JP4596578B2 - 下顎用シート型義歯安定材 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は下顎用シート型義歯安定材に関し、より具体的には、下顎用義歯の義歯付着面の立体形状に対応するように形成されたシート型義歯安定材に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、義歯を顎堤(歯茎や口蓋などの義歯との接触面)に安定して装着させるための手段として、水溶性の高分子物質等からなるパウダータイプの義歯安定剤や、これをワセリン等の油成分に混合したクリームタイプの義歯安定剤が知られている。しかし、これらのタイプの義歯安定剤は、容器から適当な使用量を取り出し、これを義歯付着面(なお、本明細書において、義歯付着面とは義歯における歯茎や口蓋などとの付着面を意味する)上に適切な厚さで塗布する必要があるので、使用が困難で煩わしいことがあった。さらに、クリームタイプの義歯安定剤は、べたつきが強く、油成分を含んでいるので、義歯の清浄が面倒になりがちであった。
【0003】
他のタイプの義歯安定剤としては、水溶性を有さないガムベースのクッションタイプの義歯安定剤もまた知られている。しかし、クッションタイプの義歯安定剤は、非常に固く、チューブから出して義歯付着面上に適切な厚さに塗布することが困難であり、義歯の洗浄が面倒であった。
【0004】
上述のような問題点を解決するための義歯安定手段として、義歯安定剤を義歯付着面の形状に合わせてシート状に固めるなどして形成されたシートタイプの義歯安定剤が知られている。シートタイプの義歯安定剤は、クリームタイプの安定剤などのように義歯付着面上に塗布する必要がなく、使用が比較的簡便であるので、短時間で義歯を装着することが可能になる。
【0005】
また、上下2枚のシート状物の間に義歯安定剤を介在させた構造を有する義歯安定用シートが、米国特許第4,503,116号に開示されている。この米国特許第4,503,116号に記載の義歯安定用シートは、支持体として設けられた、例えば酢酸セルロース等の繊維を保持したセルロースペーパからなる上下2枚のウェブの間に義歯安定剤を介在させた3層構造を有している。薬剤としては、義歯安定剤としてエチレンオキサイドポリマーが、再湿性接着剤としてアルギン酸ナトリウムが使用されている。また、この3層構造において、ニードルパンチにより一対のウェブの交絡繊維を絡み合わせたり、義歯安定剤として使用される粉末状エチレンオキサイドポリマーの一部を熱溶着させたりすることによって、一体構造が形成される。これにより、義歯安定用シートの層間剥離が防止される。また、この義歯安定用シートの使用においては、必要に応じて義歯付着面の形状にあうように、シートの余分な部分がはさみ等で切り落とされる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述のシートタイプの義歯安定剤や義歯安定用シートなどの従来のシート型義歯安定材(以下、単にシートともいう)の多くは、義歯付着面の平面形状に適合した平面形状とされており、実際に貼り付けたときに、義歯付着面の形状に立体的に適合せず、シートにしわが発生し易かった。
【0007】
すなわち、下顎用シート型義歯安定材(下顎用シート)は、義歯付着面の平面形状に合わせてほぼU字形に形成されていたが、立体的には溝を構成する下顎用義歯の義歯付着面上にこれを貼り付けた場合、U字形義歯付着面の左右幅方向の中央部(すなわち、U字形の先端部)の特に内周側においてカーブ(屈曲率)が最も強くなっており、シートが義歯付着面の立体形状に適切に沿いにくかった。さらに、個人の注文により作製されるそれぞれの義歯は、U字形の先端部における屈曲率がそれぞれ異なっているので、義歯によっては、シートが適合しないこともあった。このように、従来の下顎用シートは、貼り付けたときに特にU字形の先端部においてしわなどが生じやすく、義歯の装着時に違和感や痛みを与えるなど、装着感が良好ではなかった。
【0008】
本発明は上記問題を解消するために為されたものであり、義歯を安定して良好な装着感で装着する事を可能にする、下顎義歯用のシート型義歯安定材を提供することをその目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の下顎用シート型義歯安定材は、下顎用義歯の義歯付着面に対応したU字形状を有する布帛及び該布帛上に保持された義歯安定剤を有しており、前記U字形状の内周側における布帛の幅方向中央部に、該中央部を中心とした屈曲を容易化するための切り込み部を設けたことを特徴としており、そのことにより上記目的を達成する。
【0010】
前記布帛が綿不織布からなっていてもよい。
【0011】
或いは、本発明の下顎用シート型義歯安定材は、下顎用義歯の義歯付着面に対応したU字形状を有するシート状に成形された義歯安定剤からなり、U字型形状の内周側におけるシート状義歯安定剤の幅方向中央部に、該中央部を中心とした屈曲を容易化するための切り込み部を設けたことを特徴としており、そのことにより上記目的を達成する。
