JP4366684B2 - 食品添加用吸卵性改善油脂組成物およびその用途 - Google Patents

Description

本発明は、吸卵性改善油脂組成物及びそれを用いて製造されるパン・菓子に関する。更に詳しくは、本発明は、油脂の吸卵性改善効果のあるポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルを含有させることで、吸卵量が増加し、吸卵速度を向上させた吸卵性改善油脂組成物、及びその油脂組成物を用いて製造されるパン、菓子類に関する。

小麦粉、油、卵等々を使用するケーキ、ビスケット類は、近年、高級嗜好特においしさの面で多様化が進んでいる。その高級嗜好を満足させるための一方法として卵の配合割合が増加する傾向にある。バターケーキなどを作る際に重要なことは、生地を作る過程で卵が分離せずに均一な状態に分散していることである。卵が分離してしまうと焼成後のボリュームや食感に悪影響を与えることになる。また、通常のマーガリンやショートニングでは卵の分散力が不充分なため、バターケーキを作る際に卵は一度に添加せず、３〜４回に分けて行うのが常識となっている。そのため、卵の配合割合が増加すると添加に長時間を要してしまい、製造工程の短縮化や大量生産を妨げている。
小麦粉、油等の混合系中に卵を一様に均一分散させる機能は、主として油脂にあると言われ、これまで乳化剤を用いた種々の検討がなされてきた。例えば、ショ糖高級脂肪酸エステルの低級脂肪酸エステル化物を油脂に含有する方法（特開昭59-25645号公報、特許文献１）、プロピレングリコールのモノ脂肪酸エステルを含有する方法（特開昭59-48048号公報、特許文献２）、主構成脂肪酸がエルカ酸からなるポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する方法（特開平15-13086号公報、特許文献３）、炭素数１２〜２２の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸よりなるポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する方法（特開平15-49191号公報、特許文献４）などが開示されている。しかし、前記の公開された技術のいずれの方法も卵の添加量、もしくは卵の添加速度のどちらか一方を向上させたものしかなく、その向上効果も不充分であり、その両方を満たす方法が望まれているにも関わらず、現状では有効な手段は確立されていないのが現状である。

特開昭59-25645号公報、 特開昭59-48048号公報、 特開平15-13086号公報、 特開平15-49191号公報、

本発明は、そのような背景の元でなされたものである。本発明の第１の課題は、吸卵量が増加し、かつ吸卵速度が向上する吸卵性改善油脂組成物を提供することにある。
本発明の第２の課題は、その油脂組成物を用いて製造される食感や風味の点で良好なパン、菓子類を提供することにある。

上述の課題を解決するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、油脂に特定の乳化剤を添加することにより、吸卵量および吸卵速度が大幅に向上することを見いだし、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、次の（１）〜（３）である。
（１）油脂１００重量部に対し、ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル０.００５〜０.５重量部、グリセリン脂肪酸エステル０.０５〜５重量部及びレシチン０.０５〜５重量部を配合させることによって、下記吸卵性試験において、吸卵指数９０.１以上のＷ／Ｏ型乳化油脂組成物であることを特徴とする食品添加用吸卵性改善油脂組成物。
吸卵性試験：油脂組成物４００ｇと上白糖４００ｇをケーキ用ミキサーで２分３０秒間ホイップし、全卵液を加えながらミキシングして、生地状態を観察し、生地の全卵液が分離する直前までの全卵量を吸卵量とし、吸卵指数を次式によって計算する。
吸卵指数（％）＝｛吸卵量（ｇ）／油脂重量（ｇ）｝×１００
（２）ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルのエチレンオキシド付加モル数が１０〜３０であり、グリセリン脂肪酸エステルがモノグリセリンステアリル酸エステル又はポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルである(１)記載の食品添加用吸卵性改善油脂組成物。
（３）(１)又は(２)記載の食品添加用吸卵性改善油脂組成物及び卵を使用して製造されるパン又は菓子類。

本発明の吸卵性油脂組成物は、ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルを含有することによって、吸卵量が増加および吸卵速度を向上させることができる。
また、本発明の油脂組成物を使用することによって、卵の添加量、添加速度が向上し、それにより食感、風味などの良い付加価値の高い食品を製造工程の短縮化や大量生産により得ることができる。

