JP4305030B2 - 事務機用転がり軸受 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は導電性に優れた転がり軸受に係り、特に、複写機,プリンタ等のような事務機における光学部,給紙部,現像部,定着部,排紙部等の回転部の支持に好適な転がり軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】
複写機等の事務機に使用される軸受には、耐食性及び導電性が求められる。その詳細は以下の通りである。
事務機に使用される軸受は、トナーを定着させる等の目的から高温高湿な環境で使用されるので、このような環境に対する耐食性が要求される。従来は、防錆油を軸受表面に塗付することによって耐食性を確保しており、防錆油としては錆の発生を防止する効果を有する合成炭化水素系オイル,鉱油等が使用される。このような方法は、軸受鋼を使用した従来の軸受においては一般的に採用される防錆技術である。
【0003】
また、複写機は、回転する感光ドラムを帯電させ、文字や画像の部分以外については軸部材側に除電した後、文字や画像の部分にトナーを吸着させ、さらに、そのトナーを紙に転写して現像を行っている。文字や画像を安定させるためには、前述したような感光ドラムの帯電及び除電が確実に行われる必要があるので、感光ドラムを支持する軸受には導電性が要求される。
【0004】
軸受に導電性を付与するため、従来は軸受を支持する軸部材と感光ドラムとをブラシを使用して通電させる方法が採用されていたが、この方法は製造コストが高いため、近年においては導電性グリースを用いて軸受転動部を通電し、外輪から通電及び除電する方法が採用されている。すなわち、軸受に導電性を付与するためには、従来にあっては導電性グリースが不可欠とされている。
【0005】
導電性グリースとしては、増ちょう剤と導電性付与添加剤とを兼ねてカーボンブラックを添加したものが主流で(例えば、特公昭63−24038号公報に記載のもの)、このような導電性グリースは初期には優れた導電性を示す。しかしながら、導電性グリースは当初は転がり軸受の軌道輪の軌道面と転動体との接触面に十分に存在していて、その導電性グリース中のカーボンブラックによって軌道輪と転動体との間の導電性が確保されているものの、軌道輪と転動体との相対運動により導電性グリースが前記接触面から排除されたり、カーボンブラック粒子のチェーンストラクチャーが破壊されたりするため、軸受の抵抗値が経時的に大きくなることがある(導電性グリースの導電性が経時的に低下することがある)。
【0006】
このような問題点を解決するため、グリースのちょう度を規定して(グリースを柔らかくして)グリースの硬化を防止したり、軸受の形状を規定してグリースを転走面に入りやすくしたものが、特開平1−307516号公報(特許第2579798号公報)に開示されている。
また、軸受を長期間にわたって作動させると、軌道面に酸化被膜が生成して軸受の電気抵抗値が上昇する場合がある。その対策として、軸受の転がり接触面を保護するために添加剤として極圧添加剤や摩耗防止剤を用いたグリース(例えば特開2002−80879号公報)や、無機化合物微粒子を配合したグリース(例えば特開2003−42166号公報)が提案されている。さらに、フタル酸ジブチル吸油量の小さいカーボンブラックを多量に配合したグリース(例えば特開2002−53890号公報)も提案されている。
【0007】
一方、事務機の軽量化及びコスト低減のため、軸受支持部に樹脂材料を使用する場合が増加している。すなわち、事務機に使用される軸受支持部(感光ドラム,定着ローラなど)、特に外輪が固定されるハウジング部が樹脂材料で構成される場合が増加している。使用される樹脂材料としては、ポリスチレン(PS),外的環境に強いポリオキシメチレン(POM)及びポリカーボネート(PC),アクリロニトリルスチレンブタジエン樹脂(ABS)等があげられる。
【0008】
軸受に耐食性を付与するためには、従来は防錆油の使用が不可欠であったが、防錆油には樹脂材料の強度を低下させ且つ連続した応力によって破壊に至らしめる作用(以下、ケミカルアタックと称す)があることが分かった。これは樹脂材料を構成するドメイン中に防錆油が侵入し、材料強度が低下することに起因する。樹脂の強度を低下させるのは防錆油に含有される極性の高い化合物であり、このような化合物としては、例えばエステル結合,エーテル結合等を分子構造中に有し酸素を含む炭化水素系化合物等があげられる。
