以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明する。下記の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須であるとは限らない。
図1は、積層基板製造装置100の模式的平面図である。積層基板製造装置100は、筐体110と、筐体110の外側に配された基板カセット120、130および制御部150と、筐体110の内部に配された搬送部140、接合部300、ホルダストッカ400、およびプリアライナ500を備える。
一方の基板カセット120は、これから接合する基板210を収容する。他方の基板カセット130は、基板210を接合することにより形成された積層基板201を収容する。基板カセット120、130は、筐体110に対して個別に着脱できる。
搬送部140は、筐体110の内部において、単独の基板210および基板ホルダ220を搬送する。また、搬送部140は、筐体110の内部において、基板210を保持した基板ホルダ220、および基板210を積層して形成した積層基板201を搬送する。
制御部150は、積層基板製造装置100の各部の動作を個々に制御すると共に、各部相互の連携を統括的に制御する。また、制御部150は、接合部300に配置した環境センサ151を有する。環境センサ151は、接合部300において基板210を接合する環境の気温、気圧、気体の種類、および、湿度等の環境条件を検出して制御部150に伝達する。これにより、制御部150は、基板210を接合する環境の環境条件を踏まえて制御を実行する。
更に、制御部150は、外部からのユーザの指示を受け付けて、積層基板201を製造する場合の条件を設定する。更に、制御部150は、積層基板製造装置100の動作状態を外部に向かって表示するユーザインターフェイスも有する。
更に、制御部150は、搬入された基板210の各々に関する情報を外部から取得してもよい。ここで取得される情報は、基板210が積層基板製造装置100に搬入されるまでに受けた処理の内容や履歴等の製造条件に関する情報を含んでもよい。また、基板210に関する情報は、例えば、基板210の厚さ、表面性状、反り等の変形量に関する情報を含んでもよい。
なお、基板210の表面性状とは、基板210の基板ホルダ220に対する摩擦力に影響する基板210の表面の状態を意味する。より具体的には、表面性状に関する情報は、基板210自体の表面粗さを示す情報を含んでもよい。また、基板210の表面性状に関する情報は、基板210の表面に付着した付着物に関する情報を含んでもよい。更に、基板ホルダ220に対する付着物の付着量を推定する場合に用いる情報として、基板ホルダ220の使用回数等を制御部150に取得させてもよい。
また、基板210の変形とは、基板210に生じた立体歪みの種類と程度を意味する。立体歪みは、基板210の接合面に沿った方向以外の方向、すなわち接合面に交差する方向への変位であり、基板210が全体的にまたは部分的に曲がることにより生じる湾曲が含まれる。ここで、「基板が曲がる」とは、基板210上の3点により特定された平面上に存在しない点を基板210の表面が含む形状に変化していることを意味する。
また、湾曲は、基板210の表面が曲面をなす歪みであり、例えば基板210の反りが含まれる。ここで、反りは、重力の影響を排除した状態で基板210に残る立体歪みを意味し、反りに重力の影響を加えた立体歪みを撓みと呼ぶ。また、基板210の反りには、基板210全体が概ね一様な曲率で屈曲するグローバル反りと、基板210の一部の曲率が局所的に変化するローカル反りとが含まれる。
接合部300は、互いに対向する一対のステージを有し、ステージのそれぞれに保持した基板210を相互に位置合わせした後、互いに接触させることにより接合して積層基板201を形成する。
積層基板製造装置100の内部において、基板210は基板ホルダ220に保持された状態で取り扱われる。基板ホルダ220は、本実施形態において真空チャックにより基板210を吸着して保持する保持部をなす。基板210を強度の高い基板ホルダ220と一体的に取り扱うことにより、薄くて脆い基板210の損傷を防止して、積層基板製造装置100の動作を高速化できる。
なお、基板ホルダ220は、アルミナセラミックス等の硬質材料により形成され、基板210の面積と略同じ広さを有する保持部と、保持部の外側に配された縁部とを有する。複数の基板ホルダ220が、積層基板製造装置100内のホルダストッカ400に収容される。
基板210または積層基板201を積層基板製造装置100から搬出する場合、基板ホルダ220は、基板210または積層基板201から分離され、ホルダストッカ400に戻される。よって、基板ホルダ220は、積層基板製造装置100の外部に搬出されることなく内部に留まり、繰り返し使用される。従って、基板ホルダ220は、積層基板製造装置100の一部であるともいえる。さらに、基板ホルダ220は、清掃を含む保守、交換等の目的で、積層基板製造装置100の外部に取り出すこともできる。
プリアライナ500は、搬送部140と協働して、搬入された基板210を基板ホルダ220に基板を保持させる。また、プリアライナ500は、接合部300から搬出された積層基板201を基板ホルダ220から分離する場合にも使用される。
基板210の例は、素子、回路、端子等が形成された基板、未加工のシリコンウエハ、化合物半導体ウェハ、ガラス基板である。接合される基板210の組は、回路基板と未加工基板であっても、未加工基板同士であってもよい。接合される基板210は、それ自体が、既に複数の基板を積層して形成された積層基板201であってもよい。本実施形態では、基板210は回路等の形成された半導体ウェハである。
図2は、互いに接合される基板210の模式的平面図である。基板210は、スクライブライン211、アライメントマーク213、および回路領域214を有する。アライメントマーク213および回路領域214は、それぞれ複数設けられる。
