JP2005314497A - 導電性グリース及び転動装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】低発塵性と優れた導電性を有するグリース及び転動装置を提供する。
【解決手段】深溝玉軸受の軸受空間には、基油と導電性付与添加剤とを含有する導電性グリースGが充填されている。基油は、80℃における蒸気圧が1.5×10-5Pa以下のシラハイドロカーボンであり、導電性付与添加剤はカーボンブラックである。導電性付与添加剤の含有量は、導電性グリースG全体の1.5質量%以上20質量%未満である。
【選択図】 図1

Description

本発明は、導電性に優れたグリース及び転動装置に関する。
精密機器は製造時に塵埃等の微粒子が付着すると不良品が発生しやすくなるため、微粒子及び静電気が発生しにくい製造環境を整える工夫がなされている。例えば、清浄室内の雰囲気を汚染するグリース由来の浮遊性微粒子を発生させないように、製造設備内で使用される転がり軸受には、低発塵性のグリースが使用されている。
一方、複写機等の事務機器に使用される転がり軸受は、トナーを定着させる等の目的から高温高湿な環境で使用されるので、このような環境に対する耐久性(耐食性)が要求される。また、複写機は、回転する感光ドラムを帯電させ、文字や画像の部分以外については軸部材側に除電した後、文字や画像の部分にトナーを吸着させ、さらに、そのトナーを紙に転写して現像を行っている。文字や画像を安定させるためには、前述したような感光ドラムの帯電及び除電が確実に行われる必要があるので、感光ドラムを支持する転がり軸受には導電性が要求される。
転がり軸受に導電性を付与するため、従来は転がり軸受を支持する軸部材と感光ドラムとをブラシを使用して通電させる方法が採用されていたが、この方法は製造コストが高いため、近年においては導電性グリースを用いて軸受転動部を通電し、外輪から通電及び除電する方法が採用されている。すなわち、転がり軸受に導電性を付与するためには、従来にあっては導電性グリースが不可欠とされている。
導電性グリースとしては、増ちょう剤と導電性付与添加剤とを兼ねてカーボンブラックを添加したものが主流であり(例えば、特許文献1に記載のもの)、このような導電性グリースは初期には優れた導電性を示す。しかしながら、導電性グリースは当初は転がり軸受の軌道輪の軌道面と転動体との接触面(以降は「転がり接触面」と記すこともある)に十分に存在していて、その導電性グリース中のカーボンブラックによって軌道輪と転動体との間の導電性が確保されているものの、軌道輪と転動体との相対運動により導電性グリースが前記転がり接触面から排除されたり、カーボンブラック粒子のチェーンストラクチャーが破壊されたりするため、転がり軸受の抵抗値が経時的に大きくなることがある(導電性グリースの導電性が経時的に低下することがある)。
このような問題点を解決するため、グリースのちょう度を規定して(グリースを柔らかくして)グリースの硬化を防止したり、転がり軸受の形状を規定してグリースを転走面に入りやすくしたものが、特許文献2に開示されている。
また、転がり軸受を長期間にわたって作動させると、軌道面に酸化被膜が生成して転がり軸受の電気抵抗値が上昇する場合がある。その対策として、転がり軸受の転がり接触面を保護するために極圧添加剤や摩耗防止剤を配合したグリース(例えば特許文献3)や、無機化合物微粒子を配合したグリース(例えば特許文献4)が提案されている。さらに、フタル酸ジブチル吸油量の小さいカーボンブラックを多量に配合したグリースや、ウィスカを配合したグリース(例えば特許文献5)も提案されている。
さらに、特許文献6,7には、高温耐久性に優れる導電性グリースが封入された転がり軸受が開示されており、この導電性グリースはフッ素油とカーボンブラックを含有している。さらに、特許文献8には、清浄室内用の導電性転がり軸受が開示されており、この転がり軸受に封入されたグリースは、酸化インジウム及び酸化スズの焼結粉末とシクロペンタン油とを含有している。
さらに、導電性グリースの他に導電性シール等の通電用部品を備えた導電性転がり軸受が提案されている。この導電性転がり軸受を自動車のステアリング支持軸受に用いれば、通電・遮断の切り替えを転がり軸受を介して行うことができる。