【0009】
このような防錆油による樹脂材料の強度低下に対する対策として、樹脂に対してケミカルアタックを生じにくいグリースを用いた例が、特開2002−69474号公報に開示されている。このグリースは基油として合成炭化水素油を使用し、添加剤として金属スルホネートを使用している。また、耐食性に優れたステンレス鋼で軌道輪を構成することにより、防錆油を塗布不要とした軸受が、特開平6−117439号公報,特許第3171350号公報に提案されている。
【0010】
【特許文献1】
特公昭63−24038号公報
【特許文献2】
特開平1−307516号公報
【特許文献3】
特開2002−80879号公報
【特許文献4】
特開2003−42166号公報
【特許文献5】
特開2002−53890号公報
【特許文献6】
特開2002−69474号公報
【特許文献7】
特開平6−117439号公報
【特許文献8】
特許第3171350号公報
【特許文献9】
特開2001−254745号公報
【特許文献10】
特開2001−304276号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ステンレス鋼は強固な酸化被膜が形成されやすいので、軸受を使用するにしたがって軸受の抵抗値が経時的に大きくなる(軸受の導電性が低下する)おそれがあった。
そこで、本発明は前述のような従来技術が有する問題点を解決し、耐食性が優れているとともに長期間にわたって導電性の経時的な低下が生じにくい事務機用転がり軸受を提供することを課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1の事務機用転がり軸受は、内輪と、少なくとも一部分が樹脂で構成されたハウジングに取り付けられる外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配設された複数の転動体と、前記内輪及び前記外輪の間に形成され前記転動体が配設された空隙部内に充填された導電性グリースと、を備える事務機用転がり軸受において、前記内輪を軸受用鋼で構成し、前記外輪をマルテンサイト系ステンレス鋼で構成し、前記転動体を前記マルテンサイト系ステンレス鋼よりも硬い軸受用鋼で構成したことを特徴とする。
【0013】
このような構成の転がり軸受は、外輪がマルテンサイト系ステンレス鋼で構成されているので、耐食性が優れている。また、内輪が軸受用鋼で構成されており、且つ、転動体が前記マルテンサイト系ステンレス鋼よりも硬い軸受用鋼で構成されているので、長期間にわたって導電性の経時的な低下が生じにくい。よって、複写機,プリンタ等のような事務機における回転部の支持に好適である。
【0014】
ステンレス鋼は耐食性が優れているので、防錆油を塗布しなくても十分な耐食性を有している。よって、ハウジングに組み付けられ且つ手で取り扱われることの多い外輪をステンレス鋼で構成すれば、その表面に防錆油を塗布する必要がないので、転がり軸受や事務機の製造工程において取り扱いが容易となる。また、転がり軸受の周辺に樹脂で構成された部材(例えばハウジング等)が存在する場合は、防錆油が該部材に付着してケミカルアタックを及ぼし、その部材に強度低下等の悪影響を与えるおそれがあるが、転がり軸受に防錆油が使用されていなければケミカルアタックの心配もない。さらに、転がり軸受に封入されるグリースに防錆剤を添加する必要がないので、防錆剤によるケミカルアタックも抑制することができる。
【0015】
一方、ステンレス鋼は軸受用鋼と比較すると強固な酸化被膜が形成されやすい性質を有しているため、転がり軸受を使用するにしたがって摺動面に酸化被膜が形成される傾向がある。よって、内輪,外輪,転動体の全てをステンレス鋼で構成すると、酸化被膜の形成によって導電性が低下するおそれがある。しかし、本発明の転がり軸受は、内輪及び転動体が軸受用鋼で構成されているので、優れた導電性が長期間にわたって維持される。そのメカニズムは以下の通りである。
【0016】
