JP4317762B2 - 安定化された次亜塩素酸塩および臭化物イオン源を含む殺生物剤の調製方法、ならびにそれを使用した微生物による汚れを制御する方法 - Google Patents

安定化された次亜塩素酸塩および臭化物イオン源を含む殺生物剤の調製方法、ならびにそれを使用した微生物による汚れを制御する方法 Download PDF

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Description

本発明は、概して、水系中の微生物による汚染の制御に関し、特に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属次亜塩素酸塩を含む塩素系酸化剤を安定剤と反応させることによって得られる安定化された次亜塩素酸塩、および臭化物イオン源を含む殺生物剤の調製方法、ならびに微生物の成長を制御する方法に関する。
冷却水塔、工業用水供給システム、または製紙プロセスなどの水系中に頻繁に発生するスライムの形成は、細菌類、真菌類、藻類などの成長および増殖が原因である。このような微生物の増殖およびスライムの形成によって深刻な問題が発生している。製紙工場においては作業速度の低下、および製造された紙の変色などの製品の劣化が起こり、冷却システムでは冷却能力に重要な熱変換効率の低下が起こり、装飾用噴水の外観が損なわれ、建物の冷却塔においては特にレジオネラ属菌が急速に蔓延して不衛生な環境が形成されうる。
微生物による水系の汚染を防止するために、典型的には酸化性殺生物剤および非酸化性殺生物剤が使用されている。酸化能力を有する酸化性殺生物剤は、微生物のタンパク質を酸化することによって微生物に対する殺生物剤として作用し、一方、非酸化性殺生物剤は、微生物の代謝を阻害することによって機能する。
非酸化性殺生物剤の例としては、イソチアゾロン、メチレンビスイソシアネート、グルタルアルデヒド、および第4級アンモニウムが挙げられる。このような非酸化性殺生物剤は、酸化性殺生物剤よりも長期間その殺生物活性を維持するが、これらを連続的に供給すると、これに対する耐性が微生物に生じ、そのために有効性が低下する。
一方、典型的には酸化性殺生物剤は、以下の式で表されるように塩素化および臭素化によって調製される。
塩素化
Figure 0004317762
臭素化
Figure 0004317762
これら2種類の方法の中では、低コストであるという理由で、酸化性殺生物剤の調製には塩素化方法が一般的に使用される。この方法では、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩が、HOClまたはOClの供給源として使用され、それによって、建物または石油プラントの冷却水塔、製紙工場の漂白プロセス、およびスイミングプールなどの種々の水系における微生物の成長が防止される。しかし、酸化性殺生物剤は、揮発性が高いために不安定であるという欠点を有する。これらの問題を解決するための努力が行われてきた。米国特許第3,328,294号明細書(以下、’294号特許と記載する)に開示されるように、不安定な次亜塩素酸塩と等モル比のスルファミン酸とを反応させることによって、低揮発性で安定化させたN−クロロスルファメートを調製することができ、米国特許第3,767,586号明細書(以下、’586号特許と記載する)に開示されるように4.5〜8.5の間のpHに維持することができる緩衝剤と併存させることによってさらに安定化させることができる。
このような塩素系殺生物剤は安価であり、簡単なプロセスで調製可能であるが、高pHまたはアミンによって殺菌効率が低下することがあり、大量に使用される場合には、金属、水系のコンポーネントの腐食を促進することがあり、また大量の塩素を大気中に放出することがある。
臭素化方法によって調製された酸化性殺生物剤は、高pH条件下またはアミンの存在下であっても、塩素化によって調製された殺生物剤よりも微生物の成長の制御には効果的である。しかし、次亜塩素酸塩と同様に、臭素化生成物としての次亜臭素酸塩も、従来の保管条件下では安定ではない。このため、保管中の次亜臭素酸塩の安定性を確率するために、プロクター・アンド・ギャンブル・カンパニー(Procter & Gamble Company)に権利が譲渡された米国特許第6,037,318号明細書(以下、’318号特許と記載する)、ならびに米国特許第5,683,654号明細書、第5,795,487号明細書、第5,942,126号明細書、および第6,136,205号明細書などに安定化された次亜臭素酸塩の調製方法が提案されている。
特に米国特許第5,795,487号明細書(以下、’487号特許と記載する)に記載されているように、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩と水溶性臭化物イオン源とを混合することによって調製される不安定状態にあるアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜臭素酸塩は、アルカリ金属スルファミン酸塩を安定化剤として使用することによって安定化させることができる。
’487号特許のプロセスによって調製された安定化されたアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜臭素酸塩は優れた殺生物効率を示すが、有効成分の尺度である全ハロゲン残留物量は、次亜塩素酸塩が臭化物イオン源と反応するために、典型的には反応の初期段階で急激に減少する。したがって、時間が経過すると、次亜臭素酸塩の殺生物効率は急速に低下し、そのため水系中の殺生物効率を維持するために大量の高価な次亜臭素酸塩を連続して供給する必要がある。
’318号特許には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属次亜塩素酸塩の水溶液をpH11未満において安定化剤としてのスルファミン酸と反応させ、この溶液に水溶性臭化物イオン源を加え、pHを少なくとも約13に調整することによって調製される安定化された次亜臭素酸塩溶液が開示されている。
しかし、’318号特許に提示されるプロセスは欠点を有する。安定剤として使用されるスルファミン酸は水に溶解すると強酸となるので、次亜塩素酸塩をスルファミン酸溶液に加えると、気体状塩素が発生し、これは有効成分であるので殺菌効率が大きく低下し、また殺生物剤調製の作業環境が悪化する。さらに、調製中に発生する熱による温度上昇と、気体の発生とが原因となって、圧力が増加する。したがって、’318号特許に記載されているプロセスを工業的に適用することは困難である。さらに、安定化剤の水溶液に加えられる次亜塩素酸塩はpHが約11以下であり、加えられた臭化物イオン源は直ちに次亜塩素酸塩と反応して次亜臭素酸塩を生成し、殺生物活性が長期間維持されないという問題が生じる。