特公昭63−24038号公報 特開平1−307516号公報 特開2002−80879号公報 特開2003−42166号公報 特開2002−53890号公報 特開2001−304276号公報 特開2002−250353号公報 特開2002−310168号公報
低発塵性のグリースとしては、基油として合成油、増ちょう剤としてウレア化合物,リチウム石けん等を含有するものが主流である。
一方、転がり軸受に導電性を付与するために、銀イオンプレーティング膜や金属粉等の固体潤滑剤を用いる方法があるが、転がり軸受の耐久性や回転時の導電性が不十分である場合がある。また、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)等のフッ素系潤滑剤は低発塵性と潤滑性は良好であるが、電気絶縁性を有しているため、導電性転がり軸受への適用は不向きである。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、低発塵性と優れた導電性を有するグリース及び転動装置を提供することを課題とする。
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1の導電性グリースは、基油と導電性付与添加剤とを含有する導電性グリースにおいて、前記基油を、80℃における蒸気圧が1.5×10-5Pa以下の合成油とし、前記導電性付与添加剤の含有量を1.5質量%以上20質量%未満としたことを特徴とする。 また、本発明に係る請求項2の導電性グリースは、請求項1に記載の導電性グリースにおいて、前記基油を、下記の化学式で表されるシラハイドロカーボンとしたことを特徴とする。
Figure 2005314497
なお、上記化学式中のR1 ,R2 ,及びR3 は、相互に同種又は異種の炭化水素基であり、nは0〜2の整数である。
このようなグリースは、低蒸発性の基油を含有しているので、低発塵性である。また、導電性付与添加剤を含有しているので、優れた導電性を有している。
さらに、本発明に係る請求項3の転動装置は、外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配置された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、を備える転動装置において、前記内方部材と前記外方部材との間に形成され前記転動体が配された空隙部内に、請求項1又は請求項2に記載の導電性グリースを充填したことを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項4の転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配された複数の転動体と、を備える転がり軸受において、前記内輪及び前記外輪の間に形成され前記転動体が配された空隙部内に、請求項1又は請求項2に記載の導電性グリースを充填したことを特徴とする。
このような転動装置及び転がり軸受は、低発塵性と優れた導電性を有するグリースを備えているので、低発塵性であるとともに優れた導電性を有している。
なお、本発明の導電性グリースは、基油と導電性付与添加剤であるカーボンブラックとを含有することが好ましい。そして、前記基油は、鉱油及び合成油の少なくとも一方を含有し、前記カーボンブラックは、平均一次粒径が10nm以上200nm以下で且つ比表面積が20m2 /g以上80m2 /g以下の第一カーボンブラックと、平均一次粒径が10nm以上200nm以下で且つ比表面積が200m2 /g以上1500m2 /g以下の第二カーボンブラックと、を含有することが好ましい。
このような構成の導電性グリースは、高温下においても優れた導電性を示し、且つ、高温下においても離油しにくい。また、転がり軸受等の転動装置に使用した場合にも、転動装置から外部に漏洩しにくい。すなわち、第一カーボンブラックにより優れた導電性が付与され、且つ、第二カーボンブラックにより離油が抑制される。そして、両カーボンブラックがともに含有されていることにより、カーボンブラック同士の凝集が抑制され、導電性グリースに適度な流動性が付与される。
