以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施の形態における静圧軸受を用いたプレス装置は、ガラスや樹脂のような材料から成る成形品を成形するのに適したものであり、主として、ガラス素材や樹脂素材を成形用の金型装置に投入して加熱し、軟化させた後、押圧成形するために使用されるものであるが、いかなる材料から成る成形品を成形するために使用されてもよい。すなわち、ガラスや樹脂の他に、例えば、金属、セラミクス、紙、繊維等の各種材料、又は、これらの材料を適宜混合した材料から成る成形品を成形するのに使用することができる。本実施の形態においては、説明の都合上、ガラスから成る成形品を成形する場合について説明する。
図1は本発明の実施の形態におけるプレス装置の構成を示す概略図である。
図において、10はプレス装置、11bは該プレス装置10のフレーム11の一部としてのベースフレーム、11aは前記プレス装置10のフレーム11の一部としてのガイドフレームである。ここで、該ガイドフレーム11aは、全体として立設する筒体の形状を有し、下端部がベースフレーム11bの上面に取り付けられている。なお、前記ベースフレーム11b及びガイドフレーム11aを統合的に説明する場合には、フレーム11として説明する。
そして、前記ガイドフレーム11aの内部において、ベースフレーム11bの上面には可動テーブル装置取り付け部材12が取り付けられ、該可動テーブル装置取り付け部材12の取り付け面としての上面には金型位置調整装置としての可動テーブル装置13が取り付けられている。該可動テーブル装置13は、例えば、X−Yテーブル装置であり、水平面(ガイドフレーム11aの長軸に垂直な面)内において移動可能な移動テーブルを備え、該移動テーブルの上面に下金型取り付け部材14が取り付けられている。さらに、該下金型取り付け部材14の上面には、金型装置における一方の金型、すなわち、固定金型としての下金型21が取り付けられている。ここで、該下金型21の上面には、後述される平面状の金型合わせ面21a、及び、成形品のほぼ下半分を形成するような形状の面から成るキャビティ21bが形成されている。
また、前記ガイドフレーム11aの内部における上部には、金型駆動部材としての上金型キャリッジ15が上下方向(ガイドフレーム11aの長軸方向)に移動可能に取り付けられている。ここで、前記上金型キャリッジ15は、循環式のボール等を備えるリニアガイド機構等から成るガイド機構16によってガイドされ、前記ガイドフレーム11aの内面に沿って、移動軌跡が水平方向にぶれることがなく、スムーズに移動することができる。また、前記上金型キャリッジ15の外面とガイドフレーム11aの内面とが常に平行に保たれ、前記上金型キャリッジ15が傾斜することもないようになっている。なお、前記ガイド機構16は、上金型キャリッジ15の外面とガイドフレーム11aの内面との間に圧力流体を注入する静圧軸受装置であってもよい。
そして、前記上金型キャリッジ15の上方には、可動金型駆動源としての駆動装置17が配設されている。なお、該駆動装置17は、図示されない取り付け部材を介して、前記ガイドフレーム11aに固定されている。また、前記駆動装置17のコネクティングロッド17aが下方に突出し、該コネクティングロッド17aの下端部には前記上金型キャリッジ15が取り付けられている。ここで、前記駆動装置17は、例えば、高圧の圧力流体によって駆動されるピストンを備えるシリンダ装置である。この場合、前記ピストンに取り付けられたピストンロッドの下端部が、前記コネクティングロッド17aの上端部に連結される。そして、シリンダ装置に供給される圧力流体の流れを切り替えることによって、前記ピストンが上方向又は下方向に駆動され、これにより、前記コネクティングロッド17a及び上金型キャリッジ15が上方向又は下方向に移動させられる。ここで、前記圧力流体は、例えば、空気であるが、窒素ガス等の他の気体であってもよいし、油等の液体であってもよい。
また、前記駆動装置17は、シリンダ装置でなく、電動モータであってもよく、例えば、リニアモータであってもよい。この場合、ロータとしての往復動部材(スライダ)の下端部が、前記コネクティングロッド17aの上端部に連結される。そして、リニアモータに供給される電流を切り替えることによって、前記スライダがステータとしての固定部材に対して上方向又は下方向に駆動され、これにより、前記コネクティングロッド17a及び上金型キャリッジ15が上方向又は下方向に移動させられる。なお、前記駆動装置17は、サーボモータ等の回転式の電動モータであってもよく、この場合、回転軸の回転は、ボールねじナット等の運動方向変換装置によって、往復動に変換されて、前記コネクティングロッド17aに伝達される。
