JP4362858B2 - トロイダル型無段変速機のボールスプライン - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車の変速機等に使用されるトロイダル型無段変速機のボールスプラインおよびボールスプラインに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の自動車用変速機としては、例えば、図5および図6に示すようなトロイダル型無段変速機が知られている。
このトロイダル型無段変速機は、入力軸1と中心軸を同じくして入力側ディスク2が設けられるとともに、入力軸1と中心軸を同じくして配置された出力軸3の端部に出力側ディスク4が固定されている。トロイダル型無段変速機を収めたケーシングの内側には、枢軸5,5を中心として揺動する複数個(この例では2個)のトラニオン6,6が設けられている。すなわち、各枢軸5,5は、入力側、出力側の両ディスク2,4の中間位置に、両ディスク2,4の軸方向に対して直交する方向に、かつ両ディスク2,4の中心軸に対して捻れの位置に配置されていて、各トラニオン6,6の両端部外側面に設けられている。
【0003】
また、各トラニオン6,6の中間部には、変位軸7,7の基端部が支持されており、各枢軸5,5を中心として各トラニオン6,6を揺動させることにより、各変位軸7,7の傾斜角度が変化するようになっている。各変位軸7,7には、それぞれパワーローラ8,8が回転自在に支持されている。各パワーローラ8,8は、両ディスク2,4の間に挟持されている。すなわち、両ディスク2,4の互いに対向する内側面2a、4aは、それぞれ、枢軸5を中心とする円弧を入力軸1及び出力軸3を中心に回転させた場合に得られる凹面に形成されており、これらの内側面2a,4aに、球状凸面に形成された各パワーローラ8,8の周面8a,8aが当接されている。
【0004】
入力軸1と入力側ディスク2との間には、ローディングカム式の押圧装置9が設けられ、この押圧装置9によって、入力側ディスク2が出力側ディスク4に向けて押圧されている。この押圧装置9は、入力軸1と共に回転するカム板10と、保持器11により保持された複数個(例えば4個)のローラ12とを備えている。カム板10の片側面(図5および図6において左側面)には、円周方向に渡って凹凸形状を成すカム面13が形成され、また入力側ディスク2の外側面(図5および図6において右側面)にも同様のカム面14が形成されている。これらのカム面13,14の間に、複数個のローラ12が、入力軸1の中心から放射方向に延在する軸を中心として回転自在に支持されている。
【0005】
このように構成されたトロイダル型無段変速機においては、入力軸1の回転に伴ってカム板10が回転すると、カム面13が複数個のローラ12を入力側ディスク2の外側面のカム面14に押圧する。その結果、入力側ディスク2が両パワーローラ8,8に押圧されるとともに、一対のカム面13,14と複数個のローラ12との押し付け合いに基づいて入力側ディスク2が回転する。そして、この入力側ディスク2の回転が両パワーローラ8,8を介して出力側ディスク4に伝達され、この出力側ディスク4に固定された出力軸3が回転する。
【0006】
入力軸1と出力軸3との回転速度比(変速比)を変えて、入力軸1と出力軸3との間で減速を行なう場合には、図5のように、各枢軸5,5を中心として各トラニオン6,6を揺動させる。すなわち、各パワーローラ8,8の周面8a,8aが、入力側ディスク2の内側面2aの中心寄り部分と出力側ディスク4の内側面4aの外周寄り部分とにそれぞれ当接するように、各変位軸7,7を傾斜させる。
一方、増速を行なう場合には、図6のように、各枢軸5,5を中心として各トラニオン6、6を揺動させる。すなわち、各パワーローラ8,8の周面8a,8aが、入力側ディスク2の内側面2aの外周寄り部分と出力側ディスク4の内側面4aの中心寄り部分とにそれぞれ当接するように、各変位軸7,7を傾斜させる。各変位軸7,7の傾斜角度を図5と図6の場合の中間の角度に調整すれば、入力軸1と出力軸3との間で中間の変速比を得られる。
【0007】
