JP4010109B2 - 導電性グリース及び転動装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、導電性グリースに係り、特に、導電性の経時的な低下が生じにくい導電性グリースに関する。また、本発明は、導電性の経時的な低下が生じにくい転動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般情報機器、例えば複写機においては、その可動部分には多数の転がり軸受が使用されている。該転がり軸受の軌道面と転動体との間には回転中は油膜が形成されていて、前記軌道面と前記転動体とは非接触となっている。このような転がり軸受においては前記回転に伴って静電気が発生するため、その放射ノイズが複写機の複写画像に歪み等の悪影響を及ぼす等の不都合が生じる場合がある。
【0003】
このような不都合を回避するため、導電性グリースを転がり軸受に封入することにより内外の軌道輪及び転動体を導電状態にするとともに、前記内外の軌道輪のうち一方を接地することにより、静電気を該転がり軸受から除去するという対策が取られている。
導電性グリースとしては、カーボンブラックを増ちょう剤及び導電性付与添加剤として添加したものが主流で(例えば、特公昭63−24038号公報に記載のもの)、このような導電性グリースは初期には優れた導電性を示す。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、本発明者らは、上記のような従来の導電性グリースの導電性が、経時的に低下して行くことがあることを確認した。
このような現象の原因としては、従来は以下のようなことが考えられていた。すなわち、導電性グリースは当初は転がり軸受の軌道輪の軌道面と転動体との接触面に十分に存在していて、その導電性グリース中のカーボンブラックにより、前記軌道輪と前記転動体との間の導電性が確保されているるものの、前記軌道輪と前記転動体との相対運動により前記導電性グリースが前記接触面から排除されたり、カーボンブラック粒子のチェーンストラクチャーが破壊されたりするためである。
【0005】
また、接触面から排除された導電性グリースが再度接触面に入りにくいのは、この種のグリースのちょう度が低いことと、導電性付与添加剤が基油に不溶の微粒子であることによると考えられた。
しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、導電性(抵抗値)の経時変化は下記のような要因によって生じるものと推察するに至った。
【0006】
従来のカーボンブラックを含有する導電性グリースを封入した転がり軸受(内径8mm、外径22mm、幅7mmの玉軸受)を回転試験(Fr=19.6N、回転数150rpm、回転時間500時間)に供し、該回転試験後の転がり軸受の軌道面を走査型電子顕微鏡(SEM)及びエネルギー分散分析(EDS)により調査した。例として、内輪軌道面のSEM像とEDS測定チャートとを図11及び図12に示す。
【0007】
まず、図11のSEM像から、内輪軌道面の初期の研磨面が消失し摩耗ピットが生成していることが分かり、このことから軌道面に摩耗が生じていることが認められた。また、図12のEDS測定チャートに酸素のピークが見られることから、軌道面に酸化膜が生成していることが認められた。
これらのことから、導電性の経時変化の原因は導電性グリースの性能劣化ではなく、導電性グリースの潤滑性能不足による軌道面への酸化膜の生成であると考えられる。
【0008】
すなわち、転動体の表面と軌道面との金属接触により、軌道面に微小な損傷が生じる。この損傷部分には新生面が露出するが、この新生面は活性が高いため、空気中の酸素等により直ちに酸化され酸化膜が形成される。この酸化膜が導電性を低下させ、結果として経時的な抵抗値の上昇が見られることとなる。そして、このような現象は、相対運動する部材間で使用される導電性グリースにおいて共通の問題である。
【0009】
このような現象の対策としては、粘度の高い基油を使用して油膜を確保し、金属接触を防止することが考えられるが、油膜を厚くすると導電性グリースの導電性能の低下につながる可能性があり、好ましくない。
