JP3586015B2 - パラ系アラミド繊維紡績糸を含む繊維構造物の染色加工方法 - Google Patents

パラ系アラミド繊維紡績糸を含む繊維構造物の染色加工方法 Download PDF

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Description

【発明の属する技術分野】
本発明は、パラ系アラミド繊維を少なくとも一部に含む繊維構造物を染色加工する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アラミド繊維、特にパラ系アラミド繊維は、高い比強度、比弾性率、優れた耐熱性、耐薬品性などを有するため、産業資材用のロープ、ネット、漁網あるいは防護作業衣などに利用されているが、結晶性が高く、分子間結合力が強固で緻密な分子構造をしているため従来の染色技術で着色することが難しく、下記のような方法が提案されている。
【0003】
例えば、特開昭63−256765号公報あるいは特開平2−41414号公報には、濃硫酸の紡糸溶液中に染料あるいは顔料を分散させて製糸を行い着色糸を得る方法、さらに特開平3−76868号公報には、硫酸溶液に予め浸漬した後に染色促進剤に接触させることによってカチオン染料に染色可能なポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)繊維を得る方法が開示されているが、着色し得る色相の範囲や染色の再現性、耐光堅牢性あるいは物性などの点で、必ずしも充分とはいえない。
【0004】
また、染色されたパラ系アラミド繊維を用いてパラ系アラミド繊維の特徴を生かす用途に展開するには、アラミド繊維のみで布帛を構成した場合に商品の幅に限界があるので、ポリエステル繊維などの汎用繊維と混合して商品を提案されることが少なくない。
しかしながら、ポリエステル繊維とパラ系アラミド繊維の両者を染色する有効な手段は、未だない。特開平5−209372号公報には、分散染料を用いて160℃以上の高温でパラ系アラミド繊維を染色する方法が提案されているが、高温になれば、ポリエステル繊維の物性が低下するので、170℃以上の高温で染色するのは好ましくない。
【0005】
また、パラ系アラミド繊維と他の繊維とを混合し布帛とした後で、ジメチルスルフォキシド処理をすると、次のような問題がある。パラ系アラミド繊維/ポリエステル繊維混織物の場合、織物にした後にジメチルスルフォキシド処理をすると、ポリエステル繊維も膨潤処理を行うことになり、パラ系アラミド繊維以外のジメチルスルフォキシド処理する必要のないポリエステル繊維にもジメチルスルフォキシドが付着し、ジメチルスルフォキシドの使用量が増し薬品コストが高くなるばかりでなく、公害面でも廃液処理のコストアップにつながるという問題が生じる。また、適当な染料と染色条件を選べば、両者とも、同色に染色することはできるが、パラ系アラミド繊維とポリエステル繊維との膨潤処理による収縮性の差が大きく、布帛自身の収縮も目立ち品位良く仕上がらないという問題がある。
【0006】
パラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維よりなる耐熱性布帛があるが(例えば、特願平1−221537号公報)、両者を同色に染色する技術は未だ無く、パラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維混布帛を織物にした後でジメチルスルフォキシドで処理をすると、パラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維の両者をほぼ同色に染色できるようになる。しかしながら、メタ系アラミド繊維がジメチルスルフォキシドで著しく収縮し、強度低下やオリゴマーの付着等、物性、品位面での問題も多く、実用化は難しいのが現状である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、パラ系アラミド繊維と他の繊維とよりなる繊維構造物を多様な色相で染色堅牢性よく染色加工することができ、またパラ系アラミド繊維が縮むことによる布帛の縮みがなく染色できるパラ系アラミド繊維紡績糸を含む繊維構造物の染色加工方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、パラ系アラミド繊維紡績糸を含む繊維構造物を染色するに際し、パラ系アラミド繊維を紡績前に70〜140℃の温度で、5〜60分間、極性溶媒処理し、次いで紡績糸となしたのち、キャリアーを用いることなく染色することを特徴とする、パラ系アラミド繊維紡績糸を含む繊維構造物の染色加工方法である。
