JP4378489B2 - ラミネートシートの接着方法 - Google Patents

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本発明は、被処理物の塗膜に樹脂製シートを接着するラミネートシートの接着方法に関する。
特許文献1には、電着塗装した被処理物を特定の酸性水溶液に浸漬して塗膜の接着性を改善し、その後、塗膜表面に樹脂製シートを接着することが開示されている。
特許文献2には、被処理物を電着塗装した後、電着塗膜を水蒸気雰囲気中で焼付けして接着性を改善することが開示されている。
特開2003−193296号公報 特開平9−192592号公報
しかし、特許文献1の技術では、特定の酸性水溶液の処理槽を設ける必要があるので、設備コストが高くなるという問題がある。
特許文献2の技術では、水蒸気雰囲気中で塗膜の焼付けを行うものであるから、塗膜全体に水蒸気雰囲気を均一に供給しないと焼き付け斑を生じるおそれがあり、水蒸気雰囲気を均一に供給するための特別な設備が必要になるという問題がある。
そこで、本発明は、簡易且つ安価な設備で塗膜表面に樹脂製シートを強固に接着できるラミネートシートの接着方法を提供することを目的とする。
請求項1に記載の発明は、被処理物に塗装した後、焼付け乾燥し、乾燥後の塗膜表面に加圧水蒸気を接触させた後、塗膜表面に樹脂製シートを接着することを特徴とする。
請求項1に記載の発明によれば、焼付け乾燥後に塗膜表面に加圧水蒸気を接触させており、加圧水蒸気により塗膜の焼付けを行わないので塗膜の焼き付け斑が生じ難い。
焼付け後の塗膜に水蒸気を接触させればよく水蒸気雰囲気を均一に供給する必要がないので、例えば、アルミニウム陽極酸化皮膜の封孔処理に使用している通常の蒸缶をそのまま使用して水蒸気を接触させることができ、また塗装後に特定の酸性水溶液に浸漬する必要もないので、設備が簡単で且つ設備コストが安価にできる。
(実施例1)
A.実施例品の製造
(a)被処理物の塗装
被処理物としてアルミニウム合金押出形材A6063S−T5(以下単に「アルミ形材」という)を脱脂洗浄した後、80g/lの水酸化ナトリウム水溶液に40℃で7分間浸漬してエッチング処理をした。次いで、このアルミ形材を140g/lの硫酸に20℃で2分間浸漬してスマット除去を行なった。その後、21℃の150g/l硫酸水溶液中でアルミ形材を陽極に接続して電流密度70A/m2で41分間の電解処理を行ない、表面に6μmの陽極酸化皮膜を生成させた。続いて、このアルミ形材を74℃の脱イオン水で3.5分間の湯洗処理を行ない、これを冷却した。冷却処理後、アクリル−メラミン系アニオン艶消し電着塗料(日本ペイント製PM−6350)浴中で、アルミ形材を陽極として200Vで3分間の通電を行ない、形材表面に20μmの電着塗膜を形成させた後、水洗して表面に付着した余剰の塗料成分を除去した。
(b)焼付け乾燥
このアルミ形材表面に形成した未硬化の電着塗膜を185℃で30分間の焼付乾燥を行なった。
(c)加圧水蒸気の接触
焼き付け乾燥後のアルミ形材に蒸缶内で加圧水蒸気を接触させた。水蒸気温度(処理温度)を101℃、102℃、103℃、104℃、105℃、110℃、120℃で各々60分間加圧水蒸気処理し、各温度毎のものを製造した。尚、各処理圧力は各処理温度での飽和水蒸気圧であり、水蒸気発生用の水には、井戸水を使用した。加圧水蒸気処理には、アルミニウム陽極酸化皮膜の封孔処理に使用している蒸缶を用いた。
(d)樹脂製シートの接着
得られた各アルミ形材の表面にプライマーとして、混合比100:5の2液型ウレタン系接着剤(積水化学工業株式会社製:エスダインUX−48)40μmを塗布した後、木目柄のポリオレフィンシート(大日本印刷株式会社製:SU)を接着して、室温で1週間保持し、各水蒸気温度毎の実施例品を製造した。
B.実施例品の試験
各実施例品について、外観、接着強度について試験したので、その結果を下記表1に示す。
(1)外観
蒸缶処理後の塗装外観を目視にて確認した。
表1の外観において、○は異常なし、△は水滴痕が認められる、×は著しい異常が認められることを示す。
(2)接着強度
樹脂シートの接着(d)後、試験体の測定面に幅25mmの切り込みを入れて、端部のシートをめくって折り返し、EZ−TEST500N(島津製作所(株)製)を用いて引張り速度を50mm/minで180度剥離強度試験を行った。
表1の接着強度において、◎は接着した樹脂製シートがめくれず剥離強度試験ができないほど接着強度が高く基準値を充分に満たしている、○は剥離強度試験中にシートが破壊してしまい測定できないほど接着強度が高く基準値を充分に満たしている、△は基準値を満たす、×は基準値を満たさないことを示す。尚、基準値は250N/cmである。