転がり軸受を回転させると摺動面において微小接触による微小摩耗が生じ、新生面が生じる。そして、その新生面に酸化被膜が形成される。よって、軌道面と転動体は耐摩耗性が優れていることが望ましい。本発明の転がり軸受は、軌道面を構成するマルテンサイト系ステンレス鋼よりも硬い軸受用鋼で転動体が構成されており、これにより軌道面及び転動体は耐摩耗性が優れているので、微小摩耗の発生が抑制され(酸化被膜の形成が抑制され)優れた導電性が長期間にわたって維持される。
【0017】
また、ステンレス鋼はマトリックス中に硬度Hv1500〜2000の硬い炭化物が分散しており、マトリックスが摩耗すると硬い炭化物が転動体と接触することとなって導電性が低下する。これは、マトリックスは金属結合であるのに対し、炭化物は共有結合で導電性が劣ることが原因である。これに対して、軸受用鋼はマトリックスに硬度Hv1000程度のセメンタイトが分散しており、マトリックスの摩耗の影響はステンレス鋼の場合より小さいので、導電性が低下しにくい。
【0018】
なお、本発明においては、軸受用鋼とは高炭素クロム軸受鋼(例えばSUJ2等),肌焼鋼(例えばSCr420,SCM420等)及び,一般的に軸受材料として使用される軸受鋼相当品を意味する。軸受鋼相当品とは、例えば、高速度鋼,高炭素クロム軸受鋼SUJ2等において、炭素,クロム,ケイ素等の合金成分の含有量をJIS規格から若干外れた量(JIS規格に規定された臨界値から臨界値の20%以下外れた量、より好ましくは10%以下外れた量)としたものである。なお、ステンレス軸受鋼(例えばSUS440C等)は除く。
【0019】
また、本発明に係る請求項2の事務機用転がり軸受は、請求項1に記載の事務機用転がり軸受において、前記内輪,前記外輪,及び前記転動体の硬さをそれぞれHRC57〜64,HRC54〜62,及びHRC60〜65とし、且つ、前記転動体は前記内輪及び前記外輪よりも硬いことを特徴とする。このような構成であれば、より長期間にわたって導電性の経時的な低下が生じにくい。
【0020】
さらに、本発明に係る請求項3の事務機用転がり軸受は、請求項1又は請求項2に記載の事務機用転がり軸受において、前記導電性グリースの基油を合成炭化水素油,フッ素油,及び高度精製された鉱油の少なくとも1種で構成し、該基油の40℃における動粘度を5〜400mm2 /sとしたことを特徴とする。
このような構成であれば、導電性グリースによる樹脂へのケミカルアタックが生じにくいので、周辺に樹脂で構成された部材が存在するような場合でも、問題なく使用することができる。
【0021】
さらに、本発明に係る請求項4の事務機用転がり軸受は、請求項1〜3のいずれかに記載の事務機用転がり軸受において、前記導電性グリースは平均粒径2μm以下の無機化合物を含有することを特徴とする。
このような構成であれば、内輪及び外輪の軌道面や転動体の転動面に酸化被膜が形成されたとしても、無機化合物によってミクロ的に研磨されるから、軌道面及び転動面に常に新生面が現れることとなる。よって、内外輪間の電気抵抗値が低く、優れた導電性が維持される。なお、研磨される部分は極僅かであるので、転がり軸受の回転性能や音響性能を低下させることはほとんどない。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明に係る事務機用転がり軸受の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明に係る事務機用転がり軸受の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。この玉軸受1(呼び番号688,内径8mm,外径16mm,幅5mm)は、図示しない樹脂製のハウジングに組み付けられたマルテンサイト系ステンレス鋼製の外輪2と、SUJ2製の内輪3と、外輪2と内輪3との間に転動自在に配設された複数の玉4(前記マルテンサイト系ステンレス鋼よりも硬い軸受用鋼製)と、複数の玉4を保持する保持器5と、外輪2のシールみぞ2bに取り付けられた接触形のシール6,6と、で構成されている。また、外輪2と内輪3とシール6,6とで囲まれた空隙部内には導電性グリース7が充填され、シール6により玉軸受1内部に密封されている。
【0023】
このような玉軸受1は、外輪2がマルテンサイト系ステンレス鋼で構成されているので、耐食性が優れている。よって、表面に防錆油を塗布する、グリース中に防錆剤を含有させる等の防錆手段を講じなくても、発錆の心配がほとんど無い。また、防錆油や防錆剤が使用されていないため、樹脂製のハウジングにケミカルアタックによる悪影響が生じるおそれもない。