ここで、極性溶媒としては、ジメチルスルフォキシドが好ましい。
また、染色温度は、130℃以上200℃以下が好ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明におけるパラ系アラミド繊維とは、デュポン社のケブラーに代表されるPPTA繊維や、3,4′−オキシジフェニレンテレフタルアミドとの共重合体(帝人株式会社製、商標;テクノーラ)などの、パラフェニレン基を主鎖中に組み込んだ芳香族ポリアミド繊維をいう。
【0010】
本発明の染色加工方法の第1工程は、パラ系アラミド繊維を極性溶媒で処理することである。この処理は、パラ系アラミド繊維の紡績前の状態、すなわち繊維がトウまたはスフ綿の状態において行う。
パラ系アラミド繊維を極性溶媒で処理することにより、繊維が膨潤し、繊維中の緻密な分子構造がルーズ化され、染料が繊維内部にまで拡散可能な構造となるため、染料が繊維組織中に浸透し易くなる。また、染色が終われば元の緻密な構造に戻るので、染料が繊維内部に固定化され、洗濯堅牢性も良好となる。
【0011】
本発明に用いられる極性溶媒は、ジメチルスルフォキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、スルフォランなどが挙げられるが、中でもジメチルスルフォキシドが、染色性の向上という点では特に好ましい。ただし、ジメチルスルフォキシドを用いると、処理による収縮が大きく、繊維が絡んだりすることがあるため、ジメチルスルフォキシドと水または他の極性溶媒を混合して用いても構わない。ジメチルスルフォキシドと混合する水または他の極性溶媒の比率は、重量比で50%未満であることが好ましく、特に、15〜35%であることが好ましい。
【0012】
パラ系アラミド繊維構造物を極性溶媒で処理する温度は、70℃〜140℃、好ましくは80℃〜140℃である。処理温度が70℃未満であると、染色の際に染料を繊維内部に充分拡散させることができない。このときの処理時間は、5分〜60分、好ましくは15分〜60分である。5分未満であると、効果が不充分であったり、処理が不均一になる恐れがある。
極性溶媒による処理の後、含まれている溶媒を除去するために、湯洗、水洗あるいは熱処理などを行うのが望ましい。また、これらの処理は、後述する第2工程で繊維構造物となした後にしてもよい。
【0013】
次に、本発明の染色加工方法の第2工程として、極性溶媒による処理が済んだパラ系アラミド繊維を紡績し、さらには必要に応じて織加工、編加工、撚加工(以下これらを総称して「二次加工」という)して、パラ系アラミド繊維構造物を形成する。ここでいう繊維構造物とは、例えば、織物、編物、紡績糸、ロープなどに例示されるような繊維構造物をいう。
【0014】
パラ系アラミド繊維構造物を形成する際には、種々の用途への展開を可能にするために他の繊維を併せて用いることができる。
パラ系アラミド繊維とともに用いられる他の繊維としては、例えばポリエステル繊維やメタ系アラミド繊維などの合成繊維、天然繊維または再生繊維が挙げられるが、中でもポリエステル繊維やメタ系アラミド繊維が好ましい。以下、パラ系アラミド繊維とともに用いる他の繊維を、単に「他の繊維」ということがある。
【0015】
ここでいうポリエステル繊維とは、テレフタル酸を主たるジカルボン酸成分とし、少なくとも1種のグリコール、好ましくは、エチレングリコール、トリメチレングリコールなどから選ばれた少なくとも1種のアルキレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルなどである。
【0016】
メタ系アラミド繊維とは、ポリメタフェニレンイソフタアミド系またはそれを主成分とする共重合体からなる繊維(例えば、帝人株式会社製、商標;コーネックス)である。
他の繊維には、必要に応じて安定剤、酸化防止剤、難炎剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、触媒、着色防止剤、耐熱剤、着色剤、無機粒子などを含有させることができる。
【0017】
パラ系アラミド繊維と他の繊維を併用する場合には、両者を混紡しても、また、両者を別々に紡績したのち二次加工する際に併せてもよく、併用の方法は適宜選択することができる。
【0018】
以上のようなパラ系アラミド繊維造物中、パラ系アラミド繊維は、少なくとも1重量%以上、好ましくは3重量%以上、さらに好ましくは5〜30重量%である。繊維構造物中、パラ系アラミド繊維の割合が1重量%未満であると、本発明の効果が充分に奏されない。