そして、前記上金型キャリッジ15の下面に上金型取り付け部材18が取り付けられ、該上金型取り付け部材18の下面には、金型装置における他方の金型、すなわち、可動金型としての上金型22が取り付けられている。ここで、該上金型22の下面には、後述される平面状の金型合わせ面22a、及び、成形品のほぼ上半分を形成するような形状の面から成るキャビティ22bが形成されている。
また、図において、26はハンドリング装置であり、搬送アーム27a及び該搬送アーム27aの先端に取り付けられた保持装置としてのハンド装置27bを有する。なお、28は成形品の素材であり、ハンド装置27bに保持されている。前述されたように、本実施の形態においては、説明の都合上、ガラスから成る成形品を成形する場合について説明するので、前記素材28はガラス素材としての硝材である。また、成形品は、レンズ、プリズム、フィルタ、ミラー等の光学素子である。
そして、前記搬送アーム27a及びハンド装置27bは、図示されない駆動装置によって駆動され、ガイドフレーム11aの側面に形成された開口11cを通って、前記ガイドフレーム11aの内部に進入し、前記素材28を型開された状態における金型装置の下金型21のキャビティ21b上に載置するようになっている。素材28が下金型21のキャビティ21b上に載置されると、前記下金型21の上方に位置している上金型22は、前記上金型キャリッジ15が下方向に移動させられることによって、下方向に移動して下金型21に接近する。続いて、上金型22の金型合わせ面22aが下金型21の金型合わせ面21aに接触して型閉が行われ、さらに、上金型22が下金型21に押圧されて型締が行われるようになっている。この場合、型閉が行われると、前記上金型22及び下金型21は、組み合わせられて一体となり、前記キャビティ22bとキャビティ21bとによって形成されるキャビティ空間内に素材28を挟み込むようになっている。なお、前記素材28は、硝材である場合、一般的に、300〜500〔℃〕程度の高温にまで加熱され、軟化した状態である。
また、前記上金型22及び下金型21の材質は、例えば、タングステン合金、ステンレス合金、超硬合金等であるが、いかなる材質であってもよい。また、前記素材28が硝材である場合、少なくとも前記キャビティ22b及びキャビティ21b上には、硝材の付着を防止するために、一層又は二層以上の薄膜が形成されていることが望ましい。該薄膜の材質は、例えば、水素化アモルファスカーボン、ダイヤモンド、窒化チタン、窒化タンタル、白金イリジウム、白金シリコン等であるが、いかなる材質であってもよい。
続いて、上金型22が下金型21に対して押圧されて型締が行われる。これにより、前記上金型22及び下金型21は、組み合わせられて一体となり、前記上金型22と下金型21との間に形成されるキャビティ空間内に挟み込まれた素材28としての硝材は、上下から押圧され、前記キャビティ空間の形状を有するガラス成形品が成形される。加圧成形終了後、前記硝材の温度がガラス転移点温度以下になるまで冷却する。この間、キャビティ空間内の硝材を上下から成形力より小さな力で押圧し続ける。そして、前記硝材の温度がガラス転移点温度以下になると、駆動装置17が作動を停止するので、前記硝材の押圧が終了する。
そして、成形品が成形されると、駆動装置17が作動し、前記上金型キャリッジ15が上方向に移動させられることによって、上金型22が上方向に移動して下金型21から離れて型開が行われ、成形品が金型装置から取り出される。なお、成形品の取り出しは、前記ハンドリング装置26によって行うこともできるし、他の装置又はオペレータの手作業によって行うこともできる。
ここで、前記上金型22又は下金型21には、距離計23及び温度測定器24が取り付けられている。該距離計23及び温度測定器24は、それぞれ、上金型22又は下金型21のいずれに取り付けられていてもよいが、本実施の形態においては、距離計23及び温度測定器24が、ともに下金型21に取り付けられているものとして説明する。前記距離計23は、上金型22に取り付けられた後述されるターゲット部材34と距離計23自体との間の距離を計測して上金型22と下金型21との軸心ズレ量としての位置ズレ量を計測するようになっている。また、前記温度測定器24は、距離計23の計測結果の温度補正を行うために、前記距離計23の温度又は距離計23の近傍の温度を測定するようになっている。なお、前記温度測定器24は、温度を測定することができるものであればいかなる種類のものであってもよく、例えば、サーミスタ、熱電対等から成るものである。