図7および図8は、より具体化されたトロイダル型無段変速機を示している。このトロイダル型無段変速機において、入力側ディスク2と出力側ディスク4は、それぞれ入力軸15の外周部にニードル軸受16,16を介して回転自在に支持されている。カム板10は、入力軸15の端部(図7において左端部)の外周面にスプライン係合されて、鍔部17により入力側ディスク2から離間する方向への移動が阻止されている。そして、このカム板10とローラ12,12とにより、入力軸15の回転に基づいて、入力側ディスク2を出力側ディスク4に向けて押圧しつつ回転させる、ローディングカム式の押圧装置9が構成されている。
【0008】
出力側ディスク4には、出力歯車18がキー19,19により結合され、これらの出力側ディスク4と出力歯車18とが一体的に回転するようになっている。出力歯車18と、これに噛合する図示しない歯車等によって、出力側ディスク4の回転を取り出すための動力取り出し手段が構成されている。
【0009】
一対のトラニオン6,6の両端部に設けられた枢軸5,5は、一対の支持板20,20に、揺動自在および軸方向(図7において表裏方向、図8において左右方向)に変位自在に支持されている。一対の支持板20,20は、十分な剛性を有する板状に形成されており、それらの中央部に形成された円孔71,71が、ケーシング72の内面およびケーシング72内のシリンダケース73の側面に固設された支持ピン74a,74bに外嵌されることにより、ケーシング72の内側にて揺動自在および各枢軸5,5の軸方向に変位自在に支持されている。また、支持板20,20の両端部には、それぞれ円形の支持孔75,75が形成されており、これらの支持孔75,75には、それぞれトラニオン6,6の両端部に設けられた枢軸5,5が、外輪76,76を備えたラジアルニードル軸受77,77によって支持されている。これらの構成により、各トラニオン6,6は、各枢軸5,5を中心として揺動自在、および各枢軸5,5の軸方向に変位自在に、ケーシング72内に支持されている。
【0010】
各トラニオン6,6の中間部に形成された円孔23,23には、それぞれ変位軸7,7が支持されている。変位軸7は、互いに平行でかつ偏心した支持軸部21と枢支軸部22とを備えている。支持軸部21は、円孔23の内側に、ラジアルニードル軸受24を介して揺動自在に支持されている。また、枢支軸部22の外周部には、パワーローラ8がラジアルニードル軸受25を介して回転自在に支持されている。
【0011】
一対の変位軸7,7は、入力軸15を中心として点対称の位置(180度反対側の位置)になるように配置されている。また、各変位軸7,7において、各枢支軸部22,22が各支持軸部21,21に対して偏心する方向は、両ディスク2,4の回転方向に関して同方向(図8においては左右逆方向)とされている。また、各枢支軸部22,22の軸方向は、入力軸15の軸方向(図7において左右方向、図8において表裏方向)に対してほぼ直交する方向とされている。したがって、各パワーローラ8,8は、入力軸15の軸方向に若干の変位が許容されて支持されている。その結果、各構成部品の寸法精度のばらつき、あるいは動力伝達時の弾性変形等に起因して、各パワーローラ8,8が入力軸15の軸方向に多少変位しても、この変位が吸収されて、各構成部品に無理な力が加わることがない。
【0012】
また、各パワーローラ8,8の外側面と各トラニオン6,6の中間部内側面との間にはそれぞれ、パワーローラ8,8の外側面の側から順に、スラスト玉軸受等のスラスト転がり軸受26,26と、後述する外輪30,30に加わるスラスト荷重を支承するスラストニードル軸受等のスラスト軸受27,27とが設けられている。前者の各スラスト転がり軸受26,26は、各パワーローラ8,8に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、各パワーローラ8,8の回転を許容する。また、後者の各スラスト軸受27,27は、各パワーローラ8,8から各スラスト転がり軸受26,26の外輪30,30に加わるスラスト荷重を支承しつつ、枢支軸部22,22および外輪30,30が支持軸部21,21を中心に揺動することを許容する。各スラスト転がり軸受26,26はそれぞれ、複数個の玉29,29と、これらの玉29,29を転動自在に保持する円環状の保持器28,28と、スラスト軌道輪である円環状の外輪30,30とから構成されている。各スラスト転がり軸受26,26の内輪軌道は、パワーローラ8,8の外側面に、外輪軌道は各外輪30,30の内側面に、それぞれ形成されている。
【0013】
