の違いを図5に示す。図4、図5からわかるように、波長405nmのレーザ光を用いた場合、図3と同様、それぞれ温度が高くなると反射率が上昇し、透過率が減少していることがわかる。また、図3、図4、図5を比較してわかるように、ZnO及びAlの膜厚を調整することにより、反射率及び透過率を任意に設定可能であることがわかる。
上記では、温度変調層2、4、6について、光学定数である屈折率n及び消衰係数kが可逆的に変化する材料を考えたが、消衰係数kだけ、あるいは、屈折率nだけ可逆的に変化する材料であってもよい。なお、屈折率nと消衰係数kとは独立な物理量ではなく相関があるので、通常どちらかが変化してもう一方は変化しないということは考えにくいが、どちらかの変化の効果に対して、もう一方の変化の効果が無視できるほど小さいということも考えられる。
また、上記では、温度変調層2、4、6について、光学定数である屈折率n及び消衰係数kが温度上昇に伴い増加する材料を考えたが、屈折率n及び消衰係数kが温度上昇に伴い減少する材料でも良く、また、屈折率n及び消衰係数kのどちらか一方が温度上昇に伴い増加し、もう一方が減少する材料でも良い。例えば、室温で屈折率がn1かつ消衰係数がゼロで、高温で屈折率がn2かつ消衰係数がゼロの材料を温度変調層2、4、6として考えたとき、膜厚dをd=mλ/2n1(λは光源の波長、mは整数)になるように調整すると、n2がn1より大きくても小さくても、すなわち屈折率nが温度上昇に伴い増加しても減少しても、温度変調層2、4、6及び記録層31、51、71からの反射率は高温で増加し、透過率は高温で減少すると思われる。
次に、多層型光情報記録媒体100の再生について説明する。上記多層型光情報記録媒体100は、レーザ光源(図示せず)と集光レンズ等の光学系(図示せず)とを用いて再生レーザ光(再生ビーム)を光透過層1側から入射させ、記録層での反射光を光ヘッド(図示せず)で検出することにより再生することができる。
第1の記録層31の信号を再生するために、第1の記録層31にレーザ光の焦点を合わせてフォーカス状態とする。すると、反射膜312で集光されたレーザ光の一部が熱に変換されて発熱し、また温度変調層2の消衰係数kがゼロでない場合は温度変調層2でも、集光されたレーザ光の一部が熱に変換されて発熱し、温度変調層2の温度が上昇する。このとき、第2の記録層51及び第3の記録層71は、レーザ光がデフォーカス状態である。その理由は以下のとおりである。
一般的に、レーザ光の焦点深度は、n×λ/(2×NA^2)で表される。ここで、nは焦点近傍の材料の屈折率、λはレーザ光源の波長、NAは対物レンズの開口数である。ここで、一般にBlue-ray Discなどの記録再生に用いられている光学系であるλ=405nm、NA=0.85を上式に代入し、さらにZnOの屈折率約2.0を代入すると、焦点深度は約560nmとなる。一般的に多層型光情報記録媒体では、各記録層間の距離は少なくとも数μmあるので、以上のことより、一つの記録層にレーザ光をフォーカスした状態では、それ以外の記録層はレーザ光がデフォーカス状態にあることになる。従って、レーザ光がデフォーカス状態である第2の記録層51及び第3の記録層71においては、ほとんど発熱が起きない。もちろん、第2の記録層51がフォーカス状態のときは、第1の記録層31及び第3の記録層71はデフォーカス状態となり、第3の記録層71がフォーカス状態のときは、第1の記録層31及び第2の記録層51はデフォーカス状態となる。
従って、例えば、温度変調層2として厚さ130nmのZnO、反射膜312として5nmの厚さのAlを採用し、405nmのレーザ光を照射すると次のようになる。記録層31の信号を再生したいときは、レーザ光を記録層31でフォーカス状態とするため、温度変調層2の温度が上昇し、集光されたレーザ光のビームスポット内が均一に250℃に上昇すれば、それにより約16%の反射率となる。さらに、250℃より高くなれば、反射率はさらに高くなると予想される。実際は、ビームスポット内で温度分布があり、ビーム中心付近で温度が高く、ビームの裾野付近では温度が低い。そのため、反射率にも分布ができるが、レーザ光強度の高いビーム中心での反射率が高くなるため、温度変調層2の温度上昇により反射光量は室温のときより高くなる。また、ビーム内に反射率分布ができることにより、マスク効果が発生し、実質的なビーム径が縮小されることで、光学系より決定される再生可能な最小ピットサイズが小さくなる。よって、記録層31の面内での記録密度向上にもつながるというメリットもある。
