JP4358006B2 - イネSSIIaの活性の制御方法、及びその変異体 - Google Patents

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Description

本発明は、イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)のアミノ酸の1種以上を、他のアミノ酸に置換することからなるSSIIaの活性を制御する方法、より詳細には、イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の88番目、604番目、737番目、及び781番目からなる群から選ばれたアミノ酸の1種以上を、他のアミノ酸に置換することからなるSSIIaの活性を制御する方法、並びにそのためのイネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の変異体及びそれをコードするDNAに関する。また、本発明は、当該SSIIaの変異体をコードする遺伝子で形質転換された植物、当該植物による改質されたデンプンを製造する方法に関する。
米は穀物植物として全世界で広く栽培され、世界の人口の約1/3は米食によっている。米は栽培される地域により物理化学的な特性が異なっていることはよく知られており、そして米の味覚は米のデンプンの質に大きく依存しており、各地域によりその地域に応じた米の種類が選択されてきた。
米の栽培品種としては、オリザサティバ(Oryza sativa)とグラベリマステウド(glaberrima Steud)の2種類がある。前者はアジアで栽培され熱帯、亜熱帯及び温帯地域に広く分布しているが、後者は西アフリカ地域に極限されている。
雑種の花粉の不捻における遺伝学的分析に基づいて、加藤らはオリザサティバ(Oryza sativa)をジャポニカ(japonica)とインディカ(indica)に分類した(非特許文献1参照)。また、森永(非特許文献2参照)及びチャング(非特許文献3参照)は、インディカ(indica)、ジャポニカ(japonica)及びジャバニカ(javanica)の3種に分類することを提唱した。
このようにオリザサティバ(Oryza sativa)(以下、イネという。)の分類については種々の意見が提案され、遺伝学的な分析やイネの種子に含まれているデンプンや脂質の違いなどに基づくイネの分類が報告されてきている。本明細書においては、エステラーゼのアイソザイムの分析、並びに生理学的及び生化学的特性からイネをインディカ(Indica)及び中国インディカ(Chinese Indica)、並びに、温帯ジャポニカ(Temperate Japonica)及び熱帯ジャポニカ(Tropical Japonica)の4種に分類することにする。
イネの味覚は主としてそのデンプンによるものであり、ジャポニカのねっとりとした味覚や、インディカのパサパサとした味覚は、それらのデンプンの質の相違によるものであることがわかってきている。
そもそもデンプンは植物のエネルギー貯蔵物質であり、α−ポリグルコースからなる多糖類の1種で、アミロースとアミロペクチンからなっている。グリコーゲンもデンプンと同様にα−ポリグルコースからなる多糖類であるが、グリコーゲンは主として動物のエネルギー貯蔵物質として利用されている。
デンプンは穀物の主成分として食品や飼料として使用されるだけでなく、デキストリン、オリゴ糖、異性化糖などに加工されて加工食品などにも利用され、また、糊や添加剤などとして工業製品やその原材料としても利用されている。
デンプンと一言でいっても、稲のデンプン、じゃがいものデンプン、小麦のデンプン、とうもろこしのデンプンなど、植物の種類や品種によりデンプンの形、味、糊化したときの物性などが微妙に異なり、我々はその用途に応じて各種の植物由来のデンプンを使い分けてきている。このようなデンプンの性質の違いはデンプンの微細な化学構造による違いから来ていると説明されてきている。
デンプンは主としてアミロース(Amylose)とアミロペクチン(Amylopectin)からできているものであり、これらによって植物のデンプン粒が形成さているが、デンプン粒の形成にはアミロースは必須ではないとされている。
アミロースは、貯蔵デンプン中の20〜30%を占め、グルコース・ユニットがα−1,4グルコシド結合で繋がり、少量のα‐1,6グルコシド結合の枝を含む線状のらせん状の分子である。一方、アミロペクチンはデンプン粒中の70‐80%を占め、グルコース・ユニットがα‐1,4グルコシド結合で伸び、主鎖と平行にα‐1,6グルコシド結合で枝が繋がった構造をとっている。アミロペクチンのこの特徴的な構造は”クラスター”構造と呼ばれている。
また、動物やバクテリアの貯蔵エネルギーであるグリコーゲン(Glycogen)もデンプンと同じくグルコース・ホモポリマーで構成されているが、アミロペクチンのようなクラスター構造は持っておらず、グリコーゲンは”tree like”や”bush like”構造と呼ばれる不規則な枝分かれ構造であると報告されている。
図1にアミロース、アミロペクチン、及びグリコーゲンの構造を示す。図1に示される線はα−グルコースの連鎖であり、アミロース(図1の(C))は枝分かれがほとんど無くα−1,4−グルコースのほぼ1本鎖の構造をしている。アミロペクチン(図1の(B))は規則正しい枝分かれ構造を有し、α−1,4−グルコースの連鎖とα−1,6−グルコースの枝分かれ構造(クラスター)を一定の間隔で規則正しく有している。また、動物などのエネルギー貯蔵物質であるグリコーゲン(図1の(A))は、全く不規則な枝分かれ構造からなるものである。グリコーゲンはアミロペクチンに比べて分子も小さく、枝も短く、その多くは水溶性の物質である。これに対してアミロペクチンは、枝も長く、かつグルコースが高密度で充填されており、一般に水不溶性の物質である。
このようなアミロペクチンのクラスター構造は、結晶構造を造る際に有利であり、結晶構造によるデンプン粒が形成される。アミロペクチンのクラスター構造は、ほぼ9nmの規則正しい繰り返し構造であり、この9nmのサイズは組織や種が異なっても余りばらつきが見られない。
アミロペクチンの構造をさらに詳細に見てゆくと、3タイプのα‐1,4−グルコシド鎖を持っている(図2参照)。A鎖は最も外側の鎖で鎖の中に分岐結合を持たない鎖である。B鎖は一つの鎖あたり1つ以上の鎖が分岐結合している鎖であり、B鎖はさらに、1つのクラスターにとどまるB1鎖、2つのクラスターに及んでいるB2鎖、3つのクラスターに及ぶB3鎖などがある。C鎖は還元末端を持っている鎖であり、アミロペクチン1分子あたり1つのC鎖を持っている。
このように、アミロペクチンの構造はほぼ一定ではあるが、植物の種類や品種によりアミロペクチンの構造も微妙に異なってきている。最近の研究によれば、ねっとりとしたデンプンを有するジャポニカと、パサパサとしたデンプンを有するインディカのアミロペクチンの構造上の相違が報告されている。図3の上段(図3の(a))はジャポニカ米のアミロペクチン、図3の下段(図3の(b))はインディカ米のアミロペクチンの構造を模式的に示したものである。クラスターの枝の長さを比べるとインディカ米の方が比較的長く、その密度も比較的密になっている。このためにインディカ米のデンプンの方が糊化が難しくなっていると考えられている。
このようなアミロペクチンの微細な構造上の相違は、アミロペクチンを合成する際の合成方法の相違により生起してくると考えられている。
アミロペクチンは次の4つのクラスの酵素の連続反応で合成されると考えられている。
(1)ADPグルコースピロホスホリラーゼ(ADPglucose pyrophosphorylase(AGP ase))、
(2)デンプン合成酵素(Starch synthase(SS))、
(3)デンプン枝作り酵素(Starch branching enzyme(BE))、
(4)デンプン枝切り酵素(Starch debranching enzyme(DBE))
である。
AGPaseは、デンプン・ポリマーの原材料であるADPグルコースを合成する酵素である。SSは、アミロペクチンの非還元末端にADPグルコースをα‐1,4グルコシド結合で繋ぎ、鎖を伸ばす役割をする。SSがアミロペクチンの鎖を伸ばすのに対し、BEは、アミロペクチンのα‐1,6グルコシド結合を形成する酵素であり、枝分かれ構造の枝分かれ部分を形成させる酵素である。
図4にアミロース、アミロペクチン、及びグリコーゲンの合成過程をまとめた。図4の左側のグリコーゲンの合成は主として動物や細菌類の場合であり、UGPaseはグリコーゲンの材料となるリン酸化グルコースの合成酵素であり、GSはグリコーゲン合成酵素であり、GBEはグリコーゲン枝作り酵素である。
図4の中側は、高等植物の場合のアミロペクチンの合成過程を示すものであり、図中のSSSは水溶性SSのことである。図4の右側は高等植物におけるアミロースの合成過程を示すものであり、GBSSは粒結合デンプン合成酵素I(granule‐bound starch synthaseI(GBSSI))のことである。