米国特許第6,270,722号明細書(以下、’722号特許と記載する)に開示されるように、安定化された次亜臭素酸塩は、安定化剤と臭化物イオン源とを混合し、その混合物に次亜塩素酸塩を加えることによって調製することもできる。この特許では、安定化された次亜臭素酸塩を生成するために、最初に安定剤を臭化物イオン源と混合した後に、pHが約7未満で80°F未満で次亜塩素酸ナトリウム溶液を加え、水酸化ナトリウムなどのアルカリ源を使用して混合物のpHを少なくとも13に調整する。この結果得られる生成物は、琥珀色を特徴とし、約90%の酸化性臭素化合物を含み、’487号特許に従って調製される殺生物剤(STABREX(商標)、ナルコ・ケミカル・カンパニー(Nalco Chemical Company))と同等の殺生物効果を有することから、得られる生成物は、市販の殺生成物と同等である、安定化された次亜臭素酸塩であることが分かり、そしてpHが7未満の臭化物イオンと安定剤との混合物に次亜塩素酸ナトリウムが加えられた場合に、臭化物イオンは直ちに次亜塩素酸ナトリウムと反応する。’722号特許に従って調製された殺生物剤は、’487号特許に従って製造されたものと同様に微生物に対して有効であるが、有効成分の尺度である全ハロゲン残留物量は急速に消費され、時間が経過すると殺生物剤の抗菌活性が急速に低下する。したがって、殺菌活性を長期間維持するためには大量の殺生物剤を供給する必要がある。
また、米国特許第6,110,387号明細書(以下、’387号特許と記載する)に開示されるように、次亜塩素酸ナトリウムをスイミングプールに定期的に加える前に臭化物イオンおよび安定剤を加えることによって安定化された次亜臭素酸塩を生成することができる。
’387号特許は、最初に臭化物イオンおよび安定剤を加え、続いて好適な塩素系殺生物剤を定期的に加えることによって、スイミングプール中の微生物の成長を制御することができると教示している。一般に、スイミングプールの水は7〜8の範囲の中性のpHであるので、スイミングプール中にあらかじめ存在する臭化物イオンが、後に加えられる塩素系酸化剤から生成する次亜塩素酸塩と反応して、不安定な次亜臭素酸塩を生成し、この不安定な次亜臭素酸塩は、あらかじめ存在するスルファミン酸と反応して、安定化された次亜臭素酸塩が得られる。この方法はスイミングプールなどの水の循環がない水系に非常に有用であり、’487号特許に記載される殺生物剤と同等の殺生物活性を特徴とするが、プラントの冷却水塔などの連続的に空気と接触する循環水系では、揮発性の塩素系殺生物剤が大量に失われるためあまり有用とはならない。
一方、保管中の次亜臭素酸塩を安定化させ、その使用に便利となるようにするため、錠剤形態で調製するいくつかの方法が米国特許第4,557,756号明細書、第4,557,926号明細書、および第5,688,515号明細書(以下、’515号特許と記載する)に記載されており、これは現在Towerbrom(商標)として市販されている。特に、’515号特許には、塩素化イソシアヌレート類、臭化ナトリウム、および安定剤とを含む再循環水系を殺菌するための水安定性の錠剤が記載されており、この安定剤は適合性であり、すなわち、塩素化イソシアヌレート類に対しては非反応性であって、水に曝露しても錠剤の構造的保全性が維持され、比較的一定の商業的に許容される速度で錠剤を水に溶解させることができ、塩素化イソシアヌレート類によって生成した活性塩素と結合することができ、活性塩素を保存できる塩素化安定剤を生成することができる。錠剤を水に浸漬すると、塩素化安定剤は、塩素化イソシアヌレート類よりも水に対する溶解性が低いために、活性塩素をゆっくりと放出することができ、活性塩素は臭化ナトリウムと反応して次亜臭素酸塩を生成する。
’515号特許に記載の方法は、効率の優れた殺生物剤を提供する。しかし、一定の活性塩素濃度を維持するために特殊な供給装置が必要であり、活性塩素源として高価な塩素系酸化剤を使用する点から、利便性が悪く経済的でない。
米国特許第3,328,294号明細書 米国特許第3,767,586号明細書 米国特許第6,037,318号明細書 米国特許第5,683,654号明細書 米国特許第5,795,487号明細書 米国特許第5,942,126号明細書 米国特許第6,136,205号明細書 米国特許第6,270,722号明細書 米国特許第6,110,387号明細書 米国特許第4,557,756号明細書 米国特許第4,557,926号明細書 米国特許第5,688,515号明細書
安定化させた次亜塩素酸塩および臭化物イオン源を使用した水系中の微生物の成長の制御についての徹底的な十分な調査を、本発明者らが従来技術が遭遇する問題を解決することを目的として行った結果、ならびに、韓国特許第0339129号明細書、米国特許第6,478,972号明細書に開示されるように、最初に安定剤を次亜塩素酸塩水溶液に加えて安定化された次亜塩素酸塩の生成を促進し、続いて臭化物イオンを加えることによって、初期段階で遊離ハロゲン残留物が低レベルであるにもかかわらず、時間が経過するにつれて段階的に増加し、そのため殺菌効率の長期の維持が可能となるという認識から、初期の殺生物活性と、長期間にわたる殺生物活性の維持、すなわち持続性との両方が、反応系のpHを適切に制御して遊離ハロゲン残留物の放出速度を適切に調節することによって、実現可能であるという知見に至った。
したがって、本発明の目的は、低揮発性であるため水系で安定であり、優れた殺生物活性を有し、長期間殺生物活性を維持することが可能な、安定化されたアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩と、水溶性臭化物イオン源とを含む殺生物剤の調製方法を提供することである。
本発明の別の目的は、上記方法によって調製された殺生物剤を使用して微生物の成長を制御する方法を提供することである。
本発明の一態様によると、(a)アルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩を含む塩素系酸化剤を、炭酸、カルボン酸、アミノ酸、および硫酸の酸アミド誘導体からなる群より選択される安定剤とアルカリ溶液中で混合することによって、pHが少なくとも11である安定化されたアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩を調製するステップ;(b)臭化物イオン源を調製するステップ;および(c)ステップ(b)で調製した前記臭化物イオン源を、ステップ(a)で調製した前記安定化されたアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩に加えるステップとを含む、殺生物剤の調製方法が提供される。
本発明の別の態様によると、(a)アルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩を含む塩素系酸化剤を、炭酸、カルボン酸、アミノ酸、および硫酸の酸アミド誘導体からなる群より選択される安定剤とアルカリ溶液中で混合することによって、pHが少なくとも11である安定化されたアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩を調製するステップ;(b)臭化物イオン源を調製するステップ;および(c)ステップ(a)で調製した前記安定化されたアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩と、ステップ(b)で調製した前記臭化物イオン源とを、逐次的または同時に、微生物の生息場所に投入して、全ハロゲン残留物量を0.1〜10ppmまで増加させるステップとを含む、微生物の成長の制御方法が提供される。