一方、透過率については、フォーカス状態で温度変調層2の温度が上昇している際には、レーザ光強度の高いビーム中心での透過率は減少する。そのため、所望していない記録層51及び記録層71へ到達する光量を抑えることができる。それにより記録層51及び記録層71からの層間クロストーク及びFESの層間干渉を低減することができる。
また、記録層51又は記録層71の信号を再生する際には、記録層31に対してレーザ光はデフォーカス状態となるため、温度変調層2の温度は上昇されず、室温付近のままである。よって、反射率は約11%となり、フォーカス状態のときに比して反射率が抑えられる。これにより、記録層31からの層間クロストーク及びFESの層間干渉を低減することができる。また、透過率はデフォーカス状態の方がフォーカス状態に比して高くなるので、記録層31を通って記録層51又は記録層71に到達する光量が増す。
同様に、温度変調層4、6であるZnOの膜厚および反射膜512、712であるAlの膜厚を調整することにより以下のことが可能である。すなわち、温度変調層4及び反射膜512、温度変調層6及び反射膜712での反射率を、それぞれ、レーザ光がフォーカス状態で高く、デフォーカス状態で低くすることができる。よって、以下の(1)〜(3)の光量がある一定以上の値を満たすようにすることができる。
(1)レーザ光を記録層31にフォーカスしたときの、温度変調層2及び反射膜312で反射される光量
(2)レーザ光を記録層51にフォーカスしたときの、温度変調層2及び反射膜312を透過し、温度変調層4及び反射膜512で反射し、温度変調層2及び反射膜312を再度透過する光量
(3)レーザ光を記録層71にフォーカスしたときの、温度変調層2及び反射膜312を透過し、温度変調層4及び反射膜512を透過し、温度変調層6及び反射膜712で反射し、温度変調層4及び反射膜512を再度透過し、温度変調層2及び反射膜312を再度透過する光量
これらのことにより、本実施の形態の多層型光情報記録媒体100は、各記録層からの信号を再生可能とし、かつ、所望の記録層以外からの層間クロストーク及びFESの層間干渉を低減することができる。
スペーサ層8は、記録層間の層間クロストークやFESの層間干渉を防ぐ目的で、記録層を一定の厚さで分離するために設けられる。スペーサ層8は、レーザ光の光路となるため、レーザ光の波長での透過率が高い材料を用いる必要がある。スペーサ層8を構成する材料としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート、熱可塑型ポリイミド、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエーテルニトリル)、PES(ポリエーテルサルホン)等の熱可塑性透明樹脂(プラスチック)、熱硬化型ポリイミド、紫外線硬化型アクリル樹脂等の熱硬化性透明樹脂、ガラス、およびそれらの組合せ等が挙げられる。
スペーサ層8の厚さは、特に限定されるものではないが、温度変調層2、4、6を積層しなかった場合に比して薄くすることができる。その理由について以下に詳細に述べる。通常、多層型光情報記録媒体100において、光学系が決定されると、ゴミの問題や、チルトマージンの問題、収差の問題等から多層型光情報記録媒体100の表面から各記録層までの距離にある一定の厚さが必要となる。即ち、上記理由より、光学系を決定すると、多層化のために記録層を配置できる範囲というのが必然的に決定される。その範囲内に何層積層できるかは、各記録層間のスペーサ層8の厚さにより決定され、その厚さは層間クロストークやFESの層間干渉等より決定される。即ち、温度変調層2、4、6を積層することにより積層しなかった場合に比して、レーザ光がデフォーカス状態の記録層からの層間クロストーク及びFESの層間干渉を低減できるので、スペーサ層8の厚さを小さくすることができる。
