JP2005308067A - 転がり軸受 - Google Patents

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Abstract

【課題】導電性の経時的な低下が長期間にわたって生じにくい転がり軸受を提供する。
【解決手段】4点接触玉軸受の内輪1の軌道面1a,1b及び外輪2の軌道面2a,2bには、軌道面1aと軌道面1bとの境界部分、及び、軌道面2aと軌道面2bとの境界部分に、それぞれ凹部7が形成されていて、凹部7内には導電性グリースが保持されている。
【選択図】 図1

Description

本発明は、導電性を良好に維持可能な転がり軸受に関する。
複写機,プリンタ等の事務機に使用される転がり軸受には導電性が求められるので、転がり軸受に導電性を付与するために、転がり軸受内部に導電性グリースが封入される場合がある。
導電性グリースとしては、増ちょう剤と導電性付与添加剤とを兼ねてカーボンブラックを添加したものが主流であり(例えば、特許文献1に記載のもの)、このような導電性グリースは初期には優れた導電性を示す。しかしながら、導電性グリースは当初は転がり軸受の軌道輪の軌道面と転動体との接触面(以降は「転がり接触面」と記すこともある)に十分に存在していて、その導電性グリース中のカーボンブラックによって軌道輪と転動体との間の導電性が確保されているものの、軌道輪と転動体との相対運動により導電性グリースが前記転がり接触面から排除されたり、カーボンブラック粒子のチェーンストラクチャーが破壊されたりするため、転がり軸受の抵抗値が経時的に大きくなることがある(導電性グリースの導電性が経時的に低下することがある)。
このような問題点を解決するため、グリースのちょう度を規定して(グリースを柔らかくして)グリースの硬化を防止したり、軸受の形状を規定してグリースを転走面に入りやすくしたものが、特許文献2に開示されている。
また、保持器の改良によりグリースの流動性を高めて、優れた導電性を長期間にわたって維持する転がり軸受の例が、特許文献3に示されている。
特公昭63−24038号公報 特開平1−307516号公報 特願2002−310116号明細書
しかしながら、特許文献2のようにグリースを柔らかくしても、長期間にわたって転がり軸受を使用していると、転がり軸受の軌道輪の軌道面と転動体との接触面から導電性付与添加剤が排除されて絶縁性の油膜が形成され、転がり軸受の抵抗値が経時的に大きくなるおそれがある。
また、ヒートロールやプレッシャーロール等のような面圧が高い部分に使用される転がり軸受の場合には、特許文献3のような保持器の改良だけでは不十分である。
そこで、本発明は上記のような従来の転がり軸受が有する問題点を解決し、長期間にわたって導電性の経時的な低下が生じにくい転がり軸受を提供することを課題とする。
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1の転がり軸受は、軌道面を有する内輪と、前記内輪の軌道面に対向する軌道面を有する外輪と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、を備える転がり軸受において、前記両軌道面の少なくとも一方に、導電性グリースを保持する凹部を設けたことを特徴とする。
このような構成であれば、凹部に導電性グリースが保持されるため、軌道輪と転動体との間に導電性グリースが常に存在することとなって、長期間にわたって良好な導電性が維持される。
また、本発明に係る請求項2の転がり軸受は、請求項1に記載の転がり軸受において、前記両軌道面と前記転動体とが合計で3点以上で接触する多点接触玉軸受であることを特徴とする。
多点接触玉軸受は軌道面に凹部を有しているので、この凹部に導電性グリースが保持され、長期間にわたって良好な導電性が維持される。
さらに、本発明に係る請求項3の転がり軸受は、請求項1又は請求項2に記載の転がり軸受において、シール又はシールドを備えることを特徴とする。
なお、導電性グリースは、基油とカーボンブラックとを含有することが好ましい。そして、前記基油は、鉱油及び合成油の少なくとも一方を含有し、前記カーボンブラックは、平均一次粒径が10nm以上200nm以下で且つ比表面積が20m2 /g以上80m2 /g以下の第一カーボンブラックと、平均一次粒径が10nm以上200nm以下で且つ比表面積が200m2 /g以上1500m2 /g以下の第二カーボンブラックと、を含有することが好ましい。