本発明は、少なくとも11のpHに殺生物剤を維持しながら、安定剤および臭化物イオン源を使用してアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩を安定化させることに基づく殺生物剤の調製方法に関する。以下の理由で、殺生物剤を少なくとも11のpHで維持することが重要となる。有機スルファミン酸などの安定剤が、次亜塩素酸ナトリウムまたは次亜塩素酸カリウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩の溶液に加えられると、次亜塩素酸の生成によって、溶解したスルファミン酸とアルカリ溶液の中和から引き起こされる、温度上昇およびpHの大きな低下が起こる場合がある。この結果、pHの低下によって反応の平衡状態がくずれ、塩素を含む気体を発生させる方向に反応が進行して、利用可能な塩素の量が減少する。
したがって、本発明によると、安定化されたアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩の水溶液は、pHが少なくとも11であるアルカリ溶液に最初に安定剤を溶解し、続いてアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩を含む塩素系酸化剤をその溶液に加えることによって調製され、それによって、反応混合物中の全塩素残留レベルの減少が防止され、塩素残留物がその理論的最大値に近づくように維持される。したがって、次亜塩素酸ナトリウムの溶液を投入する前に使用された安定剤により、アルカリ溶液(たとえば、水酸化ナトリウム溶液)の中和反応によって温度が上昇するにもかかわらず、不安定な次亜塩素酸塩が存在しないので、利用可能な塩素の損失を最小限にして、塩素などの気体を発生させないことができ、水系に適用する前の安定化された次亜塩素酸塩と臭化物イオン源との反応を防止して、そのためそれらを未反応の混合状態に維持することができ、さらに殺生物剤製造プロセスを単純化することができる。
本発明によると、(a)アルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩を含む塩素系酸化剤を、炭酸、カルボン酸、アミノ酸、および硫酸の酸アミド誘導体からなる群より選択される安定剤とアルカリ溶液中で混合することによって、pHが少なくとも11である安定化されたアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩を調製するステップ;(b)臭化物イオン源を調製するステップ;および(c)ステップ(b)で調製した前記臭化物イオン源を、ステップ(a)で調製した前記安定化されたアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩に加えるステップとを含む、殺生物剤の調製方法が提供される。
本発明においては、独立して調製された臭化物イオン源が、少なくとも11のpHに維持されている安定化されたアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩の水溶液に加えられ、それによって各成分が未反応状態に維持されるので、結果として得られる殺生物剤組成物は、初期に低殺生物活性状態で存在し、耐久性の向上した状態で存在することを特徴とする。
殺生物剤組成物が8〜9の範囲のpHを有する水系に供給される場合、安定化されたアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩と臭化物イオン源とが反応して、強い殺生物活性を有する次亜臭素酸塩を生成する。
安定化された次亜塩素酸塩は活性塩素の貯蔵源として機能するので、殺菌の必要な水系に供給するに際して、この臭化物イオンとのその反応速度は、pH、温度、滞留時間、および水系中のその濃度によってさまざまに制御することができる。
したがって、本発明においては、従来の方法のように次亜塩素酸塩と臭化物イオン源とを1:1のモル比で反応させる必要はない。それどころか、本発明において安定化された次亜塩素酸塩では、水系の汚染の程度に従って、臭化物イオン源の添加量を柔軟に変更することができる。したがって、高価な臭化物イオン源の消費量を大きく低減し、長期間の殺生物活性を維持することができ、水系中の微生物の成長を経済的かつ効率的に制御することができる。
本発明によると、気体塩素の発生、利用可能な全塩素残留物含有量の減少、および次亜臭素酸塩の生成を防止するために、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩は、安定剤を使用して、少なくとも11、最も好ましくは、少なくとも13のpHの条件下で安定化させるべきである。
このようなpH値の維持は、アルカリ溶液中で行われる安定化反応によって実施することができる。特に、あらゆる任意のアルカリ溶液、最も好ましくは、水酸化ナトリウム溶液を使用して、pH値を少なくとも11に維持することができる。
さらに、本発明の殺生物剤の調製方法は、(d)ステップ(c)で調製した混合物のpHを5、最も好ましくは8まで下げるステップ;および(e)アルカリ溶液を加えることによって少なくとも11、最も好ましくは少なくとも13までpHを上昇させるステップの2つのステップをさらに含むことができる。
前述したように、本発明により調製した殺生物剤の初期殺生物活性は、安定化されたアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩の溶液を臭化物イオン源と混合することによってステップ(c)で調製される混合物のpHをpH5、最も好ましくはpH8まで下げ、あるpH範囲でのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩と臭化物イオン源との反応によって殺生物活性を有する次亜臭素酸塩を生成させることによって向上させることができ、気体塩素は発生しない。
上述のように混合物のpHを下げると、典型的に、混合物溶液は、臭化物イオンが臭素に変化して淡黄色に変化し、続いて、保管中の安定性を得るためと、淡黄色を維持するためにアルカリ溶液を加えることによって混合物のpHを少なくとも11、最も好ましくは少なくとも13まで上昇させるべきである。この方法で調製された殺生物剤は、改善された初期殺生物活性を有し、ならびに調製方法が単純化され、および従来の殺生物剤よりも長期間の殺生物活性を維持することができる。酸(たとえば塩酸)を加えることによってpHが5未満まで下げられると、スルファミン酸を次亜塩素酸ナトリウム溶液に加えることで実施される従来方法と全く同様に、塩素を含む気体が発生する。本発明の方法は、調整されるpH値に依存して、初期殺生物活性と殺生物活性の持続性との間のバランスを制御できるだけでなく、気体を発生させることがない。すなわち、pHを5に調整するステップを実施しないで、混合物のpHが少なくとも11に連続的に維持されると、すぐれた持続性および低い初期殺生物活性を有する殺生物剤が得られる。対照的に、気体塩素が発生しない範囲までpHが下げられると、得られる殺生物剤の初期殺生物活性を改善することができ、一方持続性は低下するが、従来の殺生物剤よりも長く持続する。