両カーボンブラックの比表面積が前記範囲内であれば、前述のような優れた効果が得られるが、第一カーボンブラックの比表面積は23m2 /g以上80m2 /g以下であることがより好ましく、23m2 /g以上60m2 /g以下であることがさらに好ましく、27m2 /g以上42m2 /g以下であることが最も好ましい。また、第二カーボンブラックの比表面積は250m2 /g以上1000m2 /g以下であることがより好ましく、320m2 /g以上1000m2 /g以下であることがさらに好ましく、370m2 /g以上800m2 /g以下であることが最も好ましい。なお、この比表面積の数値は、窒素吸着法により測定された値である。
また、平均一次粒径が10nm未満であると、カーボンブラック同士が凝集する可能性が高くなり、200nm超過であると、導電性グリースの流動性が阻害されるおそれがある。このような問題がより生じにくくするためには、両カーボンブラックの平均一次粒径は、10nm以上100nm以下であることがより好ましく、10nm以上80nm以下であることがさらに好ましく、13nm以上70nm以下であることが最も好ましい。
また、この導電性グリースに含まれる第一カーボンブラックのDBP吸収量は、30ml/100g以上160ml/100g以下であり、第二カーボンブラックのDBP吸収量は、80ml/100g以上500ml/100g以下であることが好ましい。
第一カーボンブラックのDBP吸収量が30ml/100g未満であると、第一カーボンブラックの導電性グリース中への分散性が不十分となりやすく、160ml/100gを超えると、カーボンブラック同士の凝集を防止する効果が低くなる。このような問題がより生じにくくするためには、第一カーボンブラックのDBP吸収量は、50ml/100g以上160ml/100g以下であることがより好ましく、60ml/100g以上150ml/100g以下であることがさらに好ましく、67ml/100g以上140ml/100g以下であることが最も好ましい。
また、第二カーボンブラックのDBP吸収量が80ml/100g未満であると、基油の漏洩等が生じやすくなり、500ml/100gを超えると、カーボンブラック同士が凝集する傾向が強くなる。このような問題がより生じにくくするためには、第二カーボンブラックのDBP吸収量は、90ml/100g以上450ml/100g以下であることがより好ましく、100ml/100g以上400ml/100g以下であることがさらに好ましく、140ml/100g以上360ml/100g以下であることが最も好ましい。
さらに、この導電性グリースに含まれる前記第一カーボンブラックと前記第二カーボンブラックとの質量比は、25:75以上95:5以下であり、前記第一カーボンブラックと前記第二カーボンブラックとの合計の含有量は、導電性グリース全体の1.5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
このような構成であれば、両カーボンブラックの特性のバランスがとれて、導電性グリースの導電性及び流動性が良好となる。また、転動装置からの漏洩や基油の離油が生じにくくなる。
第一カーボンブラックと第二カーボンブラックとの合計量における第一カーボンブラックの割合が25質量%未満(すなわち第二カーボンブラックの割合が75質量%超過)であると、カーボンブラックによる増粘効果が大きくなるので全カーボンブラックの含有量を少なくできるが、高温下における離油が大きくなるおそれがある。一方、第二カーボンブラックの割合が5質量%未満(すなわち第一カーボンブラックの割合が95質量%超過)であると、基油の保持力が不十分となるため、全カーボンブラックの含有量を多くする必要がでてくる。また、初期の導電性は良好であるが、長期間にわたって良好な導電性を維持できないおそれがある。
このような問題がより生じにくくするためには、第一カーボンブラックと第二カーボンブラックとの質量比は、50:50以上95:5以下であることがより好ましく、75:25以上90:10以下であることがさらに好ましく、75:25以上88:12以下であることが最も好ましい。
また、第一カーボンブラックと第二カーボンブラックとの合計の含有量が、導電性グリース全体の1.5質量%未満であると、導電性が不十分となるおそれがあるとともに、基油の離油が十分に抑制できないおそれがある。一方、20質量%超過であると、導電性グリースの流動性が低下するおそれがある。
