本発明は、HDD(Hard Disc Drive)等の磁気記録装置に用いられる磁気ヘッドの製造装置及び製造方法に関する。より詳細には、MRヘッド或いはTMRヘッドと呼ばれるより小型の磁気ヘッドの製造工程において、磁気-電気信号の変換操作を司る磁気ヘッドスライダの製造工程において、当該磁気ヘッドスライダに所謂ABS(Air Bearing Surface)を形成する際に用いられる装置及び方法に関する。
上記スライダは、セラミックからなるウエハ状の基板に対して半導体製造工程に類似する薄膜形成・加工処理を施すことにより、複数個が同時に製造される。これらスライダは、基本的な内部構造を該薄膜形成・加工処理により作りこんだ後、該セラミックウエハより切り出されて、複数個のスライダが所定方向に並んだローバーと呼ばれる棒状の中間体とされる。スライダの外形は、このローバーを所定の治具に接着剤等で固定し、当該状態にて研磨等の処理を施すことで成型される。また、上述したABSは、ローバーの状態でABS形成面に露光工程及びイオンミリング工程を複数回施すことにより、ローバーを構成するスライダ全てに対して一括で形成される。
なお、該ローバーは、基板から切り出される際に受ける負荷等によって生じた反りを有することが知られている。露光処理を行う場合、このようなそりが存在すると露光時の焦点より外れる部分が存在することとなり、露光処理によって得られるパターンのエッジがぼやけるといった問題が生じる。このため、ローバー一本を2〜3のエリアに分割し、該エリアが焦点にある程度近い位置に存在する状態とした上で、該エリアごとに露光処理を行うこととしている。このため、一括処理が可能な他の工程と比較すると所謂スループットが低く、工程の改善が求められている。
このような改善要求に対しては、複数本のローバーに対して同時に露光処理を施す手法が効果的と考えられる。そのような一括露光の手法として、例えば特許文献1に開示する方法が提案されている。具体的には、平坦面上に置かれた複数のローバーを該平坦面上に設けられた吸着穴によって吸着、密着させ、複数のローバーが該平坦面に倣った状態を得ている。該状態にあるローバーを一括して他のバー固着治具上に接着することによって、反り等が修正された複数のローバーが整列した状態が得られ、これらに対する一括の露光処理の実施が可能となる。また、引用文献2には、やはり平坦面にてローバーを吸着保持することで反りを矯正することとし、且つローバーを吸着保持する際にローバーの保持姿勢を画像解析し、姿勢制御した上でこれを固定する構成が開示されている。
特開2000−339654号公報
特開2002−042311号公報
近年、磁気ヘッドはその小型化が進展し、ローバー状態で幅0.85〜1.2mm、高さ0.2〜0.3mm、長さ60〜70mmといった寸法となっている。このため、熱、内部応力等の影響がより顕著に現れることとなり、ローバーの反りは更に増加する傾向にある。また、磁気記録媒体の所謂モバイル用途の急増に伴って、磁気ヘッドの強度等を高めるためにDLC等の薄膜をスライダ表面に形成する等の表面硬化処理が施される傾向にもある。当該処理は熱等による歪をローバーに対して更に付与することとなり、当該処理を施すことによって反りの問題はより大きくなる。また、従来は、例えば切断面と略垂直な方向への反りのみが現れていたものが、微細化、表面硬化処理のような更なる処理の付加等により他の方向(例えば従来の反り方向とは略垂直な方向)への反りも現れる状況となっている。
特許文献1に開示する方法によれば、平坦面に倣うことによって一方向の反りは改善される。しかし、該平坦面と平行な方向に生じている反りに対してはこれを改善する効果は得られない。また、ローバーが有する歪によっては、一方向の反りを強制的に低減することにより、他方向(この場合平坦面と平行な方向)の反りが増幅される恐れもある。また、特許文献2に開示される方法も、基本的には平坦面を用いて一方向の反りの矯正を図るものである。即ち、他方向にも反りが存在する場合或いは一方向の反りの矯正によって他方向の反りが拡大される場合等については、その対策を何ら示唆していない。しかし、ローバーのサイズが極小化の一途をたどっている現状においては、基板から裁断されたローバーに複雑な歪及び複数方向への反りが存在することは前提条件であるとして、以降の工程を行うことが必要となっている。
