JP4296250B2 - 高周波回路用銅箔およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、高周波用途、特に高周波回路用として優れた特性を有する銅箔と、該銅箔の製造方法に関するものである。
高周波信号を扱う配線基板の基材の樹脂としては、ポリイミド樹脂、変性ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレキシド、ポリテトラフルオロエチレンなどが用いられ、導体回路用導電材としては、導電率が高く、錆びにくいことなどから通常は銅箔が用いられている。
高周波回路用プリント配線板としては、信号の品質を維持し、確保するため、伝送損失の低減が求められている。伝送損失の低減を、導体回路のベースとなる銅箔の方から見ると、一つは導体損での伝送損失の増加、二つは誘電体損を抑えるための基材の低誘電率・低誘電正接化に伴う樹脂との密着力の低下(銅箔と回路基板との密着強度の低下)が問題となってくる。
このうち前記導体損は、銅箔に直接関連し、信号が高周波化すると表皮抵抗の増加により損失が大きくなる。高い周波数では、表皮効果(導体に交流を流すと磁束変化のために導体中心部に逆起電力が生じ電流が流れ難くなる)により電流は導体表面部分に流れるようになる。そのため、電流の流れる有効断面積が減少して抵抗が上昇する。
銅箔での周波数と電流の流れる深さ(表皮深さ)との関係は、10MHzで約20μm、0.5GHzで約3μm、1GHzで約2μm、10GHzで約0.6μmと計算されており、表面の少しの粗さや不純物含有に伴う導電率の低下により、大きな影響がでてくる。
このため、銅箔の表面での形状(プロファイル)が伝送損失に大きく影響し、粗度の大きい箔は信号の伝播距離が長くなり、信号の減衰や遅延が問題となってくる。つまり、平滑であるほど導体損は小さくなる。
前記誘電体損は、基材樹脂の誘電率・誘電正接によって決まる。パルス信号を回路に流すと回路の周りの電界に変化が起こる。この電界が変化する周期(周波数)が樹脂の分極の緩和時間に近づくと電気変位に遅れを生ずる。この時、樹脂内部に分子摩擦が生じて熱が発生し、この熱が誘電体損となる。よって、高周波基材の樹脂は電界変化による分極を起こし難い、即ち、極性の大きな置換基を減らし、又は無くした樹脂が好ましい。しかし一方では極性の大きな置換基は、樹脂と銅箔の化学的な密着性に大きく寄与している。誘電率・誘電正接を低くするために極性の大きな置換基を減らした樹脂は、銅箔との密着性が悪くなり回路の引き剥がし強度(ピール強度)が極端に低下する。一般に用いられているFR−4材は凝集破壊(樹脂内)で高いピール強度が得られるが、低誘電正接基材では、界面破壊(銅箔と樹脂の界面における破壊)となり高いピール強度を得ることができない。この様な低いピール強度では、プリント配線板の製造工程において回路剥がれや最外層における実装部品の欠落が起きる可能性がある。
プリント配線板の製造工程において回路剥がれや最外層における実装部品の欠落は、粗度の大きな銅箔を使用することで、回避することができる。粗度を大きくする粗化処理の方法として粗化粒子の電析、化学エッチングがある。しかし、粗化粒子を電析させる方法では、粗化粒子内部の結晶粒が小さく粒界が多く存在するため、伝送損失が悪くなってしまう。また、粗化粒子を微細化するため、めっき液にAs、Mo、Wなどを添加すると、これらの金属が不純物として粗化粒子とともに析出してしまい伝送ロスに悪影響を与えるなどの問題がある。
一方、化学エッチングではエッチング速度が遅い、制御が難しいなど生産性、安定性の面で課題がある。
ところで、近年の高機能電子機器では小型化、処理速度の高速化からの要求で、その回路配線に用いられる基材は、一般に狭ピッチ化・軽量化に有利な薄型であり、かつ高周波電流に対するインピーダンスの低いことが要求されている。その1つの例が、ICカードである。
ICカードはカード内にICを内蔵するので、より高度な判断、複雑な演算が可能であり、記憶容量は磁気カードの100倍程度大きく、情報の読み書きが可能であり安全性が高いという特徴がある。このICカードの情報伝達方法には、接点への物理的接触により交信する接触型以外に、電磁波などを用いて最大数メートル程度の空間的な距離をあけて交信することのできる非接触型のものもある。
上記特徴を生かした接触型のICカードは、例えばIDカード、乗車券、定期券、電子マネー、高速道路ゲート通行券、健康保険証、住民票、医療カード、物流管理カード等といった非常に広い範囲での利用が見込まれ、実用化されている。