また、各トラニオン6,6の一端部(図8において左端部)のそれぞれには駆動ロッド35,35が結合され、各駆動ロッド35,35の中間部外周面には駆動ピストン36が固設されている。各駆動ピストン36,36のそれぞれは、シリンダケース23内に設けられた駆動シリンダ37,37内に油密的に嵌装されている。さらに、ケーシング22内に設けられた支持壁38と入力軸15との間には、一対の転がり軸受81,81が設けられており、これにより、入力軸15がケーシング72内に回転自在に支持されている。
【0014】
このように構成されたトロイダル型無段変速機においては、入力軸15の回転が押圧装置9を介して入力側ディスク2に伝えられる。そして、この入力側ディスク2の回転が一対のパワーローラ8,8を介して出力側ディスク4に伝達され、さらに、この出力側ディスク4の回転が出力歯車18から取り出される。
【0015】
入力軸15と出力歯車18との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン36,36を互いに逆方向に変位させる。すると、各駆動ピストン36,36の変位に伴って、一対のトラニオン6,6がそれぞれ逆方向に変位する。例えば、図8中下側のパワーローラ8が同図中の右側に、同図中上側のパワーローラ8が同図中の左側に、それぞれ変位する。その結果、各パワーローラ8,8の周面8a,8aと入力側ディスク2および出力側ディスク4の内側面2a,4aとの当接部に作用する、接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン6,6が、支持板20,20に枢支された枢軸5,5を中心として、図7において互いに逆方向に揺動する。その結果、上述の図5および図6に示したように、各パワーローラ8,8の周面8a,8aと各内側面2a,4aとの当接位置が変化し、入力軸15と出力歯車18との間の回転速度比が変化する。
【0016】
なお、動力伝達時に各構成部品が弾性変形する結果、各パワーローラ8,8が入力軸15の軸方向に変位したときに、各パワーローラ8,8を枢支している各変位軸7,7が各支持軸部21,21を中心として僅かに揺動する。この揺動の結果、各スラスト転がり軸受26,26の外輪30,30の外側面と各トラニオン6,6の内側面とが相対変位する。これら外側面と内側面との間には、各スラスト軸受27,27が存在するため、それらの相対変位に要する力は小さい。したがって、上述のように各変位軸7,7の傾斜角度を変化させるための力は小さくて済む。
【0017】
さらに、伝達可能なトルクを増大すべく、図9に示すように構成されたトロイダル型無段変速機も従来から知られている。
図9において、入力軸15の外周部には、入力側ディスク2A,2Bと出力側ディスク4A,4Bとが設けられ、これら計4つのディスク2A,2B,4A,4Bが動力の伝達方向に関して並列に配置されている。また、入力軸15の中間部周囲に、出力歯車18aが回転自在に支持され、この出力歯車18aの中心部に設けられた円筒状の両端部に、出力側ディスク4A,4Bがスプライン係合されている。出力側ディスク4A,4Bは、入力軸15との間に介在されたニードル軸受け16,16によって、入力軸15の軸線を中心として回転自在、かつ入力軸15の軸線方向に変位自在に支持されている。また、入力側ディスク2A,2Bは、入力軸15の両端部に、その入力軸15と共に回転するように支持されている。
【0018】
一方の入力側ディスク2Aは、その背面(図9中の左面)がローディングナット39に突き当てられており、入力軸15の軸線方向における変位が実質的に阻止されている。これに対して、他方の入力側ディスク2Bは、ボールスプライン40によって入力軸15に支持されており、入力軸15の軸線方向に変位自在とされている。この入力側ディスク2Bとカム板10との間には、皿板ばね41とスラストニードル軸受42が直列に設けられている。前者の皿板ばね41は、各ディスク2A,2B,4A,4Bの内側面2a,2a,4a,4aとパワーローラ8,8の周面8a,8aとの当接部に予圧を付与する役目を果たす。一方、後者のスラストニードル軸受42は、押圧装置9の作動時に、入力側ディスク2Bとカム板10との相対回転を許容する役目を果たす。
【0019】