そこで、本発明は上記のような従来の導電性グリースが有する問題点を解決し、導電性の経時的な低下が生じにくい導電性グリースを提供することを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち本発明の導電性グリースは、基油と増ちょう剤と導電性固体粉末とを備えた導電性グリースにおいて、前記導電性固体粉末の含有量を0.1〜10wt%とするとともに、摩耗防止添加剤,極圧添加剤,及び油性剤のうち少なくとも1種を0.1〜10wt%含有することを特徴とする。
【0011】
このような構成の導電性グリースであれば、潤滑性が優れていて、転がり軸受の軌道面と転動体のような相対運動する部材同士の金属接触を防止できるので、前記軌道面等への酸化膜の生成が生じにくく、その結果、導電性の経時的な低下が生じにくい。
なお、導電性の経時的な低下をより長期間にわたって抑えるためには、摩耗防止添加剤,極圧添加剤,及び油性剤のうち少なくとも1種の含有量を、0.5〜7wt%とすることがより好ましい。
【0012】
以下に、本発明の導電性グリースが備える各成分について説明する。
〔導電性固体粉末〕
本発明の導電性グリースに添加される導電性固体粉末としては、導電性を備えた粉末が好適に使用され、例としてはカーボンブラック等があげられる。従来の導電性グリースは、カーボンブラックを導電性の付与とともに増ちょう剤として添加していたが、本発明の導電性グリースは、カーボンブラック等の導電性固体粉末の添加量を限定するとともに、リチウム石けん,ウレア化合物等の本来の増ちょう剤を前記導電性固体粉末に共存させたので、前記導電性固体粉末の分散状態を経時的に良好に保つことができる。なお、前記増ちょう剤としては、グリースにおいて一般に使用される増ちょう剤が問題なく使用できる。
【0013】
カーボンブラックに代わるものとしては、アセチレンブラックなどの繊維状カーボンを主成分とする粒子、金,銀,銅,スズ,亜鉛,アルミニウムなどの金属粒子、酸化銀,硫化ニオブ,硝酸銀などの金属化合物粒子等があげられる。
本発明の導電性グリースにおける前記導電性固体粉末の含有量は、0.1〜10wt%であることが必要である。0.1wt%未満であると、導電性グリースの導電性が不足する。また、10wt%を越えるとグリースの性能低下(基油と増ちょう剤との分離など潤滑不良)が生じるおそれがあり、さらに、ちょう度が小さくなり導電性グリースが硬くなり、軸受などに封入し使用する場合に軸受トルクが大きくなったりする。導電性グリースに十分な導電性を付与するためには、前記導電性固体粉末は1wt%以上とすることがより好ましく、したがって1〜10wt%であることがより好ましい。
【0014】
なお、前記増ちょう剤の含有量は、5〜20wt%とすることが好ましい。5wt%未満であると、軸受中のグリースが漏出しやすくなり、20wt%を越えるとトルクが大となる。
また、導電性グリースの潤滑性及び流動性から、前記増ちょう剤と前記導電性固体粉末との総量は5.1〜20.1wt%とすることが好ましい。
【0015】
〔添加剤〕
本発明の導電性グリースに添加される摩耗防止添加剤としては、有機リン系化合物等があげられる。有機リン系化合物としては、例えば、一般式(RO)3 POで示される正リン酸エステル(TCP,TOP等)、一般式(RO)2 P(O)Hで示される亜リン酸ジエステルや一般式(RO)3 Pで示される亜リン酸トリエステルのような亜リン酸エステル等があげられる。なお、上記のRはアルキル基,アリール基,アルキルアリール基を示す。
【0016】
また、極圧添加剤としては、Zn−DTP(ジチオリン酸亜鉛),Mo−DTP(ジチオリン酸モリブデン)等のDTP金属化合物、Ni−DTC,Mo−DTC等のDTC金属化合物、イオウ,リン,塩素等を含む有機金属化合物などがあげられる。
さらに、油性剤としては、アミン系化合物、オレイン酸,コハク酸エステル等の有機脂肪酸化合物、アルケニルコハク酸無水物等のカルボン酸無水物などがあげられる。
【0017】