アライメントマーク213は、基板210の表面に形成された構造物の一例であり、図示の例ではアライメントマーク213は回路領域214相互の間に配されたスクライブライン211に重ねて配される。アライメントマーク213は、基板210を他の基板210と接合する場合に、位置合わせ指標として使用される。
回路領域214は、同じ構造を有する複数のものが、基板210の表面に周期的に配される。回路領域214の各々には、フォトリソグラフィ技術等より形成された半導体装置、配線、保護膜等の構造物が設けられる。基板210を他の基板210、リードフレーム等に電気的に接続する場合に接続端子となるパッド、バンプ等の接続部も回路領域214に配される。接続部も、基板210の表面に形成された構造物の一例である。
図3は、基板210を基板ホルダ220に保持させた状態を示す模式的断面図である。基板ホルダ220は、通気路222および突起部251を含む本体部229を有する。
通気路222は、本体部229の内部に形成され、吸着面221に複数の開口を有する。通気路222の他端は、制御バルブ124を介して、基板ホルダ220の外部に設けられた開放端125および負圧源126に結合される。制御バルブ124は、制御部150の制御の下に、通気路222を開放端125または負圧源126に選択的に連通させる。
制御バルブ124が通気路222を負圧源126に連通させた場合、吸着面221側の開口に作用する負圧による吸引力で、基板ホルダ220に搭載された基板210が吸着面221に吸着される。これにより、基板ホルダ220は、基板210を保持する。制御バルブ124が通気路222を開放端125に連通した場合、吸着面221の吸引力が生じなくなるので、吸着は解消される。よって、基板ホルダ220による基板210の保持は解除される。
本体部229の図中上面は、略全体に平坦な吸着面221をなす。ただし、吸着面221の略中央には、吸着面221から図中上方に突出した突起部251が配される。突起部251は、例えば、直径Cを有する円柱状の形状を有し、吸着面221に対して高さAを有する。このため、吸着面221に基板210が吸着された場合、突起部251の先端が基板210の図中下面に当接し、基板210の中央付近に、高さBの隆起部215を形成する。
なお、突起部材250により基板210の一部に形成される隆起部215の曲率は、隆起部215全体で一定であるとは限らず、隆起部215は、少なくとも一部において、基板210における隆起部215以外の領域よりも大きな曲率を有する。基板210の隆起部215以外の領域が平坦な場合すなわち当該領域の曲率が零の場合、突起部251により隆起部215が形成された基板210では、平坦な基板210の隆起部215のみが、湾曲した形状となる。
図4は、基板210に接合する他の基板230を保持する基板ホルダ240の模式的断面図である。基板ホルダ240は、吸着面241および通気路242が形成された本体部249を有する。
全体に平坦な基板ホルダ240の吸着面241には、通気路242に連通する複数の開口が配される。通気路242の一端は、制御バルブ144を介して、基板ホルダ240の外部に設けられた開放端145、負圧源146、147、148に結合される。なお、制御バルブ144として圧力調整機能を有する空電レギュレータ等を用いることにより、複数の負圧源146、147、148を用いることなく、単一の負圧源を用いて負圧調整することもできる。
制御バルブ144は、制御部150の制御の下に、通気路242を開放端145、負圧源146、147、148のいずれかに選択的に連通させる。ここで、複数の負圧源146、147、148が提供する負圧は互いに異なる。このため、制御部150がどの負圧源146、147、148に通気路242を連通させたかによって、基板230に作用する吸引力が異なる。これにより、制御部150は、基板230の基板ホルダ240に対する保持力の大きさを変化させることができる。
図5は、基板210を他の基板230と接合する場合の手順を示す流れ図である。接合する基板210は、積層基板製造装置100のプリアライナ500において基板ホルダ220に保持されている。また、基板230は、基板ホルダ240に保持されている。よって、基板210、230は、基板ホルダ220、240と共に、接合部300に搬入される(ステップS101)。
図6は接合部300の構造を示す模式図である。また、図6は、ステップS102で、基板210、230が搬入された直後の状態を示す図でもある。
接合部300は、枠体310、固定ステージ321、および移動ステージ341を備える。枠体310は、それぞれが水平な天板311および底板313を有する。接合部300は制御部150に接続され、制御部150の制御の下に動作する。
固定ステージ321は、枠体310の天板311に下向きに固定され、図3に示した基板ホルダ220を吸着することにより、基板210を保持する。固定ステージ321に保持される基板ホルダ220は、基板210の接合面が図中下向きになるように接合部300に搬入され、固定ステージ321にも下向きに保持される。
枠体310の天板311の図中下面には、図中下向きに固定された上顕微鏡322および上活性化装置323が、固定ステージ321の側方に配される。上顕微鏡322は、固定ステージ321に対向して配置された移動ステージ341上の基板230の上面を観察する。上活性化装置323は、例えばプラズマを発生して、移動ステージ341に保持された基板230の上面を活性化する。
接合部300において、枠体310の底板313の図中上面には、X方向駆動部331、Y方向駆動部332、および移動ステージ341が積層して配される。基板230を保持した基板ホルダ240は、基板230の表面が上向きになるように移動ステージ341の上面に搬入される。
