JP4310055B2 - 内燃機関のピストンリング装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,ピストンのリング溝に,シリンダボアの内壁に摺動可能に密接するピストンリングを該シリンダボアの軸線方向の所定の間隙を存して装着した,内燃機関のピストンリング装置の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
リング溝とピストンリングとの前記間隙は,ピストンリングの熱膨張時でも,ピストンリングがリング溝で膠着せずに,シリンダボアの内壁に密接して良好なガスシール機能を確保する上で重要な役割を果たす。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら,内燃機関の低温状態での始動時や低速運転時には,上記隙が排ガス中のHC濃度を増加させる一因となっていることが本発明者によって究明された。それは次のような理由による。
【0004】
図6に示すように,従来のピストンリング装置では,ピストン3の上部リング溝10に装着されたピストンリング13(圧縮リング)は,該リング溝10及びピストンリング13間の、シリンダボアの軸線方向間隙gの範囲で常に移動可能であるため,ピストン3の上昇時には(図6(A)参照),ピストンリング13は,それの慣性力と,該リング13及びシリンダ内壁間の摩擦抵抗とによりリング溝10の下面に押しつけられて,上部に前記間隙gが発生し,ピストン3の下降時には(図6(B)参照),ピストンリング13は上記慣性力及び摩擦抵抗によりリング溝10の上面に押しつけられ,その下方に前記間隙gが移る。
【0005】
ところで,内燃機関の低温時,シリンダ内壁に付着した未燃燃料fは,排気行程でのピストン上昇時,ピストンリング13の上部に発生した間隙gに引き込まれ,次いでピストン3の上昇速度が急減速する上死点直前に,ピストンリング13の上昇慣性力が該リング13とシリンダ内壁との摩擦抵抗に打ち勝って該リング13がピストン3に対して相対的に上昇するとき,前記間隙g内から前記未燃燃料f押し出す。そして,この未燃燃料fが排ガスと共に排気ポートへ排出され,排ガス中のHC濃度を増加させるのである。
【0006】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,内燃機関の低温時,特にピストンの運動速度が遅い,内燃機関の始動時や低速運転時に,リング溝とピストンリングとの、シリンダボアの軸線方向間隙に起因する排気ガス中のHC濃度の増加を抑え得るようにした,内燃機関のピストンリング装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために,本発明は,ピストンのリング溝に,シリンダボアの内壁に摺動可能に密接するピストンリングを該シリンダボアの軸線方向の所定の間隙を存して装着した,内燃機関のピストンリング装置において,リング溝に,ピストンの低速運動域でリング溝でのピストンリングの前記軸線方向の移動を規制し,ピストンの高速運動域では前記規制が無効にされるリング規制手段を設けたことを第1の特徴とする。
【0008】
本発明において、「シリンダボアの軸線方向」とは、シリンダボアの軸線に沿う方向をいう。尚,前記リング溝及びピストンは,後述する本発明の実施例中の上部リング溝10及び第1圧縮リング13に対応する。
【0009】
この第1の特徴によれば,ピストンの低速運動域では,ピストンリングは,リング規制手段によりリング溝での前記軸線方向の移動を規制されるので,内燃機関の低温,低速運転域において,シリンダボア内壁に付着した未燃燃料がピストンの昇降に伴いリング溝に出入りすることがなくなり,したがって排気行程でも,その未燃燃料を外部に放出させないので,排ガス中のHC濃度が増加するのを抑えることができる。
【0010】
またピストンの高速運動域では,リング規制手段による規制が無効となるから,ピストンリングは,リング内で自由に上下動して膠着を防ぎ,本来のガスシール機能を発揮することができる。
【0011】
また本発明は,第1の特徴に加えて,リング溝及びピストンリングの前記軸線方向で対向する対向面間に楔状に挿入され,その挿入方向に張りを持つ規制リングでリング規制手段を構成し,ピストンの低速運動域では規制リングの楔作用によりピストンリングのリング溝での前記軸線方向の移動を規制し,ピストンの高速運動域ではピストンの下降に伴うピストンリングの浮き上がり力により規制リングの楔作用が無効にされることを第2の特徴とする。