また、非接触型ICカードはその通信距離により、密着型(通信距離〜2mm)、近接型(同10cm)、近傍型(同70cm)、マイクロ波型(同数m)の4タイプに分かれており、通信周波数は密着型では4.91MHz、近接型、近傍型では13.56MHz、マイクロ波型では2.45及び5.8GHzと、MHzからGHz域までにわたっている。
この非接触型ICカードの基本構造は、絶縁シート、アンテナ、ICチップからなり、ICチップには強誘電体メモリ、不揮発性メモリ、ROM、RAM、変復調回路、電源回路、暗号回路、制御回路などが組み込まれている。アンテナ部材としては、被覆銅線巻き線、銀ペースト、アルミ箔、銅箔などがあり、巻き数、用途、製造コストなどにより使い分けられている。巻き数が少なく高導電性が必要な場合は、アンテナ材料として圧延銅箔や電解銅箔を用いることが多い。
前記アンテナ材料として、純銅の箔に比べると高い材料強度を有し、リードフレーム材料などとして用いられている高強度高導電性銅合金箔が採用できるが、近年の信号伝達の高速化、小型化、高い信頼性などの要求に対処するには不十分となってきている。従って、さらなる狭ピッチ、軽量化に対応すべく、これら従来の銅合金の特性を向上させた銅合金の使用が各種提案されている(例えば特許文献1参照)が、アンテナ用材料として十分な樹脂との密着強度と高周波領域での伝送ロス低減という特性を満足するものにはいたっていなかった。
特開2002−167633号公報
本発明は、このような従来技術の問題点を解消するためになされたもので、高周波用基材として高周波領域での伝送ロスが低減し、樹脂基板との接着強度に優れた高周波回路用銅箔とその製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、高周波領域での伝送ロスが小さく、樹脂基板との高い密着強度を有する高周波用銅箔とその製造方法を開発した。
本発明の第1の観点の高周波回路用銅箔の製造方法は、未処理銅箔の少なくとも電解エッチング処理を施す表面が、該表面から4μmの深さ領域において平均粒径が0.3μm以上の粒状の結晶組織とし、該未処理銅箔の前記表面を、電解エッチングで粗化処理する高周波回路用銅箔の製造方法である。
なお、前記未処理銅箔の前記結晶組織における粒状の大きさ分布は、1μm以上の粒径が10%以上を占めていることが望ましく、また、前記電解エッチング処理は、エッチング後の銅箔の表面粗さRzが2.5μm以下となるように未処理銅箔の表面を電解エッチング処理することが好ましい。
本発明の第2の観点の高周波回路用銅箔は、少なくとも一方の表面から4μmの深さ領域における平均粒径が0.3μm以上の粒状の結晶組織である未処理銅箔の前記表面を、電解エッチングで処理することにより表面粗さRzが2.5μm以下に粗化処理された高周波回路用銅箔である。
前記高周波回路用銅箔は、引っ張り強さが20kN/cm2以上であり、かつ、伸び率が3%以上の特性を有する高周波回路用銅箔であることが好ましい。
本発明は、高周波用途での導体損の低減、基材への密着強度に優れた、高周波回路用銅箔とその製箔方法を提供することができる。
未処理銅箔の表面粗度を大きくする方法として、粗化粒子の電析や化学エッチングによる処理方法があるが、粗化粒子を電析させる方法では、粗化粒子内部の結晶粒が小さく、粒界が多く存在するため、伝送損失が悪くなってしまう。また、粗化粒子を微細化するため、めっき液にAs、Mo、Wなどを添加すると、これらの金属が不純物として粗化粒子とともに析出してしまい伝送ロスに悪影響を与えるなどの問題がある。
一方、化学エッチングではエッチング速度が遅い、制御が難しいなど生産性、安定性の面で問題がある。
本発明者はこれらの問題点を鋭意検討した結果、電解エッチングにより、これらの問題の解決にあたった。その結果、電解エッチングではエッチング後の粗化粒子の均一性とその大きさが、電解エッチングの浴条件や処理条件だけでなく、未処理銅箔の結晶組織の状態が大きく影響することを突き止めた。
即ち、粒状の結晶組織からなる未処理銅箔の、電解エッチング処理する面の表面から4μmの深さまでの領域における平均粒径を0.3μm以上とし、該表面を電解エッチングすることで、ピール強度が高く、伝送損失の小さい高周波回路用として特性の優れた銅箔が作成できることを突き止めたのである。なお、前記の粒状の大きさの分布が、1μm以上の粒径が10%以上占めることで粗化粒子の均一性をより一層良くすることができ好ましく、また、1μm以上の粒径の占める比率を大きくすることによって表面粗度を大きくし、高いピール強度を得ることができる知見もえた。しかし、表面粗度が大きすぎると伝送損失に悪影響を与えるため、Rzで2.5以下とすることが望ましい。