X方向駆動部331は、底板313と平行に、図中に矢印Xで示す方向に移動する。Y方向駆動部332は、X方向駆動部331上で、底板313と平行に、図中に矢印Yで示す方向に移動する。X方向駆動部331およびY方向駆動部332の動作を組み合わせることにより、移動ステージ341は、底板313と平行に二次元的に移動できる。
Y方向駆動部332と移動ステージ341との間には、Z方向駆動部333が配される。Z方向駆動部333は、矢印Zで示す底板313に対して垂直な方向に、Y方向駆動部332に対して移動ステージ341を移動させる。これにより、移動ステージ341を固定ステージ321に接近させることができる。X方向駆動部331、Y方向駆動部332およびZ方向駆動部333による移動ステージ341の移動量は、干渉計等を用いて高精度に計測される。
Y方向駆動部332の図中上面には、下顕微鏡342および下活性化装置343が移動ステージ341の側方に搭載される。下顕微鏡342は、Y方向駆動部332と共に移動して、固定ステージ321に保持された下向きの基板210の下面を観察する。下活性化装置343は、Y方向駆動部332と共に移動しつつ、基板210に照射する例えばプラズマを発生して、固定ステージ321に保持された基板210の図中下面を活性化する。
ここで、基板210、230の活性化とは、基板の接合面が他の基板の接合面と接触した場合に、水素結合、ファンデルワールス結合、共有結合等を生じて、溶融することなく固相で接合される状態にすべく、少なくとも一方の基板の接合面を処理することを意味する。
すなわち、活性化とは、基板210、230の表面にダングリングボンド(未結合手)を生じさせることによって、結合を形成しやすくすることを含む。具体的には、上活性化装置323および下活性化装置343では、例えば減圧雰囲気下において処理ガスである酸素ガスを励起してプラズマ化し、酸素イオンを二つの基板のそれぞれの接合面となる表面に照射する。例えば、基板がSi上にSiO膜を形成した基板である場合には、この酸素イオンの照射によって、積層時に接合面となる基板表面におけるSiOの結合が切断され、SiおよびOのダングリングボンドが形成される。基板の表面にこのようなダングリングボンドを形成することを活性化と称する場合がある。このダングリングボンドが形成された状態の基板を、例えば大気に晒した場合、空気中の水分がダングリングボンドに結合して、基板表面が水酸基(OH基)で覆われる。基板の表面は、水分子と結合しやすい状態、すなわち親水化されやすい状態となる。つまり、活性化により、結果として基板の表面が親水化しやすい状態になる。
また、固相の接合では、接合界面における、酸化物等の不純物の存在、接合界面の欠陥等が接合強度に影響する。よって、接合面の清浄化も活性化の一部と見做してもよい。
基板210、230を活性化する方法としては、DCプラズマ、RFプラズマ、MW励起プラズマによるラジカル照射の他、不活性ガスを用いたスパッタエッチング、イオンビーム、高速原子ビーム等の照射も例示できる。また、紫外線照射、オゾンアッシャー等による活性化も例示できる。更に、液体または気体のエッチャントを用いた化学的な清浄化処理も例示できる。更に、図示しない親水化装置を用いて、基板の接合面となる表面に純水等を塗布することによって基板の表面を親水化してもよい。この親水化により、基板の表面は、OH基が付着した状態、すなわちOH基で終端された状態となる。
なお、上活性化装置323および下活性化装置343に代わる活性化装置を接合部300とは別の場所に設けて、予め活性化した基板210、230を接合部300に搬入してもよい。
接合部300は、更に制御部150を備える。制御部150は、X方向駆動部331、Y方向駆動部332、Z方向駆動部333、上活性化装置323、および下活性化装置343の動作を制御する。
なお、基板210、230の接合に先立って、制御部150は、上顕微鏡322および下顕微鏡342の相対位置を予め較正しておく。上顕微鏡322および下顕微鏡342の較正は、例えば、上顕微鏡322および下顕微鏡342を共通の焦点Fに合焦させて、相互に観察させることにより実行できる。また、共通の標準指標を上顕微鏡322および下顕微鏡342で観察してもよい。
再度図5を参照すると、制御部150は、上記のようにして搬入された基板210、230のそれぞれについて、図7に示すように、移動ステージ341を移動させることにより、対向する基板210、230を上顕微鏡322および下顕微鏡342を用いて観察し、これにより、各基板210、230のそれぞれにおいて、複数のアライメントマーク213の位置を計測する(ステップS103)。複数のアライメントマーク213の位置に基づいて、基板210、230の相対位置が算出される。
なお、下顕微鏡342が観察する基板210は、突起部251を有する基板ホルダ220に保持された状態で固定ステージ321に保持されている。よって、下顕微鏡342は、隆起部215が形成された状態の基板210を観察して、隆起部215を含む基板210の表面におけるアライメントマーク213の位置を検出する。
このように、アライメントマーク213の位置を検出する前に突起部材250により基板210に隆起部215を形成し、隆起部215が形成された状態でアライメントマーク213の位置を検出している。これにより、アライメントマーク213の位置を検出した後に基板210に隆起部215を形成する場合と異なり、基板210の変形によってアライメントマークの位置が位置検出したときの位置から変位することを抑制できる。従って、位置合わせ精度の低下を抑制できる。
このように、ステップS103において、制御部150は、基板210、230の相対位置に基づいて、基板210、230の位置合わせに必要な移動ステージ341の移動方向および移動量を算出する。次に、制御部150は、移動ステージ341に保持された基板230に接合時に生じる変形量を調節すべく、基板230に対して作用させる保持力を決定する(ステップS104)。すなわち、本実施例では、制御部150は、基板230への保持力を決定する決定部を構成する。
