JP4340820B2 - 上顎用シート型義歯安定材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は上顎用シート型義歯安定材に関し、より具体的には、上顎用義歯の義歯付着面の立体形状に対応するように形成されたシート型義歯安定材に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、義歯を顎堤(歯茎や口蓋などの義歯との接触面)に安定して装着させるための手段として、水溶性の高分子物質等からなるパウダータイプの義歯安定剤や、これをワセリン等の油成分に混合したクリームタイプの義歯安定剤が知られている。しかし、これらのタイプの義歯安定剤は、容器から適当な使用量を取り出し、これを義歯付着面(なお、本明細書において、義歯付着面とは、義歯における歯茎や口蓋などとの付着面を意味する。)上に適切な厚さで塗布する必要があるので、使用が困難で煩わしいことがあった。さらに、クリームタイプの義歯安定剤は、べたつきが強く、油成分を含んでいるので、義歯の清浄が面倒になりがちであった。
【0003】
他のタイプの義歯安定剤としては、水溶性を有さないガムベースのクッションタイプの義歯安定剤もまた知られている。しかし、クッションタイプの義歯安定剤は、非常に固く、チューブから出して義歯付着面上に適切な厚さに塗布することが困難であり、義歯の洗浄が面倒であった。
【0004】
上述のような問題点を解決するための義歯安定手段として、義歯安定剤を義歯付着面の形状に合わせてシート状に固めるなどして形成されたシートタイプの義歯安定剤が知られている。シートタイプの義歯安定剤は、クリームタイプの安定剤などのように義歯付着面上に塗布する必要がなく、使用が比較的簡便であるので、短時間で義歯を装着することが可能になる。
【0005】
また、上下2枚のシート状物の間に義歯安定剤を介在させた構造を有する義歯安定用シートが、米国特許第4,503,116号に開示されている。この米国特許第4,503,116号に記載の義歯安定用シートは、支持体として設けられた、例えば酢酸セルロース等の繊維を保持したセルロースペーパからなる上下2枚のウェブの間に義歯安定剤を介在させた3層構造を有している。薬剤としては、義歯安定剤としてエチレンオキサイドポリマーが、再湿性接着剤としてアルギン酸ナトリウムが使用されている。また、この3層構造において、ニードルパンチにより一対のウェブの交絡繊維を絡み合わせたり、義歯安定剤として使用される粉末状エチレンオキサイドポリマーの一部を熱溶着させたりすることによって、一体構造が形成される。これにより、義歯安定用シートの層間剥離が防止される。また、この義歯安定用シートの使用においては、必要に応じて義歯付着面の形状にあうように、シートの余分な部分がはさみ等で切り落とされる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述のシートタイプの義歯安定剤や義歯安定用シートなどの従来のシート型義歯安定材(以下、単にシートともいう)の多くは、義歯付着面の平面形状に適合した平面形状とされており、実際に貼り付けたときには、義歯付着面の形状に立体的に適合せず、シートにしわが発生し易かった。
【0007】
すなわち、上顎用シート型義歯安定材(上顎用シート)は、義歯付着面の形状に合わせてほぼ半円形又は台形に近い形状で形成されていたが、これを中央に立体的な膨らみを有する上顎用義歯の義歯付着面に貼り付けた場合、中央部分(すなわち、膨らみの頂点部分)と周縁部分との間において、シートの余る部分が生じる。この部分が、シートのしわを形成することになり、厚さに局所的なムラが生じるので、義歯の装着時に、装着感が不快になったり、義歯と顎堤との密着性が不足したりしやすかった。
【0008】
また、上顎用義歯の義歯付着面に立体的に沿うように、シート前縁に小さい切り込みを設けた上顎用義歯安定用シートが知られているが、このようなシートは、義歯付着面の立体形状に十分に整合しないことがあり、特に、義歯付着面中央部近傍において、シート余りが生じ、立体的に整合させることは困難であった。
【0009】