さらに、前記プレス装置10は、CPU、MPU等の演算手段、磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶手段、キーボード、ジョイスティック、タッチパネル等の入力手段、CRT、液晶ディスプレイ等の表示手段、入出力インターフェイス等を備えるプレス装置用制御装置25を有する。該プレス装置用制御装置25は、一種のコンピュータであり、前記距離計23及び温度測定器24の出力信号を受信し、可動テーブル装置13、駆動装置17及びハンドリング装置26の動作を含むプレス装置10のすべての動作を制御する。
次に、距離計23及びターゲット部材34の取り付け位置について説明する。
図2は本発明の実施の形態における距離計及びターゲット部材が取り付けられた金型装置を示す図である。なお、図2(a)は金型装置の正面図、図2(b)は金型装置の側面図、図2(c)は図2(a)のA矢視図であり上金型の金型合わせ面を示す図、図2(d)は図2(a)のB矢視図であり下金型の金型合わせ面を示す図である。
図に示されるように、距離計23は、取り付けブラケット32を介し、下金型21の側面に取り付けられている。前記取り付けブラケット32は、下金型21の中心軸、すなわち、軸心の方向(図2(a)及び(b)における上下方向)に延在し、かつ、下金型21の半径方向に延在するX軸とY軸に平行になるように取り付けられる。また、上金型22の側面にはターゲット部材34が取り付けられている。該ターゲット部材34は、上金型22の中心軸、すなわち、軸心の方向(図2(a)及び(b)における上下方向)に延在し、かつ、上金型22の半径方向に延在するX軸とY軸に平行になるように取り付けられる。
ここで、前記距離計23は、前記ターゲット部材34における距離計23に対向する面と距離計23自体との間の距離を、例えば、静電容量の変化によって計測する静電容量センサである。なお、前記距離計23は、前記ターゲット部材34における距離計23に対向する面と距離計23自体との間の距離を計測することができるものであれば、いかなる種類のものであってもよく、例えば、磁気センサ、渦電流センサ、レーザ光反射センサ等であってもよい。また、前記取り付けブラケット32及びターゲット部材34は、いかなる種類の材質から成るものであってもよいが、上金型22及び下金型21が高温になるので、耐熱性を有し、かつ、熱膨張率の小さな材質、例えば、セラミクス等から成るものであることが望ましい。なお、前記距離計23は、所定の計測可能範囲を有し、ターゲット部材34における距離計23に対向する面と距離計23自体との間の距離が前記計測可能範囲内である場合のみ距離を計測することができるようになっている。
そして、前記距離計23は、下金型21の金型合わせ面21aと同一又はわずかに高い位置になるように取り付けられる。また、ターゲット部材34は、その下端が上金型22の金型合わせ面22aよりもわずかに低い位置にまで突出するように取り付けられる。これにより、図2(a)及び図2(b)に示されるように、上金型22の金型合わせ面22aと下金型21の金型合わせ面21aとの間がわずかに開いた状態において、ターゲット部材34における距離計23と対向する面と距離計23とが上下方向の位置に関してオーバーラップし、前記ターゲット部材34における距離計23と対向する面と距離計23自体との間の距離を計測することができるようになっている。
ここで、上金型22と下金型21とが正確に位置合わせされた状態、すなわち、上金型22の上下方向に延在する軸心と下金型21の上下方向に延在する軸心とが一致した状態において、距離計23におけるターゲット部材34に対向する面とターゲット部材34における距離計23に対向する面との間の距離は、図2(b)に示されるように、所定距離aとなるように設定されている。そのため、上金型22と下金型21との位置にズレが生じた場合、すなわち、軸心ズレが生じた場合、前記距離計23が、前記ターゲット部材34における距離計23に対向する面と距離計23自体との間の距離の所定距離aからの変化量を計測することによって、上金型22と下金型21との軸心ズレ量としての位置ズレ量を計測することができる。
また、前記距離計23及びターゲット部材34は、図2(c)及び図2(d)に示されるように、水平面内においてX軸及びY軸に沿うように、二つずつ取り付けられている。すなわち、下金型21の側面に取り付けられた二つの距離計23は、図2(d)に示されるように、ターゲット部材34に対向する面が、水平面内において互いにほぼ直交するようになっている。同様に、上金型22の側面に取り付けられた二つのターゲット部材34は、図2(c)に示されるように、距離計23に対向する面が、水平面内において互いにほぼ直交するようになっている。なお、二つの距離計23及び二つのターゲット部材34は、それぞれが、図2(b)に示されるように、互いに対向するようになっている。