図8および図9は、上記ステップS104において制御部150が基板に作用させる保持力を決定する方法を説明するグラフである。図8に示すグラフは、基板230に対して作用する保持力を生じさせる吸引力および摩擦力の相違と、その保持力が作用した基板230の倍率(ppm)との関係を示す。図中に示す単位μは摩擦係数を示す。
なお、図8に示す接合倍率について説明する。まず、基板230単体についての倍率は、設計値では基板230の中心から距離X0に位置する構造物が、実際に製造された基板では中心からの距離X1に位置する場合に、差分(X1-X0)を距離X0で除することにより得られた値である。
このように定義された倍率は、例えばppm(Parts Per Million)を単位として表される。また、このような倍率には、設計位置からの変位ベクトルが同じ量のX成分およびY成分を有する等方倍率と、設計位置からの変位ベクトルが、互いに異なる量の成分を有する非等方倍率とが含まれる。
図8に示すグラフにおいて縦軸に割り当てた接合倍率は、接合する基板210、230について、それぞれの「倍率」の差を意味する。図示の例では、接合部300における上側の基板210の倍率と、下側の基板230の倍率との差「下基板倍率-上基板倍率」により算出した値として、接合倍率の値の大きさと符号が決定される。
接合される基板210、230のそれぞれにおける設計位置を基準とした倍率の差が、積層基板201における基板210、230の位置ずれ量となる。例えば、位置ずれがない場合に積層基板201において互いに対向すべき構造物、例えば電気的な接続部が、当該倍率の差に応じた量で積層基板201において位置ずれを生じる。この位置ずれが過大な場合は、積層基板201において、基板210、230相互の間の電気的接続が絶たれる場合がある。
図8に示すように、基板230と基板ホルダ240と間に一定の摩擦力が生じている場合は、基板に作用する吸引力が増加した場合に倍率が低下するという一定の関係が認められる。また、一定の吸引力について着目すると、摩擦係数が減少するほど倍率が低下するという一定の関係が認められる。換言すれば、基板230に対する吸引力または摩擦力を変化させることにより基板230に作用する保持力を変化させれば、基板230の倍率を補正できる。
図9は、異なる日に接合した基板210、230に生じる倍率のばらつきを、基板230に対する吸引力と基板230の倍率との関係においてプロットしたグラフである。図示のように、同じ装置条件で接合した場合であっても、接合した基板210、230に生じる倍率のばらつきの範囲が異なる。これは、基板210、230に生じる倍率のばらつきは、接合を実施した日の気温、気圧、湿度等の環境条件の影響をうけているのと推測される。換言すれば、環境条件に応じて基板230の倍率を補正することにより、倍率のばらつきを抑制することができる。
積層基板製造装置100の制御部150は、上記の知見に基づき、ステップS104(図5)において、積層基板201において生じる位置ずれ量を取得する段階1と、取得した位置ずれ量を予め定めた閾値以下に抑制するための補正量を算出する段階2と、算出した補正量に基づいて基板210、230の少なくとも一方に対する保持力を調整する段階3とを含む制御を実行する。
段階1において、制御部150は、積層基板201において生じる位置ずれ量を取得する。当該位置ずれ量の取得は、例えば、基板210、230を接合して形成された積層基板201において生じた位置ずれを測定することにより取得してもよい。こうして取得された位置ずれは、その積層基板201を形成する基板210、230と、例えば同じロットで製造された基板210,230に対して高い確度で援用できる。
また、制御部150は、基板210、230が接合される環境の環境条件、例えば、環境センサから取得した気温、湿度、気圧等に基づいて積層基板201において生じる位置ずれ量を取得してもよい。更に、制御部150は、基板210、230の厚さ、剛性、実装された回路の仕様等の物理特性に基づいて、積層基板201において生じる位置ずれ量を取得してもよい。物理特性は、基板210、230に関する情報に含まれる。
更に、制御部150は、上記の環境条件および物理特性に基づいて、基板210、230を接合する過程で生じる歪みを予測して、予測した歪み量から積層基板201において生じる位置ずれ量を算出することにより取得してもよい。これにより、接合前の段階では生じていなかった歪みに対しても有効な補正ができる。
こうして、積層基板201において生じる位置ずれを取得することにより、制御部150は、補正すべき位置ずれの種類と量を把握できる。なお,位置ずれ量を取得する上記の種々の方法は、そのいずれかを選択して実行してもよいし、複数の方法を併用してもよい。
次に、段階2において、制御部150は、積層基板201における位置ずれ量を補正すべく、基板210、230の少なくとも一方に対して生じさせる変形量を算出する。ここで、制御部150は、位置ずれが全く解消されることを目標として変形量を算出するのではなく、積層基板201における位置ずれ量が、予め定めた閾値以下になるような変形量を求めてもよい。
これにより、制御部150による処理の負荷が抑制されると共に、補正ができないことを理由に接合しない基板210、230が発生することを抑制できる。よって、積層基板201の製造に係るスループットを減少できると共に、基板210、230に関する材料コストも抑制できる。
続いて、段階3において、制御部150は、接合部300における基板210,230の少なくとも一方に対する保持力を、段階2で算出した変形量に応じて決定する。ここで、制御部150は、実験、解析等により予め用意しておいた、基板210、230に対する保持力と補正量との関係から保持力を決定してもよい。保持力は、例えば、基板ホルダ220、240に対する基板210、230の吸着力、基板ホルダ220、240に対する基板210、230の摩擦力により調節できる。