このようにスペーサ層8の厚さを小さくすることができるのは、スペーサ層に比して温度変調層の膜厚が非常に薄いためである。スペーサ層は現在公にされている光ディスクの規格の中で、最も薄いBlu-ray Disc(商標)においても25μmある。これに対し温度変調層の厚さは上記のように、20〜300nmが好ましいと書いたとおり、スペーサ層8の厚さに対して約102オーダーで小さくなっている。このように薄い温度変調層を積層することで、スペーサ層をどれくらい薄くできるかを考える。デフォーカス面からのクロストークは、信号振幅すなわち反射光量に依存して決まってくるため、例えば、温度の上昇に伴い反射率が2倍になるとすると、少なくとも温度変調層の10倍オーダー(μmオーダー)でスペーサ層を減少させることは可能である。
このように、温度変調層を積層することでスペーサ層を薄くできるメリットは、上記理由により、通常多層化のために記録層を配置できる範囲は限られているが、その範囲内により多くの記録層を配置できるため、高密度化が可能になるという点である。
例えばレーザ光源の波長(λ)405nm、対物レンズの開口数(NA)0.85の光学系を採用しているBlu-ray discにおいては、2層ディスクの中間層の厚みは25μmと定義されている(日経エレクトロニクス 2003年3月31日号 pp143−144、他)。しかし、Blu-ray disc媒体に温度変調層2、4、6を積層する際には、上述したように、スペーサ層8の厚さを温度変調層2、4、6を積層しない場合に比して小さくすることが可能であるため、スペーサ層8の厚さを25μm以下とすることが可能である。
また、λ=650nm、NA=0.6の光学系を採用しているDVDにおいては、2層ディスクの中間層の厚みは55μm±15μmと定義されている(パイオニアのテクニカルガイド「DVDテクニカルガイド」2.1 Design Concept of the Physical Specification、他)が、DVD媒体に温度変調層2、4、6を積層する際には、スペーサ層8の厚さは70μm以下とすることが可能であり、より好ましくは40μm以下とすることが可能である。また、λ=405nm、NA=0.65の光学系における2層媒体の中間層厚は、Blu-ray DiscおよびDVDにて定義されている2層ディスクの中間層厚から光学系で換算しておおよその値を求めると、約32μmとなるため、λ=405nm、NA=0.65の光学系を採用した媒体に温度変調層2、4、6を積層する際には、スペーサ層8の厚さは32μm以下とすることが可能である。
次に、図6(a)〜(h)を参照して、多層型光情報記録媒体100の製造方法の一例について説明する。初めに、図6(a)に示すように、まず、スタンパ60Aを用いて樹脂61を射出形成する。次に、図6(b)に示すように、射出成形した樹脂61をスタンパから取り外すと、基板9の一主面にピット列711が形成されたものが作製される。ここでは、樹脂61で基板9が構成される。そして、図6(c)に示すように、スパッタリング法により、ピット列711を覆うように反射膜712としてAlを、その上に温度変調層6としてZnOを成膜する。このとき、ピット列711と反射膜712とから第3の記録層71が形成される。