また、例えば特公平4−76707号公報又は特開平9−276296号公報には、中央部に開口部を有するシート型義歯安定材が記載されている。ただし、この開口部は、義歯装着時に義歯付着面と顎堤との間に密閉空間を形成し、義歯を上顎に押しつけてこの空間を負圧にすることにより、義歯と顎堤との密着性を向上させるために設けられている。このため、このシートは、開口部の周縁で連続しており、全体が環状となっている。従って、義歯の形状に沿わせようとすると、シートの周縁部付近に余りが生じ、しわを発生し易かった。
【0010】
本発明はこれらの問題を解消するために為されたものであり、義歯を安定して良好な装着感で装着する事を可能にする、上顎義歯用のシート型義歯安定材を提供することをその目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の上顎用シート型義歯安定材は、上顎用義歯の付着面に対応した形状を有する布帛及び該布帛上に保持された義歯安定剤を有しており、前記布帛の中央部に設けられた開口部と、該開口部から前記布帛の前縁又は後縁に延びる切り欠き部とを有することを特徴とし、そのことにより上記目的を達成する。
【0012】
前記開口部が円形であり、前記切り欠き部が前記開口部側から前記前縁又は後縁側に広がる扇形であってもよい。
【0013】
前記布帛が綿不織布からなっていてもよい。
【0014】
或いは、本発明の上顎用シート型義歯安定材は、上顎用義歯の付着面に対応した形状を有したシート状に成形された義歯安定剤からなり、該義歯安定剤のシート形状の中央部に設けられた開口部と、該開口部から前記シート形状の前縁又は後縁に延びる切り欠き部とを有することを特徴とし、そのことにより上記目的を達成する。
【0015】
以下、本発明の作用を説明する。
【0016】
本発明の上顎用シート型義歯安定材は、シート形状(布帛など)の中央部に設けられた開口部と、開口部からシート形状前縁又は後縁に延びる切り欠き部とを有しているので、上顎用義歯の義歯付着面の立体形状に容易に整合する立体形状とすることができる。すなわち、切り欠き部の側縁同士を近づけるようにすれば、中央に膨らみを有する義歯付着面の立体形状に整合させることが出来る。また、シート形状の中央部に開口部が設けられているので、義歯安定材を貼り付けたときに、義歯付着面の膨らみの頂上部分においてしわが発生することがない。従って、本発明の上顎用シート型義歯安定材は、しわなどを形成せず、ほぼ一様な厚さで、上顎用義歯の義歯付着面上に貼り付けることが可能である。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態に係る上顎用シート型義歯安定材について添付図面を参照しつつ説明する。
【0018】
図1は、本実施形態の上顎用シート型義歯安定材(上顎用シート)10を示す。上顎用シート10は、全体が図1に示すような丸みを帯びた形状とされており、この全体的な形状は、上顎用義歯の付着面(義歯床における歯茎や口蓋などとの付着面)の平面形状にほぼ対応している。
【0019】
上顎用シート10は、中央部において円形の開口部12を有し、さらに、この開口部12から上顎用シート10のシート前縁10fに広がって延びるほぼ扇形の切り欠き部14を有した形状とされている。
【0020】
一実施形態において、図1に示す各寸法は、例えば以下の通りである。
【0021】
シート全体の左右幅:A=約72mm
シート全体の長さ:B=約56mm
開口部の直径:D=約16mm
切り欠き部のシート前縁における幅:C=約27mm
切り欠き部の開口部側の端縁の幅:F=約5mm
切り欠き部の長さ:E=約24mm
ここで注意すべきこととして、開口部の寸法を大きくすると、シートの表面積がその分小さくなり、十分な義歯固定作用が得られなくおそれがある。一方、開口が小さすぎる場合には、シートが義歯付着面の立体形状に適切に整合出来ず、結果として特に中央部付近においてシートのしわが発生するおそれがある。このようなことから、開口部の直径Dは、約10mm〜約35mmの範囲にすることが好ましい。
【0022】