前述したように、本発明の方法は、2種類の成分を混合するにもかかわらず、安定化された次亜塩素酸塩を臭化物イオンとともに未反応状態で維持し、すなわち次亜臭素酸塩が生成しない状態で実施される。
従来の方法は、高い初期殺生物活性のみを有し、殺生物活性の持続性を考慮しない酸化性殺生物剤が提供されるが、これは次亜塩素酸塩を臭化物イオンと最初に反応させて殺生物活性を有する次亜臭素酸塩を生成し、続いて、安定剤の存在下で次亜臭素酸塩を安定化させることを通じて、あらかじめ次亜臭素酸塩を生成することにより提供される。しかし、本発明では、安定剤を使用して最初に次亜塩素酸塩を安定化させ、続いて臭化物イオンを加えることによって、向上した持続性および向上した初期段階の殺菌効率が得られる。
すなわち、pHが11未満の条件下で安定化された次亜塩素酸塩は水溶性臭化物イオンと反応して安定化された次亜臭素酸塩を生成するが、一方pHが11を超えると反応は最大限に抑制される。低いpHを有する水系に供給するにあたって、安定化された次亜塩素酸塩は塩素の貯蔵源として機能し、利用可能な塩素を放出して、臭化物イオンと反応し、これにより、反応速度はpHや温度などの水系の環境に依存する。本発明によると、(a)、(b)、および(c)のステップを含む方法によって、従来方法よりも比較的低い初期殺生物活性を有するが、殺生物活性を長期間維持することができる殺生物剤を得ることができる。さらに、ステップ(a)〜(c)の後でステップ(d)および(e)がさらに実施されると、得られる殺生物剤は、酸性溶液を使用してpHを下げる簡単なステップを加えることによって、従来方法で調製される殺生物剤よりも殺菌性がより持続することに加えて、従来方法で調製される殺生物剤と同程度の初期殺生物活性を得ることができる。さらに、初期段階の殺生物活性と持続性とは、酸性溶液を使用してpHが下げられる程度に依存して変動する。
本発明に有用なアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩は、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸リチウム、次亜塩素酸マグネシウム、次亜塩素酸カルシウム、塩素化剤、たとえば、トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、またはジクロロヒダントイン、およびそれらの混合物からなる群より選択することができ、最も好ましくは、次亜塩素酸ナトリウムまたは次亜塩素酸カルシウムである。
本発明に有用な臭化物イオン源の例としては、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、臭化塩素、および臭素が挙げられ、最も好ましくは臭化ナトリウムが挙げられる。
安定剤は、炭酸、カルボン酸、アミノ酸、硫酸、またはリン酸の酸アミド誘導体からなる群より選択することができ、酸アミド誘導体の例としては、尿素、チオ尿素、クレアチニン、モノまたはジ−エタノールアミン、有機スルホンアミド、ビウレット、スルファミン酸、有機スルファメート、メラミンなどが挙げられる。経済性および有効性の点から、安定剤としてはスルファミン酸が最も好ましい。
本発明によると、安定化された次亜塩素酸塩水溶液は、1:9〜9:1、最も好ましくは、1:1のモル比で塩素系酸化剤を安定剤と反応させることによって調製される。安定化された次亜塩素酸塩水溶液には臭化物イオン源が、1:10〜50:1、より好ましくは1:1〜20:1のモル比で加えられる。ここで、各成分の含有率は汚染の程度に依存する。
本発明の方法により調製された殺生物剤は、全ハロゲン残留物が好ましくは0.1〜10ppmのレベル、より好ましくは0.2〜5ppmのレベルで水系に加えられる。
さらに、本発明の方法により調製された殺生物剤は、腐食またはスケール防止剤をさらに含むことができる。
腐食防止剤の例としては、アノード腐食防止剤、たとえば、クロメート、窒化物、オルトホスフェート、シリケート、またはモリブデート、および銅腐食防止剤、たとえばメルカプトベンゾチアゾール、ベンゾチアゾール、またはトリルトリアゾールを挙げることができる。スケール防止剤としては有機ホスフェートおよびアクリルポリマーが有用である。有機ホスフェートの例としては、トリエタノールアミンホスフェート(TEAP)、アミノトリメチレンホスホン酸(AMP)、1−ヒドロキシエチリデン−1、1−ジホスホン酸(HEDP)、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(PBTC)などが挙げられる。アクリルポリマーの例としては、アクリルホモポリマー類、アクリルコポリマー類、およびアクリルトリポリマー類を挙げることができる。
本発明の方法により調製された殺生物剤は、水系中の微生物の成長を防止するために使用することができ、水系としては、スイミングプール、温泉、池、ウォータースライド、および工業用水系、例えば建物またはプラントの冷却塔、製紙プロセス、排水再循環システム、ガススクラバーシステム、フレッシュウォーターシステム、または空気清浄システムなどが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、また本発明の方法およびそれによって調製された殺生物剤は、任意の種類の水系に適用することができる。
全般的に本発明を説明してきたが、ある具体的な実施例を参照しながらさらなる理解を得ることができ、これらの実施例は本明細書において説明の目的のみで提供されており、他に明記しない限りは限定を意図したものではない。
対照試料として使用するため、’487号特許に開示される方法にしたがって安定化された次亜臭素酸塩を調製した。これはナルコ・ケミカル・カンパニー製造のSTABREX(商標)としても市販されている。次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)を水で希釈し、得られた希釈溶液をDPD−FAS法によって滴定すると、利用可能な塩素量は15%であることが分かった。42.4gのNaOCl溶液を20.5gの45%NaBr溶液に加えて、安定化されていない次亜臭素酸塩を得た。9.6gのスルファミン酸、14gの水、および13.2gの50%NaOHを混合することによってスルファミン酸塩溶液を調製した。このスルファミン酸塩溶液を撹拌しながら、安定化していない次亜臭素酸塩溶液に加えて、安定化させた次亜臭素酸塩溶液(以下、「殺生物剤A」と記載する)を得た。
また、’318号特許に開示される方法によって別の殺生物剤を調製した。利用可能な塩素レベルが11%である26.5gの次亜塩素酸塩溶液を61gの水に加えた後、続いて4.5gのスルファミン酸を逐次的に加え、完全に溶解させた。この溶液のpHは1未満であることが分かり、反応中には大量の気体が発生した。得られた溶液に1gの臭化ナトリウムを加え、臭化ナトリウムが完全に溶解してから、さらに6.1gの50%水酸化ナトリウム溶液を加えてpHを13.5に調整して、殺生物剤(以下、「殺生物剤B」と記載する)を得た。