このような問題がより生じにくくするためには、第一カーボンブラックと第二カーボンブラックとの合計の含有量は、導電性グリース全体の3質量%以上17質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上15質量%以下であることがさらに好ましく、7質量%以上13質量%以下であることが最も好ましい。
さらに、この導電性グリースは、混和ちょう度が200以上300以下であることが好ましい。混和ちょう度が200未満であると、導電性グリースが硬いため流動性が不十分であり、300超過であると、導電性グリースがやわらかいため転動装置からの漏洩等が生じるおそれがある。
なお、本発明は、種々の転動装置に適用することができる。例えば、転がり軸受,ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等である。ここで、本発明における内方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には内輪、同じくボールねじの場合にはねじ軸、同じくリニアガイド装置の場合には案内レール、同じく直動ベアリングの場合には軸をそれぞれ意味する。また、外方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には外輪、同じくボールねじの場合にはナット、同じくリニアガイド装置の場合にはスライダ、同じく直動ベアリングの場合には外筒をそれぞれ意味する。
本発明の導電性グリース及び転動装置は、低発塵性と優れた導電性を有する。
本発明に係る導電性グリース及び転動装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係る転動装置の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。
図1の深溝玉軸受は、内輪1と、外輪2と、内輪1が有する軌道面1aと外輪2が有する軌道面2aとの間に転動自在に配された複数の転動体(玉)3と、対向する軌道面1a,2aの間に転動体3を保持する保持器4と、内輪1及び外輪2の間の隙間の開口を覆うシール5,5と、で構成されている。そして、内輪1と外輪2とシール5,5とで囲まれた空隙部(軸受空間)には導電性グリースGが充填されており、シール5,5により深溝玉軸受内部に密封されている。
この導電性グリースGは、基油と、グリースに導電性を付与する導電性付与添加剤とを含有している。基油は、80℃における蒸気圧が1.5×10-5Pa以下の合成油である。また、導電性付与添加剤の含有量は、導電性グリースG全体の1.5質量%以上20質量%未満である。
このような組成の導電性グリースGは、前述の合成油の蒸気圧が低く飛散しにくいので、低発塵性である。また、導電性付与添加剤の含有量が好適であるため、優れた導電性を有している。よって、この深溝玉軸受は、低発塵性であるとともに優れた導電性を有している。このような低発塵性で且つ優れた導電性を有する転がり軸受は、半導体製造設備,液晶パネル製造設備等における清浄室のように、高い清浄性を要求される環境においても、周辺環境に悪影響を及ぼすことなく好適に使用可能である。また、前述の合成油は樹脂に対するケミカルアタック性が低いので、基油や導電性グリースが飛散して周辺の樹脂製部品に接触したとしても、該樹脂製部品に悪影響を与えることがほとんどない。
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては、転動装置の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、転がり軸受の種類は深溝玉軸受に限定されるものではなく、本発明は様々な種類の転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
さらに、本発明は、転がり軸受に限らず、他の種類の様々な転動装置に対して適用することができる。例えば、ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等である。
さらに、シール5を導電性ゴムで構成された接触形シールとすれば、シール5によっても転がり軸受に導電性を保持させることができるので、転がり軸受の導電性がより向上する。ただし、通常のゴムシールやシールド板を用いても、何ら差し支えない。