【0012】
この第2の特徴によれば,規制リングという単一の部材をもってリング規制手段を簡単に構成することができ,リング規制手段の追加によるピストンリング装置のコスト増を少なく抑えることができる。
【0013】
さらに本発明は,第2の特徴に加えて,ピストンリング及び規制リングの相対向面に,規制リングの楔作用を促す斜面を形成したことを第3の特徴とする。
【0014】
この第3の特徴によれば,規制リングの楔作用によるピストンリングの前記軸線方向の移動規制を的確に行うことができる。
【0015】
さらにまた本発明は,第3の特徴に加えて,環状の平板に,リング溝の内面に接する複数の平坦部と,ピストンリングの斜面に接する斜面を有する複数の傾斜部とを周方向交互に配列するように形成して,規制リングを構成したことを第4の特徴とする。
【0016】
この第4の特徴によれば,第3の特徴に加えて,環状に平板を素材として,軽量で高剛性の規制リングを安価に提供することができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の実施形態を,添付図面に示す本発明の一実施例に基づいて以下に説明する。
【0018】
図1は本発明の第1実施例に係るピストンリング装置を備えた内燃機関に縦断面図,図2は内燃機関の低速運転域での本発明ピストンリング装置の作用説明図,図3は内燃機関の高速運転域での本発明ピストンリング装置の作用説明図,図4は第1圧縮リング及び規制リングの斜視図,図5は本発明の第2実施例を示す,図4との対応図である。
【0019】
先ず,図1〜図4に示す本発明の第1実施例の説明より始める。
【0020】
図1において,内燃機関Eのシリンダブロック1のシリンダボア2にピストン3が摺動可能に嵌装される。シリンダブロック1の上端面に接合されるシリンダヘッド4には,シリンダボア2の上端に連なる燃焼室5と,この燃焼室5に開口する吸気及び排気ポート6,7とが形成されると共に,これらポート6,7の燃焼室5側開口端を開閉する吸気及び排気弁8,9が装着される。
【0021】
ピストン3の外周面には,燃焼室5側から上部リング溝10,中間リング溝11及び下部リング溝12が形成されており,上部リング溝10には第1圧縮リング13,中間リング溝11には第2圧縮リング14,下部リング溝12にはオイルリング15がそれぞれ装着され,各リング13〜15は,従来普通のようにそれ自体の張りによってシリンダボア2の内壁に摺動可能に密接し得るように,一つの合口(図示せず)を有する。各リング溝10〜12と各リング13〜15との間には,従来普通のように,シリンダボア2の軸線方向(即ち該軸線に沿う方向)の所定の隙gが設けられる。
【0022】
図1及び図4に示すように,第1圧縮リング13の上面には,その半径方向中間部から半径方向内方に向けて下る斜面13aが形成され,この斜面13aと上部リング溝10の上面との間に規制リング20(規制手段)が楔状に挿入される。規制リング20の下面20aは,前記斜面13aに対応して半径方向内方に向かって下る斜面に形成される。規制リング20の上面は,第1圧縮リング13の上面と同様に,上部リング溝10の上面と平行な平坦面に形成される。この規制リング20にも,一つの合口(図示せず)が設けられると共に,半径方向外向きの張りが付与され,その張りによって規制リング20は,第1圧縮リング13の斜面13aと上部リング溝10の上面との間に割り込むようになっている。規制リング20の張り大きさ及び斜面13a,20aの角度は,ピストン3の低速運動域では規制リング20が第1圧縮リング13を上部リング溝10の下面に押しつける楔機能を発揮し,ピストン3の高速運動域ではピストン3の下降に伴う第1圧縮リング13の浮き上がり力Faにより規制リング20の楔作用が無効とされるように設定される。
【0023】
次に,図2及び図3により,この第1実施例の作用について説明する。
【0024】
