JP4368607B2 - 潤滑剤、ならびに磁気記録媒体および磁気記録媒体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は高精度な潤滑性が要求される精密機械もしくは精密部品等に使用する潤滑剤、ならびに当該潤滑剤を使用する磁気記録媒体およびその磁気記録媒体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、磁気記録の分野においては、記録・再生機器のデジタル化、小型化および使用時間の長時間化等の高性能化に伴い、それに適した高密度磁気記録媒体の開発が活発に行なわれている。最近では塗布型磁気記録媒体に代わって、短波長記録に極めて有利な金属薄膜型磁気記録媒体が実用化されている。一般に、金属薄膜型磁気記録媒体とは、非磁性支持体上に、記録層として強磁性金属膜から成る磁性層を設けたテープおよびディスク等をいう。また、高密度磁気記録媒体の記録・再生に用いられる磁気記録媒体システムとしては、例えば、デジタルビデオデッキやハードディスクドライブが挙げられる。
【0003】
デジタルビデオテープに代表される金属薄膜型磁気記録媒体においては、磁性層は極めて良好な表面性を有する、すなわち磁性層の面の粗度が小さい。そのため、磁性層と磁気ヘッドとの接触面積が増えるので、磁性層は信号の記録・再生の過程において磁気ヘッドと高速摺動する間に大きな摩擦力を受けて磨耗されやすい。磁性層の磨耗は、磁気記録媒体の走行耐久性あるいはスチル耐久性等に大きな影響を与えるため、これを低減させることは金属薄膜型磁気記録媒体の研究開発において大きな課題となっている。
【0004】
そこで磁性層表面に潤滑剤層を設けることによって磨耗を低減し、走行耐久性およびスチル耐久性を改善しようとする試みがなされている。潤滑剤層を設ける場合、磁気記録媒体と磁気ヘッドとのスペーシングロスによる出力低下を極力抑えて高出力化を図るべく、磁性層表面の潤滑剤層は僅か数nmの厚さで潤滑特性を発揮することが求められている。
【0005】
また、一般的なハードディスクドライブにおいてはCSS(コンタクト・スタート・ストップ)方式が採用されている。CSS方式とは、高密度磁気記録媒体であるハードディスクが停止している状態では磁気ヘッドがディスクに接触し、起動時にハードディスクが高速回転し始めると、これに伴って発生する空気流により磁気ヘッドがディスク表面から浮上し、この状態で記録・再生が行われる方式である。そして、停止時にディスクの回転が減速され、再び磁気ヘッドはハードディスクと接触するようになる。
【0006】
このCSS方式においてはディスクの運転停止時あるいは起動開始時に磁気ヘッドがハードディスク表面を擦って走行するので、そのときに加わる摩擦力が大きな問題となっている。ハードディスクドライブの信頼性を保つにはCSS走行試験後の媒体の摩擦係数が初期と同じであることが望まれる。しかし、表面平坦性が高い、すなわち粗度の小さな磁気ディスクでは、この要求を満たすことは難しい。また、ハードディスクが高速で回転している際に、ヘッドと媒体とが衝突する、いわゆるヘッドクラッシュも解決すべき課題の1つである。そして、ヘッドクラッシュが発生する要因の一つとして、磁気記録媒体が適当な保護膜および潤滑剤層を有していないことが挙げられる。
【0007】
そこで、磁気記録媒体に適した潤滑剤が広く検討されている。その1つとしてフッ素系化合物がある。フッ素系化合物は優れた潤滑特性を示すため、各種フッ素系化合物の使用が提案されている(例えば、特許文献1、2、3および4等参照)。
【0008】
しかしながら、さらなる高記録密度化に伴い、MRヘッドまたはGMRヘッドの搭載ならびにコンタクト記録方式の採用等、新たな技術へ対応していくことを検討する必要がある。そのためには磁気記録媒体に用いる潤滑剤の特性をより向上させる必要がある。
【0009】
【特許文献1】
特開2002−92858号公報
【特許文献2】
特開2002−150530号公報
【特許文献3】
特開2002−241349号公報
【特許文献4】
特公平6−28717号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
磁気記録媒体に用いられる潤滑剤に要求される特性として、低温環境を含む様々な使用環境において優れた潤滑特性を発揮すること、極めて薄く塗布しても良好な潤滑特性が維持されること、磁気記録媒体が長時間使用される場合でも潤滑特性が維持されること、磁気ヘッドへの粉付きが少ないこと、等が要求される。ここで、粉つきとは、磁気記録媒体を記録再生装置で走行させたときに、磁気ヘッドとの接触により潤滑剤が磁気記録媒体から削りとられ、削りとられた潤滑剤の粉が磁気ヘッド表面に蓄積されることをいう。
【0011】
これまでにも、前記要求を満たすように、種々の潤滑剤が提案され、実用に供されてきた。しかしながら、磁気記録媒体の性能向上に伴って、潤滑剤に関する要求水準もより高くなっている。そのため、磁気記録媒体の分野においては、より優れた特性を有する潤滑剤が常に求められている。
【0012】
また、磁気記録媒体がテープ状媒体である場合には、製造中にテープが巻回されると、潤滑剤層の表面がテープの裏面と接触した状態となる。テープの裏面は、磁性層が形成されていない側の表面であり、通常、バックコート層の表面である。潤滑剤層の表面とバックコート層の表面とが接触すると、潤滑剤がバックコート層の表面に移動する。そのため、潤滑剤層からバックコート層に移動する潤滑剤の量を予め求めておき、潤滑剤層を形成することが行なわれる。テープを巻回保存する場合には、潤滑剤の潤滑剤層中の量とバックコート層中の量との割合(比)が略一定に安定せず、潤滑剤層を塗布して巻回した直後(即ち、初期段階)と一定時間保存した後とでは、その割合が大きく異なることもある。換言すれば、保存中に、潤滑剤層に含まれる潤滑剤がより多くバックコート層へ移動することがある。潤滑剤の種類によっては、潤滑剤層からバックコート層への潤滑剤の移動に関して安定状態に達しにくい(即ち、保存試験に付した後に、潤滑剤層に含まれる潤滑剤の量を測定すると、潤滑剤の減少割合が大きい)ものがある。かかる潤滑剤を含む磁気記録媒体は全体としての安定性に劣り、その保存特性は低い。そこで、かかる潤滑剤を使用する場合には、潤滑剤層からバックコート層への潤滑剤の移動に関して安定状態を得るために、潤滑剤を潤滑剤層からバックコート層へ移動させる工程を、磁気記録媒体の製造において要する場合がある。しかし、このような工程を実施することは、磁気記録媒体の製造効率を低下させる一因となる。