本発明は、以上に述べた状況に鑑みて為されたものであり、複数の方向に反りを有する或いは複数の方向への反りを誘発する歪を有する極小型の磁気ヘッド向けのローバーについて、当該反りを矯正し且つその状態を維持したまま露光処理用のローバー保持治具(露光治具)に対して該ローバーを接着可能とする磁気ヘッドの製造装置を提供することを目的としている。また、本発明は、当該磁気ヘッドの製造装置を用いて反りを矯正した複数のローバーをローバー保持治具表面に固定し、これらローバーに対して一括での露光処理、イオンミリング処理等を施すことによって生産効率を向上させた磁気ヘッドの製造装置を提供することを目的としている。
上記課題を解決するために、本発明に係る磁気ヘッドの製造装置は、磁気ヘッドスライダに対してABS加工を施すために、切断分離される前の複数個の磁気ヘッドスライダが所定方向に並んだ状態からなるローバーの反りを矯正し、且つ露光治具上の所定位置にローバーを貼り付ける工程を実施するための磁気ヘッドの製造装置であって、矯正ユニット本体と、矯正ユニット本体に対して固定され、ローバーに密着可能な平面からなる固定平坦部と、固定平坦部に設けられてローバーを吸着保持するために用いられる固定吸着孔と、を有する固定ボンディングヘッドと、ローバーに密着可能な平面からなる可動平坦部と、可動平坦部に設けられたローバーを吸着保持するために用いられる可動吸着孔と、ローバーの長さ方向と略垂直であって且つローバーにおいて吸着保持される面と平行な方向に可動平坦部を駆動する駆動素子と、を有し、ローバーを吸着保持した際のローバーの長さ方向において固定ボンディングヘッドと略整列して駆動ユニットを介して矯正ユニット本体に支持される可動ボンディングヘッドと、を有することを特徴としている。
なお、上述した磁気ヘッドの製造装置は、ローバーにおいて固定吸着孔に保持された部位及び可動吸着穴に保持された部位を撮像する撮像装置と、撮像装置により得られたローバーにおける固定吸着孔に保持された部位及び可動吸着穴に保持された部位の映像からローバーの反り量を求め、反り量を矯正するために必要な可動平坦部の駆動量を算出し、駆動量に応じて駆動素子を用いて可動平坦部を駆動する矯正ユニット制御装置と、を更に有することが好ましい。また、上記した磁気ヘッドの製造装置において、固定平坦部を構成する平面及び可動平坦部を構成する平面は同一平面内に含まれ、可動ボンディングヘッドにおいて駆動素子が可動平坦部を駆動する方向は同一平面内に含まれる方向であることが好ましい。また、上記した磁気ヘッドの製造装置は、露光治具上の所定位置に対して接着剤を塗布する接着剤供給ユニットと矯正ユニット本体の3軸方向駆動及び1軸周りの回転駆動を可能とする矯正ユニット駆動機構と、を更に有し、可動ボンディングヘッドの可動平坦部を駆動してローバーの反りを矯正し、矯正ユニット駆動機構により接着剤が塗布された所定位置に対して矯正ユニット本体の姿勢を調整し、所定位置にローバーを接着固定することが好ましい。
また、上記課題を解決するために、本発明に係る磁気ヘッドの製造方法は、切断分離される前の複数個の磁気ヘッドスライダが所定方向に並んだ状態からなるローバーの反りを矯正し、露光治具上の所定位置にローバーを貼り付け固定し、露光治具に貼り付け固定されたローバーに対してレジストを塗布し、レジストに対して露光現像処理を施してローバーにおけるABS形成面にレジストパターンを形成し、レジストパターンを介してローバーに対してイオンミリング処理を施してABS形成面に凹部を形成することにより、磁気ヘッドスライダに対してABSを形成する磁気ヘッドの製造方法であって、ローバーの反りを矯正する工程は、上述した磁気ヘッドの製造装置を用いて可動ボンディングヘッドにおける可動平坦部を駆動素子により駆動することで行われ、反りを矯正した後のローバーは、露光治具上の所定位置に対して接着剤を塗布する接着剤供給ユニットによって露光治具上に塗布された接着剤を介して、露光治具に対して貼り付け固定されることを特徴としている。
なお、上述した磁気ヘッドの製造方法においては、露光治具を用いて、複数のローバーに対して一括で、レジストの塗布、レジストに対する露光現像処理によるレジストパターン形成、及びイオンミリング処理による凹部形成が繰り返して行われることが好ましい。
本発明によれば、同一平面内に含まれる複数の平坦面によってローバーの一面を密着保持することによりローバーにおける一方向の反りを矯正し、且つ該一面と平行な方向にこれら複数の平坦面を駆動することにより、該一方向に垂直な他方向の反りを矯正することとしている。通常ローバーは各面が互いに垂直となるように切断されており、細長い直方体形状を有している。従って、たとえローバーがねじれるような複雑な反りを有する場合であっても、ローバーの一面を同一平面内に含まれる複数の平坦面によって密着保持することにより、該面と垂直な方向の反りの成分はほぼ完全に矯正される。この矯正操作の後に複数の平坦面を該平坦面と平行な方向に駆動することにより、先ほどの矯正された反りの方向と垂直な方向の成分からなる反りも矯正される。以上のように、直方体形状の物体に対して直交する二面と各々垂直な方向の反りの成分を矯正することにより、該物体の有する反りはねじれ等複雑な形状を有する場合であっても、ほぼ完全に矯正することが可能となる。