図2(A)に示すように,ピストン3の運動速度が低いときには,上部リング溝10において,規制リング20は,それ自体の張りによる楔機能をもって第1圧縮リング13の斜面13aと上部リング溝10の上面との間に割り込んで,第1圧縮リング13を上部リング溝10の下面に押しつける。特に,図2(B)に示すように,ピストン3の下降時でも,第1圧縮リング13の慣性力,並びに該リング13及びシリンダボア2内壁間の摩擦抵抗に起因する浮き上がり力Faが比較的小さいため,規制リング20の楔作用による第1圧縮リング13の押し下げ力Fbが上記浮き上がり力Faに打ち勝って,第1圧縮リング13を上部リング溝10の下面に押し続けることになる。このことは,ピストン3の上昇速度が急減速する上死点直前に第1圧縮リング13が上昇慣性力でピストン3に対する相対的に上昇するのを規制リング20が阻止し得ることを意味する。
【0025】
その結果,第1圧縮リング13は,それと上部リング溝10の上面との間に、シリンダボア2の軸線方向間隙gが存在するにも拘わらず,上部リング溝10内での前記軸線方向の移動が拘束される。したがって内燃機関Eの低温,低速運転域において,シリンダボア2の内壁に付着した未燃燃料fがピストン3の上昇(図2(A))に伴い上記間隙gに導入されても,ピストン3の上死点直前から次のピストン3の下降時(図2(B))にかけても第1圧縮リング13は,上部リング溝10の下面から動かないから,上記間隙gに未燃燃料fを保持し続け,排気行程でも外部に放出させない。かくして,内燃機関Eの低温,低速運転域で,排ガス中のHC濃度が増加するのを抑えることができる。
【0026】
次にピストン3の運動速度が所定値以上になると,図3(B)に示すように,ピストン3の下降時には,特に第1圧縮リング13の慣性力の増加により,該ピストン3の浮き上がり力Faが,規制リング20の楔作用による第1圧縮リング13の押し下げ力Fbに打ち勝って,規制リング20を半径方向内方へ押し返し,その楔作用を無効にする。その結果,第1圧縮リング13は上部リング溝10の上面に当接するまで移動し,前記軸線方向の間隙gは第1圧縮リング13の下方に移る。したがって,第1圧縮リング13は,図3(A)及び(B)のように,ピストン3の昇降に伴い上部リング溝10内を前記軸線方向間隙gの範囲において上下動することになり,上方から混合気,下方から潤滑油を上部リング溝10内に適度に導入して第1圧縮リング13の冷却及び潤滑を図り,該リング13の上部リング溝10内での膠着を防ぎ,該リング13本来のガスシール機能を発揮させることができる。
【0027】
尚,内燃機関Eが高温状態になれば,高温のシリンダボア2内壁に接した燃料は直ちに気化して良好に燃焼し得るので,第1圧縮リング13が上記のように上部リング溝10を自由に上下動するようになっても,排ガス中のHC濃度が増加することはない。
【0028】
次に,図5に示す本発明の第2実施例について説明する。この第2実施例では,規制リング20が環状の平板25から構成される。即ち,規制リング20は,環状の平板25に,上部リング溝10の上面に接する複数の平坦部26,26…と,第1圧縮リング13の斜面13aに接する斜面20aを有する複数の傾斜部27,27…とを周方向交互に配列するように形成して構成される。その他の構成は前実施例と同様であるので,図5中,前実施例との対応部分には同一の参照符号を付して,その説明を省略する。
【0029】
この第2実施例によれば,板厚が一定の平板25にプレス加工を施すことにより規制リング20を製作することができ,しかも各平坦部26及び傾斜部27間の屈曲部が補強リブ効果を発揮して,規制リング20の面剛性を効果的に高める。したがって軽量で高剛性の規制リング20を安価に提供することができる。
【0030】
本発明は上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,第1圧縮リング10及び規制リング20の全体を上下反転させて,第1圧縮リング13の、前記軸線方向の移動を下方から規制することも可能である。
【0031】
【発明の効果】
以上のように本発明の第1の特徴によれば,ピストンのリング溝に,シリンダボアの内壁に摺動可能に密接するピストンリングを該シリンダボアの軸線方向の所定の間隙を存して装着した,内燃機関のピストンリング装置において,リング溝に,ピストンの低速運動域でリング溝でのピストンリングの前記軸線方向の移動を規制し,ピストンの高速運動域では前記規制が無効にされるリング規制手段を設けたので,内燃機関の低温,低速運転域では,シリンダボア内壁に付着した未燃燃料がピストンの昇降に伴いリング溝に出入りすることがなくなり,したがって排気行程でも,その未燃燃料を外部に放出させないので,排ガス中のHC濃度が増加するのを抑えることができる。しかも内燃機関の高速運動域では,リング規制手段による規制が無効となるから,ピストンリングは,リング内で自由に上下動して膠着を防ぎ,本来のガスシール機能を発揮することができる。