【0013】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、様々な使用条件下で優れた潤滑特性を維持するとともに、長時間の使用においても潤滑効果が持続し、且つ粉つきが少ない潤滑剤、ならびに当該潤滑剤を用いた磁気記録媒体およびその製造方法を提供することを課題とする。さらに、本発明は、磁気記録媒体がテープ状であり、巻回された形態にて保存される場合に、潤滑剤層からバックコート層への潤滑剤の移動に関して、潤滑剤層の形成直後、即ち初期から、安定状態が得られる潤滑剤を提供することを課題とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
第一の要旨において、本発明は特定の組成を有する潤滑剤を提供する。かかる潤滑剤は、一般式(a)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物、ならびに下記一般式(b)で示されるフッ素系モノエステルモノカルボン酸化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む。
【化3】
(式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ水素、脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、R1およびR2のいずれか一方が水素であり、R3およびR4のいずれか一方が水素であり、mは1から6の整数であり、nは1から5の整数であり、p、qは0から30の整数であり、rは1〜12の整数である。)
【化4】
(式中、R5は脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、R6はフルオロアルキル基、フルオロアルケニル基、フルオロエーテル基もしくはフルオロポリエーテル基を示し、aは0または1であり、bは1〜20の整数である。)
【0015】
本発明の潤滑剤は、フッ素系ジエステルジカルボン酸とフッ素系モノエステルモノカルボン酸とを有する。これら2つの化合物を混合することで、優れた潤滑特性を得ることができる。したがって、本発明の潤滑剤が磁気記録媒体の潤滑剤層に含まれる場合、その磁気記録媒体は優れた潤滑特性を示す。
【0016】
第二の要旨において、本発明は、非磁性支持体の上に磁性層として形成された強磁性金属膜、磁性層の上に形成された保護膜および保護膜の上に形成された潤滑剤層を有する磁気記録媒体であって、潤滑剤層が、上記一般式(a)で示される少なくとも1種類の化合物と、上記一般式(b)で示される少なくとも1種類の化合物とを含む潤滑剤を含む磁気記録媒体を提供する。
【0017】
第三の要旨において、本発明は、上記本発明の磁気記録媒体の製造方法を提供する。本発明の磁気記録媒体の製造方法は、その潤滑剤層の形成工程に特徴を有し、それ以外の工程は従来の磁気記録媒体の製造方法で用いられている工程であってよい。本発明の製造方法における潤滑剤層の形成工程は、炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合有機溶媒に、潤滑剤層を構成する化合物(即ち、潤滑剤)を溶解して調製した塗布液を保護膜上に塗布する工程を含むことを特徴とする。炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒とを組み合わせた混合溶媒を使用することにより、塗布ムラが極めて少ない均一な薄い潤滑剤層が形成され得る。したがって、本発明の磁気記録媒体の製造方法によれば、優れた潤滑性能を有する実用信頼性の高い磁気記録媒体を得ることが可能である。
【0018】
【発明の実施の形態】
次に本発明の実施の形態について説明する。
本発明の潤滑剤は上記一般式(a)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物、ならびに上記一般式(b)で示されるフッ素系モノエステルモノカルボン酸化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む。本発明の潤滑剤は、これらの特定の化合物に加え、必要に応じて他の既知の潤滑剤および防錆剤等を含んでもよい。
【0019】
一般式(a)で示される化合物は、同一分子内に2個のカルボキシル基と、2個のエステル結合と、1個のアルキル基またはアルケニル基からなる末端基と、1個のフルオロエーテルもしくはフルオロポリエーテル鎖を有する。
【0020】
【化5】
