JP4373659B2 - パラ系アラミド繊維構造物の染色方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、パラ系アラミド繊維構造物の染色方法に関するものであり、さらに詳しくは、染料の使用濃度を増やすことなく、通常の合成繊維用染色設備を用いてパラ系アラミド繊維構造物を濃色に染色する染色方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
アラミド(全芳香族ポリアミド)繊維にはコーネックス、ノーメックスに代表されるメタ系アラミド繊維とテクノーラ、ケブラー、トワロンに代表されるパラ系アラミド繊維とがある。
【0003】
これらのアラミド繊維は、ナイロン6、ナイロン66などの従来から広く使用されている脂肪族ポリアミド繊維に比較して、剛直な分子構造と高い結晶性を有しているので、耐熱性、耐炎性(難燃性)などの熱的性質、並びに耐薬品性、強力な耐放射線性、電気特性などの安全性に優れた性質を有している。そのため、アラミド繊維は耐炎性(難燃性)や耐熱性を必要とする防護服などの衣料用やバッグフィルターなどの産業資材用、カーテンなどのインテリア用として広く使用されるようになってきている。
【0004】
しかしながら、アラミド繊維、特にパラ系アラミド繊維は極めて剛直な分子構造と高い結晶性を有しているが故に、優れた性質を有している反面、染色し難いという欠点をも有している。
【0005】
このような欠点を解消するため、これまでパラ系アラミド繊維の染色性向上法については数多くの提案がなされている(例えば、テキスタイル・リサーチ・ジャーナル第56巻第254〜261頁、特公昭44−11168号公報或いは特公昭52−43930号公報など)が、満足な結果を得るには至っていないのが実情である。
【0006】
即ち、上記従来技術においては、極性溶媒による前処理や、キャリヤー染色或いは超高温染色などの方法が採用されているため、作業環境が悪化したり、染色加工条件が特殊であるため特別な染色装置が必要となるといった問題点を有していた。
【0007】
一方、パラ系アラミド繊維を着色する方法として、ポリマードープ中に顔料を練り込む、いわゆる原料着色法も採用されているが、特にアラミド繊維の場合、生産性が低下する上、小ロット化及びクイックリスポンス化への対応が難しいという問題があり、通常の合成繊維用染色設備を用いたパラ系アラミド繊維構造物の染色方法の開発が切望されてきた。
【0008】
【特許文献1】
特公昭44−11168号公報
【0009】
【特許文献2】
特公昭52−43930号公報
【0010】
【非特許文献1】
テキスタイル・リサーチ・ジャーナル第56巻第254〜261頁
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記従来技術の有する問題点を解消し、染料の使用濃度を増やたり、特殊な染色装置を使用することなく、パラ系アラミド繊維構造物を濃色に染色する染色方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討した結果、例えばパラ系アラミド繊維構造物を6%owfの染料濃度で染色しようとする場合、3%owfの染料濃度で2回染色すれば可及的に染着濃度が向上できることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
かくして本発明によれば、パラ系アラミド繊維を含む繊維構造物を、使用染料濃度C(%owf)で染色するに際し、染料濃度C/n(%owf)の染浴を用いて、n回染色処理する(nは2以上の整数を表す)ことを特徴とするパラ系アラミド繊維構造物の染色方法が提供される。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明におけるパラ系アラミド繊維とは、デュポン社の「ケブラー」(登録商標)および帝人トワロン社の「トワロン」(登録商標)に代表されるポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)からなる繊維や、帝人(株)の「テクノーラ」(登録商標)に代表される、PPTAと3,4'-オキシジフェニレンテレフタルアミドとの共重合体など、パラフェニレン基を主鎖中に組み込んだ芳香族ポリアミド繊維を言う。