本発明の方法を使用し、以下のようにして殺生物剤を調製した。13.2gの50%NaOH溶液を31.5gの水に加えることによってアルカリ溶液を調製した。このアルカリ溶液に9.6gのスルファミン酸を加え、スルファミン酸が完全に溶解してから42.4gのNaOCl溶液を加えて、安定化させた次亜塩素酸塩溶液を生成し、この後3gの45%NaBr水溶液を加えて、殺生物剤(以下、「殺生物剤C」と記載する)を得た。
「殺生物剤D」を調製するために、最初に塩酸を「殺生物剤C」に加えてpHを7.5に調整した。この場合、気体の発生は見られず、色が黄色に変わるのが確認された。この後、水酸化ナトリウム溶液を使用して、黄色を維持しながら、この溶液をpH13.5に調整した。
上記のように調製した殺生物剤では、ハロゲン含有率は互いに理論的に同じであることが好ましいが、従来技術で開示される方法を修正する必要はないと考えた。したがって、本発明の実施形態において対照試料として使用した殺生物剤は、従来技術に記載の方法に従って調製し、その結果「殺生物剤B」は、「殺生物剤A」、「殺生物剤C」、および「殺生物剤D」よりも利用可能になるハロゲンは少なくなった。
微生物に対する殺生物剤の殺生物活性を調べるために、ビーカー試験を実施した。河川水(pH7.8)をビーカーに加え、殺生物剤をその水に加えた。DPD−FAS方法を使用して全ハロゲン残留物含有量を測定することによって、時間経過による殺生物剤残留物のレベルを求めた。32℃で48時間インキュベートした後に、3Mペトリフィルム(好気性計数板)を使用して微生物個体数を調べた。水は30℃に維持し、時間が経過するとともに、水の一部を採取して、全ハロゲン残留物のレベルおよび微生物個体数を調べた。本明細書で使用される場合、用語「全ハロゲン残留物レベル」とは、殺生物剤として機能することができるすべてのハロゲン含有化合物の濃度を意味する。
(比較例1)
ビーカー中の河川水(pH7.8)に「殺生物剤A」を種々の濃度で加え、「殺生物剤A」の抗菌活性を前述のようにして測定した。表1から明らかなように、100ppmを超える量の「殺生物剤A」で水を処理した場合に、微生物個体数は顕著に減少した。
Figure 0004317762
注記:CFU(コロニー形成単位)は、生存している細菌個体数を意味する。
(比較例2)
ビーカー中の河川水(pH7.8)に「殺生物剤B」を種々の濃度で加え、「殺生物剤B」の抗菌活性を前述のようにして測定した。結果を以下の表2に示す。表2に示されるように、150ppmを超える量の「殺生物剤B」で水を処理した場合に、微生物個体数は顕著に減少した。
Figure 0004317762
(実施例1)
ビーカー中の河川水(pH7.8)に「殺生物剤C」を種々の濃度で加え、「殺生物剤C」の抗菌活性を前述のようにして測定した。結果を以下の表3に示す。表3に示されるように、50ppmを超える量の「殺生物剤C」で水を処理した場合に、微生物個体数は顕著に減少し、「殺生物剤C」は強い抗菌活性を有することが示された。
Figure 0004317762
(実施例2)
ビーカー中の河川水(pH7.8)に「殺生物剤D」を種々の濃度で加え、「殺生物剤D」の抗菌活性を前述のようにして測定した。結果を以下の表4に示す。表4に示されるように、50ppmを超える量の「殺生物剤D」で水を処理した場合に、微生物個体数は顕著に減少し、「殺生物剤D」は強い抗菌活性を有することが分かる。
Figure 0004317762
(実施例3)
本発明の方法に従って調製した「殺生物剤C」および「殺生物剤D」の抗菌活性を、「殺生物剤A」および「殺生物剤B」の抗菌活性と比較するために、河川水(pH7.8)を採取した後、河川水が入ったビーカーに種々の濃度で添加して、調製した殺生物剤の抗菌活性を調べ、前述のように全微生物個体数および全ハロゲン残留物レベルを測定した。結果を表5および6に示す。
Figure 0004317762
Figure 0004317762
表5および6から明らかなように、「殺生物剤A」を河川水に加えた場合、全ハロゲン残留物レベルは、時間経過と共に急速に減少し、24時間後には、「殺生物剤A」を濃度250ppmまで加えた場合でも、全ハロゲン残留物レベルは1ppm未満まで減少した。さらに、「殺生物剤A」を添加した直後には、微生物個体数は急速に減少したが、その後、微生物個体数の大きな減少はなかった。「殺生物剤A」を濃度150ppmまで加えると、添加直後でさえも、生存する細菌はほとんど検出されなかった。全体的に、他の酸化性殺生物剤と同様に、「殺生物剤A」は強い初期抗菌活性を有するが、全ハロゲン残留物レベルが急速に減少するため持続性は低い。したがって、「殺生物剤A」は、微生物の汚染がほとんど起こらないビーカーなどの非循環水系では非常に効果的である。しかし、微生物などの汚染源にさらされる循環水系では、殺生物剤を有用レベルに維持するために「殺生物剤A」を大量に加える必要があり、そのため適用された水系のpHが上昇し、腐食が発生し、経済性が低下する。
「殺生物剤B」は、有効成分として機能する次亜塩素酸塩を少量使用して調製され、調製中に気体塩素が発生したので、有効成分は少量となり、150ppm未満の「殺生物剤B」では微生物個体数は大きく減少せず、全ハロゲン残留物含有量も直ちに減少し、河川水に適用される前に大量の安定化した次亜臭素酸塩がすでに生成し、これは「殺生物剤A」を使用して得られる結果と類似している。したがって、微生物に対して有効な殺菌活性を示すためには過剰量の「殺生物剤B」を加えるべきであり、その結果、調製は困難であり、高コストとなる。
「殺生物剤C」を加えると、初期段階では、微生物個体数の大きな減少はなかったが、時間が経過すると顕著な減少が見られた。従来の酸化性殺生物剤の一般的特性と比較すると、「殺生物剤C」によるこのような結果は独特のものである。一般に、酸化性殺生物剤では、初期濃度と殺生物活性との間に比例関係が見られ、水または空気中の不純物にさらされると急速に消費される。しかし、「殺生物剤C」は、安定化された次亜塩素酸塩および水溶性臭化物イオンで構成される酸化性殺生物剤であるが、時間の経過とともに向上した殺生物活性を示すことから、添加後に水中に殺菌活性を有する化合物が連続的に生成されることが分かった。さらにこの結果は、殺生物剤「A」および「B」よりもハロゲン残留物の消費速度が低いことからも示されており、これは、水中で安定化された次亜塩素酸塩が、利用可能な塩素を連続的に放出し、これが臭化物イオンと反応して安定化された次亜臭素酸塩を生成ことに起因する。一方、既に大量の安定化された次亜臭素酸塩を含有する殺生物剤「C」および「D」は高い初期殺菌活性を示すことができるが、その有効成分は急速に消費される。この種の現象は、以下に説明するパイロット冷却水塔試験においても観察され、殺生物剤「A」および「B」は、「殺生物剤C」よりも大きな全ハロゲン残留物の消費を示した。したがって、殺生物活性が連続的に増加し1日後でも殺生物活性が持続することを特徴とする「殺生物剤C」は、初期殺生物活性が低いにもかかわらず、プラントまたは製紙プロセスの冷却塔などの実際的な用途に非常に有効となることができ、殺生物剤の添加量は大きく減少する。
