JP6322427B2 - 樹脂被覆アルミニウム板の製造方法 - Google Patents
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[純アルミニウムまたはアルミニウム合金」
本発明では、基材として純アルミニウムまたはアルミニウム合金が用いられる。純アルミニウム基材としては純度99.0%以上の純アルミニウムを用いることができる。また、アルミニウム合金基材としては、種々のアルミニウム合金を用いることができ、本発明としては特にその組成が限定されるものではない。好適には、1000系、3000系(Al−Mn系)合金、5000系(Al−Mg系)合金などを挙げることができる。以下では、純アルミニウムまたはアルミニウム合金を単にアルミニウムと表記する。
アルミニウム板の表面には、下地として陽極酸化皮膜が設けられる。この場合、陽極酸化皮膜は、20nm〜150nmの膜厚の有孔率5%以下の無孔質陽極酸化皮膜であるのがよい。無孔質陽極酸化皮膜とは、皮膜が均一に形成された部位の断面観察において、皮膜表面からアルミニウム素地に向けて、規則的に形成される孔(通常開口部は1nm〜10nmで皮膜厚さに対して60%以上の深さを有する)が5%(表面から見た孔の総面積の比率)以下(孔が存在しないものも含まれる)の無孔質な皮膜である。有孔率がゼロ%の無孔質な皮膜は、有孔率が数%の皮膜に対して、格段に耐食性に優れるのでより好ましい。
樹脂膜は、高温高湿下での耐久性・耐熱性向上、電子部品表面の絶縁性確保等のために設けられる。この樹脂膜の厚さは、性能を確保するため適切な厚さが望ましい。厚さが薄いと、ケースなどの深絞り加工時に樹脂に割れが生じやすく、性能が劣る。一方、樹脂膜が厚過ぎると経済的に不合理である。このため20μm以下が好ましい。
無孔質陽極酸化皮膜にシランカップリング剤を塗布した上に樹脂膜が設けられていることで、無孔質陽極酸化皮膜に対してエポキシ樹脂の高い密着性が得られ、絞り比の高いケース成形が可能となる。
陽極酸化皮膜が施されたアルミニウム板に塗料を塗布した後、2回の加熱処理により塗料を焼き付けて樹脂膜を形成することにより、Cs/Ciを前述した適正な値にすることができる。1回の加熱処理だけでは、メラミン系樹脂の表層部への濃縮が不十分で耐溶剤性に劣り、2回を超えて加熱処理すると、硬化が促進され加工性が低下する。
陽極酸化処理に先立って前処理を行う。前処理は特に限定されるものではない。例えば、アルカリ性の脱脂液で洗浄し、水酸化ナトリウム水溶液でアルカリエッチング、硝酸水溶液でデスマット処理を行う。
陽極酸化の電解液は、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸アンモニウムといったリン酸塩、もしくは珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウムといった珪酸塩の水溶液であれば、酸化皮膜の溶解力が低く、有孔率5%以下の無孔質陽極酸化皮膜12が形成される。
陽極酸化皮膜12の膜厚は、好ましくは、20nm以上100nm以下とする。
陽極酸化皮膜12表面に、アミノ系、エポキシ系、アクリル系等のシランカップリング剤14を塗布し、陽極酸化皮膜12と樹脂膜13との密着性を向上させる。シランカップリング剤14の塗布量は、好ましくは0.5mg/m2以上10mg/m2以下とする。塗布量が下限未満の場合は樹脂膜13との密着性を向上させる効果が十分に得られず、上限を超過した場合は脆弱層が形成されやすく、密着性が低下するおそれがある。
シランカップリング剤14を塗布した板材11の表面に、エポキシ系樹脂を主成分とする樹脂膜13を形成する。この樹脂膜13は、エポキシ系樹脂を主成分とし、形成する樹脂膜13の総重量に対して1質量%〜15質量%の割合でメラミン系樹脂(添加剤)を含む塗料を塗布して、加熱乾燥により焼き付けることにより形成されるが、メラミン系樹脂を含有しエポキシ系樹脂を主成分とするフィルムを加熱溶解して貼り合わせてもよい。塗布方法は、ロールコート法、スプレーコート法、バーコート法、ディップ法、などを用いることができる。