これにより、水平面内におけるX軸方向及びY軸方向に関する上金型22と下金型21との位置ズレ量を計測することができる。すなわち、X軸に沿うように取り付けられた距離計23及びターゲット部材34によってY軸方向に関する上金型22と下金型21との位置ズレ量を計測することができ、Y軸に沿うように取り付けられた距離計23及びターゲット部材34によってX軸方向に関する上金型22と下金型21との位置ズレ量を計測することができる。そして、二つの距離計23のそれぞれによって計測された上金型22と下金型21とのX軸方向及びY軸方向に関する位置ズレ量に基づいて、上金型22及び下金型21のうちの一方が他方に対して、どちらのズレ方向にどの程度の位置ズレ量だけ移動したかを演算することができる。そのため、ズレが生じた場合、下方の金型をズレ方向と反対の方向に位置ズレ量だけ移動させることによって、位置ズレを修正することができる。
なお、本実施の形態においては、プレス装置用制御装置25が、距離計23の出力信号を信号線33を介して取得し、前記出力信号に基づいて位置ズレ量及びズレ方向を演算するようになっている。
ここで、距離計23の取り付けブラケット32及びターゲット部材34は、X軸方向に関する上金型22と下金型21との位置ズレ量を計測するために、Y軸に沿うように、かつ、上金型22及び下金型21の軸方向に延在するように取り付けられ、また、Y軸方向に関する上金型22と下金型21との位置ズレ量を計測するために、X軸に沿うように、かつ、上金型22及び下金型21の軸方向に延在するように取り付けられている。そのため、取り付けブラケット32及びターゲット部材34の熱膨張によって距離計23の出力信号に基づいて演算される位置ズレ量が変化してしまう量を最小限に抑制することができる。
また、下金型21は、可動テーブル装置13を作動させることによって水平面内において移動させることができるのに対し、上金型22は、上金型キャリッジ15によって上下方向に移動させることができても、水平面内において移動させることができないようになっている。そこで、本実施の形態においては、上金型22の位置を基準とし、上金型22と下金型21との位置にズレが生じたことが計測された場合、下金型21をズレ方向と反対の方向に軸心ズレ量としての位置ズレ量だけ移動させることによって、金型の軸心ズレとしての位置ズレを修正するようになっている。
そのため、前記プレス装置用制御装置25は、可動テーブル装置13の動作を制御して、距離計23の出力信号に基づいて演算した位置ズレ量及びズレ方向に基づいて、下金型21をズレ方向と反対の方向に位置ズレ量だけ移動させる。これにより、上金型22と下金型21との位置ズレを容易に、正確に、短時間で自動的に修正することができる。そのため、上金型22又は下金型21が損傷することを防止したり、上金型22を上下方向に移動させる上金型キャリッジ15、駆動装置17等にかかる負荷を低減することができる。さらに、下金型21のキャビティ21bと上金型22のキャビティ22bとによって形成されるキャビティ空間の形状を正確に再現することができるので、正確な外形を有する高品質の成形品を高い再現性で成形することができる。
なお、本実施の形態において、位置ズレ量の計測及び位置ズレの修正は、図2(a)及び図2(b)に示されるように、上金型22の金型合わせ面22aと下金型21の金型合わせ面21aとの間がわずかに開いた状態において行われるようになっている。そして、位置ズレ量の計測及び位置ズレの修正は、成形工程の途中に行ってもよいし、成形工程の開始前又は成形工程の終了後に行ってもよい。また、位置ズレ量の計測及び位置ズレの修正を行う頻度も適宜設定することができ、例えば、各成形工程毎に行ってもよいし、所定数の成形工程毎に行ってもよいし、所定期間又は所定時間経過毎に行ってもよい。
次に、プレス装置用制御装置25の行う温度補正について説明する。
図3は本発明の実施の形態における温度補正の結果を示す図、図4は本発明の実施の形態における温度補正の動作を示すフローチャートである。なお、図3において縦軸には位置ズレ量を、横軸には温度を採ってある。
ところで、距離計23の特性が温度によってわずかではあるが変化してしまうことがある。すなわち、距離計23に温度依存出力変化が生じることがある。また、距離計23自体、取り付けブラケット32、ターゲット部材34等の部材が熱膨張によって変形し、距離計23におけるターゲット部材34に対向する面とターゲット部材34における距離計23に対向する面との間の距離が変化してしまうことがある。このような場合、距離計23の出力が温度上昇に伴なって変化してしまい、上金型22と下金型21との位置ズレ量を正確に計測することができなくなってしまう。