表5から明らかなように、「殺生物剤D」を加えると、初期微生物個体数は、「殺生物剤C」添加後よりも低いレベルであって、「殺生物剤A」添加後よりも高いレベルまで大いに減少された。さらに表6に示されるように、ハロゲン残留物の消費速度は、「殺生物剤C」よりも速く、「殺生物剤A」よりも遅いことが分かり、これより、「殺生物剤A」よりもはるかに持続性が高く、「殺生物剤C」よりもわずかに低いことが分かる。「殺生物剤D」は、塩素を含む気体を発生させずに調製され、有効な初期殺生物活性、すなわち、急速に作用する能力があり、持続性も有することを特徴とする。
殺生物剤「C」および「D」の結果を比較すると、「殺生物剤D」が、酸性溶液を使用して「殺生物剤C」のpHを下げ、続いてアルカリ溶液を使用してpHを13.5まで上昇させることによって調製され、殺生物剤「A」および「B」と同様に水系に適用する前に安定化された次亜臭素酸塩が生成されることを特徴とすることを除けば、これらの調製方法は同じであり、「殺生物剤C」の有効な初期殺生物活性および持続性は、そのpH値を変化させることで制御できることを見いだした。さらに、水系に適用する前に生成される次亜臭素酸塩量は、酸性溶液によって下げられるpH値と、下げられたpHが維持される時間の長さとに依存して変動させることができる。
(実施例4)
次亜塩素酸ナトリウム溶液(I)、スルファミン酸(II)、および臭化物イオン源としての臭化ナトリウム(III)を、別々に水系に加えるか、2成分の混合された形態で水系に加えた。次亜塩素酸ナトリウムをpHが11を超えるアルカリ溶液に溶解し、スルファミン酸をこの溶液に加えて調製した安定化された次亜塩素酸塩溶液(I+II)と、45%臭化ナトリウム溶液とを水系に加えた。スルファミン酸を水に溶解し、45%臭化ナトリウム溶液をその溶液に加えることで調製した混合物(II+III)と、次亜塩素酸塩とを水系に加えた。全ハロゲン残留物レベルおよび微生物個体数を測定し、その結果を表7および8に示している。
Figure 0004317762
注記:I:水系中で維持された水への次亜塩素酸ナトリウムの添加量。
II:水系中で維持された水へのスルファミン酸の添加量。
III:水系中で維持された水への臭化ナトリウムの添加量。
Figure 0004317762
注記:I:水系中で維持された水への次亜塩素酸ナトリウムの添加量。
II:水系中で維持された水へのスルファミン酸の添加量。
III:水系中で維持された水への臭化ナトリウムの添加量。
安定化された次亜塩素酸塩溶液(I+II)および臭化物イオン源を個別に混合せずに加えた場合、「殺生物剤C」(表5および6参照)と同様の結果が得られ、次亜塩素酸ナトリウムをスルファミン酸と反応させて調製されpHが11を超える安定化された次亜塩素酸塩溶液は、臭化物イオンの添加方法とは無関係に水中の臭化物イオンの存在下で殺生物活性を示したことが分かった。すなわち、安定化された次亜塩素酸塩と水溶性臭化物イオン源との混合物は、これらを別々に加えた場合と同様の殺生物活性を水系中で示しうる。この結果は、pHが11を超える環境では、安定化された次亜塩素酸塩は水溶性臭化物イオンと反応しないことを示している。
対照的に、スルファミン酸および臭化物イオン(II+III)の混合物溶液と次亜塩素酸塩溶液とを水系に加えた場合、全ハロゲン残留物含有量は、表7から明らかなように、スルファミン酸で安定化させた次亜塩素酸ナトリウム(I+II)を加えた場合と比較すると、急速に減少した。このような結果は、揮発性である次亜塩素酸塩は安定化する前に一部が部分的に揮発し、臭化物イオンと反応してpHが約8の水系中で次亜臭素酸塩を生成し、その結果、全ハロゲン残留物レベルが大きく減少することに基づいている。臭化物イオンの添加量を増加させても、全ハロゲン残留物レベルも大きく減少することが観察され、これは、前述の方法と同様に、安定化された次亜塩素酸塩よりも揮発性が高い安定化された次亜臭素酸塩の生成が増加するためである。この結果は、「殺生物剤A」の全ハロゲン残留物が「殺生物剤C」の場合よりも速く消費されるという結果と同じであった。
表7から明らかなように、次亜塩素酸塩溶液、スルファミン酸、およびナトリウム臭化物イオンが別々に水系に加えられ、スルファミン酸による次亜塩素酸塩の安定化が行われない場合は、全ハロゲン残留物レベルは、スルファミン酸および臭化物イオン源(I+II)の混合物と次亜塩素酸ナトリウム溶液とを加えた場合と同様であった。
全体的には、表7のデータに示されるように、スルファミン酸を使用して11を超えるpHで安定化させた後で次亜塩素酸塩を独立に、または臭化物イオン源との混合物中で水系に加えることによって、全ハロゲン残留物をゆっくりと減少させることができた。
表8は、次亜塩素酸塩溶液、スルファミン酸、および臭化物イオン源の前述の添加方法による微生物に対する殺生物活性を示している。安定化された次亜塩素酸塩溶液(I+II)が別々に加えられるか、臭化物イオンとの混合物で加えられる場合は、初期殺生物活性は低いが、持続性に優れ、臭化物イオン源の添加量を増加させると全ハロゲン残留物の消費速度が増加したことが分かった。このような結果は、安定化された次亜塩素酸塩から放出される利用可能な塩素と水溶性臭化物イオンとの反応によって生成された次亜臭素酸塩含有率の増加に起因すると考えられる。
安定化されていない形態で次亜塩素酸塩溶液を水系に加えると、別々または混合物として加えられるかは無関係に、安定化されていない次亜塩素酸塩および臭化物イオン源を水系に加える場合と同様の結果が得られた。また、安定化された次亜塩素酸塩を使用しても、大量の次亜臭素酸ナトリウムが消費されることを除けば同様の結果が得られる。すなわち、添加から5分後、生存する微生物個体数は同様であったが、時間が経過すると、安定化されていない次亜塩素酸塩が揮発性のため、全ハロゲン残留物の消費速度が増加し、したがって生存する微生物数は多いままとなった。
これらの結果を共に考慮すると、次亜塩素酸塩がスルファミン酸によって安定化される場合、全ハロゲン残留物の消費は経時とともに減少し、したがって持続性に優れた殺生物活性を有する。対照的に、安定化されていない次亜塩素酸塩を、安定剤を含有する水系に加えると、安定化後に次亜塩素酸塩を加える場合よりも多くの次亜塩素酸塩が消費されうる。安定化させた後、臭化物イオンとは別に適用される次亜塩素酸塩は、臭化物イオンと混合された形態で加えられる場合と同様の殺生物活性を有しうる。さらに、より多くの臭化物イオンが安定化された次亜塩素酸塩とともに使用されると、水中の全ハロゲン残留物含有量は減少し、一方初期殺生物活性は向上する。
(実施例5)
殺生物剤の殺菌効率を調べるために、パイロット冷却塔試験を実施した。120kgの水を含有し、pH7.8±2に調整されて1,600kg/時で水が循環し、蒸発による水温変化が5℃を超えないようにしたパイロット冷却塔を作製した。水の流出量を2.8kg/時に調節することで、再循環水の濃度比を6に調整した。さらに、腐食およびスケールを防止するため、PBTCおよびポリマーをそれぞれ6ppmおよび10ppmのレベルまで連続的に水に加え、パイロット冷却塔は、殺生物剤を添加する前に、35±2℃に維持しながら少なくとも1日間作動させた。試験に使用した河川水は、カルシウム硬度が41ppmであり、Mアルカリ度は20ppmであり、すべては炭酸カルシウムとしてであった。