さらに、転がり軸受に封入する導電性グリースGの種類も、転がり軸受に導電性を付与できるならば特に限定されるものではない。以下に、導電性グリースを構成する成分等について説明する。
〔基油について〕
導電性グリースの基油は、80℃における蒸気圧が1.5×10-5Pa以下の合成油とする必要がある。合成油の蒸気圧が1.5×10-5Pa超過であると、合成油が飛散しやすくなり、発塵が多くなるおそれがある。
このような合成油の例としては、ポリ−α−オレフィン油(PAO)等の合成炭化水素油,エステル油,エーテル油,ポリグリコール油,シリコン油,フルオロシリコーン油,フッ素油があげられ、特に、前述の化学式で表されるシラハイドロカーボンが好ましい。耐熱性や樹脂部分への低ケミカルアタック性を考えると、シラハイドロカーボンが好ましいことは勿論のこと、それ以外では合成炭化水素油,フッ素油が好ましく、PAOが特に好ましい。なお、これらは単独又は2種以上を混合して用いることができる。
〔導電性付与添加剤について〕
導電性グリースに使用される導電性付与添加剤としては、カーボンブラックが最も好ましい。カーボンブラックには製造方法や形態等によっていくつかの種類があるが、本発明に適用可能なカーボンブラックの種類は特に限定されるものではなく、ファーネスブラック,アセチレンブラック,ケチェンブラック等が使用できる。
導電性付与添加剤の粒子径は、転がり軸受等の転動装置に使用した際に異物(ゴミ)として作用しない程度である必要がある。異物として作用すると、硬い粒子の場合には軌道面や転動面の摩耗を促進し、転動装置の早期損傷の原因となる。また、転動装置の音響特性を劣化させる場合もある。市販のカーボンブラックの平均粒子径はおおむね200nmを下回っているので、用途や使用条件にもよるが異物として作用しない範囲である。
また、導電性付与添加剤は、比表面積が大きく、中空構造(ポーラス構造)となっていて、さらに、適度のチェーンストラクチャーを有しているものが好ましい。そうすれば、基油がポーラスの内部に浸入して導電性付与添加剤の構造を補強することとなるので、導電性付与添加剤の耐久性が向上する。また、導電性付与添加剤の表面に親油処理が施されていると、導電性付与添加剤に親油性が付与されているので、過度な油分離や硬化が抑制される。
導電性付与添加剤の含有量は、導電性グリース全体の1.5質量%以上20質量%未満とする必要がある。1.5質量%未満であると、導電性が不十分となるおそれがあるとともに、基油の離油が十分に抑制できないおそれがある。一方、20質量%以上であると、導電性グリースのちょう度が大きくなりすぎて(導電性グリースが硬くなりすぎて)流動性が低下することに加えて、基油の含有量が少なくなるため潤滑性が不十分となるおそれがある。
なお、金,銀,銅,スズ,亜鉛,アルミニウム等の金属粒子、酸化銀,硫化ニオブ,硝酸銀等の金属化合物粒子なども、導電性付与添加剤として使用することが可能である。
また、カーボンナノチューブのような繊維構造を有するものも好ましい。カーボンナノチューブはアスペクト比が大きく、さらに中空構造であるため、適度な基油への分散性や基油の吸収性を有している。よって、カーボンブラックと共存して、転動装置の導電性を高めることができる。
カーボンナノチューブ以外の繊維構造を有するものとしては、カーボンナノファイバー(例えば昭和電工株式会社製のVGCF)のような炭素繊維状結晶や、酸化亜鉛ウィスカ(例えば松下アトムテック社製のパナトラ)のような金属酸化物の針状単結晶等があげられる。
これらのカーボンブラック以外の導電性付与添加剤をカーボンブラックと共存させると、導電性の維持効果がより一層得られやすい。また、カーボンナノチューブのような繊維構造を有する導電性付与添加剤をカーボンブラックと共存させると、導電性グリースをより低発塵性とすることができる。
なお、導電性付与添加剤の中には増ちょう剤として作用するものもあるので、その場合には、導電性付与添加剤を増ちょう剤と兼ねて使用してもよい。また、増ちょう剤としての性質を有する導電性付与添加剤を、導電性付与添加剤と増ちょう剤とを兼ねて使用し、別の導電性付与添加剤を導電性付与添加剤としてさらに添加してもよい。
〔増ちょう剤について〕
導電性グリースには、導電性付与添加剤の分散性を維持するために、ウレア化合物,金属石けん,金属複合石けん等の増ちょう剤を添加してもよい。導電性グリースに耐熱性を付与したい場合は、ジウレア等のウレア化合物や金属複合石けんが好ましく、導電性グリースの体積固有抵抗率の低下を抑制するためには、金属石けんが好ましい。