以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の吸卵性改善油脂組成物は、油脂１００重量部に対し、ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル０．００５〜０．５重量部含有することを特徴とする。
本発明で使用するポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルは、ソルビタン脂肪酸エステルにエチレンオキシドを付加させた構造のものである。
そのポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、炭素数１２〜２０の飽和もしくは不飽和脂肪酸が挙げられ、中でも、オレイン酸もしくはステアリン酸が好ましく挙げられる。これらの脂肪酸は、１種単独でもよいし、２種以上の混合脂肪酸であってもよい。また前記乳化剤の構成脂肪酸のエステルとしては、モノエステルが好ましく、性能に影響がない程度のジエステル或いはトリエステルを含有していてもよい。好ましくはステアリン酸のモノエステル型である。また、エチレンオキシド付加モル数は６〜１６０、より好ましくは、１０〜３０である。
本発明に用いるポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルの原料ソルビタンは、ソルビットの分子内脱水で得られる。通常は、１分子脱水である１，４−ソルビタン、３，６−ソルビタン、１，５−ソルビタンおよび２分子脱水物である１，４，３，６−ソルビドの混合物として工業的に造られる。これらのソルビタンを原料として使用しても良いし、ソルビットを反応させながら同時に分子内脱水を行ってもよい。本発明に用いるポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルは、前記の原料を用いて公知の方法で製造できる。
本発明に使用するポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルの油脂に対する配合比は、油脂１００重量部に対し０．００５〜０．５重量部が良く、さらに好ましくは０．０１〜０．３重量部である。前記の配合比が、０．００５重量部未満の場合には本発明の目的とする効果が期待し難い。また、０．５重量部を超える添加量の場合には、添加量に見合う著しい効果の向上が得られず、最終製品に与える風味が悪くなる。

本発明でさらに使用するグリセリン脂肪酸エステルとしては、モノグリセリン、ポリグリセリン、有機酸グリセリン等のグリセリン構造のものに炭素数２〜２４の飽和または不飽和脂肪酸であればよく、特に制限なくいずれの構造のものも使用することができる。
グリセリン脂肪酸エステルとしては、具体的には例えば、モノグリセリンステアリン酸エステル、モノグリセリンオレイン酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ポリグリセリンオレイン酸エステル等が挙げられる。前記のグリセリン脂肪酸エステルは、１種単独であるいは２種以上を配合して使用することができる。より好ましくは、モノグリセリンステアリン酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルが挙げられる。

前記のグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、０．０５部〜５重量部の範囲が適当であり、さらに好ましくは０．１部〜１重量部である。グリセリン脂肪酸エステルの含有量が、０．０５重量部未満では本発明の目的とする効果が十分に発揮できず、また前記のグリセリン脂肪酸エステルの含有量が５重量部より多い場合には添加量に見合う著しい効果の向上は認められず、最終製品に与える風味の悪影響の点からも好ましくない。

本発明で用いるレシチンは、大豆レシチン、卵黄レシチン等いずれのものも使用することが出来る。
前記のレシチンの含有量は、０．０５部〜５重量部の範囲が適当である。
前記のレシチンの含有量が、０．０５重量部未満の場合には本発明の目的とする効果を十分に発揮することができず、また、前記のレシチンの含有量が５重量部より多い場合には添加量に見合う著しい効果の向上は得られず、さらに最終製品に与える風味が悪くなるので好ましくない。
本発明に用いられる油脂としては、食用油脂であれば特に制限なく、例えば、大豆油、ナタネ油、パーム油、コーン油、綿実油、ヤシ油、パーム核油等々の植物油脂類；牛脂、豚脂、魚油、乳脂等の動物油脂類；いずれの油脂も使用することができ、またこれらの分別油、精製油脂、水素添加処理した油脂及びエステル交換油脂も使用することができる。前記の油脂は１種単独で、もしくは２種以上配合して使用してもよい。

また、本発明の吸卵性改善油脂組成物の形状としては、ショートニングタイプあるいはマーガリンタイプのものが挙げられる。ショートニングタイプとしては、前述の油脂にポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル等の活性剤を配合した可塑性の油脂組成物である。
マーガリンタイプとしては、前述の油脂に前述の乳化剤を配合し、さらに水をＷ／Ｏ型に乳化したものである。

前記のショートニングあるいはマーガリンのような加工油脂は、本発明の効果を損なわない範囲において必要であれば、嗜好性、栄養、物性、乳化安定性を高めるために、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル以外の乳化剤、乳製品、香料、着色料、調味料、甘味料、糖類、食塩及び乳化安定用糊料等の物質を添加しても良い。