1.5<(Cs/Ci)≦20
とする。樹脂膜13において、膜厚tに対してメラミン系樹脂由来炭素濃度がこのように分布することにより、すなわち、メラミン系樹脂が表層で濃化することにより、樹脂膜13は、板材11に付着する内部では軟質で板材11の変形に追従するのでひび割れの発生が抑えられるとともに、表面部分では硬度が高く、ハンドリング時に他の部材に付着するブロッキングやキズの発生が抑えられる。
樹脂膜は13、前述した塗料をロールコート法等により塗布して、加熱乾燥により焼き付けることにより形成される。
この場合、この塗料の焼き付けにおいては、加熱処理を2回に分けて行うことが重要である。すなわち、塗料を塗布した後に、200℃〜300℃で1回目の加熱処理を行い、その後、冷却した後に2回目の加熱処理を行う。この2回目の加熱処理は、温度が1回目の加熱処理時の温度より10℃以上低く、150℃〜290℃とし、時間は、1回目の加熱処理より30%以上長い時間とする。例えば、1回目の加熱処理の時間が10秒〜40秒に対して、2回目の加熱処理の時間は13秒〜70秒とする。
2回の加熱処理としたのは、Cs/Ciを前述した適正な値にするためであり、1回の加熱処理だけでは、メラミン系樹脂の表層部への濃縮が不十分で耐溶剤性に劣り、2回を超えて加熱処理すると、硬化が促進され加工性が低下する。
各回の加熱条件において、1回目の加熱温度を200℃〜300℃としたのは、200℃未満だと樹脂本体の架橋反応が十分進まず硬化が不十分なのに対し、逆に300℃を超えた場合は硬化し過ぎるために加工時の基盤密着度や成形性が低下したり、被覆樹脂の熱変色(黄変)が問題となるからである。2回目の加熱温度を150℃〜290℃としたのは、1回目の加熱で得られた加工に好適な樹脂本体の密着度や成形性を、必要以上に硬化させ変化させることなく、表面近傍にメラミンを更に拡散・濃縮させることにより、表面の耐溶剤性を高めブロッキングやキズの発生を抑制することができるからである。150℃未満ではメラミン拡散効果が十分でなく、290℃を超えると前述した密着性・加工性の低下、変色を招くことになる。2回目の加熱処理を1回目の加熱処理より30%以上長くすることにより、低温でもよりメラミンの濃縮を促進させ、前述の効果を高めることができる。
また、1回目の加熱処理と2回目の加熱処理との間で、樹脂膜13の表面が100℃以下の温度となるまで冷却する。この冷却を介さずに連続的に加熱処理すると、樹脂内部に残存する熱により、2回目の加熱で予測以上に硬化が進んで成形性の低下を招く恐れがある。
[前処理]
すべてのサンプルにおいて、厚さ0.3mmのJIS 1100アルミニウム板を、5%水酸化ナトリウム水溶液で50℃、10秒間エッチングして脱脂処理した後、10秒間水洗した。さらに、10%硝酸溶液に室温で10秒間浸漬して中和した後、10秒間水洗して乾燥した。
次に、各サンプルに対して、ケイ酸塩水溶液を電解液として、所定の電解電圧で陽極酸化処理を行った。形成された無孔質陽極酸化皮膜の膜厚は、電解時間に対応する(表1参照)。
陽極酸化処理後、10秒間水洗して乾燥し、さらにアミノ系、エポキシ系、アクリル系のシランカップリング剤を、浸漬式コーティング法により塗布した。シランカップリング剤の塗布量は、表1に示す通りである。
エポキシ系樹脂を主成分とし、添加剤としてメラミン系樹脂を前記樹脂膜の総重量に対して所定の割合で含む塗料をバーコータ塗布した後、表1に示す条件の焼き付け工程により焼き付け、樹脂膜を形成した。各サンプルに塗布した各塗料におけるメラミンの添加量は、塗料の総重量における質量割合で、表1に示す通りである。
[メラミン系樹脂の分布測定]
各樹脂被覆アルミニウム板の樹脂膜におけるメラミン系樹脂の分布を、次のように測定した。XPS(X線光電子分光)により炭素(C)のスペクトルを測定して、CN結合が多いメラミン系樹脂のものを波形分離し、表層部Aの炭素濃度Csと深層部Bの炭素濃度Ciとを測定し、その比Cs/Ciを求めた。結果を表1に示す。Cs/Ciの値が大きいほど、樹脂膜の表層におけるメラミンが多いと考えられる。