これらの中から、亜リン酸エステル,TCP,TOP,DTP金属化合物,及びDTC金属化合物の化学構造式を図1に示す。これらの構造式中のR以外の官能基(図1において破線により囲まれた部分の官能基)は、軌道面等を構成する金属に対して吸着作用を有していて、そのため前記化合物が軌道面等に吸着される。このことにより潤滑性が高められるので、軌道面等に金属接触による微小な損傷が生じることが防止されて、導電性を維持する効果が発揮される。
【0018】
なお、図1において破線により囲まれた部分の官能基以外の官能基で上記の作用を有するものとしては、例えば、油性剤であるオレイン酸,コハク酸エステル等の有機脂肪酸化合物やアルケニルコハク酸無水物等のカルボン酸無水物中に含まれる官能基、すなわち、カルボキシル基,酸無水物基があげられる。
本発明の導電性グリースにおいては、摩耗防止添加剤,極圧添加剤,及び油性剤のうち少なくとも1種を0.1〜10wt%含有することが必要である。0.1wt%未満であると、導電性の経時的な低下を抑える効果が不十分となり、また、10wt%を越えて添加すると、軌道面等の金属部分に腐食等の悪影響を及ぼすおそれがある。なお、導電性の経時的な低下をより長期間にわたって抑えるためには、0.5〜7wt%とすることがより好ましい。
【0019】
そして、導電性の経時的な低下をさらに長期間にわたって抑えるためには、摩耗防止添加剤と油性剤とを併用することが好ましい。例えば、摩耗防止添加剤として亜リン酸エステル、油性剤としてカルボン酸無水物を用いた場合は、導電性の経時的な低下を抑える効果が特に優れている。
〔基油〕
本発明の導電性グリースに使用される基油としては、鉱油,ポリ−α−オレフィン油(PAO)等の合成炭化水素油,エステル油,フッ素油,エーテル油,ポリグリコール油などがあげられ、これらは単独又は2種以上混合して用いることができる。
【0020】
前記基油は、粘度が大きくなりすぎると導電性に悪影響を及ぼすので、40℃における動粘度は120mm2 /sec以下が好ましい。120mm2 /secを越えると、油膜が比較的厚くなって抵抗値が大きくなる。ただし、動粘度が5mm2 /sec未満であると、蒸発損失や潤滑性の問題から適当ではない。すなわち、基油の粘度が低すぎると、例えば軸受の回転中に軌道面と転動体との金属接触を避けるのに十分な潤滑油膜の形成が困難となる。なお、前記効果をより良好なものとするためには、前記基油の40℃における動粘度は15〜60mm2 /secであることがより好ましい。
【0021】
なお、導電性グリースにおける基油の含有量は、導電性グリース全量から導電性固体粉末,摩耗防止添加剤,極圧添加剤,油性剤,増ちょう剤などを差し引いた部分が基油となるから、75〜90wt%とすることが好ましい。
本発明の導電性グリースは、転がり軸受,ボールねじ,リニアガイド,直動ベアリングのような転動装置に使用可能である。すなわち、本発明の転動装置は、転がり軸受,ボールねじ,リニアガイド,直動ベアリングのうちいずれかの転動装置において、相対運動する部材間に形成され転動体が配設された空間に、請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性グリースを充填したことを特徴とする。また、本発明の転がり軸受は、外輪と、内輪と、前記外輪と前記内輪との間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備える転がり軸受において、前記外輪と前記内輪との間に形成され前記転動体が配設された空間に、請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性グリースを充填したことを特徴とする。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明に係る導電性グリースの実施の形態を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図2は本発明に係る導電性グリースを備えた玉軸受21の構造を示す縦断面図である。この玉軸受21は、外輪22と、内輪23と、外輪22と内輪23との間に転動自在に配設された複数の玉24と、複数の玉24を保持する保持器25と、外輪22のシールみぞ22bに取り付けられた接触形のシール26,26と、から構成されている。また、外輪22と内輪23とシール26,26とで囲まれた空間には導電性グリース27が充填され、シール26により玉軸受21内部に密封されている。