Figure 0004378489
表1から明らかなように、接着強度は加圧水蒸気温度が101℃及び102℃では△であり、接着強度の評価基準値250Nを僅かに満たすと共に水蒸気処理をしないもの(ブランク)よりも接着強度は高かった。水蒸気の圧力は各処理温度での飽和水蒸気圧であるから、水蒸気温度が100℃よりも高い温度の飽和水蒸気は加圧水蒸気である。したがって、本実例によれば、塗膜の焼付け乾燥後に塗膜表面に加圧水蒸気を接触した後に樹脂製シートを接着することにより、加圧水蒸気を接触しないものよりも接着強度を高めることができた。
外観については、加圧水蒸気温度が120℃で著しい異常が認められた。
表1から本発明の効果を確実に得るには、外観及び接着性を総合的に勘案すると、加圧水蒸気として井戸水を使用した場合には加圧水蒸気温度は105℃以上で120℃未満が好ましい。
本実施例によれば、被処理物に樹脂製シートを強固に接着できる。
加圧水蒸気により焼付けを行わないので、塗料の焼き付け斑が生じ難く且つ水蒸気雰囲気を均一に供給する設備も不要であるから、設備が簡易である。
また、塗装後の被処理物を特定の酸性水溶液に浸漬することもないので、特定の酸性水溶液処理槽等が不要であり、設備が簡単で設備コストを安価である。
加圧水蒸気の接触(c)においては、アルミニウム陽極酸化皮膜の封孔処理に使用している通常の蒸缶をそのまま使用しているので、既存設備を利用でき、設備が簡単で且つ設備コストを安価にできる。
(実施例2)
A.実施例品の製造
実施例1の(c)加圧水蒸気の接触において、加圧水蒸気温度を110℃、120℃とし、各温度における接触時間を、15分、30分、60分に変えたものについて、実施例1と同様に製造したものを実施例2とした。
B.実施例品の試験
各実施例品について、外観、接着強度の他に、促進耐候性についても試験したので、その結果を下記表2に示す。
促進耐候性は、サンシャインウェザーメータで、250、500、1000、2000時間の色調及び光沢を測定した。尚、色調の測定には、カラーメーターCR−300(ミノルタ株式会社製)を使用し、光沢の測定には、デジタル変角光沢計(スガ試験機株式会社製)を使用した。
表2において、外観、接着強度の記号は、表1と同じ意味で使用した。
促進耐候性について、○は加圧水蒸気処理をしていないものと比較して差がない、 △は加圧水蒸気処理をしていないものと比較して初期値光沢が若干かわるが経時変化は同等、×は加圧水蒸気処理をしていないものと比較して初期値、経時変化共に変わることを示す。
Figure 0004378489
表2から明らかなように、接着性、促進耐候性については、加圧水蒸気温度が110℃の場合及び120℃の場合のいずれにおいても各処理時間で良好な結果を得ることができた。したがって、高い接着性を得るためには、加圧水蒸気の接触時間(処理時間)は加圧水蒸気温度によっても異なるが、15分以上であることが好ましい。
外観については、加圧水蒸気温度が120℃の場合には、処理時間30、60分のものについては、外観では異常が認められた。
外観、接着性及び促進耐候性の全てを満足するには、加圧水蒸気の処理時間は15分以下が好ましい。
この実施例2においても、実施例1と同様な効果を得ることができる。
(実施例3)
実施例3は、被処理物の塗装として、実施例1のアクリルメラミン電着塗装に変えて、アクリル樹脂静電塗装(アクリル塗装)、ウレタン樹脂静電塗装(ウレタン塗装)、フッ素樹脂静電塗装(フッ素塗装)、エポキシ樹脂静電塗装(エポキシ塗装)をしたものを用いている。
A.実施例品の製造
実施例1の被処理物の塗装(a)において、アルミ形材の湯洗処理後の電着塗装に換えて、常温乾燥型のアクリルウレタン樹脂塗料(日本ペイント株式会社製スーパーラックH50)を静電スプレー塗装方法により30μmの膜厚になるように上塗り塗装した後、180℃で20分の乾燥を行なった(アクリル塗装)。同様にウレタン樹脂塗料(大日本塗料株式会社製デュラクロンCW)を塗装したもの(ウレタン塗装)、フッ素樹脂塗料(東洋ペイント株式会社製:ニューガーメット300)を塗装したもの(ウレタン塗装)、エポキシ樹脂塗料(大日本エリオ株式会社製:塗装鋼板裏面サービスコート)を塗装したものの各々について、実施例1の加圧水蒸気の接触(c)において、それぞれ蒸気温度105、115、125℃で各60分接触した後、各々実施例1と同様にウレタン接着剤で樹脂製シートを接着した。尚、接着剤の塗布厚さは各々25μmとした。
B.実施例品の試験
実施例3の各実施例品について、室温で7日間放置した後、外観及び接着強度試験を行ったのでその結果を下記表3に示す。尚、表3において、記号◎、○、△、×はそれぞれ表1と同じ意味で用いている。
Figure 0004378489