このように、高等植物においては、前記した4種類の酵素群により植物の種類に応じたアミロペクチンを産生している。そして、植物の種類によるアミロペクチンの構造の相違は、これらの酵素の種類の違いによるところが大きいと考えられる。
本発明者らは、ジャポニカの日本晴(品種名)及び金南風(品種名)と、インディカのカサラス(品種名)及びIR36(品種名)との胚乳のアミロペクチンの構造を比較し、後者ではα‐1,4−グルコシド鎖におけるα−1,4−グルコースの数(DP)が11以下のものが著しく少なく、かつDPが12以上で24以下のものに富むことを報告してきた(非特許文献4及び5参照)。また、本発明者らは、この2グループのアミロペクチンの構造の相違の原因となっている遺伝子が、スターチシンターゼIIa(SSIIaと略す。)の遺伝子と同じ位置である第6染色体上にちょうど位置していることを見出した。このことはアミロペクチンのDP(α‐1,4−グルコシド鎖におけるα−1,4−グルコースの数)が10以下という短いα‐1,4−グルコシド鎖を伸長して長い鎖を形成することに、SSIIaが極めて重要な役割を果たしていることを示している。
デンプン合成酵素(Starch synthase(SS))には、図4に示されるように3種類のサブタイプが知られており、それぞれスターチシンターゼI(SSIと略す。)、スターチシンターゼII(SSIIと略す。)、及びスターチシンターゼIII(SSIIIと略す。)と呼ばれている。SSIIaはスターチシンターゼII(SSII)のさらにサブタイプである。
一般にイネの胚乳における各スターチシンターゼのサブタイプの含有率は、全スターチシンターゼの約70%がSSIであり、約25%がSSIIIであり、残りの約5%がそれ以外のSS(SSIIaを含む)であるとされており、アミロペクチンのα‐1,4−グルコシド鎖は主としてSSI及びSSIIIにより形成されるものであると考えられていたのであるが、ジャポニカとインディカのアミロペクチンの微細な構造上の相違がSSII、特にSSIIaの機能の相違に起因していたとする本発明者らの知見は驚くべきことである。
本発明者らは、さらに各種のイネについてアミロペクチンの微細構造を比較検討し、その原因となる遺伝子を見出してきた(特許文献1参照)。
WO 03/023024 S. Kato, et al., Rep. Bul. Fak. Terkult, Kyushu Imper. Univ. 1928, 3, 132-147. T. Morinaga., In Studies on Rice Breeding (A separate volume of Japan. J. Breed.) 1954, 4, 1-14. T. T. Chang., Euphytica 1976, 25, 425-441. T. Umemoto, Y. Nakamura, H. Satoh, K. Terashima., Starch, 1999, 51, 58-62. T, Umemoto, M. Yano, A. Shomura, Y. Nakamura., Theor. Appl. Genet. 2002, 104, 1-8.
本発明は、植物、特にイネのデンプンの特性を決定しているスターチシンターゼIIa(SSIIa)の活性を制御しているアミノ酸配列を特定し、これらのアミノ酸を他のアミノ酸に置換することによりSSIIaの活性を制御する方法、そのためのSSIIaの変異体を提供する。さらに、本発明はSSIIaの活性を制御することによりアミロペクチンによるデンプンのクラスター構造を制御し、もって新規なクラスター構造を有する改質デンプンを製造する方法、及びそのための形質転換された植物に関する。
お米には大きく分けてインディカ米とジャポニカ米があり、両者の食味、食感の違いには日本人は特に敏感である。これらの違いは、いくつかの要因が絡んでいると考えられるが、従来はアミロース含量の違いばかりが着目されてきた。
本発明者らは、米デンプンの約70−80%を占めるアミロペクチンの構造に着目し、これまで以下のことを明らかにしてきた。
1)両者の胚乳アミロペクチンの構造は全く異なっており、その単位構造であるクラスタ ーのタイプによって区別される。インディカ米品種の多くが生産するアミロペクチンは クラスターを構成する鎖の長さが長いL型、ジャポニカ米品種の多くが生産するアミロ ペクチンは鎖長の短いS型と分類できる(図5)。
2)両者のアミロペクチンの構造の違いはスターチシンターゼIIa型(SSIIa)が関わっ ており、この酵素が正常であれば、アミロペクチンクラスター内の鎖長を伸長できるた めにL型、異常であれば伸長できないためにS型アミロペクチンになる(図5)。
3)アミロペクチンの構造は、糊化温度の違いに影響を与え、L型アミロペクチンの糊化 開始温度はS型アミロペクチンより10〜15℃高い。
以上の結果から、SSIIaのアミノ酸配列の置換が原因で、SSIIa活性が低下し、それが胚乳アミロペクチンの構造変化とそれに伴う糊化温度の低下を引き起こしていると考えられる。
そこで、本発明者らは、ジャポニカ品種である日本晴と金南風のSSIIa活性の低下を引き起こす原因となるアミノ酸配列を同定するため、まず、各イネのSSIIaのアミノ酸配列を比較した。また、インディカ品種IR36のSSIIa遺伝子をジャポニカ品種金南風に形質転換した。その結果、
4)L型アミロペクチンを持つインディカ品種(Kasalath, IR36)のSSIIa遺伝子に対 してS型アミロペクチンを持つジャポニカ品種である日本晴と金南風のSSIIa遺伝子 は、アミノ酸が置換している箇所が、4カ所存在していた(図6参照)。
5)インディカ品種IR36のSSIIa遺伝子をジャポニカ品種金南風に形質転換したと ころ、胚乳アミロペクチン構造がS型からL型に変更し、それに伴って糊化温度も上昇 した。
即ち、本発明者ら、SSIIaの4カ所のアミノ酸の相違がSSIIaの活性に大きな影響を与えていることを明らかにした。そこで、これらの4カ所のアミノ酸の相違がSSIIaの活性にどのような影響を与えるのかと言うことを検討するために、これらの4カ所のアミノ酸の置換部位をシャッフリングしたコンストラクトを作成し、それらを大腸菌に形質転換して人工的にSSIIaタンパク質を生産させ、それらのSSIIa活性を測定した。その結果、どのアミノ酸置換が活性低下を引き起こす原因であるかが明らかにした。そして、驚くべきことに、インディカ品種のSSIIaの活性とジャポニカ品種SSIIaの活性の中間の活性を有するSSIIaを創生することができることを見出した。即ち、本発明者らは、SSIIaのポイントとなるアミノ酸を置換することによってSSIIa活性をさまざまに制御する技術を確立することができたのである。
即ち、本発明は、イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)のアミノ酸の1種以上を、他のアミノ酸に置換することからなるSSIIaの活性を制御する方法、詳細には、イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の88番目、604番目、737番目、及び781番目からなる群から選ばれたアミノ酸の1種以上を、他のアミノ酸に置換することからなるSSIIaの活性を制御する方法、より詳細には、イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の604番目、737番目、及び781番目からなる群から選ばれたアミノ酸の1種以上を、他のアミノ酸に置換することからなるSSIIaの活性を制御する方法に関する。