また、出力歯車18aは、1対のアンギュラ型玉軸受43,43によって、ハウジング内に設けられた仕切壁44に支持されており、入力軸15の軸線を中心として回転自在とされ、かつ入力軸15の軸線方向の変位が阻止されている。また、このように計4つのディスク2A,2B,4A,4Bを動力の伝達方向に並列に配置する、いわゆるダブルキャビティ型のトロイダル型無段変速機において、入力側ディスク2A,2Bをボールスプライン40a,40によって入力軸15の軸線方向に変位自在に支持する理由は、両ディスク2A,2Bの回転を完全に同期させつつ、押圧機構9の作動に伴う各構成部材の弾性変形によって、両ディスク2A,2Bが入力軸15の軸線方向に変位することを許容するためである。ボールスプラインを備えたトロイダル型無段変速機は、例えば、特開平9−317843号公報にも記載されている。
【0020】
また、このような目的のために設けられるボールスプライン40a,40は、入力側ディスク2A,2Bの内周面に形成された内径側ボールスプライン溝46,46と、入力軸15の外周面に形成された外径側ボールスプライン溝47,47と、これらのボールスプライン溝46,47の間に転動自在に介在された複数のボール48とを備えている。また、ボールスプライン40において、入力側ディスク2Bの内周面の内側面2a寄り部分に形成された係止溝49には、ボール48を抜け止めするための係止環50が係止されている。また、ボールスプライン40aにおいて、入力軸15の外周面に形成された係止溝49aには、ボール48を抜け止めするための係止環50aが係止されている。
【0021】
図10および図11は、ボールスプライン40部分のより具体的な構成例の説明図であり、入力側ディスク2Bと入力軸15の係止溝49,49aのそれぞれに、係止環50,50aとしての止め輪60a,60bが係止されている。したがって、これら2つの止め輪60a,60bによって、入力軸15の軸線方向におけるボール48の飛び出しが防止される。このように、入力側ディスク2Bと入力軸15のそれぞれに係止溝49,49aを設ける構成は、例えば、特開平11−241754号公報にも記載されている。
【0022】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、図10および図11のように、ボールスプライン溝46,47が形成される入力側ディスク2Bと入力軸15のそれぞれに係止溝49,49aを設けた場合には、次のような問題がある。すなわち、入力側ディスク2Bと入力軸15の両部品に対して、係止溝49,49aを形成するための溝加工が必要となり、生産性の悪化を招く。また、入力側ディスク2Bの係止溝49に係止される止め輪60aと、入力軸15の係止溝49aに係止される止め輪60bは、形状が異なるため、その分、部品点数が多くなり、また止め輪60a,60bを誤って取り付けるおそれがある。仮に、止め輪60a,60bを誤って取り付けた場合には、変速機の作動時に、入力側ディスク2Bの移動によって止め輪60aまたは60bが擦れて、異音などを発生するおそれがある。
【0023】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたもので、入力軸および入力側ディスクのいずれかに対して、止め輪を取り付けるための係止溝の加工工程を省略し、さらに2つの止め輪を同一部品として結果的に部品点数を削減すると共に、止め輪の誤組み付けの防止、および耐久性の向上を図ることができるトロイダル型無段変速機のボールスプラインを提供することを目的とする。
また、本発明は、ボールスプライン結合される2つの部材のいずれかに対して、止め輪を取り付けるための係止溝の加工工程を省略し、さらに2つの止め輪を同一部品として結果的に部品点数を削減すると共に、止め輪の誤組み付けの防止、および耐久性の向上を図ることができるボールスプラインを提供することを目的とする。
【0024】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明のトロイダル型無段変速機のボールスプラインは、入力軸のボールスプライン溝と入力側ディスクのボールスプライン溝との間に備えられるボールが前記入力軸の軸線方向両側に抜け出ることを防止するために、前記入力軸または前記入力側ディスクに、前記ボールに対して前記入力軸の軸線方向の一方側と他方側に位置する2つの止め輪が取り付けられるトロイダル型無段変速機のボールスプラインにおいて、
