JP4279401B2 - 薄膜サーミスタ素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、情報処理機器や、通信機器、住宅設備機器、自動車用電装機器などの温度センサに用いられる薄膜サーミスタ素子およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
温度検知に用いられる素子として、酸化物半導体材料を用いたサーミスタ素子は、従来、例えばMn,Co,Ni,Feなどの遷移金属を主成分としたスピネル型結晶構造を有する酸化物焼結体チップの端面に、Agなどの電極を塗布や焼き付けにより形成して構成されている。
【0003】
上記のようなサーミスタ素子は、熱電対や白金測温抵抗体と比較すると、
(1)抵抗の温度変化が大きいため温度分解能が高い
(2)簡単な回路での計測が可能である
(3)材料が比較的安定でかつ外界の影響を受けにくいため経時変化が少なく信頼性が高い
(4)大量生産が可能であり安価である
などといった特徴を有するため、多く用いられている。
【0004】
ところで、近年、電子機器の小型軽量化や高性能化に伴い、サーミスタ素子にも素子サイズの超小型化(例えば1mm×0.5mmサイズ以下)や、測定温度での抵抗値やB定数(温度に対する抵抗の変化率)の高精度化(例えばバラツキが3%以下)などが求められている。ところが、上記のような酸化物焼結体を用いたサーミスタは、加工上の問題から大幅に小型化することが困難である。しかも、小型化するほど、加工精度の問題から抵抗値やB定数のバラツキが大きくなってしまうといった欠点があった。
【0005】
そこで、上記のようなサーミスタ素子に対して、サーミスタ材料や電極の形成に薄膜技術を用いた薄膜サーミスタ素子の開発が盛んになされている。この種の薄膜サーミスタ素子は、例えばMn,Ni,Co、Feなどから成る複合酸化物の焼結体をターゲットとしたスパッタリング法によりサーミスタ薄膜を形成をした後、このサーミスタ薄膜上に所定の電極パターンを形成することによって製造される。ところが、上記のようにスパッタリングによって形成されたサーミスタ薄膜では、良好な結晶性が得られにくく、安定性が低いため、抵抗値やB定数の経時変化が大きく、特に、高温耐久性が低いという問題点がある。この問題点に関しては、スパッタリングによって形成されたサーミスタ薄膜を例えば200〜800℃の大気中で熱処理し、スピネル型構造への結晶化を行う技術が知られている(特開昭63−266801号公報、特開平3−54842号公報、および増田陽一郎他:八戸工業大学紀要、第8巻、pp.25〜34)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のようにスパッタリングにより形成された酸化物半導体のサーミスタ薄膜を例えば400℃以上の温度で熱処理したとしても、安定性を大幅に向上させることは困難で、高温耐久性を向上させることが困難であるという問題点を有していた。
【0007】
また、熱処理によって結晶成長させた場合、得られる多結晶体における結晶粒径のバラツキが大きくなりがちであり、例えば同一ロットで製造されたサーミスタ素子であっても、抵抗値やB定数などの電気特性のバラツキが大きいという問題点をも有していた。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑み、高温耐久性などを向上させて、高い信頼性を得ることができるとともに、抵抗値等のバラツキを小さく抑えて、高い精度を得ることができる薄膜サーミスタ素子およびその製造方法の提供を目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決する本発明は、
サーミスタ薄膜と、上記サーミスタ薄膜に設けられた1対の電極とを有する薄膜サーミスタ素子であって、
上記サーミスタ薄膜が、(100)面および(111)面のうちの何れか一方に配向したビックスバイト型結晶構造を有しているMn−Co−Ni酸化物から構成される。
【0010】
このような結晶構造を有するサーミスタ薄膜は、無配向のビックスバイト型結晶構造やスピネル型結晶構造のサーミスタ薄膜に比べて、結晶状態が比較的安定であるため、抵抗値やB定数(温度に対する抵抗の変化率)などの電気特性の経時変化が少なく、高温耐久性が高いうえ、結晶粒径のバラツキが比較的小さいため、抵抗値やB定数などのバラツキが小さい。したがって、このような結晶構造を持たせることにより、高信頼性で高精度なサーミスタ素子を得ることができる。
【0011】