【0023】
そして、この導電性グリース27によって、前記両輪22,23の軌道面22a,23aと玉24との接触面が潤滑されるとともに、外輪22と内輪23と玉24とが導電状態となっている。さらに、外輪22又は内輪23が接地されていて(図示せず)、玉軸受21の回転により発生する静電気が除去されるようになっている。
【0024】
導電性グリース27は、基油としてポリ−α−オレフィン油(40℃における動粘度は30.0mm2 /sec)を使用し、それに増ちょう剤としてリチウム石けんを7wt%、導電性固体粉末としてカーボンブラックを5.0wt%、摩耗防止添加剤として亜リン酸エステル化合物を5.0wt%、それぞれ添加したものである(残部が基油)。
【0025】
このような導電性グリース27は、導電性とともに優れた潤滑性を有しているので、玉軸受21の軌道面22a,23aと玉24との金属接触が生じにくく、軌道面22a,23aに酸化膜が生成しにくい。その結果、導電性の経時的な低下が生じにくい。
また、シール26を導電性ゴムにより構成する等の手法により、シール26にも導電性を保持させれば、導電性の経時的な低下をより抑制することがでる。
【0026】
よって、このような導電性グリース27は、複写機,レーザープリンタ等の事務機器に用いられる転がり軸受の静電気対策として顕著な有効性を発揮するものである。
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0027】
例えば、本実施形態においては導電性グリースを玉軸受に適用した例を示して説明したが、本発明の導電性グリースは、その用途は特に限定されるものではなく、電気接点用グリース等のように、導電性を要求されるものであれば他の用途にも使用可能である。
ただし、前述したように、導電性の低下は、複数の部材が相対運動することにより該部材の軌道面に酸化膜が生成するために生じるものであり、また、相対運動時の前記部材間の油膜形成の程度が、導電性低下に密接に関係している。
【0028】
したがって、本発明の導電性グリースは、転がり軸受,ボールねじ,リニアガイド,直動ベアリング等のような相対運動する部材を備えた転動装置に、特に好適に使用される。
次に、上記の玉軸受21とほぼ同様な数種の玉軸受について、回転中の内外輪の抵抗値を測定して、導電性が経時変化する程度を評価した結果について説明する。
【0029】
まず、抵抗値を測定する装置について、図3の概略構成図を参照しながら説明する。
図3中、符号1は、測定対象の玉軸受を表し、その内輪1aに取付けられた軸部材2をモータ3によって回転駆動することによって、軸受1を回転するように構成されている。そして、内輪1aと一体となっている軸部材2と外輪1bとの間に、定電圧電源4によって、所定の定電圧が印加されるとともに、当該定電圧電源4と並列に抵抗測定装置5が接続されている。
【0030】
抵抗測定装置5は、測定した電圧値(アナログ値)を、A/D変換回路6に出力する。A/D変換回路6は、予め設定されたサンプリング周期でデジタル値に変換し、当該変換したデジタル信号を演算処理装置7に出力する。本実施形態では、サンプリング周期として50kHz(サンプリング時間間隔=0.02ms)に設定してある。
【0031】
演算処理装置7は、最大抵抗値演算部7Aと、閾値処理部7Bと、波数カウント部7Cとを備える。最大抵抗値演算部7Aは、入力したデジタル信号に基づき最大抵抗値を演算する。閾値処理部7Bは、入力したデジタル信号について所定閾値で閾値処理を行い雑音を除去する。波数カウント部7Cは、閾値処理部7Bからのパルスカウントについて、経時的なパルス値の増減変化によって、所定時間単位毎の変動回数つまり波山の波数をカウントし、その単位時間当たりの波数の平均値を求める。また演算処理装置7は、求めた最大抵抗値及び単位時間当たりの波数の平均値を表示装置8に出力する。