次に本発明の吸卵性改善油脂組成物の製造方法について記載する。
本発明の吸卵性改善油脂組成物のショートニングタイプは、例えば、前述の油脂を容器に計りとり、さらにポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル等の乳化剤をかき混ぜながら配合し、加熱溶解する。その後冷却可塑化して製造する方法が挙げられる。
本発明の吸卵性改善油脂組成物マーガリンタイプの製造方法としては、例えば、前述の油脂に前述の乳化剤を配合し、さらに所定量の水をかき混ぜながら添加してＷ／Ｏ型に乳化する方法が挙げられる。さらにマーガリン製造機を用いて急冷可塑化し、さらに１〜７日間程度熟成させてマーガリンとする。

本発明の吸卵性油脂組成物は、パンや菓子類の生地製造時に添加配合し、卵を多く配合できるようにする。
本発明の吸卵性改善油脂を用いるパン、菓子類としては、メロンパンなどに使用するクッキー生地および上掛け生地、パウンドケーキ、マドレーヌ、バウムクーヘンなどのバターケーキやスポンジケーキ類、カスタードクリームやフラワーペーストなどのフィリング類及びアイシング類、ビスケットなどの菓子類およびパイなどの洋菓子などが挙げられるが、本発明の油脂組成物を含有するパン、菓子類であればこれに限定するものではない。

本発明の吸卵性改善油脂の使用方法としては、例えばパウンドケーキの場合、１５０〜２５０ｇ程度の吸卵性改善油脂に砂糖１５０〜２５０ｇ加えケーキ用ミキサーで混合し、クリーム状にする。ついで、全卵１５０〜２００ｇを加え乳化し、薄力粉１５０〜２００ｇを加え、軽く混ぜ合わせた後、オーブンにて焼成する。このように吸卵性改善油脂組成物を使用することで、製造速度、食感、風味の良いパウンドケーキを得ることができる。

次に、本発明を具体例によりさらに詳細に説明する。次に用いた試験方法を示す。
１．＜吸卵性試験＞
吸卵性試験は、次の方法による。
１）試料の油脂組成物（試験例１〜４、比較例１〜２によって得られたマーガリン）４００ｇと上白糖４００ｇをケーキ用ミキサーで２分３０秒間ホイップする。
２）次に全卵液を加えながらミキシングし、生地状態を観察する。生地と全卵液が分離する直前までの全卵量を吸卵量とし、次式（１）により吸卵指数を計算した。
吸卵指数（％）＝｛吸卵量（ｇ）／油脂重量（ｇ）｝×１００・・・（１）
２．＜吸卵速度試験＞
吸卵速度試験は、以下の方法で行った。
１）試料の油脂組成物（試験例１、２、５、比較例２、３によって得られた油脂組成物）４００ｇと上白糖４００ｇをケーキ用ミキサーで２分３０秒間ホイップする。
２）次に、全卵液を１００ｇ加えてミキシングし、卵が完全に油脂中に分散するまでの時間を測定した。ついで卵を１００ｇ加え、同様に卵が分散するまでの時間を測定した。その後、全卵液を１０ｇずつ加え分散までの時間を測定し、分離が認められるまでこの操作を繰り返した。

（試験例１）
パーム油６００ｇ、ナタネ硬化油７５０ｇ、ナタネ油１５０ｇからなる混合油に大豆レシチン１．５ｇ、グリセリンモノステアレーと１．５ｇ、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン０．２２５ｇを溶解させた。ついで、これに脱脂粉乳７．５ｇ、食塩７．５ｇを水３００ｇに溶解した水相を加え乳化後、マーガリン製造機を用いて急冷可塑化し、１７℃で５日間熟成することでマーガリンを製造し、本発明の油脂組成物を得た。この試料を２１℃で２４時間テンパリングを行い、所定量用い前記の吸卵性および吸卵速度試験を実施した。組成を表１に、結果を表２、３に示す。