低背でくわえ代が殆ど無い小型のローバーは、機械的に把持することがより困難となっている。また、ローバーにおいて機械的に把持される面には、電極、コイル等磁気ヘッドにとって重要且つ繊細な機能を有する構成が配置される。従って、これら面に負荷をかけるチャック等による把持、及び該把持状態にて反りの矯正を行う方法は現実的には好ましくない。本発明のように、所謂真空吸着によって平坦面上にローバーの一面を吸着保持することでこのようなローバー上の特定面への負荷を極力減らすことが可能となる。また、ローバーの一面全体で吸着保持による負荷を受けることとなり、特定部位への負荷集中がなくなることから、工程上のローバーの品質管理も好適に行うことが可能となる。
また、本発明によれば、複数のローバーの反りを矯正した上で、該ローバーのABS形成面を全て同一の平面内に配置することが可能となる。従って、これらローバーに対して一括で露光処理、イオンミリング処理等を施すことが可能となる。即ち、個別のローバーに対して複数回の露光処理等を施していた従来工程と比較して大幅なスループットの向上を図ることが可能となる。また、一基板から得られるローバーに対して施す露光処理、イオンミリング処理等の回数も大幅に低減することが可能となることから、これら処理に用いる装置も削減することが可能となる。
本発明の一実施形態について、以下に図面を参照して説明する。なお、本発明は磁気ヘッド製造工程において磁気ヘッドの素材たるローバーの反りを矯正してABSを形成するための露光治具に固定する一連の装置に関している。当該装置は磁気ヘッド製造工程における一工程を実施するための装置であることから、磁気ヘッドの製造装置としてこれを定義する。また、当該装置を用いて行われる工程は磁気ヘッドの製造工程を構成する。図1A〜1Cは、本発明の磁気ヘッドの製造装置において、本発明の主たる構成であるローバーの反りを矯正する矯正ユニットの概略構成を示す図である。各々の図は矯正ユニットにおけるローバー吸着面を正面から見た状態であって、図1Aは反りを有するローバーを吸着保持した状態を示し、図1Bは吸着保持されたローバーの反り状態を検知する様子を示し、図1Cはローバーの反りを矯正した状態を各々示している。また、同図において、該ユニットに吸着保持されるローバー1は二点鎖線にて示されている。また、図2は矯正ユニットに関連する諸構成を模式的に示すブロック図である。
本実施形態における矯正ユニット10は、第一のボンディングヘッド3、第二のボンディングヘッド5、第三のボンディングヘッド7、及びこれらボンディングヘッドを定められた位置関係にて保持する矯正ユニット本体9を主たる構成として有している。また、第二のボンディングヘッド5には駆動素子5cが、第三のボンディングヘッド7には駆動素子7cが、また、矯正ユニット本体9には本体部駆動装置9aが各々接続されている。これら駆動素子或いは駆動装置は、矯正ユニット制御装置11により制御される。また、各々のボンディングヘッドは矯正ユニット本体9を介して排気装置13に接続されており、該排気装置13の排気量或いは排気速度は矯正ユニット制御装置11により制御される。矯正ユニット10は更に、関連する構成として矯正ユニット制御装置11に制御される第一の撮像装置3e、第二の撮像装置5e及び第三の撮像装置7eを有している。これら撮像装置は、各々のボンディングヘッドと対応して配置されている。
第一のボンディングヘッド3は、矯正ユニット10内において固定されており、第二のボンディングヘッド5及び第三のボンディングヘッド7に対しての基準位置を提供する。この場合の基準位置は、第二のボンディングヘッド5及び第二のボンディングヘッド7がローバー1の反りを矯正するために駆動する際の、駆動開始の初期位置を意味する。また第一のボンディングヘッド3は、ローバー1を実際に吸着保持する平坦面を有する平坦部材3aと、該平坦面の略中央部に設けられた吸着孔3bとを有している。該吸着孔3bの孔中心は、先の基準位置を定義する上でのXY座標上(図中のXY方向に定義され、該平坦面3aを含む面内に座標軸を規定した場合の座標上)原点となる。吸着孔3bは矯正ユニット本体9を介して排気装置13と接続されており、所定の流速にて雰囲気等に対して吸引作用を及ぼし、該吸引作用によってローバー等を平坦面3aに対して密着保持することを可能とする。これら第一のボンディングヘッド3、平坦面3a、吸着孔3bは矯正ユニット本体9に対して相対的な移動が無く固定された部材として作用する。従って、これら部材は、固定ボンディングヘッド、固定平坦部、固定吸着孔として定義される。