【0032】
本実施形態では、上記波数をカウントする単位時間を0.328秒に設定してある。
表示装置8は、ディスプレイなどから構成され、演算処理装置7が求めた最大抵抗値及び単位時間当たりの波数の平均値を表示する。
次に、上記構成の装置を使用した、玉軸受1の抵抗値評価の方法について説明する。
【0033】
モータ3を駆動して軸部材2つまり内輪1aを所定回転速度で回転させた状態で、定電圧電源4から軸受1の内外輪1a,1b間に所定の定電圧を印加する。このとき、内外輪1a,1b間に電流が流れるが、スパーク等によって、電圧が変動する。その電圧が抵抗測定装置5で測定され、続いてA/D変換回路6によってデジタル値に変換され、そのデジタル信号に基づいて、演算処理装置7が、最大抵抗値及び、所定単位時間当たりの波数を求め、その値が表示装置8に表示される。
【0034】
封入するグリースの種類を変えた4種類の軸受(実施例1,比較例1〜3)を用意して、上記構成の装置を使用して、各軸受について、回転中の内外輪1a,1b間の抵抗値(最大値)を100時間毎に測定した。
ここで、4種類の軸受は共に内径8mm、外径22mm、幅7mmの玉軸受である。また、4種類のグリースの構成は表1に示した通りであり、その封入量は155〜165mgである。
【0035】
【表1】
【0036】
測定条件を以下に示す。
軸部材2の回転数:150rpm
軸受1に与えるラジアル荷重(Fr):19.6N
回転時間 :500時間
印可電圧 :6.2V
最大電流 :100μA
雰囲気温度:25℃
雰囲気湿度:50%RH
そして、サンプリング周期は50kHz、0.328秒で行った。
【0037】
次に、結果を図4のグラフに示して、その内容を検討する。なお、図4のグラフにおいては、実施例1の結果を菱形印(◆)、比較例1の結果を四角印(■)、比較例2の結果を三角印(▲)、比較例4の結果をバツ印(×)で示した。
実施例1及び比較例2はカーボンブラックを含有する導電性グリースを備えた軸受であるが、図4に示したように、これらは初期の抵抗値が低い。これは、カーボンブラックを含有することにより、グリースの体積抵抗率が小さくなったことによる(表1参照)。しかし、カーボンブラックは含有するが摩耗防止添加剤は含有しない比較例2は、経時的に抵抗値が上昇した。
【0038】
また、カーボンブラックを含有しないグリースを使用した比較例1及び3の場合は、初期から抵抗値が大きい。このような軸受は、放射ノイズを誘導し、複写機やプリンタ等に使用された場合に、複写画像や印刷画像等の画像系に歪み等の悪影響を及ぼす恐れがある。
なお、実施例1のグリースにおいては、カーボンブラックの含有量は5wt%で、増ちょう剤の含有量は7wt%であり、その総量は12wt%である。このグリースと同程度の混和ちょう度及び潤滑性が得られる含有量の組合せとしては、カーボンブラック及び増ちょう剤を、1wt%及び11wt%とする場合、3wt%及び9wt%とする場合、7wt%及び3wt%とする場合(2wt%分は基油を多くする)が、それぞれ考えられる。
【0039】
次に、実施例1の軸受において摩耗防止添加剤を他の種類の添加剤(極圧添加剤、油性剤)に変更したグリースを使用して、抵抗値(最大値)の測定を行った結果について、図5を参照しながら説明する。なお、図5の抵抗値は回転200時間後の値である。また、各種添加剤の添加量は、5.0wt%に統一した。
図5における符号Aは添加剤をまったく添加しない場合、符号B〜Gは極圧添加剤、符号H,Iは摩耗防止添加剤、符号J,Kは油性剤、符号LはHの摩耗防止添加剤とJの油性剤との両方を添加した場合である。
【0040】
添加剤をまったく添加しない場合(A)は、200時間後の抵抗値が非常に大きかったのに対し、添加剤を添加した場合(B〜L)は、いずれの添加剤でも抵抗値の上昇を抑制する効果が顕著に見られた。