樹脂被覆アルミニウム板を洗浄溶剤に所定時間浸漬した後、鉛筆引掻き硬度測定(JIS K5600)を行った。結果を表2に示す。この結果が3H以上であったサンプルを合格、2H以下であったサンプルを不合格とした。
表2に示す加工密着度は、樹脂被覆アルミニウム板を圧延率70%で圧延し、碁盤目テープ剥離法により、樹脂膜の残マス数をカウントし、100分率で表示した。この結果が50%以上であったサンプルを合格、50%未満であったサンプルを不合格とした。
樹脂被覆アルミニウム板の小片サンプル(約5cm角)を2枚1組として、向かい合わせた樹脂膜間に洗浄溶剤を3〜5μリットル/cm2程度滴下し、2枚を重ね合わせて固定した状態で、50〜100℃で30分間乾燥させた。乾燥後、2枚の樹脂被覆アルミニウム板を手で剥離し、剥離抵抗を5段階で評価した。評価は、剥離抵抗が低い順に、
1:全く抵抗なく剥離
2:少し抵抗がある(剥離音なし)
3:抵抗ある(剥離音有り)
4:抵抗大きい(板がやや曲がる)
5:剥離困難
とし、この結果が1〜3であったサンプルを合格、4〜5であったサンプルを不合格とした。結果を表2に示す。洗浄溶剤としてはエタノール系を用いたが、イソパラフィン炭化水素系などを用いてもよい。
各実施例及び比較例の樹脂被覆アルミニウム板を円板状に切り抜いた後、深絞り成形プレスを用いて、樹脂被覆面が外周面となるように、径:高さ=1:1.5の円筒状のコンデンサケースを成形した。さらに、成形後のコンデンサケースを洗浄溶剤に浸漬、攪拌することにより、加工油を除去した。この加工・洗浄後のコンデンサケースについて外観検査を行い、塗膜の剥がれ、肌荒れ、キズ、ケース同士のくっつきが無いものを合格とし、いずれかの不具合が見られたものを不合格と判定した。その結果を表2に示す。表の括弧内は不合格の原因を示す。
11 板材
12 無孔質陽極酸化皮膜
13 樹脂膜
14 シランカップリング剤
A 表層部
B 深層部
Claims (4)
- 純アルミニウムまたはアルミニウム合金の表面に陽極酸化皮膜が形成されているとともに、この陽極酸化皮膜上に膜厚20μm以下の樹脂膜が形成されてなり、前記樹脂膜は、エポキシ系樹脂を主成分とし、添加剤としてメラミン系樹脂をこの樹脂膜の総重量に対して1〜15質量%の割合で含み、前記樹脂膜において、最表面から前記膜厚の10%以内の範囲を表層部、この表層部を除いた部分を深層部とし、X線光電子分光により求めたメラミン系樹脂由来の炭素濃度を、前記表層部においてCs、前記深層部においてCiとすると、1.5<(Cs/Ci)≦20である樹脂被覆アルミニウム板を製造する方法であって、
純アルミニウムまたはアルミニウム合金を陽極酸化して陽極酸化皮膜を形成し、
前記陽極酸化皮膜上に、エポキシ系樹脂を主成分とし、添加剤としてメラミン系樹脂を前記樹脂膜の総重量に対して5〜15質量%の割合で含む塗料を塗布した後に
200℃〜300℃で1回目の加熱処理を行い、その後、冷却した後に、前記1回目の加熱処理時の温度より10℃以上低い150℃〜290℃の温度で2回目の加熱処理を前記1回目の加熱処理より30%以上長い時間行うことにより、前記樹脂膜を形成することを特徴とする樹脂被覆アルミニウム板の製造方法。 - 前記塗料にポリプロピレンワックスを0.1質量%〜10質量%含有させておくことを特徴とする請求項1記載の樹脂被覆アルミニウム板の製造方法。
- 前記エポキシ系樹脂に5%〜30%の変性部分を含有させ、その変性種をポリエステル変性またはウレタン変性とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂被覆アルミニウム板の製造方法。
- 前記陽極酸化皮膜を20nm〜150nmの膜厚の有孔率5%以下の無孔質陽極酸化皮膜とし、前記無孔質陽極酸化皮膜上に0.5mg/m2〜10mg/m2の塗布量のシランカップリング剤を介して前記塗料を塗布することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の樹脂被覆アルミニウム板の製造方法。
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