前記入力軸または前記入力側ディスクの一方に、同一形状の2つの係止溝を設け、それらの係止溝に、それぞれ同一形状の前記止め輪を係止し、
前記入力側ディスクの背面側に近い一方の係止溝の位置を、前記入力側ディスクの内周面の背面側端部からaの距離とし、前記入力側ディスクと前記入力軸が互いに逆方向に移動したときの最大移動量をそれぞれbおよびcとしたときに、a≧(b+c)と設定し、
他方の係止溝の位置を、一方の係止溝からLの距離とし、ボールの直径をd、前記入力軸の軸方向にならぶボールの数をnとしたときに、L≧d・n+{(b+c)/2}と設定したことを特徴とする。
また、本発明のボールスプラインは、2つの部材に形成されたボールスプライン溝の間に備えられるボールがボールスプライン溝方向に抜け出ることを防止するために、前記2つの部材に、前記ボールに対してボールスプライン溝方向の両側に位置する2つの止め輪が取り付けられるボールスプラインにおいて、
前記2つの部材の一方に、同一形状の2つの係止溝を設け、それらの係止溝に、それぞれ同一形状の前記止め輪を係止し、
前記2つの部材のうちの外側となる部材の内周面の一方の端部に近い一方の係止溝の位置を前記外側となる部材の内周面の一方の端部からaの距離とし、2つの部材が互いに逆方向に移動したときの最大移動量をそれぞれbおよびcとしたときに、a≧(b+c)と設定し、
他方の係止溝の位置を、一方の係止溝からLの距離とし、ボールの直径をd、ボールスプライン溝方向にならぶボールの数をnとしたときに、L≧d・n+{(b+c)/2}と設定したことを特徴とする。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(第1の実施の形態)
図1、図2および図3は、本発明の第1の実施の形態に係るトロイダル型無段変速機のボールスプライン部分の説明図であり、その他の部分の構成は、図9、図10および図11の構成と同じである。
本例のボールスプライン40は、入力軸15の外周面に同一形状の係止溝59a,59bを設け、それらの係止溝59a,59bに、同一形状の止め輪61,61を係止した構成となっている。これら2つの止め輪61,61によって、入力軸15の軸線方向におけるボール48の飛び出しが防止される。止め輪61は、図2のような平面略C字状とされており、その一部には、径方向の内方に膨出する回り止め部61aが形成されている。その回り止め部61aは、入力軸15の外径側ボールスプライン溝47内に嵌まり合うことによって、止め輪61を入力軸15に回り止めする。
【0026】
カム板10に近い図1中右側の係止溝59bの位置は、カム板10によって互いに逆方向に移動される入力側ディスク2Bおよび入力軸15の最大移動量bおよびcを考慮して設定される。すなわち、入力ディスク2Bの内周面の図1中右端部から係止溝59bまでの距離aは、下式(1)の関係に設定されている。
【0027】
【数1】
a≧(b+c) …(1)
【0028】
このような関係に設定されているため、入力側ディスク2Bと入力軸15が互いに逆方向に最大移動量bおよびcずつ移動したとしても、係止溝59bは入力側ディスク2Bの内周面との対向位置から外れない。したがって、係止溝59b内の止め輪61は、常に、その係止溝59bと入力側ディスク2Bの内周面と間に位置し、その係止溝59bから外れることはない。一方、図1中左側の係止溝59aの位置は、同図中右側の係止溝59bから距離Lだけずれた位置に設定されている。その距離Lは、ボール48の直径d、入力軸15の軸線方向に並ぶボール48の数n、および距離b,cとの関係から、下式(2)の大きさに設定されている。
【0029】
【数2】
L≧d・n+{(b+c)/2} …(2)
【0030】
次に、変速機の組立て作業に関連する止め輪61,61の組み付け手順について説明する。
まず、入力軸15の図1中右側の係止溝59b内に止め輪61を嵌合させてから、その入力軸15を皿板ばね41とスラスト軸受41aに挿入する。その後、入力軸15をカム板10に挿入して、ローラ12と保持器11を組み付ける。それから、入力軸15を入力側ディスク2Bに挿入し、ボールスプライン溝46,47の位相を合せてから、それらのボールスプライン溝46,47の間にボール48を挿入する。その後、入力軸15を固定してから、入力側ディスク2Bを図1中の右方向、つまりカム板10に接近させる方向に押す。その押圧により、皿板ばね41が圧縮変形され、入力軸15の図1中左側の係止溝59aが入力側ディスク2Bの内側位置から図1中左方の外側に現れる。そして、その係止溝59aに止め輪61を嵌合させてから、入力側ディスク2Bに対する押圧を解く。その後、図3のように、入力軸15に出力側ディスク4A,4Bや入力側ディスク2Aなどを組み付けてから、その入力軸15を組み込んで変速機を完成させる。