一般式(a)において、R1、R2、R3、R4はそれぞれ水素、脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、R1およびR2の組合せにおいて、R1およびR2の少なくとも一方が水素であり、R3およびR4の組合せにおいて、R3およびR4の少なくとも一方が水素である。したがって、一般式(a)で示される化合物には、▲1▼R1が水素であってR2が脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基であり、R3が脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基であってR4が水素である化合物、▲2▼R1が脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基であってR2が水素であり、R3が水素であってR4が脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基である化合物、▲3▼R1が脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基であってR2が水素であり、R3が脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基であってR4が水素である化合物、および▲4▼R1が水素であってR2が脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基であり、R3が水素であってR4が脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基である化合物、ならびに▲5▼R1〜R4がすべて水素である化合物が含まれる。
【0021】
脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基の炭素数は、好ましくは1〜22であり、より好ましくは8〜18である。
【0022】
一般式(a)において、mは1から6の整数であり、nは1から5の整数であり、pおよびqはそれぞれ0から30の整数である。mはより好ましくは、2〜5の整数である。nはより好ましくは1〜4の整数である。(m、n)の好ましい組合せは(2,1)または(1,2)である。pはより好ましくは2〜6の整数であり、qはより好ましくは2〜6の整数である。rは1〜12の整数である。
【0023】
一般式(a)において−(OCmF2m)p(OCnF2n)q−で示される部分が1種のオキシフルオロアルキレンのみから成る場合、一般式(a)においてq=0であるとし、一般式(a)で示される化合物は(OCmF2m)のみを含むものとする。この場合、mは、好ましくは2である。
【0024】
pおよびqがともに0である場合、一般式(a)で示される化合物は、1つのエーテル結合を含むから、いわゆるフルオロエーテルを含む。p≠0かつq=0である場合、あるいはpおよびqがともに1以上の整数である場合、一般式(a)で示される化合物においてエーテル結合の数は2以上となり、当該化合物はフルオロポリエーテル鎖を含むこととなる。
【0025】
一般式(a)において−(OCmF2m)p(OCnF2n)q−で示される部分は、2種のオキシフルオロアルキレン単位が共重合している部分に相当する。pおよびqは共重合体中の各オキシフルオロアルキレン単位の数を示す。オキシフルオロアルキレン単位(OCmF2m)とオキシフルオロアルキレン単位(OCnF2n)とから成る共重合体は、p個の(OCmF2m)のブロックとq個の(OCnF2n)のブロックとから成るブロック共重合体もしくは他のブロック共重合体、ランダム共重合体、または交互共重合体であってよい。したがって、一般式(a)は、−(OCmF2m)p(OCnF2n)q−で示される部分がブロック共重合体、ランダム共重合体および交互共重合体であるものを含む。
【0026】
一般式(a)で示される化合物は、アルキル無水コハク酸、アルケニル無水コハク酸または無水コハク酸と、フロロアルキレンオキサイド基を有するフロロアルキルジアルコールとを混合加熱撹拌することによって製造される。フロロアルキレンオキサイド基を有するフロロアルキルジアルコールは、具体的には、HO(CH2)rCF2(OCmF2m)p(OCnF2n)qOCF2(CH2)rOHで表される。一般式(a)で示される化合物の具体的な合成方法は、例えば特許文献3に記載されている。
【0027】
一般式(b)で示される化合物は、同一分子内に1個のカルボキシル基と、1個のエステル結合と、1個のアルキル基またはアルケニル基からなる末端基と、1個のフルオロアルキル基、フルオロアルケニル基、フルオロエーテル基もしくはフルオロポリエーテル基からなる末端基を有する。
【化6】
【0028】
一般式(b)において、R5はアルキル基またはアルケニル基である。R5の炭素数は6〜30であることが好ましく、10〜24であることがより好ましい。炭素数が6未満である場合、または炭素数が30を超える場合、当該化合物が呈する潤滑性能が低下することがある。
【0029】
一般式(b)において、R6はフルオロアルキル基、フルオロアルケニル基、フルオロエーテル基もしくはフルオロポリエーテル基である。R6がフルオロアルキル基もしくはフルオロアルケニル基である場合、その炭素数は1〜12であることが好ましく、6〜10であることがより好ましい。フルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基は、パーフルオロアルキル基またはパーフルオロアルケニル基であることが好ましい。
【0030】
R6がフルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基である場合、R6はフッ素化された環式炭化水素基を有していてよい。R6がフッ素化された環式炭化水素基を有するフルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基である化合物を含む潤滑剤を用いて磁気記録媒体の潤滑剤層を構成すると、粉つきをより低減させることができる。
【0031】