また、開口部と同様に、切り欠き部の寸法が大きすぎると、不必要にシートの表面積を減らしてしまうことになり、十分な義歯固定作用が得られなくおそれがある。一方、切り欠き部の寸法が小さすぎると、シートを義歯付着面の立体形状に合わせたときに、例えば、シート前縁部において、シートの切り欠き部両側部分が重なることがある。このようなことから、なるべく大きなシート表面積を得るとともに、シートに重なりを生じさせないためには、切り欠き部のシート前縁における幅Cは約10mm〜約35mm、開口部側の端縁の幅Fは約2mm〜約25mmの範囲にすることが好ましい。また、本実施形態のように切り欠き部が開口部からシート前縁に広がるほぼ扇形に形成されている場合には、扇の角度θは、約20°〜約120°にすることが好ましい。このように形成すれば、義歯固定効果及び装着感がより良好なシート型義歯安定材を得ることができる。ただし、本発明の上顎用シート型義歯安定材は、義歯付着面の立体形状に沿わせた結果として、シートの一部が重なる形態で使用されてもよい。この形態においても、シートにおける局所的な不均一な厚さムラ(しわ)の発生は防止されるので、従来のシートに比べて改善された固定作用及び装着感を提供し得る。
【0023】
このような形状を有する上顎用シート10は、例えばポリエチレンオキシド及びカルメロースナトリウムなどの義歯安定剤を混合及び混練し、これを圧延して得た原反シート材(例えば厚さ約1mm)を所定の形状及び寸法に切り取って作成され得る。義歯安定剤としては、他にも湿潤状態において粘着性を有する種々の高分子材料を用いることができ、例えばアルギン酸ナトリウムやポリビニルアルコールを用いることができる。また、ポリプロピレングリコール、メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体なども使用し得る。
【0024】
また、上顎用シート10は、支持体として設けられた一対の布帛の間に、粉末状の義歯安定剤が保持された層構造を有していても良い。支持体として上下一対の綿不織布を用いれば、物理的及び化学的に口腔粘膜刺激が低減された良好な装着感を得ることが出来る。
【0025】
このようなシート10は、例えば、厚さ約0.1mm〜約1mmの綿不織布の上に、樹脂層を形成するための接着用布帛を重ね合わせた状態で、この上に粉末状義歯安定剤を所定の厚さで堆積させ、さらにこの上に厚さ約0.1mm〜約1mm綿不織布を重ねて、これをローラで挟んで加熱圧締することにより、層構造を有するシート状の義歯安定材が得られる。この義歯安定用シートにおいては、少なくとも一部が融着された樹脂層により接合された一対の綿不織布間に、義歯安定剤が保持される。樹脂層の融着は、全面的又は分散的(散点状、格子状など)のいずれの形態であってもよい。また、接着用布帛(樹脂層材料)としては、口中での使用が安全である限り、比較的低温で溶融する種々の材料が使用され得る。なお、接着用布帛を用いず、樹脂層を設けずに、ニードルパンチにより上下綿不織布を接合することも可能である。
【0026】
義歯安定剤としては、上記形態と同様に、ポリエチレンオキシド、カルメロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール又はこれらの混合物など、湿潤状態において粘着性を呈する種々の高分子材料が使用され得る。
【0027】
また、上記いずれの形態においても、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム又はクエン酸ナトリウム等のpH調節剤が、義歯安定剤に添加され得る。このようにすれば、薬剤が口腔粘膜に刺激を与える可能性を低減することが出来る。
【0028】
或いは、上顎用シート型義歯安定材10は、上記に説明した薬剤を含浸し乾燥状態とした綿不織布から作成され得る。
【0029】
このように種々の形態で形成されたシート形状の義歯安定材は、公知の方法によって、例えば図1に示す、開口部12及び切り欠き部14を有する上顎用シート10のような上顎用義歯の付着面に対応した種々の形状に切断することが可能である。
【0030】
以下、本実施形態の上顎用シート10の使用方法を説明する。
【0031】
まず、上顎用シート型義歯安定材10を温水又は水に浸す。それから、良く洗浄した上顎用義歯の義歯付着面20上に、この湿潤状態の上顎用シート型義歯安定材10を貼り付ける(図2A及び図2B)。
【0032】
ここで、湿潤状態の上顎用シート10を義歯付着面20上に、切り欠き部14の対向する側縁14aを近づけるか又は重ねるようにして貼り付ければ、膨らみを有する義歯付着面の立体形状に整合する形状となる(図2C)。このようにすることにより、上顎用シート10は、容易にしわの発生を防止して、ほぼ均一な厚さで貼り付けられる。
【0033】