そこで、本実施の形態において、プレス装置用制御装置25は、温度測定器24の出力信号に基づいて、距離計23の出力信号の温度補正を行うようになっている。この場合、前記プレス装置用制御装置25は、二つの距離計23の出力信号をそれぞれ取得し、また、二つ温度測定器24の出力信号をそれぞれ取得する。それぞれの温度測定器24は、それぞれの距離計23に近接した位置において、該距離計23とともに下金型21に取り付けられているので、それぞれの距離計23の温度又は、距離計23の近傍の温度を検出していると考えることができる。
続いて、前記プレス装置用制御装置25は、それぞれの距離計23の出力信号に基づいて、X軸方向に関する上金型22と下金型21との位置ズレ量と、Y軸方向に関する上金型22と下金型21との位置ズレ量とを演算する。そして、前記プレス装置用制御装置25は、温度補正テーブルにアクセスし、それぞれの距離計23の温度に対応する補正値に従ってそれぞれの位置ズレ量を補正して、温度補正後の位置ズレ量を演算する。前記温度補正テーブルは、あらかじめ作成されて記憶手段に格納されているものとする。
また、温度補正を行わない場合、距離計23におけるターゲット部材34に対向する面とターゲット部材34における距離計23に対向する面との間の距離が不変であっても、距離計23の出力信号に基づいて演算される位置ズレ量は、図3における曲線αで示されるように、温度によって大きく変化してしまう。この場合、ある温度変化の範囲で変化量は12.5〔μm〕である。一方、温度補正テーブルに基づいて温度補正を行った場合、距離計23の出力信号に基づいて演算される位置ズレ量は、図3における曲線βで示されるように、温度によってほとんど変化しない。この場合、変化量は0.24〔μm〕である。
そして、前記プレス装置用制御装置25は、X軸方向に関する上金型22と下金型21との温度補正後の位置ズレ量と、Y軸方向に関する上金型22と下金型21との温度補正後の位置ズレ量とを出力し、出力された位置ズレ量に基づいて、上金型22及び下金型21のうちの一方が他方に対して、どちらのズレ方向にどの程度の位置ズレ量だけ移動したかを演算する。これにより、温度変化の影響を受けることなく、ズレ方向及び位置ズレ量を正確に演算することができる。例えば、位置ズレ量の誤差を±1.0〔μm〕以下にすることができる。そのため、上金型22と下金型21との位置ズレ量を1.0〔μm〕以下にすることができ、上金型22又は下金型21が損傷することを防止したり、上金型22を上下方向に移動させる上金型キャリッジ15、駆動装置17等にかかる負荷を低減することができる。さらに、正確な外形を有する高品質の成形品を、誤差±1.0〔μm〕以下の高い再現性で成形することができる。
次に、フローチャートについて説明する。
ステップS1 プレス装置用制御装置25は、距離計23の出力信号を取得する。
ステップS2 プレス装置用制御装置25は、温度測定器24の出力信号を取得する。
ステップS3 プレス装置用制御装置25は、温度補正テーブルに基づき位置ズレ量を温度に対応して補正し、温度補正後の位置ズレ量を演算する。
ステップS4 プレス装置用制御装置25は、温度補正後の位置ズレ量を出力し、処理を終了する。
次に、ハンドリング装置26の動作について説明する。
図5は本発明の実施の形態におけるハンドリング装置のハンド装置と金型装置とを示す図、図6は本発明の実施の形態におけるハンドリング装置の動作を示すフローチャートである。なお、図5(a)は側面図であり、図5(b)は上面図である。
ところで、高い精度で成形品の成形を行うためには、素材28を下金型21のキャビティ21b上の所定位置に正確に載置することが必要である。素材28が載置される位置が不正確であると、正確な外形を有する高品質の成形品を成形することができなくなってしまう。そこで、本実施の形態においては、素材28を下金型21のキャビティ21b上に載置する際のハンドリング装置26の保持装置としてのハンド装置27bと下金型21との位置ズレ量を前記距離計23によって計測し、ハンド装置27bを移動させて位置ズレを修正するようになっている。
図5に示されるように、ハンドリング装置26のハンド装置27bの側面には、ターゲット部材37が取り付けられている。該ターゲット部材37は、上金型22に取り付けられたターゲット部材34と同様の材質から成り、同様の機能を有するものであるが、寸法において相違する。前記ターゲット部材37は、その下端がハンド装置27bの下面よりもわずかに低い位置にまで突出するように取り付けられる。これにより、図5(a)に示されるように、前記ハンド装置27bの下面と下金型21の金型合わせ面21aとの間がわずかに開いた状態において、ターゲット部材37における距離計23と対向する面と距離計23とが上下方向の位置に関してオーバーラップし、前記ターゲット部材37における距離計23と対向する面と距離計23自体との間の距離を計測することができるようになっている。なお、ターゲット部材37の下端の突出量は、ハンド装置27bが下金型21のキャビティ21b上に素材28を載置する際に、下金型21に干渉することがない程度に位置決めされた位置で距離計23と対向する位置まで延在している。