第二のボンディングヘッド5は、第一のボンディングヘッド3の平坦面と同一面内に存在する平坦面を有する平坦部材5aを有し、該平坦面には吸着孔5bが設けられている。該吸着孔5bは、該平坦部材5aが初期位置にある状態で、第一のボンディングヘッド3に設けられた吸着孔3bと先のXY座標上において同一X座標上であって且つY座標方向に所定間隔空けて配置される。また、吸着孔5bは矯正ユニット本体9を介して排気装置11と接続されており、所定の流速にて雰囲気等に対して吸引作用を及ぼし、該吸引作用によってローバー等を平坦面に対して密着保持することを可能とする。第二のボンディングヘッド5は更に駆動素子5cを有し、該駆動素子5cによって平坦部材5aをX座標方向に駆動可能となっている。駆動素子5cは平坦部材5aの平坦面を含む平面に対して突出しないように配置されており、本実施形態においては圧電素子からなるアクチュエータにより構成されている。これら第二のボンディングヘッド5において、平坦面5a及び吸着孔5bは矯正ユニット本体9に対して相対的な移動が可能であり、可動部材として作用する。従って、これら部材は、可動ボンディングヘッド、可動平坦部、可動吸着孔として定義される。
第三のボンディングヘッド7は、第一のボンディングヘッド3の平坦面と同一面内に存在する平坦面を有する平坦部材7aを有し、該平坦面には吸着孔7bが設けられている。該吸着孔7bは、該平坦部材7aが初期位置にある状態で、第一のボンディングヘッド3に設けられた吸着孔7bと先のXY座標上において同一X座標上であって且つY座標方向に前述した所定間隔だけ空けて配置される。また、吸着孔7bは矯正ユニット本体9を介して排気装置11と接続されており、所定の流速にて雰囲気等に対して吸引作用を及ぼし、該吸引作用によってローバー等を平坦面に対して密着保持することを可能とする。第三のボンディングヘッド7は更に駆動素子7cを有し、該駆動素子7cによって平坦部材7aをX座標方向に駆動可能となっている。駆動素子7cは平坦部材7aの平坦面を含む平面に対して突出しないように配置されており、本実施形態においては圧電素子からなるアクチュエータにより構成されている。これら第三のボンディングヘッド7において、平坦面7a及び吸着孔7bは矯正ユニット本体9に対して相対的な移動が可能であり、可動部材として作用する。従って、これら部材は、可動ボンディングヘッド、可動平坦部、可動吸着孔として定義される。
次に、本実施形態に係る矯正ユニット10によって、実際にローバー1の反りを矯正する操作について説明する。なお、以下の説明においては、説明を容易にするために、先に述べたXY座標に加え、該XY座標を含む平面に対して垂直なZ座標を定義し、これらを用いることとする。まず、例えば不図示のローバー供給パレット上に載置されたローバーに対して該、矯正ユニット10がZ座標方向(具体的にはローバーの上方)から接近する。矯正ユニット10における、各々の吸着孔3b、5b、7bの吸着力により、矯正ユニット10がローバー1と所定間隔以下となった段階で、ローバー1は、平坦部材3a、5a、7a各々の平坦面に対して吸着される。これら吸着孔の吸着力は、矯正ユニット制御装置11が、排気装置13の排気量或いは排気速度制御することで調整可能であり、これを適当な値以上とすることによりローバー1を各々の平坦面に対して密着保持することが可能となる。
先にも述べたように、これら平坦部材3a、5a、7aの平坦面は同一平面内に含まれるように構成されている。従って、ローバー1を各々の平坦面に密着保持させることにより、ローバー1のZ座標方向に存在する反りを矯正することが可能となる。ローバー1は、各面が90°の角度を保持して各々繋がる細長い直方体形状からなる。従って、反りの成分は、長さ方向に対して垂直となる面内の成分のみからなり、該Z座標方向の反りを矯正することにより、該ローバー1の反りは該Z座標方向に対して垂直な方向(X座標方向)の成分のみとなる。
次に、矯正ユニット10に保持された状態にあるローバー1を、Z座標方向から不図示の撮像装置によって撮像する。撮像装置は各々のボンディングヘッドに対応して配置されており、該ボンディングヘッドおける吸着孔が初期位置にある際の吸着孔中心が、撮像視野の中心となるように配置される。即ち、図1Bに示すように、撮像視野3d、5d、7d、に対応して、三台の撮像装置3a、5e、7eが配置される。これら撮像装置によって得られたローバー1の各々の部位の映像を画像解析し、ローバー1のX座標方向の反りを求める。