ここで、添加される殺生物剤の全量が、維持される水を考慮しながら、パイロット冷却塔に一度に供給され、スケールおよび腐食防止剤を続いて加えた。
前述のように調製した殺生物剤「A」、「B」、「C」、および「D」を使用して、全ハロゲン残留物含有量および生存細菌数を測定した。これらの結果を以下の表9および10に示す。
Figure 0004317762
Figure 0004317762
パイロット冷却塔を前述の条件下で作動させた場合、1日後、添加した殺生物剤の43%が外部に失われ、冷却水は連続的に空気と接触し、そのため空気から有機物質が導入された。パイロット冷却水系に添加する前または後に安定化させた次亜塩素酸塩は、冷却水を連続的に循環させたため、遅い速度で揮発し、これは安定化させていない次亜塩素酸塩の揮発よりも遅く、このため全ハロゲン残留物の消費の増加は、表6に結果が示されるビーカー試験の場合よりもわずかに多いレベルとなった。表9から明らかなように、殺生物剤「A」または「B」を最大250ppmまで添加した場合、1日後に、利用可能なハロゲンの大部分が消費されたことが観察され、一定の殺菌効率を得るために連続的に殺生物剤を加える必要が生じ、添加量を増加させる結果となった。対照的に1日後でも、殺生物剤「C」および「D」で処理したパイロット冷却塔では、全ハロゲン残留物は細菌を殺滅するために有効なレベルで維持され、そのため連続的に添加することも可能であるが、1日に一回添加することも可能となる。したがって、殺生物剤「C」または「D」は、小型冷却塔および非常に汚染された冷却塔の操作の初期段階に加えると効果的となりうる。
経時による生存細菌数を示す表10を参照すると、微生物個体数は表5の値よりも大きく、このことは、冷却水が外部の空気と接触するために全ハロゲン残留物レベルが相対的に減少したという結果と一致する。上記の結果をともに考慮すると、殺生物剤「A」および「B」は、実施例3のビーカー環境などの非循環水系では殺生物活性の持続性を示すことができるが、水が連続的に外部の空気と接触する冷却塔などの循環水系では持続性が示されず、揮発性次亜塩素酸塩の損失および外部から導入される不純物によって全ハロゲン残留物レベルが大きく減少し、そのため大量の殺生物剤を添加する必要がある。特に、殺生物剤「B」は、調整中に気体塩素を含む気体が発生するために比較的少量の有効成分を含有し、そのため、水系に使用されると、全ハロゲン残留物含有量は急速に減少し、そのため投入量の増加が必要となり、そのため工業用水系に適用することは困難となる。
一方、殺生物剤「C」は、初期段階では低い抗菌活性を示したが、時間が経過すると、優れた抗菌活性を示し、生存細菌数が大きく減少しながら、その抗菌活性は24時間後でさえも維持された。殺生物剤「A」と比較すると殺生物剤「D」は、初期抗菌活性は劣っていたが、持続性に優れていた。殺生物剤「C」と比較すると殺生物剤「D」は、初期抗菌活性は優れていたが、持続性はわずかに劣っていた。
(実施例6)
実施例5と同じパイロット冷却塔条件を使用し、ポンプを使用して殺生物剤「A」、「B」、「C」、および「D」を連続的に添加した。1日目の殺生物剤の添加量は以下の表11に示している。殺生物剤「D」は最大100ppm加えたことを除けば、殺生物剤は、パイロット冷却塔に含まれる水に50ppmのレベルで添加された。全ハロゲン残留物含有量は1±0.2ppmに維持し、殺生物剤の添加量は1日目に測定した。パイロット冷却塔がスライムで汚染されていた場合は、殺生物剤の添加量に影響を与えた可能性がある。このような可能性を排除するため、試験前にスライムを完全に除去した。
Figure 0004317762
実施例3のデータと比較すると、パイロット冷却塔では殺生物剤がより急速に消費されたことが分かった。特に、殺生物剤「A」および「B」の添加量は、殺生物剤「C」および「D」よりも多かった。これは、実施例3では非循環水系が使用されたが、パイロット冷却塔では外部の空気との連続的な接触が起こること、ならびに殺生物剤「A」および「B」は殺生物剤「C」および「D」よりも揮発性が高いことに起因すると考えられる。
表11における生存細菌数を参照すると、殺生物剤「A」、「B」、および「D」の場合、微生物個体数は6時間後には好適なレベルまで減少したが、一方、殺生物剤「C」では、添加から6時間後に減少パターンが開始し、24時間後に好適なレベルに到達することが分かり、これは実施例3のデータと合っている。全体的には、殺生物剤「C」は初期殺生物活性がわずかに低いが、持続性には優れ、さらに消費速度が低かった。殺生物剤「D」は、殺生物剤「C」よりも持続性がわずかに低かったが、殺生物剤「A」および「B」よりは優れており、より高い初期殺生物活性を示した。
(実施例7)
実施例4に記載されるように、次亜塩素酸塩、安定剤、および臭化ナトリウムを別々または混合物として、パイロット冷却塔に加え、添加はすべて一度に行い、腐食防止剤としての有機ホスフェートおよびスケール防止剤としてのポリマーを別々に加えた。
120kgの水を含むパイロット冷却塔は、循環速度が1,600kg/時であり、pHは7.8±2に調整され、蒸発による水温変化が5℃を超えないようにした。水の流出量を2.8kg/時に制御することで、水の濃度比を6に調整した。さらに、腐食およびスケールを防止するために、PBTCおよびポリマーをそれぞれ6ppmおよび10ppmのレベルまで連続的に加え、パイロット冷却塔は、35±2℃に維持しながら、殺生物剤を添加する少なくとも1日前に作動させた。試験に使用した河川水は、カルシウム硬度が41ppmであり、Mアルカリ度は20ppmであり、すべては炭酸カルシウムとしてであった。
以下の表1は、時間の経過に伴う全ハロゲン残留物レベルを示している。
Figure 0004317762
注記:I:水系中で維持された水への次亜塩素酸ナトリウムの添加量。
II:水系中で維持された水へのスルファミン酸の添加量。
III:水系中で維持された水への臭化ナトリウムの添加量。
表12のデータは、実施例4のデータと同じパターンを示している。添加前に安定剤を使用して調製した安定化された次亜塩素酸ナトリウム溶液(I+II)をパイロット冷却塔に加えた場合は、安定剤および臭化ナトリウムイオンを含む混合物溶液(II+III)と、次亜臭素酸ナトリウムとを別々に加えた場合よりも、全ハロゲン残留物含有量がゆっくりと減少した。したがって、添加前にスルファミン酸で安定化させた次亜塩素酸塩は、パイロット冷却塔中で安定化させた次亜塩素酸塩よりも効率的となりうることが示された。この結果は、揮発性の高い安定化されていない次亜塩素酸塩が急速に失われることが要因の一部となっている。
臭化物イオンの添加量を増加させると、全ハロゲン残留物レベルが減少し、一方、生存微生物数が急激に減少することことが分かり、これより、次亜臭素酸塩の生成が増加する結果として、初期殺生物活性の向上および持続性の低下が起こることが分かった。
各成分が別々に加えられる場合、または混合された状態で加えられる場合のすべてにおいて、全ハロゲン残留物含有量および生存細菌数に差は見られなかった。
