JP3868207B2 - サーボプレスの下死点補正方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、サーボモータを駆動源としてねじ機構によりスライドを昇降させるサーボプレスのスライドの下死点位置を補正する補正方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、サーボモータを駆動源としてねじ機構によりスライドを昇降させるサーボプレスでは、予め下死点位置等のスライド位置を設定する。そして、プレス運転中は、スライド位置をリニアスケール等により測定し、この測定値に基いて設定したスライド位置(下死点等)を目標値としたフィードバック制御によりスライドの位置決め制御を行なっている。この様な構成のサーボプレスとしては、特願平11−350900がある。
【0003】
プレス運転中の金型周辺の温度や電源等の検出器の使用環境が一定である場合には、特願平11−350900に挙げられる構成によるサーボプレスで高精度なプレス加工を行なうことができる。しかし、実際には金型周辺の温度や電源等の検出器の使用環境は時々刻々変化する。そのため、金型に微少な熱変形が生じたり、リニアスケール等の検出器に誤差が生じ、高精度な制御をできなくなる虞がある。
【0004】
この様な場合に、設定したスライド下死点位置を補正する下死点補正装置としては、特願平11−090507が挙げられる。特願平11−090507では、前述のリニアスケールのほかに、実際の金型の下死点を検出できる下死点検出センサを金型に設け、この下死点検出センサに基いてスライドを制御する。さらに、金型の温度を測定する温度センサを金型に設け、この温度センサにより検出した金型の温度上昇に基いてプレス運転中の下死点検出センサの温度ドリフトを補正する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
プレス作業において、プレス運転を一定時間休止し、機械や金型のメンテナンス(調整)を行なってから、プレス運転を再開することは実際に行なわれる。プレス運転を一定時間休止した後は、プレス運転中に熱変形し膨張した機械構造部品(駆動用のねじ軸やスライドのガイド等)が放置されることにより自然に冷却され収縮する等が起り、プレス運転を停止したときと、一定時間の休止をはさんでプレス運転を再開するときとは明らかにプレス機械の状態は異なる。よって、サーボプレスのような微細かつ高精度なプレス加工を目的とするプレス機械において特に重要であるスライド下死点の位置決め制御は、プレス運転停止時にスライド位置検出器により測定した下死点位置の測定値を入力値とすると、一定時間休止後にプレス運転を再開したときには、スライドを精度よく制御することができない。
【0006】
また、従来のように金型に設けられた温度センサのみでは、金型の温度のみの測定なので、機械全体の影響を考慮していない。機械構造部品の各部に温度センサなどの検出器を設け、機械の状態を監視することは、測定個所が多すぎて現実的ではない。
【0007】
さらに、従来技術におけるサーボプレスにおいては、金型に設けられたセンサが周囲の温度変化や供給される電源電圧の変化による影響があった場合に引き起る検出誤差には対応できない。
【0008】
本発明の目的は、プレス運転を一定時間休止したときなど、プレス状態が変化したときにおいても、精度よくスライドの下死点位置を補正することのできる下死点補正方法を提供することにある。
【0009】
さらに他の目的は、金型に設けたセンサの周辺の温度変化や供給電圧の変化によるセンサの検出誤差を補正して適正な下死点とすることのできる下死点補正方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、サーボモータを駆動源としてねじ機構によりスライドを昇降させるサーボプレスに、前記スライドの位置を検出するスライド位置検出手段と、金型に設けられ、前記スライドの位置を下死点付近にて前記スライド位置検出手段よりも高精度に検出する変位センサと、前記スライドの位置を制御するプレス制御装置と、を有する前記サーボプレスのスライドの下死点位置を補正する下死点補正方法において、プレス運転前に前記スライドを任意の下死点位置に位置決めし、前記スライド位置検出手段により前記スライドの位置を測定し、この測定値を前記プレス制御装置に記憶設定する基準下死点位置設定工程と、プレス運転前に任意のスライド位置である参照点で前記変位センサにより前記スライドの位置を測定し、この測定値を前記プレス制御装置に記憶設定する参照点測定値設定第1工程と、プレス運転の途中でプレス運転を一定時間休止した後再度プレス運転を行なう前に、前記参照点に前記スライドを位置決めし、前記変位センサにより前記スライドの位置を測定し、この測定値を前記プレス制御装置に記憶設定する参照点測定値設定第2工程と、前記参照点測定値設定第1工程と前記参照点測定値設定第2工程において変位センサにより測定した測定値の両値の差を演算し、この値を前記基準下死点位置設定工程でスライド位置検出手段により測定した値に加え、この値に基いて以後のプレス運転を行なう休止後下死点補正工程と、を有することを特徴とするサーボプレスの下死点補正方法である。
【0011】
請求項1の発明では、プレス運転前に任意のスライド位置である参照点における金型に設けた変位センサによるスライド位置を測定する。そして、プレス機械を一定時間休止後、再度プレス運転を開始する前に再び前記参照点におけるスライド位置を変位センサにより測定する。参照点の変化量を演算し、これを予め測定したプレス運転前の下死点位置に加え、この値に基いて以後のプレス運転におけるスライドは制御される。
【0012】
すると、一定時間休止後のプレス状態の変化により一定時間休止前(プレス運転停止時)にスライド位置検出手段により測定した測定値は変化しているが、請求項1の発明を用いると前記測定値が補正されるので、高精度にスライド制御を行なうことができる。
【0013】
請求項2の発明は、サーボモータを駆動源としてねじ機構によりスライドを昇降させるサーボプレスに、前記スライドの位置を検出するスライド位置検出手段と、金型に設けられ、前記スライドの位置を下死点付近にて前記スライド位置検出手段よりも高精度に検出するとともに、前記金型がプレス機械から取り外された状態においては上型の理想下死点位置を測定し、その測定値を保持できる変位センサと、前記スライドの位置を制御するプレス制御装置と、を有する前記 サーボプレスのスライドの下死点位置を補正する下死点補正方法において、プレス運転前に、前記スライドを任意の下死点位置に位置決めした後、前記スライド位置検出手段により前記スライドの位置を測定し、この測定値を前記プレス制御装置に記憶設定する基準下死点位置設定工程と、調整のため金型をプレス機械から取り外し、その調整後、金型がプレス機械から取り外された状態のうちに金型の調整後下死点位置を前記変位センサにより測定し、金型がプレス機械に再度取付けられた際に前記測定された調整後下死点位置を前記プレス制御装置に記憶設定するとともに、前記プレス制御装置においてこの値と前記基準下死点位置設定工程で前記変位センサにより測定した値との差を演算し、この演算により得られた値を前記基準下死点位置設定工程で前記スライド位置検出手段により測定した値に加え、この値に基いて前記スライドを制御する調整後プレス運転工程と、を有することを特徴とするサーボプレスの下死点補正方法である。
【0014】
プレス機械から金型を取り外し、金型の調整を行なった場合、金型(上型)の下死点位置が調整前とは異なってくる。請求項2の発明では、金型が取り外された状態で金型(上型)の理想とする下死点位置を再度測定し、補正量を求め、プレス機械に金型を取付けるとともにスライド制御の基準下死点データを補正することにより、金型の調整後においても、プレス機械スライドを精度よく制御することができる。
【0015】
請求項3の発明は、サーボモータを駆動源としてねじ機構によりスライドを昇降させるサーボプレスに、前記スライドの全ストロークにわたりスライドの位置を検出するスライド位置検出手段と、金型に設けられ、前記スライドの位置を下死点付近にて前記スライド位置検出手段よりも高精度に検出する変位センサと、前記スライドの動作を制御するプレス制御装置と、前記変位センサの検出面間に間隙を形成する補正用間隙形成手段と、を有する前記サーボプレスのスライドの下死点位置を補正する下死点補正方法において、前記スライドは前記スライド位置検出手段により測定した下死点値に基づいて動作制御されるとともに、基準のプレス装置状態において、前記補正用間隙形成手段により形成された補正用間隙を前記変位センサにより測定し、この値を前記プレス制御装置に設定記憶する基準状態補正用間隙設定工程と、任意のプレス装置状態において、前記補正用間隙形成手段により形成された補正用間隙を前記変位センサにより測定し、この値を前記プレス制御装置に設定記憶する任意状態補正用間隙設定工程と、前記基準状態補正用間隙設定工程の測定値を前記任意状態補正用間隙設定工程の測定値で除算し、この除算した値を前記スライド位置検出手段により測定した下死点値に積算する積算形演算工程と、を有し、前記プレス制御装置は、前記積算形演算工程で得られた値に基いてスライドの動作を制御することを特徴とするサーボプレスの下死点補正方法である。