【0031】
本例の場合は、入力軸15の外周面に係止溝59a,59bを設けているため、その径方向外方に開放する係止溝59a,59bに対して、止め輪61,61をきわめて容易に嵌合して取り付けることができ、しかも止め輪61,61を取り付けたことを外部から容易に確認することができる。また、入力側ディスク2Bは、パワーローラ8との接触点において大きな押し付け力を受ける関係上、特に、その内径側端部の図1中Aの部位は応力が集中する部位となる。しかし、本例のように入力軸15の外周部に係止溝59a,59bを設けた場合には、応力が集中する入力側ディスク2Bの部位Aに、止め輪61を取り付けるための係止溝を設ける必要がない。したがって、入力側ディスク2Bの強度低下を回避して、より充分な強度を確保することができる。
【0032】
(第2の実施の形態)
図4は、本発明の第2の実施の形態に係るトロイダル型無段変速機のボールスプライン部分の説明図である。
本例におけるボールスプライン40は、入力側ディスク2Bの内周面に同一形状の係止溝62a,62bを設け、それらの係止溝62a,62bに、同一形状の止め輪63,63を係止した構成となっている。これら2つの止め輪63,63によって、入力軸15の軸線方向におけるボール48の飛び出しが防止される。止め輪63は平面略C字状とされており、その一部には、径方向の外方に膨出する回り止め部が形成されている。その回り止め部は、入力側ディスク2Bの内径側ボールスプライン溝46内に嵌まり合うことによって、止め輪63を入力側ディスク2Bに回り止めする。係止溝62a,62b間の距離は、前述した実施の形態と同様の距離L、つまり上式(2)の関係に設定されている。
【0033】
止め輪63,63を組み付ける場合には、まず、入力側ディスク2Bの図4中右側の係止溝62b内に止め輪63を嵌合させてから、その入力側ディスク2Bに、カム板10、ローラ12、保持器11、および皿板ばね41が組み付けられた入力軸15を挿入する。その後、ボールスプライン溝46,47の位相を合せてから、それらのボールスプライン溝46,47の間にボール48を挿入する。その後、入力軸15に対して入力側ディスク2Bを図4中の左方向、つまりカム板10から離間する方向に移動させて、図4中左側の係止溝62aを入力軸15の外周部に設けられた段部15aと対向させる。そして、段部15aから係止溝62a内に止め輪63を嵌合させ、それから入力ディスク2Bを図4中右方の位置に戻す。
【0034】
なお、変速機の各構成部品におけるローラやプレートなどの接触部に対する摩耗対策として、それらの接触部に潤滑油を導くように、入力軸15に潤滑油が通る油穴を設けることが望ましい。例えば、ボールスプラインに対しては、入力軸15の周方向に等間隔的に形成した3〜6の油穴を通して、潤滑油を導くように構成することができる。
【0035】
また、上記実施の形態では、トロイダル型無段変速機のボールスプラインについて説明したが、本発明は、ベルト式無段変速機(CVT)のボールスプラインや、その他のボールスプラインに広く適用することができる。
【0036】
【発明の効果】
本発明のトロイダル型無段変速機のボールスプラインは、入力軸のボールスプライン溝と入力側ディスクのボールスプライン溝との間に備えられるボールが入力軸の軸線方向両側に抜け出ることを防止する2つの止め輪を取り付けるために、入力軸または入力側ディスクの一方に、それら2つの止め輪が取り付けられる係止溝を設けたことにより、入力軸および入力側ディスクのいずれかに対して、止め輪を取り付けるための係止溝の加工工程を省略し、さらに2つの止め輪を同一部品として結果的に部品点数を削減すると共に、止め輪の誤組み付けの防止、および耐久性の向上を図ることができる。
【0037】
また、互いに対向する入力軸の外周面と入力側ディスクの内周面の一方に、2つの止め輪が取り付けられる係止溝を設けることにより、それらの外周面と内周面との間の規制された位置に、止め輪を確実に取り付けることができる。