このような構成の導電性グリースは、高温下においても優れた導電性を示し、且つ、高温下においても離油しにくい。また、転がり軸受に使用した場合にも、転がり軸受から外部に漏洩しにくい。すなわち、第一カーボンブラックにより優れた導電性が付与され、且つ、第二カーボンブラックにより離油が抑制される。そして、両カーボンブラックがともに含有されていることにより、カーボンブラック同士の凝集が抑制され、導電性グリースに適度な流動性が付与される。
両カーボンブラックの比表面積が前記範囲内であれば、前述のような優れた効果が得られるが、第一カーボンブラックの比表面積は23m2 /g以上80m2 /g以下であることがより好ましく、23m2 /g以上60m2 /g以下であることがさらに好ましく、27m2 /g以上42m2 /g以下であることが最も好ましい。また、第二カーボンブラックの比表面積は250m2 /g以上1000m2 /g以下であることがより好ましく、320m2 /g以上1000m2 /g以下であることがさらに好ましく、370m2 /g以上800m2 /g以下であることが最も好ましい。なお、この比表面積の数値は、窒素吸着法により測定された値である。
また、平均一次粒径が10nm未満であると、カーボンブラック同士が凝集する可能性が高くなり、200nm超過であると、導電性グリースの流動性が阻害されるおそれがある。このような問題がより生じにくくするためには、両カーボンブラックの平均一次粒径は、10nm以上100nm以下であることがより好ましく、10nm以上80nm以下であることがさらに好ましく、13nm以上70nm以下であることが最も好ましい。
また、この導電性グリースに含まれる第一カーボンブラックのDBP吸収量は、30ml/100g以上160ml/100g以下であり、第二カーボンブラックのDBP吸収量は、80ml/100g以上500ml/100g以下であることが好ましい。
第一カーボンブラックのDBP吸収量が30ml/100g未満であると、第一カーボンブラックの導電性グリース中への分散性が不十分となりやすく、160ml/100gを超えると、カーボンブラック同士の凝集を防止する効果が低くなる。このような問題がより生じにくくするためには、第一カーボンブラックのDBP吸収量は、50ml/100g以上160ml/100g以下であることがより好ましく、60ml/100g以上150ml/100g以下であることがさらに好ましく、67ml/100g以上140ml/100g以下であることが最も好ましい。
また、第二カーボンブラックのDBP吸収量が80ml/100g未満であると、基油の漏洩等が生じやすくなり、500ml/100gを超えると、カーボンブラック同士が凝集する傾向が強くなる。このような問題がより生じにくくするためには、第二カーボンブラックのDBP吸収量は、90ml/100g以上450ml/100g以下であることがより好ましく、100ml/100g以上400ml/100g以下であることがさらに好ましく、140ml/100g以上360ml/100g以下であることが最も好ましい。
さらに、この導電性グリースに含まれる前記合成油は、40℃における動粘度が10mm2 /s以上500mm2 /s以下のフッ素油や合成炭化水素油であることが好ましい。 フッ素油は耐熱性が優れているので、基油としてフッ素油を含有する導電性グリースは、高温下においてより優れた導電性を示す。また、フッ素油や合成炭化水素油は樹脂に対するケミカルアタックが小さいので、仮に導電性グリース又は基油が転がり軸受から漏洩して周辺の樹脂製部品に接触しても、樹脂製部品の劣化が生じにくい。
フッ素油の40℃における動粘度が10mm2 /s未満であると、耐熱性が不十分となるおそれがあり、500mm2 /s超過であると、転がり軸受に使用した際のトルクが過大になるおそれがある。200℃程度の高温下で使用される転がり軸受に封入される場合には、トルク性能と耐熱性との兼ね合いから、フッ素油の40℃における動粘度は、200mm2 /s以上450mm2 /s以下であることがより好ましく、250mm2 /s以上400mm2 /s以下であることがさらに好ましく、300mm2 /s以上400mm2 /s以下であることが最も好ましい。
さらに、この導電性グリースに含まれる前記第一カーボンブラックと前記第二カーボンブラックとの質量比は、25:75以上95:5以下であり、前記第一カーボンブラックと前記第二カーボンブラックとの合計の含有量は、導電性グリース全体の1.5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
このような構成であれば、両カーボンブラックの特性のバランスがとれて、導電性グリースの導電性及び流動性が良好となる。また、転がり軸受からの漏洩や基油の離油が生じにくくなる。
第一カーボンブラックと第二カーボンブラックとの合計量における第一カーボンブラックの割合が25質量%未満(すなわち第二カーボンブラックの割合が75質量%超過)であると、カーボンブラックによる増粘効果が大きくなるので全カーボンブラックの含有量を少なくできるが、高温下における離油が大きくなるおそれがある。一方、第二カーボンブラックの割合が5質量%未満(すなわち第一カーボンブラックの割合が95質量%超過)であると、基油の保持力が不十分となるため、全カーボンブラックの含有量を多くする必要がでてくる。また、初期の導電性は良好であるが、長期間にわたって良好な導電性を維持できないおそれがある。
このような問題がより生じにくくするためには、第一カーボンブラックと第二カーボンブラックとの質量比は、50:50以上95:5以下であることがより好ましく、75:25以上90:10以下であることがさらに好ましく、75:25以上88:12以下であることが最も好ましい。
また、第一カーボンブラックと第二カーボンブラックとの合計の含有量が、導電性グリース全体の1.5質量%未満であると、導電性が不十分となるおそれがあるとともに、基油の離油が十分に抑制できないおそれがある。一方、20質量%超過であると、導電性グリースの流動性が低下するおそれがある。
このような問題がより生じにくくするためには、第一カーボンブラックと第二カーボンブラックとの合計の含有量は、導電性グリース全体の3質量%以上17質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上15質量%以下であることがさらに好ましく、7質量%以上13質量%以下であることが最も好ましい。
さらに、この導電性グリースは、平均一次粒径が5nm以上10μm以下である金属酸化物,金属窒化物,金属炭化物,粘土鉱物,クラスターダイヤモンド,及びフラーレンのうち一種以上の粉末を、導電性グリース全体の0.05質量%以上5質量%以下含有することが好ましい。
このような構成であれば、転がり軸受の軌道面や転動体表面に酸化絶縁膜が生成することを抑制することができる。前述の各粉末の平均一次粒径が5nm未満であると、酸化絶縁膜の生成を防止する効果が不十分となり、10μm超過であると、転がり軸受に使用した場合に異物として作用するおそれがある。このような問題がより生じにくくするためには、平均一次粒径は5nm以上2μm以下であることがより好ましく、10nm以上500nm以下であることがさらに好ましく、10nm以上200nm以下であることが最も好ましい。
また、粉末の含有量が導電性グリース全体の0.05質量%未満であると、酸化絶縁膜の生成を防止する効果が乏しく、5質量%超過であると、導電性グリースの流動性が低下したり、軌道面や転動体表面を過剰に削り取ってしまうおそれがある。このような問題がより生じにくくするためには、粉末の含有量は、導電性グリース全体の0.05質量%以上2質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上1質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下であることが最も好ましい。
さらに、この導電性グリースには、繊維長さが5nm以上10μm以下で且つアスペクト比が5以上1000以下であるカーボンナノチューブ,カーボンナノファイバー,カーボンナノホーン,炭素繊維,及び金属酸化物ウイスカーのうち一種以上を、導電性グリース全体の0.05質量%以上5質量%以下含有させてもよい。
このような繊維状物を含有する導電性グリースは、導電性がより優れている。前述の各繊維状物の繊維長さが5nm未満であると、導電性を向上させる効果が乏しく、10μm超過であると、転がり軸受に使用した場合に異物として作用するおそれがある。また、繊維状物の含有量が導電性グリース全体の0.05質量%未満であると、導電性を向上させる効果が乏しく、5質量%超過であると、導電性グリースの流動性が低下するおそれがある。
さらに、この導電性グリースは、混和ちょう度が200以上300以下であることが好ましい。混和ちょう度が200未満であると、導電性グリースが硬いため流動性が不十分であり、300超過であると、導電性グリースがやわらかいため転がり軸受からの漏洩等が生じるおそれがある。