また、本発明は、イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)のアミノ酸の1種以上を、他のアミノ酸に置換することからなるSSIIaの活性が制御されたSSIIaの変異体タンパク質に関する。詳細には、本発明は、カサラス、IR36、日本晴、及び金南風からなる群から選ばれた1種のイネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の、88番目、604番目、737番目、及び781番目からなる群から選ばれたアミノ酸の1種以上が、他のアミノ酸に置換されてなるイネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の変異体タンパク質に関する。より詳細には、本発明は、(1)イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の604番目のアミノ酸がグリシン(Gly)であり、737番目のアミノ酸がメチオニン(Met)である、イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の変異体タンパク質、(2)イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の604番目のアミノ酸がグリシン(Gly)であり、737番目のアミノ酸がバリン(Val)であり、かつ781番目のアミノ酸がフェニルアラニン(Phe)であるイネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の変異体タンパク質、(3)イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の88番目のアミノ酸がグルタミン酸(Glu)であり、604番目のアミノ酸がセリン(Ser)である、イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の変異体タンパク質、(4)イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の88番目のアミノ酸がアスパラギン酸(Asp)であり、604番目のアミノ酸がセリン(Ser)であり、737番目のアミノ酸がバリン(Val)であり、781番目のアミノ酸がロイシン(Leu)である、イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の変異体タンパク質、又は(5)イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の88番目のアミノ酸がアスパラギン酸(Asp)であり、604番目のアミノ酸がセリン(Ser)であり、737番目のアミノ酸がメチオニン(Met)であり、781番目のアミノ酸がフェニルアラニン(Phe)である、イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の変異体タンパク質に関する。
さらに、本発明は、前記してきた本発明のイネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の変異体タンパク質をコードするDNA、当該DNAを含有するベクター、当該DNAにより形質転換された植物、及び当該形質転換植物を用いて外来性のSSIIaの遺伝子に応じた特性を有するデンプンを製造する方法に関する。
本発明者らは、デンプンの特性や構造と、これを合成する酵素との関係を解明するために、ジャポニカイネとインディカイネのデンプンの主成分であるアミロペクチンの構造の差異は、両者のSSIIa遺伝子の構造と機能の違いが原因であると考えられることから、インディカイネの1種であるカサラスと、ジャポニカイネの1種である日本晴のSSIIaの遺伝子をクローニングしてきた(特許文献1参照)。
そして、ジャポニカイネのSSIIa遺伝子の機能が、何らかの変異によって、劣っていると考えられる。その原因としては、遺伝子の発現量が顕著に低下したか、酵素としての触媒能が低下したかのいずれかであろうと思われる。前者はプロモーターの変異によって、後者はアミノ酸置換による変異によって引き起こされる可能性が高い。
そこで、両者の遺伝子のプロモーター部分を比較したが、全配列のうちのプロモーター部分は、日本晴では1〜1,341bpであり、カサラスでは1〜1,331bpであった。このプロモーター部分では、カサラスには、中ほどに(702bp)9塩基のギャップがある程度で、両者のサイズや塩基配列の相同性はかなり高かった。このことから、プロモーターの変異に起因しているのではなく、SSIIaのアミノ酸配列に起因している可能性が極めて高いと考えられた。
両者のSSIIaのアミノ酸配列を比較すると、共に810個のアミノ酸からなる点では同じであるが、88番目、99番目、604番目、及び737番目の4箇所において、アミノ酸の種類が異なっていた。これらの違いによって酵素機能の違いが生じる可能性が考えられる。
この4箇所のアミノ酸置換のうち、737番目のアミノ酸配列が、カサラスではV(バリン)のところ、日本晴ではM(メチオニン)となっている。スターチシンターゼのアミノ酸配列中にはいくつかの保存領域が知られているが、そのうちの1つがVGGLRDTV(アミノ酸配列730−737)で植物のスターチシンターゼにおいて高度に保存されていて、リージョン7(Region 7)と命名されている(Li et al., (1999)Plant Physiol. 120: 1147-1155)。イネSSIIaにおいて、737番目のアミノ酸がカサラスではVで保存されているのに対して日本晴ではMに変化している。この変化がSSIIaの機能の低下に関係している可能性があ極めて高いと考えられた。
そこで、さらに他の品種についてもSSIIaの遺伝子のクローニングを試みた。インディカイネとしてIR36と、ジャポニカイネとして金南風のSSIIaの遺伝子をクローニングし、そのアミノ酸配列を検討した。その結果、カサラスとIR36のSSIIaのアミノ酸配列は同じであったが、金南風は737番目のアミノ酸がバリンであるにもかかわらず、ジャポニカタイプのL型のデンプンを産生する。そして、金南風は781番目のアミノ酸がカサラス、IR36、及び日本晴のロイシンとは異なりフェニルアラニンとなっていた。そこで、本発明者らは、SSIIaの810個のアミノ酸のうち次の4箇所のアミノ酸に着目することにした。これらのアミノ酸の番号と各品種のアミノ酸の種類をまとめてアミノ酸の3文字表記で以下に示す。
インディカ ジャポニカ
カサラス IR36 日本晴 金南風
88番目 Glu(gag) Glu(gag) Asp(gac) Asp(gac)
604番目 Gly(ggc) Gly(ggc) Ser(agc) Ser(agc)
737番目 Val(gtg) Val(gtg) Met(atg) Val(gtg)
781番目 Leu(ctc) Leu(ctc) Leu(ctc) Phe(ttc)
これらの関係を図示したのが、図6A(図6上段)である。図6Aは各バーがSSIIaの全長のアミノ酸配列を示しており、上からカサラス、IR36、日本晴、金南風である。カサラスの上に示す#記号が付されている数字はメチオニン(Met)を1番にしたときのアミノ酸の番号であり、金南風の下に示す#記号が付されている数字は翻訳開始点のメチオニン(Met)をコードする塩基を1番にしたときの塩基の番号を示している。アミノ酸の番号で88番、604番、737番、及び781番のいずれか又はこれらの組合せがSSIIaの活性に大きな影響を与えると予想され、その部分の各アミノ酸及びそれをコードする塩基を記載している。上側のカサラスとIR36はインディカイネで、SSIIaの活性がある。下側の日本晴と金南風はジャポニカイネで、SSIIaの活性が無いものである。
本発明者らは、当初リージョン7(Region 7)のアミノ酸配列VGGLRDTV(アミノ酸配列730−737)に基づいて、737番目のアミノ酸であるバリンがメチオニンに変更することにより、SSIIaの活性の有無が決定されると予想していた。しかし、金南風のアミノ酸配列を見ると、737番目のアミノ酸は、活性を有すると予想されるバリンであった。したがって、737番目のアミノ酸のバリンからメチオニンへの変更のみがSSIIaの活性を左右しているのではなく、SSIIaの活性は多くのアミノ酸の組み合わせによって決定されていることがわかった。
そこで、さらに、金南風のSSIIaのアミノ酸配列を検討してみると、781番目のアミノ酸がロイシンからフェニルアラニンに変更されている。そして、88番目と604番目はジャポニカイネの日本晴と同じアスパラギン酸とセリンであった。そうすれば、この88番目と604番目もジャポニカとなる要因であることが予想された。しかし、781番目がフェニルアラニンになっている意義については、これだけのデータからは確定することができなかった。
そこで、本発明者らは、アミノ酸の番号で88番、604番、737番、及び781番のアミノ酸の種類とSSIIaの活性についてさらに検討するために、これらのアミノ酸のすべての組み合わせを合成し、これらのSSIIaの活性を測定して、アミノ酸配列とSSIIaの関連性を解明することにした。
イネのSSIIaの塩基配列を検討すると、翻訳開始点(agt)から204番目に制限酵素PshAIのサイトがあり、1173番目に制限酵素EcoT22Iのサイトがあり、2160番目に制限酵素BsiWIのサイトがあり、さらに2302番目に制限酵素XhoIのサイトがあることがわかる(図6B参照)。SSIIaをコードするDNAを、これらの制限酵素で切断することにより、図6Bの下側に示される4つのフラグメントとすることができ、これらの各フラグメントは、それぞれ88番、604番、737番、及び781番のアミノ酸をコードする部分を含有している。
そして、これらの制限酵素で切断される4種類のフラグメントを、5’領域から順にフラグメント1〜4(図6B中のFrag.1-4)と名付け、これらの各フラグメントがカサラス、IR36、日本晴、及び金南風のSSIIaに出現したアミノ酸のすべての組み合わせになるようなコンストラクトを設計した(図7参照)。