【0016】
また、請求項4の発明は、請求項3記載の前記積算形演算工程に代えて、前記基準状態補正用間隙設定工程の測定値と前記任意状態補正用間隙設定工程の測定値の差を演算し、この演算により得られた値を前記スライド位置検出手段により測定した下死点値に加える加算形演算工程とすることを特徴とする請求項3に記載のサーボプレスの下死点補正方法である。
以上
【0017】
請求項3及び4の発明では、物理的には変化しない補正用の間隙を、センサの使用状態の変化に応じて、適宜測定する。センサの測定値に変化がある場合は、これはセンサ自身の検出誤差であるといえる。請求項3及び4の発明では、センサ自身の検出誤差から補正量を求め、スライド制御の基準下死点データを補正する。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の実施例を以下に説明する。
図1において、1はサーボプレスである。サーボプレス1のフレーム構成は、クラウン2,コラム3,ベッド4により成り、図示しないタイロッドによりクラウン2,コラム2,ベッド4は一貫して締結されている。クラウン2の内部には駆動源であるサーボモータ5が設けられている。そして、サーボモータ5の駆動軸5aにはねじ軸6が固設され、そのねじ軸6は図示しない軸受等により回動自在に支持されている。
【0019】
一方、スライド7にはナット8が固設され、ねじ軸6と螺合している。さらに、スライド7の下面4隅にはガイドポスト9が立設している。一方、ベッド4上面にはガイドポスト9に対応してスライドガイド10が設けられている。このスライドガイド10の穴にガイドポスト9が摺動自在に嵌合し、ガイド機構を形成する。すなわち、ガイドポスト9がスライドガイド10により摺動自在に支持されることにより、スライド7は昇降自在に支持されている。
【0020】
スライド7の下面と対向するベッド4の上面にはボルスタ11が固設されている。スライド7の下面とボルスタ4の上面間には金型(上型12,下型13)が設けられ、スライド7の下面には上型12、ボルスタ11の上面には下型13が夫々着脱可能に固設されている。サーボプレス1は、上述の構成によりサーボモータ5を駆動源としてスライド7を昇降運動する。すると、上下型間(12,13)に載置される材料はプレス加工されることとなる。
【0021】
また、サーボプレス1はスライド7の位置を精密に検出し、制御することで高精度なプレス加工を行なうことをその特徴としている。本実施例におけるサーボプレス1にはスライド7のストローク全域にわたってスライド7の位置を検出するスライド位置検出手段であるエンコーダ14が設けられている。エンコーダ14はサーボモータ5と機械的に接続されている。エンコーダ14は、サーボモータ5の駆動軸5aの回転角を検出し、ねじ機構(ねじ軸6,ナット8)のピッチからスライド7の位置が算出される。尚、スライド位置検出手段としては、コラム3にリニアスケールを設けることもできる。
【0022】
また、下死点付近において、スライド7(上型12)の位置(変位)をエンコーダ14よりもさらに高い精度で検出することのできる変位センサ15を下型13に設け、上型12には変位センサ15の検出対象物16を固設した。すなわち、変位センサ15は検出対象物16の位置を測定することができ、この測定値に基づいてプレス制御装置17にて上型12(スライド7)の下死点が算出される。ゆえに、変位センサ15が金型(下型13)に設けられているため、プレス運転中のフレーム構成部品の伸び等に影響されずに、正確にスライド7(上型12)の下死点を検出することができる。なお、変位センサ15の具体例としては、例えば渦電流センサや静電容量センサ、レーザセンサなどが挙げられる。
【0023】
尚、高精度な検出を行なう変位センサ15をスライド7のストローク全域が検出できるように設けることも考えられるが、高価な変位センサ15を広範囲に渡って検出できるように設けるのは不経済である。通常は、本実施例のように、必要な個所、すなわちプレス加工で重要なスライド7の下死点付近を検出できるように設ける。
【0024】