【0019】
本発明の染色加工方法の第3工程として、上記繊維構造物に対して染色を施す。染色に際して用いられる染料は、分散染料、カチオン染料である。
分散染料とは、水に難溶性で、水中に分散した系から疎水性繊維の染色に用いられる染料をいい、ポリエステル繊維やアセテート繊維などの染色に多く用いられるものである。分散染料としては適宜選択することができるが、例えばベンゼンアゾ系(モノアゾ、ジスアゾなど)、複素環アゾ系(チアゾールアゾアゾ、ベンゾチアゾールアゾ、キノリンアゾ、ピリゾンアゾ、イミダゾールアゾ、チオフェンアゾなど)、アントラキノン系、縮合系(キノフタリン、スチリル、クマリンなど)などが挙げられる。
【0020】
カチオン染料とは、水に可溶性で、塩基性を示す基を有する水溶性染料をいい、アクリル繊維、天然繊維あるいはカチオン可染型ポリエステル繊維などの染色に多く用いられているものである。カチオン染料としては適宜選択することができるが、例えばジアクリルメタン系およびトリアクリルメタン系、キノンイミン(アジン、オキサジン、チアジン)系、キサンテン系、メチン系(ポリメチン、アザメチン)、複素環アゾ系(チアゾールアゾ、トリアゾールアゾ、ベンゾチアゾールアゾ)、アントラキノン系が挙げられる。
また、最近は、塩基性基を封鎖することにより分散型にしたカチオン染料もあるが、両者とも用いることができる。
【0021】
染色温度は、130〜200℃で行うことが好ましく、さらに好ましくは140〜170℃で行うとよい。染色温度が130℃未満であると、充分に染色が行えない恐れがある。また、染色温度は、高いほど染着性は高まるが、200℃を超えると、染料の分解やポリエステル繊維の劣化の問題も発生し始める恐れがある。
【0022】
【実施例】
次に、実施例を挙げて本発明を詳しく説明する。以下、特に断らない限りは、比率、%は、重量基準である。
実施例1
3,4′−オキシジフェニレンテレフタルアミドとPPTAとの共重合体よりなるパラ系アラミド繊維(帝人株式会社製、商標;テクノーラ)の短繊維(1.5de,51mmカット、捲縮数=10個/in、強度=28g/de)を用いて行った。
【0023】
該短繊維を80℃に加熱したジメチルスルフォキシド中に浸漬攪拌し、30分間処理した。次いで、100℃の熱湯で30分間湯洗し、よく水洗したのち乾燥した。次いで、ポリエステル繊維の短繊維(1.25de×38mm)とを10/90の割合で混合し、常法により紡績した。この紡績糸を用いてパラ系アラミド繊維/ポリエステル繊維混織物の布帛を形成した。次いで、該布帛をスコアロール400〔花王(株)製〕1g/l、80℃で20分間精練した。
精錬後の布帛を、水洗、乾燥したのち、表1に示した配合の染浴で、常温から2℃/分の速度で昇温しながら、160℃で60分間染色した。このときの布帛と染浴との浴比は1:30とした。
そののち、表1に示した配合の洗浄浴で80℃にて20分間還元洗浄した。次いで、ファイナル・セットを160℃において1分間行った。
【0024】
以上のようにして得られた染色布帛について、以下の方法により、染色性、品位、染色堅牢性の評価を行ったところ、染色性および品位において優れた布帛が得られた。また、この布帛は染色堅牢性もよいものであった。
染色性
染色効果を示す尺度としては、深色度(K/S)を用いた。この値は、試料の特定波長における反射率をRとすると下記式(I)に示すクーベルカムンク(Kubelka−Munk)の式から求められるものである。この値が大きいほど、染色効果が大きいことを示す。
K/S=(1−R)/2R・・・・・(I)
測定は、マクベスカラーアイ(Macbeth COLOR−EYE モデルM−2020PL)を使用して行った。
【0025】
品位
品位の評価は、布帛の外観および風合いにつき、熟練者5人による官能判定を行ない、○(良好)、△(やや不良)、×(不良)の3段階で表した。
染色堅牢性
染色堅牢性の評価は、JIS L 0844−73に示されるA−2法で行った。
これらの結果を表3に示す。
【0026】
【表1】
Figure 0003586015
【0027】
*1;バイエル社製
*2;明成化学株式会社製
*3;非イオン活性剤、第一工業製薬株式会社製
【0028】
比較例1
実施例1と同じパラ系アラミド繊維の短繊維を用い、ジメチルスルフォキシドで処理しないことを除いては、実施例1と同様にポリエステル繊維の短繊維と混紡し布帛を形成し、精練、水洗、乾燥および染色した。この平織物について、染色性、品位、染色堅牢性を評価したところ、パラ系アラミド繊維の部分が染まらず染色性が悪く、また品位も霜降り状態となり悪かった。その結果を表3に示す。