その後、図6(d)に示すように、スタンパ60Aの信号記録面とは異なる信号記録面を有するスタンパ60Bの信号記録面をスペーサ層8で覆う。そして図6(e)に示すように、スペーサ層8に、基板9の一主面に第3の記録層71及び温度変調層6を形成したものを接触させ、基板9側から紫外線(図示せず)を照射してスペーサ層8を硬化させる。そして、図6(f)に示すように、スタンパ60Bを取り外し、スパッタリング法により、ピット列511を覆うように反射膜512としてAlを、その上に温度変調層4としてZnOを製膜する。このようにすることで、基板9に第3の記録層71及び温度変調層6、第2の記録層51及び温度変調層4が形成されたものができる。次に、第2の記録層51まで作製されると、スタンパ60A、60Bの信号記録面と異なる信号記録面を有するスタンパ(図示せず)を用いて、図6(d)〜(f)を用いて上記した工程と同様の工程を行うことにより、図6(g)に示すような、基板9に第3の記録層71及び温度変調層6、第2の記録層51及び温度変調層4、第1の記録層31及び温度変調層2が形成されたものができる。そして、図6(h)に示すように、温度変調層2上に光透過層1として紫外線硬化樹脂を形成することにより、多層型光情報記録媒体100が完成する。
なお、本発明は、上述の構成に限定されるものではなく、温度変調層及び記録層を必須の層として、種々の構成に適用することが可能である。例えば、温度変調層及び/又は記録層のいずれかの界面に別の層(例えば、保護層等)を新たに付加してもかまわない。
また、上記説明においては、温度変調層及び記録層の数はそれぞれ3層として説明したが、本発明に係る多層型光情報記録媒体はこれに限定されず、2層以上の記録層及び少なくとも1層の温度変調層を有するものであれば良い。
〔参考の形態1〕
次に、本発明に係る多層型光情報記録媒体の参考の形態を、図7に基づいて詳細に説明する。本参考の形態に関し、上記実施の形態1の図2に示される構成要素と同一の要素には、図7にて同一の符号を付してその説明を省略し、実施の形態1と異なる点のみ説明することとする。本参考の形態の多層型光情報記録媒体101は、追記型の多層型光情報記録媒体である。図7は、多層型光情報記録媒体101の断面図である。
図7に示すように、多層型光情報記録媒体101は、光透過層1と、第1の温度変調層2と、第1の記録層32と、第2の温度変調層4と、第2の記録層52と、第3の温度変調層6と、第3の記録層72と基板9とをこの順で備える。また、第1の記録層32と第2の温度変調層4との間及び第2の記録層52と第3の温度変調層6との間に形成されたスペーサ層8を備える。
記録層32、52、72を構成する材料としては、当該分野で通常使用される材料を用いることができ、色素を含む有機化合物であれば特に限定されるものではないが、例えば、シアニン系有機感光色素を含む有機化合物などが挙げられる。記録層32、52、72の層厚は、特に限定されるものではないが、数nm〜数百nmのオーダーが好ましい。本参考形態では、記録層32、52、72にはピットが形成されていなくてもよい。
この追記型の多層型光情報記録媒体101における記録方法については、次のように行うことができる。すなわち、レーザ光源(図示せず)と集光レンズ等の光学系(図示せず)とを用いて、所定の記録信号に対応するレーザ光を照射することで、所望の記録層(記録層32、52、72のいずれか)が局所的に不可逆変化を起こすことにより、記録信号を記録することができる。
また、再生時には、レーザ光源(図示せず)と集光レンズ等の光学系(図示せず)とを用いて再生レーザ光(再生ビーム)を光透過層1側から入射させ、記録層での記録信号に対応した反射光量の変化を、光ヘッド(図示せず)で検出することにより再生する(読み取る)ことができる。
よって、多層型光情報記録媒体101は、記録層32、52、72上に温度変調層2、4、6を、その膜厚を調整して形成することにより、次のことが可能である。すなわち、温度変調層2及び記録層32、温度変調層4及び記録層52、温度変調層6及び記録層72での反射率を、それぞれ、レーザ光がフォーカス状態で高く、デフォーカス状態で低くすることができる。
以上のことにより、多層型光情報記録媒体101は、所望の記録層以外からの層間クロストーク及びFESの層間干渉を低減することができる。
〔参考の形態2〕
次に、本発明に係る多層型光情報記録媒体の他の参考の形態を図8に基づいて詳細に説明する。本参考の形態に関し、上記実施の形態1の図2に示される構成要素と同一の要素には、図8にて同一の符号を付してその説明を省略し、実施の形態1と異なる点のみ説明することとする。本参考の形態の多層型光情報記録媒体102は、相変化を用いた書き換え可能型の多層型光情報記録媒体である。図8は、多層型光情報記録媒体102の断面図である。