ここで、ハンド装置27bと下金型21とが正確に位置合わせされた状態において、距離計23におけるターゲット部材37に対向する面とターゲット部材37における距離計23に対向する面との間の距離は、所定距離になるように設定されている。なお、該所定距離は、図2(b)に示される所定距離aと同程度であってもよい。そのため、ハンド装置27bと下金型21との位置にズレが生じた場合、前記距離計23が、前記ターゲット部材37における距離計23に対向する面と距離計23自体との間の距離の所定距離からの変化量を計測することによって、ハンド装置27bと下金型21との位置ズレ量を計測することができる。
また、前記ターゲット部材37は、図5(b)に示されるように、水平面内においてX軸及びY軸に沿うように、二つ取り付けられている。すなわち、ハンド装置27bの側面に取り付けられた二つのターゲット部材37は、図5(b)に示されるように、距離計23に対向する面が、水平面内において互いにほぼ直交するようになっている。そのため、下金型21の側面に取り付けられた二つの距離計23及び二つのターゲット部材34は、それぞれが、互いに対向するようになっている。
これにより、水平面内におけるX軸方向及びY軸方向に関するハンド装置27bと下金型21との位置ズレ量を計測することができる。すなわち、X軸に沿うように距離計23によってY軸方向に関するハンド装置27bと下金型21との位置ズレ量を計測することができ、Y軸に沿うように距離計23によってX軸方向に関するハンド装置27bと下金型21との位置ズレ量を計測することができる。そして、二つの距離計23のそれぞれによって計測されたハンド装置27bと下金型21とのX軸方向及びY軸方向に関する位置ズレ量に基づいて、ハンド装置27bが下金型21に対して、どちらのズレ方向にどの程度の位置ズレ量だけズレが生じているかを演算することができる。そして、ハンド装置27bをズレ方向と反対の方向に位置ズレ量だけ移動させることによって、位置ズレを修正することができる。
ここで、プレス装置用制御装置25が、距離計23の出力信号を信号線33を介して取得し、前記出力信号に基づいて位置ズレ量及びズレ方向を演算する。そして、前記プレス装置用制御装置25は、ハンドリング装置26の動作を制御して、距離計23の出力信号に基づいて演算した位置ズレ量及びズレ方向に基づいて、ハンド装置27bをズレ方向と反対の方向に位置ズレ量だけ移動させる。
なお、前記した上金型22と下金型21との位置ズレ量を正確に計測するために温度補正を行うようにしているが、ハンド装置27bを下金型21に位置決めする際にも温度補正を行うといっそう正確に位置決めすることができる。
次に、プレス装置用制御装置25によって制御され、素材28を下金型21のキャビティ21b上の所定位置に正確に載置するハンドリング装置26の動作について説明する。
まず、プレス装置用制御装置25に制御されてハンドリング装置26が動作し、ハンド装置27bが素材28の準備位置にまで移動する。なお、前記素材28は、プレス装置10の外側における図示されない準備位置に、あらかじめ高温にまで加熱された状態で載置されているものとする。そして、ハンド装置27bは、例えば、吸着手段によって吸着したり、把持手段によって把持したりすることによって、準備位置に載置されている素材28を保持する。
続いて、ハンド装置27bは、素材28を保持したまま、下金型21上の素材28を載置する位置にまで移動させられる。この場合、プレス装置用制御装置25は、PTP(Point to Point)制御によってハンド装置27bを移動させる。また、プレス装置用制御装置25は、距離計23の出力信号に基づいて、ハンド装置27bに取り付けられたターゲット部材37が距離計23の計測可能範囲に入った(IN)か否(OFF)かを監視する。そして、計測可能範囲に入っていない場合、プレス装置用制御装置25は、引き続き、PTP制御によってハンド装置27bを下金型21上の素材28を載置する位置にまで移動させる。
続いて、PTP制御によってハンド装置27bを下金型21上の素材28を載置する位置にまで到達すると、ハンド装置27bに取り付けられたターゲット部材37が距離計23の計測可能範囲に入るので、プレス装置用制御装置25は、距離計23の出力信号に基づいて位置ズレ量及びズレ方向を演算する。そして、前記プレス装置用制御装置25は、ハンド装置27bをズレ方向と反対の方向に位置ズレ量だけ移動させるための位置ズレ修正指令をハンドリング装置26に送信する。なお、前述されたように計測可能範囲に入ったか計測可能範囲に入っていないかを判断して、計測可能範囲に入ったと判断した場合、前記プレス装置用制御装置25は、直ちに、距離計23の出力信号に基づいて位置ズレ量及びズレ方向を演算し、ハンド装置27bをズレ方向と反対の方向に位置ズレ量だけ移動させるための位置ズレ修正指令をハンドリング装置26に送信する。