【0024】
さらに、玉4が前記マルテンサイト系ステンレス鋼よりも硬い軸受用鋼で構成されているので、長期間にわたって導電性の経時的な低下が生じにくい。
そして、導電性グリース7によって、前記両輪2,3の軌道面2a,3aと玉4との接触面が潤滑されるとともに、外輪2と内輪3と玉4とが導電状態となっている。さらに、外輪2又は内輪3が接地されていて(図示せず)、玉軸受1の回転により発生する静電気が除去されるようになっている。導電性グリース7は優れた導電性とともに優れた潤滑性を有しているので、玉軸受1の軌道面2a,3aと玉4との金属接触が生じにくく、軌道面2a,3aに酸化被膜が生成しにくい。その結果、導電性の経時的な低下が生じにくい。
【0025】
また、シール6を導電性ゴムで構成する等の手法によってシール6にも導電性を保持させれば、導電性の経時的な低下をより抑制することができる。
よって、このような玉軸受1は、例えば複写機,レーザープリンタのような事務機における回転部の支持に好適である。
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、事務機用転がり軸受を構成する各要素や、導電性グリースの各成分は、以下に述べる通りである。
【0026】
〔基油について〕
導電性グリースに使用される基油の種類は特に限定されるものではないが、合成炭化水素油,フッ素油,及び高度精製された鉱油の少なくとも1種で構成されたものが好ましい。このような極性の小さな基油は樹脂に対するケミカルアタックが小さいので、転がり軸受の周辺に樹脂製の部材が使用される場合には有効である。
【0027】
なお、「高度精製された鉱油」とは、ASTM D3238−95に規定されたn−d−M法環分析による芳香族系成分の比率(%CA )が1質量%未満で、且つ、パラフィン系成分の比率(%CP )が90質量%以上である鉱油を意味する。
このような基油の動粘度は特に限定されるものではないが、40℃における動粘度は5〜400mm2 /sであることが好ましい。400mm2 /sを超えると、油膜が比較的厚くなって電気抵抗値が大きくなる。ただし、動粘度が5mm2 /s未満であると、蒸発損失や潤滑性の問題から適当ではない。
【0028】
〔導電性付与添加剤について〕
導電性グリースに使用される導電性付与添加剤の種類は特に限定されるものではないが、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックには製造方法や形態等によっていくつかの種類があるが、本発明に適用可能なカーボンブラックの種類は特に限定されるものではなく、ファーネスブラック,アセチレンブラック,ケチェンブラック等が使用できる。なお、金,銀,銅,スズ,亜鉛,アルミニウム等の金属粒子、酸化銀,硫化ニオブ,硝酸銀等の金属化合物粒子なども導電性付与添加剤として使用することが可能である。
【0029】
導電性付与添加剤の平均粒子径は2μm以下であることが好ましい。導電性付与添加剤の粒子径は、転がり軸受用のグリースとして支障をきたさない程度である必要があるが、転がり軸受においては一般的に粒子径が約2μmを超える粒子は異物(ゴミ)として作用し、硬い粒子の場合には軌道面や転動面の摩耗を促進し、軸受の早期損傷の原因となる。また、軸受の音響特性を劣化させる場合もある。したがって、導電性付与添加剤は、平均粒子径が2μm以下であることが好ましい。市販のカーボンブラックの平均粒子径はおおむね200nmを下回っているので、用途や使用条件にもよるが異物として作用しない範囲である。
【0030】
また、導電性付与添加剤は、比表面積が大きく、中空構造(ポーラス構造)となっていて、さらに、適度のチェーンストラクチャーを有しているものが好ましい。そうすれば、基油がポーラスの内部に浸入して導電性付与添加剤の構造を補強することとなるので、導電性付与添加剤の耐久性が向上する。また、基油がポーラスの内部に浸入すると、導電性付与添加剤に親油性が付与されるので、過度な油分離や硬化が抑制される。よって、導電性付与添加剤の表面を親油処理すれば、長期間にわたって導電性の経時的な低下を抑制することができる。
【0031】
導電性付与添加剤の含有量は、導電性グリース全体の0.2〜20質量%であることが好ましい。0.2質量%未満では十分な導電性が得られず、また、20質量%超過であると導電性グリースの混和ちょう度が大きくなりすぎる(グリース組成物が硬くなりすぎる)。