上記のような処理の段階を経た制御部150は、図10に示すように、上活性化装置323および下活性化装置343を動作させながら移動ステージ341を走行させることにより、基板210、230の表面をプラズマで走査して、基板210、230の接合面を活性化する(ステップS105)。活性化された基板210、230の表面は、接着剤等の介在物、溶接、圧着等の加工なしに、接触によって接合される状態になる。
次に、制御部150は、先にステップS104で算出した相対位置に基づいて移動ステージ341を移動させて、図11に示すように、基板210、230を相互に位置合わせする(ステップS106)。図12は、ステップS106において位置合わせされた基板210、230の状態を示す模式的な断面図である。
この段階では、制御部150は、制御バルブ124を制御して、固定ステージ321に保持された基板ホルダ220の通気路222を負圧源126に連通させている。これにより、基板210は吸着面221に吸着されて、対向する基板230から離れている。
更に、制御部150は、この状態で制御バルブ144を制御して、先にステップS104で決定した保持力を、移動ステージ341に保持された基板230に作用するように、調節する(ステップS107)。これにより、負圧源146、147、148のいずれかに基板ホルダ240の通気路242が連通し、吸引力が作用する。
次に、図13に示すように、制御部150はZ方向駆動部333を動作させて、移動ステージ341を上昇させる。これにより、基板230が上昇し、やがて、基板210、230が互いに部分的に接触する(ステップS108)。
図14は、接合部300において基板210、230が接触し始めた状態を示す模式的な断面図である。固定ステージ321に保持された基板210には、図中下方に向かって突出した隆起部215が形成されている。よって、移動ステージ341の上昇により基板210、230が互いに接近したときに、まず、隆起部215が基板230の表面に接触する。
このとき、基板210の隆起部215を基板230に押し付けることにより、隆起部215と基板230との間に挟まれた雰囲気等が押し出されて、基板210、230同士が直接に接触する。
この接触により、活性化された二つの基板210、230の接触領域が、水素結合のような化学結合により結合する。
なお、ステップS108において、制御部150は、制御バルブ124、144を制御して、基板ホルダ220、240の各々の通気路222、242を、負圧源126、146、147、148のいずれかに連通させている。よって、基板210、230は、それぞれ基板ホルダ220、240に吸着されており、接合起点209以外の部分で、基板210、230が接触することは抑制されている。
接触状態を維持した状態で所定の時間が経過すると、二つの基板210、230の貼り合わせの過程で基板210、230間に位置ずれが生じない大きさの結合力が二つの基板210の間に確保される。
これにより、基板210、230の接触点には、基板210、230の一部が接触により接合した接合起点209が形成される。接合起点209における接合は、水素結合、ファンデルワールス結合、および、共有結合等により行われる。接合起点209は、基板210,230同士が接触して接合が開始された時点で形成される。なお、接合起点209は、ある程度面積を有する領域であってもよい。二つの基板210、230を一部で接触させた後、制御部150は、二つの基板210、230が互いに接触した状態を維持してもよい。
その後、制御部150は、固定ステージ321側において、制御バルブ124を切り換えて、基板ホルダ220の通気路222を大気圧への開放端に連通させる。これにより、基板ホルダ220による基板210の保持が解除される。よって、活性化された表面の分子間力等により、基板210、230の接合領域が自律的に拡大する。このとき、基板210、230同士を押し付けることにより、接触した一部の面積を大きくすることにより接触領域を広げてもよい。
図15は、上記のように接合領域が拡大する過程を模式的に示す図である。図示のように、基板210、230が接合された接合領域が、接合起点209から、基板210、230の径方向外側に向かって順次拡大する接合波が発生し、基板210、230の接合が進行する(ステップS109)。
図16は、上記のような基板210、230の接合波の進行が完了した状態を示す模式的断面図である。図16において基板210、230は全面にわたって接合されている。これにより基板210、230の接合は完了し、基板210、220は一体的な積層基板201を形成する。このとき、基板210、230間は、水素結合、ファンデルワールス結合、および、共有結合等により接合される。形成された積層基板201は、接合部300から搬出され、更に、基板カセット130に収容されて、積層基板製造装置100から搬出される(ステップS110)。
なお、固定ステージ321に吸着された基板ホルダ220による基板210の吸着は、ステップS109において完全に解除されている。よって、積層基板201は、移動ステージ341に保持された基板ホルダ240によって保持されている。積層基板201を接合部300から搬出する場合は、基板ホルダ240による保持を先に解除して積層基板201単独で搬出してもよいし、基板ホルダ240に保持させたまま基板ホルダ240と共に搬出した後、更に、積層基板201を基板ホルダ240から分離して基板カセット130に収容してもよい。
図17、図18、および図19は、基板210、230の接合において、接合起点209から外周に向かって接合波が進行する過程で生じる現象を説明する図である。これらの図は、接合の過程にある基板210、230において、基板210、230が既に接合された領域と、未だ接合されていない領域との境界K、すなわち、進行する接合波の先端の付近を拡大して示す。