【0032】
また本発明の第2の特徴によれば,第1の特徴に加えて,リング溝及びピストンリングの、前記軸線方向で対向する対向面間に楔状に挿入され,その挿入方向に張りを持つ規制リングでリング規制手段を構成し,ピストンの低速運動域では規制リングの楔作用によりピストンリングのリング溝での前記軸線方向の移動を規制し,ピストンの高速運動域ではピストンの下降に伴うピストンリングの浮き上がり力により規制リングの楔作用が無効にされるので,規制リングという単一の部材をもってリング規制手段を簡単に構成することができ,リング規制手段の追加によるピストンリング装置のコスト増を少なく抑えることができる。
【0033】
さらに本発明の第3の特徴によれば,第2の特徴に加えて,ピストンリング及び規制リングの相対向面に,規制リングの楔作用を促す斜面を形成したので,規制リングの楔作用によるピストンリングの前記軸線方向の移動規制を的確に行うことができる。
【0034】
さらにまた本発明の第4の特徴によれば,第3の特徴に加えて,環状に平板に,リング溝の内面に接する複数の平坦部と,ピストンリングの斜面に接する斜面を有する複数の傾斜部とを周方向交互に配列するように形成して,規制リングを構成したので,環状に平板を素材として,軽量で高剛性の規制リングを安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1実施例に係るピストンリング装置を備えた内燃機関に縦断面図。
【図2】 内燃機関の低速運転域での本発明ピストンリング装置の作用説明図。
【図3】 内燃機関の高速運転域での本発明ピストンリング装置の作用説明図。
【図4】 第1圧縮リング及び規制リングの斜視図。
【図5】 本発明の第2実施例を示す,図4との対応図。
【図6】 従来の内燃機関のピストンリング装置の構成及び作用を示す縦断面図。
【符号の説明】
E・・・・・内燃機関
2・・・・・シリンダボア
3・・・・・ピストン
10・・・・リング溝(上部リング溝)
13・・・・ピストンリング(第1圧縮リング溝)
13a・・・斜面
20・・・・規制リング
20a・・・斜面
25・・・・平板
26・・・・平坦部
27・・・・傾斜部

Claims (4)

  1. ピストン(3)のリング溝(10)に,シリンダボア(2)の内壁に摺動可能に密接するピストンリング(13)を該シリンダボア(2)の軸線方向の所定の間隙(g)を存して装着した,内燃機関のピストンリング装置において,
    リング溝(10)に,ピストン(3)の低速運動域でリング溝(10)でのピストンリング(13)の前記軸線方向の移動を規制し,ピストン(3)の高速運動域では前記規制が無効にされるリング規制手段(20)を設けたことを特徴とする,内燃機関のピストンリング装置。
  2. 請求項1記載の内燃機関のピストンリング装置において,
    リング溝(10)及びピストンリング(13)の前記軸線方向で対向する対向面間に楔状に挿入され,その挿入方向に張りを持つ規制リング(20)でリング規制手段を構成し,ピストン(3)の低速運動域では規制リング(20)の楔作用によりピストンリング(13)のリング溝(10)での前記軸線方向の移動を規制し,ピストン(3)の高速運動域ではピストン(3)の下降に伴うピストンリング(13)の浮き上がり力(Fa)により規制リング(20)の楔作用が無効にされることを特徴とする,内燃機関のピストンリング装置。
  3. 請求項2記載の内燃機関のピストンリング装置において,
    ピストンリング(13)及び規制リング(20)の相対向面に,規制リング(20)の楔作用を促す斜面(13a,20a)を形成したことを特徴とする,内燃機関のピストンリング装置。
  4. 請求項3記載の内燃機関のピストンリング装置において,
    環状の平板(25)に,リング溝(10)の内面に接する複数の平坦部(26)と,ピストンリング(13)の斜面(13a)に接する斜面(20a)を有する複数の傾斜部(27)とを周方向交互に配列するように形成して,規制リング(20)を構成したことを特徴とする,内燃機関用ピストンリング装置。
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