所定の電解液を用いることにより粒状の結晶組織からなる電解銅箔を製造することができる。例えば、メルカプト基を有する化合物、塩化物イオン、並びに分子量10,000以下の低分子量膠又は/及び高分子多糖類を添加した銅めっき液で製箔した電解銅箔は粒状の結晶組織となる。なお、市販の光沢めっき液で製箔した電解銅箔も粒状の結晶組織となる。
本発明は上記のめっき液を用い、銅箔の製箔条件を制御することで、粒状の結晶組織の状態を制御し、電解エッチングすることで高周波領域での伝送損失に優れ、高いピール強度を有する銅箔の製造方法である。
また、電解エッチングの前に50℃以上で1時間以上熱処理することで銅箔の結晶組織の平均粒径を大きくし、かつ、1μm以上の粒径の占める比率を多くすることができる。
本発明では様々な要求を満たすために、上記電解エッチング処理銅箔の少なくともエッチング処理面に、Ni、Zn又はこれらの合金のめっき層、クロメート層、シランカップリング剤処理層の少なくとも1種の処理層を設けると良い。また、表面処理としてCo、Sn又はこれらの合金めっき層、有機防錆層を施しても良い。
また、本発明の銅箔ではラインでのハンドリング性のため、引っ張り強さが20kN/m2以上であり、かつ、伸び率が3%以上の特性を持つことが望ましい。
次に、本発明を実施例に基づき説明する。
この実施例は、本発明の一般的な説明をする目的で記載するものであり、何ら限定的意味を持つものではない。
<実施例1>
Tiドラムをカソードとして粒状の結晶組織からなる12μmの銅箔を
(1) めっき浴:
Cu :50〜130g/l
2SO4 :80〜120g/l
3−メルカプト1−プロパンスルホン酸ナトリウム :0.3〜6ppm
ヒドロキシエチルセルロース(HEC) :0.5〜10ppm
低分子量(分子量3000)膠(PBF) :0.5〜10ppm
塩化物イオン :80〜120ppm
(2) 電流密度 :45〜65A/dm2
(3) 浴温 :40〜60℃
の条件により作成し、この銅箔の光沢面(Tiドラムに接着していた面)に、次の電解エッチング条件で電解エッチングを施した。
(1) 電解エッチング浴:
Cu :1〜40g/l
2SO4 :30〜200g/l
添加剤 :微量
(2) 電流密度 :1〜50A/dm2
(3) 浴温 :20〜60℃
上記電解エッチング条件でエッチングした表面に、さらに表面処理としてNi量にして0.1mg/dm2のNiめっき処理、Zn量にして0.1mg/dm2のZnめっき処理の後、金属Cr量にして0.05mg/dm2のクロメート処理し、シランカップリング剤処理を施し、試験試料とした。
この試験試料の表面粗さ、ピール強度、伝送損失を表2、3に示す。
<実施例2〜3>
銅の濃度、硫酸濃度、塩素量、浴温、電流密度を表1に示す値にした他は実施例1と同様の条件で製箔し、実施例1と同様に製箔した銅箔の光沢面(Tiドラムに接着していた面)に電解エッチングを施し、表面処理を施して試験試料とした。
この試験試料の表面粗さ、ピール強度、伝送損失を表2、3に示す。
<実施例4>
銅の濃度、硫酸濃度、塩素量、浴温、電流密度を表1に示す値にした他は実施例1と同様の条件で製箔し、製箔した銅箔のM面(ドラム接触面とは反対側の面、即ちS面と反対側の面)に実施例1と同じ条件で電解エッチングを施し、表面処理して試験試料とした。
この試験試料の表面粗さ、ピール強度、伝送損失を表2、3に示す。
<実施例5>
実施例4で製箔した元箔を120℃の窒素雰囲気中で24時間熱処理し、その後実施例1と同一条件で電解エッチング、表面処理を施し、試験試料とした。
この試験試料の表面粗さ、ピール強度、伝送損失を表2、3に示す。
Figure 0004296250
<比較例1、2>
Tiドラムをカソードとして粒状の結晶組織からなる12μmの銅箔を、銅の濃度、硫酸濃度、塩素量、浴温、電流密度を表1に示す値にした他は実施例1と同様の条件で製箔し、この銅箔のS面(Tiドラムに接着していた面)に、実施例1と同一条件で電解エッチングによる粗化処理を施し、さらにNi量にして0.1mg/dm2のNiめっき処理、Zn量にして0.1mg/dm2のZnめっき処理の後、金属Cr量にして0.05mg/dm2のクロメート処理し、シランカップリング剤処理を施し試験試料とした。
