JP2009000112A - デンプン合成酵素類 - Google Patents
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Abstract
【課題】植物デンプンを合成する酵素系を遺伝子工学的に改造した酵素系によりデンプン特性の異なる新規なデンプンを製造する方法を提供する。
【解決手段】デンプンを生産する生物のデンプンの枝作り酵素の1種が欠損した変異体に、当該酵素をコードする遺伝子を導入し元の野生型よりも該酵素を過剰に発現させる方法及び当該酵素の発現量が元の野生型とは異なる変異体製造する方法、そしてそれによって得られるデンプンの枝作り酵素の1種の発現量が元の野生型とは異なる変異体。イネのイソアミラーゼのプロモーター及びイソアミラーゼ遺伝子の上流にプロモーターを配置してなる遺伝子を植物に導入して、デンプンの製造の際のイソアミラーゼの発現がイネと同様に制御されたデンプンを製造する方法。
【選択図】なし
【解決手段】デンプンを生産する生物のデンプンの枝作り酵素の1種が欠損した変異体に、当該酵素をコードする遺伝子を導入し元の野生型よりも該酵素を過剰に発現させる方法及び当該酵素の発現量が元の野生型とは異なる変異体製造する方法、そしてそれによって得られるデンプンの枝作り酵素の1種の発現量が元の野生型とは異なる変異体。イネのイソアミラーゼのプロモーター及びイソアミラーゼ遺伝子の上流にプロモーターを配置してなる遺伝子を植物に導入して、デンプンの製造の際のイソアミラーゼの発現がイネと同様に制御されたデンプンを製造する方法。
【選択図】なし
Description
本発明は、植物デンプンを改変する方法、植物デンプンを合成する酵素系を遺伝子工学的に改造した酵素系によりデンプン特性の異なる新規なデンプンを製造する方法に関する。
本発明は、植物のデンプンを合成する酵素群である、デンプン合成酵素(Starch synthase(SS))、デンプン枝作り酵素(Starch branching enzyme(SBE))、及びデンプン枝切り酵素(Starch debranching enzyme(DBE))の遺伝子工学的な改変によるデンプン特性の異なる新規なデンプンを製造する方法、そのための酵素類、及びそれをコードする遺伝子に関する。
詳細には、本発明は、デンプン合成酵素(Starch synthase(SS))のサブタイプのひとつであるスターチシンターゼIIaをコードする遺伝子に関する。本発明者らは、イネの種類に応じたデンプンの構造や物性の相違がイネのデンプン合成構成酵素のひとつであるスターチシンターゼIIaに起因していることを解明し、イネのスターチシンターゼIIaをコードする遺伝子を単離し、その構造を解明したことによるものである。より詳細には、本発明は、ジャポニカの例として日本晴(品種名)を、そしてインディカの例としてカサラス(品種名)を用いて、その各々のスターチシンターゼIIaをコードする遺伝子を単離し、その構造を比較することにより、その構造上の相違とデンプンの構造や物性の相違との相関関係を明らかにし、この関連性を利用してイネが産生するデンプンの構造や物性を改変させる方法、そのための遺伝子が改変されたイネ、またイネのスターチシンターゼIIaに特異的な塩基配列を有する遺伝子断片を用いてイネの種類を検出又は同定する方法を提供するものである。
また、本発明は、デンプン枝作り酵素(Starch branching enzyme(SBE))に関する。生体においては、通常は代謝反応ネットワークにおけるある酵素の効果は、一定量以上になるとほとんどあるいは全く変化しないのが通例である。本発明者らは、生体において特定の酵素が過剰に発現する系を見出した。即ち、本発明は、デンプンを生産する生物のデンプンの枝作り酵素(SBE)の1種を過剰に発現させる方法、当該酵素の発現量がもとの野生型とは異なる変異体、及びその製造方法に関する。本発明は、元の野生型の生物が生産するデンプンとは異なる形質を有するデンプンを製造する方法、その方法で製造された形質の異なるデンプン、及び当該酵素の発現量が元の野生型とは異なる変異体Bを選別し、当該変異体Bを用いて元の野生型が生産するデンプンの形質を改質する方法に関する。
さらに、本発明はデンプン枝切り酵素(Starch debranching enzyme(DBE))のプロモーターに関する。本発明は、デンプンのアミロペクチンの生合成の重要な役割を果たしているイソアミラーゼの遺伝子を発現させるための新規なプロモーターを提供するものである。より詳細には、本発明は、イソアミラーゼ発現用のイネ由来の新規なプロモーターに関する。また、本発明は、これらのプロモーターを含有するベクター、形質転換体、及びイソアミラーゼの発現方法に関する。
米は穀物植物として全世界で広く栽培され、世界の人口の約1/3は米食によっている。米は栽培される地域により物理化学的な特性が異なっていることはよく知られている。そして、米の味覚は米のデンプンの質に大きく依存しており、各地域によりその地域に応じた米の種類が選択されてきた。
米の栽培品種としては、オリザサティバ(Oryza sativa)とグラベリマステウド(glaberrima Steud)の2種類がある。前者はアジアで栽培され熱帯、亜熱帯及び温帯地域に広く分布しているが、後者は西アフリカ地域に極限されている。
雑種の花粉の不捻における遺伝学的分析に基づいて、加藤らはオリザサティバ(Oryza sativa)をジャポニカ(japonica)とインディカ(indica)に分類した(S.Kato,et al.,Rep.Bul.Fak.Terkult,Kyushu Iraper.Univ.1928,3,132−147.)。また、森永(T.Morinaga.,In Studies on Rice Breeding(A separate volume of Japan.J.Breed.)1954,4,1−14.)及びチャング(T.T.Chang.,Euphytica 1976,25,425−441.)は、インディカ(indica)、ジャポニカ(japonica)及びジャバニカ(javanica)の3種に分類することを提唱した。
このようにオリザサティバ(Oryza sativa)(以下、イネという。)の分類については種々の意見が提案され、遺伝学的な分析やイネの種子に含まれているデンプンや脂質の違いなどに基づくイネの分類が報告されてきている。本明細書においては、エステラーゼのアイソザイムの分析、並びに生理学的及び生化学的特性からイネをインディカ(Indica)及び中国インディカ(Chinese Indica)、並びに、温帯ジャポニカ(Temperate Japonica)及び熱帯ジャポニカ(Tropical Japonica)の4種に分類することにする。
イネの味覚は主としてそのデンプンによるものであり、ジャポニカのねっとりとした味覚や、インディカのパサパサとした味覚は、それらのデンプンの質の相違によるものであることがわかってきている。また、デンプンは穀物の主成分として食品や飼料として使用されるだけでなく、デキストリン、オリゴ糖、異性化糖などに加工されて加工食品などにも利用され、また、糊や添加剤などとして工業製品やその原材料としても利用されている。
そもそもデンプンは植物のエネルギー貯蔵物質であり、α−ポリグルコースからなる多糖類の1種で、アミロースとアミロペクチンからなっている。グリコーゲンもデンプンと同様にα−ポリグルコースからなる多糖類であるが、これは主として動物のエネルギー貯蔵物質として利用されている。
デンプンと一言でいっても、稲のデンプン、じゃがいものデンプン、小麦のデンプン、とうもろこしのデンプンなど、植物の種類や品種によりデンプンの形、味、糊化したときの物性などが微妙に異なり、我々はその用途に応じて各種の植物由来のデンプンを使い分けてきている。このようなデンプンの性質の違いはデンプンの微細な化学構造による違いから来ていると説明されてきている。
デンプンは主としてアミロース(Amylose)とアミロペクチン(Amylopectin)からできているものであり、これらによって植物のデンプン粒が形成さているが、デンプン粒の形成にはアミロースは必須ではないとされている。
アミロースは、貯蔵デンプン中の20〜30%を占め、グルコース・ユニットがα−1,4グルコシド結合で繋がり、少量のα−1,6グルコシド結合の枝を含む線状のらせん状の分子である。一方、アミロペクチンはデンプン粒中の70−80%を占め、グルコース・ユニットがα−1,4グルコシド結合で伸び、主鎖と平行にα−1,6グルコシド結合で枝が繋がった構造をとっている。アミロペクチンのこの特徴的な構造は”クラスター”構造と呼ばれている。
また、動物やバクテリアの貯蔵エネルギーであるグリコーゲン(Glycogen)もデンプンと同じくグルコース・ホモポリマーで構成されているが、アミロペクチンのようなクラスター構造は持っておらず、グリコーゲンは”tree like”や”bush like”構造と呼ばれる不規則な枝分かれ構造であると報告されている。
図1にアミロース、アミロペクチン、及びグリコーゲンの構造を示す。図1に示される線はα−グルコースの連鎖であり、アミロース(図1の(C))は枝分かれがほとんど無くα−1,4−グルコースのほぼ1本鎖の構造をしている。アミロペクチン(図1の(B))は規則正しい枝分かれ構造を有し、α−1,4−グルコースの連鎖とα−1,6−グルコースの枝分かれ構造(クラスター)を一定の間隔で規則正しく有している。また、動物などのエネルギー貯蔵物質であるグリコーゲン(図1の(A))は、全く不規則な枝分かれ構造からなるものである。グリコーゲンはアミロペクチンに比べて分子も小さく、枝も短く、その多くは水溶性の物質である。これに対してアミロペクチンは、枝も長く、かつグルコースが高密度で充填されており、一般に水不溶性の物質である。
このようなアミロペクチンのクラスター構造は、結晶構造を造る際に有利であり、結晶構造によるデンプン粒が形成される。アミロペクチンのクラスター構造は、ほぼ9nmの規則正しい繰り返し構造であり、この9nmのサイズは組織や種が異なっても余りばらつきが見られない。
このようなアミロペクチンのクラスター構造は、結晶構造を造る際に有利であり、結晶構造によるデンプン粒が形成される。アミロペクチンのクラスター構造は、ほぼ9nmの規則正しい繰り返し構造であり、この9nmのサイズは組織や種が異なっても余りばらつきが見られない。
アミロペクチンの構造をさらに詳細に見てゆくと、3タイプのα−1,4−グルコシド鎖を持っている(図2参照)。A鎖は最も外側の鎖で鎖の中に分岐結合を持たない鎖である。B鎖は一つの鎖あたり1つ以上の鎖が分岐結合している鎖であり、B鎖はさらに、1つのクラスターにとどまるB1鎖、2つのクラスターに及んでいるB2鎖、3つのクラスターに及ぶB3鎖などがある。C鎖は還元末端を持っている鎖であり、アミロペクチン1分子あたり1つのC鎖を持っている。
このように、アミロペクチンの構造はほぼ一定ではあるが、植物の種類や品種によりアミロペクチンの構造も微妙に異なってきている。最近の研究によれば、ねっとりとしたデンプンを有するジャポニカと、パサパサとしたデンプンを有するインディカのアミロペクチンの構造上の相違が報告されている。図3の上段(図3の(a))はジャポニカ米のアミロペクチン、図3の下段(図3の(b))はインディカ米のアミロペクチンの構造を模式的に示したものである。クラスターの枝の長さを比べるとインディカ米の方が比較的長く、その密度も比較的密になっている。このためにインディカ米のデンプンの方が糊化が難しくなっていると考えられている。
このようなアミロペクチンの微細な構造上の相違は、アミロペクチンを合成する際の合成方法の相違により生起してくると考えられている。アミロペクチンは次の4つのクラスの酵素の連続反応で合成されると考えられている。
(1)ADPグルコースピロホスホリラーゼ(ADPglucose pyrophosphorylase(AGPase))、
(2)デンプン合成酵素(Starch synthase(SS))、
(3)デンプン枝作り酵素(Starch branching enzyme(SBE))、
(4)デンプン枝切り酵素(Starch debranching enzyme(DBE))
である。
(1)ADPグルコースピロホスホリラーゼ(ADPglucose pyrophosphorylase(AGPase))、
(2)デンプン合成酵素(Starch synthase(SS))、
(3)デンプン枝作り酵素(Starch branching enzyme(SBE))、
(4)デンプン枝切り酵素(Starch debranching enzyme(DBE))
である。
AGPaseは、デンプン・ポリマーの原材料であるADPグルコースを合成する酵素である。デンプン合成酵素(以下、SSと略す。)は、アミロペクチンの非還元末端にADPグルコースをα−1,4グルコシド結合で繋ぎ、鎖を伸ばす役割をする。SSがアミロペクチンの鎖を伸ばすのに対し、デンプン枝作り酵素(以下、SBEと略す)は、アミロペクチンのα−1,6グルコシド結合を形成する酵素であり、枝分かれ構造の枝分かれ部分を形成させる酵素である。
図4にアミロース、アミロペクチン、及びグリコーゲンの合成過程をまとめた。図4の左側のグリコーゲンの合成は主として動物や細菌類の場合であり、UGPaseはグリコーゲンの材料となるリン酸化グルコースの合成酵素であり、GSはグリコーゲン合成酵素であり、GBEはグリコーゲン枝作り酵素である。図4の中側は、高等植物の場合のアミロペクチンの合成過程を示すものであり、図中のSSSは水溶性SSのことである。図4の右側は高等植物におけるアミロースの合成過程を示すものであり、GBSSは粒結合デンプン合成酵素I(granule−bound starch synthaseI(GBSSI))のことである。
このように、高等植物においては、前記した4種類の酵素群により植物の種類に応じたアミロペクチンを産生している。そして、植物の種類によるアミロペクチンの構造の相違は、これらの酵素の種類の違いによるところが大きいと考えられる。
デンプン合成酵素(SS)には、図4に示されるように3種類のサブタイプが知られており、それぞれスターチシンターゼI(SSIと略す。)、スターチシンターゼII(SSIIと略す。)、及びスターチシンターゼIII(SSIIIと略す。)と呼ばれている。SSIIaはスターチシンターゼII(SSII)のさらにサブタイプである。
一般にイネの胚乳における各スターチシンターゼのサブタイプの含有率は、全スターチシンターゼの約70%がSSIであり、約25%がSSIIIであり、残りの約5%がそれ以外のSS(SSIIaを含む)であるとされており、アミロペクチンのα−1,4−グルコシド鎖は主としてSSI及びSSIIIにより形成されるものであると考えられていた。
SSはアミロペクチンの鎖を伸ばす酵素であり、アミロペクチンにおけるα−1,4−グルコシド鎖のα−1,4−グルコースの数(以下、DPと略す。)と深く係わっていると考えられている。本発明者らは、ジャポニカの日本晴(品種名)及び金南風(品種名)と、インディカのカサラス(品種名)及びIR36(品種名)との胚乳のアミロペクチンの構造を比較し、後者ではα−1,4−グルコシド鎖におけるα−1,4−グルコースの数(DP)が11以下のものが著しく少なく、かつDPが12以上で24以下のものに富むことを報告(T.Umemoto,Y.Nakamura,H.Satoh,K.Terashima.,Starch,1999,51,58−62.;Y.Nakamura,A.Sakurai,Y.Inaba,K.Kimura,N.Iwasawa,T.Nagamine.,Starch 2002,54,117−131;T.Umemoto,M.Yano,A.Shomura,Y.Nakamura.,Theor.Appl.Genet.2002,104,1−8)してきており、α−1,4−グルコースの数(DP)がSSの活性と関係していると考えられているが、その詳細は不明であった。
また、デンプン枝作り酵素(SBE)は、デンプンやグリコーゲンのα−1,6グリコシル結合を作成する唯一の酵素で、本酵素の働きによってグルコース分子を無数に結合した巨大分子、即ちデンプンの主成分であるアミロペクチンやグリコーゲンが形成される。一方、植物細胞で合成されるアミロペクチンと動物やバクテリアで生産されるグリコーゲンでは、高分子内における分岐様式が大きく異なっている。グリコーゲンでは、前者ではα−1,6分岐結合が分子全体にランダムに形成されるのに対し、アミロペクチンでは、分岐構造が規則性を持って形成されるために、単位構造(クラスターと呼ばれる)が多数タンデム状に連結した構造を示す。この構造の違いが、両者の物性の大きな違いを生む原因となっている。植物のアミロベクチン特有の分岐構造には、SBEの働きが関与している。
植物のSBEには大きく、BEI型とBEII型の2つのサブタイプが存在するが、両タイプの機能の違いはまだ十分には解明されていない。
さらに、従来、SSとSBEがアミロペクチンの枝の頻度を決め、クラスター構造を形成するのに重要な役割を果たしているのではないかと考えられてきた。即ち、前記したデンプン枝切り酵素(DBE)はクラスターの形成に必要ない酵素であると考えられていた。しかし、この分解酵素が欠損した植物ではアミロペクチンのクラスターを形成することができないことが明らかにされ、DBEがクラスター構造の形成に不可欠であることを示すことが報告されている(M.G.James,et al.,Plant Physiol.,(1995)7,417−429;Y.Nakamura,et al.,Plant J.,(1997)12(1),143−153;A.Kubo,et al.,Plant Phys.,(1999)121,399−409)。
DBEについてのこれらの報告から、アミロペクチンにおけるクラスター構造の形成は、SSとSBEによる新たな結合の形成だけなく、SBEにより余分に形成された枝分かれを、DBEにより分解してクラスター構造が規則正しく維持されることが分かってきた。
α−1,6グルコシド結合の枝を分解するDBEは、基質の違いから2種類のものが知られている。そのひとつはイソアミラーゼ(Isoamylase)であり、他のひとつがプルラナーゼ(Pullulanase(また、R−enzymeやlimit dextrinaseと呼ばれることもある))である。これらの2種類のDBEのうちイソアミラーゼは、グリコーゲンやフィトグリコーゲン(phytoglycogen)のα−1,6グルコシド結合の枝を分解することが出来るが、プルラン(pullulan)には作用しない。一方、プルラナーゼはプルランには作用するが、グリコーゲンやフィトグリコーゲンには作用しない。