その中でも、リン系の摩耗防止添加剤を加えた場合(H及びI)が、抵抗値の経時変化を抑制する効果が大きく、さらに、リン系の摩耗防止添加剤と油性剤とを混合した場合(L)は、格段に抵抗値の経時変化を抑制できた。
【0041】
図5の結果をまとめると、前記効果の程度は、摩耗防止添加剤と油性剤との組合せ,摩耗防止添加剤,油性剤,極圧添加剤の順に優れていて、摩耗防止添加剤と油性剤との組合せ及び摩耗防止添加剤が特に優れている。
そこで、摩耗防止添加剤(亜リン酸エステル),油性剤(アルケニルコハク酸無水物),摩耗防止添加剤と油性剤との組合せ(亜リン酸エステルとアルケニルコハク酸無水物との1:1の混合物)の各場合において、その添加量を変化させたグリースを使用して(その他は実施例1と同様)、抵抗値の測定を行った結果について、図6〜8を参照しながら説明する。なお、図6〜8の抵抗値は回転200時間後及び回転600時間後の値である。
【0042】
図6のグラフから分かるように、摩耗防止添加剤(亜リン酸エステル)は添加量0.1wt%以上で200時間後,600時間後ともに抵抗値の抑制に効果が見られ、添加量0.5wt%以上で抵抗値の上昇が十分に抑えられている。なお、亜リン酸化合物の添加量の上限は、腐食(亜リン酸化合物は酸性であるため、金属に対して腐食性を有する)等の問題から10wt%以下が好ましい。
【0043】
次に、油性剤(アルケニルコハク酸無水物)の場合について考察する。図7のグラフから分かるように、アルケニルコハク酸無水物は添加量0.1wt%以上で200時間後,600時間後ともに抵抗値の抑制に効果が見られ、添加量0.5wt%以上で抵抗値の上昇が十分に抑えられている。特に、600時間後の値に関しては、上記の亜リン酸エステルよりも効果が優れている。
【0044】
次に、摩耗防止添加剤と油性剤との組合せ(亜リン酸エステル:アルケニルコハク酸無水物=1:1)の場合について考察する。図8のグラフから分かるように、2種の添加剤の相互作用により、単独の場合よりも抵抗値の上昇を抑制する効果が優れている。ただし、アルケニルコハク酸無水物の寄与の方が大きいことが分かる。
【0045】
次に、実施例1の軸受においてカーボンブラックの添加量を変化させたグリースを使用して、抵抗値の測定を行った結果について、図9を参照しながら説明する。なお、図9の抵抗値は初期の値である。
カーボンブラックは0.1wt%程度の極少量でも導電性の付与に効果があるため、カーボンブラックの添加量を制限して、増ちょう剤をその分添加すれば、カーボンブラックの分散状態を経時的に良好に保つことができる。ただし、添加量を1wt%以上とすれば、抵抗値を十分に小さくできることがわかる。
【0046】
しかし、カーボンブラックの添加量が多すぎると、導電性の元となるカーボンブラックの網目構造が破壊されて早期に導電性能が変化しやすい。この網目構造の破壊は、グリース漏れや油分離を引き起こしやすくするという問題も引き起こす。また、グリースの適度なちょう度を得るためには、カーボンブラックの添加量は10wt%以下が好ましい。
【0047】
すなわち、カーボンブラックの添加量が多くなると、ちょう度が小さくなり、グリースが硬くなる。表1のグリースの混和ちょう度が約250であったのに対し、カーボンブラックを15wt%添加すると混和ちょう度が200以下となることから、余裕も考慮して、カーボンブラックの添加量は10wt%以下が好ましい。
【0048】
次に、実施例1の軸受において基油粘度を変化させたグリースを使用して、抵抗値の測定を行った結果について、図10を参照しながら説明する。なお、図10の抵抗値は回転200時間後の値である。
図10から分かるように、基油の40℃における動粘度が高くなるほど、抵抗値が大きくなる傾向を示した。前述のように、基油の動粘度を高くしすぎると油膜が厚くなり、抵抗値が大きくなるので、基油の動粘度は120mm2 /sec以下が好ましい。さらに、60mm2 /sec以下とすれば抵抗値が極めて小さくなるので、より好ましい。
【0049】