具体的には、予め反りの無いローバーの映像を基準映像として得ておき、実際に得られたローバー1の映像と該映像との比較により各撮像位置におけるローバーの反り量を求める。反り量の算出方法としては公知の種々の方法が適用可能であるが、例えば、まず各々の撮像視野中に観察されるローバー1の上辺と下辺の位置、及びこれら辺のY座標との傾きとを求め、ローバー1の長さ方向における略中心であって位置を移動できない第一のボンディングユニット3のローバー1における上下辺、傾きと他の撮像視野中のこれらとの比較から反り量を求めることができる。
続いて、得られた反り量から、これら反りを矯正するために必要な平坦面5a、7a各々の駆動量(X座標方向)を求める。なお、以上の画像解析及び駆動量の算出は矯正ユニット制御装置11において行われる。第二のボンディングヘッド5の駆動素子5c及び第三のボンディングヘッド7の駆動素子7cは、このようにして求められた駆動量に応じて、平坦部材5a及び平坦部材7aを各々X座標方向(図1Cに示す矢印方向)に駆動する。なお、これら平坦部材の駆動に際して、各々の平坦面はすべて先に述べた平面内において駆動される。以上の操作によって、図1Cに示されるように、ローバー1のX座標方向の反りも矯正される。矯正ユニット10は、この状態でのローバー1の保持を継続し、接着剤が塗布された露光治具上の所定位置にローバー1を接着する。なお、ローバー1の保持は接着剤が固化するまで継続される。これにより、露光治具上には反りが矯正された状態のローバーが保持されることとなる。
図3は、以上の工程から露光処理工程について、ローバーに関連する操作の概略を模式的に示している。ステップ1においては、以上に述べた矯正ユニット10の操作によってローバー1の反りの矯正が行われる。反り矯正後のローバー1は露光治具21上の所定位置に順次貼り付けられ、ステップ2に示すように表面上位所定位置に反りの無いローバー1が整列した露光治具21が得られる。該露光治具21上のローバー1に対しレジストを塗布し、更にその上面に露光用のマスク35が載置される。マスク35には、整列されたローバー1上の各々のスライダに対応した位置にABS用のパターン35aの形成がなされている。この状態での露光操作をおこなうことにより、露光治具21上に貼り付けられたローバー1に対して、分割せずに一括して露光処理を施すことが、更には複数本のローバー1全てに対して一括して露光処理を施すことが可能となる。また、イオンミリング等の操作も、該露光治具21を用いて行うことが可能であり、当該操作もローバー1に対して分割を行うことなく一括で行うことが、更には複数本のローバー1全てに対しても一括して行うことが可能となる。
なお、本実施形態においてはボンディングヘッドを三台配置することとしているが、ローバーに対する反りの矯正レベル、矯正量、ローバーの縦横寸法に対する長さの比等に応じて、その数を増加或いは減少することも可能である。この場合、固定ボンディングヘッドを一台配置し、その他を可動ボンディングヘッドとすることが好ましい。また、平坦部材を駆動する駆動素子として圧電素子を用いることとしているが、微小量の駆動制御が可能であれば、公知の種々の駆動装置をこれに代えて用いることも可能である。また、本実施形態においては、X座標方向の反りは一回の画像解析と一回の矯正操作によって強制されることとしている。しかし、矯正レベル、矯正量等に応じて、これら操作を複数回繰り返すこととしても良く、更には矯正操作後に反り量を再度測定し求められた値が所定の反り量以下の時に当該矯正操作を終了することとしても良い。
また、可動ボンディングヘッドとして作用する第二及び第三のボンディングヘッド5、7において、駆動素子は実質的に平坦部を一方向に駆動可能であれば良く、その配置は本実施形態或いは後述する実施例に示す形態に限定されず、駆動素子の大きさ、可動範囲、制御性等を考慮して適宜変更されることが好ましい。また、本実施形態においては、平坦部が全て同一平面内に存在することとしている。これにより該面に密着した状態とすることで、一方向での反りを矯正することが可能である。
次に、以上に述べた実施形態に準じて実際に構築された矯正ユニット及び当該矯正ユニットを含む露光治具に対するローバーの接着装置たる磁気ヘッドの製造装置、及び当該装置によって達成される磁気ヘッドの製造方法を説明する。従って、以下に述べる実施例において、上述した実施形態において述べられた構成と同様の作用効果を呈する構成に関しては、同一の参照符号を用いて説明することとする。図4A、4B及び4Cは、実際に構築された矯正ユニット10の主要部を正面から見た状態、下方から見た状態(当該状態が図1A〜1Cに示した状態に対応する。)、図4Bにおける線4C−4Cに沿った断面を見た状態を各々示している。