α−1,6グルコシド結合の枝を分解するDBEは、基質の違いから2種類のものが知られている。そのひとつはイソアミラーゼ(Isoamylase)であり、他のひとつがプルラナーゼ(Pullulanase(また、R−enzymeやlimit dextrinaseと呼ばれることもある))である。これらの2種類のDBEのうちイソアミラーゼは、グリコーゲンやフィトグリコーゲン(phytoglycogen)のα−1,6グルコシド結合の枝を分解することが出来るが、プルラン(pullulan)には作用しない。一方、プルラナーゼはプルランには作用するが、グリコーゲンやフィトグリコーゲンには作用しない。
デンプンのクラスター構造を形成させるのに重要な存在であるイソアミラーゼは植物の種類により微妙に異なっているものと推測され、各植物固有のアミロペクチンを形成するものと推測される。また、枝切り酵素のイソアミラーゼが必要なときに必要な量だけ発現させるように、イソアミラーゼの発現の時期や量を制御しているプロモーターも植物に固有のものと考えられ、このような制御により植物固有のアミロペクチンが産生ものと考えられている。
例えば、ジャポニカ米のイソアミラーゼのプロモーターをインディカ米のイソアミラーゼのプロモーターとして導入することにより、イソアミラーゼの発現がジャポニカ米のアミロペクチンの合成時と同じように制御され、枝切り酵素自体はインディカ米のイソアミラーゼであるが、その発現はジャポニカ米のイソアミラーゼの発現と同様に制御され、ジャポニカ米のデンプンとインディカ米のデンプンとのミックスされたデンプンを作る植物体を得ることができるようになるかもしれない。また、イソアミラーゼが同じであるなら、別の植物のプロモーターを導入することによりもとの植物と同様なデンプンをその植物に産生させることができるようになるかもしれない。例えば、耐寒性のあるイネに、おいしいデンプンを作るイネのプロモーターを導入することにより、耐寒性でおいしいデンプンを作るイネを作出することができるかもしれない。
このように、イソアミラーゼのプロモーターは、イソアミラーゼ自体と同様に植物が植物固有のデンプンを作るためのキーとなっているものであり、イソアミラーゼのプロモーターを単離、同定することは、そのメカニズムの解明や植物の改変のみならず、新種のデンプンを創出ということも重要である。
本発明者らは、ジャポニカの日本晴(品種名)及び金南風(品種名)と、インディカのカサラス(品種名)及びIR36(品種名)との胚乳のアミロペクチンの構造を比較し、後者ではα−1,4−グルコシド鎖におけるα−1,4−グルコースの数(DP)が11以下のものが著しく少なく、かつDPが12以上で24以下のものに富むことを報告してきた(T.Umemoto,Y.Nakamura,H.Satoh,K.Terashima.,Starch,1999,51,58−62.;T,Umemoto,M.Yano,A.Shomura,Y.Nakamura.,Theor.Appl.Genet.2002,104,1−8)。
本発明者らは、本明細書に記載しているようにさらに各種のイネについてアミロペクチンの微細構造を比較検討し、その原因となる遺伝子を見出した。即ち、本発明者らは、これらのアミロペクチンの微細構造の相違の原因となっている遺伝子が、スターチシンターゼIIa(以下、SSIIaと略す。)の遺伝子と同じ位置である第6染色体上にちょうど位置していることを見出した。このことはアミロペクチンのDP(α−1,4−グルコシド鎖におけるα−1,4−グルコースの数)が10以下という短いα−1,4−グルコシド鎖を伸長して長い鎖を形成することに、SSIIaが極めて重要な役割を果たしていることを示している。
従来、アミロペクチンのα−1,4−グルコシド鎖は主としてSSI及びSSIIIにより形成されるものであると考えられていたのであるが、ジャポニカとインディカのアミロペクチンの微細な構造上の相違がSSII、特にSSIIaの機能の相違に起因していたとする本発明者らの知見は驚くべきことである。
そして、本発明者らは、インディカ米カサラス(Kasalath)とジャポニカ米日本晴のアミロペクチンの構造の相違を検討し、その構造の相違がスターチシンターゼIIa(SSIIa)によるものであるものであることを解明し、そして、インディカ米Kasalathとジャポニカ米日本晴のSSIIa遺伝子の全塩基配列を決定した。両遺伝子構造の違いがSSIIaの活性の強弱に影響し、その結果アミロペクチンの構造の違いを生じると考えられる。
イネのSSIIaはアミロペクチンの側鎖の伸長に関わっている。この酵素の強弱がアミロペクチンの側鎖の長短に影響し、これによりデンプンの物性や味が劇的に変化する。その原因が今回明らかにされた塩基配列に起因しており、今後、変異部分の改変により、側鎖の長さを自由に改変させ、新規デンプン形質を作成することができることになる。
また、イネのデンプン枝作り酵素(SBE)にはBEI、BEIIa、BEIIbの3つのアイゾザイムが存在すると考えられている。本発明者らによるBEIIb遺伝子が欠損したae変異体(amylose−exetender(ae)の変異体)の解析から、BEIIbの機能が明らかになりつつある(A.Nishi,Y.Nakamura,N.Tanaka and H.Satoh,(2001)Plant Physiology,127,459−472)。即ち、本発明者らは、当該ae変異体にBEIIb遺伝子を形質転換し、デンプンの性質が野生型に回復するかを検証することで、BEIIbの特異的な機能を明らかにし、同時に、形質転換イネにおいて、導入したBEIIb遺伝子の発現の強弱によって、さまざまな性質を示す新形質デンプンが出来る事を初めて明らかにした。通常代謝反応ネットワークにおいては、ある酵素の効果は、一定量以上になるとほとんどあるいは全く変化しないのが通例である。それに対して本発明の場合には、BEIIbの活性に応じて、全く性質の異なるデンプンが生産されるようになることを本発明者らは初めて見出した。本発明の過剰発現によるBEIIb遺伝子の制御によって酵素の活性をさまざまなレベルに変動させ、多様なデンプンを生産する方法が初めて明らかにされた。
即ち、本発明者らは、デンプンを生産する生物のデンプンの枝作り酵素の1種が欠損した変異体に、当該酵素をコードする遺伝子を導入することにより、当該酵素の発現量が変化することを見出した。また、当該酵素の発現量に応じて形質の異なるデンプンが生産されることも見出した。より詳細には、イネのBEIIbの遺伝子が欠損したae変異体にBEIIb遺伝子を形質転換することにより、形質転換イネにおいて、導入したBEIIb遺伝子の発現の強弱によって、さまざまな性質を示す新形質のデンプンを生産することができる新規な変異体が生成することを見出した。通常の代謝反応ネットワークにおいては、ある酵素の効果は、一定量以上になるとほとんどあるいは全く変化しないのが通例であるが、それに対して本発明では、導入した遺伝子が野生型とは当該酵素の発現量を異にし、それに応じてBEIIbの活性が異なることから、元の野生型が生産するデンプンとは全く性質の異なるデンプンが生産されるようになることは驚くべきことである。
さらに、本発明者らは、イネ、特にジャポニカ米におけるイソアミラーゼのプロモーターを見出した。
本発明は、植物のデンプン合成酵素系の1種又は2種以上の酵素を遺伝子工学的に改変して、野生型の植物が製造するデンプンとは異なる特性を有する新規なデンプンを製造する方法を提供するものである。即ち、本発明は、植物が生産するデンプンの形質を改質する方法、元の野生型とは形質が異なるデンプンを製造する方法、及び形質が改変されたデンプンを提供するものである。
詳細には、本発明は、第一にデンプン合成酵素IIa(SSIIa)に関するものであり、第二にデンプン枝作り酵素IIb(BEIIb)に関するものであり、第三にデンプン枝切り酵素の1種であるイソアミラーゼのプロモーターに関するものである。
より詳細には、本発明は、インディカ米、ジャポニカ米のアミロペクチンの鎖長分布や、デンプンの物性や味に影響を与えている原因となる遺伝子を解明し、その構造の相違やそれに基づく機能を明らかにすることを目的としている。
また、本発明は、この遺伝子構造の相違を利用し、その機能を制御することによりデンプンの物性や味が改変されたデンプンを製造する方法を提供することを目的としている。
さらに、本発明は、イネ、特にジャポニカ米におけるイソアミラーゼのプロモーターを提供するものである。また、本発明は前記したイソアミラーゼのプロモーターが導入された植物、及び当該植物が産生する新規なデンプンの製造方法を提供するものである。
さらに詳細には、本発明は、イネのスターチシンターゼIIaをコードする遺伝子に関する。より詳細には、イネが、ジャポニカ米の日本晴(品種名)又はインディカ米のカサラス(品種名)のであるスターチシンターゼIIaをコードする遺伝子に関する。さらに詳細には、スターチシンターゼIIaをコードする遺伝子が、配列表の配列番号1若しくは2に示される塩基配列、又はストリージェントな条件下でそれとハイブダイズし得る塩基配列を有するものであるイネのスターチシンターゼIIaをコードする遺伝子に関する。本発明のスターチシンターゼIIaをコードする遺伝子はプロモーター領域を含むものであってもよいし、含まないものであってもよい。
また、本発明は、前記したイネのスターチシンターゼIIaをコードする遺伝子を発現させるためのプロモーターに関する。
さらに、本発明は、前記したイネのスターチシンターゼIIaをコードする遺伝子の塩基配列、又はそれと相同性を有するようにイネのスターチシンターゼIIaをコードする遺伝子の塩基配列が改変された遺伝子改変イネデンプンに関する。
また、本発明は、イネのスターチシンターゼIIaをコードする遺伝子とそのプロモーター領域の遺伝子の塩基配列の全部又は一部を、他の種類のイネのスターチシンターゼIIaをコードする遺伝子とそのプロモーター領域の遺伝子の塩基配列に対応するように改変された遺伝子改変イネを用いて、元のイネとは異なる鎖長分布、物性又は味を有するデンプンを製造する方法に関する。
さらに、本発明は、イネのスターチシンターゼIIaをコードする遺伝子の塩基配列になかの、イネのスターチシンターゼIIa遺伝子に特異的な塩基配列を含有してなるオリゴヌクレオチド、及びそれを用いたイネの種類を検出又は同定する方法に関する。
また、本発明は、デンプンを生産する生物のデンプンの枝作り酵素の1種が、元の野生型の生物とは異なる量発現する変異体を用いて、元の野生型の生物が生産するデンプンとは異なる形質を有するデンプンを製造する方法に関する。より詳細には、本発明は、イネのデンプンの枝作り酵素の1種である枝作り酵素IIb(BEIIb)の発現量が元の野生型の生物とは異なる変異体を用いて、元のイネが生産するデンプンとは異なる形質を有するデンプンを製造する方法に関する。
さらに、本発明は、元の野生型の生物が生産するデンプンとは異なる形質を有するデンプンに関する。より詳細には、本発明は、イネのデンプンの枝作り酵素の1種である枝作り酵素IIb(BEIIb)の発現量が元の野生型の生物とは異なる変異体を用いた、元のイネが生産するデンプンとは異なる形質を有するデンプンに関する。本発明のデンプンの形質は、好ましくはデンプンの糊化の特性により示されるものであり、また、デンプンの単位構造(クラスター)を形成する鎖の長さが、元の野生型の生物が生産するデンプンのそれとは異なることを特徴とするデンプンである。
さらに、本発明は、デンプンを生産する生物のデンプンの枝作り酵素の1種が欠損した変異体Aを製造し、次いでこの変異体Aに当該酵素をコードする遺伝子を導入して、当該酵素の発現量が元の野生型とは異なる変異体Bを選別し、当該変異体Bを用いて元の野生型が生産するデンプンの形質を改質する方法に関する。より詳細には、イネの枝作り酵素の1種である枝作り酵素IIb(BEIIb)が欠損した変異体Aを製造し、次いでこの変異体Aに当該酵素をコードする遺伝子を導入して、当該酵素の発現量が元の野生型とは異なる変異体Bを選別し、当該変異体Bを用いて元の野生型が生産するデンプンの形質を改質する方法に関する。
また、本発明は、デンプンを生産する生物のデンプンの枝作り酵素の1種が欠損した変異体に、当該酵素をコードする遺伝子を導入して、当該酵素を元の野生型よりも過剰に発現させる方法に関する。より詳細には、本発明は、イネのデンプンの枝作り酵素の1種である枝作り酵素IIb(BEIIb)を野生型よりも過剰に発現させる方法に関する。
さらに、本発明は、デンプンを生産する生物のデンプンの枝作り酵素の1種が欠損した変異体に、当該酵素をコードする遺伝子を導入して、当該酵素の発現量が元の野生型とは異なる種を選別することからなる、デンプンの枝作り酵素の1種の発現量が元の野生型とは異なる変異体を製造する方法に関する。そして、当該酵素の発現量の相違により、元の野生型の生物とは異なる形質を有するデンプンを生産することを特徴とする変異体の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、イネのデンプンの枝作り酵素の1種である枝作り酵素IIb(BEIIb)の発現量が元の野生型とは異なる変異体を製造する方法に関する。
さらに、本発明は、デンプンを生産する生物のデンプンの枝作り酵素の1種の発現量が元の野生型とは異なる変異体に関する。そして、当該酵素の発現量の相違により、元の野生型の生物とは異なる形質を有するデンプンを生産することを特徴とする変異体に関する。より詳細には、本発明は、イネのデンプンの枝作り酵素の1種である枝作り酵素IIb(BEIIb)の発現量が元の野生型とは異なる変異体に関する。
また、本発明は、イネのイソアミラーゼのプロモーターに関する。好ましくは配列表の配列番号1に記載された塩基配列、この一部の塩基は置換、欠失、もしくは他の塩基が付加されてなる塩基配列、又はこれらの塩基配列にストリージェントな条件下でハイブリダイズし得る塩基配列を有するイネのイソアミラーゼのプロモーターに関する。
また、本発明は、植物のイソアミラーゼのプロモーターが、前記した本発明のプロモーターで置換された形質転換植物に関する。
さらに、本発明は、イソアミラーゼ遺伝子の上流に前記した本発明のプロモーターを配置してなる遺伝子を植物に導入して、デンプンの製造の際のイソアミラーゼの発現がイネと同様に制御されたデンプンを製造する方法に関する。
本発明は、第一にデンプン合成酵素IIa(SSIIa)による改変、第二にデンプン枝作り酵素IIb(BEIIb)による改変、及び第三にデンプン枝切り酵素の1種であるイソアミラーゼのプロモーターによるデンプンの改変に関するものである。以下、これらを順に説明する。
1.デンプン合成酵素IIa(SSIIa)による改変
本発明者らは、各種のイネのデンプンの物性や構造を調べた(Y.Nakamura,A.Sakurai,Y.Inaba,K.Kimura,N.Iwasawa,T.Nagamine.Starch 2002,54,117−131.)。そして、イネの種類によるデンプンの違いを物性面のみならず、アミロペクチンの構造から分析し、次いでこのようなアミロペクチンの構造の違いが生じる原因となる遺伝子を解明することにした。
本発明者らは、各種のイネのデンプンの物性や構造を調べた(Y.Nakamura,A.Sakurai,Y.Inaba,K.Kimura,N.Iwasawa,T.Nagamine.Starch 2002,54,117−131.)。そして、イネの種類によるデンプンの違いを物性面のみならず、アミロペクチンの構造から分析し、次いでこのようなアミロペクチンの構造の違いが生じる原因となる遺伝子を解明することにした。
まず、本発明者らは世界各地で栽培されている各種のイネの中から、温帯ジャポニカ(Temperate Japonica)47品種、熱帯ジャポニカ(Tropical Japonica)34品種、インディカ23品種、および中国のインディカ25品種を収集し、それぞれのデンプンを解析して検討した。その結果を以下の表1〜表4に示す。
アミロペクチンの微細構造を分析するために、アミロペクチンをイソアミラーゼで分解し、各アミロペクチンのα−1,4−鎖の鎖長のモル分布をキャピラリー電気泳動で分析した。この方法は、各々のα−1,4−鎖におけるα−1,4−グルコースの数(鎖長(DP))を100個まで、各々の鎖長における全体に対するモル分率として定量的に調べることができるので、種々の品種におけるアミロペクチンの微細構造を検討には好都合のものである。本発明者らは、先にジャポニカは、インディカに比べて、鎖長(DP)が25以上のものについては両者に明確な相違はないが、鎖長が11以下のものが多く分布し、鎖長が12〜24のものは少ないことを報告してきた。アミロペクチンのクラスターの長さは、アミロペクチンのソースとして使用される植物の品種の依存していることはよくしられており、インディカとジャポニカのアミロペクチンの微細構造の相違が前述したような極僅かなものであることは驚くべきことであった。
アミロペクチンの微細構造を分析するために、アミロペクチンをイソアミラーゼで分解し、各アミロペクチンのα−1,4−鎖の鎖長のモル分布をキャピラリー電気泳動で分析した。この方法は、各々のα−1,4−鎖におけるα−1,4−グルコースの数(鎖長(DP))を100個まで、各々の鎖長における全体に対するモル分率として定量的に調べることができるので、種々の品種におけるアミロペクチンの微細構造を検討には好都合のものである。本発明者らは、先にジャポニカは、インディカに比べて、鎖長(DP)が25以上のものについては両者に明確な相違はないが、鎖長が11以下のものが多く分布し、鎖長が12〜24のものは少ないことを報告してきた。アミロペクチンのクラスターの長さは、アミロペクチンのソースとして使用される植物の品種の依存していることはよくしられており、インディカとジャポニカのアミロペクチンの微細構造の相違が前述したような極僅かなものであることは驚くべきことであった。
また、アミロペクチンのクラスター内の鎖長、即ちA鎖とB1鎖の最大長は24であることが報告されており(Hanashiro et al.,1996)、そこで各イネについて、鎖長が24までについて、鎖長が24までの量に対する鎖長が10以下である量の比(DPが10以下の量/DPが24以下の量)を算出した。この比は、アミロペクチンのクラスターに占める短い鎖の割合(存在比)を表す。