金属石けんとしては、炭素数12〜24の高級脂肪酸の金属塩や、1個以上のヒドロキシル基を有する炭素数12〜24の高級ヒドロキシ脂肪酸の金属塩が好ましい。ヒドロキシル基を有していると、水素結合等の作用により繊維状構造が安定化される。高級脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸,ミリスチン酸,パルチミン酸,マルガリン酸,ステアリン酸,アラキジン酸,ベヘン酸,リグノセリン酸,牛脂脂肪酸等があげられ、高級ヒドロキシ脂肪酸としては、例えば、9 −ヒドロキシステアリン酸,10−ヒドロキシステアリン酸,12−ヒドロキシステアリン酸,9 ,10−ジヒドロキシステアリン酸等があげられる。これらの脂肪酸の中では、ステアリン酸と12−ヒドロキシステアリン酸とが最も好ましい。
金属としては、例えば、リチウム,ナトリウム等のアルカリ金属や、カルシウム,バリウム等のアルカリ土類金属、あるいはアルミニウム等があげられる。
〔添加剤について〕
導電性グリースには、必要に応じて種々の添加剤を添加してもよい。例えば、極圧剤,防錆剤,酸化防止剤,金属不活性化剤,油性向上剤,摩耗防止剤など、グリースに一般的に使用される添加剤を、単独又は2種以上混合して用いることができる。このような添加剤により、導電性グリースの各種性能をさらに向上させることができる。これらの添加剤はアウトガスに悪影響を与える場合があるので、その含有量は導電性グリース全体の5質量%未満とすることが好ましい。
極圧及び摩耗防止の目的で、塩素系極圧剤,イオウ系極圧剤,リン系極圧剤等の極圧剤を使用することができる。また、亜鉛,モリブデン,テルル,アンチモン,セレン,鉄,銅等のジチオカルバミン酸塩や、亜鉛,モリブデン,アンチモン等のジチオリン酸塩等も使用可能である。さらに、オクチル酸鉄,ナフテン酸銅,ジブチルスズサルファイド,フェネート,ホスフェート等も使用可能である。
また、防錆剤としては、例えば金属系防錆剤,無灰系防錆剤があげられる。金属系防錆剤の具体例としては、(石油)スルフォン酸金属塩(バリウム塩,カルシウム塩,マグネシウム塩,ナトリウム塩,亜鉛塩,アルミニウム塩,リチウム塩,セシウム塩等)のような油溶性スルホネートや、フェネート,サリシレート,ホスホネート等があげられる。また、炭酸カルシウムも使用可能である。無灰系防錆剤の具体例としては、コハク酸イミド,ベンジルアミン,コハク酸エステル,コハク酸ハーフエステル,ポリメタクリレート,ポリブテン,ポリカルボン酸アンモニウム塩等があげられる。
さらに、酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤(脂肪族アミン系及び芳香族アミン系),フェノール系酸化防止剤,イオウ系酸化防止剤,ジチオリン酸亜鉛等があげられる。
アミン系酸化防止剤の具体例としては、フェニル−1−ナフチルアミン,フェニル−2−ナフチルアミン,ジフェニルアミン,フェニレンジアミン,オレイルアミドアミン,フェノチアジン等があげられる。
フェノール系酸化防止剤の具体例としては、p−t−ブチルフェニルサリシレート、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−フェニルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−オクチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス−6−t−ブチル−m−クレゾール、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、2−n−オクチル−チオ−4,6−ジ(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチル)フェノキシ−1,3,5−トリアジン、4,4’−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等のヒンダードフェノールなどがあげられる。