本実施例においても、第二のボンディングヘッド5の駆動素子5c及び第二のボンディングヘッド7の駆動素子7cとして、圧電素子であるピエゾ素子を用いている。第一のボンディングヘッド3は矯正ユニット本体9に対して直接固定されており、第二のボンディングヘッド5及び第三のボンディングヘッド7は各々駆動素子5c及び7cを介して矯正ユニット本体9に対して固定されている。なお、ピエゾ素子からなる駆動素子5c、7cは、図4B及び4Cに示す矢印方向に対してのみ伸縮するように配置されている。平坦面3a、5a、7aは、ローバー1の幅の2倍以上の幅とし、これら平坦面を連ねた状態でローバー1よりやや短くなるように設定されている。また、吸着穴3b、5b、7bは、各々ローバー1の中央部、一方の端部近傍及び他方の端部近傍に対応するように配置されている。
次に、当該矯正ユニット10を適用した露光治具へのローバーの貼り付け装置(本発明に係る磁気ヘッドの製造装置)の一実施例を示す。図5は、該貼り付け装置100の主要構成及びそれらの配置を模式的に示す概略平面図である。なお、図中のXYZ各々矢印により示される方向は、上述した実施形態中のXYZ座標として説明される方向と一致している。当該貼り付け装置100は、ローバー供給パレット41、第一の移載ユニット43、プリアライメントテーブル51、第二の移載ユニット53、及び露光治具保持ユニット61を有する。
以下、各構成について順次述べる。ローバー供給パレット41は、平坦な載置面上に複数のローバー1が載置される構成である。基板から切り出され、洗浄された後のローバー1が適当な間隔をあけて載置されている。第一の移載ユニット43は、ローバーを保持可能であると共にZ方向に駆動可能なLDヘッド45と、該LDヘッド45をY方向に駆動可能に支持するLDヘッド駆動装置47とから構成される。なお、ローバー1等の部材を例えば吸着によってピックアップし且つZ方向に駆動可能な所謂ピックアップヘッドは公知の機構であり、且つ当該ピックアップヘッドを特定の方向(本構成ではX方向)に駆動可能に支持する駆動装置も公知の機構である。本構成はこれら公知の機構を細長く且つ把持領域が限られるローバーに適用しただけであり、本発明の特有の構成ではないことから本明細書での詳細な説明は省略する。LDヘッド45によってローバー供給パレット41からピックアップされたローバー1は、該LDヘッド45によってプリアライメントテーブル51上に移載される。
第二の移載ユニット53は、前述した矯正ユニット10、矯正ユニット保持機構55、及び矯正ユニット駆動機構57を有する。なお、矯正ユニット保持機構55及び矯正ユニット駆動機構57は、実施形態において説明した本体部駆動機構9aと略対応する。ここで矯正ユニット保持機構55は、XYZの三軸に沿って被保持物を駆動可能であることに加え、Z軸中心にも回転可能な機能を有する。当該機能を有する保持機構は公知であることから、当該矯正ユニット保持機構55におけるこれら機能を付与する構成についての本明細書での詳細な説明は省略する。また、該矯正ユニット保持機構55における各駆動軸方向の駆動量及び回転量には微細且つ高い精度での調整が求められる。このため、該矯正ユニット保持機構55は、プリアライメントテーブル51上から露光治具保持ユニット61上までの広範な移動を可能とする矯正ユニット駆動機構57によって、更にY方向に移動可能に支持されている。
なお、矯正ユニット10の構成に関しては、上述した説明及び実施形態において為された説明により既に説明されており、ここでの説明は省略する。また、以上に述べた各構成は、不図示の貼り付け工程制御装置によって各々制御されており、以下に述べる実際の貼り付け工程についても当該制御装置によって実施される。また、該貼り付け工程制御装置は、上述した矯正ユニット制御装置11を包含している。