（試験例２〜４、比較例１〜２）
試験例１と同じ配合の混合油に、表１に示した乳化剤に変更した以外は試験例１と同様にして、溶解させた。ついで、脱脂粉乳７．５ｇ、食塩７．５ｇを水３００ｇに溶解した水相を加え乳化後、試験例１と同様に急冷可塑化して、マーガリンを製造し、テンパリングを行い、試験例２〜４、比較例１〜２のマーガリンを製造した。組成を表１に示す。また前記の試験方法で評価した結果を表２、３に示す。
（試験例５）
試験例１と同じ配合の混合油に、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン０．２２５ｇを溶解させた。ついで、試験例１と同様に急冷可塑化して、ショートニングを製造し、テンパリングを行った。組成を表１に示す。また前記の試験方法で評価した結果を表２、３に示す。
（比較例３）
試験例１と同じ配合の混合油に、オクタステアリン酸ヘキサグリセリン７．５ｇを溶解させた。ついで、試験例１と同様に急冷可塑化して、ショートニングを製造し、テンパリングを行った。油脂と乳化剤の組成を表１に示す。また前記の試験方法で評価した結果を表２、３に示す。

表２の結果から明らかなように、吸卵指数は通常のマーガリン（比較例１、２）で７０％程度であるのに対し、本発明の試験例１、２、３のマーガリンでは９０％以上となり、吸卵性に優れていた。また表３の結果から本発明のマーガリン（比較例１、２）は、通常のマーガリン（比較例２）より吸卵速度が向上した。通常のショートニング（比較例３）は、マーガリンに比べ油脂量が多いため、吸卵速度は比較的早いが、本発明のショートニング（試験例５）で、より優れた吸卵速度を示した。したがって、ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルを添加したマーガリンおよびショートニングタイプの油脂組成物は吸卵量、吸卵速度の両方に優れていた。
＜試験例６＞
試料の油脂組成物（試験例１、２、比較例２，３によって得られた油脂組成物）について、バターケーキを作成し、風味の評価を１５人のパネラーによる官能試験により評価した。官能試験の方法を以下に示した。

官能試験のサンプルとして、各組成物を使用したバターケーキを以下の配合および製法で焼成した。
パウンドケーキの組成と製造方法を次に示す。
（配合組成）
Ａ：油脂組成物（試験例１、２、比較例２、３） ２００ｇ
Ｂ：砂糖 ２００ｇ
Ｃ：全卵 ２４０ｇ
Ｄ：薄力粉（商品名：バイオレット；日清製粉（株）製）
２００ｇ
Ｅ：ベーキングパウダー ２ｇ
（製造方法）
１．前記のＡとＢをケーキ用ミキサーで２分間混ぜ合わせた。次にＣを加え、さらに２分間混ぜ合わせた。さらに、振るっておいたＤとＥを加え、１５秒混ぜ、生地を作った。
２．パウンド型に１の生地２４０ｇ入れ、表面をならした。
３．上火１６５℃、下火１５０℃で３０分間焼成した。
＜ケーキの評価方法＞
このパウンドケーキを１５人のパネラーにより官能評価を実施した。風味、口溶け、食感が総合的に良好なものから順位を付ける、順位法により判定した。１位を３点、２位を２点、３位を１点とし、総合得点にて判定した。結果を表４に示す。

以上の結果から、本発明の油脂組成物を用いた試験例１，２は比較例２，３に比べて、風味、口溶け、食感を総合的に評価して良好であることが分かる。

本発明の吸卵性油脂組成物は、ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルを含有することによって、吸卵量が増加および吸卵速度を向上させることができるので産業上有用である。

また、本発明の油脂組成物を使用することによって、卵の添加量、添加速度が向上し、それにより食感、風味などの良い付加価値の高いパンや菓子類の食品を製造する過程で、製造工程の短縮化により大量生産することができる。

Claims (3)

1. 油脂１００重量部に対し、ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル０.００５〜０.５重量部、グリセリン脂肪酸エステル０.０５〜５重量部及びレシチン０.０５〜５重量部を配合させることによって、下記吸卵性試験において、吸卵指数９０.１以上のＷ／Ｏ型乳化油脂組成物であることを特徴とする食品添加用吸卵性改善油脂組成物。
   吸卵性試験：油脂組成物４００ｇと上白糖４００ｇをケーキ用ミキサーで２分３０秒間ホイップし、全卵液を加えながらミキシングして、生地状態を観察し、生地の全卵液が分離する直前までの全卵量を吸卵量とし、吸卵指数を次式によって計算する。
   吸卵指数（％）＝｛吸卵量（ｇ）／油脂重量（ｇ）｝×１００
2. ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステルのエチレンオキシド付加モル数が１０〜３０であり、グリセリン脂肪酸エステルがモノグリセリンステアリル酸エステル又はポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルである請求項１記載の食品添加用吸卵性改善油脂組成物。
3. 請求項１又は２記載の食品添加用吸卵性改善油脂組成物及び卵を使用して製造されるパン又は菓子類。