フッ素化された環式炭化水素基は、一部または全部の水素がフッ素で置換された芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基、および縮合多環式炭化水素基から選択される置換基である。R6は好ましくは脂環式炭化水素基を有し、より好ましくは脂環式飽和炭化水素基(即ち、シクロアルキル基)を有する。フッ素化された環式炭化水素基は、全部の水素がフッ素で置換されていることが好ましい。環式炭化水素基は、フルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基の水素またはフッ素と置換する。環式炭化水素基は、フルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基のいずれの炭素に結合していてもよく、例えば、側鎖基として結合していてよい。環式炭化水素基は、フルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基の末端の炭素に結合していることが好ましい。フッ素化された環式炭化水素基の炭素数は、好ましくは4〜8である。
【0032】
R6がフルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基である場合、その分子量は約200〜約6000であることが好ましく、約300〜約4000であることがより好ましい。分子量が200未満である場合または6000を超える場合には、磁気記録媒体の潤滑性及び信頼性が低下する場合がある。また、フルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基は、パーフルオロエーテル基またはパーフルオロポリエーテル基であることが好ましい。
【0033】
一般式(b)において、aは0または1である。bは0から20の整数であり、好ましくは0から12の整数である。
【0034】
R6がフルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基である場合、R6は下記一般式(c)、(d)及び(e)のいずれかで示されるものであることが好ましい。
【0035】
一般式(c):
【化7】
において、jは1以上の整数であり、好ましくは1〜8の整数である。
【0036】
一般式(d):
【化8】
において、hおよびiは1以上の整数である。hおよびiはそれぞれ、1〜30であることが好ましく、1〜8であることがより好ましい。
【0037】
一般式(d)において−(OCF(CF3)CF2)h(OCF2)i−で示される部分は、2種のオキシフルオロアルキレン単位が共重合している部分に相当し、hおよびiは共重合体中の各オキシフルオロアルキレン単位の数を示す。オキシフルオロアルキレン単位(OCF(CF3)CF2)とオキシフルオロアルキレン単位(OCF2)から成る共重合体は、h個の(OCF(CF3)CF2)のブロックとi個の(OCF2)のブロックとから成るブロック共重合体もしくは他のブロック共重合体、ランダム共重合体、または交互共重合体であってよい。したがって、一般式(d)で示される基は、−(OCF(CF3)CF2)h(OCF2)i−で示される部分がブロック共重合体、ランダム共重合体および交互共重合体であるものを含む。
【0038】
一般式(e):
【化9】
において、R7はフルオロアルキル基を示し、yは1から6の整数であり、zは1から30の整数である。R7は、好ましくはパーフルオロアルキル基である。R7の炭素数は好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜8である。zは、より好ましくは1〜8の整数である。
【0039】
一般式(c)、(d)および(e)におけるj、hおよびiならびにyおよびzが上記の範囲外である場合、磁気記録媒体の潤滑性および保存信頼性が低下することがある。
【0040】
一般式(b)で示される化合物は、例えば特許文献4に記載されている合成法で合成できる。
【0041】
本発明の潤滑剤において、一般式(a)で示される化合物と、一般式(b)で示される化合物との混合比は、好ましくは重量比で1:9〜9:1の範囲内にあり、より好ましくは2:8〜8:2の範囲内にあり、さらに好ましくは3:7〜7:3の範囲内にある。
【0042】
本発明の潤滑剤は、一般式(a)で示される化合物と、一般式(b)で示される化合物のみで構成されてもよい。あるいは、本発明の潤滑剤は、これらの化合物以外に他の潤滑剤、防錆剤および極圧剤等が適宜含まれて成る組成物であってもよい。その場合、潤滑剤組成物において、一般式(a)で示される化合物と一般式(b)で示される化合物とを合わせた割合は、組成物の全量に対して30重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましい。一般式(a)で示される化合物と一般式(b)で示される化合物とを合わせた割合が30重量%未満であると、例えばこの組成物で磁気記録媒体の潤滑剤層を形成した場合、良好な潤滑特性を磁気記録媒体に付与することができない場合がある。
【0043】
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体の上に磁性層として形成された強磁性金属膜、磁性層の上に形成された保護膜および保護膜の上に形成された潤滑剤層を有する磁気記録媒体であって、潤滑剤層が本発明の潤滑剤を含むものである。潤滑剤層中に含まれる本発明の潤滑剤の量は、潤滑剤層の表面1m2当たり0.05〜100mgであることが好ましく、0.1〜50mgであることがより好ましい。潤滑剤層にこのような少量の潤滑剤を均一に存在させるために、本発明の磁気記録媒体の潤滑剤層は次の方法で形成することが望ましい。
【0044】
潤滑剤層は、常套の材料および手段を用いて非磁性支持体の上に強磁性金属膜および保護膜をこの順に形成した後、保護膜上に形成する。潤滑剤層の形成工程は、炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合溶媒に本発明の潤滑剤を溶解して調製した塗布液を保護膜上に塗布する工程、ならびに塗布した塗布液を乾燥して混合溶媒を蒸発させる工程を含む。最終的に混合溶媒が蒸発することにより、保護膜上には溶媒に溶解した潤滑剤が残って潤滑剤層を形成する。従って、塗布液を厚く塗布しても、溶媒が蒸発することにより、保護膜上には均一で非常に薄い潤滑剤層、すなわち少量の潤滑剤が保護膜を均一に被覆した潤滑剤層が形成される。