各イネについてのこれらの結果を次の表1〜表4に示す。表1は47品種についての温帯ジャポニカ(Temperate Japonica)のものであり、表2は34品種についての熱帯ジャポニカ(Tropical Japonica)のものであり、表3は23品種についてのインディカのものであり、表4は25品種についての中国のインディカのものである。
各表の左欄から、整理番号(No)、品種名、パスポート番号、アミロペクチンの差長が10以下の割合、糊化開始温度と糊化最大温度の温度特性、アミロース含有量、及びフェノール色素反応の結果を示している。整理番号は、温帯ジャポニカ(Temperate Japonica)を100番台とし、熱帯ジャポニカ(Tropical Japonica)を200番台とし、インディカを300番台とし、そして中国のインディカを400番台として、各種類において連続番号がふされている。パスポート番号は、筑波の独立行政法人農業生物資源研究所で使用されている番号であり、アミロペクチンの鎖長が10以下の割合は、前記してきた鎖長が24以下の全量に対する鎖長が10以下の量の割合(モル)を示し、アミロース含有量は胚乳の全デンプンに対するアミロースのわりあい(重量%)を示し、フェノール色素反応はフェノール溶液において反応が有ったものを「1」と表記し、反応が無いものを「0」と表記している。
ジャポニカとインディカの鎖長分布の相違の一つの典型例として、ジャポニカの整理番号143(以下#143と記載する。)とインディカの整理番号303(#303)についての鎖長分布を図5に示す。図5の上段の図(図5A)は各々の鎖長の分布を示し、横軸は鎖長(α−1,4−鎖におけるα−1,4−グルコースの数)を示し、縦軸は頻度(モル%)を示す。白抜きはジャポニカ(#143)を示し、黒塗りはインディカ(#303)を示す。図5の下の図(図5B)は、各々の鎖長におけるジャポニカ(#143)の頻度からインディカ(#303)の頻度を引いた(#143−#303)差を頻度(%)として示している。
この結果、ジャポニカは、インディカに比べて鎖長が11以下のものが多く(図5Bにおいて大きくプラスになっている。)、鎖長が12〜24のものがすくなくなっている(図5Bにおいて大きくマイナスになっている。)ことがわかる。また、鎖長が25以上のものについては両者に殆ど差がないことがわかる。この結果は以前の報告とよく一致するものであった。
さらに、いくつかの種類のイネについてインディカ(#303)との鎖長の分布の差を同様にしてみてみた結果を図6に示す。図6は左側の上から#103との差、#234との差、#310との差、及び#409との差を示し、右側は#215との差、#202との差、#302殿差、及び#408との差をそれぞれ示す。図6の左側と右側では鎖長分布の差のパターンが異なっていることがわかる。即ち、左側のパターンは前記したジャポニカ(#143)との差のパターンとよく似ているが、右側のパターンは鎖長分布に差が余りみられない、即ちインディカ#303とほぼ同じ鎖長分布をしているパターンとなっている。
本発明者らは、さらに、鎖長が24以下の全量に対する鎖長が10以下の量の比(以下、本明細書ではこの比をACRと称する。)を計算してみた。各品種のこの値は前記表1〜表4に記載されている。
図7は今回調査した129品種について算出されたACRの値におけるヒストグラムを示している。横軸はACRの値を示し、縦軸は出現頻度を示している。
この結果から、ACRの値に基づいてイネを大きくふたつのグループに分類できることがわかる。ひとつのグループはACRが0.159〜0.200のグループであり、他のひとつのグループは0.240〜0.287のグループである。しかし、唯1種だけがこの分類に適合しないのものがある。これはACRの値が0.220の#215のクァークヨエ(Khauk Yoe)である。この1品種を除けば、今回調査した129品種のうちの128品種はACRの値に基づいて2グループに完全に分類し得ることがわかる。
図8は今回調査した各種類のイネについて図7と同様にヒストグラム化したものである。図8に左上は温帯ジャポニカ(Temperate Japonica)のものであり(個数は47)、右上は熱帯ジャポニカ(Tropical Japonica)のものであり(個数は34)、左下はインディカのものであり(個数は23)、右下は中国のインディカのものである(個数は25)。
これによれば、温帯ジャポニカ(Temperate Japonica)は典型的にACRの値が大きいものであり(図8左上)、熱帯ジャポニカ(Tropical Japonica)では両者のグループが存在し(図8左上)、インディカや中国のインディカではACRの値が小さいのものが主流ではあるが、ACRの値が大きいものも有ることがわかる。
本発明者らは、前記したACRの値に基づくグループを、L−タイプ、S−タイプ及びM−タイプと命名した。即ち、L−タイプは短い鎖長の分布が少なくACRの値が小さい(約0.19以下)もののグループであり、S−タイプは比較的長い鎖長の分布が多くACRの値が大きい(約0.24以上)もののグループである。M−タイプはその中間のものであり、今回の調査では#215の1種のみである。
振り返って図6を見ると、図6の左側の4種は、いずれもS−タイプに属するイネである。これらの4種は、今までの種類分けでは、温帯ジャポニカ(#103)、熱帯ジャポニカ(#234)、インディカ(#310)、及び中国のインディカ(#409)に分類されているものであるが、前記のACRの値や図6に示される鎖長分布の差からみればこれらが同種のアミロペクチン構造をゆうしていることがわかる。図6の右側の上はM−タイプの#215のものであり、この品種はACRの値はL−タイプともS−タイプとも異なっているが、鎖長の分布は比較的S−タイプに似ている。図6の右側の下3個はL−タイプのものである。これらのL−タイプのものの鎖長の差の分布はさまざまパターンをしめしているが、いずれの鎖長においても#303との差が小さいことが特徴である。
各品種の胚乳のデンプンの熱特性を示差熱量測定法(DSC,Differential Scaning Calorymetry)により分析した結果を表1〜表4に記載した。これらの幾つかの品種について更に詳細な熱特性を検討した結果を次の表5に示す。
アミロペクチンの微細構造とデンプンの熱特性の相関をさらに詳細に検討した結果を図9に示す。図9の横軸はデンプンの糊化開始温度(To(℃))を示している。縦軸はアミロペクチンのDPが10以下の量の比(ACR)を示している。図9の黒菱形印(◆)は温帯ジャポニカを示し、黒四角印(■)は熱帯ジャポニカを示し、黒三角印(▲)はインディカを示し、バツ印(×)は中国インディカをそれぞれ示している。温帯ジャポニカは比較的左上側に集中しているが、他の種類はバラバラの分布している。しかし、糊化開始温度が高くなるにつれてACRの値が小さくなることが明瞭にしめされており、その相関係数は−0.8025と極めて高い相関が両者にあることを示している。
このことから、アミロペクチンのACRの値がデンプンの熱特性に大きな影響を与えていることがわかる。
アミロペクチンのクラスターの側鎖は、DPが約10以上のものであればダブルヘリックス構造を形成しており、このダブルヘリックス構造の長さが糊化開始温度(To)と相関していることが報告されている(T,Umemoto,et al.,Theor.Appl.Genet.,2001,in press.;M.J.Gidley,et al.,Carbohydr.Res.,1987,161,291−300.;M.J.Gidley,et al.,Carbohydr.Polym.1995,28,23−31.;G.K.Moates,et al.,Carbohydr.Res.1997,298,327−333.)。このダブルヘリックス構造に基づく考え方によれば、ACRの値と糊化開始温度との相関を説明することができる。即ち、ACRの値が大きい(S−タイプ)ということはDPが10以下のものが比較的多く、ダブルヘリックス構造を形成できる側鎖が少ないということになり、反対にACRの値が小さい(L−タイプ)ものではDPが11以上のものが比較的多く、ダブルヘリックス構造を形成できる側鎖が多くなるからである。
また、同じACRの値であるにもかかわらず糊化開始温度が比較的広く分布する傾向が見られる。このことは特にACRの値が0.24以上の場合に顕著である。このことは、糊化開始温度がACRの値のみに左右されるものではなく、他の要因によっても左右されていることを示していると考えられる。
次に、各種のイネの胚乳のデンプンのアミロースの含有量についても調査し、この結果を表1〜表4に記載した。
図10は今回調査した129品種のうちの100品種についてのアミロース含有量のヒストグラムを示している。横軸はアミロース含有量(全デンプンに対する割合(%))を示し、縦軸は出現頻度を示している。
図11は今回調査した各種類のイネについて第10図と同様にヒストグラム化したものである。図11に左上は温帯ジャポニカ(Temperate Japonica)のものであり(個数は38)、右上は熱帯ジャポニカ(Tropical Japonica)のものであり(個数は25)、左下はインディカのものであり(個数は19)、右下は中国のインディカのものである(個数は18)。
アミロースの含有量が30%を越えるものもみられたが、このアミロース含有量と前記したアミロペクチンの構造との相関は特にみられなかった。
デンプンのアミロース含有率と糊化開始温度との相関を検討した結果を図12に示す。図12の横軸はデンプンの糊化開始温度(To(℃))を示している。縦軸はデンプンのアミロース含有率(%)を示している。図12の黒菱形印(◆)は温帯ジャポニカを示し、黒四角印(■)は熱帯ジャポニカを示し、黒三角印(▲)はインディカを示し、バツ印(×)は中国インディカをそれぞれ示している。
この結果、デンプンのアミロース含有率と糊化開始温度とには、格別の相関は見出せなかった(相関係数=0.2460)。
本発明は、従来のインディカとジャポニカという分類法とは異なる、アミロペクチンの微細構造に基づいてL−タイプ、S−タイプ、及びそれらの中間のM−タイプという3種類にイネを分類することができることを見出したものである。これらのタイプにおけるアミロペクチンのクラスターのα−1,6−結合による枝の位置や数に違いは無いのであるが、ひとつのクラスターにおける短いα−1,4−グルコシド鎖や中間程度の長さのα−1,4−グルコシド鎖の数にのみ違いが見られる。このようなL−タイプとS−タイプの違いを模式的にしめしたものが図3であるということもできる。即ち、図3の(a)は一つのクラスターの中にα−1,4−グルコシド鎖の短いものの数が相対的に多くなっており、これが本発明のS−タイプに相当するものであり、図3の(b)は反対に一つのクラスターの中に比較的長いα−1,4−グルコシド鎖の数が相対的に多くなっており、これが本発明のL−タイプに相当するものである。従来は図3の(a)をジャポニカ−タイプ、(b)をインディカ−タイプといっていたが、インディカやジャポニカの中にも品種によってL−タイプもあり、S−タイプのものもあるということをアミロペクチンの微細構造の分析により初めて明らかにしたものである。
さらに、本発明者らは、日本晴(品種名)とカサラス(品種名)とのアミロペクチンの構造の相違の原因がスターチシンターゼIIa(SSIIa)の作用によるものであることを示してきた(特願2000−78553号)。即ち、本発明者らは、デンプンの性状の差異に起因すると考えられるアルカリ崩壊性の難易を制御する遺伝子(alk遺伝子)、デンプンの主要成分であるアミロペクチンの構造を制御する遺伝子、さらにアミロペクチン合成に関与すると考えられる酵素アイソザイムの構造遺伝子が同一の遺伝子座に存在することを示してきた。
本発明においては、世界中で栽培されているイネについて、同じ方法によりアミロペクチンの構造が変化させられていることを明らかにし、そして、イネ胚乳におけるSSIIaの作用がアミロペクチンのクラスター内における短い鎖の伸長に決定的な役割を演じていること、及びSSIIa遺伝子が欠損した場合にはL−タイプのアミロペクチンに代わってS−タイプのアミロペクチンが蓄積されることを示してきた。
このことから、前記してきたアミロペクチンの微細構造におけるL−タイプとS−タイプの構造を決定する遺伝子はスターチシンターゼIIa(SSIIa)をコードする遺伝子であると考えられることから、当該遺伝子を単離することを試みた。
このために、まず、リン(Lin)らの方法に準じて(Lin,et al.,1998))、98系統の(日本晴×カサラス)×日本晴の戻し交雑後代自殖系統群(Backcross Inbred Lines,BILs)を育成した。98系統のBILsは、各々の系統について、12本ある染色体のどの領域が日本晴あるいはカサラス由来であるかが明らかにされている(イネゲノムプロジェクト公開データ、http://www.staff.or.jp)。この遺伝子データと各BILのアルカリ崩壊性の難易を対応させることにより、アルカリ崩壊性を制御する遺伝子の座乗位置が決定可能である。この解析を実施した結果、アルカリ崩壊性遺伝子は既報(Haruahima et al.,1998)の通り、第6染色体のポジション(position)36.7に座乗することが確認された。
次に、アミロペクチンの枝状構造を制御する遺伝子の染色体上の座乗位置を決定するために、前記の各BILsのアミロペクチンの構造を前述した方法により分析し、それらの鎖長分布が日本晴のそれに類似しているかカサラスのそれに類似しているか判定した。その判定結果とBILsの遺伝子型データを対応させることで、アミロペクチンに枝状構造を制御する遺伝子は1つ存在し、前記のアルカリ崩壊性遺伝子と同じく、第6染色体のポジション(position)36.7に座乗することが明らかとなった。
また、イネSSIIa遺伝子の構造を明らかにするため、イネゲノムDNAのサザンブロット解析を行った。まず、ジャポニカ品種の日本晴とインディカ品種のカサラスのゲノムDNAを幼葉から単離し、その一部をエッペンドルフチューブ内でそれぞれ各BamH I、Bgl II、EcoR V、Hind III、Apa I、Dra I、EcoR I、Kpn Iの各制限酵素で加水分解した後、精製したDNA断片をアガロース電気泳動によって分離した。分離DNAをフィルターに転写し、全長ESTクローン(E11025)をプローブとしてして、サザンブロットを行った。その結果、BamH I断片において、反応する断片が、イネの両品種においてRFLP性が認められた。これを利用して、BILs各系統を、日本晴型(20kbの断片を含む)、カサラス型(23kbの断片を含む)、ヘテロ型(20kbおよび23kbの断片を含む)の3つのタイプに分類し、イネSSIIa遺伝子のマッピングを行った。その結果、BILs系統間におけるRFLPパターンの挙動は、アルカリ崩壊性とすべて一致した。従って、イネSSIIa遺伝子は、alk遺伝子と同一かあるいは極めてその近傍に座乗すると結論した。
なお、イネ胚乳のESTクローン(E11025)は、農林水産省農業生物資源研究所イネゲノム研究チームより分譲された。本クローンは、ジャポニカ型イネ品種である日本晴の未熟種子のmRNAを鋳型にし、ポリTをプライマーとして、リバーストランスクリプターゼの作用によって作成したcDNAを、5’末端と3’末端にSalIとNotI認識塩基配列をそれぞれ付加して、プラスミドベクターpBluescript II SK+(Stratagene)にサブクローニングしたものである。本プラスミドはさらに大腸菌JM109株に感染させ、形質転換された大腸菌はグリセロールストックして保存してある。本菌体を、50mg/mlのアンピシリンを含むLB培地(1l当たり1%バクトトリプトン、0.5%イーストエキストラクト、1%塩化ナトリウムを含む)上にまき、35℃で終夜培養した。得られたコロニー群からシングルコロニーを選び、このコロニーからQiagenキット(アミコン、USA)によってプラスミドDNAを調製した。このプラスミドを、Hind III、Kpn I、EcoR I、Xho I、Sac Iによって加水分解した後、1%アガロース電気泳動によりDNA断片を分離し、それぞれの長さを測定して、本クローンの制限酵素地図を作成した。
本クローンは全長約1.7〜1.8kbであった。上記制限酵素によって得られる数種類のDNA断片を1%アガロース電気泳動で分離した後、ゲルネブライザー(Gel Nebulizer)(アミコン、USA)によって精製し、それぞれpBluescript II SK+(Staratagene)のそれぞれの制限酵素に対応する部位にサブクローニングした。サブクローニングされたクローンを含むプラスミドは大腸菌JM109株に感染させ、形質転換された大腸菌はグリセロールストックして保存してある。E11025クローン全体およびクローンの断片を含むプラスミドの塩基配列を、ジデオキシ法に基づいて、Dye Primer Cycle Sequencing FS Ready Reactionキット(PEバイオシステムジャパン、千葉県浦安市)および蛍光DNAシーケンサー(PEバイオシステムジャパン、Model373S−36型)を用いて、決定した。各クローンの両側からの塩基配列を求めるため、M13フォワードプライマーおよびリバースプライマーを用いた。得られた塩基配列を、核酸およびアミノ酸配列の解析ソフト(Genetyx、ソフトウェア開発、東京)を用いて解析した。その結果、本ESTクローンは1,724塩基からなり、466アミノ酸をコードすると考えられた。
このようにして決定されたイネのSSIIa遺伝子を含むゲノムの断片が調製された。日本晴(Nipponbare)のSSIIa遺伝子については、独立行政法人・農業生物資源研究所イネゲノム研究チームが調製したSSIIa遺伝子を含む2種類のPACクローン(P441,P450)を使用した。また、カサラス(Kasalath)のSSIIa遺伝子については、同じく独立行政法人・農業生物資源研究所イネゲノム研究チームが調製したSSIIa遺伝子を含むBACクローンを使用した。
これらのPACクローン、BACクローンを種々の制限酵素(EcoR V、EcoR I、Pst I、Kpn I、Sal I等)で加水分解した。それぞれの断片を、プラスミドベクター(pBluescript SK+)にサブクローンした後、プラスミドDNAを調製し、それぞれのDNA塩基配列を、ジデオキシ法によってDNAシーケンサーで決定した。