また、上記酸化物は、Co、Ni、Fe、Cu、およびCrのうちの1種以上の元素を含むことが好ましい。また、上記サーミスタ薄膜に対して垂直な方向に柱状に結晶成長した結晶粒を有していることを特徴としている。
【0012】
これらにより、より高信頼性で高精度なサーミスタ素子を容易に得ることができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の薄膜サーミスタ素子11は、図1に示すように、アルミナから成る下地基板12上に、サーミスタ薄膜13と、Pt薄膜から成る1対のくし形電極14,15とが形成されて成っている。上記サーミスタ薄膜13は、例えばMn−Co−Niの複合酸化物から成り、(100)面または(111)面に優先配向した、すなわち主として(100)面または(111)面に配向したビックスバイト型結晶構造を有している。
【0014】
上記のようなサーミスタ薄膜13は、例えば図2に示すようなスパッタ装置21によって形成することができる。このスパッタ装置21には、下地基板12を保持する基板ホルダ22と、例えば直径が8インチのMn−Co−Niから成る複合酸化物の焼結体ターゲット23とが50mmの間隔で対向して設けられている。上記焼結体ターゲット23には、高周波電源25(13.56MHz)が接続されている。一方、基板ホルダ22は、図示しない駆動装置によって、所定の回転速度で回転するようになっている。上記基板ホルダ22および焼結体ターゲット23は、例えばアルゴンと酸素との混合ガスが充填された図示しないチャンバ内に設けられている。なお、必ずしも上記のように基板ホルダ22を回転させるようにしなくてもよいが、一般に、基板ホルダ22を回転等させることによって、サーミスタ薄膜13の均一性を向上させることが容易になる。
【0015】
上記基板ホルダ22に下地基板12を保持させて加熱し、焼結体ターゲット23に高周波電圧を印加するとともに基板ホルダ22を所定の回転速度で回転させると、焼結体ターゲット23から飛来する粒子がスパッタリングされてサーミスタ薄膜13が形成される。
【0016】
上記のようにして形成されたサーミスタ薄膜13を所定の温度で熱処理することにより、主として(100)面または(111)面に配向したビックスバイト型結晶構造を有し、結晶粒径の揃ったサーミスタ薄膜13が得られる。
【0017】
【実施例】
以下、より具体的なサーミスタ薄膜13の形成条件(スパッタリングおよび熱処理条件)、および得られたサーミスタ薄膜13と薄膜サーミスタ素子11の特性について説明する。
【0018】
実施例1〜2、およびそれぞれに対応する比較例1〜2について、下記(表1)に示す条件でサーミスタ薄膜13を形成し、さらに、同表に示す条件で大気中で熱処理した。上記実施例1と比較例1との主な相違は、アルゴン/酸素流量比、基板温度、ホルダ回転の有無であり、上記実施例2と比較例2との主な相違は、ターゲット組成である。ここで、下地基板12としては、50mm×50mm×0.3mmの大きさで、表面の凹凸が0.03μm以下になるように研磨した2枚のアルミナ基板を用いた。また、基板ホルダ22には、上記下地基板12とともに、結晶性を評価するためのガラス基板31を1枚保持させた。
【0019】
【表1】
上記のようにしてガラス基板31上に形成され、熱処理されたサーミスタ薄膜13について、
(1)X線マイクロアナライザによる組成分析
(2)X線解析(XRD)による結晶構造の観察
(3)走査型電子顕微鏡(SEM)による膜表面と破断面の観察
を行った。その結果を下記(表2)に示す。
【0020】
【表2】
具体的には、例えば実施例1および比較例1においては、X線マイクロアナライザによる組成分析によれば、熱処理後のサーミスタ薄膜13の膜組成は、Mn:Co:Ni=63:19:18(実施例1)、または、65:20:15(比較例1)であった。ここで、これらの実施例1および比較例1の場合には、焼結体ターゲット23としてMn−Co−Ni複合酸化物(組成Mn:Co:Ni=67:18:15)の焼結体を用いたが、形成されるサーミスタ薄膜13の組成は上記のように焼結体ターゲット23とは若干異なったものとなった。なお、他の実施例および比較例においても、焼結体ターゲット23の組成を適宜選択することにより、同表に示すような膜組成のサーミスタ薄膜13を形成することができる。
【0021】
また、X線解析によれば、実施例1〜2においては、熱処理後のサーミスタ薄膜13は主として(100)面または(111)面に配向したビックスバイト型結晶構造を有している一方、比較例1〜2においては、配向がランダムな(結晶配向性を示さない)ビックスバイト型またはスピネル型結晶構造を有していることがわかった。