【0045】
本発明で使用できる炭化水素系溶媒は、例えば、トルエン、ヘキサン、へプタン、オクタン、ノナン、キシレンおよびケトン等である。本発明で使用できるアルコール系溶媒は、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコールおよびブチルアルコール等の低級アルコールである。混合有機溶媒は、具体的には、トルエンとイソプロピルアルコールの混合溶媒、ヘキサンとイソプロピルアルコールの混合溶媒、またはヘプタンとイソプロピルアルコールの混合溶媒であることが好ましい。アルコール系溶媒の割合が大きすぎると塗布ムラが生じやすく、一方、炭化水素系溶媒の割合が大きすぎるとコスト面で不利であるため、両者は、混合割合が重量比で1:9〜9:1の範囲、好ましくは3:7〜7:3の範囲となるように混合して使用することが好ましい。
【0046】
塗布液の濃度および塗布厚は、溶媒が蒸発した後に保護膜上に形成される潤滑剤層が所望の厚さになるように塗布する。一般には、潤滑剤の濃度が100〜10000ppmである塗布液を、10〜100μmの厚さとなるように塗布することが好ましい。
【0047】
上記混合溶媒を用いて潤滑剤層を形成する方法としては、バーコーティング法、グラビアコーティング法、リバースロールコーティング法、ダイコーティング法、ディップコーティング法およびスピンコーティング法等の湿式塗布法または有機蒸着法があり、いずれの方法を採用してもよい。
【0048】
塗布液を塗布した後、乾燥処理して有機溶媒を蒸発させると、保護膜上に潤滑剤層が形成される。乾燥処理は、加熱あるいは自然乾燥によって実施することができる。そして、最終的に得られる潤滑剤層の厚さは3〜5nm程度とすることが好ましい。ただし、潤滑剤の組成に応じて潤滑剤層の厚さの最適範囲が存在するため、潤滑剤層の厚さは必ずしもこの範囲に限定されるものではない。
【0049】
このように、所定の混合有機溶媒を用いることにより、塗布ムラのない均一な厚さの潤滑剤層が得られ、しかも溶媒が最終的に蒸発した後には数nmという非常に薄い潤滑剤層を形成することができる。その結果、優れた潤滑性能を有する実用信頼性の高い磁気記録媒体が得られる。
【0050】
先に述べたとおり、本発明の磁気記録媒体は、潤滑剤層以外の層に関しては、常套の材料および手段を採用して形成することができる。
【0051】
例えば、非磁性支持体は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、芳香族ポリアミド、もしくは芳香族ポリイミドからなるフイルム;ポリ塩化ビニルもしくはポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂からなるフィルム;ポリカーボネート、ガラス、セラミック、アルミニウムもしくは銅等の金属、アルミニウム合金もしくはチタン合金等の軽金属、または単結晶シリコン等から成る基板;あるいは紙であってよい。非磁性支持体としてアルミニウム合金から成る基板またはガラス基板等の剛性の大きい基板を使用する場合には、アルマイト処理等により基板表面に酸化被膜やNi−P被膜等を形成してその表面を硬くしてもよい。
【0052】
非磁性支持体の強磁性金属膜が形成される表面(即ち、磁性層と接する側の面)には、実用信頼性と良好なRF出力値とを両立するために、直径20〜700nm、高さ5〜70nmの突起形成処理が施されていることが望ましい。突起は、具体的には、例えば、SiO2またはZnO等の無機物質から成る超微粒子、あるいはイミド等の有機物質から成る超微粒子を非磁性支持体の表面に分散し固着させることにより形成される。あるいは、突起はそのような微粒子を含む高分子材料をフィルムに成形することにより形成される。
【0053】
本発明の磁気記録媒体において、磁性層は強磁性金属膜である。磁性層に適した強磁性金属としては、Fe系金属、Co系金属、およびNi系金属がある。本発明においてはCo系金属で磁性層を形成することが特に好ましい。ここで、「Co系金属」とは、コバルト、およびコバルトを主成分として好ましくは50原子%以上含む合金をいう。「Fe系金属」および「Ni系金属」も同様である。
【0054】
強磁性金属膜は、具体的には、Fe、CoおよびNi、ならびにCo−Ni、Co−Fe、Co−Cr、Co−Cu、Co−Pt、Co−Pd、Co−Sn、Co−Au、Fe−Cr、Fe−Co−Ni、Fe−Cu、Ni−Cr、Fe−Co−Cr、Co−Ni−Cr、Co−Pt−CrおよびFe−Co−Ni−Cr等の合金から選択される1または複数の材料で形成される。強磁性金属膜は酸素を含んでいてよく、酸素はこれらの金属または合金の酸化物の形態で含まれていてよい。強磁性金属膜は、単層膜の形態であってもよく、あるいは多層膜の形態であってもよい。
【0055】
強磁性金属膜はイオンプレーティング法、スパッタリング法または電子ビーム蒸着法等で形成することができる。強磁性金属膜を酸素雰囲気下で形成すれば、強磁性金属膜に酸素が含まれることとなる。強磁性金属膜の厚さは一般に30nm〜300nmである。
【0056】
保護膜は、好ましくは炭素膜である。炭素膜は、ビッカース硬度が約2.45×104N/mm2(約2500kg/mm2)と高く、磁気記録媒体のダメージを潤滑剤層と共に防止する。実用信頼性と出力とのバランスを考慮すれば、その厚さは1〜20nmであることが好ましい。
【0057】
炭素膜は、炭化水素ガスのみ、もしくは炭化水素ガスと不活性ガスとの混合ガスを用いたプラズマCVD法により形成されるグラファイト状カーボンまたはダイヤモンドライクカーボンであることが好ましい。ダイヤモンドライクカーボンは適度な硬度を有し、磁気ヘッドを損傷することなく磁気記録媒体の損傷を抑制し得ることから、最も好ましい材料である。
【0058】