得られた日本晴とカサラスのスターチシンターゼIIa(starch synthase,SSIIa)遺伝子の構造を図13に示す。また、日本晴の塩基配列を配列表の配列番号1に、カサラスの塩基配列を同配列番号2に示す。また、日本晴のエキソン部分の塩基配列を配列表の配列番号3に、カサラスのものを配列番号4にそれぞれ示す。さらに、日本晴のSSIIaのアミノ酸配列を配列表の配列番号5に、カサラスのものを配列番号6にそれぞれ示す。
図13の四角枠はエキソン領域を示し、四角枠の間はイントロンを示す。それぞれの番号は、エキソン及びイントロンの順序を示している。図13中のアスタリスクは、アミノ酸が変わる部分を示している。図13には併せて制限酵素による切断位置を示す。
日本晴の遺伝子のエキソン及びイントロンの位置、数およびサイズを次の表6に、カサラスのそれを表7にそれぞれ示す。
それぞれの表は、左から、エキソン又はイントロンの番号、その領域の開始番号、その領域の終了番号、及びその領域の塩基長を示す。
日本晴とカサラスのSSIIa遺伝子は、いずれも7個のイントロンによって分断されている8個のエキソンから成る。イントロンの数と位置は両者で同一である。ただし、イントロンの長さは、第3、第6、第7イントロンにおいて、カサラスの遺伝子の方が1塩基づつ長い。イントロンの塩基配列の相同性もかなり高いが、第3、第6、第7イントロンにおいては、比較的多数の違いが見られる。
図14〜図18に、日本晴とカサラスのSSIIaのゲノム遺伝子の全塩基配列を比較して示している。図14〜図18の各行の上段が日本晴のものであり、下段がカサラスのものである。図14はこのうちの1番目〜1260番目(上段の日本晴による番号)までの比較を示し、図15はこのうちの1261番目〜2520番目(上段の日本晴による番号)までの比較を示し、図16はこのうちの2521番目〜3779番目(上段の日本晴による番号)までの比較を示し、図17はこのうちの3780番目〜5037番目(上段の日本晴による番号)までの比較を示し、図18はこのうちの5038番目〜5935番目(上段の日本晴による番号)までの比較を示している。
全配列のうちのプロモーター部分は、日本晴では1〜1,341bpであり、カサラスでは1〜1,331bpである。このプロモーター部分では、カサラスには、中ほどに(702bp)9塩基のギャップがある程度で、両者のサイズや塩基配列の相同性はかなり高かった。
8個のエキソンのサイズは両者間で全く差がない(表1参照)。エキソン部分の塩基配列の比較を図19〜図20に示す。図19〜図20の各行の上段が日本晴のものであり、下段がカサラスのものであり、転写開始点を1番にしている。図19はこのうちの1番目〜1260番目までの比較を示し、図20はこのうちの1261番目〜2607番目までの比較を示している。エキソン部分の塩基配列の違いは合計で6箇所ある(図15中の矢印)。
図21に両者のSSIIaのアミノ酸配列の比較を示す。図21の各行の上段が日本晴のものであり、下段がカサラスのものである。日本晴とカサラスのSSIIa遺伝子をもとに、両者のSSIIaのアミノ酸配列を比較すると、4箇所において、アミノ酸の種類が異なっていた。これらの違いによって酵素機能の違いが生じる可能性が考えられる。
興味ある事に、4箇所のアミノ酸置換のうち、737番目のアミノ酸配列が、カサラスではV(バリン)のところ、日本晴ではM(メチオニン)となっている。スターチシンターゼのアミノ酸配列中にはいくつかの保存領域が知られているが、そのうちの1つがVGGLRDTV(アミノ酸配列730−737)で植物のスターチシンターゼにおいて高度に保存されていて、リージョン7(Region7)と命名されている(Li et al.,(1999)Plant Physiol.120:1147−1155)。イネSSIIaにおいて、737番目のアミノ酸がカサラスではVで保存されているのに対して日本晴ではMに変化している。この変化がSSIIaの機能の低下に関係している可能性がある。
ジャポニカイネとインディカイネのデンプンの主成分であるアミロペクチンの構造の差異は、両者のSSIIa遺伝子の構造と機能の違いが原因であると考えられる。具体的には、ジャポニカイネのSSIIa遺伝子の機能が、何らかの変異によって、劣っていると考えられる。その原因としては、遺伝子の発現量が顕著に低下したか、酵素としての触媒能が低下したかのいずれかであろうと思われる。前者はプロモーターの変異によって、後者はアミノ酸置換による変異によって引き起こされる可能性が高い。
この結果として、ジャポニカイネはアミロペクチンを構成するクラスターの鎖長が短い、即ちACRの値が大きいS−タイプとなり、インディカイネは鎖長が長い、即ちACRの値が小さいL−タイプとなったと考えられる。
本発明者らはこれを確認し、さらに遺伝子の導入によるデンプンの製造を確認するために、インディカイネの1種である品種IR36のデンプン合成酵素IIa(SSIIa)遺伝子を、ジャポニカイネに属する品種金南風(Kinmaze)にグルテリン(イネの貯蔵タンパク質)のプロモーターに連結させてアグロバクテリウムにより導入した。その結果、品種IR36のデンプン合成酵素IIa(SSIIa)がジャポニカイネに属する品種金南風(Kinmaze)で発現し、当該形質転換体においては、本来S−タイプのアミロペクチンになるべきものが、形質転換によりL−タイプに変化したことが確認された。この結果を図22に示す。図22は、各品種が製造するデンプン(アミロペクチン)のDP(α−1,4−グルコシド鎖におけるα−1,4−グルコースの数)を測定した結果を示したものである。図22の上段は品種金南風(Kinmaze)のものであり、中段は品種IR36のものであり、下段は形質転換体#78−1のものである。中段及び下段の右側は、各品種の品種金南風(Kinmaze)との差を示している。即ち、中段の右側は各DPにおける品種金南風(Kinmaze)と品種IR36との差を示したものであり、下段の右側は各DPにおける品種金南風(Kinmaze)と形質転換体#78−1との差を示したものである。
この結果は、形質転換体において、品種IR36のDP値を持ったデンプンが製造されていることを示している。
この結果は、形質転換体において、品種IR36のDP値を持ったデンプンが製造されていることを示している。
イネのデンプンの熱特性などの物性や味覚を決めているがデンプンのアミロペクチンの微細構造の違いによるものである。世界で栽培されているイネのアミロペクチンの微細構造は、L−タイプとS−タイプ、それとその中間のM−タイプに分類されることを本発明が初めて示し、そしてアミロペクチンのこれらの構造の違いを生じさせている原因遺伝子がスターチシンターゼIIa(SSIIa)であることを本発明が示し、この遺伝子を単離し塩基配列を決定した。
その結果、L−タイプのイネ(カサラス)とS−タイプのイネ(日本晴)では、遺伝子の塩基配列の相違は少しであったが、この少しの違いがアミロペクチンの微細構造を違いを生じさているのである。
アミロペクチンのクラスターの合成は、枝作り酵素(SBE)により短い枝の分岐が作られ、デンプン合成酵素(SS)によりクラスターの結晶領域の終端まで鎖が伸長される。クラスター中における短い鎖の割合は、枝作り酵素(SBE)と合成酵素(SS)の活性のバランスによって決定される。S−タイプのアミロペクチンは、SSIIa遺伝子が障害を受けているために、その結果SBE活性がSS活性に比べて相対的に高くなったときに製造されると思われる。これに対してL−タイプ様のアミロペクチンは、クラスターの形成に当たってSSIIa活性がSBE活性に比べ優位であることから、SSによる短い枝の伸長が優勢となったときに製造されるものと思われる。
このように、アミロペクチンのクラスターにおける微細構造の形成は、クラスターの枝の元となる分岐の形成とSSIIaなどによる鎖の伸長とのバランスによるものであるから、SSIIaの活性発現が障害を受けて弱くなっていると考えられるS−タイプのイネのSSIIaの遺伝子を、他のタイプのイネに導入することにより、導入されたイネのSBEとSSIIaの活性のバランスが微妙に崩れ、アミロペクチンのクラスターが新しいタイプの微細構造を有するデンプンを製造することができることになる。
また、発育のよいイネに物性や味覚の好ましいデンプンを作るSSIIa遺伝子又はそのプロモーターを導入することにより、環境に強くかつ好ましい物性や味覚を有するデンプンを作るイネに改善することも可能となる。
本発明における遺伝子は、翻訳領域のみをコードする遺伝子であってもよいし、ゲノム由来のものであってもよいし、また場合によってはプロモーター領域を含むものであってもよい。
また、本発明のプロモーターとしては、イネのSSIIa遺伝子を発現させることができるものであればよいが、好ましくは配列表の配列番号1の1番目〜1,341番目のもの、又は配列番号2の1番目〜1,331番目のものが挙げられる。本発明のプロモーターは、これらの塩基配列の全部又はその一部を用いることができる。
本発明のイネの改変方法において重要なことは、遺伝子を導入するということではなく、アミロペクチンの微細構造を改変するためにイネのSSIIaの活性に関連する遺伝子を操作するということである。したがって、本発明の遺伝子改変イネは、イネのSSIIaをコードする遺伝子の全長又は部分長のものをイネのゲノムに導入する方法に限定されるものではなく、イネのSSIIaの活性を変化させる目的でイネゲノムのSSIIa遺伝子部分の塩基配列を、ポイントミューテーション法などにより操作することも本発明の方法に包含される。
本発明の遺伝子改変イネの形態としては、遺伝子が導入などにより改変されたことを判別できるものであればよく、例えば種子、カルス、生育体などのいずれの形態であってもよい。
本発明のデンプンの製造方法は、前記した遺伝子改変イネを用いてアミロペクチンの微細構造やそれに伴う物性や味が元のイネとは異なるデンプンを製造する方法であり、アミロペクチンの微細構造はイネの枝作り酵素(SBE)の活性とデンプン合成酵素(SS)の活性とのバランスによるものと考えられることから、本発明の遺伝子やプロモーターを用いてSSの活性を変化させることにより、イネにおけるSBEとのバランスを微妙にかえることが可能となり、目的に適した特性を有するデンプンを製造することが可能となる。
また、本発明は、前記した製造方法によりアミロペクチンのα−1,4−グルコース鎖の鎖長分布や物性が元のイネとは異なる新規なデンプン、より詳細には天然のイネ科植物が産生するデンプンとは鎖長分布や物性の異なる新規なデンプンを提供することもできる。
さらに、本発明はアミロペクチンの微細構造を特徴づけることができるSSIIaの遺伝子の全塩基配列、及びその相関関係を明らかにするものであり、本発明の塩基配列を用いてイネのSSIIaをコードする遺伝子の種類を検出、同定することが可能となる。したがって、本発明はこのような方法に使用されるオリゴヌクレオチドを提供するものである。本発明のオリゴヌクレオチドは、PCRなどを行うためのプライマーや、塩基配列の相違を検出するためのプローブとして使用することができる。好ましいプライマーの例としては次の塩基配列を有するプライマー1〜3が挙げられる。
プライマー1: 5'-cggtggtgtgccctatgg-3'
プライマー2: 5'-cgacgggcagaaaggggtg-3'
プライマー3: 5'-ggcggacatggtctcttcac-3'
プライマー1: 5'-cggtggtgtgccctatgg-3'
プライマー2: 5'-cgacgggcagaaaggggtg-3'
プライマー3: 5'-ggcggacatggtctcttcac-3'
これらのプライマーのうち、プライマー−1とプライマー−3の組み合わせ、プライマー−2とプライマー3の組み合わせにより、イネのSSIIa遺伝子に特異的な断片を含むDNAを得ることができる。
本発明のSSIIaをコードする遺伝子又はそのプロモーターを用いることにより、イネのデンプンのアミロペクチンのα−1,4−グルコース鎖の鎖長分布を調節又は制御することができ、したがって、本発明はイネのSSIIaをコードする遺伝子又はそのプロモーター領域の塩基配列を改変することによる、アミロペクチンのα−1,4−グルコース鎖の鎖長分布を調節又は制御する方法を提供するものである。
図9に見られるように、アミロペクチンの鎖長分布と糊化開始温度とには強い相関関係があり、特に、アミロペクチン短鎖の比率の増加により(S−タイプ)、糊化開始温度が低下し、易糊化性が示される。このことは、アミロペクチンの分子構造の改変が、デンプンの物性を変える手段のひとつであることを示している。
したがって、本発明はこのような鎖長分布の制御によって、熱糊化特性の異なる新規なデンプンを提供することができるものでもあり、食品用デンプンや産業用デンプンとして新規かつ有用なデンプンを提供するものである。
2.デンプン枝作り酵素IIb(BEIIb)による改変
次に、デンプン枝作り酵素IIb(BEIIb)について説明する。
次に、デンプン枝作り酵素IIb(BEIIb)について説明する。
本発明者らは、イネのBEIIb遺伝子が欠損したae変異体(amylose−exetender(ae)の変異体)の解析から、BEIIbの機能を検討する過程において、ae変異体にイネのBEIIb遺伝子を形質転換し、デンプンの性質が野生型に回復するかを検証することにより、BEIIbの特異的な機能の解析を行ってきた。
そのために、まずBEIIbの遺伝子を次のようにして単離した。
イネのゲノムDNAライブラリーとして、イネ品種「シモキタ」のBAC(Bacterial Artificial Chromosome)ライブラリー(Nakamura et al.,(1997)Mol.Gen.Genet.254:611−620.)を利用した。このBACライブラリーは、マイクロプレートサイズのメンブレンに固定したもので、ゲノムDNAはイネ品種「シモキタ」の緑葉のプロトプラストから調製したものであり、平均インサートサイズは155kbである。
このBACライブラリーから、イネのBEIIbゲノミック遺伝子をコードするクローンをスクリーニングするために、BEIIbのcDNAをプローブとして用いた。イネ品種フジヒカリのBEIIbのcDNAをPstIで切断し、その結果得られた1740bpのDNA断片を、アガロースゲル電気泳動した後、抽出、精製した。このDNA断片を、ECL法(Amersham)によりラベルし、プローブとして用いた。
BACライブラリーのメンブレンを上述のBEIIbのcDNA断片プローブとハイブリダイゼーションさせた結果、プローブとハイブリダイズするシグナルを得た。そのシグナルに対応するプラスミドを保持する大腸菌のクローンを得て、それをLB液体培地(クロラムフェニコール25μg/ml含む)で一晩培養し、プラスミド自動抽出機によりプラスミドを抽出した。
前述のようにBACライブラリーの平均インサートサイズは155kbであり、そのような長いDNA断片には複数の遺伝子が存在することも考えられる。BEIIb遺伝子がコードされている領域のみを得る必要があることから、ポジティブクローンから得たプラスミドについてサザンブロット解析を行なった。
このプラスミドを制限酵素SalIで切断した後、アガロースゲル電気泳動し、ナイロンメンブレンにDNA断片を転写させ、上述のプローブを用い、前記したECL法により、メンブレンとハイブリダイゼーションさせた。その結果、プローブは17kbのDNA断片とハイブリダイズした。そのDNA断片を単離するために、プラスミドをSalIで切断した後、低融点アガロースゲルで電気泳動し、目的の17kb断片を含む領域のゲルを切り出し、目的のDNA断片を抽出、精製した。
アグロバクテリウムを介してイネに遺伝子を導入させるためにバイナリーベクターpCAMBIA1300を用いた。これをまず、SalIで切断した後、SalIを失活させた。次に、SalI切断により生じた5’末端を脱リン酸化させた。続いて、BEIIbのcDNAプローブとハイブリダイズした17kbのDNA断片をサブクローニングするために、これをたバイナリーベクターpCAMBIA1300にライゲーションした後(これをpCBEIIbと呼ぶ。)、大腸菌株DH10B(GIBCO)を形質転換した。LB寒天培地(カナマイシン50μg/ml含む)に生えた大腸菌をLB液体培地(カナマイシン50μg/ml含む)で一晩培養し、プラスミドを抽出、精製した。
このバイナリーベクターにサブクローニングした17kbDNA断片の制限酵素地図を決定し、断片化した後、塩基配列を解析した。その結果、17kbゲノムDNA断片には、BEIIb遺伝子の完全長がコードされており、BEIIbのcDNAの塩基配列との比較により、BEIIbゲノミック遺伝子は22エキソン、21イントロンからなることが明らかになった。また、このDNA断片には、遺伝子の上流域が約2.2kb存在し、プロモーター領域は全て含まれていると考えられた。さらに、下流域は約3kb存在し、ターミネーター領域は全て含まれると考えられた。そこで、pCAMBIA1300サブクローニングしたBEIIb遺伝子をコードする17kbDNA断片をイネに導入した。
アグロバクテリウムを介した形質転換法により、上述のバイナリーベクターにサブクローニングしたBEIIb遺伝子を、イネae変異体であるEM10(Yano et al.,(1985)Theor.Appl.Genet.69:253−257.)に導入し、形質転換体を作製した。このイネae変異体であるEM10は、イネ品種「金南風」を親株とした変異体として作成されたものである。
イネの組織培養および形質転換は土岐(Toki)の方法(Toki,(1997)Plant Mol.Biol.Reporter,15:16−21.)に準じて行った。まず、pCBEIIbをエレクトロポレーシヨン法によりアグロバクテリウム(Agrobacterium tumefacience)EHA105株に導入した。このアグロバクテリウムをEM10のカルスに感染させ、DNA導入し、形質転換させた。形質転換体は、ハイグロマイシンによりスクリーニングした。植物体に再分化したイネ個体はポットに移植し、温室で、自然光、28/24℃(6−18時/18−6時)の条件で生育させた。
このようにして得られた形質転換体の中から、6系統を選抜した。この6系統を、#7−8、#9−8、#106−1、#31−1、#113−7、及び#1−1と命名した。