さらに、金属不活性化剤としてはベンゾトリアゾール等があげられ、油性向上剤としては、脂肪酸(例えばオレイン酸,ステアリン酸)、アルコール(例えばラウリルアルコール,オレイルアルコール)、アミン(例えばステアリルアミン,セチルアミン)、リン酸エステル(例えばリン酸トリクレジル,ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸)、脂肪酸エステル(例えばポリオキシエチレンステアリン酸エステル,ラウリル酸エステル)、及び動植物油等があげられる。
〔導電性グリースの物性について〕
導電性グリースのちょう度は、導電性グリースを適用する用途や使用温度に適したちょう度であればよく、特に限定されるものではない。ただし、適度な柔軟性(硬さ)を確保する観点から、通常は混和ちょう度が175〜340(JIS K2220のちょう度番号が1番〜4番)の範囲が好ましく、混和ちょう度200〜300がより好ましく、混和ちょう度230〜270がさらに好ましい。
導電性グリースが硬すぎると転動装置のトルクの安定性が低下したり、転がり接触面へ導電性グリースが供給されにくくなったりする場合がある。一方、軟らかすぎると、導電性グリースが転動装置から漏洩しやすい。
また、導電性グリースの体積固有抵抗率は、106 Ω・cm以下であることが好ましい。106 Ω・cm超過であると、転動装置の導電性が不十分となるおそれがある。
〔実施例〕
以下に、さらに具体的な実施例を示して、本発明を説明する。
〔導電性の評価方法について〕
呼び番号6806ZZの深溝玉軸受を用意して、表1に示すようなグリースをそれぞれ封入した。グリースの封入量は、いずれの軸受も軸受空間容積の25体積%である。
Figure 2005314497
なお、表1に記載の各グリースに用いた基油は、以下の通りである。SHC1〜3はシラハイドロカーボンであり、SHC1〜3は下記のような化学構造を有している。また、ODCPはトリス(2−オクチルデシル)シクロペンタンである。
SHC1:(n−C12252 Si[C8 16Si(n−C12253 2
SHC2:Si[C3 6 Si(n−C6 133 4
SHC3:n−C8 17Si[C3 6 Si(n−C12253 3
また、カーボンブラックは、ライオンアクゾ社製のケッチェンブラックEC(平均一次粒径30nm、比表面積800m2 /g、DBP吸収量360ml/100g)である。さらに、金属酸化物は、三井金属鉱業株式会社製の酸化インジウム・酸化スズ複合酸化物であり、導電性を有している。
これらの深溝玉軸受について、軸受抵抗の最大値を測定することにより、導電性を評価した。軸受抵抗の最大値の測定方法は以下の通りである。各軸受について、ラジアル荷重を負荷しながら内輪を回転させて回転試験を行った。そして、回転400時間後の内外輪間の電気抵抗値を図2に示す回路によって測定して、導電性を評価した。前記回路は、内輪と外輪の電圧測定結果を抵抗値に換算するデータ収集システムを備えているので、回転中の電気抵抗値を得ることができる。
測定条件を以下に示す。
回転速度 :120min-1
軸受に付与するラジアル荷重:19.6N
印加電圧 :6.2V
最大電流 :100μA
シリーズ抵抗:62kΩ
雰囲気温度 :70℃
軸受の導電性の評価結果を表2に示す。回転に伴って電気抵抗値が増加していくが、最大電気抵抗値が30kΩ未満である軸受を良好と判定した。なお、表2においては、最大電気抵抗値が30kΩ未満のものを○、30kΩ以上60kΩ未満のものを△、60kΩ以上のものを×で示してある。
Figure 2005314497
〔焼付き耐久性の評価方法について〕
呼び番号6305の深溝玉軸受(内径25mm,外径62mm,幅17mm,ゴムシール付き)を用意して、前述と同じグリースをそれぞれ封入した。グリースの封入量は、いずれの軸受も軸受空間容積の35体積%である。この深溝玉軸受について、以下のような条件で回転試験を行い、軸受温度又は回転トルクが上昇した時点で焼付きが生じたとみなした。なお、回転トルクは、軸受を回転駆動するモータの電流値により測定した。
回転試験条件を以下に示す。
回転速度 :10000min-1
軸受に付与するラジアル荷重 :98N
軸受に付与するアキシアル荷重:98N
雰囲気温度 :150℃
焼付き耐久性の評価結果を表2に示す。なお、表2においては、500時間回転させても焼付きが生じなかったものを○、焼付きが生じたものを×で示してある。
〔発塵性(アウトガス)の評価方法について〕