炭素膜は、具体的には、真空容器中に炭化水素ガスまたは炭化水素ガスとアルゴン等の不活性ガスの混合ガスを導入し、容器内の圧力を0.13〜130Paに保った状態で真空容器内部で放電を発生させ、炭化水素ガスのプラズマを発生させることにより、強磁性金属膜上に形成する。放電形式は外部電極方式および内部電極方式のいずれでもよく、放電周波数は実験的に決めることができる。また、非磁性支持体側に配置される電極に0kVから−3kVの電圧を印加することによって、炭素膜の硬度を増大させることができ、また、炭素膜と強磁性金属膜との密着性を向上させることができる。炭化水素ガスとしては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンまたはベンゼン等を用いることができる。
【0059】
なお、硬質の炭素膜を形成するためには、放電エネルギーを大きくすることが望ましく、併せて非磁性支持体の温度を高温に維持することが望ましい。例えば、放電エネルギーは、交流電流、例えば高周波電流と直流電流を重畳して実効値を600V以上にすることが望ましい。
【0060】
本発明においては、炭素膜の表層部に含窒素プラズマ重合膜を形成し、潤滑剤層が炭素膜の含窒素プラズマ重合膜上に形成されていることが好ましい。含窒素プラズマ重合により炭素膜の表層部にアミノ基が存在することとなり、その結果、潤滑剤層と炭素膜との間の付着強度がより大きくなり、磁気記録媒体の耐久性がより向上することとなる。そして、潤滑剤層に特定の含フッ素化合物等を含有させることと相俟って、電磁変換特性が損なわれることなく優れた潤滑性能を示すとともに、走行耐久性およびスチル耐久性が向上し、かつ粉つきの少ない実用信頼性の高い磁気記録媒体が得られる。
【0061】
含窒素プラズマ重合膜は、真空容器中にプロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミンもしくはテトラメチレンジアミン等のアミン化合物をガス化して導入し、容器内の圧力を0.13〜130Paに保った状態で、真空容器内部に高周波放電を生じさせて形成する。含窒素プラズマ重合膜を形成することにより上記特定の含フッ素化合物を含む潤滑剤の化学吸着力が向上し、その結果、潤滑剤層と炭素膜との間の付着強度が向上する。含窒素プラズマ重合膜の膜厚は3nm未満が適当であり、これよりも含窒素プラズマ重合膜が厚い場合には炭素膜の保護効果が低下する。なお、炭素膜の表層部に含窒素プラズマ重合膜を形成する方法は、米国特許第5540957号および第5637393号に開示されており、この引用によりこれらの特許に開示された内容は本明細書の一部を構成する。
【0062】
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層が形成された面とは反対の面にバックコート層を有してよい。バックコート層は、ポリウレタン、ニトロセルロース、ポリエステル、カーボンおよび炭酸カルシウム等から選ばれる1つもしくは複数の材料により形成される層であってよく、あるいは、金属、金属酸化物または合金から成る薄膜であってよい。バックコート層の厚さは約50〜500nmとすることが好ましい。
【0063】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
実施例1において、本発明の磁気記録媒体および磁気記録媒体の製造方法の実施例を説明する。
【0065】
非磁性支持体として、表面に粒状突起を有するポリエステルフィルムを用意した。具体的には、▲1▼シリカ微粒子を含む高分子材料をフィルムに成形することにより形成された勾配のゆるやかな突起(平均高さ7nm、直径1μm)を100μm2当たり数個有し、かつ▲2▼直径15nmのシリカコロイド粒子が紫外線硬化エポキシ樹脂でポリエステルフィルム表面に固着されて形成された急峻な突起を1mm2当り1×107個有するポリエステルフィルムを使用した。本実施例で使用したポリエステルフィルムは、重合触媒の残さに由来する微粒子によってフィルム表面に形成される比較的大きな突起の数が極めて少ないものであった。
【0066】
ポリエステルフィルムの粒状突起が形成された面に、連続真空斜め蒸着法によりCoから成る強磁性金属膜(膜厚100nm)を微量の酸素の存在下で形成した。強磁性金属膜中の酸素含有量は原子分率で5%であった。
【0067】
次に、強磁性金属膜の上に、プラズマCVD法によってダイヤモンドライクカーボンから成る厚さ5nmの保護膜を形成した。保護膜は、真空容器中にヘキサンガスとアルゴンガスとを4:1の比(圧力比)で混合したガスを導入し、トータルガス圧を39Paに保ちながら、周波数20kHz、電圧1500Vの交流と1000Vの直流を重畳し、これを放電管内の電極に印加することにより形成した。さらに、炭素膜上にプロピルアミンガスを導入し、6.5Paの圧力を保った状態で10kHzの高周波プラズマ処理を行ない、炭素膜の表層部に厚さ2.5nmの含窒素プラズマ重合膜を形成した。
【0068】
続いて、化学式(a1)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と、化学式(b1)で示されるフッ素系モノエステルモノカルボン酸化合物とを1:1(重量比)の割合で混合して潤滑剤を調製した。この潤滑剤をイソプロピルアルコールとトルエンとの混合有機溶媒(重量比1:1)に溶解して塗布液を調製した。
【0069】
【化10】
【0070】
【化11】
【0071】
調製した塗布液をリバースロールコータを用いて保護膜上に湿式塗布法で塗布した後、乾燥処理して溶媒を蒸発させた。最終的に保護膜上には、潤滑剤を表面1m2あたり7mg含有する潤滑剤層が形成された。
【0072】
次いで、非磁性支持体の磁性層が形成された面とは反対側の面(即ち、裏面)に、ポリウレタン、ニトロセルロースおよびカーボンブラックより構成された固形分20%のメチルエチルケトン/トルエン/シクロヘキサノン溶液をリバースロールコータにより塗布して、乾燥後の厚さが約500nmのバックコート層を形成した。その後、これを所定幅に裁断して磁気テープを作製した。