なお、混和ちょう度を調整するために、増ちょう剤を添加してもよい。増ちょう剤の種類は特に限定されるものではないが、平均一次粒径が5nm以上10μm以下のポリテトラフルオロエチレン樹脂(以降はPTFE樹脂と記す)が好ましい。平均一次粒径が5nm未満であると、増ちょう効果が乏しく、10μm超過であると、転がり軸受に使用した場合に異物として作用するおそれがある。
PTFE樹脂の含有量は、導電性グリースの混和ちょう度が200以上300以下となるならば特に限定されるものではないが、1.5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。1.5質量%未満であると、増ちょう効果が乏しく、20質量%超過であると、導電性グリースの流動性が不十分となるおそれがある。
本発明の転がり軸受は、導電性グリースを保持する凹部を軌道面に設けたので、長期間にわたって導電性の経時的な低下が生じにくい。
本発明に係る転がり軸受の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係る転がり軸受の一実施形態である4点接触玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。
図1の4点接触玉軸受は、内輪1と、外輪2と、内輪1が有する軌道面1a,1bと外輪2が有する軌道面2a,2bとの間に転動自在に配された複数の転動体(玉)3と、対向する軌道面1a,1b,2a,2bの間に転動体3を保持する保持器4と、内輪1及び外輪2の間の隙間の開口を覆うシール5,5と、で構成されている。そして、内輪1と外輪2とシール5,5とで囲まれた空間(軸受空間)には、図示しない導電性グリースが充填されており、シール5,5により玉軸受内部に密封されている。
軌道面1a,1b及び軌道面2a,2bの断面形状は、図1から分かるように、ゴシックアーチ形状(中心の異なる2つの同一円弧を組合せた略V字状)であり、軌道面1aと軌道面1bとの境界部分、及び、軌道面2aと軌道面2bとの境界部分には、それぞれ凹部7が形成されていて、凹部7内には導電性グリースが保持されている。そのため、軌道輪と転動体との間に導電性グリースが常に存在することとなって、長期間にわたって軸受の良好な導電性が維持される。
また、凹部7内の導電性グリースは、軌道面1a,1b,2a,2bと転動体3との接触面(転がり接触面)に供給されるので、この転がり接触面には十分な導電性グリースが存在することとなる。その結果、転がり接触面の摩耗や酸化絶縁膜の生成も抑制されるため、軸受の導電性が長期間にわたって安定している。
この軸受は、アキシアル方向の予圧を負荷した状態で使用してもよいし、ラジアル荷重のみを負荷した状態で使用してもよい。また、負のすきまを有する状態で使用しても差し支えない。
なお、凹部7の形状や大きさについては、導電性グリースが十分に保持されるならば、特に限定されるものではない。
また、本発明に係る転がり軸受は、図1のような4点接触玉軸受に限定されるものではなく、例えば、図2に示すような、周方向にわたる溝(凹部7に相当する)を軌道面の境界部分に有する4点接触玉軸受や、図3,4に示すような3点接触玉軸受に対しても適用可能である。なお、図2〜4においては、図1と同一又は相当する部分には、図1と同一の符号を付してある。
さらに、本発明に係る転がり軸受は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用可能である。例えば、深溝玉軸受,アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
さらに、転がり軸受に封入する導電性グリースの種類も、転がり軸受に導電性を付与できるならば特に限定されるものではない。以下に、導電性グリースを構成する成分等について説明する。
〔基油について〕
導電性グリースの基油には、鉱油,合成油等が使用される。鉱油の例としては、パラフィン系鉱油,ナフテン系鉱油があげられ、合成油の例としては、ポリ−α−オレフィン油(PAO)等の合成炭化水素油,エステル油,エーテル油,ポリグリコール油,シリコン油,フルオロシリコーン油,フッ素油があげられる。これらは単独又は2種以上を混合して用いることができる。なお、耐熱性や樹脂部分への低ケミカルアタック性を考えると、合成炭化水素油,フッ素油が好ましく、PAOが特に好ましい。
〔導電性付与添加剤について〕