また、軸受の回転中に軌道面と転動体との金属接触を避けるための潤滑油膜の形成には、基油の動粘度をある程度大きくする必要があり、5mm2 /sec以上とすることが好ましく、15mm2 /sec以上とすることがより好ましい。すなわち、基油の40℃における動粘度を15〜60mm2 /secとすることが、より好ましい。
【0050】
【発明の効果】
以上のように、本発明の導電性グリース及び転動装置は、導電性の経時的な低下が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【図1】各種添加剤の化学構造式を示す図である。
【図2】本発明の導電性グリースを備えた玉軸受の構造を示す縦断面図である。
【図3】抵抗値を測定する装置の概略構成図である。
【図4】玉軸受の回転時間と軸受抵抗の最大値との相関を示すグラフである。
【図5】グリース中の添加剤の種類による軸受抵抗の最大値を示すグラフである。
【図6】亜リン酸エステルの添加量と軸受抵抗の最大値との相関を示すグラフである。
【図7】アルケニルコハク酸無水物の添加量と軸受抵抗の最大値との相関を示すグラフである。
【図8】添加剤(亜リン酸エステルとアルケニルコハク酸無水物との混合物)の添加量と軸受抵抗の最大値との相関を示すグラフである。
【図9】導電性固体粉末の添加量と軸受抵抗の最大値との相関を示すグラフである。
【図10】基油粘度と軸受抵抗の最大値との相関を示すグラフである。
【図11】従来の導電性グリースを備えた転がり軸受の回転試験後の内輪軌道面のSEM像である。
【図12】従来の導電性グリースを備えた転がり軸受の回転試験後の内輪軌道面のEDS測定チャートである。
【符号の説明】
21 玉軸受
22 外輪
22a 外輪軌道面
23 内輪
23a 内輪軌道面
24 玉
27 導電性グリース
Claims (5)
- 基油と増ちょう剤と導電性固体粉末とを備えた導電性グリースにおいて、下記の6つの条件を満足することを特徴とする導電性グリース。
条件1:前記増ちょう剤がリチウム石けん又はウレア化合物であり、その含有量は5〜20wt%である。
条件2:前記導電性固体粉末がカーボンブラック又はアセチレンブラックであり、その含有量は0.1〜10wt%である。
条件3:前記増ちょう剤と前記導電性固体粉末との合計の含有量は5.1〜20.1wt%である。
条件4:摩耗防止添加剤,極圧添加剤,及び油性剤のうち少なくとも1種を0.1〜10wt%含有する。
条件5:前記摩耗防止添加剤は正リン酸エステル又は亜リン酸エステルであり、前記極圧添加剤はDTP金属化合物又はDTC金属化合物であり、前記油性剤はアミン系化合物,有機脂肪酸化合物,又はカルボン酸無水物である。
条件6:転がり軸受,ボールねじ,リニアガイド,又は直動ベアリングの潤滑に用いられる。 - 前記摩耗防止添加剤,前記極圧添加剤,及び前記油性剤は、化学構造式中に、金属に対して吸着作用を有する官能基を備えることを特徴とする請求項1に記載の導電性グリース。
- 前記基油は、鉱油,合成炭化水素油,エステル油,フッ素油,エーテル油,及びポリグリコール油のうち少なくとも1種であり、その40℃における動粘度は、5mm 2 /sec以上120mm 2 /sec以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の導電性グリース。
- 転がり軸受,ボールねじ,リニアガイド,直動ベアリングのうちいずれかの転動装置において、相対運動する部材間に形成され転動体が配設された空間に、請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性グリースを充填したことを特徴とする転動装置。
- 外輪と、内輪と、前記外輪と前記内輪との間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備える転がり軸受において、前記外輪と前記内輪との間に形成され前記転動体が配設された空間に、請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性グリースを充填したことを特徴とする転がり軸受。
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