図2にはサーボプレス1の制御ブロック図を示す。エンコーダ14からの信号及び変位センサ15からの信号は夫々プレス制御装置17に記憶・設定・演算等がなされ、以下に説明する種々の工程を経て、サーボモータアンプ18に動作指令信号を出力する。サーボモータアンプ18では動作指令信号に応じてサーボモータ5の駆動電流が調整され、これによりサーボモータ5の回転数が制御される。すると、スライド7位置[金型(上型12)変位]が精度よく制御されることとなる。
ここで、プレス制御装置17で行われる工程を以下に説明する。
【0025】
(基準下死点位置設定工程)
まず、サーボプレス1の運転前(プレス加工を開始する前)に、スライド7(上型12)を所望の任意の下死点位置(基準下死点位置)にして、そのときのエンコーダ14及び変位センサ15の測定値をプレス制御装置17に記憶設定する。この工程を基準下死点位置設定工程という。またこのときのエンコーダ14の測定値をPdie,変位センサ15の測定値をDdieとする。尚、PdieとDdieは、それらが基準とする位置(ゼロ点など)は異なっても良いが、同じ方向(プラス、マイナスが一致する。)で同じ長さの単位とする。また以下に例示する変数も同様とする。
【0026】
プレス運転中はスライド位置検出手段であるエンコーダ14の検出値を入力信号とし、Pdieを目標値としたフィードバック制御によりスライド7が制御される。また、プレス運転中は常時、変位センサ15により上型12の下死点位置を測定し、上型12の最下点を算出する。この値をDdie’とする。Ddie’は一回の検出値でも良いが、複数回のストロークの平均値などでも良い。
【0027】
基準下死点位置設定工程で測定したDdieとDdie’はプレス運転を継続するに従って、フレーム構成部材(クラウン2,コラム3,ベッド4)やねじ機構(ねじ軸6,ナット8)の熱変形等により徐々に異なる値となる。DdieとDdie’の差が任意の一定値以上になり、下死点の補正が必要となると、以下の式により新しい下死点の目標値Pdie’を求める。
Pdie’=Pdie+Ddie−Ddie’…(1)
【0028】
上述の制御を繰り返し行なうことによって、スライド7(上型12)の下死点位置が大きく変動する前にサーボモータ5をフィードバック制御する目標値が補正されるので、高い下死点精度でサーボプレス1を動作させることができる。
【0029】
しかし、プレス運転中に金型調整やプレス機械(又は材料送り装置など)のメンテナンスのために長時間サーボプレス1を休止した場合、フレーム構成部材(クラウン2,コラム3,ベッド4)やねじ機構(ねじ軸6,ナット8)が冷却され、熱変形が元に戻るなどしてプレス状態がプレス運転停止時と異なる場合がある。よって、運転停止時のPdie’は、運転再開時(特に1パンチ目)には目標値としては適さず、補正をする必要が生じる。そこで、下記の工程でその補正を行なう。
【0030】
(参照点測定値設定第1工程)
プレス運転前で、かつ、先述の基準下死点位置設定工程の前又は後に、任意のスライド位置である参照点にスライド7を位置決めする。そして、エンコーダ14及び変位センサ15で上型12(スライド7)の位置を測定し、プレス制御装置に設定記憶する。この工程を参照点測定値設定第1工程という。また、この測定値を夫々Pref,Drefとする。なお、参照点は当然に変位センサ15の検出範囲にあり、また、下死点に近いほど補正のデータを向上することができる。
【0031】
前述の(1)式に基づきサーボプレス1を制御し、運転を行なう。その後、メンテナンス等のため一定時間プレス運転を休止する。
【0032】
(参照点測定値設定第2工程)
プレス運転を一定時間休止して、調整等を行なった後、プレス運転を再開する前に、Prefの値に基づいてエンコーダ14によりスライド7を再び参照点に位置決めし、次に変位センサ15で上型12の位置を測定し、プレス制御装置17に設定記憶させる。この工程を参照点測定値設定第2工程という。また、このときの値をDref’とする。
【0033】
(休止後下死点補正工程)
プレス制御装置17に設定記憶された測定値から、以下の式によりPdie’の値を更新してPdie’’とする。
Pdie’’=Pdie+Dref−Dref’…(2)
この工程を休止後下死点補正工程という。このようにして、一定時間休止後におけるスライド下死点は補正され、プレス運転再開後の1パンチ目から適正な加工を得ることができる。ここで、上式の関係を模式的に表した図を図3に示す。
【0034】