続いて、該ハンドリング装置26は位置ズレ修正指令を受信すると、該位置ズレ修正指令に従って、ハンド装置27bをズレ方向と反対の方向に位置ズレ量だけ移動させる。続いて、プレス装置用制御装置25は、距離計23の出力信号に基づいて位置ズレ量及びズレ方向を演算し、前記位置ズレ量が許容範囲内である(Yes)か否(No)かを判断する。そして、許容範囲内の場合、プレス装置用制御装置25は、ハンド装置27bの位置を決定し、素材28を下金型21のキャビティ21b上に載置させるための指令をハンドリング装置26に送信する。すると、ハンド装置27bは指令に従って素材28の保持を停止し、該素材28を下金型21のキャビティ21b上に載置する。なお、前述されたように許容範囲内であるか許容範囲内でないかを判断して、許容範囲内でないと判断した場合、前記プレス装置用制御装置25は、距離計23の出力信号に基づいて位置ズレ量及びズレ方向を演算し、ハンド装置27bをズレ方向と反対の方向に位置ズレ量だけ移動させるための位置ズレ修正指令をハンドリング装置26に送信する。これにより、位置ズレ修正指令を受信したハンドリング装置26は、再び、位置ズレ修正指令に従って、ハンド装置27bをズレ方向と反対の方向に位置ズレ量だけ移動させる。
これにより、素材28は、下金型21のキャビティ21b上の所定位置に正確に載置される。なお、前述されたような、ハンドリング装置26によって素材28を下金型21のキャビティ21b上の所定位置に載置する動作は、上金型22が上昇させられて、金型装置が型開された状態において行われる。
次に、フローチャートについて説明する。
ステップS11 ハンド装置27bは、準備位置に移動して素材28を保持する。
ステップS12 ハンド装置27bは、下金型21上の素材28を載置する位置にまでPTP制御により移動させる。
ステップS13 プレス装置用制御装置25は、ターゲット部材37が距離計23の計測可能範囲に入ったか否かを監視し、計測可能範囲に入ったか計測可能範囲に入っていないかを判断する。計測可能範囲に入っていない場合はステップS14に進み、計測可能範囲に入った場合はステップS15に進む。
ステップS14 ハンド装置27bは、下金型21上の素材28を載置する位置にまでPTP制御により移動させる。
ステップS15 プレス装置用制御装置25は、距離計23の出力信号に基づいて位置ズレ量及び位置ズレ方向を演算し、位置ズレ修正指令をハンドリング装置26に送信する。
ステップS16 ハンドリング装置26は、位置ズレ修正指令に従ってハンド装置27bを移動させる。
ステップS17 プレス装置用制御装置25は、距離計23の出力信号に基づいて位置ズレ量が許容範囲内であるか否かを判断する。許容範囲内である場合はステップS18に進み、許容範囲内ではない場合はステップS15に戻る。
ステップS18 プレス装置用制御装置25は、ハンド装置27bの位置を決定し、素材28を下金型21のキャビティ21b上に載置させる。
このように、本実施の形態においては、下金型21に取り付けられた距離計23によって、上金型22に取り付けられたターゲット部材34との距離の変化量を計測することによって上金型22と下金型21との軸心ズレ量としての位置ズレ量を計測するようになっている。そのため、上金型22と下金型21との位置ズレ量を正確に計測することができるので、軸心ズレとしての位置ズレを容易に、正確に、短時間で自動的に修正することができる。これにより、上金型22又は下金型21が損傷することを防止したり、上金型22を上下方向に移動させる上金型キャリッジ15、駆動装置17等にかかる負荷を低減することができる。さらに、下金型21のキャビティ21bと上金型22のキャビティ22bとによって形成されるキャビティ空間の形状を正確に再現することができるので、正確な外形を有する高品質の成形品を高い再現性で成形することができる。
また、X軸に沿うように取り付けられた距離計23及びターゲット部材34によってY軸方向に関する上金型22と下金型21との位置ズレ量を計測し、Y軸に沿うように取り付けられた距離計23及びターゲット部材34によってX軸方向に関する上金型22と下金型21との位置ズレ量を計測するようになっている。そのため、上金型22及び下金型21のうちの一方が他方に対して、どちらのズレ方向にどの程度の位置ズレ量だけ移動したかを演算することができる。そして、可動テーブル装置13の動作を制御して、演算された位置ズレ量及びズレ方向に基づいて、下金型21をズレ方向と反対の方向に位置ズレ量だけ移動させることによって、位置ズレを確実に修正することができる。