【0029】
実施例2
共重合パラ系アラミド繊維(帝人株式会社製、商標:テクノーラ)の短繊維(1.5de,51mmカット、捲縮数=10個/in、強度=28g/de)を80℃に加熱したジメチルスルフォキシド中に浸漬し、よく攪拌しながら30分間処理した。次いで、100℃の熱湯で30分間湯洗し、よく水洗し乾燥した。次いで、処理したパラ系アラミド繊維をメタ系アラミド繊維(帝人株式会社製、商標;コーネックス)の短繊維(1.5de,51mmカット、捲縮数=11個/in、強度=3.6g/de)と5%と95%の割合になるように、常法で混紡、合撚し、30/2紡績糸とし、次いで製織して平織物とした。実施例1と同様の方法で精練、熱処理し、表2の染浴で常圧から2℃/分の速度で昇温し、160℃で60分間染色した。このとき、染料としてはBasacryl RedGL(BASF製)を使用した。
次いで、実施例1と同様の方法で還元洗浄したのち、ファイナル・セットした。この平織物について、染色性、品位、染色堅牢性を評価したところ、色ムラもなく染色性に優れる上、品位にも優れていることが判った。また、この平織物は、染色堅牢性もよいものであった。その結果を表3に示す。
【0030】
【表2】
Figure 0003586015
【0031】
*4;BASF社製
【0032】
比較例2
実施例2と同じパラ系アラミド繊維の短繊維を用い、ジメチルスルフォキシドによる処理を行わないことを除いては、実施例2と同様にメタ系アラミド繊維の短繊維と混紡し平織物を形成し、精練・水洗・乾燥および染色した。この平織物について、染色性、品位、染色堅牢性を評価したところ、パラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維とでは染まり具合にバラツキがあり、染色性、品位とも悪いことが分かった。その結果を表3に示す。
【0033】
比較例3
共重合パラ系アラミド繊維(帝人株式会社製、商標:テクノーラ)の短繊維(1.5de,51mmカット、捲縮数=10個/in、強度=28g/de)とメタ系アラミド繊維(帝人株式会社製、商標;コーネックス)の短繊維(1.5de,51mmカット、捲縮数=11個/in、強度=3.6g/de)とを通常の方法で混紡合撚し、次いで製織して平織物とした。実施例1と同様の方法で精練、熱処理し、次いで80℃に加熱したジメチルスルフォキシド中に浸漬し、よく攪拌しながら30分間処理した。次いで、100℃の熱水で30分間湯洗し、よく水洗し乾燥した。次いで、実施例2と同様の染浴(表2)で常温から2℃/分の速度で昇温し、160℃で60分間染色した。このとき、染料として、Basacryl Red GL(BASF製)を使用した。
【0034】
次いで、実施例1と同様の方法で還元洗浄、ファイナル・セットした。この織物について、染色性、品位、染色堅牢性を評価したところ、得られた織物は、テクノーラ(パラ系アラミド繊維)/コーネックス(メタ系アラミド繊維)共に、同色染色されてはいるものの、織物の収縮が大きく(ジメチルスルフォキシド処理で、縦−約20%、緯−約18%収縮)、風合いもゴワゴワした、極めて粗硬であり、オリゴマーと思われる白粉が織物表面に付着して、非常に品位の悪いものであった。その結果を表3に示す。
【0035】
【表3】
Figure 0003586015
【0036】
【発明の効果】
本発明によると、パラ系アラミド繊維と他の繊維を併用した繊維構造物であっても、良好かつ均質な染着性の染色加工を施すことができる上、染色堅牢性にも優れ、染色により品位を低下させることがない。また、あらゆる染料を用いる場合に適用できるため、多様な色相の繊維構造物を得ることができる。

Claims (3)

  1. パラ系アラミド繊維紡績糸を含む繊維構造物を染色するに際し、パラ系アラミド繊維を紡績前に70〜140℃の温度で、5〜60分間、極性溶媒処理し、次いで紡績糸となしたのち、キャリアーを用いることなく染色することを特徴とする、パラ系アラミド繊維紡績糸を含む繊維構造物の染色加工方法。
  2. 極性溶媒がジメチルスルフォキシドである請求項1記載のパラ系アラミド繊維紡績糸を含む繊維構造物の染色加工方法。
  3. 染色温度が130℃以上200℃以下である請求項1〜のいずれか1項記載のパラ系アラミド繊維紡績糸を含む繊維構造物の染色加工方法。
    【0001】
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