またさらに、プレス運転を休止して金型(上型12,下型13)を取り外し、その金型を研磨などをして調整した場合においては、実際の加工に必要な(理想的な)下死点位置は調整前後で異なる場合がある。異なる場合には、金型取付後、再度前述の各工程を行ない設定作業を行なう必要があるが、煩雑である。そこで、変位センサ15を、金型がサーボプレス1から取り外されたときでも上型12の下死点位置を測定するとともにその測定値を保持可能に形成し、また、再度金型がプレス機械に取付けられた際にはその測定値をプレス制御装置17に送信できるように変位センサ15を形成する。
【0035】
(調整後プレス運転工程)
調整前の変位センサ15による測定値は、すなわち基準下死点位置設定工程で測定した値である(Ddie)。プレス運転停止後、金型をサーボプレス1から取り外し、調整を行なった後で、サーボプレスに金型を取付ける前に変位センサ15により任意の下死点位置を測定し、その測定値をDdie’’とする。金型がサーボプレス1に再度取付けられたときに、Ddie’’をプレス制御装置17に送信し、Pdie’を更新するため次式の演算を行なう。
Pdie’’’=Pdie+Ddie−Ddie’’…(3)
この工程を調整後プレス運転工程という。
【0036】
調整後プレス運転工程により下死点位置目標値Pdie’’’を定めることにより、金型の調整後においても再度基準下死点位置設定工程からサーボプレス1を設定することなく、プレス運転を開始することができる。
【0037】
このように、一定時間プレス機械を休止した場合や金型をプレス機械から取り外して研磨等の調整を行なった際のサーボプレス1の状態変化に対応して目標下死点値を補正する方法は前述の通りである。
【0038】
ここで、さらに高精度にサーボプレス1を制御するため、金型(下型13)に設けた変位センサ15自体に検出誤差が生じた場合の補正方法を説明する。変位センサ15周辺の温度変化や供給される電源電圧の変化などに起因して変位センサ15に検出誤差が生じる場合がある。これを補正することで、より高精度な制御を実現することができる。
【0039】
サーボプレス1のボルスタ11の上面に、図4(A),(B)に示す補正用間隙形成手段19を設ける。補正用間隙形成手段19は、ボルスタ11上に固設する台座20と、台座20上に固設するガイド21と、ガイド21にガイドされ、変位センサ15に向かう方向に前後に移動可能な補正用検出対象物22とにより構成される。補正用検出対象物22は手動により移動することができるが、エアシリンダやモータ等の移動手段を用いることもできる。
【0040】
補正用検出対象物22を移動させ、変位センサ15の検出面上に補正用検出対象物22の下面がくるようにすることができる[図4(B)]。このとき、補正用検出対象物22と変位センサ15の検出面間には補正用間隙Sが形成される。この補正用間隙Sを変位センサ15で測定し、以下に説明する種々の工程を経てスライド7の目標下死点値を補正することができる。
【0041】
(基準状態補正用間隙設定工程)
プレス運転前などの基準となるプレス装置(サーボプレス1)状態において、補正用検出対象物22を変位センサ15に向かって移動させて補正用間隙Sを形成する。この補正用間隙Sを変位センサ15で測定し、この測定値Dadjをプレス制御装置17に設定記憶させる。この工程を基準状態補正用間隙設定工程とする。
【0042】
(任意状態補正用間隙設定工程)
次に、一定時間プレス運転を行なって、変位センサ15の周囲温度が変化したときや供給電源の電圧が使用状態により変化したときなどの任意のプレス装置(サーボプレス1)状態において、同様にして補正用間隙Sを形成し、変位センサ15で補正用間隙Sを測定する。この測定値Dadj’をプレス制御装置17に設定記憶させる。この工程を任意状態補正用間隙設定工程とする。
【0043】
なお、ここでは変位センサ15が受ける影響のみを考慮しているので、実際の補正用間隙Sの物理的距離は変化していない。しかし、変位センサ15が周囲の温度変化や供給電源電圧の変化等により、測定値DadjとDadj’は異なる値となる場合がある。このとき、以下の工程により変位センサ15が測定する下死点の測定値を補正する。
【0044】
(積算形演算工程)
ここで、任意のプレス状態において検出対象物16を検出(すなわち下死点を検出)し、測定したときの測定値を下死点検出値と呼ぶ。また、下死点検出値を補正した値を下死点補正値と呼ぶ。また、図5にDadj,Dadj’,下死点検出値,下死点補正値の関係を示す。なお、図では変位センサの利得が変化した場合を示す。この場合、次の関係式が成り立つ。