これらの6系統の形質転換体の中から#106−1、#31−1、#113−7、及び#7−8についてサザンブロット(Southern blot)解析を行った結果を図面に代わる写真として図23に示す。対照としてae変異体であるEM10及びその親株である「金南風」(Kinmaze)を用いた。図23は左から「金南風」(Kinmaze)、EM10、#106−1、#31−1、#113−7、及び#7−8の各レーンを示し、図23の上段の(a)はBamHIを用いた場合であり、下段の(b)はHindIIIを用いた場合である。
選抜した形質転換体は、金南風、EM10よりも強くプローブとハイブリダイズした(図23ではより黒く示されている。)。アプライしたゲノムDNA量は同じであるから、形質転換体には、金南風、EM10以上のBEIIbをコードするDNA断片が存在する。つまり、BEIIbを含む断片が導入されていることを示している。
次に、得られた形質転換体についてノーザンブロット(Northern blot)解析を行った結果を図24に図面に代わる写真として示す。図24の左から、「金南風」(Kinmaze)、EM10、#106−1、#31−1、#113−7、#7−8、ひとつ間を置いて、#1−1、#2−6、及び#9−8の各レーンを示し、縦方向はデンプンを製造する際の各デンプン合成酵素、及びrRNA(リボソームRNA)を示している。BEIはデンプン枝作り酵素Iを、BEIIaはデンプン枝作り酵素IIaを、SSIはデンプン合成酵素Iを、SSIIIはデンプン合成酵素IIIを、ISAはイソアミラーゼを、PULはプルラナーゼを、それぞれ示している。
BEIIbのmRNAは形質転換体#106−1、#31−1、#113−7、及び#1−1で発現していた。導入したBEIIbが確かに発現していることを示している。他のデンプン合成酵素の発現には変化が無かった。#106−1よりも#31−1、#113−7の方がmRNAが多く発現しているのは、導入されたBEIIbのコピー数に比例していると思われる。
また、#1−1において強く発現しているのは、遺伝子の強い発現を促すゲノムにBEIIb遺伝子が挿入されたためと考えられる。
これらの6系統についてウエスタンブロット(Western blot)/活性染色法による解析(図25上段)、及びネイティブ−PAGE/BE活性染色法による解析(図25下段)を行った結果を図25に図面に代わる写真として示す。図25の上段の左から「金南風」(Kinmaze)、EM10、#7−8、#9−8、#106−1、#31−1、#113−7、及び#1−1の各レーンを示し、縦方向はBEI及びBEIIbのブロットを示す。図25の下段の左から「金南風」(Kinmaze)、EM10、ae変異型、相補型(Complement型)、過剰発現型(Over expression型)を示し、縦方向はBEIIa、BEIIb、及びBEIをそれぞれ示す。
BEIIbのタンパク質は、親株の金南風、並びに形質転換体#106−1、#31−1、及び#113−7で発現していることが確認できた。特に#1−1では強く発現していた。しかし、ae変異体のEM10及び形質転換体#7−8ではその発現を確認することはできなかった。他のデンプン合成酵素(BEI、ISA及びPUL)の発現にはいずれの個体においても変化がみられなかった。
BEIIb活性は、ae変異体のEM10では見られないが、親株の金南風では紫色のバンドとして見られる。形質転換体では、BEIIb活性が#106−1、#31−1、及び#113−7で回復しているが、#106−1では非常に薄く確認できた。#7−8は回復していなかった。この結果、形質転換体#106−1、#31−1、及び#113−7では、導入したBEIIbが発現し、機能していることが示された。
次に、形質転換イネのアミロペクチンの分子構造について検討した。各形質転換体及びae変異体のEM10について、アミロペクチンの鎖長の分布を野生型(金南風)の鎖長分布を比較した。結果を図26に示す。図26の横軸は鎖長の長さを1〜60まで示しており、数字が大きいほど鎖長が長いものを示している。図26の縦軸は各鎖長における野生型(金南風)との鎖長分布の割合(%)の差を示している。即ち、まず野生型(金南風)におけるアミロペクチンの鎖長の分布を調べ、それをアミロペクチンの鎖長全体に対する各鎖長の割合(%)、例えば鎖長6のものがa%、鎖長7のものがb%、鎖長8のものがc%、鎖長9のものがd%、・・・というように各鎖長について全体に対する分布の割合(%)を算出する。次に検定すべき各形質転換体などについて同様にアミロペクチンの鎖長全体に対する各鎖長の割合(%)、例えば鎖長6のものがk%、鎖長7のものが1%、鎖長8のものがm%、鎖長9のものがn%、・・・というように各鎖長について全体に対する分布の割合(%)を算出する。そして、各鎖長についてその差、例えば、鎖長6のものでは(k−a)%、鎖長7のものでは(1−b)%、鎖長8のものでは(m−c)%、鎖長9のものでは(n−d)%、・・・というように各鎖長の分布の割合(%)の差を算出し、それをグラフ化したものが図26である。図26の縦軸における+側(図26では上側)は野生型(金南風)よりも多く分布していることを示し、−側(図26では下側)は野生型(金南風)よりも少なく分布していることを示している。また、図26の上段は、EM10(黒丸印−●−)、形質転換体の相補型(Complement型)(#106−1)(白丸印−○−)、並びにae変異型(#7−8)(黒三角印−▲−)及びae変異型(#9−8)(黒四角印−■−)についてのものであり、図26の下段は、形質転換体の過剰発現型(Over expression型)(#31−1)(黒丸印−●−)、形質転換体の過剰発現型(Over expression型)(#113−7)(黒四角印−■−)、及び形質転換体の過剰発現型(Over expression型)(#1−1)(黒三角印−▲−)についてのものである。
BEIIbを欠くae変異体のEM10では、鎖長の短い部分(鎖長が約6〜13)において野生型(金南風)に比べて分布の割合(%)が低くなっており、鎖長の長い部分(鎖長15以上の部分)において分布の割合(%)が高くなっている。これは、枝作り酵素IIb(BEIIb)の活性が低いためにアミロペクチンの枝分かれが少なくなり、それに伴って鎖長が長くなってきたものと考えられる。これに対して枝作り酵素IIbの遺伝子が導入されて、それが発現している形質転換体については、その発現の程度に応じて鎖長の分布が変化していることがわかる。通常であれば、欠失した酵素の遺伝子が導入されたとしても、元の野生型に戻る程度の酵素活性が復元されるのであり、図26に示される各鎖長の分布の割合(%)の差が0になるところで酵素活性が飽和すると考えられるのであるが、本発明の枝作り酵素IIb(BEIIb)については、過剰な酵素活性が見出された。即ち、図26の下段に示されるように、鎖長の短い部分(鎖長が約3〜12)において野生型(金南風)に比べて分布の割合(%)が極端に高くなっており、鎖長の長い部分(特に、鎖長が12〜24の部分)において分布の割合(%)が低くなっている。
これは、枝作り酵素IIb(BEIIb)の活性が、遺伝子の過剰な発現により、その活性が高くなり、アミロペクチンの枝分かれがより促進され、それに伴って鎖長が比較的短くなってきたものと考えられる。
形質転換体として選抜された6系統について、それらの鎖長分布を解析した結果から、これらの6系統を以下の3グループに分類することができた。これらの3グループを以下のように命名した。これらの型の名称を図26に示している。
(1)ae型:枝作り酵素IIb(BEIIb)の活性が回復されていない、あるいは、わずかに回復しているタイプ。
・・・形質転換体#7−8、及び#9−8
(2)相補型(CO型):枝作り酵素IIb(BEIIb)の活性が、ほぼ回復 されたタイプ。
・・・形質転換体#106−1
(3)過剰発現型(OE型):導入したBEIIb遺伝子が過剰に発現している タイプ。
・・・形質転換体#31−1、#113−7、及び#1−1
(1)ae型:枝作り酵素IIb(BEIIb)の活性が回復されていない、あるいは、わずかに回復しているタイプ。
・・・形質転換体#7−8、及び#9−8
(2)相補型(CO型):枝作り酵素IIb(BEIIb)の活性が、ほぼ回復 されたタイプ。
・・・形質転換体#106−1
(3)過剰発現型(OE型):導入したBEIIb遺伝子が過剰に発現している タイプ。
・・・形質転換体#31−1、#113−7、及び#1−1
図26に示される鎖長の分布による前記3グループの分類は、前記した図23〜図25におけるBEIIb遺伝子についてのバンドの濃淡としても明瞭に示されている。例えば、図23においても、形質転換体#7−8は細いバンドであるが、形質転換体#106−1は少し太いバンドとなり、形質転換体#31−1及び#113−7ではかなり太いバンドとなって示されているとおりである。
これらにことから、形質転換体に導入された枝作り酵素(SBE)の遺伝子の発現量と、当該形質転換体が生産するデンプンのアミロペクチンの鎖長の分布とに密接な関連性があることが初めて見出された。
次に、これらの形質転換体が生産するデンプンの特性を調べた。これらの形質転換イネのデンブンの熱糊化特性及び種子の重量をまとめて次の表8に示す。
表8に糊化特性として、糊化開始温度To(℃)、糊化ピーク温度Tp(℃)、糊化終了温度Tc(℃)、糊化熱量(mJ/mg)を示す。また、参考例としてイソアミラーゼ(ISA)遺伝子が欠損したイネsug−1変異体が生産するデンプンの糊化特性を示している。種子重量は、20粒の平均値をmgで示している。
これらのデンプンの糊化特性の結果は、以下のように分析することができ、前記した鎖長の分布に基づく3グループの結果と密接な関連性があることがわかった。
1)ae型の形質転換イネ系統は、ae変異体と同様の糊化特性を示した。BEIIb活性がわずかに回復している#9−8では、やや金南風に近い特性を示した。
2)CO型の形質転換イネは糊化温度は金南風よりやや高い値を示した。糊化熱量には変化がなかった。
3)OE型は金南風より糊化温度が低く、その程度は鎖長分布が金南風に対して激しければ糊化温度も低かった。糊化熱量には変化が見られなかった。#1−1は金南風に比べて糊化温度が10℃以上も低下しており、糊化熱量も5分の1以下であった。
1)ae型の形質転換イネ系統は、ae変異体と同様の糊化特性を示した。BEIIb活性がわずかに回復している#9−8では、やや金南風に近い特性を示した。
2)CO型の形質転換イネは糊化温度は金南風よりやや高い値を示した。糊化熱量には変化がなかった。
3)OE型は金南風より糊化温度が低く、その程度は鎖長分布が金南風に対して激しければ糊化温度も低かった。糊化熱量には変化が見られなかった。#1−1は金南風に比べて糊化温度が10℃以上も低下しており、糊化熱量も5分の1以下であった。
以上の結果から、ae変異体の原因酵素がBEIIbであることが明確になった。また、形質転換イネの中には過剰発現系統が出現し、それらの糊化特性はsug−1変異体と類似しており、BEIIbとイソアミラーゼ(ISA)は、アミロペクチンの微細構造に対して相反する効果を示す可能性が示された。
これらの変異体が製造したデンプンを走査型電子顕微鏡で観察した。これらの6系統の形質転換体及びそれらの親系統の胚乳からデンプン粒を精製し、走査型電子顕微鏡でそれらの形態を観察した。結果を図面に代わる写真により図27として示す。図27の上段は1000倍に拡大した場合を示し、下段は4000倍に拡大した場合を示している。それぞれの写真の白いバーはスケールを示している。図27の各段の左からEM10、#7−8、#9−8、#106−1、その下段の左から金南風(Kinmaze)、#31−1、#113−7、及び#1−1をそれぞれ示している。
金南風(Kinmaze)は、幅が約5μmのほぼ均一な多角形のデンプン粒であるが、EM10のデンプン粒は、幅10μmを越す大きな粒がところどころに存在し、それ以外の小さな粒は、金南風(Kinmaze)よりも小さく、多角形の角が崩れた形をしていた。また、互いの粒が接着し、群をなしていた。このようなEM10でみられた傾向は#7−8でも見られ、#9−8及び#106−1へと緩和される傾向が見られた。BEIIbが過剰発現している系統である#31−1は、金南風(Kinmaze)と非常に類似していたが、#113−7では、多くのデンプン粒は、大きさ、形態は金南風(Kinmaze)とかわらないものの、わずかに形が崩れ、小さくなった粒も見られた。#1−1では、金南風(Kinmaze)でみられたようなデンプン粒はごくわずかであり、多くのデンプン粒が崩れて1μmほどの大きさであり、形も不均一であった。
さらに、これらの新規なデンプン類のX線回折パターンを調べた。これらの6系統の形質転換体のうち、デンプン粒が十分に取れなかった#1−1を以外と、それらの親系統の胚乳からデンプン粒を精製し、それぞれのX線回折パターンを調べた。結果を図28に示す。図28の縦軸は強度(cps)を示し、横軸は回折角度(2θ)を示す。図28の上からEM10(A)、#7−8(B)、#9−8(C)、#106−1(D)、金南風(Kinmaze)(E)、#31−1(F)、及び#113−7(G)をそれぞれ示す。
これらのデンプン粒のX線回折パターンは、大きく分けてA形とB形に分けられた。一般にデンプン粒のX線回折パターンは、禾穀類のデンプンはA形を示し、芋類はB形を示し、豆類は両者の混合パターンであるC形を示す。これは、デンプン分子の結晶中の水分子の挿入位置の違いによるとされている。また、X線回折パターンのピークの高さは、結晶性の高さを示すとされている。トウモロコシのBEIIb変異体(ae mutant)は、その野生型がA形を示すにも関わらず、B形を示すことが知られている。
イネにおいても、EM10は典型的なB形デンプンのパターンを示した。形質転換体では、BEIIbの発現量が多くなるに従ってB形からA形のパターンに移行していた。また、過剰発現型の#31−1は、金南風(Kinmaze)と同様のパターン、ピークを示したが、#113−7は、ピークが低くなっており、結晶性の低下が見られた。
以上のことから、デンプンを生産する生物、好ましくは植物、より好ましくはイネのデンプンの枝作り酵素IIbの遺伝子の発現量に応じて、元の野生型の生物が生産するデンプンとは異なる形質を有するデンプンを製造することがわかった。BEIIb遺伝子の導入により、アミロペクチンの鎖長分布を改変することができることも確認された。これらのデンプンは、構造的にはアミロペクチンの鎖長の分布において元の野生型の生物が生産するデンプンとは明らかに相違するものであり、またその特性、例えば糊化特性においても元の野生型の生物が生産するデンプンとは明らかに相違するものであった。
また、これらの結果から、元の野生型の生物におけるデンプンの枝作り酵素IIb(BEIIb)の遺伝子の発現量を変化させることにより、元の野生型の生物が生産するデンプンの形質を改質することができ、BEIIb遺伝子の発現の程度によって鎖長を連続的に変化させることができることも明確になった。鎖長分布の変化に伴ってデンプンの糊化特性、デンプン粒の形態、デンプンの結晶性に影響を与えることも明確となり、これらの変化も鎖長分布の変化に連動して連続的であり、このことはBEIIb遺伝子の発現量を調節することにより、好みの物性や結晶性をもったデンプンを創製することができることを示している。
したがって、本発明は、元の野生型の生物に比べて、デンプン合成に関与する酵素を過剰に発現させる方法を提供するものであり、また、新規な形質の異なるデンプンを生産する有用な変異体生物体、及びそれを製造する方法を提供するものである。
本発明におけるデンプンを生産する生物としては、デンプン枝作り酵素II型を有するものであるが、好ましくは植物、より好ましくは米、ムギ、トウモロコシなどの穀物植物、さらに好ましくはイネが挙げられる。
本発明のデンプンの枝作り酵素の遺伝子の発現量としては、元の野生型のものに比べて多くても少なくてもよく、目的とするデンプンの形質に応じて適度の発現量を有するものを選択することができる。デンプンのアミロペクチンの枝分かれは、枝作り酵素による枝分かれの促進作用と、イソアミラーゼなどの枝切り分解酵素による枝分かれの抑制作用とのバランスによるものと考えられることから、枝分かれの少ないアミロペクチンはイソアミラーゼなどの枝切り分解酵素の活性化などによっても製造可能であるが、アミロペクチンの枝分かれ構造が適度に多い鎖長の比較的短いものの分布が適度に多いデンプンは、本発明の方法により初めて製造できるものであることから、枝作り酵素の発現量が過剰となる場合がより好ましい。
本発明におけるデンプンの枝作り酵素の発現量を元の野生型と相違させる手段としては、前記した実験による方法、即ち当該酵素の遺伝子が欠損した変異体に当該酵素の遺伝子を導入し、この形質転換体から発現量の多い又は少ない形質転換体を選別する方法が好ましいが、野生型に当該酵素の遺伝子をさらに導入して過剰発現を誘発する方法など他の手段を採用することも可能である。
また、本発明におけるデンプンの形質としては、糊化特性や鎖長の分布を例示してきたが、これらに限定されるものではなく、デンプンの枝作り酵素の発現量に応じて変化する形質であれば特に制限はない。
3.デンプン枝切り酵素イソアミラーゼのプロモーターによる改変
次に、デンプン枝切り酵素イソアミラーゼのプロモーターについて説明する。
次に、デンプン枝切り酵素イソアミラーゼのプロモーターについて説明する。
本発明者らは、イネ(Oryza sativa L.)のイソアミラーゼの精製、そのcDNA構造にについて報告してきた(N.Fujita,et al.,Planta,208,283−293(1999))。この報告では全長のcDNAは明らかにされていないが、このイソアミラーゼの遺伝子がイネの第8染色体に位置していることを明らかにしてきた。
一方、川崎らは、平均インサートサイズ155kB、7ゲノム相当のイネのゲノム(約450MB/ゲノム)のBAC(Bacterial Artificial Chromosome)ライブラリーを完成させ、これを公開してきた(川崎ら、バイオサイエンスとインダストリー、第55巻、第7号、487(1997))。
そこで、本発明者らは、イネのイソアミラーゼの遺伝子の解析を進め、その結果に基づいてプローブを作成して、イネのBACライブラリーからイソアミラーゼのプロモーターを得ることに成功した。