即ち、各フラグメントについて次の2種類のアミノ酸が存在するように設計した。
フラグメント1: 88番目のアミノ酸が、Glu又はAsp、
フラグメント2:604番目のアミノ酸が、Gly又はSer、
フラグメント3:737番目のアミノ酸が、Val又はMet、
フラグメント4:781番目のアミノ酸が、Leu又はPhe、
これらの全ての組み合わせは、図7に示すように16通りとなる。図の左側は各フラグメントを1〜4の順に並べて示しており、その右側の+や−の記号はSS活性を示し、その右側の#印の付いた番号は、各SSIIaの識別番号を示している。図7では上記に示した各フラグメントの左側のアミノ酸を灰色で、右側のアミノ酸を白色で示す。ただし、フラグメント4のPheのみ灰色で斜線を付して示す。SS活性は、後記する活性試験の結果を示し、+印は高活性であることを示し、−印は失活であることを示し、±はそれらの中間の活性を有していることを示している。#印の付された識別番号の4桁の数字は、各桁が4個のフラグメントのそれぞれを示し、それらの各フラグメントのアミノ酸が上記した左側のアミノ酸であるときを1とし、右側のアミノ酸であるときを2として識別している。各識別番号の右側のカッコ内はイネの品種を示している。
各フラグメントは、インディカ種のIR36、日本晴、又は金南風のSSIIa遺伝子を、制限酵素PshAI及び制限酵素EcoT22Iで切断して、切断された断片からフラグメント1を得ることができ、制限酵素EcoT22I及び制限酵素BsiWIで切断して、切断された断片からフラグメント2を得ることができ、制限酵素BsiWI及び制限酵素XhoIで切断して、切断された断片からフラグメント3をえることができ、そして、フラグメント4は制限酵素XhoIのサイトからストップコドンまでの領域と定義されるが、制限酵素XhoIとストップコドンの下流の適当な制限酵素、例えばSalIで切断して制限酵素XhoIのサイトからストップコドンまでの領域からなるフラグメント4を含有する断片を得ることができる。そして、得られた各フラグメントを任意にライゲーションして、必要に応じてコドンが一致するように調整して、それぞれの目的のアミノ酸となるコンストラクトを構築することができる。
例えば、図7に示す#1112のコンストラクトの場合では、IR36から得られたフラグメント1〜3と金南風から得られたフラグメント4とをライゲーションして、目的のコンストラクトを得ることができる。このようにして製造されたコンストラクトの塩基配列を配列表の配列番号7に示し、そのアミノ酸配列を配列番号8に示す。この配列表の配列番号7に示される塩基配列の1番目は、配列表の配列番号1の塩基配列の205番目の塩基に相当するものである。なお、配列番号1の205番目からは、cgccgcgcg・・・・・となっているが、末端に制限酵素サイトを作るために、配列番号7では、cgtcgcgcg・・・・・と変更されているが、アミノ酸には変更はない。この#1112のコンストラクトはフラグメント4が金南風に由来しているから、塩基の2136〜2140番目が、tttccとなっている。
同様にして製造された#2112のコンストラクトの塩基配列を配列表の配列番号9に示し、そのアミノ酸配列を配列番号10に示す。この#2112のコンストラクトもフラグメント4が金南風に由来するために、塩基の2136〜2140番目が、tttccとなっている。
このようにして16通りのコンストラクトを製造し、それらの両末端に作成したPshAIおよびSalIサイトを用いて、内部配列を大腸菌発現用ベクターであるpET43b(Novagen)のタグタンパク質の下流にクローニングした。このベクターは、IPTGの存在下で下流側に挿入された遺伝子が発現できるように設計されている。インサートの入ったクローンを大腸菌発現用宿主であるAD494 pLysS(Novagen)に形質転換し、それぞれのインサートを含むコロニーを単離した。
得られた形質転換大腸菌を培養して、培養液からサンプリングして、SDS−PAGEにより、目的タンパク質の発現を確認した。結果を図8に図面に代わる写真で示す。図8のSDS−PAGEは、左から日本晴のDNAを導入した場合、IR36のDNAを導入した場合、右側はコントロールを示す。コントロールは、ベクターのみを挿入した大腸菌を用いた。各場合は1mMのIPTG(大腸菌にインサートした遺伝子を発現させるための試薬)を添加した場合を+記号でそれぞれの左側に示し、添加しない場合を−印でそれぞれの右側に示す。それぞれの場合についてサンプルのアプライ量が10μLと5μLの場合を示している。日本晴とIR36における矢印(原図では赤色)は、IPTGの添加により発現した目的のタンパク質を示している。SSIIaの分子量は88.9kDaであるが、ここで発現させたタンパク質はタグが付着しているために約160kDaのところにバンドが出現している。コントロールにおける矢印(原図では赤色)はタグタンパク質(Nusタグ、Hisタグ、Sタグ)を示している。
目的のタンパク質が発現している大腸菌のけん濁液から後述する試験法によりSS活性を測定した。大腸菌に人工的に発現させたタンパク質は、使用した発現ベクターのpET43bの構造上、SSIIaタンパク質の上流域にNus−Tag、His−Tag、S−Tagが付着している。これらが付着したままSS活性の測定を試みた。SS活性測定法としては、Native−PAGE/SS活性染色法により定性的な活性を確認し、試験管内で行うADP遊離法により定量化を行った。
Native−PAGE/SS活性染色法では、ヨードヨードカリ液で染色した。SSIIa活性が正常であると予想されるIR36では、ゲル上に茶色い帯が生じ、この方法でSSIIa活性によって得られたポリグルカンを検出できることを確認した。一方、SSIIa遺伝子を含まないベクターを形質転換したもの(Control)では、IR36で見られた茶色い帯が得られなかった(図9参照)。したがって、この方法でSSIIa活性を測定できることが確認できた。
試験管内で行うADP遊離法では、SS活性は、鎖長を伸長したときに基質ADP−グルコースからADPが遊離するため、遊離したADPを定量することで、SS活性を測定することができる(Nishi et al., 2001 Plant Physiol., 127; 459-472)。
結果を図9にまとめて図面に代わる写真で示す。図9の上段はNative−PAGE/SS活性染色法の結果を示し、図9の下段はADP遊離法の結果をグラフ化して示したものである。図9のA〜Eは、それぞれ実験を行った日別に示されている。A〜Cで16通りの全てが実験されており、Aの左側末端はベクターのみを導入した大腸菌を用いたものをコントロールとして示している。図9のDは、中間型の#2112及び#1112、並びにやや中間型に近い#1122と対照としての#1111(IR36)を行ったものである。Eは高活性型の#2211、#2111、#1211、及び#1111(IR36)を行ったものである。
ADP遊離法では、大腸菌に内在するグリコーゲンシンターゼ(GS)による活性が図9におけるグラフで約0.1程度現れる。したがって、図9の下段のグラフでSS相対活性が0.1程度のものは導入したSSIIaの活性ではなく、宿主の大腸菌の内在性のGSの値だけが示されていることになる。
図9の上段のNative−PAGE/SS活性染色法では、SS活性が存在すれば茶色のバンドとして染色される。その濃さによりSS活性の強弱を判定することができる。なお、大腸菌による発現では、イネのような明瞭なバンドとはならなくて、図9に示されるようなテーリングが生じる。
これらの結果から、インディカイネのIR36のような高い活性を示すもの(図7では+印で示される高活性型)を白色に、コントロールと同程度の活性しか示さないもの(図7では−印で示される失活型)を黒色に、それらの中間の活性を示すもの(図7では±印で示される中間型)を灰色にしたグラフで示している。
以上の結果をまとめると次のようになる(図7参照)。
(1)737番目と781番目のアミノ酸が正常(それぞれValとLeu)であれば、88番目と604番目の変異の有無によらず、SSIIaは高活性型(タイプ1)となる。
(2)737番目のアミノ酸がValがMetに変異した場合、781番目のアミノ酸の変異の有無にかかわらず、SSIIaは失活型(タイプ2)となる。
(3)781番目のアミノ酸がPheに変異した場合、604番目のアミノ酸が正常(Gly)であれば、SSIIaの活性は、若干の活性を有し前記タイプ1とタイプ2の中間の活性を有する中間型(タイプ3)となる。
(4)781番目のアミノ酸がPheに変異した場合、604番目のアミノ酸が変異(Ser)していれば、SSIIaは失活型(タイプ2)となる。
即ち、781番目のアミノ酸が変異した場合は、604番目のアミノ酸の変異の有無に影響される。言い換えると、781番目のアミノ酸と604番目のアミノ酸の間には相互作用が存在し、781番目のアミノ酸が変異しても、604番目のアミノ酸に変異がなければ(インディカ型であれば)、SSIIa活性はある程度レスキューされる。このような相互作用の例は今まで知られておらず、極めて興味深いものであり、本発明により初めてあきらかにされたものである。