図17に示すように、境界Kの直近では、基板ホルダ220による保持から解放された基板210の図中下面が伸張し、図中上面が収縮する変形が生じる。更に、図18に示すように、基板210、230において境界Kの位置が移動すると、上記の変形が生じる場所も境界Kと共に移動する。
上記のような変形を伴って接触した基板210、230が相互に接合されると、基板210の伸びが、基板230に接合されることにより固定され、基板210が、基板230に対して拡大したかのようになる。このため、図中に点線のずれとして現れるように、基板ホルダ240に保持された下側の基板230と、基板ホルダ220から解放された上側の基板210との間に、基板210の伸び量に相当する倍率差の相違が、基板210、230の位置ずれとして顕在化する。更に、図19に示すように、上記のような倍率差は、境界Kが基板210、230の外周に向かって累積され、外周に近づくほど大きくなる。
尚、ここでいう位置ずれとは、二つの基板210、230の間で対応するアライメントマーク213同士、または、互いに対応する接続部同士の、所定の相対位置からのずれである。位置ずれ量が閾値よりも大きい場合は、接続部同士が接触しない又は適切な電気的導通を得ることができない、もしくは接合部間に所定の接合強度が得られない。
図20は、接合の境界Kで生じる現象を更に詳細に説明する図である。基板ホルダ240の吸着面に吸着された基板230と他の基板210との接合が進行する過程で、境界Kの直近では、活性化された基板210、230の接合面が分子間力等により相互に引きつけ合って接合が進行する。
この状態を微細に検討すると、基板210は、基板ホルダ220による保持から解放される前から、基板ホルダ220の突起部251の位置で接合起点209を形成して既に基板230に部分的に接合されている。このため、基板ホルダ220による保持から解放された基板210は、接合起点209に隣接する領域において、基板210自体の剛性により基板ホルダ240から離れて対向する基板230に自律的に接合しようとする。よって、基板210の下面には、境界Kを含む領域において倍率が拡大される変形を生じる力Pが基板210に作用する。
一方、基板210の基板230に対する接近は、当初は離れていた基板210、230の間に存在する大気の粘性により妨げられ、当該区間において基板210、230が接合するまでに時間を要する。このため、基板210、230相互の間に作用する分子間力により、基板230に対して、吸着している基板ホルダ240から引き剥がし、且つ、境界Kを含む領域において倍率が拡大する基板210と共に倍率が拡大する力Qが作用する。
更に、境界Kにおいて基板ホルダ240から引き剥がされた基板230は、境界Kから離れた領域では依然として基板ホルダ240に吸着されている。このため、境界Kにおいて、基板230の未だ接合されていない領域を引き寄せる力Rが作用して、基板230に皺状の屈曲をなす褶曲部239が生じる。
基板230に褶曲部239が生じた場合、基板230の上面では倍率が大きくなる変形が生じる。ここで、図21に示すように、基板ホルダ240が基板230を保持する保持力が大きければ、基板230に生じる皺状の変形である褶曲部239の曲率が小さいので、基板230における倍率の増加は少ない。一方、図22に示すように、基板ホルダ240が基板230を保持する保持力が小さければ、基板230に生じる褶曲部239の曲率が大きくなるので、基板230における倍率の増加も大きくなる。
上記のような現象に鑑みて、基板210、230に生じる倍率を含む変形量の変化には、基板210、230の剛性、大気の粘性、基板230と基板ホルダ240との摩擦、基板230および基板ホルダ240の吸着面241に対する付着物の多寡、基板230、240の活性化度合、および、基板230、240間の分子間力の大きさ等の物理特性が影響する。また、ここでいう物理特性には、基板210、230の厚さ、初期倍率等の他、反り等の変形状態、付着物多寡等のいわば使用状態も含む。
また,これらの物理特性による基板210、230への作用は、大気の温度、気圧、湿度、気体の種類等の環境条件により変化する。よって、これらの物理特性および環境条件と積層条件との関係を予め記憶しておき、測定した物理特性または環境条件に基づいて、位置ずれが所定の値以下となるように補正量を設定し、接合する基板230を補正すれば、物理特性および環境条件の変化に起因する倍率のばらつきを抑制できる。
更に、基板230の倍率は、基板230に作用する保持力に応じて変化する。ここで、基板230に作用する保持力は、基板230に作用させる吸引力を発生する負圧の大きさと、基板230および基板ホルダ240の摩擦力の大きさと関連性を有する。よって、基板230を保持する場合の吸引力と、基板230および基板ホルダの間の摩擦力との少なくとも一方を変化させることにより、基板230に対する保持力を変化させることができる。
なお、基板210、230の接合時に生じる変形量に影響する物理特性および接合時の環境条件は、実験、解析等により予め把握できる。また、基板210、230に対する付着物の量は計測し難いので、例えば、基板ホルダ220、240の使用回数に基づいて推定した基板ホルダ220、240に対する付着物の量から推測してもよい。
なお、上記の例では、基板230に対する吸引力を生じさせる負圧を変化させて、基板230に作用する保持力を調節した。しかしながら、図8に示したグラフからも判るように、基板230と基板ホルダ240との間の摩擦を変化させても、基板230に作用する保持力を調節できる。
よって、例えば、吸着面241の摩擦係数が異なる複数の基板ホルダ240を用意し、目標とする補正量に合わせて使用する基板ホルダ240を交換することにより、基板230の接合時に変形量を調節してもよい。また、基板230において基板ホルダ240に接触する面に、摩擦係数を変化させるものを塗布あるいは付着させてもよい。更に、吸引力の変更による吸着力の調節と、摩擦力の調節とを併用してもよい。