【0012】
以下、本発明の作用を説明する。
【0013】
本発明の下顎用シート形義歯安定材は、U字形状の内周側における布帛の幅方向中央部に切り込み部が設けられているので、安定材の屈曲が容易化され、これにより下顎用義歯の義歯付着面の立体形状に容易に整合する。従って、本発明の下顎用シート形義歯安定材は、しわなどを形成せず、ほぼ一様な厚さで、下顎用義歯の義歯付着面上に貼り付けられる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態に係る下顎用シート型義歯安定材について図面を参照しつつ説明する。
【0015】
図1は、本実施形態の下顎用シート型義歯安定材(下顎用シート)10を示す。下顎用シート10は、全体が図1に示すようなほぼU字形又はほぼV字形の形状とされており、この全体的な形状は、下顎用義歯の付着面(義歯床における歯茎や口蓋等との付着面)の平面形状にほぼ対応している。
【0016】
また、下顎用シート10は、U字形状の内周側における左右幅方向中央(先端部)10cにおいてシート外周側への切り込み部12を有した形状とされている。
【0017】
一実施形態において、図1に示す各寸法は、例えば以下の通りである。
【0018】
シート全体の左右幅:A=約70mm
シート全体の前後幅:B=約50mm
シート先端部におけるシート幅:C=約15mm
シート内周側における切り込み部幅:D=約5mm
切り込み部の長さ:E=約7mm
ここで注意すべきこととして、切り込み部の幅及び/又は長さが大きすぎると、この部分におけるシートの強度が低下し、使用においてシートが2つに分離したり、シートのこの部分での粘着性が十分に得られなかったりする。一方、切り込み部の寸法が小さすぎる場合には、シートが義歯床の立体形状に適切に整合出来ず、義歯床上に貼り付けたときにこの部分でしわが生じ得る。このようなことから、シート内周側における切り込み部の幅Dは、約1mm〜約7mmの範囲にし、切り込み部の長さEは約2mm〜約10mmの範囲にすることが好ましい。ただし、これらの好適な寸法は、個々の義歯に依存するものである。なお、屈曲率の異なる個々の義歯に対応する形状とするためには、前述の条件のもとに切り込み部の寸法をなるべく大きくすることが望ましい。
【0019】
このような形状を有する下顎用シート10は、例えばポリエチレンオキシド及びカルメロースナトリウムなどの義歯安定剤を混合及び混練し、これを圧延して得た原反シート剤(例えば厚さ約1mm)から作成され得る。義歯安定剤としては、他にも湿潤状態において粘着性を有する種々の高分子材料を用いることができ、例えばアルギン酸ナトリウムやポリビニルアルコールを用いることができる。また、ポリプロピレングリコール、メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体なども使用し得る。
【0020】
また、下顎用シート10は、支持体として設けられた一対の布帛の間に、粉末状の義歯安定剤が保持された層構造を有していても良い。支持体として上下一対の綿不織布を用いれば、物理的及び化学的に口腔粘膜刺激が低減された良好な装着感を得ることが出来る。
【0021】
このようなシート10は、例えば、厚さ約0.1mm〜約1mmの綿不織布の上に、樹脂層を形成するための接着用布帛を重ね合わせた状態で、この上に粉末状義歯安定剤を所定の厚さで堆積させ、さらにこの上に厚さ約0.1mm〜約1mm綿不織布を重ねて、これをローラで挟んで加熱圧締することにより、層構造を有するシート状の義歯安定材が得られる。この義歯安定用シートにおいては、少なくとも一部が融着された樹脂層により接合された一対の綿不織布間に、義歯安定剤が保持される。樹脂層の融着は、全面的又は分散的(散点状、格子状など)のいずれの形態であってもよい。また、接着用布帛(樹脂層材料)としては、口中での使用が安全である限り、比較的低温で溶融する種々の材料が使用され得る。なお、接着用布帛を用いず、樹脂層を設けずに、ニードルパンチにより上下綿不織布を接合することも可能である。
【0022】
義歯安定剤としては、上記形態と同様に、ポリエチレンオキシド、カルメロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール又はこれらの混合物などの湿潤状態において粘着性を呈する種々の高分子剤が使用され得る。
【0023】
また、上記いずれの形態においても、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム又はクエン酸ナトリウム等のpH調節剤が、義歯安定剤に添加され得る。このようにすれば、薬剤が口腔粘膜に刺激を与える可能性を低下させることが出来る。
【0024】
或いは、下顎用シート型義歯安定材10は、上記に説明した薬剤を含浸し乾燥状態とした綿不織布から作成され得る。