以上の結果を総合すると、SSIIaの活性に重要なサイトは一カ所ではなく、しかも複数の箇所が優先順位をもっていることが判明した。即ち、最もSSIIa活性に必須な箇所は737番目のアミノ酸のバリン(Val)であり、ここがメチオニン(Met)に変異すれば例外なく活性が低下する。第2に重要な変異箇所は781番目のロイシン(Leu)である。781番目のアミノ酸がフェニルアラニン(Phe)に変異するとSSIIa活性に影響が出るが、604番目のアミノ酸によって活性低下の度合いが異なる。604番目のアミノ酸がセリン(Ser)(変異型)の場合には完全に失活するが、グリシン(Gly)(正常型)の場合には、中間型程度の活性を示すようになる。また、88番目の変異サイトは重要ではないことが明らかになった。
以上、本発明によって、人工的に作成したSSIIaの遺伝子にさまざまな性質を付与でき、こうした遺伝子を植物に導入するなどによって、形質転換植物に新規デンプンを作らせる技術が確立された。特に、781番目のアミノ酸と604番目のアミノ酸の相互作用によって、自然には存在しない中間型の活性を有する人工SSIIa遺伝子は、ジャポニカ型とインディカ型の中間型の新規デンプンを作成する上で利用価値が高い。
以上のように、本発明は、イネのデンプンにおける味覚や糊化温度などの特性の相違が生じる原因となっているイネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の活性が変化する原因をアミノ酸配列に基づいて解明することができた。即ち、スターチシンターゼIIa(SSIIa)の4種、より詳細には3種のアミノ酸がSSIIaの活性を決定するものであることを本発明が明らかにした。さらに、各種のSSIIaの変異体タンパク質の活性を試験した結果、ジャポニカイネ(失活型SSIIa(タイプ2))やインディカイネ(高活性型(タイプ1))とは異なる中間型の活性を有するSSIIa(タイプ3)が存在することが明らかになった。この型のSSIIaは、天然では未だ確認されておらず、人工的な変異体タンパク質であり、このSSIIaによりジャポニカイネのデンプンとインディカイネのデンプンの中間の特性(例えば、糊化温度など)を有するデンプンが産生されるものと期待され、食糧としてだけでなく、産業用デンプンとしても新種のデンプンとして期待される。
したがって、本発明は、イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)のアミノ酸の1種以上を、他のアミノ酸に置換することからなるSSIIaの活性を制御する方法を提供するものであり、この方法は天然のSSIIaのいずれかのアミノ酸を他のアミノ酸に変更してSSIIaの活性を変化させるものであり、SSIIaの活性が変化するのであればアミノ酸の種類、数は特に限定はない。例えば、配列表の配列番号8又は10で示されるアミノ酸配列を有する蛋白質のように、天然のSSIIaの69番目のアミノ酸から810番目のアミノ酸に相当するアミノ酸配列からなるものであってもよい。
ここで、他のアミノ酸に置換するとは、1:1で弛緩する場合に限定されるものではなく、1:2以上の付加的置換や、1:0のような削除的置換を包含している。より詳細には、本発明は、イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の88番目、604番目、737番目、及び781番目からなる群から選ばれたアミノ酸の1種以上を、他のアミノ酸に置換することからなるSSIIaの活性を制御する方法、さらに詳細には、イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の604番目、737番目、及び781番目からなる群から選ばれたアミノ酸の1種以上を、他のアミノ酸に置換することからなるSSIIaの活性を制御する方法を提供するものである。この方法における「他のアミノ酸に置換」するとは、前記したような付加的置換及び削除的置換を包含するものである。
本発明における置換するアミノ酸としては、天然型のα−アミノ酸が好ましいがこれに限定されるものではなく、デンプンを産生する植物において発現可能であり、SSIIaの活性を変更することができるものであれば任意のアミノ酸を使用することができる。
本発明の好ましい置換の態様としては、イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の88番目のアミノ酸を、アスパラギン酸(Asp)又はグルタミン酸(Glu)のいずれかとする方法、604番目のアミノ酸を、グリシン(Gly)又はセリン(Ser)のいずれかとする方法、737番目のアミノ酸を、バリン(Val)又はメチオニン(Met)のいずれかとする方法、781番目のアミノ酸を、ロイシン(Lue)又はフェニルアラニン(Phe)のいずれかとする方法、及びこれらの任意の2種以上の組み合わせからなる方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
例えば、SSIIaの737番目のアミノ酸を、メチオニン(Met)にしてスターチシンターゼIIa(SSIIa)の活性を失活型とする方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
本発明の方法におけるアミノ酸を変更する手段としては、特に制限はないが、SSIIaをコードする遺伝子の塩基の変更によって行う方法が例示される。ここで、塩基を変更するとは、存在している塩基を他の塩基に1:1で置換する方法、1:2以上、好ましくはコドンを形成できるように3塩基単位での付加的置換をする方法、及び当該塩基の属するコドンを削除する削除的置換をする方法が包含されている。
このような塩基を置換する手法としては、特に制限はなく、目的の塩基配列を導入することができる各種の手法を採用することができる。例えば、ポイントミューテーションのような変異によってもよく、また置換使用とする塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを作成し、適当な制限酵素部位でSSIIaの遺伝子を切断した後、当該オリゴヌクレオチドを導入する方法によることもできる。
本発明は、イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)のアミノ酸の1種以上を、他のアミノ酸に置換することからなるSSIIaの活性が制御されたSSIIaの変異体タンパク質、より詳細には、本発明は、カサラス、IR36、日本晴、及び金南風からなる群から選ばれた1種のイネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の、88番目、604番目、737番目、及び781番目からなる群から選ばれたアミノ酸の1種以上が、他のアミノ酸に置換されてなるイネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の変異体タンパク質を提供する。カサラスとIR36のSSIIaのアミノ酸配列は全く同じであるから、結局、IR36、日本晴、及び金南風の3品種からなる群から選ばれた1種のイネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)、即ち公知になっているイネのSSIIaのアミノ酸配列に基づいて、当該SSIIa類のいずれかの、88番目、604番目、737番目、及び781番目からなる群から選ばれたアミノ酸の1種以上が、他のアミノ酸に置換されてなるイネのSSIIaの新規なアミノ酸配列を有する変異体タンパク質を提供するものである。ここで、他のアミノ酸に置換されてなるとは、前記した置換の態様と同じである。