また、上記の例では、基板ホルダ220が突起部251を有し、突起部251により形成された隆起部215の位置に生じた接合起点209から接合を開始した。しかしながら、接合起点209の形成方法は、基板ホルダ220に固定された突起部251には限られない。例えば、基板ホルダ220の吸着面221に対して進退するプッシュピンを設けて基板210の一部を押すことにより接合起点209を形成してもよい。また、更に、基板ホルダ240は、吸着面241にピンを有するピンチャックを形成していてもよい。更に、基板ホルダ220の吸着面221が全体に凸状の曲面をなし、その頂点において接合起点209を形成してもよい。
また、上記の例では、基板210が基板ホルダ220に保持された時点で基板210に隆起部215が形成された。しかしながら、隆起部215を形成するタイミングは、接合起点209を形成する前であれば、他のタイミング、例えば、ステップS104(図5)にアライメントマーク213の位置を検出した後であってもよい。
更に、上記の例では、基板ホルダ220、240に保持した状態で基板210、230を接合部300に搬入して接合した。しかしながら、基板ホルダ220、240を使用せずに、固定ステージ321および移動ステージ341の少なくとも一方に対して直接に保持させた基板210、230を接合する場合にも、上記の方法で倍率を補正できる。
図23は、図17、18、19に示した、接合の過程で生じる倍率の変化に起因する位置ずれに対する対策として用意された基板ホルダ260の模式的断面図である。基板ホルダ260は、吸着面261と通気路262とを含む本体部269を有する。
基板ホルダ260の吸着面261は、周縁部から中央部に向けて高さが徐々に増加する断面形状を有し、図示の例では、周縁部から中央部に向けて厚さが徐々に増加する断面形状を有する。これにより、吸着面261は、例えば球面をなし、基板ホルダ260が水平に置かれた状態で、吸着面261の縁部に対して、吸着面261の中央部は、高さDの高低差を有する。使用する基板ホルダ260における高さDは、基板ホルダ260が補正可能な補正量に対応し、基板230について予測した位置ずれ量、または、基板230について目標とする補正量に基づいて決定される。
また、吸着面261には、通気路262に連通する複数の開口が配される。通気路262の一端は、制御バルブ144を介して、基板ホルダ260の外部に設けられた開放端145、負圧源146、147、148のいずれかに結合される。なお、吸着面261の形状が球面に限られないことはもちろんであり、例えば、対称軸を中心に放物線を回転させた場合に形成される放物面、円筒を中心軸に沿って切ったときの外周面である円筒面等のように、非回転体形状であってもよい。
制御部150の制御により制御バルブ144が通気路262を負圧源146、147、148のいずれかに連通させることによって、基板230は基板ホルダ260に吸着される。基板ホルダ260の吸着面261は曲面なので、基板ホルダ260に吸着した基板230は、吸着面261の形状に倣って湾曲する。
基板ホルダ260の吸着面261に基板230が吸着された場合、図中に一点鎖線で示す基板210の厚さ方向の中心部Eに比較して、基板230の図中上面である表面は、中心から周縁部に向けて面方向に拡大変形される。また、基板230の図中下面である裏面においては、基板230の中心から周縁部に向けて面方向に縮小変形される。
図24は、接合部300において、移動ステージ341側の基板230の保持に基板ホルダ260を用いた場合を示す模式的断面図である。図示の状態は、図5に示したステップS108で基板210、230を一部だけ接合させて接合起点209を形成した段階に相当する。
図中上側の基板ホルダ220に保持された基板210は、突起部材250の突起部251により形成された局部的な隆起部215を有する。よって、基板210、230を接触させたとき、基板ホルダ260の吸着面261が平坦である場合に比べて、より確実に隆起部215の略中央の一点に接合起点209が形成される。
次に、基板ホルダ220による基板210の保持を解除して、基板210、230の間で接合波を進行させて接合した領域を拡大させる。
図25に示すように、隆起した吸着面261を有する基板ホルダ260に保持された基板230の上側表面は、吸着面261の湾曲した形状に倣うことにより、倍率が拡大している。このため、基板ホルダ240による基板210の保持が解除され、基板210が変形しながら基板230に接合したとき、基板210の変形の少なくとも一部が基板230の湾曲変形により相殺され、基板210、230を接合して形成される積層基板201における位置ずれは、予め定めた閾値以下となる。
なお、予め定めた閾値は、例えば、基板210、230により形成された積層基板201において、一方の基板210の回路と、他方の基板230の回路との間の電気的な接続が維持できる範囲の位置ずれ量の最大値であってもよい。このような位置ずれ量は、例えば、基板210、230に形成された接続端子の大きさに依存して決定される。
また、上記の例では、吸着面261の中央が隆起した基板ホルダ260を用いたが、吸着面261の中央が陥没した基板ホルダ260を用いることにより、保持した基板230の表面を収縮させて、倍率を縮小することもできる。これにより、基板210の回路領域214が設計仕様に対して小さい場合に、基板230をそれに合わせて位置ずれを抑制することもできる。
また、接合の過程で生じる倍率の変化量は、基板210に形成される隆起部215の高さにも影響を受ける。よって、基板ホルダ220における突起部材250が吸着面221から突出する突出量の多寡に応じて、対向する基板230を保持する基板ホルダ240の曲率を調整してもよい。より具体的には、例えば、高さがより大きい突起部材250を有する基板ホルダ240を使用する場合に、より大きな曲率で中央側が隆起する基板ホルダ240を選択して使用してもよい。