【0025】
このように種々の形態で形成されたシート形状の義歯安定材は、公知の方法によって、例えば図1に示す、切り込み部12を有する下顎用シート10のような下顎用義歯の付着面のU字形状に対応した種々の形状に切断することが可能である。
【0026】
以下、本実施形態の下顎用シート10の使用方法を説明する。
【0027】
まず、下顎用シート型義歯安定材10を温水又は水に浸す。それから、良く洗浄した下顎用義歯の義歯付着面20上にこの湿潤状態のシート10を貼り付ける(図2A及び図2B)。なお、図2Aでは、顎堤への装着姿勢にある下顎用義歯に対するシート10の貼り付け方向を示し、図2B及び図2Cでは、実際に義歯付着面にシートを貼り付けるときの状態(義歯が上下逆になった状態)を示している。
【0028】
ここで、湿潤状態の下顎用シート10は、切り込み部12を有することで、U字形の内周側と外周側とが立体的な角度をなし易くされているので、溝形状に整合させやすい。また、義歯の先端部20cにおいて、様々な曲がり具合を有する異なる下顎用義歯に対して、例えば切り込み部12の側縁12aを近づけるか、重ねるか、或いは離すようにして貼り付けることにより、それぞれの曲がり具合に対応するように、シートの屈曲度を変えることが出来る。このように、下顎用シート10は、カーブが最も強いために、平面的なシートを沿わせようとすると特にしわを発生し易い義歯先端部20cにおいて、容易にしわが形成されないように貼り付けられ得る(図2C)。
【0029】
このようにして義歯付着面20上に貼り付けられる本実施形態の下顎用シート10は、全体形状が義歯付着面の形状に対応するように一体形成されているので、使用が簡便であり、かつ、比較的大きな粘着性表面を提供できる。従って、安定して義歯を顎堤(歯茎又は口蓋などの義歯との接触面)に固定できる。なお、下顎用シート10は、義歯付着面20をはみ出る余分な部分があれば、はさみ等でこの部分を予め切り落としておくことが望ましい。
【0030】
上述のようにして、下顎用シート10を義歯付着面20上に貼り付けた後、義歯を顎堤にはめ、これを固定するまで噛みしめる。本実施形態の下顎用シート10は、しわを形成せず、かつ、ほぼ一様な厚さで義歯付着面上に貼り付けられているので、義歯と顎堤とを良好に接合する事が出来る。また、たとえ切り込み部12の側縁部12aが重なる形態でシートが貼り付けられた場合でも、シートは全体として義歯付着面上に比較的均一に密着して貼り付けられるので、良好な固定作用及び装着感が得られ得る。
【0031】
なお、本実施形態では、下顎用シート型義歯安定材は、図1に示すように中央にくさび形の切り込み部を設けているが、この切り込み部は、半円形、長方形など、種々の形状とする事ができる。
【0032】
【発明の効果】
以上のように、本発明の下顎用シート型義歯安定材は、平面形状がほぼU字形で、立体的には溝構造を形成する下顎用義歯の付着面のに適切に整合する。このようにシート型義歯安定材を下顎用義歯の義歯付着面に、特にU字形状内周側のシートの幅方向中央部において、しわを形成することなく貼り付けることが出来るので、下顎用義歯を安定してしっかりと顎堤に固定することを可能にし、良好な装着感が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態による下顎用シート形義歯安定材の上面図である。
【図2】本発明の実施形態による下顎用シート形義歯安定材の使用を説明する図である。図2Aは貼り付け前の状態、図2Bは貼り付け途中の状態、図2Cは貼り付け後の状態を示す。
【符号の説明】
10 下顎用シート形義歯安定材
12 切り込み部
20 下顎用義歯の義歯付着面
Claims (3)
- 下顎用義歯の義歯付着面に対応したU字形状を有する布帛及び該布帛上に保持された義歯安定剤を有しており、
前記U字形状の内周側における布帛の幅方向中央部に、該中央部を中心とした屈曲を容易化するためのくさび形の切り込み部を設け、
前記切り込み部は、前記内周側の幅が1mm〜7mmであり、長さが2mm〜10mmであり、
前記中央部は、前記切り込み部の側縁が近接または離間するように屈曲可能である、平面的な下顎用シート型義歯安定材。 - 前記布帛が綿不織布からなることを特徴とする請求項1に記載の下顎用シート型義歯安定材。
- 下顎用義歯の義歯付着面に対応したU字形状を有するシート状に成形された義歯安定剤からなり、
U字型形状の内周側におけるシート状義歯安定剤の幅方向中央部に、該中央部を中心とした屈曲を容易化するためのくさび形の切り込み部を設け、
前記切り込み部は、前記内周側の幅が1mm〜7mmであり、長さが2mm〜10mmであり、
前記中央部は、前記切り込み部の側縁が近接または離間するように屈曲可能である、平面的な下顎用シート型義歯安定材。
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