ジャポニカイネ(品種キタアケ)のゲノムを平均インサートサイズ155kBのクローンをBACベクターに組み込んだニトロセルロースメンブレン4枚からなるゲノミックDNAライブラリー(川崎ら、バイオサイエンスとインダストリー、第55巻、第7号、487(1997))を遺伝子の起源として用い、イネイソアミラーゼcDNA(Fujitaら、1999年)のEcoRI−EcoRI断片(1517bp)をプローブA(図29参照)として、ニトロセルロースメンブレン1枚当たり120ngを用いて、ECL法でサザンブロッティングを行った。図29は、イネ(Os)のイソアミラーゼ(ISA)のcDNAの#26クローン(N.Fujita,et al.,Planta,208,283−293(1999))の制限酵素地図と本発明で使用したプローブA及びプローブBの位置を示す。プローブAはEcoRI−EcoRIの1517bpからなる断片であり、プローブBは同じくEcoRI−EcoRIからなる654bpの断片である。
その結果、ポジティブに反応する候補クローン2種類(#59、#60)を単離した(図30参照)。図30はイネのBACライブラリーが転写されている4枚(左からA、B、C、及びDの4枚)のニトロセルロースメンブレンを用いて、プローブAによるサザンハイブリダイゼーションを行った(ECL法)結果を示す図面に代わる写真である。図30の左から2枚目(B)に2つのポジティブクローン(#59及び#60)が得られた(図30のBの矢印)。
得られた2つのポジティブクローン(#59、#60)を、クロラムフェニコールを含むLB培地で大量増殖し、DNA抽出機(クラボー社製)でBAC DNAを調製した。精製したBAC DNAを、HindIII、EcoRI、XhoI、SacI,SalI、SpeI、PstI、XbaIの8種類の制限酵素を用いて、37℃、6時間加水分解し、アガロースゲルで電気泳動を行った。トランスブロッター(S&S社製)を用いてゲルのDNAをメンブレンに2時間転写し、UVクロスリンカー(ストラタジーン社製)でUV照射してDNAをメンブレンに結合させた。メンブレン当たり0.35ngの、プローブAを用いて42℃で一晩、穏やかに浸透させながらハイブリダイズさせた。ハイブリダイズさせたメンブレンを洗浄した後、2×SSCで室温で浸透しながら洗浄した。現像はアマシャム社のECLキットを用いて行った。X線フィルムへの感光時間は5分間であった。プローブAハイブリダイズさせた2日後、同じメンブレンを用いてプローブB(654bp)でも同じ条件でハイブリダイズさせた。
この結果、2つのクローンともにプローブA、Bに反応したため(図31及び図32参照)、これらがイソアミラーゼ遺伝子を含んでいることがわかった。
図31は#59と#60の2つのポジティブクローンを8種類の制限酵素で切断して、プローブAを用いてサザンハイブリダイゼーションを行った結果を示す図面に代わる写真である。図31の左からHindIII、EcoRI、XhoI、SacI,SalI、SpeI、PstI、及びXbaIの8種類の制限酵素で切断した断片を示し、各々の断片は#59からのもの(各左側)と#60からのもの(各右側)を示している。図31の左右の数値は断片の長さ(kb)を示している。
図32は、プローブとして図29に示すプローブBを用いた点を除き図31と同様である。
各断片はいずれも、プローブA及びプローブBと反応していることが示された。
以上の結果を参考にして、イネイソアミラーゼ遺伝子の制限酵素地図を作製した。得られたイネイソアミラーゼ遺伝子の制限酵素地図を図33に示す。図33のAは図29に示したイネのイソアミラーゼの前記cDNAに相当するゲノミックDNAであり、四角で示される部分がエキソン領域を示している。図33のBはイネのイソアミラーゼの前記ゲノミックDNAの制限酵素地図を拡大して示している。図33のAの左側の点線から左側の四角部分であるエキソンがプローブBに相当する領域のであり、右側の点線の右側がプローブAに相当する領域のエキソンである。図33のCはクローン#60をいくつかの制限酵素で切断して得られた断片を示す。図33のCは、断片E1(EoRI−EcoRI、7.2kb)、断片SE(SalI−EcoRI、4.8kb)、断片H(HindIII−HindIII、2.4kb)、断片P(PstI−PstI、5.1kb)、断片PS(PstI−SacI、4.8kb)、及び断片E2(EoRI−EcoRI、5.8kb)をそれぞれ示す。
また、BACクローン#60をいくつかの制限酵素で切断して得られた断片(E1(EoRI−EcoRI、7.2kb)、SE(SalI−EcoRI、4.8kb)、H(HindIII−HindIII、2.4kb)、P(PstI−PstI、5.1kb)、Ps(PstI−SacI、4.8kb)、E2(EoRI−EcoRI、5.8kb))を0.8%低融点アガロースで電気泳動を行った後に切り出した。タカラ社製のβ−アガラーゼIを用いて、アガロースを分解した後、マイクロコン100(ミリポア社製)で、溶媒交換して精製し、0.85fmolの断片DNAと、それぞれの制限酵素で切断した後、エビアルカリフォスファターゼ(ロッシュ社製)で脱リン酸化処理したpCAMBIAプラスミド8.5fmolとともに、TOYOBO社製ライゲーションハイ(Ligation high)を用いて、16℃で、一晩ライゲーション反応を行った。それらをエレクトロポーレーション(BTX社製)を用いて、1.29KVで、GIBCO社製大腸菌(エレクトロマックス、DH10Bcell)を、25μl使用)に導入して形質転換させた。得られた形質転換体を37℃で、2日間培養した後、ブルーホワイトセレクション法で、白コロニーを選び、50μg/mlのカナマイシンを含む、LB培地で大量増殖した。pCAMBIAプラスミドをキアーゲンプラスミドキット(キアゲン社製)で精製した。
このようにして得られたサブクローリングしたクローンのうち、SE断片(SalI−EcoRI、4.8kb)の塩基配列をABI社製DNAシーケンサー370を用いて、ダイジオキシ法で決定した。その結果、この断片はイソアミラーゼ遺伝子のプロモーター、翻訳開始、などを含んでいた。
この遺伝子からイネのイソアミラーゼ遺伝子のプロモーターを決定した。これを配列表の配列番号7に示す。
イソアミラーゼは、デンプンを製造するの枝分かれを分解してゆく酵素であり、生物特有のデンプンを製造するためにデンプン製造時の必要な時期に必要な量だけ発現するように制御されている。したがって、本発明のイネのイソアミラーゼ遺伝子のプロモーターは、イネ特有のデンプンを製造するために必要なイソアミラーゼの発現を制御するものであり、イネ様のデンプンを製造するに有用となる。例えば、本発明のプロモーター及びイソアミラーゼ遺伝子をイネ以外の生物に導入した場合には、イネと同様なデンプンを製造するために、デンプンの枝切り酵素であるイソアミラーゼが発現され、イネ様のデンプンをイネ以外の生物において製造することが可能となる。また、イネ以外の生物に由来するイソアミラーゼを有したまま、本発明のするプロモーター及びイソアミラーゼ遺伝子をイネ以外の生物に導入した場合には、両者の複合された形態のデンプンを製造できる可能性もある。
このように本発明のイネのイソアミラーゼのプロモーターは、イネのデンプンを製造するために極めて重要な役割を果たすものであり、イネのデンプンの製造のみならず新規な形態を有するデンプンを製造するために極めて有用である。
本発明のプロモーターは、配列表の配列番号7に記載された塩基配列を有するものとして得られたが、これらの全部の配列が必要ではなく、イソアミラーゼの発現の制御に関係少ない部分の塩基配列は任意に変更することができる。
現在のところでは、どの部分がイソアミラーゼの発現の制御に重要であるかということは必ずしも明確に分析されてはいないが、転写開始コドンから上流500塩基、好ましくは700塩基〜1000塩基程度は必要であると考えられる。好ましい、塩基配列としては配列表の配列番号7の2521−3288までの塩基配列を挙げることが出来るが、これに限定されるものではない。さらに、これらの塩基配列についても、これらの塩基配列が配列表の配列番号7のとおりの塩基配列である必要ではなく、イソアミラーゼの発現の制御に関係少ない部分の塩基配列は任意に変更することができる。
塩基配列の変更としては、配列表の配列番号7の塩基配列の一部を削除し、また他の塩基配列を付加し、他の塩基配列で置換するな、並びにこれらの組み合わせにより、任意にその塩基配列を変更することができる。変更の手段としては、公知の各種の手段を採用することができる。
このように変更された塩基配列を有するプロモーターも、前記した本発明のプロモーターと同種の作用効果を有する限りにおいては、本発明のプロモーターに包含されるものである。
本発明のプロモーターは、イネのイソアミラーゼ遺伝子より分離されたものであるが、イソアミラーゼ遺伝子としてはイネのイソアミラーゼ遺伝子に制限されるものではない。イソアミラーゼ遺伝子は生物種により異なってはいるが、本発明のプロモーターにより発現の制御が可能でる限りにおいて、如何なるイソアミラーゼ遺伝子であってもよい。例えば、本発明のプロモーターをコムギのイソアミラーゼ遺伝子の上流に導入したり、他品種のイネのイソアミラーゼ遺伝子の上流に導入することもできる。このように、本発明のプロモーターをイソアミラーゼ遺伝子を有する別の生物にそのプロモーター部分のみを導入することにより、デンプンの枝切り酵素の作用が異なった新規な形態や蓄積法をしたデンプンを得ることも可能となる。
また、本発明のプロモーターを有するイネに他の品種または植物のイソアミラーゼ遺伝子を導入して、イネに新規な形態や蓄積法をしたデンプンを製造させることも可能となる。
したがって、本発明は、本発明のプロモーターを用いて新規な形態(アミロペクチンの構造的な解析、また特性や蓄積場所や味覚などの相違により区別可能なデンプンの形態)のデンプンを製造する方法を提供することが可能となる。本発明の方法による新規なデンプンは、本発明のイネに特有なデンプンを製造するようにイソアミラーゼの発現が制御されたプロモーターと、その下流に位置するイソアミラーゼ遺伝子との組み合わせにより可能となる。
したがって、本発明は、本発明のプロモーターを用いて新規な形態(アミロペクチンの構造的な解析、また特性や蓄積場所や味覚などの相違により区別可能なデンプンの形態)のデンプンを製造する方法を提供することが可能となる。本発明の方法による新規なデンプンは、本発明のイネに特有なデンプンを製造するようにイソアミラーゼの発現が制御されたプロモーターと、その下流に位置するイソアミラーゼ遺伝子との組み合わせにより可能となる。
また、本発明は、本発明のプロモーターとイソアミラーゼ遺伝子が発現に適した形態で配置された遺伝子を提供するものでもある。
前記で具体的に示してきた本発明のプロモーターはジャポニカ米のプロモーターであり、ジャポニカ米のデンプンを製造に必須のプロモーターである。インディカ米は、ジャポニカ米とは異なる形態のデンプンを製造しており、これは主としてデンプンの枝切り酵素であるイソアミラーゼによるところが大きいと考えられている。勿論、両者のイソアミラーゼ酵素自体の相違によるところも考えられるが、両者のデンプンの形態の相違は、そのプロモーターの相違によるところも多い。このように、本発明のプロモーターを、デンプンの形態が異なる他品種のイネのイソアミラーゼ遺伝子の上流に導入することも極めて有用な方法である。さらに、本発明のプロモーターを、イネ以外の生物、好ましくは植物のイソアミラーゼ遺伝子の上流に導入することも考えられる。
本発明のプロモーターが結合しするイソアミラーゼ遺伝子としては、デンプンの形態が異なる他の品種のイネ、コムギやオオムギなどの他の穀物植物、イモやマメ、トウモロコシなどの雑穀植物などや、デンプンを製造する細菌類や藻類などのイソアミラーゼ遺伝子が挙げられる。
さらに、本発明の前記したイソアミラーゼ遺伝子の上流に本発明のプロモーターが配置されてなる遺伝子を通常の方法によりベクターに組み込むことができ、必要に応じて当該ベクターを用いて適当な細胞を形質転換させることができる。したがって、本発明は、イソアミラーゼ遺伝子の上流に本発明のプロモーターが配置されてなる遺伝子を含有してなるベクター、及びそれにより形質転換された形質転換体を提供するものでもある。形質転換される宿主細胞としては、イネやムギなどの高等植物細胞が好ましいが、これに限定されるものではなく、イソアミラーゼを発現し得る細胞であればよい。
また、本発明は、イソアミラーゼ遺伝子の上流に本発明のプロモーターを配置してなる遺伝子を用いてイソアミラーゼを発現させる方法を提供する。イソアミラーゼはデンプンの製造に必要となる酵素であるが、デンプンの製造に限定されるものではなく、イソアミラーゼ自体を発現させる方法であれば本発明の方法に包含されるものである。
前述してきたように、アミロペクチンのクラスター構造の微妙な相違が、デンプンの特性を大きく変化させることから(例えば、イネのジャポニカとインディカの相違を参照されたい。)、本発明のイネのイソアミラーゼ遺伝子のプロモーターは、イネ特にジャポニカ米に特有なデンプンを製造するに必要なイソアミラーゼの発現を制御できるものであり、これを用いた新品種の創製は新しいデンプンの創製に大きな役割を果たすものである。
なお、特願2001−273166明細書、特願2001−277109明細書、特願2001−277120明細書、及び、特願2001−287010明細書に記載された内容を、本明細書にすべて取り込む。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
イネ(Oryza sativa L.)の種子は、独立行政法人農業生物資源研究所(筑波)のジーンバンクから譲り受けた。これらの植物は、初夏に自然の条件下で育成され、成熟種子は使用されるまで4〜8℃で保存された。
実施例1 アミロペクチンの鎖長分布の分析
アミロペクチンのα−1,4−グルカンの鎖長分布を測定するために、キャピラリー電気泳動による以下の方法により行った。
成熟乾燥種子から外内穎および胚を取り除き、乳鉢と乳棒で磨砕し、αポリグルカンの分子構造解析用試料とした。試料粉末5mgに5mlのメタノールを加え、10分間煮沸した。1,000xgで10分間遠心分離し、上清を除去し、90%メタノールを5ml加え二度洗浄した。沈殿に300μlの0.25N水酸化ナトリウムを加え、5分間煮沸してデンプンを糊化させた。糊化液を氷酢酸9.6μlで中和した後、蒸留水1.09ml、0.6M酢酸緩衝液(pH4.4)100μl、2%アジ化ナトリウム15μlを加えた。P.amyloderamosaイソアミラーゼ(354単位、生化学工業)6μlを加え、スターラーバーで撹拌しながら37℃、24時間反応させた後、20分間煮沸し、遠心分離し、上清を脱イオンカラム(AG501−X8(D),Bio−Rad)で濾過した。
蛍光標識及びキャピラリー電気泳動装置(P/ACE5000,Beckman)は、オーシーアら(O’Shea,et al)の方法に準じて行った。プロトコルはeCAPN−リンクドオリゴサッカライドプロファイリングキット(eCAP N−linked oligosaccharide profiling kit)(Beckman Coulter,California)を用いることにより製造業者から提供された。
イネの各々の品種のランダムに選択された異なる種子を用いて、少なくとも3回の別々の測定を行った。
この結果を、表1〜4、並びに図5、図6、及び図26に示す。
アミロペクチンのα−1,4−グルカンの鎖長分布を測定するために、キャピラリー電気泳動による以下の方法により行った。
成熟乾燥種子から外内穎および胚を取り除き、乳鉢と乳棒で磨砕し、αポリグルカンの分子構造解析用試料とした。試料粉末5mgに5mlのメタノールを加え、10分間煮沸した。1,000xgで10分間遠心分離し、上清を除去し、90%メタノールを5ml加え二度洗浄した。沈殿に300μlの0.25N水酸化ナトリウムを加え、5分間煮沸してデンプンを糊化させた。糊化液を氷酢酸9.6μlで中和した後、蒸留水1.09ml、0.6M酢酸緩衝液(pH4.4)100μl、2%アジ化ナトリウム15μlを加えた。P.amyloderamosaイソアミラーゼ(354単位、生化学工業)6μlを加え、スターラーバーで撹拌しながら37℃、24時間反応させた後、20分間煮沸し、遠心分離し、上清を脱イオンカラム(AG501−X8(D),Bio−Rad)で濾過した。
蛍光標識及びキャピラリー電気泳動装置(P/ACE5000,Beckman)は、オーシーアら(O’Shea,et al)の方法に準じて行った。プロトコルはeCAPN−リンクドオリゴサッカライドプロファイリングキット(eCAP N−linked oligosaccharide profiling kit)(Beckman Coulter,California)を用いることにより製造業者から提供された。
イネの各々の品種のランダムに選択された異なる種子を用いて、少なくとも3回の別々の測定を行った。
この結果を、表1〜4、並びに図5、図6、及び図26に示す。
実施例2 (DSCによる熱糊化特性の測定)
各々のイネの品種から、ランダムに3粒の種子を選択し、種子から外内穎および胚を取り除き、乳鉢と乳棒で均一化した。粉末をエッペンドロッフチューブ(Eppendorf tube)にいれ、105℃で2時間加熱乾燥し、使用するまでデシケーターで保存した。デンプンの糊化特性は示差走査熱量測定(Differential Scaning Calorimeter;DSC)(DSC−7,Perkin−Elmer)により行った。各々5mgのデンプン試料を銀製のサンプルパンに入れ、40μlの脱イオン水と混合し、密封した。サンプルは3℃/分の速度で10℃〜120℃まで昇温させた。
イネの各々の品種のランダムに選択された異なる種子を用いて、少なくとも2回、殆どの場合は3回の別々の測定を行った。
この結果を表1〜4、表5、及び表8に示す。
各々のイネの品種から、ランダムに3粒の種子を選択し、種子から外内穎および胚を取り除き、乳鉢と乳棒で均一化した。粉末をエッペンドロッフチューブ(Eppendorf tube)にいれ、105℃で2時間加熱乾燥し、使用するまでデシケーターで保存した。デンプンの糊化特性は示差走査熱量測定(Differential Scaning Calorimeter;DSC)(DSC−7,Perkin−Elmer)により行った。各々5mgのデンプン試料を銀製のサンプルパンに入れ、40μlの脱イオン水と混合し、密封した。サンプルは3℃/分の速度で10℃〜120℃まで昇温させた。
イネの各々の品種のランダムに選択された異なる種子を用いて、少なくとも2回、殆どの場合は3回の別々の測定を行った。
この結果を表1〜4、表5、及び表8に示す。
実施例3 (アミロース含有量の測定)