表1に記載の各グリースについて、下記のようにして発塵性を評価した。10mlのグリースを入れたシャーレと、直径63.5mmの円形の鋼板とを、密閉されたガラス容器内に収容した。真空圧送機で排気することによりガラス容器内を所定の真空度に保ちながら、ガラス容器を145℃の恒温槽内に10日間静置した。その後、鋼板を取り出して、揮発した基油の影響による油にじみが生じているか否かを、目視により評価した。結果を表2に示す。表2においては、油にじみが全く生じていない場合は○、油にじみが生じていた場合は×で示してある。
〔樹脂との相性の評価方法について〕
表1に記載の各グリースについて、下記のようにして樹脂との相性(樹脂に対するケミカルアタック性)を評価した。幅10mm,長さ80mm,厚さ3mmのポリカーボネート樹脂製試験片を、定歪治具の湾曲面に固定した。試験片は湾曲面に沿って湾曲するので、所定の歪み率の歪みが負荷される。次に、定歪治具に固定された試験片の上面にグリースを塗布し、温度23℃、相対湿度50〜60%の環境下に48時間静置した。定歪治具から試験片を取り外し、判定用治具により試験片に過大歪みを負荷して、グリースを塗布した表面を肉眼で観察した。
湾曲面の曲率が異なる複数の定歪治具を用いることにより、種々の歪み率(0.2〜1.6%の範囲で0.2%間隔で試験した)の歪みを負荷した試験片を用意して、試験を行った。そして、試験片の表面(グリースを塗布した面)にクレーズ又はクラックの発生が認められなかった歪み率の最大値を限界歪み率とし、この限界歪み率の大きさによって樹脂に対するケミカルアタック性を評価した。
樹脂に対するケミカルアタック性の評価結果を表2に示す。表2においては、限界歪み率が1%以上であった場合は○、1%未満であった場合は×で示してある。
表2から分かるように、実施例の転がり軸受は、導電性及び焼付き耐久性が優れていた。また、実施例の転がり軸受に使用されたグリースは、低発塵(低アウトガス)で樹脂に対するケミカルアタック性も低かった。これに対して、比較例については、上記の4つの評価項目のうち少なくとも一つが不十分であった。
本発明の導電性グリース及び転動装置は、例えば半導体製造設備,液晶パネル製造設備等における清浄室内で好適に使用可能である。
本発明に係る転動装置の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。 電気抵抗値を測定する回路の概略構成図である。
符号の説明
1 内輪
1a 軌道面
2 外輪
2a 軌道面
3 転動体
G 導電性グリース

Claims (4)

  1. 基油と導電性付与添加剤とを含有する導電性グリースにおいて、前記基油を、80℃における蒸気圧が1.5×10-5Pa以下の合成油とし、前記導電性付与添加剤の含有量を1.5質量%以上20質量%未満としたことを特徴とする導電性グリース。
  2. 前記基油を、下記の化学式で表されるシラハイドロカーボンとしたことを特徴とする請求項1に記載の導電性グリース。
    Figure 2005314497
    なお、上記化学式中のR1 ,R2 ,及びR3 は、相互に同種又は異種の炭化水素基であり、nは0〜2の整数である。
  3. 外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配置された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、を備える転動装置において、前記内方部材と前記外方部材との間に形成され前記転動体が配された空隙部内に、請求項1又は請求項2に記載の導電性グリースを充填したことを特徴とする転動装置。
  4. 内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配された複数の転動体と、を備える転がり軸受において、前記内輪及び前記外輪の間に形成され前記転動体が配された空隙部内に、請求項1又は請求項2に記載の導電性グリースを充填したことを特徴とする転がり軸受。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN113958696A (zh) * 2020-07-20 2022-01-21 丰田自动车株式会社 滑动构件

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