さらに、温度測定器24によって距離計23の温度を計測し、前記位置ズレ量の温度補正を行うようになっている。そのため、距離計23に温度依存出力変化や距離計23自体、取り付けブラケット32、ターゲット部材34等の熱膨張による影響を排除して、位置ズレ量を正確に計測することができる。
さらに、前記距離計23を利用して、素材28を下金型21のキャビティ21b上に載置する際のハンドリング装置26のハンド装置27bと下金型21との位置ズレ量を計測し、ハンド装置27bを移動させて素材28を載置する位置を修正するようになっている。そのため、素材28を下金型21のキャビティ21b上の所定位置に正確に載置することができ、高い精度で成形品の成形を行うことができる。しかも、上金型22と下金型21との位置ズレ量を計測するための距離計23を利用するので、コストを低くすることができる。
なお、本実施の形態においては、距離計23を下金型21に取り付け、ターゲット部材34を上金型22に取り付け、ターゲット部材37をハンド装置27bに取り付けた例について説明したが、距離計23を上金型22、ハンド装置27bに取り付け、ターゲット部材34を下金型21に取り付けることもできる。
また、本実施の形態においては、距離計23及びターゲット部材34を金型(上金型22、下金型21)に取り付けた例について説明したが、金型に連結された部材に取り付けることもできる。
例えば、図7を参照して説明する。
図7は本発明の他の実施の形態における距離計及びターゲット部材が取り付けられた金型装置を示す図である。なお、図7(a)は金型装置の正面図、図7(b)は金型装置の側面図、図7(c)は図7(a)のC矢視図であり上金型の金型合わせ面を示す図、図7(d)は図7(a)のD矢視図であり下金型の金型合わせ面を示す図である。また、前記した実施の形態と同じ部材については同じ符号を付与することによってその説明を省略する。
距離計23を保持している取り付けブラケット32’は、下金型21が取り付けられている金型に連結された部材としての下金型取り付け部材14に取り付けられている。また、ターゲット部材34’は、上金型22が取り付けられている金型に連結された部材としての上金型取付部材18に取り付けられている。前記取り付けブラケット32’及びターゲット部材34’の金型(上金型22、下金型21)に対する位置関係は、前記した実施の形態と同じ位置関係をもつものとする。
また、距離計23を保持している取り付けブラケット32’は、下金型取り付け部材14が取り付けられている可動テーブル装置13に取り付けられていてもよい。また、ターゲット部材34’は、上金型取り付け部材18が取り付けられている上金型キャリッジ15に取り付けられていてもよい。
しかしながら、取り付けブラケット32、32’及びターゲット部材34、34’は、金型の位置を検出するためのものであり、できるだけ金型(上金型22、下金型21)に取り付けられるのがよい。次に、できるだけ金型(上金型22、下金型21)に近い部材に取り付けられるのがよい。
また、本実施の形態においては、上金型22の位置を基準とし、上金型22と下金型21との位置にズレが生じたことが計測された場合、下金型21をズレ方向と反対の方向に位置ズレ量だけ移動させることによって位置ズレを修正する例について説明したが、下金型21の位置を基準として、上金型22をズレ方向と反対の方向に位置ズレ量だけ移動させることによって位置ズレを修正するようにすることもできる。さらに、下金型21を上下方向に移動させるようにすることもできる。さらに、本実施の形態においては、上金型22が上下方向(垂直方向)に移動する縦置型のプレス装置について説明したが、上金型22又は下金型21が横方向(水平方向)に移動する横置型のプレス装置にも適用することができる。さらに、上金型22又は下金型21の片方のみが移動するプレス装置だけでなく、上金型22及び下金型21の両方が移動するプレス装置にも適用することができる。
さらに、本実施の形態においては、ガラスから成る成形品を成形する場合について説明したが、ガラスや樹脂のような材料から成る成形品の成形においては、成形直前に素材28を加熱したり、所定の雰囲気、例えば、不活性ガス雰囲気内においたり、また、成形直後に成形品を冷却したりする場合がある。このような場合、前記プレス装置10の周辺に加熱装置、冷却装置、不活性ガス供給装置等を配設することができる。これにより、前記素材28や成形品を不活性ガス雰囲気内で直接加熱したり冷却したり、また、下金型21上に載置されたり、上金型22と下金型21との間に形成されるキャビティ空間内に挟み込まれた素材28や成形品を加熱したり冷却したりすることが可能となる。
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。