各々のイネの品種から、種子を選択し、種子から外内穎および胚を取り除き、乳鉢と乳棒で均一化した。得られた粉末のアミロース含有量は、アミログラフを用いて測定された。
イネの各々の品種のランダムに選択された異なる種子を用いて、少なくとも2回別々の測定を行った。
この結果を表1〜4、並びに図7及び図8に示す。
各々のイネの品種から、種子を選択し、種子から外内穎および胚を取り除き、乳鉢と乳棒で均一化した。得られた粉末のアミロース含有量は、アミログラフを用いて測定された。
イネの各々の品種のランダムに選択された異なる種子を用いて、少なくとも2回別々の測定を行った。
この結果を表1〜4、並びに図7及び図8に示す。
実施例4 (殼のフェノール色素反応)
粒を室温で1.5%フェノール溶液に3〜6時間浸けた。そして、穏やかに乾燥した。殻の着色を染色された染色されなかったかにかかわらず記録した。
イネの各々の品種のランダムに選択された異なる種子を用いて、少なくとも2回別々の測定を行った。
この結果を表1〜4に示す。
粒を室温で1.5%フェノール溶液に3〜6時間浸けた。そして、穏やかに乾燥した。殻の着色を染色された染色されなかったかにかかわらず記録した。
イネの各々の品種のランダムに選択された異なる種子を用いて、少なくとも2回別々の測定を行った。
この結果を表1〜4に示す。
実施例5 (SSIIaをコードする遺伝子の単離と配列の決定)
日本晴のSSIIa遺伝子は、独立行政法人・農業生物資源研究所イネゲノム研究チームが調製したSSIIa遺伝子を含む2種類のPACクローン(P441,P450)を使用した。また、カサラスのSSIIa遺伝子は、同じく独立行政法人・農業生物資源研究所イネゲノム研究チームが調製したSSIIa遺伝子を含むBACクローンを使用した。
このPACクローン、及びBACクローンを種々の制限酵素(EcoR V、EcoR I、Pst I、Kpn I、Sal I等)で加水分解した。それぞれの断片を、プラスミドベクター(pBluescript SK+)にサブクローンした後、プラスミドDNAを調製し、それぞれのDNA塩基配列を、ジデオキシ法によってDNAシーケンサーで決定した。
得られた日本晴とカサラスのスターチシンターゼIIa(starch synthase,SSIIa)遺伝子の構造を図13に示す。また、日本晴の塩基配列を配列表の配列番号1に、カサラスの塩基配列を同配列番号2に示す。また、日本晴のエキソン部分の塩基配列を配列表の配列番号3に、カサラスのものを配列番号4にそれぞれ示す。さらに、日本晴のSSIIaのアミノ酸配列を配列表の配列番号5に、カサラスのものを配列番号6にそれぞれ示す。
日本晴のSSIIa遺伝子は、独立行政法人・農業生物資源研究所イネゲノム研究チームが調製したSSIIa遺伝子を含む2種類のPACクローン(P441,P450)を使用した。また、カサラスのSSIIa遺伝子は、同じく独立行政法人・農業生物資源研究所イネゲノム研究チームが調製したSSIIa遺伝子を含むBACクローンを使用した。
このPACクローン、及びBACクローンを種々の制限酵素(EcoR V、EcoR I、Pst I、Kpn I、Sal I等)で加水分解した。それぞれの断片を、プラスミドベクター(pBluescript SK+)にサブクローンした後、プラスミドDNAを調製し、それぞれのDNA塩基配列を、ジデオキシ法によってDNAシーケンサーで決定した。
得られた日本晴とカサラスのスターチシンターゼIIa(starch synthase,SSIIa)遺伝子の構造を図13に示す。また、日本晴の塩基配列を配列表の配列番号1に、カサラスの塩基配列を同配列番号2に示す。また、日本晴のエキソン部分の塩基配列を配列表の配列番号3に、カサラスのものを配列番号4にそれぞれ示す。さらに、日本晴のSSIIaのアミノ酸配列を配列表の配列番号5に、カサラスのものを配列番号6にそれぞれ示す。
実施例6 (日本晴のSSIIaのcDNAの塩基配列の決定)
Cap Site cDNA dT(Nippon Gene社製)をDNAの鋳型として、種々のcDNAプライマーを用いて、PCR反応を行なった。PCR反応産物をプラスミドにサブクローニングし、そのDNA塩基配列を、ジデオキシ法によってDNAシーケンサーで決定した。
Cap Site cDNA dT(Nippon Gene社製)をDNAの鋳型として、種々のcDNAプライマーを用いて、PCR反応を行なった。PCR反応産物をプラスミドにサブクローニングし、そのDNA塩基配列を、ジデオキシ法によってDNAシーケンサーで決定した。
実施例7 (日本晴とカサラスのSSIIa遺伝子の構造決定)
前記実施例6に記載の方法によって求められたゲノミックDNA遺伝子の塩基配列と、cDNAの塩基配列を比較する事によって、SSIIa遺伝子のイントロン、エキソンの位置を決定した。
前記実施例6に記載の方法によって求められたゲノミックDNA遺伝子の塩基配列と、cDNAの塩基配列を比較する事によって、SSIIa遺伝子のイントロン、エキソンの位置を決定した。
実施例8
(1)BAC ライブラリー
イネゲノムDNAライブラリーとして、イネ品種「シモキタ」のBAC(Bacterial Artificial Chromosome)ライブラリー(Nakamura et al.,(1997)Mol.Gen.Genet.254:611−620.)を利用した。このBACライブラリーは、マイクロプレートサイズのメンブレンに固定したもので、ゲノムDNAはシモキタの緑葉のプロトプラストから調製したものであり、平均インサートサイズ155kbである(Nakamura et al.,(1997)Mol.Gen.Genet.254:611−620.)。
(2)植物形質転換用バイナリーベクター
アグロバクテリウムを介してイネに遺伝子を導入させるバイナリーベクターとしてpCAMBIA1300を用いた。このベクターはCAMBIA(Canberra,Australia)のジェファーソン(Richard A.Jefferson)博士より分与されたものである。また、このベクターは、カナマイシンおよびハイグロマイシン耐性遺伝子を保持しており、それら抗生物質をマーカーとして形質転換体をスクリーニングすることができる。
(1)BAC ライブラリー
イネゲノムDNAライブラリーとして、イネ品種「シモキタ」のBAC(Bacterial Artificial Chromosome)ライブラリー(Nakamura et al.,(1997)Mol.Gen.Genet.254:611−620.)を利用した。このBACライブラリーは、マイクロプレートサイズのメンブレンに固定したもので、ゲノムDNAはシモキタの緑葉のプロトプラストから調製したものであり、平均インサートサイズ155kbである(Nakamura et al.,(1997)Mol.Gen.Genet.254:611−620.)。
(2)植物形質転換用バイナリーベクター
アグロバクテリウムを介してイネに遺伝子を導入させるバイナリーベクターとしてpCAMBIA1300を用いた。このベクターはCAMBIA(Canberra,Australia)のジェファーソン(Richard A.Jefferson)博士より分与されたものである。また、このベクターは、カナマイシンおよびハイグロマイシン耐性遺伝子を保持しており、それら抗生物質をマーカーとして形質転換体をスクリーニングすることができる。
実施例9 (BEIIb遺伝子をコードするゲノムDNA断片の単離)
BACライブラリーから、イネのBEIIbゲノミック遺伝子をコードするクローンをスクリーニングするために、BEIIbのcDNAをプローブとして用いた。イネ品種フジヒカリのBEIIbのcDNAをPstIで切断し、その結果得られた1740bpのDNA断片を、アガロースゲル電気泳動した後、ウルトラフリーDA(Ultrafree−DA(Millipore))でアガロースゲルから抽出、精製した。このDNA断片を、ECLダイレクト核酸ラベル化及び検出システム(ECL direct nucleic acid labeling and detection system(Amersham))によりラベルしプローブとして用いた。ラベル化の方法は、付属の説明書にしたがった。以下に述べるハイブリダイゼーションおよびメンブレンの洗浄もこのECLシステムを利用し、方法は説明書にしたがった。
BACライブラリーのメンブレンを上述のBEIIbのcDNA断片プローブとハイブリダイゼーシヨンさせた結果、プローブとハイブリダイズするシグナルを得た。そのシグナルに対応するプラスミドを保持する大腸菌のクローンを得て、それをLB液体培地(クロラムフェニコール25μg/ml含む)で一晩培養し、プラスミド自動抽出機(PI−100S Automatic Plasmid Isolation System、Kurabo)によりプラスミドを抽出した。
前述のようにBACライブラリーの平均インサートサイズは155kbであり、そのような長いDNA断片には複数の遺伝子が存在することも考えられる。BEIIb遺伝子がコードされている領域のみを得る必要があることから、ポジティブクローンから得たプラスミドについてサザンブロット解析を行なった。プラスミドを制限酵素SalI(ニッポンジーン)で切断した後、アガロースゲル電気泳動し、ナイロンメンブレン(Nytran、Schleicher&Schuell)にDNA断片を転写させた。上述のプローブを用い、ECLシステムにより、メンブレンとハイブリダイゼーシヨンさせた。その結果、プローブは17kbのDNA断片とハイブリダイズした。そのDNA断片を単離するために、プラスミドをSalIで切断した後、低融点アガロースゲル(NUSIEVE GTG,FMC)で電気泳動し、目的の17kb断片を含む領域のゲルを切り出し、b−アガラーゼ(ニッポンジーン)によりアガロースを分解し、DNA断片を抽出、精製した。
BACライブラリーから、イネのBEIIbゲノミック遺伝子をコードするクローンをスクリーニングするために、BEIIbのcDNAをプローブとして用いた。イネ品種フジヒカリのBEIIbのcDNAをPstIで切断し、その結果得られた1740bpのDNA断片を、アガロースゲル電気泳動した後、ウルトラフリーDA(Ultrafree−DA(Millipore))でアガロースゲルから抽出、精製した。このDNA断片を、ECLダイレクト核酸ラベル化及び検出システム(ECL direct nucleic acid labeling and detection system(Amersham))によりラベルしプローブとして用いた。ラベル化の方法は、付属の説明書にしたがった。以下に述べるハイブリダイゼーションおよびメンブレンの洗浄もこのECLシステムを利用し、方法は説明書にしたがった。
BACライブラリーのメンブレンを上述のBEIIbのcDNA断片プローブとハイブリダイゼーシヨンさせた結果、プローブとハイブリダイズするシグナルを得た。そのシグナルに対応するプラスミドを保持する大腸菌のクローンを得て、それをLB液体培地(クロラムフェニコール25μg/ml含む)で一晩培養し、プラスミド自動抽出機(PI−100S Automatic Plasmid Isolation System、Kurabo)によりプラスミドを抽出した。
前述のようにBACライブラリーの平均インサートサイズは155kbであり、そのような長いDNA断片には複数の遺伝子が存在することも考えられる。BEIIb遺伝子がコードされている領域のみを得る必要があることから、ポジティブクローンから得たプラスミドについてサザンブロット解析を行なった。プラスミドを制限酵素SalI(ニッポンジーン)で切断した後、アガロースゲル電気泳動し、ナイロンメンブレン(Nytran、Schleicher&Schuell)にDNA断片を転写させた。上述のプローブを用い、ECLシステムにより、メンブレンとハイブリダイゼーシヨンさせた。その結果、プローブは17kbのDNA断片とハイブリダイズした。そのDNA断片を単離するために、プラスミドをSalIで切断した後、低融点アガロースゲル(NUSIEVE GTG,FMC)で電気泳動し、目的の17kb断片を含む領域のゲルを切り出し、b−アガラーゼ(ニッポンジーン)によりアガロースを分解し、DNA断片を抽出、精製した。
実施例10 (BEIIbゲノムDNA断片のサブクローニングおよび塩基配列の解析)
バイナリーベクターpCAMBIA1300をSalIで切断した後、65℃、15分の処理によりSalIを失活させた。次に、エビアルカリホスファターゼ(shrimp alkaline phosphatase(Roche))を37℃、1時間反応させ、SalI切断により生じた5’末端を脱リン酸化させた。続いて、65℃、15分の処理によりエビアルカリホスファターゼを失活させた。BEIIbのcDNAプローブとハイブリダイズした17kbのDNA断片をサブクローニングするために、SalI切断およびエビアルカリホスファターゼ処理したpCAMBIA1300とT4DNAリカーゼ(ニッポンジーン)により16℃、一晩ライゲーションした後(これをpCBEIIbとした)、大腸菌株DH10B(GIBCO)を形質転換した。LB寒天培地(カナマイシン50μg/ml含む)に生えた大腸菌をLB液体培地(カナマイシン50μg/ml含む)で一晩培養し、クイアゲンプラスミドミディキット(QIAGEN Plasmid Midi Kit(QIAGEN))によりプラスミドを抽出、精製した。方法はキットに付属の説明書にしたがった。
このバイナリーベクターにサブクローニングした17kbDNA断片の制限酵素地図を決定し、断片化した後、塩基配列を解析した。塩基配列の解析は、既知の方法によった(DNA sequencing kit dye primer cycle sequencing ready reactionまたはDNA sequencing kit dye terminator cycle sequencing ready reaction(ともにApplied Biosystems)、並びにABI 373 DNAシーケンサー(Applied Biosystems))を用いた。得られたデータは、GENETYX−Mac バージョン10.1(Software Development)により解析した。その結果、17kbゲノムDNA断片には、BEIIb遺伝子の完全長がコードされており、BEIIbのcDNAの塩基配列との比較により、BEIIbゲノミック遺伝子は22エキソン、21イントロンからなることが明らかになった。
また、このDNA断片には、遺伝子の上流域が約2.2kb存在し、プロモーター領域は全て含まれていると考えられた。さらに、下流域は約3kb存在し、ターミネーター領域は全て含まれると考えられた。そこで、pCAMBIA1300サブクローニングしたBEIIb遺伝子をコードする17kbDNA断片をイネに導入することにした。
バイナリーベクターpCAMBIA1300をSalIで切断した後、65℃、15分の処理によりSalIを失活させた。次に、エビアルカリホスファターゼ(shrimp alkaline phosphatase(Roche))を37℃、1時間反応させ、SalI切断により生じた5’末端を脱リン酸化させた。続いて、65℃、15分の処理によりエビアルカリホスファターゼを失活させた。BEIIbのcDNAプローブとハイブリダイズした17kbのDNA断片をサブクローニングするために、SalI切断およびエビアルカリホスファターゼ処理したpCAMBIA1300とT4DNAリカーゼ(ニッポンジーン)により16℃、一晩ライゲーションした後(これをpCBEIIbとした)、大腸菌株DH10B(GIBCO)を形質転換した。LB寒天培地(カナマイシン50μg/ml含む)に生えた大腸菌をLB液体培地(カナマイシン50μg/ml含む)で一晩培養し、クイアゲンプラスミドミディキット(QIAGEN Plasmid Midi Kit(QIAGEN))によりプラスミドを抽出、精製した。方法はキットに付属の説明書にしたがった。
このバイナリーベクターにサブクローニングした17kbDNA断片の制限酵素地図を決定し、断片化した後、塩基配列を解析した。塩基配列の解析は、既知の方法によった(DNA sequencing kit dye primer cycle sequencing ready reactionまたはDNA sequencing kit dye terminator cycle sequencing ready reaction(ともにApplied Biosystems)、並びにABI 373 DNAシーケンサー(Applied Biosystems))を用いた。得られたデータは、GENETYX−Mac バージョン10.1(Software Development)により解析した。その結果、17kbゲノムDNA断片には、BEIIb遺伝子の完全長がコードされており、BEIIbのcDNAの塩基配列との比較により、BEIIbゲノミック遺伝子は22エキソン、21イントロンからなることが明らかになった。
また、このDNA断片には、遺伝子の上流域が約2.2kb存在し、プロモーター領域は全て含まれていると考えられた。さらに、下流域は約3kb存在し、ターミネーター領域は全て含まれると考えられた。そこで、pCAMBIA1300サブクローニングしたBEIIb遺伝子をコードする17kbDNA断片をイネに導入することにした。
実施例11 (BEIIb遺伝子を導入したイネae変異体の形質転換体の作製)
アグロバクテリウムを介した形質転換法により、上述のバイナリーベクターにサブクローニングしたBEIIb遺伝子をイネae変異体であるEM10(Yano et al.,(1985)Theor.Appl.Genet.69:253−257.)に導入し、形質転換体を作製した。イネの組織培養および形質転換は土岐(Toki)の方法(Toki,(1997)Plant Mol.Biol.Reporter 15:16−21.)にしたがった。
まず、pCBEIIbをエレクトロポレーシヨン法によりアグロバクテリウムツネファシエンスEHA105株(Agrobacterium tumefacience EHA105株)に導入した。このアグロバクテリウムをEM10のカルスに感染させ、DNA導入し、形質転換させた。形質転換体は、ハイグロマイシンによりスクリーニングした。植物体に再分化したイネ個体はポットに移植し、温室で、自然光、28/24℃(6−18時/18−6時)の条件で生育させた。
得られた形質転換体の中から6系統を選別し、これらのサザンブロット解析の結果を図23に示す。ノーザンブロット解析の結果を図24に示す。また、ウエスタンブロット/活性染色法による解析の結果を図25に示す。