導電性グリースに使用される導電性付与添加剤としては、カーボンブラックが最も好ましい。カーボンブラックには製造方法や形態等によっていくつかの種類があるが、本発明に適用可能なカーボンブラックの種類は特に限定されるものではなく、ファーネスブラック,アセチレンブラック,ケチェンブラック等が使用できる。
導電性付与添加剤の粒子径は、転がり軸受に封入した際に異物(ゴミ)として作用しない程度である必要がある。異物として作用すると、硬い粒子の場合には軌道面や転動面の摩耗を促進し、転がり軸受の早期損傷の原因となる。また、転がり軸受の音響特性を劣化させる場合もある。市販のカーボンブラックの平均粒子径はおおむね200nmを下回っているので、用途や使用条件にもよるが異物として作用しない範囲である。
また、導電性付与添加剤は、比表面積が大きく、中空構造(ポーラス構造)となっていて、さらに、適度のチェーンストラクチャーを有しているものが好ましい。そうすれば、基油がポーラスの内部に浸入して導電性付与添加剤の構造を補強することとなるので、導電性付与添加剤の耐久性が向上する。また、導電性付与添加剤の表面に親油処理が施されていると、導電性付与添加剤に親油性が付与されているので、過度な油分離や硬化が抑制される。
導電性付与添加剤の含有量は、導電性グリース全体の1質量%以上20質量%以下とすることが好ましい。1質量%未満であると、十分な導電性が得られにくい。一方、20質量%超過であると、導電性グリースのちょう度が大きくなりすぎる(グリース組成物が硬くなりすぎる)ことに加えて、基油の含有量が少なくなるため潤滑性が不十分となるおそれがある。
なお、金,銀,銅,スズ,亜鉛,アルミニウム等の金属粒子、酸化銀,硫化ニオブ,硝酸銀等の金属化合物粒子なども、導電性付与添加剤として使用することが可能である。
また、カーボンナノチューブのような繊維構造を有するものも好ましい。カーボンナノチューブはアスペクト比が大きく、さらに中空構造であるため、適度な基油への分散性や基油の吸収性を有している。よって、カーボンブラックと共存して、転がり軸受の導電性を高めることができる。
カーボンナノチューブ以外の繊維構造を有するものとしては、カーボンナノファイバー(例えば昭和電工株式会社製のVGCF)のような炭素繊維状結晶や、酸化亜鉛ウィスカ(例えば松下アトムテック社製のパナトラ)のような金属酸化物の針状単結晶等があげられる。
これらのカーボンブラック以外の導電性付与添加剤をカーボンブラックと共存させると、導電性の維持効果がより一層得られやすい。
なお、導電性付与添加剤の中には増ちょう剤として作用するものもあるので、その場合には、導電性付与添加剤を増ちょう剤と兼ねて使用してもよい。また、増ちょう剤としての性質を有する導電性付与添加剤を、導電性付与添加剤と増ちょう剤とを兼ねて使用し、別の導電性付与添加剤を導電性付与添加剤としてさらに添加してもよい。
〔増ちょう剤について〕
導電性グリースには、導電性付与添加剤の分散性を維持するために、ウレア化合物,金属石けん,金属複合石けん等の増ちょう剤を添加してもよい。導電性グリースに耐熱性を付与したい場合は、ジウレア等のウレア化合物や、金属複合石けんが好ましく、導電性グリースの体積固有抵抗率の低下を抑制するためには、金属石けんが好ましい。
金属石けんとしては、炭素数12〜24の高級脂肪酸の金属塩や、1個以上のヒドロキシル基を有する炭素数12〜24の高級ヒドロキシ脂肪酸の金属塩が好ましい。ヒドロキシル基を有していると、水素結合等の作用により繊維状構造が安定化される。高級脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸,ミリスチン酸,パルチミン酸,マルガリン酸,ステアリン酸,アラキジン酸,ベヘン酸,リグノセリン酸,牛脂脂肪酸等があげられ、高級ヒドロキシ脂肪酸としては、例えば、9 −ヒドロキシステアリン酸,10−ヒドロキシステアリン酸,12−ヒドロキシステアリン酸,9 ,10−ジヒドロキシステアリン酸等があげられる。これらの脂肪酸の中では、ステアリン酸と12−ヒドロキシステアリン酸とが最も好ましい。
金属としては、例えば、リチウム,ナトリウム等のアルカリ金属や、カルシウム,バリウム等のアルカリ土類金属、あるいはアルミニウム等があげられる。
〔添加剤について〕
導電性グリースには、必要に応じて種々の添加剤を添加してもよい。例えば、極圧剤,防錆剤,酸化防止剤,金属不活性化剤,油性向上剤など、グリースに一般的に使用される添加剤を、単独又は2種以上混合して用いることができる。このような添加剤により、導電性グリースの各種性能をさらに向上させることができる。