【0073】
(実施例2)
化学式(a1)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と、化学式(b1)で示されるフッ素系モノエステルモノカルボン酸化合物とを7:3(重量比)の割合で混合して潤滑剤を調製した。この潤滑剤を使用して、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0074】
(実施例3)
化学式(a2)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と、化学式(b2)で示されるフッ素系モノエステルモノカルボン酸化合物とを4:6(重量比)の割合で混合して潤滑剤を調製した。この潤滑剤を使用して、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0075】
【化12】
【0076】
【化13】
【0077】
(実施例4)
化学式(a3)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と、上記化学式(b2)で示されるフッ素系モノエステルモノカルボン酸化合物とを1:1(重量比)の割合で混合して潤滑剤を調製した。この潤滑剤を使用して、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0078】
【化14】
【0079】
(実施例5)
上記化学式(a3)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と、化学式(b3)で示されるフッ素系モノエステルモノカルボン酸化合物とを1:1(重量比)の割合で混合して潤滑剤を調製した。この潤滑剤を使用して、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0080】
【化15】
【0081】
(比較例1)
化学式(a1)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物のみを潤滑剤として使用して、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0082】
(比較例2)
化学式(b1)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物のみを潤滑剤として使用して、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0083】
(比較例3)
公知の潤滑剤である化学式(x1)で示される化合物を使用して、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0084】
【化16】
【0085】
(比較例4)
公知の潤滑剤である化学式(x2)で示される化合物を使用して、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0086】
【化17】
【0087】
(比較例5)
公知の潤滑剤である化学式(x3)で示される化合物を使用して、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
【0088】
【化18】
【0089】
実施例1〜5および比較例1〜5で得られた磁気テープ試料について、それぞれ下記の評価を行った。
(I)走行性試験
各試料を、巻き付け角90°でステンレスのガイドピンに巻き付け、テンション0.2Nの条件で試料を18mm/秒の速度で巻き出し、同じ速度で巻き取り、巻き取り側においてテンションを測定した。巻き取り側のテンションと巻き出し側のテンションとの比からオイラーの式より動摩擦係数を計算して求めた。ここでは、巻き出しおよび巻取りの1セットで1パスとして、100パス目および1000パス目における摩擦係数を計算した。走行性試験は、23℃、60%RHの環境下で実施した。
【0090】
(II)スチル寿命試験
スチル寿命は、スチル寿命測定用に改造した市販デジタルVTR(松下電器産業(株)製、商品名NV−DJ1)を用い、3℃、5%RHの環境下で測定した。スチル寿命は初期から出力が6dB低下するまでの時間(分)で示す。
【0091】
(III)耐久性試験
耐久性は、ヘッド目詰まりおよび粉つきで評価した。RF(高周波)出力測定用に改造した市販デジタルVTR(松下電器産業(株)製、NV−DJ1)を用い、各試料を23℃、60%RHの環境下で100パス、133時間繰り返し再生を行い、再生中のRF出力からヘッド目詰まりを測定した。この繰り返し再生中、RF出力が6dB以上低下したときにヘッド目詰まりが発生したものとし、そのような低下が測定された時間を合計した時間をヘッド目詰まりとした。また、繰り返し再生後の磁気ヘッドを光学顕微鏡を用いて観察し、磁気ヘッドに付着している粉つきを観察した。粉つきは5段階で評価し粉つきがほとんど見られないレベルを5、粉つきがヘッド面積に対し30%以下であり出力に影響しないレベルを4、粉つきがヘッド面積に対し50%以下であり出力に影響しないレベルを3、粉つきがヘッド面積に対し50%以下であり出力に影響するレベルを2、粉つきがヘッド面積に対し50%以上であるレベルを1とした。
【0092】
(IV)保存試験
保存特性は、各試料を巻回して所定時間保存している間に、潤滑剤層中の潤滑剤のテープ裏面への移動、および分解等により減少した量に基づいて評価した。具体的な評価方法は次の通りである。まず、各試料をデジタルVTR用カセットリールに巻き取り、60℃、90%RHの環境下で10日間放置した。各試料の保存前(即ち、放置前)と保存後(即ち、放置後)の試料表面のフッ素量をESCA(株式会社島津製作所製 AXIS−HSX)で測定し、保存前のフッ素量に対する保存後のフッ素量の割合を求めた。