〔増ちょう剤について〕
導電性グリースには、導電性付与添加剤の分散性を維持するために増ちょう剤を添加してもよい。使用する増ちょう剤としては、例えば、金属石けんやウレア化合物等が好ましい。
【0032】
金属石けんとしては、周期律表の1,2,及び13族の金属の化合物(例えば金属水酸化物)と、炭素数12〜24の高級脂肪酸又は1個以上のヒドロキシル基を有する炭素数12〜24の高級ヒドロキシ脂肪酸と、で合成された脂肪族一塩基酸金属塩があげられる。なお、ヒドロキシル基を有していると、水素結合等の作用により繊維状構造が安定化される。
【0033】
金属としては、例えば、リチウム,ナトリウム等のアルカリ金属や、カルシウム,バリウム等のアルカリ土類金属、あるいはアルミニウム等があげられる。
また、高級脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸,ミリスチン酸,パルチミン酸,マルガリン酸,ステアリン酸,アラキジン酸,ベヘン酸,リグノセリン酸,牛脂脂肪酸等があげられ、高級ヒドロキシ脂肪酸としては、例えば、9 −ヒドロキシステアリン酸,10−ヒドロキシステアリン酸,12−ヒドロキシステアリン酸,9 ,10−ジヒドロキシステアリン酸等があげられる。これらの脂肪族一塩基酸の中では、ステアリン酸と12−ヒドロキシステアリン酸とが最も好ましい。
【0034】
また、ウレア化合物は、グリース組成物に耐熱性を付与したい場合に有効であり、例えば、ジウレアやポリウレア等が好ましい。
さらに、基油にフッ素油が含有されている場合には、ベントナイト,スメクタイト,雲母等の(合成)粘土鉱物やポリテトラフルオロエチレンを用いることができる。
【0035】
〔平均粒径2μm以下の無機化合物について〕
導電性グリースに添加される無機化合物微粒子の種類は、金属表面に生成した酸化被膜や固着した有機物(劣化した油分等)を前述のようにミクロ的に研磨することができるならば、特に限定されるものではない。具体例としては、SiO2 ,Al2 O3 ,MgO,ZrO2 等の金属酸化物、ベントナイト,スメクタイト,雲母等の(合成)粘土鉱物、Si3 N4 ,ZrN,CrN,TiAlN等の金属窒化物、SiC,TiC,WC等の金属炭化物をあげることができる。
【0036】
無機化合物微粒子の平均粒子径は、転がり軸受に支障をきたさない程度の粒径である必要がある。よって、前述の導電性付与添加剤の場合と同様の理由により平均粒子径は2μm以下である必要がある。
なお、基油や増ちょう剤との親和性を改善するために、無機化合物微粒子の表面を親油性に改質したものを用いてもよい。
【0037】
〔その他の添加剤について〕
本発明の導電性グリースには、その各種性能をさらに向上させるために、必要に応じて種々の添加剤を添加してもよい。例えば、酸化防止剤,防錆剤,極圧剤,油性向上剤,金属不活性化剤など、グリースに一般的に使用される添加剤を、単独又は2種以上混合して用いることができる。
【0038】
酸化防止剤としては、例えば、アミン系酸化防止剤,フェノール系酸化防止剤,イオウ系酸化防止剤,ジチオリン酸亜鉛等があげられる。
アミン系酸化防止剤の具体例としては、フェニル−1−ナフチルアミン,フェニル−2−ナフチルアミン,ジフェニルアミン,フェニレンジアミン,オレイルアミドアミン,フェノチアジン等があげられる。
【0039】
また、フェノール系酸化防止剤の具体例としては、p−t−ブチルフェニルサリシレート、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−フェニルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−オクチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス−6−t−ブチル−m−クレゾール、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、2−n−オクチル−チオ−4,6−ジ(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチル)フェノキシ−1,3,5−トリアジン、4,4’−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等のヒンダードフェノールなどがあげられる。