また、上顎用シート10は、平面的なシートを沿わせようとすると余りを生じてしわを発生し易い義歯付着面中央部に開口部12が設けられているので、この点からも容易にしわが形成されないように貼り付けられ得る。
【0034】
このようにして義歯付着面20上に貼り付けられる本実施形態の上顎用シート10は、全体形状が義歯付着面の形状に対応するように一体形成されているので、使用が簡便であり、かつ、比較的大きな粘着性表面を提供できる。従って、安定して義歯を顎堤(歯茎や口蓋などの義歯との接触面)に固定できる。なお、上顎用シート10は、義歯付着面20をはみ出る余分な部分があれば、はさみ等でこの部分を予め切り落としておくことが望ましい。
【0035】
上述のようにして、上顎用シート10を義歯付着面20上に貼り付けた後、義歯を顎堤にはめ、これを固定するまで噛みしめる。本実施形態の上顎用シート10は、しわを形成せず、かつ、ほぼ一様な厚さで義歯付着面上に貼り付けられているので、義歯と顎堤とを良好に接合する事が出来る。また、たとえ切り欠き部14の対向する側縁部14aが重なる形態で、シートが義歯付着面上に貼り付けられた場合でも、しわなどの局所的な厚さムラの発生は防止されるので、比較的良好な固定作用及び装着感が得られる。
【0036】
なお、本実施形態では、上顎用シート型義歯安定材は、図1に示すように中央に円形開口部を有し、開口部からシート前縁に広がる扇形切り欠き部を有する形状とされているが、他の種々の形状とすることが可能である。すなわち、開口部は、義歯付着面の形状に対応するように四角形、楕円形などの種々の形状及び寸法にすることができ、切り欠き部の形状及び寸法も、シートが良好な粘着力及び装着感を提供できる限り、種々の形態をとり得る。また、切り欠き部は、開口部からシート後縁に延びる形態であっても良い。この場合にも、シートを義歯付着面の立体形状に適切に整合させることが可能である。なお、義歯の左右対称性を考慮すると、切り欠き部は、シートの左右対称軸に沿って前縁又は後縁に向かって延びていることが望ましい。
【0037】
このような変形例を、図3に示す。図3(a)〜(d)に示される各形状において、シート中央に設けられた開口部12と、開口部からシート前縁又は後縁に延びる切り欠き部14とによって、シートのしわの発生を防止して、シートをほぼ一様な厚さで義歯付着面の立体形状に整合させることが可能である。
【0038】
【発明の効果】
以上のように、本発明の上顎用シート型義歯安定材は、中央に膨らみを有する上顎用義歯の付着面の立体形状に適切に整合する。このようにシート型義歯安定材を上顎用義歯の義歯付着面上に、均一な厚さで、しわを形成することなく貼り付けることが出来るので、上顎用義歯を安定してしっかりと顎堤に固定することを可能にし、良好な装着感が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態による上顎用シート型義歯安定材を示す上面図である。
【図2】本発明の実施形態による上顎用シート型義歯安定材の使用を説明する図である。図2Aは貼り付け前の状態、図2Bは貼り付け途中の状態、図2Cは貼り付け後の状態を示す。
【図3】本発明の別の実施形態による上顎用シート型義歯安定材を示す上面図である。図3(a)〜(d)は、それぞれ別の実施形態を示す。
【符号の説明】
10 上顎用シート型義歯安定材
12 開口部
14 切り欠き部
20 上顎用義歯の義歯付着面
Claims (3)
- 上顎用義歯の付着面に対応した形状を有する布帛及び該布帛上に保持された義歯安定剤を有しており、前記布帛の中央部に設けられた円形の開口部と、該開口部から前記布帛の前縁又は後縁に延びる扇形の切り欠き部とを有し、前記切り欠き部の前記開口部側の端縁の幅が、前記開口部の直径よりも小さいことを特徴とする上顎用シート型義歯安定材。
- 前記布帛が綿不織布からなることを特徴とする請求項1に記載の上顎用シート型義歯安定材。
- 上顎用義歯の付着面に対応した形状を有したシート状に成形された義歯安定剤からなり、該義歯安定剤のシート形状の中央部に設けられた円形の開口部と、該開口部から前記シート形状の前縁又は後縁に延びる扇形の切り欠き部とを有し、前記切り欠き部の前記開口部側の端縁の幅が、前記開口部の直径よりも小さいことを特徴とする上顎用シート型義歯安定材。
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