極圧及び摩耗防止の目的で、塩素系極圧剤,イオウ系極圧剤,リン系極圧剤,ジチオリン酸亜鉛,有機モリブデン等の極圧剤を使用することができる。
また、防錆剤としては、例えば金属系防錆剤,無灰系防錆剤があげられる。金属系防錆剤の具体例としては、(石油)スルフォン酸金属塩(バリウム塩,カルシウム塩,マグネシウム塩,ナトリウム塩,亜鉛塩,アルミニウム塩,リチウム塩,セシウム塩等)のような油溶性スルホネートや、フェネート,サリシレート,ホスホネート等があげられる。また、炭酸カルシウムも使用可能である。無灰系防錆剤の具体例としては、コハク酸イミド,ベンジルアミン,コハク酸エステル,コハク酸ハーフエステル,ポリメタクリレート,ポリブテン,ポリカルボン酸アンモニウム塩等があげられる。
さらに、酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤,フェノール系酸化防止剤,イオウ系酸化防止剤,ジチオリン酸亜鉛等があげられる。
アミン系酸化防止剤の具体例としては、フェニル−1−ナフチルアミン,フェニル−2−ナフチルアミン,ジフェニルアミン,フェニレンジアミン,オレイルアミドアミン,フェノチアジン等があげられる。
フェノール系酸化防止剤の具体例としては、p−t−ブチルフェニルサリシレート、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−フェニルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−オクチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス−6−t−ブチル−m−クレゾール、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、2−n−オクチル−チオ−4,6−ジ(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチル)フェノキシ−1,3,5−トリアジン、4,4’−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等のヒンダードフェノールなどがあげられる。
さらに、金属不活性化剤としてはベンゾトリアゾール等があげられ、油性向上剤としては、脂肪酸(例えばオレイン酸,ステアリン酸)、アルコール(例えばラウリルアルコール,オレイルアルコール)、アミン(例えばステアリルアミン,セチルアミン)、リン酸エステル(例えばリン酸トリクレジル)、及び動植物油等があげられる。
〔導電性グリースの物性について〕
導電性グリースのちょう度は、導電性グリースを適用する用途や使用温度に適したちょう度であればよく、特に限定されるものではない。ただし、適度な柔軟性(硬さ)を確保する観点から、通常はNLGIのちょう度番号がNo.1〜No.4(JIS K2220のちょう度番号が1番〜4番)の範囲が選択され、No.2及びNo.3がより好ましい。
導電性グリースが硬すぎると転がり軸受のトルクの安定性が低下したり、転がり接触面へ導電性グリースが供給されにくくなったりする場合がある。一方、軟らかすぎると、導電性グリースが転がり軸受から漏洩しやすい。
また、導電性グリースの体積固有抵抗率は、105 Ω・cm以下であることが好ましい。105 Ω・cm超過であると、転がり軸受の導電性が不十分となるおそれがある。
〔導電性グリースの封入量について〕
転がり軸受へのグリース封入量は、軸受空間容積の10〜40体積%が好ましい。10体積%未満であると、潤滑不良となりやすく、転がり接触面の損傷により酸化絶縁膜が生成して、転がり軸受の導電性が低下するおそれがある。一方、40体積%超過であると、転がり軸受から導電性グリースが漏洩しやすくなる。
〔実施例〕
以下に、さらに具体的な実施例を示して、本発明を説明する。深溝玉軸受及び図1〜4に示すような多点接触玉軸受(全て内径8mm,外径16mm,幅5mm)を用意して、表1,2に示すようなグリースを封入した。グリースの封入量は、後述する比較例5の軸受の7体積%以外は、いずれの軸受も軸受空間容積の25体積%である。
Figure 2005308067
Figure 2005308067
なお、表1に記載のグリースA〜Eに用いた基油は、40℃における動粘度が30mm2 /sの合成炭化水素油である。また、カーボンブラックは、ライオンアクゾ社製のケッチェンブラックEC(平均一次粒径30nm、比表面積800m2 /g、DBP吸収量360ml/100g)である。さらに、カーボンナノチューブは、Sun Nanctech社の多層型カーボンナノチューブ(直径10〜30nm、長さ1〜10μm)である。さらに、増ちょう剤は、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムである。