以上に説明したように、本発明の方法により殺生物剤を調製すると、従来の殺生物剤と比較して、高価な臭化物イオン源の使用量を大きく減少させることができる。さらに、本発明の方法によって、殺生物活性の持続性が向上し優れた初期殺生物活性を有する安定化された殺生物剤を提供することができる。

Claims (18)

  1. (a)アルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩を含む塩素系酸化剤としての次亜塩素酸ナトリウム、安定剤としてのスルファミン酸とアルカリ溶液中で混合することによって、pHが少なくとも11である安定化されたアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩を調製するステップ;
    (b)臭化物イオン源としての臭化ナトリウムを調製するステップ;および
    (c)ステップ(b)で調製した該臭化物イオン源を、ステップ(a)で調製した該安定化されたアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩に加えるステップ
    を含む、殺生物剤の調製方法。
  2. 該方法が、
    (d)ステップ(c)で調製した混合物のpHを少なくとも5まで下げるステップ;および
    (e)アルカリ溶液を加えることによってpHを少なくとも13まで上昇させるステップ;
    をさらに含む請求項1記載の方法。
  3. 該安定剤と該塩素系酸化剤とが9:1〜1:9のモル比で混合される請求項1記載の方法。
  4. 該安定剤と該塩素系酸化剤とが1:1のモル比で混合される請求項記載の方法。
  5. 該安定化された次亜塩素酸塩と該臭化物イオン源とが1:10〜50:1のモル比で混合される請求項1記載の方法。
  6. 該安定化された次亜塩素酸塩と該臭化物イオン源とが1:1〜20:1のモル比で混合される請求項記載の方法。
  7. 該安定化されたアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩が、少なくとも13のpH環境下にある請求項1記載の方法。
  8. 請求項1のステップ(c)で調製された混合物のpHが、酸性溶液を加えることによって8まで下げられる請求項2記載の方法。
  9. (a)アルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩を含む塩素系酸化剤としての次亜塩素酸ナトリウムを、安定剤としてのスルファミン酸とアルカリ溶液中で混合することによって、pHが少なくとも11である安定化されたアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩を調製するステップ;
    (b)臭化物イオン源としての臭化ナトリウムを調製するステップ;
    (c)ステップ(b)で調製した該臭化物イオン源を、ステップ(a)で調製した該安定化されたアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩に加え、殺生物剤を調製するステップ;および
    (d)殺菌の必要な水系中に、全ハロゲン残留物が0.1〜10ppmとなるまで該殺生物剤を加えるステップ;
    を含む、微生物の成長を制御する方法。
  10. 全ハロゲン残留物が0.2〜5ppmとなるように該殺生物剤が加えられる請求項記載の方法。
  11. 該水系が、スイミングプール、温泉、池、ウォータースライド、および建物またはプラントの冷却塔、製紙プロセス、排水再循環システム、ガススクラバーシステム、フレッシュウォーターシステム、または空気清浄システムからなる群より選択される請求項記載の方法。
  12. (a)アルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩を含む塩素系酸化剤としての次亜塩素酸ナトリウムを、安定剤としてのスルファミン酸とアルカリ溶液中で混合することによって、pHが少なくとも11である安定化されたアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩を調製するステップ;
    (b)臭化物イオン源としての臭化ナトリウムを調製するステップ;
    (c)ステップ(b)で調製した該臭化物イオン源を、ステップ(a)で調製した該安定化されたアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩に加えるステップ;および
    (d)ステップ(c)で調製した混合物のpHを少なくとも5まで下げるステップ;
    (e)アルカリ溶液を加えることによってpHを少なくとも13まで上昇させ、殺生物剤を調製するステップ;および
    (d)殺菌の必要な水系中に、全ハロゲン残留物が0.1〜10ppmとなるまで該殺生物剤を加えるステップ;
    を含む、微生物の成長を制御する方法。
  13. 全ハロゲン残留物が0.2〜5ppmとなるように該殺生物剤が加えられる請求項12記載の方法。
  14. 該水系が、スイミングプール、温泉、池、ウォータースライド、および建物またはプラントの冷却塔、製紙プロセス、排水再循環システム、ガススクラバーシステム、フレッシュウォーターシステム、または空気清浄システムからなる群より選択される請求項12記載の方法。
  15. (a)アルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩を含む塩素系酸化剤としての次亜塩素酸ナトリウム、安定剤としてのスルファミン酸とアルカリ溶液中で混合することによって、pHが少なくとも11である安定化されたアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩を調製するステップ;
    (b)臭化物イオン源としての臭化ナトリウムを調製するステップ;および
    (c)ステップ(a)で調製した該安定化されたアルカリ金属またはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩と、ステップ(b)で調製した該臭化物イオン源とを、逐次的または同時に、微生物の生息場所に投入して、全ハロゲン残留物を0.1〜10ppmまでにするステップとを含む、微生物の成長を制御する方法。
  16. 全ハロゲン残留物が0.1〜10ppmとなるまで、該安定化された次亜塩素酸塩および該臭化物イオン源が微生物の生息場所に加えられる請求項15記載の方法。
  17. 全ハロゲン残留物が0.2〜5ppmとなるまで、該安定化された次亜塩素酸塩および該臭化物イオン源が微生物の生息場所に加えられる請求項16記載の方法。
  18. 微生物の生息場所が、スイミングプール、温泉、池、ウォータースライド、および建物またはプラントの冷却塔、製紙プロセス、排水再循環システム、ガススクラバーシステム、フレッシュウォーターシステム、または空気清浄システムからなる群より選択される請求項15から17のいずれか1項記載の方法。
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