さらに、これらの形質転換イネのアミロペクチンの分子構造について、それらの鎖長分布解析の結果を図26にグラフ化して示す。これらの形質転換イネのデンブンの熱糊化特性及び種子重量を表8に示す。
アグロバクテリウムを介した形質転換法により、上述のバイナリーベクターにサブクローニングしたBEIIb遺伝子をイネae変異体であるEM10(Yano et al.,(1985)Theor.Appl.Genet.69:253−257.)に導入し、形質転換体を作製した。イネの組織培養および形質転換は土岐(Toki)の方法(Toki,(1997)Plant Mol.Biol.Reporter 15:16−21.)にしたがった。
まず、pCBEIIbをエレクトロポレーシヨン法によりアグロバクテリウムツネファシエンスEHA105株(Agrobacterium tumefacience EHA105株)に導入した。このアグロバクテリウムをEM10のカルスに感染させ、DNA導入し、形質転換させた。形質転換体は、ハイグロマイシンによりスクリーニングした。植物体に再分化したイネ個体はポットに移植し、温室で、自然光、28/24℃(6−18時/18−6時)の条件で生育させた。
得られた形質転換体の中から6系統を選別し、これらのサザンブロット解析の結果を図23に示す。ノーザンブロット解析の結果を図24に示す。また、ウエスタンブロット/活性染色法による解析の結果を図25に示す。
さらに、これらの形質転換イネのアミロペクチンの分子構造について、それらの鎖長分布解析の結果を図26にグラフ化して示す。これらの形質転換イネのデンブンの熱糊化特性及び種子重量を表8に示す。
実施例12 (プローブAを用いたBACライブラリーのメンブレン上でのハイブリダイゼーション)
平均インサートサイズ155kBのクローンが転写されたジャポニカイネ(品種キタアケ)のゲノミックDNAのBACライブラリーのメンブレン4枚について、イネイソアミラーゼcDNA(Fujitaら、1999年)のEcoRI−EcoRI断片(1517bp)をプローブA(図29参照)として、ニトロセルロースメンブレン1枚当たり120ngを用いて、ECL法でサザンブロッティングを行った。ECL法によるサガンブロッティングは、アマシャム社のマニュアルに従った。その結果、ポジティブに反応する候補クローン2種類(#59、#60)を単離した。
結果を図30に示す。図30の左から2枚目(B)に2つのポジティブクローン(#59及び#60)(図30中の矢印)が見られた。
平均インサートサイズ155kBのクローンが転写されたジャポニカイネ(品種キタアケ)のゲノミックDNAのBACライブラリーのメンブレン4枚について、イネイソアミラーゼcDNA(Fujitaら、1999年)のEcoRI−EcoRI断片(1517bp)をプローブA(図29参照)として、ニトロセルロースメンブレン1枚当たり120ngを用いて、ECL法でサザンブロッティングを行った。ECL法によるサガンブロッティングは、アマシャム社のマニュアルに従った。その結果、ポジティブに反応する候補クローン2種類(#59、#60)を単離した。
結果を図30に示す。図30の左から2枚目(B)に2つのポジティブクローン(#59及び#60)(図30中の矢印)が見られた。
実施例13 (BACクローンのノーザンブロッティング)
実施例12で得られた2つのポジティブクローン(#59、#60)を、25μg/mlクロラムフェニコールを含むLB培地で大量増殖し、DNA抽出機(クラボー社製)でBAC DNAを調製した。
0.5μg相当の精製BAC DNAを8種類の制限酵素(HindIII、EcoRI、XhoI、SacI,SalI、SpeI、PstI、XbaI)を用いて、37℃、6時間加水分解し、0.7%アガロースゲルで電気泳動を行った。トランスブロッター(S&S社製)を用いてゲルのDNAをメンブレンに2時間転写(転写液は20×SSC(0.3M クエン酸ナトリウム、3M NaCl、pH7.0))、UVクロスリンカー(ストラタジーン社製)で30秒間UV照射してDNAをメンブレンに結合させた。
メンブレン当たり0.35ngのプローブAを用いて42℃で一晩、穏やかに浸透させながらハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション用バッファー及びプローブのラベリング試薬はアマシャム社のECLキットに従って行った。ハイブリダイズさせたメンブレンは、プライマリー洗浄緩衝液(Primary wash buffer(Urea+)(6M 尿素、0.4%SDS、0.5×SSC))で42℃で25分2回洗浄した後、2×SSCで室温で5分2回浸透しながら洗浄した。現像はアマシャム社のECLキットを用いて行った。X線フィルムへの感光時間は5分間であった。結果を図31に示す。
プローブAでハイブリダイズさせた2日後、同じメンブレンを用いてプローブB(654bp)でも同じ条件でハイブリダイズさせた。結果を図32に示す。
2つのクローンともにプローブA、Bに反応したため(図31及び図32参照)、これらがイソアミラーゼ遺伝子を含んでいることがわかった。
実施例13の結果に基づいて、イネのイソアミラーゼ遺伝子の制限酵素地図を作製した。イネのイソアミラーゼ遺伝子の制限酵素地図を図33のBに示す。
実施例12で得られた2つのポジティブクローン(#59、#60)を、25μg/mlクロラムフェニコールを含むLB培地で大量増殖し、DNA抽出機(クラボー社製)でBAC DNAを調製した。
0.5μg相当の精製BAC DNAを8種類の制限酵素(HindIII、EcoRI、XhoI、SacI,SalI、SpeI、PstI、XbaI)を用いて、37℃、6時間加水分解し、0.7%アガロースゲルで電気泳動を行った。トランスブロッター(S&S社製)を用いてゲルのDNAをメンブレンに2時間転写(転写液は20×SSC(0.3M クエン酸ナトリウム、3M NaCl、pH7.0))、UVクロスリンカー(ストラタジーン社製)で30秒間UV照射してDNAをメンブレンに結合させた。
メンブレン当たり0.35ngのプローブAを用いて42℃で一晩、穏やかに浸透させながらハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション用バッファー及びプローブのラベリング試薬はアマシャム社のECLキットに従って行った。ハイブリダイズさせたメンブレンは、プライマリー洗浄緩衝液(Primary wash buffer(Urea+)(6M 尿素、0.4%SDS、0.5×SSC))で42℃で25分2回洗浄した後、2×SSCで室温で5分2回浸透しながら洗浄した。現像はアマシャム社のECLキットを用いて行った。X線フィルムへの感光時間は5分間であった。結果を図31に示す。
プローブAでハイブリダイズさせた2日後、同じメンブレンを用いてプローブB(654bp)でも同じ条件でハイブリダイズさせた。結果を図32に示す。
2つのクローンともにプローブA、Bに反応したため(図31及び図32参照)、これらがイソアミラーゼ遺伝子を含んでいることがわかった。
実施例13の結果に基づいて、イネのイソアミラーゼ遺伝子の制限酵素地図を作製した。イネのイソアミラーゼ遺伝子の制限酵素地図を図33のBに示す。
実施例14 (BACクローン#60のサブクローニング)
BACクローン#60をいくつかの制限酵素で切断して得られた断片(E1(EoRI−EcoRI、7.2kb)、SE(SalI−EcoRI、4.8kb)、H(HindIII−HindIII、2.4kb)、P(PstI−PstI、5.1k)、PS(PstI−SacI、4.8kb)、E2(EoRI−EcoRI、5.8kb))を0.8%低融点アガロースで電気泳動を行った後に切り出した。
タカラ社製のβ−アガラーゼIを用いて、アガロースを分解した後、マイクロコン100(ミリポア社製)で、溶媒交換して精製し、0.85fmolの断片DNAとそれぞれの制限酵素で切断した後、エビアルカリフォスファターゼ(ロッシュ社製)で脱リン酸化処理したpCAMBIAプラスミド8.5fmolとともに、TOYOBO社製ライゲーションハイ(Ligation high)を用いて16℃で、一晩ライゲーション反応を行った。それらをエレクトロポーレーション(BTX社製)を用いて1.29kVでGIBCO社製大腸菌(エレクトロマックスDH10B細胞を25μl使用)に導入して形質転換させた。エレクトロポーレーションには2mmのスリットの入ったキュッベットを用い、プレカルチャーを50分行った後、4%X−galを30μl、0.1M IPTGを25μl塗布したシャーレに菌を播いて37℃で2日間培養した。
ブルーホワイトセレクション法で白コロニーを選び、50μg/mlのカナマイシンを含むLB培地で大量増殖した。pCAMBIAプラスミドをキアゲンプラスミドキット(キアゲン社製)で精製した。プラスミドの精製法はキアゲンキットのマニュアルの方法で行った。
BACクローン#60をいくつかの制限酵素で切断して得られた断片(E1(EoRI−EcoRI、7.2kb)、SE(SalI−EcoRI、4.8kb)、H(HindIII−HindIII、2.4kb)、P(PstI−PstI、5.1k)、PS(PstI−SacI、4.8kb)、E2(EoRI−EcoRI、5.8kb))を0.8%低融点アガロースで電気泳動を行った後に切り出した。
タカラ社製のβ−アガラーゼIを用いて、アガロースを分解した後、マイクロコン100(ミリポア社製)で、溶媒交換して精製し、0.85fmolの断片DNAとそれぞれの制限酵素で切断した後、エビアルカリフォスファターゼ(ロッシュ社製)で脱リン酸化処理したpCAMBIAプラスミド8.5fmolとともに、TOYOBO社製ライゲーションハイ(Ligation high)を用いて16℃で、一晩ライゲーション反応を行った。それらをエレクトロポーレーション(BTX社製)を用いて1.29kVでGIBCO社製大腸菌(エレクトロマックスDH10B細胞を25μl使用)に導入して形質転換させた。エレクトロポーレーションには2mmのスリットの入ったキュッベットを用い、プレカルチャーを50分行った後、4%X−galを30μl、0.1M IPTGを25μl塗布したシャーレに菌を播いて37℃で2日間培養した。
ブルーホワイトセレクション法で白コロニーを選び、50μg/mlのカナマイシンを含むLB培地で大量増殖した。pCAMBIAプラスミドをキアゲンプラスミドキット(キアゲン社製)で精製した。プラスミドの精製法はキアゲンキットのマニュアルの方法で行った。
実施例15 (サブクローンのシーケンス)
実施例14でサブクローリングしたクローンのうち、SE断片(SalI−EcoRI、4.8kb)の塩基配列をABI社製DNAシーケンサー370を用いて、ジデオキシ法で決定した。シーケンス反応は、ABI社製のダイターミネーターキットを用いて行った。その結果、この断片はイソアミラーゼ遺伝子のプロモーター、翻訳開始点などを含んでいた。
得られた本発明のイネのイソアミラーゼのプロモーター部分の塩基配列を配列番号7に示す。
実施例14でサブクローリングしたクローンのうち、SE断片(SalI−EcoRI、4.8kb)の塩基配列をABI社製DNAシーケンサー370を用いて、ジデオキシ法で決定した。シーケンス反応は、ABI社製のダイターミネーターキットを用いて行った。その結果、この断片はイソアミラーゼ遺伝子のプロモーター、翻訳開始点などを含んでいた。
得られた本発明のイネのイソアミラーゼのプロモーター部分の塩基配列を配列番号7に示す。
本発明は、植物のデンプン合成酵素系における酵素を遺伝子工学的に改変することにより、新規なデンプンを製造する方法、そのための遺伝子、その形質転換体、それのより製造された新規デンプンを提供するものである。デンプンは食糧として重要であるだけでなく、その糊化特性などの物性を利用した産業原料としても重要であり、本発明により提供されるデンプンは食品類のみならず、産業原料としても重要なものである。
より詳細には、本発明は、イネのデンプンにおけるアミロペクチンの微細構造と、デンプンの物性や味などの性質との相関関係を見出し、アミロペクチンのα−1,4−グリシド鎖の鎖長分布に基づいて世界中で栽培されているイネをL−タイプ、S−タイプ、及びこれらの中間であるM−タイプに分類されることを見出した。そして、これらのアミロペクチンの微細構造の違いがデンプン合成酵素IIa(SSIIa)の活性によるものであることを明らかにし、各タイプのSSIIaをコードする遺伝子を単離し、その構造及び塩基配列を決定した。
本発明の遺伝子を用いることにより、目的とするアミロペクチンの微細構造を有するデンプンを製造することができ、目的に応じた物性を有するデンプンを製造することが可能となる。また、本発明の遺伝子の構造や塩基配列に基づいてイネのSSIIa遺伝子を改変することにより、有用なデンプンを産生するSSIIa遺伝子が改変されたイネを提供することができ、また天然のイネとは異なる鎖長分布や物性を有する新規なデンプンを製造することが可能となり、食品や各種の産業用として新規な有用なデンプンを大量に供給することが可能となる。
また、本発明は、デンプンの生産に関与している酵素の遺伝子の発現量の相違に基づいて、生産されるデンプンの形質が異なってくることを見出したものであり、また導入した酵素の遺伝子が元の野生型よりも過剰に発現することがあることも本発明により初めて見出されたものである。
本発明は、このような新規な知見に基づいてデンプン合成酵素を天然のものよりも過剰に発現させる方法、デンプン合成酵素を天然のものとは異なる量発現する変異体、及びその製造方法を提供するものである。
本発明によれば、現存する生物の生産するデンプンを、デンプン合成酵素、好ましくはデンプンの枝作り酵素が過剰又は不足した系を生物体の中に実現することができ、それにより、元のデンプンとは形質の異なる新たな形質を有するデンプンを任意に製造することができるようになる。
さらに、本発明は、イネ、より具体的にはジャポニカ米に特有なデンプンを製造するために必要なイソアミラーゼ遺伝子のプロモーターに関するものであり、イソアミラーゼの発現をジャポニカ米に特有なデンプンを製造するために必要なように制御し得るものである。本発明のプロモーターにより、デンプンの主成分であるアミロペクチンの形態をイネのデンプンの形態に制御することが可能となり、各種の生物に本発明のプロモーターを適用することにより、デンプン合成に関与する酵素遺伝子を本プロモーターに連結することでよって、イネなどの植物の胚乳に、天然には存在しない新規な物性、品質を持つデンプンを多量に合成、蓄積させることが可能となる。また、本発明のプロモーターを有するイネに、他の生物に由来するイソアミラーゼ遺伝子を本発明のプロモーターに連結することによって、導入遺伝子産物をイネの胚乳などに、多量に蓄積させることが可能である。
このように、本発明は、生物、好ましくは植物などのデンプンを生成する生物のデンプンの製造を制御可能にするものであり、新しいデンプンの合成や蓄積手段を提供できるものである。
このように、本発明は、生物、好ましくは植物などのデンプンを生成する生物のデンプンの製造を制御可能にするものであり、新しいデンプンの合成や蓄積手段を提供できるものである。
Claims (23)
- デンプンを生産する生物のデンプンの枝作り酵素の1種が欠損した変異体に、当該酵素をコードする遺伝子を導入して、当該酵素の発現量が元の野生型よりも過剰となる種を選別することからなる、当該酵素を元の野生型よりも過剰に発現させる方法。
- 生物が、イネである請求項1に記載の方法。
- デンプンの枝作り酵素が、枝作り酵素IIb(BEIIb)である請求項1又は2に記載の方法。
- デンプンを生産する生物のデンプンの枝作り酵素の1種が欠損した変異体に、当該酵素をコードする遺伝子を導入して、当該酵素の発現量が元の野生型とは異なる種を選別することからなる、デンプンの枝作り酵素の1種の発現量が元の野生型とは異なる変異体を製造する方法。
- 変異体が、当該酵素の発現量が元の野生型とは異なることにより、元の野生型の生物とは異なる形質を有するデンプンを生産する変異体である請求項4に記載の方法。
- 当該酵素の発現量が、元の野生型に比べて過剰量である請求項4又は5に記載の方法。
- 生物が、イネである請求項4〜6のいずれかに記載の方法。
- デンプンの枝作り酵素が、枝作り酵素IIb(BEIIb)である請求項4〜7のいずれかに記載の方法。
- 請求項4〜8のいずれかに記載の方法により製造された変異体。
- 請求項4〜8のいずれかに記載の方法により製造された変異体を用いて、元の野生型の生物が生産するデンプンとは異なる形質を有するデンプンを製造する方法。
- 変異体が、デンプンを生産する生物のデンプンの枝作り酵素を過剰に発現する変異体である請求項10に記載の方法。
- デンプンの形質が、デンプンの糊化の特性により示されるものである請求項10又は11に記載の方法。
- 生物が、イネである請求項10〜12のいずれかに記載の方法。
- デンプンの枝作り酵素が、枝作り酵素IIb(BEIIb)である請求項10〜13のいずれかに記載の方法。
- 請求項10〜14のいずれかに記載の方法により製造されたデンプン。
- デンプンの単位構造(クラスター)を形成する鎖の長さが、元の野生型の生物が生産するデンプンのそれとは異なることを特徴とする請求項15に記載のデンプン。
- デンプンの単位構造(クラスター)を形成する鎖の長さが、元の野生型の生物が生産するデンプンのそれよりも短いものである請求項16に記載のデンプン。
- デンプンを生産する生物のデンプンの枝作り酵素の1種が欠損した変異体Aを製造し、次いでこの変異体Aに当該酵素をコードする遺伝子を導入して、当該酵素の発現量が元の野生型とは異なる変異体Bを選別し、当該変異体Bを用いて元の野生型が生産するデンプンの形質を改質する方法。
- デンプンの形質が、デンプンの糊化の特性により示されるものである請求項18に記載の方法。
- 変異体Bが、デンプンを生産する生物のデンプンの枝作り酵素を過剰に発現する変異体である請求項19に記載の方法。
- 生物が、イネである請求項18〜20のいずれかに記載の方法。
- デンプンの枝作り酵素が、枝作り酵素IIb(BEIIb)である請求項18〜21のいずれかに記載の方法。
- デンプンの糊化開始温度が、元の野生型の生物が生産するデンプンよりも低いデンプンである請求項18〜22のいずれかに記載の方法。
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