【0015】
上記のPPTAは、テレフタル酸とパラフェニレンジアミンを重縮合して得られる重合体であるが、少量のジカルボキシ酸およびジアミンを共重合したものも使用することができ、重合体または共重合体の分子量は通常20,000〜25,000が好ましい。
【0016】
またPPTA繊維は、PPTAを濃硫酸に溶解し、その粘調な溶液を紡糸口金から押し出し、空気中または水中に紡出することによりフィラメント状とした後、水酸化ナトリウム水溶液で中和し、最終的には120〜500℃で乾燥・熱処理することにより得られる。
【0017】
乾燥・熱処理前のPPTA繊維は(110)面の結晶サイズが50オングストローム未満であり、乾燥・熱処理後では50オングストローム以上となるのが一般的である。
【0018】
上記パラ系アラミド繊維には、押し込み式捲縮などの捲縮付与手段の他、強打(叩く)、表面摩擦(しごく)、撚糸及び仮撚などの該物理的手段により、座屈部(キンクバンド)が形成(付与)されていることが好ましい。座屈部(キンクバンド)が形成されているパラ系アラミド繊維は、該座屈部(キンクバンド)からの染料の吸尽が起こり易くなるため、本発明の効果が顕著に発現する。
【0019】
本発明においては、上記パラ系アラミド繊維単独で、或いは上記パラ系アラミド繊維と、他の合成繊維及び/又は天然繊維とを複合させて糸、綿、撚糸コード、ロープ或いは織編物、不織布などの繊維構造物とする。
【0020】
そして、本発明においては、上記繊維構造物を染色する際、所望の染料濃度が例えばC%owfであれば、従来のようにC%owfの染浴を用いて1度の染色処理を行なうのではなく、(C/n)%owfの染浴中で、n回に分けて染色処理を行なう(nは2以上の整数を表す)ことが肝要である。
【0021】
このように、パラ系アラミド繊維においては、染色処理を複数回に分けて実施することにより、特に2回目以降の染色処理において染料の染着・拡散性が著しく向上し、従来より実施されてきた、1度の染色処理に比べて濃染化させることが可能となる。
【0022】
上記染色処理の繰り返し回数には特に制限はなく、繰り返し回数が増えるにつれて染着性も向上するが、染色助剤や染色エネルギーなどのコストアップも考慮すると、多くても5回程度に止めることが好ましい。
【0023】
染色温度は、染料分解の恐れが無ければ、高いほうが染色性が向上し、濃染化の効果を得ることができるものの、通常の合成繊維用の染色設備の能力範囲内で実施することを考慮すると、高々140℃程度に止めることが好ましい。実用的には120℃〜135℃で充分な染着濃度が得られる。
【0024】
また、染色のための染料としては、カチオン染料、分散染料、また更にはカチオン/分散混合染料の何れも用いることが出来るが、緻密な構造に浸透しやすく、また染色後の堅牢性や色相安定性がよいカチオン染料が望ましい。
【0025】
ここで、分散染料とは水に難溶性で、水中に分散した系から疎水性繊維の染色に用いられる染料をいい、ポリエステル繊維やアセテート繊維などの染色に多く用いられている、ベンゼンアゾ系(モノアゾ、ジスアゾなど)、複素環アゾ系(チアゾールアゾ、ベンゾチアゾールアゾ、キノリンアゾ、ピリゾンアゾ、イミダゾールアゾ、チオフェンアゾなど)、アントラキノン系、縮合系(キノフタリン、スチリル、クマリンなど)などの染料がある。
【0026】
カチオン染料とは、水に可溶で塩基性を示す基を有する水溶性染料をいい、アクリル繊維、天然繊維或いはカチオン可染型ポリエステル繊維等の染色に多く用いられている、ジ及びトリアクリルメタン系、キノンイミン(アジン、オキサジン、チアジン)系、キサンテン系、メチン系(ポリメチン、アザメチン)、複素環アゾ系(チアゾールアゾ、トリアゾールアゾ、ベンゾチアゾールアゾ)、アントラキノン系などの染料が例示される。また最近では塩基性基を封鎖することにより水分散型にしたカチオン染料もあり、両者とも用いることが出来る。
【0027】
【実施例】
以下、実施例より本発明を更に詳細に説明する。なお、実施例中の被染色物の評価は下記の方法に従って行なった。
【0028】
(1)染色性