この試験試料の表面粗さ、ピール強度、伝送損失を表2に併記する。
<比較例3、4>
実施例1と3で製箔した元箔のM面に下記条件の電析による粗化処理を施し、比較例3、4とした。
この比較例の表面粗さ、ピール強度、伝送損失を表3に併記する。
電析による銅粒子粗化処理条件
(1) めっき浴:
Cu :20〜35g/l
2SO4 :110〜160g/l
(2) 電流密度 :10〜50A/dm2
(3) 浴温 :15〜35℃
Figure 0004296250
Figure 0004296250
表3において、伝送損失は各比較例に対する伝送損失比として示した。
上記各試験試料のピール強度、伝送損失、平均粒径、粒径1μm以上の占有率の測定は下記により実施した。
1.ピール強度の測定
ピール強度は常温で測定した。
2.高周波伝送損失の測定
高周波伝送損失の測定は、各試験試料(銅箔)を樹脂基材に積層した後、配線長:1,000mm、線幅:0.16mmのパターンを作成し、ネットワークアナライザー(アジレントテクノロジー(株)8753ET)で85℃、5GHzでの伝送損失を測定した。
3.平均粒径、粒径1μm以上の占有率の測定
表面処理前の処理面の表面から4μmの深さ領域の平均粒径、粒径1μm以上の占有率の測定はEBSDで測定した。
各実施例と比較例とを表2で比較して見ると、平均粒径が0.3μm未満の比較例1と比較して実施例1〜5は全てピール強度が高い。平均粒径が0.3μm以上であっても粒径1μm以上の占有率が10%未満の比較例2と比較しても実施例1〜5は全てピール強度が高い。また、粒径1μm以上の占有率が大きくなるとピール強度が高くなる(実施例1〜5)傾向が見られる。
表3から明らかなように、実施例1と比較例3を比較すると、ピール強度は同程度であるが、実施例1は比較例3よりも伝送損失に優れている。
実施例2と比較例3を比較すると、実施例2はピール強度、伝送損失ともに優れている。
実施例3と比較例4を比較すると、ピール強度は同程度であるが、実施例3は比較例4よりも伝送損失に優れている。
実施例4と比較例4を比較すると、実施例4はピール強度、伝送損失ともに優れている。
実施例5は実施例4の元箔を窒素雰囲気中120℃で24時間の熱処理後、同様の処理をしたものであるが、比較例4と比較してピール強度、伝送損失ともに優れている。
本発明は上述したように、銅箔の製箔条件を制御することで、粒状の結晶組織の状態を制御し、電解エッチングすることで高周波領域での伝送損失に優れ、高いピール強度を有する高周波回路用銅箔とその製造方法を提供することができる。
なお、本発明銅箔の製造方法はCOF、フレキシブルプリント配線板用としても高い評価を与えることができ、従って、特にその用途を限定するものではない。

Claims (7)

  1. 高周波回路用銅箔の製造方法であって、未処理銅箔の少なくとも電解エッチング処理を施す表面は、その表面から4μmの深さ領域において平均粒径が0.3μm以上の粒状の結晶組織からなり、該未処理銅箔の前記表面を、電解エッチングで粗化処理することを特徴とする高周波回路用銅箔の製造方法。
  2. 前記未処理銅箔の前記結晶組織における粒状の大きさの分布が、1μm以上の粒径が10%以上を占めている請求項1に記載の高周波回路用銅箔の製造方法。
  3. 前記電解エッチング処理は、表面粗さRzが2.5μm以下となるように未処理銅箔の表面を電解エッチング処理する請求項1または2に記載の高周波回路用銅箔の製造方法。
  4. 前記エッチング処理面に、Ni、Zn又はこれらの合金のめっき処理、クロメート処理、有機防錆処理、シランカップリング剤処理の少なくとも1種の処理を施す請求項1乃至3のいずれかに記載の高周波回路用銅箔の製造方法。
  5. 未処理銅箔の少なくとも電解エッチング処理が施される表面の、表面から4μmの深さ領域における平均粒径が0.3μm以上の粒状の結晶組織であり、該未処理銅箔の前記表面を、電解エッチングで処理することにより表面粗さRzが2.5μm以下に粗化処理された高周波回路用銅箔。
  6. 引っ張り強さが20kN/cm2以上であり、かつ、伸び率が3%以上の特性を有する請求項5に記載の高周波回路用銅箔。
  7. 前記エッチング処理面に、Ni、Zn又はこれらの合金のめっき処理層、クロメート処理層、有機防錆処理層、シランカップリング剤処理層の少なくとも1種の処理層が設けられている請求項6または7に記載の高周波回路用銅箔。
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