図8に示すように、多層型光情報記録媒体102は、光透過層1と、第1の温度変調層2と、第1の記録層33と、第2の温度変調層4と、第2の記録層53と、第3の温度変調層6と、第3の記録層73と基板9とをこの順で備える。また、第1の記録層33と第2の温度変調層4との間及び第2の記録層53と第3の温度変調層6との間に形成されたスペーサ層8を備える。
第1の記録層33は、相変化膜331と、相変化膜331を挟むように形成された保護膜332及び333とから成る。また、第2の記録層53は、相変化膜531と、相変化膜531を挟むように形成された保護膜532及び533とから成る。また、第3の記録層73は、相変化膜731と、相変化膜731を挟むように形成された保護膜732及び733とから成る。
相変化膜331、531、731を構成する材料としては、当該分野で通常使用される材料を用いることができ、相変化を伴う材料であれば特に限定されるものではない。例えば、GeSbTe,InSbTe,AgInSbTe,SnSeTe,GeTeSe等、及びこれらの材料にCo,Pt,Pd,Au,Ag,Ir,Nb,Ta,Cr,Zr,Ti,V,W等を少なくとも1種以上微量添加したもの等が挙げられる。
保護膜332,333,532,533,732,733を構成する材料としては、当該分野で通常使用される材料を用いることができ、特に限定されるものではない。例えば、SiN,AlN,ZnS−SiO2,SiO2等が挙げられる。
記録層33、53、73の層厚は、特に限定されるものではないが、数nm〜数百nmのオーダーが好ましい。本参考形態では、記録層33、53、73にはピットが形成されていなくてもよい。
この書き換えの多層型光情報記録媒体102における記録方法については、次のように行うことができる。すなわち、レーザ光源(図示せず)と集光レンズ等の光学系(図示せず)とを用いて、所定の記録信号に対応するレーザ光を照射することで、相変化膜331、531、731が局所的に可逆的に相変化(例えば、アモルファス状態から結晶状態等)を起こすことにより、記録信号を記録することができる。
また、再生時には、レーザ光源(図示せず)と集光レンズ等の光学系(図示せず)とを用いて再生レーザ光(再生ビーム)を光透過層1側から入射させ、記録層での記録信号に対応した反射光量の変化を、光ヘッド(図示せず)で検出することにより再生する(読み取る)ことができる。
よって、多層型光情報記録媒体102は、記録層33、53、73上に温度変調層2、4、6を、その膜厚を調整して形成することにより、次のことが可能である。すなわち、温度変調層2及び記録層33、温度変調層4及び記録層53、温度変調層6及び記録層73での反射率を、それぞれ、レーザ光がフォーカス状態で高く、デフォーカス状態で低くすることができる。
以上のことにより、多層型光情報記録媒体102は、所望の記録層以外からの層間クロストーク及びFESの層間干渉を低減することができる。
〔参考の形態3〕
次に、本発明に係る多層型光情報記録媒体の他の参考の形態を図9に基づいて詳細に説明する。本参考の形態に関し、上記実施の形態1の図2に示される構成要素と同一の要素には、図9にて同一の符号を付してその説明を省略し、実施の形態1と異なる点のみ説明することとする。本参考の形態の多層型光情報記録媒体103は、光磁気を用いた書き換え可能型の多層型光情報記録媒体である。図9は、多層型光情報記録媒体103の断面図である。
図9に示すように、多層型光情報記録媒体103は、光透過層1と、第1の温度変調層2と、第1の記録層34と、第2の温度変調層4と、第2の記録層54と、第3の温度変調層6と、第3の記録層74と基板9とをこの順で備える。また、第1の記録層34と第2の温度変調層4との間及び第2の記録層54と第3の温度変調層6との間に形成されたスペーサ層8を備える。