本発明のSSIIaの変異体タンパク質の好ましい例としては、イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の604番目のアミノ酸がグリシン(Gly)であり、737番目のアミノ酸がメチオニン(Met)である、イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の変異体タンパク質、イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の604番目のアミノ酸がグリシン(Gly)であり、737番目のアミノ酸がバリン(Val)であり、かつ781番目のアミノ酸がフェニルアラニン(Phe)であるイネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の変異体タンパク質、イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の88番目のアミノ酸がグルタミン酸(Glu)であり、604番目のアミノ酸がセリン(Ser)である、イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の変異体タンパク質、イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の88番目のアミノ酸がアスパラギン酸(Asp)であり、604番目のアミノ酸がセリン(Ser)であり、737番目のアミノ酸がバリン(Val)であり、781番目のアミノ酸がロイシン(Leu)である、イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の変異体タンパク質、イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の88番目のアミノ酸がアスパラギン酸(Asp)であり、604番目のアミノ酸がセリン(Ser)であり、737番目のアミノ酸がメチオニン(Met)であり、781番目のアミノ酸がフェニルアラニン(Phe)である、イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の変異体タンパク質、及びこれらの任意の2種以上の組み合わせからなる変異体タンパク質が挙げられるが、これに限定されるものではない。
本発明は前記してきたイネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の変異体タンパク質をコードするDNAを提供する。本発明のDNAは発現可能な形態であってもよいし、そうでなくても、前記した本発明のSSIIaの変異体タンパク質の全長又は変異部分を含む部分長をコードするものであってもよい。本発明のDNAは1本鎖であっても、2本鎖であってもよく、前記した本発明のSSIIaのの変異体を発現させるためのものだけでなく、これらのDNAの存在を特異的に検出・同定または定量するためのプローブや、PCRなどの増幅用のプライマーとして使用可能な部分長のものであってもよい。
さらに、本発明のDNAをプラスミドなどのベクターに組み込んだものであってもよい。したがって、本発明は本発明のDNAを含有するベクターを提供するものである。本発明のベクターは発現可能なものであってもよいが、かならずしも発現可能である必要はない。使用されるベクターとしては、プラスミドやウイルスなどが挙げられる。
このようなベクターには必要に応じて、各種のプロモーター、レポーター遺伝子、タグ、耐性遺伝子などを含有させることもできる。
前記した本発明のDNAを用いて、各種の生物、例えば、大腸菌のような微生物、イネなどの高等植物を形質転換することも可能である。形質転換する手法としては、公知の各種の手法、例えば、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、アグロバクテリウム法などの手法を使用することもできる。
したがって、本発明はこのような手法により、形質転換された植物を提供するものである。本発明における宿主となる植物としては、デンプンを産生することができる植物、好ましくは高等植物であれば特に制限はないが、使用する遺伝子がイネ由来のものであることから、イネ科植物が好ましいがこれに限定されるものではない。
宿主植物は、内在性のSSIIaの遺伝子を有したままでもよいが、内在性のSSIIaの遺伝子を欠損した変異体であるのが好ましい。内在性の遺伝子を欠損させる方法としてはジーンターゲンッティング法などによってもよいが、発現を抑制できればよいと意味でRNAi法なども使用することが可能である。
また、本発明は、前記した形質転換植物を用いて外来性のSSIIaの遺伝子に応じた特性を有するデンプンを製造する方法を提供する。本発明のこの方法におけるSSIIaの遺伝子に応じた特性を有するデンプンとは、元の宿主となる植物が産生するデンプンとは異なるアミロペクチンのクラスター構造、特にグルコースの鎖長の分布が異なるデンプンのことである。
デンプンの味覚や糊化温度などの特性の多くは、このクラスター構造に依存しており、本発明のこの方法により製造されるデンプンは、デンプン合成におけるSSIIaの活性が制御されているために、その制御下でのクラスター構造を有するものとなり、使用目的に応じた特性を有するデンプンの製造が可能となる。
したがって、本発明は、食糧用としてのデンプンだけでなく、各種の特性を有する産業用デンプンを産生させるための基本技術を提供するものである。
本発明は、植物におけるデンプンの合成、特にイネにおけるデンプンの合成において、その味覚や糊化温度などの特性を決定する重要な因子としてのSSIIaの活性を調節できることを明らかにするものであり、本発明は、目的の特性を有するデンプンを得るための手法として遺伝子の操作により可能であることを具体的に示すものである。また、本発明は、イネのデンプンとしてインディカイネの作るデンプンやジャポニカイネの作るデンプンの他に、これらの中間型の特性を有するデンプンを製造させることを可能とする中間型の活性を有するSSIIaの存在を初めて明らかにしたものである。
SSIIaなどの酵素の活性低下に関わるアミノ酸置換は、同時に活性に重要な部位であることは言うまでもない。これらの部位をさまざまなアミノ酸に変更することで、酵素活性をさまざまなレベルに変えることができる。即ち、SSIIaの活性を増強させることができたなら、既存のインディカ米よりも高い糊化温度をもつデンプンを開発することができることになる。また、インディカ型の活性型SSIIaと、ジャポニカ型の不活性型SSIIaの中間の活性をもつ人工SSIIa遺伝子をジャポニカ型イネに導入することによって新規な特性を有するデンプンを作成することができる。このように、本発明によるSSIIaの活性の制御により、目的に応じた特性を有するデンプンの製造が可能となる。
また、植物、特にイネにおける他のSSのアイソザイム、特にSSIIaと相同性の高いSSIIb、SSIIcの機能は現在まで全く未解明であり、本発明によるSSIIaの活性部位と比較することでこれらの機能解明の手がかりになるものである。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
イネの3品種からのコンストラクトの作成
インディカ品種であるIR36、ジャポニカ品種である日本晴、金南風の3品種のそれぞれに由来するSSIIaのmRNAからcDNAを作成し、これを鋳型に、SSIIaのN末端と予想される位置より2残基上流に制限酵素PshAIサイト含むようにプライマーを設計し、これと終始コドンとSalIサイトを含むプライマーを用いてPCRを行った。それぞれのプライマーの配列は以下の通りである。
フォーワードプライマー: 5’-ATGAATTCATAGACAAACGTCGCGCGGATGATATCTAGTCG-3’
リバースプライマー : 5’-CTCTTCTACCGCAGGAATAGGGGAAGGGGGAGAACG-3’
得られたPCR産物をpGEM−T easyベクターにクローニングし、それぞれ3品種のコンストラクトを作成した。
シャッフリングコンストラクトの作成
日本晴と金南風のSSIIa遺伝子は、インディカ種のカサラスやIR36の遺伝子に比べてアミノ酸置換を生じる変異がそれぞれ3カ所、即ち日本晴では、アミノ酸の88番目、604番目、及び737番目であり、金南風では88番目、604番目、及び781番目に変異が存在し、このうち2カ所が共通した変異であった(図6A参照)。したがって、これらの変異の箇所を合わせると合計4カ所(塩基配列で、264番目、 1810番目、2209番目、及び2341番目)にアミノ酸の置換が生じる変異があり、これらの箇所をそれぞれ独立に組み換えることができるように、これらの箇所をそれぞれ1箇所づつ含むフラグメント化するために、制限酵素部位として、塩基配列で204番目のPshAI、1173番目のEcoT22I、2160番目のBsiWI、及び2302番目のXhoIを選んだ(図6A参照)。
これらの制限酵素で切断されて形成される4種類の断片を、5’領域から順にフラグメント1〜4と名付け、これらがすべての組み合わせになるようなコンストラクトを設計した(図7参照)。
これらのコンストラクトの製造方法を図に示す#1222を例として簡単に説明する。まず、IR36のSSIIa遺伝子を制限酵素PshAI及びEcoT22Iで切断して、アガロースゲル電気泳動により分離して切り出して抽出してフラグメント1とした。同様に、日本晴れのSSIIa遺伝子をEcoT22I及びBsiWIで切断して抽出してフラグメント2とし、また、これをBsiWI及びXhoIで切断して抽出してフラグメント3とした。さらに、金南風のSSIIa遺伝子をXhoI及びSalIで切断して抽出してフラグメント4を含有する断片とした。これらをライゲーションして、目的の#1222のコンストラクトを製造した。
形質転換大腸菌の作成