染色性の評価は、マクベス カラーアイ、モデルCE−3100を用い、見掛けの色の濃さK/S及び明度指数L*で表現した。
【0029】
K/Sは染色された試料の最大吸収波長における反射率(R)から下記に示すクーベルカムンクの式により求められる値であり、この値が大きい程、濃染されていることを示す。
【0030】
【数1】
【0031】
また、明度指数L*は、JIS Z 8701(2度視野XYZ系による色の表示方法)又はJIS Z 8728(10度視野XYZ系による色の表示方法)に規定する三刺激値のYを用いて、次式より求められる値であり、この値が小さい程、濃染されていることを示す。
【0032】
【数2】
【0033】
(2)染料脱落性
被染色物に白布を接触させ、染料の脱落により白布が汚染されなかった場合を○、汚染された場合を×とした。
【0034】
[実施例1]
押し込み捲縮を付与することにより、座屈部(キンクバンド)が形成されたPPTA短繊維(帝人トワロン製、「トワロン」)を常法により30/2の紡績糸とし、次いで該紡績糸を経55本/インチ、緯54本/インチの密度で製織して平織物を得た。
【0035】
次に、得られた織物をスコアロール400(花王製)で1g/l、80℃で20分間精錬した。水洗・乾燥後、190℃で1分間プレ・セットした。
【0036】
次いで、下記処理浴で常温から2℃/分の速度で昇温し、135℃で60分間染色した後、同じ組成の染浴を用いて2度目の染色を行った。
・染料C.I.Basic Blue 54(Kayacryl Blue GSL-ED) 3%owf
・酢酸 0.3cc/l
・分散剤(ディスパーVG) 0.5g/l
・浴比1:20
【0037】
次いで、得られた織物を下記洗浄浴で80℃×20分間還元洗浄した。
・NaOH 1g/l
・ハイドロサルファイト 1g/l
・アミラジンD 1g/l
(第一工業製薬製、非イオン活性剤)
還元洗浄後、十分水洗して乾燥、ファイナル・セット(180℃×1分間)した。
【0038】
[実施例2]
実施例1において、染浴の染料濃度を2%owfとし、3回染色処理した以外は実施例1と同様に実施した。
【0039】
[実施例3]
実施例1において、染浴の染料濃度を1.2%owfとし、5回染色処理した以外は実施例1と同様に実施した。
【0040】
[実施例4]
実施例1において、染浴の染料濃度を0.6%owfとし、10回染色処理した以外は実施例1と同様に実施した。
【0041】
[比較例1]
実施例1において、染浴の染料濃度を6%owfとし、従来の通り1回だけ染色処理した以外は実施例1と同様に実施した。
【0042】
[比較例2]
比較例1において、染浴の染料濃度を12%owfとした以外は実施例1と同様に実施した。
【0043】
[比較例3]
比較例1において、染浴の染料濃度を60%owfとした以外は実施例1と同様に実施した。
【0044】
[比較例4]
比較例1において、染色時間を120分した以外は実施例1と同様に実施した。
【0045】
実施例1〜4及び比較例1〜4により得られた織物における物性の評価結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
Claims (6)
- パラ系アラミド繊維を含む繊維構造物を、使用染料濃度C(%owf)で染色するに際し、染料濃度C/n(%owf)の染浴を用いて、n回染色処理する(nは2以上の整数を表す)ことを特徴とするパラ系アラミド繊維構造物の染色方法。
- 染色温度が120〜140℃である請求項1記載のパラ系アラミド繊維構造物の染色方法。
- 染料がカチオン染料及び/又は分散染料である請求項1又は2記載のパラ系アラミド繊維構造物の染色方法。
- パラ系アラミド繊維が、座屈部(キンクバンド)を有するパラ系アラミド繊維である請求項1〜3のいずれか1項に記載のパラ系アラミド繊維構造物の染色方法。
- 座屈部(キンクバンド)が物理的手段により形成された座屈部(キンクバンド)である請求項4記載のパラ系アラミド繊維構造物の染色方法。
- 物理的手段が押込み式捲縮付与手段である請求項5記載のパラ系アラミド繊維構造物の染色方法。
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