下死点補正値/下死点検出値=Dadj/Dadj’
よって下死点補正値は、次式により求められる。
下死点補正値=下死点検出値×Dadj/Dadj’…(4)
以後のプレス運転では、変位センサの検出値を(4)式により補正することで、より高精度なスライド7の制御を行なうことができる。また、以上の工程を積算形演算工程という。
【0045】
(加算形演算工程)
さらに、補正用間隙Sと、下死点にて変位センサ15と検出対象物16が形成する間隙(以下「下死点間隙」という)とがほぼ同一である場合、(4)式は以下のように近似される。
下死点補正値=下死点検出値+Dadj−Dadj’…(5)
この様な工程を加算形演算工程という。すなわち、補正用間隙Sと下死点間隙がほぼ同一である場合は、前述の積算形演算工程に代えて(5)式による加算形演算工程においても、変位センサ15の検出誤差を補正することができる。
【0046】
なお、一般に、変位センサの使用状態による入出力の変化は利得のほかにオフセットなどもある。利得よりもオフセットによる変化が顕著な場合は、(5)式による補正の方が、(4)式による補正よりも正確な下死点補正値を得ることができる。
【0047】
次に、補正用間隙形成手段19の種々の態様を以下に例示する。
図6に補正用間隙形成手段19の一態様を示す。ここで、図6(A)はスライド7が上死点位置にある場合を示し、図6(B)はスライド7が下死点位置にある場合を示す。
【0048】
図6(A)では、上型12の下面に検出対象物23を設ける。この検出対象物23は小径円筒部23a及び大径円筒部23bからなる。検出対象物23の大径円筒部23bは上型12の下面に固設する円筒部材24に内装される。一方、規制部材24a内側で形成される穴部と検出対象物23の小径円筒部23aは摺動自在に嵌合している。さらに、検出対象物23の大径円筒部23bは円筒部材24内に設けられるばね25により下方に付勢され、規制部材24a上面と大径円筒部23b下面が当接している。
【0049】
また、下型13上面には台座26が設けられ、その中央部には変位センサ15が設けられている。さらにまた、台座26の上面には台座26上に設けられる図示しないガイド手段によりストッパー27が変位センサ15に向かう方向に摺動自在に左右夫々に設けられている。なお、ストッパー27は手動により移動してもよく、また、エアシリンダやモータ等の移動手段を用いてもよい。
【0050】
通常のプレス運転時には、ストッパー27は出限位置[図6(A)の位置]にあり、スライド7下死点においても、規制部材24aや小径円筒部23aと当接することはない。補正用間隙Sを得るためにはストッパー27を変位センサ15側に移動させる。すると、スライド7下死点においては、ストッパー27の上面と検出対象物23(小径円筒部23a)の下面と当接する。なお、検出対象物23はばね25の反力に抗して上昇するので、大径円筒部23bの下面と規制部材24a上面との当接は解除されるとともに、これと同時に変位センサ15上面と検出対象物23(小径円筒部23a)の下面との間に、補正用間隙Sが形成される。このような構成により形成されるので、補正用間隙Sは、プレス状態が変化した場合においても変動することはない。以下のプレス運転ではこの補正用間隙により前述の第1又は第2演算工程を行なうことで、サーボプレス1が制御されることとなる。
【0051】
また、図6(A),(B)と同様な構成であるが、ストッパー27に代えて非導電体28を検出対象物23(小径円筒部23a)下面と変位センサ15上面間に移動自在に形成し、変位センサ15を渦電流センサとした場合の実施例を図7に示す。なお、図6(A),(B)と同様の部材には同じ符号を付し、説明は省略する。
【0052】
スライド7下死点の下死点位置において非導電体28を検出対象物23(小径円筒部23a)下面と変位センサ15上面間に挿入することで、非導電体28の厚さ分が測定され、これを補正用間隙Sとすることができる。
【0053】
さらに、別の補正用間隙形成手段19Cを図8に示す。図8(A)はスライド7の位置が上死点にある場合を示し、図8(B)の場合は、下死点位置にある場合を示す。図8(A)において、上型12の下面には当接プレート29が設けられている。そして、プレート29と対向する下型12上面の位置には、円筒部材31が立設する。
【0054】