実施例1及び実施例2で作成したコンストラクトのPshAIおよびSalIサイトを用いて、これらのコンストラクトを大腸菌発現用ベクターであるpET43b(Novagen)のタグタンパク質の下流にそれぞれクローニングした。インサートの入ったクローンを大腸菌発現用宿主であるAD494 pLysS(Novagen)にそれぞれ形質転換し、インサートを含むコロニーを単離した。
大腸菌のコロニーを2mlのカベニシリン50μg/ml、クロラムフェニコール34μg/mlを含むLB培地(LBCbCm)で37℃で回転培養し、OD600nm=0.6〜1.0になったところで、4℃で終夜保存した。
翌日、4℃で9500rpmで1分間遠心分離することで沈殿を得て、これを2mlの前記と同じLB培地でけん濁して、50mlのLB培地で希釈し、OD600nm=0.6〜1.0になるまで37℃で振とう培養した。
5分間氷上に放置して冷却した後、1mMになるようにIPTGを添加し、さらに37℃で2時間、振とう培養した。
培養液から4mlを取り、5分間氷上に置き、4℃で15000rpmで2分間遠心分離することで沈殿を集め、800μlのPBSでけん濁した。
これに電気泳動用サンプルバッファー(0.1M トリス−HCl、pH6.8、10%SDS、12%2−メルカプトエタノール、0.2%BPB(Bromo Phenol Blue)、20%グリセリン)を加え、超音波を5秒を2回かけ、4℃で15000rpmで1分間遠心分離した上清のSDS−PAGEにより、目的タンパク質の発現を確認した。結果を図8に示す。
SS活性の測定(Native-PAGE/SS活性染色法)
実施例3において大腸菌で人工的に発現させたタンパク質は、使用した発現ベクターのpET43bの構造上、SSIIaタンパク質の上流域にNus−Tag、His−Tag、S−Tagが付着している。これらが付着したままSS活性の測定を試みた。
目的のタンパク質が発現している大腸菌けん濁液4mlを採取した。この大腸菌けん濁液に100μlの抽出バッファー(50mM トリス−HCl、pH7.5、10%グリセリン、10mM EDTA−Na、5mM ジチオスレイトール、0.4 mM PMSF/EtOH)を加えて超音波で破砕し、15000rpm、10分間、4℃で遠心分離して得た上清にNative−PAGE用サンプルバッファー(0.3M トリス−HCl(pH7.0)、0.1%ブロモフェノールブルー、50%グリセロール)を1/2体積加えて電気泳動に用いた。電気泳動には7.5%アクリルアミドゲルを用いた。フロントが濃縮ゲルを通過するまで7.5mA、通過してから15mAの定常電流で4℃下で電気泳動し、フロントが出てから30分で電流を止めた。その後、洗浄液(クエン酸ナトリウム緩衝液pH7.5、0.5M クエン酸ナトリウム、100mM バイシン−NaOH(Bicine-NaOH)、pH7.5、0.5mM EDTA、10%グリセロール、2mM ジチオスレイトール)で2回洗浄し(各15分)、洗浄液にADPGを1mMになるように加えた反応液中で20時間30℃で振とうしながら反応させた。反応後、ヨードヨードカリ液(1%KI/0.1%I)で染色した。
結果を図9上段に示す。SSIIaの活性が正常であると予想されるIR36では、ゲル状に茶色い帯が生じ、SSIIaの遺伝子を含まないベクターを形質転換したもの(コントロール)では、IR36で見られた茶色い帯が生じなかった。
SS活性の測定(ADP遊離法)
SS活性は、鎖長を伸長したときに基質ADP−グルコースからADPが遊離するため、遊離したADPを定量することで、SS活性を測定することができる(Nishi et al., 2001)。反応液(50mMバイシン−NaOH(Bicine-NaOH)、pH7.4、500mMクエン酸−NaOH、pH7.4、20mM DTT、2mM ADPグルコース、2mg/ml牡蛎グリコーゲン(oyster glycogen))に、大腸菌のけん濁液4mlに抽出バッファー((50mMトリス−HCl、pH7.5、10%グリセロール、10mM EDTA−Na、5mM ジチオスレイトール、0.4mM PMSF/EtOH)を加えて超音波で破砕し、15000rpm、10分、4℃で遠心分離して得た上清を加え、20分間、30℃で反応させた。煮沸することで反応を停止し、これに第2反応液(50mM HEPES−NaOH、pH7.4、10mM クレアチンホスファート(Creatin phosphate)、200mM KCl、10mM MgCl、0.5mg/mlクレアチンホスホキナーゼ(Creatin phosphokinase))を100μl加え、30℃で30分反応させた。煮沸することで反応を停止し、遠心分離した上清150μlに第3反応液(125mM HEPES−NaOH、pH7.5、20mM MgCl、10mM グルコース、1mM NADP)を加え、ヘキソキナーゼ(hexokinase)とG6Pデヒドロゲナーゼ(dehydrogenase)を加える前と加えた後、1時間後の340nmの吸光度の差を測定し、SS活性値とした。
本発明は、植物におけるデンプンの合成、特にイネにおけるデンプンの合成において、その味覚や糊化温度などの特性を決定する重要な因子としてのSSIIaの活性を調節できることを明らかにするものであり、本発明は、目的の特性を有するデンプンを得るための手法として遺伝子の操作により可能であることを具体的に示すものである。また、本発明は、イネのデンプンとしてインディカイネの作るデンプンやジャポニカイネの作るデンプンの他に、これらの中間型の特性を有するデンプンを製造させることを可能とする中間型の活性を有するSSIIaを提供するものである。
したがって、本発明によれば、本発明で開示された部位のアミノ酸をさまざまなアミノ酸に変更することで、酵素活性をさまざまなレベルに変えることができ、植物のデンプン合成に関与するSSIIaの活性を増強させたり、失活させたり、またその中間的な活性にすることを可能とし、既存のインディカ米よりも高い糊化温度をもつデンプンや、さまざまな糊化温度を有するデンプンを開発することが可能となる。また、インディカ型の活性型SSIIaと、ジャポニカ型の不活性型SSIIaの中間の活性をもつ人工SSIIaの遺伝子をジャポニカ型イネに導入することによってインディカ−ジャポニカ中間型のデンプンを製造することができ、デンプン産業のみならず、食糧問題においても本発明の寄与は大きく、産業上極めて有用である。
図1は、生物における貯蔵性ポリグルカンの構造を示す概念図である。 図2は、アミロペクチンのクラスター構造を示すものである。 図3は、イネ胚乳におけるジャポニカとインディカとのアミロペクチンのクラスター構造の相違を示すものである。 図4は、生物における貯蔵性ポリグルカンである、アミロース、アミロペクチン、及びグリコーゲンの生合成経路の概要を示すものである。 図5は、L型アミロペクチンとS型アミロペクチンのクラスター構造と、SSIIaの活性の関係を模式的に示したものである。 図6は、イネの種々の品種のSSIIaのアミノ酸配列をにおける主要な部位のアミノ酸を模式的に示し(図6A)、その遺伝子における制限酵素部位と本発明により分けられた各フラグメントの構造を模式的に示したものである(図6B)。 図7は、本発明により作成されたSSIIaの4つのフラグメントにおける全ての組み合わせによるイネSSIIaのアミノ酸配列の構造を模式的に示し、それらにおけるSSIIaの活性の試験結果、及び各SSIIa識別番号のそれぞれ示す。 図8は、本発明の方法によりSSIIaの遺伝子で形質転換された大腸菌における、当該遺伝子の発現を確認する試験の結果を示す図面に代わる写真である。 図9は、本発明の方法により製造されたイネSSIIaの変異体タンパク質のSS活性を測定した結果を示す図面に代わる写真である。図9の上段はNative-PAGE/SS活性染色法による結果を示し、下段はADP遊離法による結果をグラフ化したものである。
配列番号1; IR36のSSIIaの翻訳領域の塩基配列
配列番号2; IR36のSSIIaのアミノ酸配列
配列番号3; 金南風のSSIIaの翻訳領域の塩基配列
配列番号4; 金南風のSSIIaのアミノ酸配列
配列番号5; フォーワードプライマー
配列番号6; リバースプライマー
配列番号7; #1112の構築物の塩基配列
配列番号8; #1112の構築物のアミノ酸配列
配列番号9; #2112の構築物の塩基配列
配列番号10; #2112の構築物のアミノ酸配列

Claims (16)

  1. イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)のアミノ酸配列に変異を導入することによりSSIIaの活性を制御する方法であって、下記の(1)〜(11)の工程を含む方法;
    (1)SSIIaのアミノ酸配列中の737番目のアミノ酸がバリン(Val)であるか、Val以外であるかを判定する工程、
    (2)工程(1)で737番目のアミノ酸がValの場合、
    781番目のアミノ酸がロイシン(Leu)であるか、Leu以外であるかを判定する工程、
    (3)工程(2)で781番目のアミノ酸がLeuと判定された場合、