ただし、上記のように、基板ホルダ260の吸着面261の形状を利用した倍率の補正は、吸着面261の曲率が異なる複数の基板ホルダ260を用意したとしても、補正量を離散的な値で変化させることになる。よって、曲率が異なる基板ホルダ260を選択することにより積層基板の位置ずれを補正した上で、更に、基板ホルダ260の形状では補正し切れなかった微小な位置ずれを、先に説明した保持力の調節により補正して、積層基板201における位置ずれを、広範囲且つ高精度に補正できる。
図26は、基板210、230を接合する他の手順を示す流れ図である。図26において、図5と同じ内容のステップには、同じ参照番号を付している。ただし、図26に示した手順では、保持力の決定(ステップS104)が最初に実行され、接合部300に搬入された基板230に対して(ステップS102)、保持力の調節(ステップS107)が最初に実行される。以下、これらのステップを除く他のステップが順次実行される。
ここで、図26に示す手順のステップS104においては、気温、気圧、湿度等の環境条件、および、基板210、230の剛性、摩擦係数、変形状態等の物理特性に基づいて保持力が決定される。なお、ここでいう変形状態は、基板210、230の少なくとも一方の立体歪みの種類と程度を意味する。
上記のような手順により、例えば、製造条件が一定である同じロットの基板210、230を複数接合する場合は、積層基板201を製造するたびに保持力を調節しなくても、連続して接合を実行でき、量産段階のスループットを向上できる。更に、図5に示した手順と図26に示した手順とを併用してもよい。これにより、環境条件および物理特性による倍率の変化が、図26に示した手順により予め補正されているので、積層基板201毎の個別の調整の負担を軽減できる。
尚、図5に示した手順と図26に示した手順とは、吸着力の決定(ステップS104)が、基板210、230の位置合わせ(ステップS106)よりも前か後かである点において相違する。このような相違は、吸着力を決定する段階で、位置合わせのための情報を制御部150が把握しているか否かが異なる。
このため、図5に示した手順は、搬入された基板210、230毎に初期倍率差を補正することになるので、基板210,230の初期倍率の相違が接合精度に影響するほど大きい場合に好ましく適用できる。また、初期倍率の相違が接合精度に影響しない程度の基板210、230を接合する場合は、図26に示した手順を好ましく適用できる。ただし、図26に示した手順であっても、基板210、230毎に初期倍率を補正することはできる。
また、上記の例では、基板210、230の一部が接触して接合の起点が形成される前に基板210、230に対する保持力を調節した。しかしながら、接合の起点が形成された後であっても、接合領域の拡大が始まる前の段階であれば、基板210、230に対する保持力を調節してもよい。更に、接合の起点が形成されて、接合領域の拡大が始まった後であっても、基板ホルダに保持された基板210、230の領域のうち保持力を調整すべき領域が互いに接合する前であれば、基板210、230に対する保持力を部分的に調節してもよい。
図27は、他の基板ホルダ280の構造を示す模式的平面図である。図示の基板ホルダ280は、吸着面281が基板ホルダ280の周方向および径方向に複数の領域282に分割されており、領域282毎に吸引力を変化させて保持力を調節できる。よって、領域282毎に位置ずれを求めて補正量を決め、その補正量に基づいて保持力を調節することにより、例えば、基板230の結晶異方性等に起因する非線形歪みも補正できる。
尚、非線形歪みは、基板210、230に生じる歪みのうち、基板210,230の径方向、あるいは、他の任意の一定の方向に沿って定性的あるいは定量的に生じる歪み成分以外の歪み成分を指す。換言すれば、非線形歪みは、基板210、230の面方向について変位の増加率が変化する歪みであり、例えば、基板の中心を通る線分で分けた二つの領域で線分に沿って互いに反対方向に生じた直交歪みが含まれる。
また、全体的な傾向として、基板230に対する保持力が低い方が、吸引力の変化に対する倍率変化の範囲が大きくなる。しかしながら、保持力を低くすると、上記のような結晶異方性等の倍率の非線形歪みを補正できなくなるので、接合する基板210、230の特性に合わせて、保持力の調節範囲を制限してもよい。
上記の各実施形態では、基板210、230を、負圧により生じた吸引力で保持すると共に、負圧の大きさを変更することにより倍率を補正した。しかしながら、基板210、230を保持する目的で作用させる吸引力は負圧に限られず、例えば、静電吸着により基板210、230を保持する場合に、印加電圧の変更等により吸引力を変化させてもよい。また、負圧による吸着と静電力による吸着とを併用してもよい。更に、複数の吸着方法を併用した場合に、一方の吸引力を固定して、他方の吸引力を変化させることにより全体としての保持力を調節してもよい。
また、各実施形態では、基板210、230に関する情報のうち、物理特性に基づいて保持力を制御した例を示したが、上記した製造条件に関する情報に基づいて保持力を制御してもよい。この場合、露光装置、研磨装置、エッチング装置、洗浄装置等から製造条件を取得してもよい。また、製造条件から二つの基板210、230間に生じる位置ずれ量を推測し、推測した位置ずれ量に基づいて補正量を算出し、この補正量に基づいて保持力を設定してもよい。この場合は、製造条件、位置ずれ量または補正量と保持力との関係を予め記憶しておく。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加え得ることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。