各試験の評価結果を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
表1から明らかなように、本発明の潤滑剤で潤滑剤層を形成した実施例1〜5の磁気テープ試料は、常温常湿で繰り返し走行させたときの摩擦係数の上昇が少なく、低温低湿の環境下においてスチル寿命が長く、ヘッド目詰まり時間が短かった。さらに、実施例1〜5の試料のいずれにおいても、保存後に残存する潤滑剤の量は多かった。これらの結果より、本発明の潤滑剤を使用すれば、良好な走行性、耐久性および保存特性を有する磁気記録媒体が得られることが判った。これに対し、比較例1〜5の試料は、走行性、耐久性および保存特性のうち、少なくとも1つが実施例のものより劣っていた。また、表1によれば、一般式(a)で示される化合物を用いた試料(比較例1)は、走行性の点では劣るが、優れた保存特性(即ち、潤滑剤層からバックコート層への潤滑剤の移動に関する安定性が初期から高いこと)を示し、一般式(b)で示される化合物を用いた試料(比較例2)は、走行性の点では優れているが、保存特性において劣ることが判る。実施例1の試料は、一般式(b)で示される化合物を含むにもかかわらず、その保存特性は、一般式(a)で示される化合物のみを含む比較例1とほぼ同等である。即ち、実施例1の保存特性の数値は、比較例1と比較例2の平均値よりも大きい。このことは、一般式(b)で示される化合物と一般式(a)で示される化合物とが組み合わされることによって、一般式(b)で示される化合物の望ましくない特性が予期しないほど有効に抑制されることを示している。
【0095】
【発明の効果】
本発明の潤滑剤は、上記一般式(a)および(b)で示される特定の2種類の含フッ素化合物を含む。この潤滑剤は、各化合物に由来する特性が発揮されるとともに、単なる組合せの結果として得られる特性以上の特性を有する。したがって、本発明の潤滑剤は、様々な機械、装置もしくは部品の潤滑剤として有用なものであり、特に磁気記録媒体の潤滑剤として有用である。
【0096】
本発明の潤滑剤を、非磁性支持体上に強磁性金属膜、保護膜および潤滑剤層がこの順に設けられて成る磁気記録媒体の潤滑剤層に用いることで、様々な使用条件下で優れた潤滑性を維持し、長時間使用された場合でも潤滑剤による潤滑効果が持続され、且つ粉つきが少ない磁気記録媒体、即ち、優れた走行性および耐久性を有する磁気記録媒体が得られる。また、本発明の潤滑剤を使用すれば、磁気記録媒体がテープ状媒体であって巻回された状態で保存される場合に、保存中に潤滑剤層からバックコート層へ移動する潤滑剤の量が少なく、巻回後比較的早い段階(即ち、初期)から安定状態を得ることができ、保存特性が優れた磁気記録媒体が得られる。これらの特性を有する本発明の磁気記録媒体は、特にデジタルビデオテープレコーダやHDDで用いるのに適している。
Claims (8)
- 下記一般式(a)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物、ならびに下記一般式(b)で示されるフッ素系モノエステルモノカルボン酸化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む、テープ状の磁気記録媒体用の潤滑剤。
- 上記一般式(a)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物と上記一般式(b)で示されるフッ素系モノエステルモノカルボン酸化合物との混合割合が重量比で1:9〜9:1の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の潤滑剤。
- 非磁性支持体の上に磁性層として形成された強磁性金属膜、磁性層の上に形成された保護膜および保護膜の上に形成された潤滑剤層を有する磁気記録媒体であって、潤滑剤層が請求項1または2に記載の潤滑剤を少なくとも1種含むテープ状の磁気記録媒体。
- 保護膜がダイヤモンドライクカーボンである請求項3に記載のテープ状の磁気記録媒体。
- 保護膜が表層部に含窒素プラズマ重合膜を有する炭素膜であり、潤滑剤層が炭素膜の含窒素プラズマ重合膜上に形成されていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載のテープ状の磁気記録媒体。
- 請求項3〜5のいずれか1項に記載のテープ状の磁気記録媒体の製造方法であって、保護膜の上に潤滑剤層を形成する工程が、炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合有機溶媒に潤滑剤を溶解して調製した塗布液を保護膜の上に塗布する工程を含むことを特徴とするテープ状の磁気記録媒体の製造方法。
- 炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合割合が重量比で1:9〜9:1の範囲内にあることを特徴とする請求項6に記載のテープ状の磁気記録媒体の製造方法。
- 非磁性支持体の上に磁性層として形成された強磁性金属膜、磁性層の上に形成された保護膜および保護膜の上に形成された潤滑剤層、非磁性支持体の磁性層が形成された面とは反対の面に形成されたバックコートを有する、テープ状の磁気記録媒体において、巻回された状態で保存している間の潤滑剤層からバックコート層への潤滑剤の移動に関して保存特性を向上させる方法であって、
潤滑剤層を、下記一般式(a)で示されるフッ素系ジエステルジカルボン酸化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物、ならびに下記一般式(b)で示されるフッ素系モノエステルモノカルボン酸化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む潤滑剤で形成すること
を含む、磁気記録媒体の保存特性の向上方法。
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