また、2つの止め輪が取り付けられる係止溝を入力軸の外周面に設けることにより、入力軸の径方向外方に開放された係止溝に対して、止め輪をきわめて容易に取り付けることができ、しかも止め輪の取り付けを外方から容易に確認することができると共に、応力集中しやすい入力側ディスクの部位に係止溝を設ける必要をなくして、結果的に、入力側ディスクの充分な強度を確保することができる。
【0038】
また、本発明のボールスプラインは、2つの部材のボールスプライン溝の間に備えられるボールがボールスプライン溝方向の両側に抜け出ることを防止する2つの止め輪を取り付けるために、2つの部材の一方に、それら2つの止め輪が取り付けられる係止溝を設けたことにより、2つの部材のいずれかに対して、止め輪を取り付けるための係止溝の加工工程を省略し、さらに2つの止め輪を同一部品として結果的に部品点数を削減すると共に、止め輪の誤組み付けの防止、および耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るボールスプライン部分の拡大断面図である。
【図2】図1における止め輪の平面図である。
【図3】図1のボールスプライン部分を備えたトロイダル型無段変速機の要部の断面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係るボールスプライン部分の拡大断面図である。
【図5】トロイダル型無段変速機の最大減速時の状態を説明するための側面図である。
【図6】図5のトロイダル型無段変速機の最大増速時の状態を説明するための側面図である。
【図7】トロイダル型無段変速機の従来例を説明するための要部の断面図である。
【図8】図7のX−X線に沿う断面図である。
【図9】トロイダル型無段変速機の他の従来例を説明するための要部の断面図である。
【図10】従来のトロイダル型無段変速機におけるボールスプライン部分の断面図である。
【図11】図10のZ円部の拡大図である。
【符号の説明】
2A,2B 入力側ディスク
4A,4B 出力側ディスク
15 入力軸
40,40a ボールスプライン
46,47 ボールスプライン溝
48 ボール
59a,59b 係止溝
61 止め輪
Claims (2)
- 入力軸のボールスプライン溝と入力側ディスクのボールスプライン溝との間に備えられるボールが前記入力軸の軸線方向両側に抜け出ることを防止するために、前記入力軸または前記入力側ディスクに、前記ボールに対して前記入力軸の軸線方向の一方側と他方側に位置する2つの止め輪が取り付けられるトロイダル型無段変速機のボールスプラインにおいて、
前記入力軸または前記入力側ディスクの一方に、同一形状の2つの係止溝を設け、それらの係止溝に、それぞれ同一形状の前記止め輪を係止し、
前記入力側ディスクの背面側に近い一方の係止溝の位置を、前記入力側ディスクの内周面の背面側端部からaの距離とし、前記入力側ディスクと前記入力軸が互いに逆方向に移動したときの最大移動量をそれぞれbおよびcとしたときに、a≧(b+c)と設定し、
他方の係止溝の位置を、一方の係止溝からLの距離とし、ボールの直径をd、前記入力軸の軸方向にならぶボールの数をnとしたときに、L≧d・n+{(b+c)/2}と設定したことを特徴とするトロイダル型無段変速機のボールスプライン。 - 2つの部材に形成されたボールスプライン溝の間に備えられるボールがボールスプライン溝方向に抜け出ることを防止するために、前記2つの部材に、前記ボールに対してボールスプライン溝方向の両側に位置する2つの止め輪が取り付けられるボールスプラインにおいて、
前記2つの部材の一方に、同一形状の2つの係止溝を設け、それらの係止溝に、それぞれ同一形状の前記止め輪を係止し、
前記2つの部材のうちの外側となる部材の内周面の一方の端部に近い一方の係止溝の位置を前記外側となる部材の内周面の一方の端部からaの距離とし、2つの部材が互いに逆方向に移動したときの最大移動量をそれぞれbおよびcとしたときに、a≧(b+c)と設定し、
他方の係止溝の位置を、一方の係止溝からLの距離とし、ボールの直径をd、ボールスプライン溝方向にならぶボールの数をnとしたときに、L≧d・n+{(b+c)/2}と設定したことを特徴とするボールスプライン。
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