第1の記録層34は、光入射側から順に形成された、保護膜341、磁性膜342、保護膜343及び反射膜344から成る。また、第2の記録層54は、光入射側から順に形成された、保護膜541、磁性膜542、保護膜543及び反射膜544から成る。また、第3の記録層74は、光入射側から順に形成された、保護膜741、磁性膜742、保護膜743及び反射膜744から成る。
磁性膜342、542、742を構成する材料としては、当該分野で通常使用される材料を用いることができ、光磁気記録が可能な材料であれば特に限定されるものではない。例えば、TbFeCo、GdGeCo,DyFeCo等、及びそれらの合金にCrやNi等の添加物を加えたもの、及びそれらの合金等が挙げられる。
保護膜341,343,541,543,741,743を構成する材料としては、当該分野で通常使用される材料を用いることができ、特に限定されるものではない。例えば、SiN,AlN,ZnS−SiO2,SiO2等が挙げられる。
反射膜344,544,744を構成する材料としては、当該分野で通常使用される材料を用いることができ、特に限定されるものではない。例えば、Au,Ag,Al,AlTi,AlSi,AlMg,AgPdCu,AgPdTi等、及びそれらの合金等が挙げられる。
記録層34、54、74の層厚は、特に限定されるものではないが、数nm〜数百nmのオーダーが好ましい。本参考形態では、記録層34、54、74にはピットが形成されていなくてもよい。
この光磁気を用いた書き換え可能型の多層型光情報記録媒体103における記録方法については、次のように行うことができる。すなわち、レーザ光源(図示せず)と集光レンズ等の光学系(図示せず)とを用いて、所定の記録信号に対応するレーザ光を照射することで、磁性膜342、542、742が局所的に加熱され漏洩磁界又は外部磁界によって磁化の方向を制御することにより、記録信号を記録することができる。
また、再生時には、レーザ光源(図示せず)と集光レンズ等の光学系(図示せず)とを用いて再生レーザ光(再生ビーム)を光透過層1側から入射させ、記録層での記録信号に対応した偏光のカー回転を利用し、光ヘッド(図示せず)で検出することにより再生する(読み取る)ことができる。
再生時には、偏光のカー回転を利用するのであるが、反射光量も無関係では無いので、よって、多層型光情報記録媒体103は、記録層33、53、73上に温度変調層2、4、6を、その膜厚を調整して形成することにより、次のことが可能である。すなわち、温度変調層2及び記録層33、温度変調層4及び記録層53、温度変調層6及び記録層73での反射率を、それぞれ、レーザ光がフォーカス状態で高く、デフォーカス状態で低くすることができる。
以上のことにより、多層型光情報記録媒体103は、所望の記録層以外からの層間クロストーク及びFESの層間干渉を低減することができる。
なお、本発明は、上述の実施形態の構成に限定されるものではなく、温度変調層及び記録層を必須の層として、種々の構成に適用することが可能である。例えば、温度変調層及び/又は記録層のいずれかの界面に別の層(例えば、保護層等)を新たに付加してもかまわない。
また、上記各形態の説明においては、温度変調層及び記録層の数はそれぞれ3層として説明したが、本発明に係る多層型光情報記録媒体はこれに限定されず、2層以上の記録層及び少なくとも1層の温度変調層を有するものであれば良い。
また、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。例えば、本発明の多層型光情報記録媒体は、ディスク状、いわゆる円盤状の光ディスクのみならず、カード状又はシート状等の形状のものであってもよい。また、本発明の多層型光情報記録媒体において、光情報記録の方式は光学的な方式であれば特に限定されるものではなく、本発明の多層型光情報記録媒体は、光ディスク、光磁気ディスク、相変化型光ディスク等の種々の光情報記録媒体を含みうる。
また、異なる形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。例えば、本発明の多層型光情報記録媒体は、再生専用面と、記録再生可能な面とが混在する、ハイブリッド媒体としてもよい。