【0040】
防錆剤としては、例えば、金属系防錆剤,無灰系防錆剤等があげられる。金属系防錆剤の具体例としては、(石油)スルフォン酸金属塩(バリウム塩,カルシウム塩,マグネシウム塩,ナトリウム塩,亜鉛塩,アルミニウム塩,リチウム塩等)のような油溶性スルホネートやフェネート,サリシレート,ホスホネート等があげられる。無灰系防錆剤の具体例としては、コハク酸イミド,ベンジルアミン,コハク酸エステル,コハク酸ハーフエステル,ポリメタクリレート,ポリブテン,ポリカルボン酸アンモニウム塩等があげられる。
【0041】
フッ素系グリースに対しては、酸化マグネシウム,酸化チタン,亜硝酸ナトリウム等の無機系防錆剤や、ベンゾトリアゾール系防錆剤,フッ素系防錆剤を使用することができる。フッ素系防錆剤の具体例としては、パーフルオロアルキル構造,パーフルオロエーテル構造,又はパーフルオロポリエーテル構造を有し、末端の官能基がアルコール変性,カルボキシル変性,又はイソシアネート変性されたものがあげられる。
【0042】
さらに、油性向上剤としては、例えば、オレイン酸,ステアリン酸等の脂肪酸、ラウリルアルコール,オレイルアルコール等のアルコール、ステアリルアミン,セチルアミン等のアミン、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル、及び動植物油等があげられる。
さらに、極圧及び摩耗防止の目的で、塩素系極圧剤,イオウ系極圧剤,リン系極圧剤,ジチオリン酸亜鉛,有機モリブデン等の極圧剤を使用することができる。
【0043】
その他には、ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤や、ポリメタクリレート,ポリスチレン等の粘度指数向上剤などを使用することができる。
これらの添加剤の含有量は、導電性グリース全体の15質量%以下とすることが好ましい。15質量%を超えると、添加剤の極性が高い場合に、事務機用転がり軸受の周辺に使用される樹脂やトナーと相互作用を生じるおそれがある。
【0044】
〔導電性グリースのちょう度について〕
本発明の導電性グリースのちょう度は、導電性グリースを適用する用途や使用温度に適したちょう度であればよく、特に限定されるものではない。ただし、適度な柔軟性(硬さ)を確保する観点から、通常はNLGIのちょう度番号がNo.1〜No.3(JIS K2220のちょう度番号が1番〜3番)の範囲が選択される。
導電性グリースが硬すぎると転がり軸受のトルクが大きくなる場合があり、軟らかすぎると導電性グリースが転がり軸受から漏洩しやすい。
【0045】
〔保持器について〕
転がり軸受に組み込まれる保持器の種類は特に限定されるものではなく、鋼板プレス保持器,樹脂製の保持器等が使用可能である。樹脂の種類としては、例えばポリアミド系樹脂,ポリエーテル系樹脂,ポリフェニレンサルファイド樹脂等があげられ、ガラス繊維等の補強材を含有させてもよい。
【0046】
〔シールについて〕
転がり軸受に取り付けられるシールの種類は特に限定されるものではなく、鋼板製のシールド,ゴムシール等が使用可能である。また、グリースが転がり軸受から漏出しないようにシールできれば、接触形でも非接触形でもよい。さらに、導電性のシールを用いてもよい。
【0047】
〔転がり軸受の種類について〕
本実施形態においては、転がり軸受として深溝玉軸受を例示して説明したが、本発明の事務機用転がり軸受は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
【0048】
次に、前述の玉軸受1とほぼ同様な構成の7種(実施例1,2及び比較例1〜5)の玉軸受を用意して、その軸受抵抗の最大値を測定することにより導電性を評価した。
7種の玉軸受の構成は表1に示す通りである。なお、表1中の「SUS」はマルテンサイト系ステンレス鋼SUS440Cを意味し、その硬さはHRC58〜60である。また、「軸受鋼1」及び「軸受鋼2」は軸受鋼SUJ2を意味し、その硬さは「軸受鋼1」の場合はHRC62以上63.5未満であり、「軸受鋼2」の場合はHRC63.5〜65である。さらに、導電性グリースの充填量は、玉軸受の内外輪間に形成される空隙部の容積の30体積%とした。
【0049】