露光治具保持ユニット61は、露光治具保持テーブル63、撮像装置ユニット65、接着剤供給ユニット67及び保持テーブル駆動機構69を有する。露光治具保持テーブル63は不図示の吸着機構を有し、該吸着機構によって露光治具21を所定位置に吸着保持する。撮像装置ユニット65は実施形態で述べた撮像装置3e、5e、7eを有しており、各々の撮像装置の撮影光軸はZ方向に一致している。接着剤供給ユニット67は、該供給ユニット67を露光治具保持テーブル63に対して相対的にXYZ方向に駆動可能とするディスペンサ駆動機構67a、及び接着剤を露光治具21上面に供給するディスペンサ67bを有する。ディスペンサ駆動機構67aも、公知の駆動機構からなる。該駆動機構67aは、露光治具21上面のローバー接着位置及び所定の接着剤塗布パターンに応じてディスペンサ67bの不図示の接着剤塗布部を駆動する。駆動状態においてディスペンサ67bからの接着剤供給を行うことにより、接着剤貼り付け予定のローバーに応じた接着剤の塗布が行われる。また、保持テーブル駆動機構69は露光治具保持テーブル63をX方向に駆動可能に支持している。
以上述べた構成からなる貼り付け装置100を用いて、露光治具21に対してローバー1を貼り付ける際の手順について、図6に示すフローチャートを用いて説明する。まず、ステップ101において、接着剤供給ユニット67による露光治具21に対する接着剤の供給が為される。当該供給位置は、以下の手順に沿って貼り付けられる貼り付け対象のローバー1が貼り付けられる位置と一致している。ここで、ステップ102において、第一の移載ユニット43のLDヘッド45が、ローバー供給パレット41上のローバーの一本をプリアライメントテーブル51上方まで搬送する。搬送終了後、LDヘッド45は、ローバー1をプリアライメントテーブル51上に移載する。その際、ローバー1は所定位置且つ所定方向に略整列するように該パレット41上で仮整列される(ステップ103)。LDヘッド45は、移載終了後初期位置或いは次の移載対象となるローバー上に直ちに移動する。
第二の移載ユニット53における矯正ユニット10を仮整列されたローバー1上に移動させ、ローバー1の吸着保持を行う。吸着保持終了後、該ローバー1が撮像ユニット65上であって、各々のボンディングユニットにおける吸着孔が対応する撮像装置の視野内に略配置される位置まで、矯正ユニット10を駆動する(ステップ104)。続いて、ステップ105において、ローバー1の撮像を行い、得られた映像から、矯正ユニット制御装置11による矯正量、矯正方向等の算出を行う、X座標方向の反りの矯正を行う。また、矯正前の映像、或いは矯正後の映像に基づいて、露光治具21上の所定の貼り付け位置に対するXY方向に対するずれ、及びZ方向周りの回転ずれを求め、矯正ユニット保持機構55によるローバー1のアライメント操作も行う。
アライメント終了後、矯正ユニット保持機構55によって、矯正ユニット10を露光治具21の上面に接近させ、露光治具21上の所定位置に対するローバー1の貼り付けを行う(ステップ106)。なお、前述したように、接着剤が固化するまで矯正ユニット10によるローバー1の矯正状態は維持される。接着剤が固化し、貼り付けが終了した後、矯正ユニット10によるローバーの保持は開放され、矯正ユニット10及び各々のボンディングユニットの初期位置への復帰が行われる。同時に保持テーブル駆動機構69によって、露光治具21上に貼り付けられるローバー1の一ピッチ分、露光治具21と共に露光治具保持テーブル63がX方向に駆動される(ステップ107)。以下、ステップ101からステップ107の操作が繰り返され、反りが矯正された状態の所定の本数のローバー1が露光治具21の上面に貼り付けられる。
なお、以上に述べた貼り付け装置100においては、反りの矯正量を求めるための撮像及び反りの矯正を露光治具21の上方にて行うこととしている。しかしながら、本発明は当該実施例に示す構成に限定されず、例えばプリアライメントテーブル51上からローバー1を吸着保持した段階で撮像・矯正量の算出の操作を行うこととしても良い。この場合、撮像ユニットはプリアライメントテーブル上にも配置される。当該構成によれば、反りが矯正された状態のローバーについて、露光治具21の上方に停止した段階にて直ちに貼り付け位置に対するアライメントを行うことが可能となり、処理速度の向上が見込める。また、第一の移載ユニット43は、本実施例に示した構成に限定されず、プリアライメントテーブル51に相当する所定位置に配置されたテーブルの上面所定位置に、ローバー1を仮整列させた状態で供給可能であれば、公知の種々の構成を適用することも可能である。
以上で述べた貼り付け装置100を介して得られた、反り矯正済みのローバー1が貼り付けられた露光治具21を用いて、露光、現像、イオンミリング等の各処理を行いABS形成加工が行われる。本発明を用いる一実施形態として、ABSの加工工程を図7に示すフローチャートを用いて説明する。同図に示すフローチャートでは、まずステップ201において磁気ヘッド素子等が形成された基板より、ローバー1の切り出しが行われる。切り出されたローバー1は洗浄等の工程を経て、前述した貼り付け装置1のローバー供給パレット41上に並べられる。次に、上述した装置及び方法を用いてローバー1の反りを矯正し、これらを露光治具21上の所定位置に貼り付ける(ステップ202)。ステップ203においては、露光治具21上に固定されたローバーにおけるABS加工面(上面)に対してレジストの塗布を行い、該レジスト塗布後の露光治具21に対して所定のパターンが形成されたフォトマスクを供給、固定する。該フォトマスクを用い、露光、現像の各処理を行い、レジストに対する所定のパターン形成を行う。