【0022】
さらに走査型電子顕微鏡による膜表面および破断面の観察によれば、熱処理後のサーミスタ薄膜13の結晶粒は、実施例1〜2においては、図3に模式的に示すような柱状構造を有しており、その粒径のバラツキ(値の範囲)は、上記(表2)に示すように、各実施例1〜2の方が各比較例1〜2よりも小さかった。また、比較例1〜2においては上記のような柱状構造は有していなかった。
【0023】
次に、上記のようにして下地基板12上に形成され、熱処理されたサーミスタ薄膜13上の全面に、厚さが0.1μmのPt薄膜およびレジストパターンを形成し、Ar(アルゴンガス)によるドライエッチングを用いたフォトリソグラフィプロセスによりパターニングして、くし形電極14,15を形成した。次いで、ダイシング装置を用い、基板周辺部を除いて1×0.5mmサイズにカットすることにより、前記図1に示した構成の薄膜サーミスタ素子11を2000個作製し、抵抗値およびB定数(温度に対する抵抗の変化率)を測定して、平均値、およびバラツキ((最大値−最小値)/平均値)を求めた。また、上記薄膜サーミスタ素子11を250℃の大気中に1000時間放置する高温耐久性試験を行った後に、再度、抵抗値およびB定数を測定して、高温耐久性試験前後の変化率を算出した。上記抵抗値およびB定数の平均値、バラツキ、高温耐久性変化を上記(表2)に併せて示す。
【0024】
上記実施例1〜2および比較例1〜2から明らかなように、サーミスタ薄膜13に主として(100)面または(111)面に配向したビックスバイト型結晶構造の酸化物薄膜を用いることにより、無配向のスピネル型結晶構造の酸化物薄膜を用いる場合よりも抵抗値およびB定数のバラツキが小さく、しかも高温耐久性が高い、高精度で高信頼性のサーミスタ素子を得ることができる。
なお、サーミスタ薄膜13を構成する複合酸化物としては、上記(表2)に示した組成のMn−Co−Ni酸化物に限らずMn以外にCo、Ni、Fe、Cu、およびCrのうちの1種以上の元素を含むものなどであっても同様に優れた結果が得られた。
【0025】
また、サーミスタ薄膜の全域にわたって上記のような結晶構造を有するものに限らず、ビックスバイト型結晶相中に部分的にスピネル型結晶相やNaCl型結晶相が含まれていてもよい。
【0026】
また、上記の例では下地基板としてアルミナ基板を用いたが、その他のセラミクス基板やガラス基板などを用いた場合においても、同様に優れた結果が得られた。
【0027】
また、薄膜サーミスタ素子の構造は、上記のようにサーミスタ薄膜における同一の表面上に1対のくし形電極が形成されたものに限らず、サーミスタ薄膜の両面側に、サーミスタ薄膜を挟むように1対の電極を設けるようにしてもよい。
【0028】
【発明の効果】
本発明は、以上説明したような形態で実施され、以下に記載されるような効果を奏する。
【0029】
すなわち、(100)面または(111)面に配向したビックスバイト型結晶構造を有するMn−Co−Ni酸化物から構成されるサーミスタ薄膜を形成することにより、そのようなサーミスタ薄膜は結晶状態が比較的安定であるため、高温耐久性が高く、しかも、結晶粒径のバラツキが比較的小さいため、抵抗値やB定数などのバラツキが小さいので、高信頼性で高精度なサーミスタ素子を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の薄膜サーミスタ素子の構成を示す斜視図
【図2】本発明の薄膜サーミスタ素子の製造装置の構成を示す斜視図
【図3】本発明のサーミスタ薄膜の結晶形態を示す説明図
【符号の説明】
11 薄膜サーミスタ素子
12 下地基板
13 サーミスタ薄膜
14,15 くし形電極
21 スパッタ装置
22 基板ホルダ
23 焼結体ターゲット
25 高周波電源
31 ガラス基板
Claims (3)
- サーミスタ薄膜と、上記サーミスタ薄膜に設けられた1対の電極とを有する薄膜サーミスタ素子であって、
上記サーミスタ薄膜が、(100)面および(111)面のうちの何れか一方に配向したビックスバイト型結晶構造を有しているMn−Co−Ni酸化物から構成される、薄膜サーミスタ素子。 - 請求項1の薄膜サーミスタ素子であって、
上記酸化物は、Co、Ni、Fe、Cu、およびCrのうちの1種以上の元素を含む、薄膜サーミスタ素子。 - 請求項1の薄膜サーミスタ素子であって、
上記サーミスタ薄膜が、上記サーミスタ薄膜に対して垂直な方向に柱状に結晶成長した結晶粒を有していることを特徴とする薄膜サーミスタ素子。
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