表2に記載のグリースF〜Iに用いた基油は、40℃における動粘度が390mm2 /sのフッ素油である。また、カーボンブラックAは前述のケッチェンブラックECであり、カーボンブラックBは、電気化学工業株式会社製のデンカブラックHS−100(平均一次粒径48nm、比表面積39m2 /g、DBP吸収量140ml/100g)である。さらに、カーボンナノチューブは、前述の多層型カーボンナノチューブである。さらに、増ちょう剤はPTFE樹脂である。
そして、これらの軸受の軸受抵抗の最大値を測定することにより、軸受の導電性を評価した。軸受抵抗の最大値の測定方法は以下の通りである。各軸受について、ラジアル荷重を負荷しながら内輪を回転させて回転試験を行った。そして、回転300時間後及び回転600時間後の内外輪間の電気抵抗値を図5に示す回路によって測定して、導電性が経時変化する程度を評価した。前記回路は、内輪と外輪の電圧測定結果を抵抗値に換算するデータ収集システムを備えているので、回転中の電気抵抗値を得ることができる。
測定条件を以下に示す。
回転速度 :150min-1
軸受に付与するラジアル荷重:19.6N
印加電圧 :6.2V
最大電流 :100μA
シリーズ抵抗:62kΩ
雰囲気温度 :室温又は180℃
Figure 2005308067
Figure 2005308067
室温における軸受の導電性の評価結果を表3に示し、高温(180℃)における評価結果を表4に示す。回転に伴って電気抵抗値が増加していくが、最大電気抵抗値が20kΩ未満である軸受を良好と判定した。なお、表3,4においては、最大電気抵抗値が10kΩ未満のものを◎、10kΩ以上20kΩ未満のものを○、20kΩ以上40kΩ未満のものを△、40kΩ以上のものを×で示した。また、1種の軸受につき2個ずつ測定を行い、表3,4には、2個の軸受の試験結果を全て示した。例えば、2個の軸受の最大電気抵抗値がともに10kΩ未満であった場合は、「◎◎」と示してある。
表3,4から分かるように、実施例の転がり軸受は、室温,高温いずれにおいても、600時間回転後も最大軸受抵抗値が低く、導電性の経時的な低下が長期にわたって生じにくかった。これに対して、比較例の転がり軸受は、室温,高温いずれにおいても、回転時間が長期になるにしたがって最大軸受抵抗値が上昇した。
本発明の転がり軸受は、例えば、複写機,プリンタ等のような事務機における光学部,給紙部,現像部,定着部,排紙部等の回転部の支持用に好適に用いることができる。
本発明に係る転がり軸受の一実施形態である4点接触玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。 本発明に係る転がり軸受の別の実施形態である4点接触玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。 本発明に係る転がり軸受の別の実施形態である3点接触玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。 本発明に係る転がり軸受の別の実施形態である3点接触玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。 電気抵抗値を測定する回路の概略構成図である。
符号の説明
1 内輪
1a,1b 軌道面
2 外輪
2a,2b 軌道面
3 転動体
5 シール
7 凹部

Claims (3)

  1. 軌道面を有する内輪と、前記内輪の軌道面に対向する軌道面を有する外輪と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、を備える転がり軸受において、前記両軌道面の少なくとも一方に、導電性グリースを保持する凹部を設けたことを特徴とする転がり軸受。
  2. 前記両軌道面と前記転動体とが合計で3点以上で接触する多点接触玉軸受であることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
  3. シール又はシールドを備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の転がり軸受。
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