ローバー1上のレジストに所定のパターンを形成した後、該ローバー1に対してイオンミリング処理を行う。これにより、ローバー1に対して所定形状及び所定深さを有する凹部を形成する(ステップ205)。凹部形成後、レジストの除去操作を行う(ステップ206)。なお、ABSの形状に応じて、以上のステップ203から206の工程は複数回繰り返される。以上の工程を行うことによって複数のローバー上の複数のスライダに対するABS加工を同時に行うことが可能となる。
なお、以上述べた本発明に係る磁気ヘッドの製造装置を用い、本発明に係る磁気ヘッドの製造方法を実施することによって、一本のローバーに対して従来用いていた分割マスクを用いる必要がなくなった。これにより、実際に一本のローバーに対して一回の露光処理にて全てのABS用レジストパターンを形成することが可能となり、生産効率が3倍以上に向上した。また、複数本のローバーに対しても、一括して露光処理を行うことが可能となり、これにより5〜15倍に生産効率を高めることが可能となった。即ち、従来と比較して使用する露光装置の台数を1/15〜1/45に削減する効果が得られ、処理速度の向上のみならず、投資の大幅な削減、装置設置面積の大幅な低減といった効果も得られる。
更に、従来の工程では、複数のマスクパターンを用いて形成する複雑な形状からなるABSを形成する場合、上記した生産効率を下げる露光処理を複数回行う必要があり、製造コストの観点からABSの形状が制限される場合も考えられた。しかし、本発明の実施により、複数のローバー及び該ローバー上の複数のスライダに対して一括して露光処理を行うことが可能となり、露光処理による生産性の低減を考慮することなく、ABSを設計することも可能となる。
なお、本発明はローバーに対してABS加工を施す際に、複数のローバーに対する露光処理、イオンミリング処理等を一括して実施可能とすることを目的として案出されている。しかしながら、本発明はABS加工のみならず、一括して露光処理を行うことが好適であって、且つ処理対象の変形を矯正することが必要となる種々の加工に対しても用いることが可能である。
本発明の一実施形態に係る磁気ヘッド製造装置に関し、当該装置に含まれる反り矯正ユニットの構成を概念的に示す図である。
本発明の一実施形態に係る磁気ヘッド製造装置に関し、当該装置に含まれる反り矯正ユニットの構成を概念的に示す図である。
本発明の一実施形態に係る磁気ヘッド製造装置に関し、当該装置に含まれる反り矯正ユニットの構成を概念的に示す図である。
図1A〜1Cに示した反り矯正ユニットに関して、関連する構成を示すブロック図である。
本発明の一実施形態に係る磁気ヘッドの製造方法に関して、ローバーの反り矯正から露光処理にいたる工程を模式的に示す図である。
本発明の一実施例における反り矯正ユニットを正面から見た状態を示す図である。
本発明の一実施例における反り矯正ユニットを、図1A等に示す構成を見た場合と同様の方向から見た状態を示す図である。
図4Bにおける線4C−4Cに沿った断面を見た状態を示す図である。
本発明の一実施例に係る磁気ヘッドの製造装置である貼り付け装置の平面図であって、当該装置の諸構成を模式的に示す図である。
図5に示す装置を用いて露光治具上にローバーを貼り付ける手順を示すフローチャートである。
本発明の一実施例に係る磁気ヘッドの製造方法であって、磁気ヘッドスライダにABSを形成する工程を示すフローチャートである。
符号の説明
1:ローバー、 3:第一のボンディングヘッド、 5:第二のボンディングヘッド、 7:第三のボンディグヘッド、 9:矯正ユニット本体、 11:矯正ユニット制御装置、 13:排気装置、 21:露光治具、 35:マスク、 41:ローバー供給パレット、 43:第一の移載ユニット、 45:LDヘッド、 47:LDヘッド駆動機構、 51:プリアライメントテーブル、 53:第二の移載ユニット、 55:矯正ユニット保持機構、 57:矯正ユニット駆動機構、 61:露光治具保持ユニット、 63:露光治具保持テーブル、 65:撮像装置ユニット 、67:接着剤供給ユニット、 69:保持テーブル駆動機構、 100:貼り付け装置