また、軸受内に充填した導電性グリースの構成は表2に示す通りである。無機化合物微粒子の平均粒径は2μm以下である。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
軸受抵抗の最大値の測定方法は以下の通りである。
各軸受について、ラジアル荷重を負荷しながら内輪を回転させて回転試験を行った。そして、回転開始直後,回転300時間後,及び回転600時間後の内外輪間の電気抵抗値を図2に示す回路によって測定して、導電性が経時変化する程度を評価した。前記回路は、内輪と外輪の電圧測定結果を抵抗値に換算するデータ収集システムを備えているので、回転中の電気抵抗値を得ることができる。
【0053】
測定条件を以下に示す。
回転速度 :150min-1
軸受に付与するラジアル荷重:19.6N(荷重条件1)又は8.8N(荷重条件2)
印加電圧 :6.2V
最大電流 :100μA
シリーズ抵抗:62kΩ
雰囲気温度 :室温
結果を表1に併せて示す。回転に伴って電気抵抗値が増加していくが、最大電気抵抗値が50kΩ未満である軸受を良好と判定した。なお、表1においては、最大電気抵抗値が20kΩ未満のものを◎、20kΩ以上50kΩ未満のものを○、50kΩ以上100kΩ未満のものを△、100kΩ以上のものを×で示した。また、1種の玉軸受につき2個ずつ測定を行い、表1には、2個の玉軸受の試験結果を全て示した。例えば、2個の玉軸受の最大電気抵抗値がともに20kΩ未満であった場合は、「◎◎」と示している。
【0054】
表1から分かるように、内外輪及び転動体が全てステンレス鋼で構成された比較例1は、回転初期の最大軸受抵抗値は低かったものの、回転時間が長期になるにしたがって最大軸受抵抗値が上昇した。これは、回転による転がり接触面の摩耗や粗化が大きく、その結果、酸化被膜や固着した油分等の絶縁膜によって軸受抵抗値が上昇したものと考えられる。
【0055】
これに対して、転動体(玉)を軸受鋼で構成した実施例1,2及び比較例3〜5は、比較例1に比べると、600時間回転後も最大軸受抵抗値が低く、導電性の経時的な低下が長期にわたって生じにくかった。特に、内輪も軸受鋼で構成した実施例1,2は、600時間回転後も軸受抵抗値がほとんど上昇しなかった。
【0056】
【発明の効果】
以上のように、本発明の事務機用転がり軸受は、耐食性が優れているとともに導電性の経時的な低下が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る事務機用転がり軸受の一実施形態である玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。
【図2】電気抵抗値を測定する回路の概略構成図である。
【符号の説明】
1 深溝玉軸受
2 外輪
3 内輪
4 玉
7 導電性グリース
Claims (4)
- 内輪と、少なくとも一部分が樹脂で構成されたハウジングに取り付けられる外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配設された複数の転動体と、前記内輪及び前記外輪の間に形成され前記転動体が配設された空隙部内に充填された導電性グリースと、を備える事務機用転がり軸受において、
前記内輪を軸受用鋼で構成し、前記外輪をマルテンサイト系ステンレス鋼で構成し、前記転動体を前記マルテンサイト系ステンレス鋼よりも硬い軸受用鋼で構成したことを特徴とする事務機用転がり軸受。 - 前記内輪,前記外輪,及び前記転動体の硬さをそれぞれHRC57〜64,HRC54〜62,及びHRC60〜65とし、且つ、前記転動体は前記内輪及び前記外輪よりも硬いことを特徴とする請求項1に記載の事務機用転がり軸受。
- 前記導電性グリースの基油を合成炭化水素油,フッ素油,及び高度精製された鉱油の少なくとも1種で構成し、該基油の40℃における動粘度を5〜400mm2 /sとしたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の事務機用転がり軸受。
- 前記導電性グリースは平均粒径2μm以下の無機化合物を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の事務機用転がり軸受。
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