表3から明らかなように、実施例3によれば、アクリル塗装、ウレタン塗装、フッ素塗装、エポキシ塗装のいずれの塗装においても、105℃、115℃、125℃の各温度において接着強度の基準値を満たしており、水蒸気温度(処理温度)105℃以上で十分な接着強度を得ることができた。
外観については、アクリル塗装、ウレタン塗装、フッ素塗装、エポキシ塗装のいずれの塗装においても、125℃では異常が認められた。
外観及び接着性を満足するためには、いずれの塗装でも105℃以上125℃未満が好ましい。
この実施例3においても、実施例1と同様な効果を得ることができる。
(実験)
次に、加圧水蒸気処理と接着強さの関係について実験し、表面水酸基量や赤外吸収スペクトルの変化を調べて検討したので、結果を説明する。
上述した実施例1の加圧水蒸気の接触(c)において、更に、35℃、80℃、125℃の温度で1時間水蒸気処理したものを製造した。水蒸気発生用の水には、イオン交換水(電気伝導度:0.05μS/cm)を用いた。
加圧水蒸気処理した各塗装材は、実施例1と同様のウレタン接着剤(25μm厚さ)で接着し、室温で7日間の加圧保持後、クロスヘッド間スピード1mm/minで引張試験を行い、接着強さを求めた。表面水酸基量は、加圧水蒸気処理直後の塗装材を、無水トリフルオロ酢酸で化学修飾し、XPSでC・Fの分析を行い、式(1)により求めた。また、FT−IR(ATR法)を用いて下記の赤外吸収スペクトルを調べた。
Figure 0004378489
図1に各実施例品及び比較例品における処理温度と、接着強さ及び水酸基量の関係を示す。●は蒸気温度と接着強度との関係を示し、○は蒸気温度と水酸基量との関係を示している。この図1から、接着強さは100℃までは大きな変化は認められないが100℃、すなわち、加圧状態になる温度から増加が認められる。そして、105℃で未処理(加圧水蒸気を接触させていないもの)の場合の約2倍となり、最大値を示した115℃では3倍近い接着強さになった。115℃より処理温度が高くなると、接着強さが低下している。
一方、水酸基量も接着強さとほぼ同様の傾向を示しており、110℃〜115℃でピークを迎え、それ以上の温度では低下した。このことから、強度上昇は加圧蒸気処理後の材料表面の水酸基量に大きく影響されることがわかった。
このような水酸基量変化の原因を調べるために、赤外吸収スペクトルの測定を行った(図2)。アクリルメラミン樹脂の主成分であるアクリルについては1725cm-1のC=0伸縮振動に起因する吸収を、またメラミンについては1540cm-1のC−N伸縮振動・N−Hの変角振動に起因する吸収に着目した。
1725cm-1の吸収は、処理温度が高くなっても大きな変化は見られず、アクリル成分が加圧水蒸気処理によっても比較的安定なことがわかる。しかし、1540cm-1の吸収は、処理温度が高くなると次第に小さくなっており、メラミン成分が減少していることを示している。これは、メラミン樹脂の基本的な反応を下記化学式に示した式(2)、式(3)の反応によるものと考えられ、塗装樹脂中には水酸基量の増加が予想される。
Figure 0004378489
一方、1150cm-1の吸収は、RTと115℃ではあまり変化しないが、125℃では明らかな増加が見られる。これは、式(4)の反応の進行、或いは、生成した水酸基の縮合によるエーテルの生成などが考えられる。これに伴い水酸基が減少したものと考えられる。
このように、メラミン成分の分解、及び、その分解物のさらなる反応が順次進行するため、図1のような水酸基量の変化が起こったものと考えられる。
以上のように、本実施例によれば、加圧水蒸気処理により、塗膜表面の表面改質が成され、接着性が高められたことがわかった。XPS分析により、表面の化学結合状態の変化(水酸基量)が生じていることが確認でき、化学的効果により接着性が改善されたと考えられる。
本発明は上述した実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
例えば、被処理物の塗装方法は、浸漬塗装やはけ塗り塗装であってもよい。また、塗料はフタル酸樹脂やフェノール樹脂等であってもよく、塗料の種類は限定されない。
被処理物は、鋼材等の他の金属材であってもよいし、金属材以外の材質のものであってもよく、材質は限定されない。
加圧水蒸気の蒸気温度と、接着強度及び水酸基量の関係を示すグラフである。 赤外線吸収スペクトルの波形を示すグラフである。

Claims (1)

  1. 被処理物に塗装した後、焼付け乾燥し、乾燥後の塗膜表面に加圧水蒸気を接触させた後、塗膜表面に樹脂製シートを接着することを特徴とするラミネートシートの接着方法。

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