円筒部材31の内部には検出対象物30が内装されている。検出対象物30は小径円筒部30a,大径円筒部30b,摺動円筒部30cより成る。一方、円筒部材31の内部にはガイド部材31bが設けられており、摺動円筒部30cはガイド部材31b内側に形成される穴部と摺動自在に嵌合している。さらに、摺動円筒部30cの円周上であり、ガイド部31bと大径円筒部30b間にはばね32が縮設されている。このばね32により検出対象物30は上方に付勢されるとともに、その大径円筒部30bの上面は、円筒部材31上面に設けられた規制部材31a下面と当接する。さらに、円筒部材31の内部で、検出対象部材30(摺動部材30c)下方には、下型13上面に立設する台座33に変位センサ15が固設されている。
【0055】
図8(A)の状態で、検出対象物30(摺動部材30c)の下面と変位センサ15の上面とで形成される間隙をSとして、前述の変位センサ15の測定値の補正を行なうことができる。なお、下死点変位の検出は、スライド7が下降したときに当接プレート29と小径円筒部30aの上面が当接して検出対象物30がばね32の反力に抗して下方に移動し、スライド7が下死点となったときの検出対象物30(摺動部材30c)の下面位置を変位センサ15で測定することにより行なう。
【0056】
さらに別の態様を図9に示す。
図9においては上型12下面に検出対象物16を設け、これと対向する位置で下型13上面に立設する台座34に変位センサ15を固設する。そして、これとは別に、変位センサ15付近に補正用間隙形成手段19dを設ける。補正用間隙形成手段19dには、台座34’に補正用の変位センサ15’が固設する。ここで、変位センサ15’は変位センサ15と温度特性等の性能が同一のものである。そして、変位センサ15’の上方に、補正用検出対象物22’を設ける。変位センサ15’上面と補正用検出対象物22’下面間には一定の間隙である補正用間隙Sが形成され、この補正用間隙Sを適宜検出することにより、変位センサ15の検出値を補正することができる。
【0057】
以上のように、種々の補正用間隙形成手段を用いて補正用間隙Sを形成し、前述の第1又は第2演算工程を用いて変位センサ15の検出値を補正することができる。
【0058】
【発明の効果】
請求項1の発明によると、プレス運転を機械の調整、メンテナンス等のために一定時間休止し、再度プレス運転を行なう場合においても、休止後の下死点位置を補正することができる。また、請求項2の発明によると、プレス機械から金型を取り外し、金型の調整を行なった場合においても、調整後の下死点位置を補正することができる。
【0059】
また、請求項3及び請求項4の発明によると、金型に設けたセンサの周囲温度の変化や供給電源電圧の使用状態により、センサの検出誤差が生じた場合においても、そのセンサの検出値を補正することができ、この値により下死点は制御されるので、すなわち、下死点位置においてもその値は補正される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例におけるサーボプレスの全体図
【図2】本実施例におけるサーボプレスの制御ブロック図
【図3】休止後下死点補正工程を表す模式図
【図4】本実施例におけるサーボプレスの部分詳細図
【図5】第1演算工程を表す模式図
【図6】他の実施例におけるサーボプレスの部分詳細図
【図7】他の実施例におけるサーボプレスの部分詳細図
【図8】他の実施例におけるサーボプレスの部分詳細図
【図9】他の実施例におけるサーボプレスの部分詳細図
【符号の説明】
1はサーボプレス、2はクラウン、3はコラム、4はベッド、5はサーボモータ、5aは駆動軸、6はねじ軸、7はスライド、8はナット、9はガイドポスト、10はスライドガイド、11はボルスタ、12は上型、13は下型、14はエンコーダ、15,15’は変位センサ、16は検出対象物、17はプレス制御装置、18はサーボモータアンプ、19は補正用間隙形成手段、20は台座、21はガイド、22,22’は補正用検出対象物、23は検出対象物、23aは小径円筒部、23bは大径円筒部、24は円筒部材、24aは規制部材、25はばね、26は台座、27はストッパー、28は非導電体、29当接プレート、30は検出対象物、30aは小径円筒部、30bは大径円筒部、30cは摺動円筒部、31は円筒部材、31aは規制部材、31bはガイド部材、32はばね、33は台座、34,34’は台座、である。
Claims (4)