    737番目のアミノ酸をVal以外に置換するか、又は
    781番目のアミノ酸をフェニルアラニン(Phe)に置換する工程、
    (4)工程(2)で781番目のアミノ酸がLeu以外と判定された場合、
    604番目のアミノ酸がグリシン(Gly)であるか、Gly以外であるかを判定する工程、
    (5)工程(4)で604番目のアミノ酸がGlyと判定された場合、
    737番目のアミノ酸をVal以外に置換するか、又は
    781番目のアミノ酸をLeuに置換するか、又は
    604番目のアミノ酸をGly以外に置換する工程、
    (6)工程(4)で604番目のアミノ酸がGly以外と判定された場合、
    781番目のアミノ酸をLeuに置換するか、又は
    604番目のアミノ酸をGlyに置換する工程、
    (7)工程(1)で737番目のアミノ酸がVal以外と判定された場合、
    781番目のアミノ酸がLeuであるか、Leu以外であるかを判定する工程、
    (8)工程(7)で781番目のアミノ酸がLeuと判定された場合、
    737番目のアミノ酸をValに置換する工程、
    (9)工程(7)で781番目のアミノ酸がLeu以外と判定された場合、
    604番目のアミノ酸がGlyであるか、Gly以外であるかを判定する工程、
    (10)工程(9)で604番目のアミノ酸がGlyと判定された場合、
    737番目のアミノ酸をValに置換する工程、
    (11)工程(9)で604番目のアミノ酸がGly以外と判定された場合、
    737番目のアミノ酸をValに置換し、781番目をLeuに置換するか、又は
    737番目のアミノ酸をValに置換し、604番目のアミノ酸をGlyに置換する工程。
  2. イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)のアミノ酸配列に変異を導入することによりSSIIaの活性を回復するための方法であって、以下の工程(1)〜(5)の工程を含む方法;
    (1)SSIIaのアミノ酸配列中の737番目のアミノ酸がValであるか、Val以外であるかを判定する工程、
    (2)工程(1)で737番目のアミノ酸がValと判定された場合、
    781番目のアミノ酸がLeu以外であることを確認し、
    604番目のアミノ酸がGlyであるか、Gly以外であるかを判定する工程、
    (3)工程(2)で604番目のアミノ酸がGlyであると判定された場合、
    781番目のアミノ酸をLeuに置換する工程、
    (4)工程(2)で604番目のアミノ酸がGly以外であると判定された場合、
    781番目のアミノ酸をLeuに置換するか、又は
    604番目のアミノ酸をGlyに置換する工程、
    (5)工程(1)で737番目のアミノ酸がVal以外と判定された場合、
    737番目のアミノ酸をValに置換する工程。
  3. イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)がSSIIaの活性を有しており、かつSSIIaのアミノ酸配列の737番目のアミノ酸がValの場合に、SSIIaの活性を低下又は失活させるための方法であって、以下の(1)〜(3)の工程を含む方法;
    (1)781番目のアミノ酸がLeuであるか、Leu以外であるかを判定する工程、
    (2)工程(1)で781番目のアミノ酸がLeuと判定された場合、
    737番目のアミノ酸をVal以外のアミノ酸に置換するか、又は
    781番目のアミノ酸をPheに置換する工程、
    (3)工程(1)で781番目のアミノ酸がLeu以外と判定された場合、
    604番目のアミノ酸がGlyであることを確認し、
    737番目のアミノ酸をVal以外のアミノ酸に置換するか、又は
    604番目のアミノ酸をGly以外に置換する工程。
  4. イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)のアミノ酸配列に変異を導入することによりSSIIaの活性をジャポニカ型(失活型)とインディカ型の中間型の活性にするための方法であって、以下の(1)〜(10)の工程を含む方法;
    (1)SSIIaのアミノ酸配列中の737番目のアミノ酸がValであるか、Val以外であるかを判定する工程、
    (2)工程(1)で737番目のアミノ酸がValと判定された場合、
    781番目のアミノ酸がLeuであるか、Leu以外であるかを判定する工程、
    (3)工程(2)で781番目のアミノ酸がLeuと判定された場合、
    604番目のアミノ酸がGlyであるか、Gly以外であるかを判定する工程、
    (4)工程(3)で604番目のアミノ酸がGlyと判定された場合、
    781番目のアミノ酸をPheに置換する工程、
    (5)工程(3)で604番目のアミノ酸がGly以外と判定された場合、
    781番目のアミノ酸をPheに置換し、かつ604番目のアミノ酸をGlyに置換する工程、
    (6)工程(2)で781番目のアミノ酸がLeu以外と判定された場合、
    604番目のアミノ酸がGly以外であることを確認し、
    604番目のアミノ酸をGlyに置換する工程、
    (7)工程(1)で737番目のアミノ酸がVal以外と判定された場合、
    781番目のアミノ酸がLeuであるか、Leu以外であるかを判定する工程、
    (8)工程(7)で781番目のアミノ酸がLeuであると判定された場合、
    604番目のアミノ酸がGlyであるか、Gly以外であるかを判定する工程、
    (9)工程(8)で604番目のアミノ酸がGlyであると判定された場合、
    737番目のアミノ酸をValに置換し、かつ781番目のアミノ酸をPheに置換する工程、
    (10)工程(8)で604番目のアミノ酸がGly以外であると判定された場合、
    737番目のアミノ酸をValに置換し、781番目のアミノ酸をPheに置換し、かつ604番目のアミノ酸をGlyに置換する工程。
  5. 前記737番目のValを置換する際のVal以外のアミノ酸が、メチオニン(Met)である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
  6. 前記604番目のGlyを置換する際のGly以外のアミノ酸が、セリン(Ser)である、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
  7. 前記アミノ酸配列への変異の導入が、遺伝子の塩基の変更によって行われる請求項1〜のいずれかに記載の方法。
  8. イネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の604番目のアミノ酸がGlyであり、737番目のアミノ酸がValであり、かつ781番目のアミノ酸がPheであるイネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の変異体タンパク質であって、ジャポニカ型(失活型)とインディカ型の中間型の活性を有する変異体タンパク質。
  9. インディカ型のイネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)のアミノ酸配列において、781番目のLeuがPheに置換されており、かつ604番目のアミノ酸がGlyでない場合にはGlyに置換されている、請求項に記載の変異タンパク質。
  10. ジャポニカ型のイネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)のアミノ酸配列において、737番目のアミノ酸がValでない場合にはValに置換されており、781番目のアミノ酸がLeuである場合にはPheに置換されており、及び604番目のアミノ酸がGlyでない場合にはGlyに置換されている、請求項に記載の変異タンパク質。
  11. 請求項10のいずれかに記載のイネのスターチシンターゼIIa(SSIIa)の変異体タンパク質であって、ジャポニカ型(失活型)とインディカ型の中間型の活性を有する変異タンパク質をコードするDNA。
  12. 請求項11に記載のDNAを含有するベクター。
  13. 請求項12に記載のDNAにより形質転換された植物。
  14. 宿主植物が内在性のSSIIaの遺伝子を欠損した変異体である請求項13に記載の形質転換植物。
  15. 植物が高等植物である請求項13又は14に記載の形質転換された植物。
  16. 請求項1315のいずれかに記載の形質転換植物を用いて外来性のSSIIaの遺伝子に応じた特性を有する、ジャポニカ型(失活型)とインディカ型の中間型のデンプンを製造する方法。
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