- サーボモータを駆動源としてねじ機構によりスライドを昇降させるサーボプレスに、前記スライドの位置を検出するスライド位置検出手段と、金型に設けられ、前記スライドの位置を下死点付近にて前記スライド位置検出手段よりも高精度に検出する変位センサと、前記スライドの位置を制御するプレス制御装置と、を有する前記サーボプレスのスライドの下死点位置を補正する下死点補正方法において、プレス運転前に前記スライドを任意の下死点位置に位置決めし、前記スライド位置検出手段により前記スライドの位置を測定し、この測定値を前記プレス制御装置に記憶設定する基準下死点位置設定工程と、プレス運転前に任意のスライド位置である参照点で前記変位センサにより前記スライドの位置を測定し、この測定値を前記プレス制御装置に記憶設定する参照点測定値設定第1工程と、プレス運転の途中でプレス運転を一定時間休止した後再度プレス運転を行なう前に、前記参照点に前記スライドを位置決めし、前記変位センサにより前記スライドの位置を測定し、この測定値を前記プレス制御装置に記憶設定する参照点測定値設定第2工程と、前記参照点測定値設定第1工程と前記参照点測定値設定第2工程において変位センサにより測定した測定値の両値の差を演算し、この値を前記基準下死点位置設定工程でスライド位置検出手段により測定した値に加え、この値に基いて以後のプレス運転を行なう休止後下死点補正工程と、を有することを特徴とするサーボプレスの下死点補正方法。
- サーボモータを駆動源としてねじ機構によりスライドを昇降させるサーボプレスに、前記スライドの位置を検出するスライド位置検出手段と、金型に設けられ、前記スライドの位置を下死点付近にて前記スライド位置検出手段よりも高精度に検出するとともに、前記金型がプレス機械から取り外された状態においては上型の理想下死点位置を測定し、その測定値を保持できる変位センサと、前記スライドの位置を制御するプレス制御装置と、を有する前記サーボプレスのスライドの下死点位置を補正する下死点補正方法において、プレス運転前に、前記スライドを任意の下死点位置に位置決めした後、前記スライド位置検出手段により前記スライドの位置を測定し、この測定値を前記プレス制御装置に記憶設定する基準下死点位置設定工程と、調整のため金型をプレス機械から取り外し、その調整後、金型がプレス機械から取り外された状態のうちに金型の調整後下死点位置を前記変位センサにより測定し、金型がプレス機械に再度取付けられた際に前記測定された調整後下死点位置を前記プレス制御装置に記憶設定するとともに、前記プレス制御装置においてこの値と前記基準下死点位置設定工程で前記変位センサにより測定した値との差を演算し、この演算により得られた値を前記基準下死点位置設定工程で前記スライド位置検出手段により測定した値に加え、この値に基いて前記スライドを制御する調整後プレス運転工程と、を有することを特徴とするサーボプレスの下死点補正方法。
- サーボモータを駆動源としてねじ機構によりスライドを昇降させるサーボプレスに、前記スライドの全ストロークにわたりスライドの位置を検出するスライド位置検出手段と、金型に設けられ、前記スライドの位置を下死点付近にて前記スライド位置検出手段よりも高精度に検出する変位センサと、前記スライドの動作を制御するプレス制御装置と、前記変位センサの検出面間に間隙を形成する補正用間隙形成手段と、
を有する前記サーボプレスのスライドの下死点位置を補正する下死点補正方法において、
前記スライドは前記スライド位置検出手段により測定した下死点値に基づいて動作制御されるとともに、
基準のプレス装置状態において、前記補正用間隙形成手段により形成された補正用間隙を前記変位センサにより測定し、この値を前記プレス制御装置に設定記憶する基準状態補正用間隙設定工程と、
任意のプレス装置状態において、前記補正用間隙形成手段により形成された補正用間隙を前記変位センサにより測定し、この値を前記プレス制御装置に設定記憶する任意状態補正用間隙設定工程と、
前記基準状態補正用間隙設定工程の測定値を前記任意状態補正用間隙設定工程の測定値で除算し、この除算した値を前記スライド位置検出手段により測定した下死点値に積算する積算形演算工程と、を有し、
前記プレス制御装置は、前記積算形演算工程で得られた値に基いてスライドの動作を制御することを特徴とするサーボプレスの下死点補正方法。 - 請求項3記載の前記積算形演算工程に代えて、前記基準状態補正用間隙設定工程の測定値と前記任意状態補正用間隙設定工程の測定値の差を演算し、この演算により得られた値を前記スライド位置検出手段により測定した下死点値に加える加算形演算工程とすることを特徴とする請求項3に記載のサーボプレスの下死点補正方法。
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