JP4269586B2 - 白金族元素の分離方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、白金族元素と共にセレンを含む滓などから、白金族元素を効率良くセレンと分離して回収することができる処理方法に関する。
【0002】
【従来技術とその課題】
白金族元素は、銀製錬工程からでる銀アノードスライムや、このスライムに硝酸を加えて金以外の成分を浸出した後に還元して得たスライムなどを原料として回収されている。従来、これらのスライムを溶解するには、王水による溶解、または塩酸と過酸化水素による溶解、または塩酸と塩素ガス吹込みによる溶解が利用されている。
【0003】
ところが、白金族元素と共に大量のセレンが共存している場合、これを還元して沈殿化すると白金族のセレン化物が形成される場合が多い。この白金族セレン化物は王水や塩酸および過酸化水素では溶解し難く、特に過酸化水素を使用した場合にはセレン化物の表面で過酸化水素が分解するために酸化剤としての効果が殆ど無い。このため従来の溶解法では白金族セレン化物を溶解して、白金族元素をセレンと分離するのが難しい。また、焙焼によってセレンを酸化セレンの形で気化させて原料から除去する方法では、二酸化セレンの毒性によって環境が汚染される問題がある。
【0004】
また、銅電解澱物の金抽出後液に含まれる白金族元素とセレン・テルルとを分離する方法として、液中の塩素イオン濃度を1.5モル/L以下とし、60℃〜90℃の温度下で、8〜12%濃度の亜硫酸ガスを液中に吹き込み、白金族元素を還元して沈澱化し、液中のセレンと分離した後に、さらに亜硫酸ガスを吹き込んでセレンを還元して沈澱化する方法(特開2001−316735号)や、銅電解スライムの塩酸浸出液から溶媒抽出によって金および白金族を回収した抽出残液に二酸化硫黄を導入し、セレンおよびテルルを還元して沈澱化する方法(特許第3087758号:特開2001−207223)などが知られている。
【0005】
しかし、二酸化硫黄による二段階の還元処理は工程の管理が非常に難しく、しかも何れの沈澱においてもセレンまたは白金族元素の混入が避けられず、二酸化硫黄による還元だけでは分離が不十分である。また、白金族を溶媒抽出してセレンやテルルと分離する方法はコスト高であり、抽出後の回収処理も面倒である。さらに、これらの方法は何れもすでに溶液中に共存する白金族元素とセレンを分離するものであり、白金族元素とセレン等を含む処理滓の溶解に関するものではない。
【0006】
この他にセレンやテルルの回収に関して次の方法が従来から知られている。例えば、酸化剤を用いて金属セレンを酸化し、これをアルカリ金属の炭酸塩または水酸化物で中和してアルカリ金属セレン酸塩を製造する方法(特開昭60−176908号)、セレン含有物をアルカリ金属炭酸塩と反応させて水溶性スラリーにし、これを酸化雰囲気下で焙焼してペレットにした後に水浸出する方法(特開昭56−5306号)、含テルル銅スライムを酸化剤の存在下で鉱酸に溶解し、これにアルカリを加えて銅を沈澱分離した後に、中和してテルルを沈澱化する方法(特開昭56−84428号)などが知られている。しかし、これらは何れもセレンやテルルを酸化して溶解する方法であり、この方法では白金族元素とセレンとを溶解段階で分離することができない。
【0007】
また、白金族元素であるロジウムの回収については、ロジウムは酸化されやすく、難溶性の酸化ロジウムを生じるために溶液化が難しい。このロジウムを貴金属含有滓から分離する方法として、貴金属含有滓を炭素質還元剤と共に加熱し、得られた還元物を高温下で硫酸塩化剤と反応させてロジウムの硫酸塩を形成させる方法(特開平5−125461号)が知られているが、処理温度が高いうえに回収率が低いと云う問題がある。
【0008】
本発明は、セレンを含む白金族含有物の溶解処理方法について、従来の上記問題を解決したものであり、セレンを選択的に溶解して効率よく白金族元素と分離し、固形分に残る白金族元素を溶解して回収する処理方法を提供する。
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下の処理方法が提供される。
〔1〕セレン白金族含有物を高温下でアルカリ浸出してセレンを液中に移行させ、これを固液分離して固形分に含まれる白金族元素と液分に含まれるセレンとを分離する一方、分離した固形分に塩酸酸性下で酸化剤を加えて白金族元素を溶解することを特徴とする白金族元素の分離方法。
〔2〕セレン白金族含有物を高温下でアルカリ浸出することによってセレンと共にテルルを液中に移行させて白金族元素と分離する上記[1]の分離方法。
〔3〕セレン白金族含有物を60℃以上の温度下および1モル/L以上のアルカリ濃度下で浸出する上記[1]または上記[2]に記載する分離方法。
〔4〕アルカリ浸出後に固液分離した固形分に、塩酸と共に過酸化水素または塩素ガスを添加して白金族元素を溶解する上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する分離方法。
〔5〕セレン白金族含有物に含まれる白金族元素がロジウム、ルテニウム、パラジウム、白金の一種または二種以上である上記[1]〜上記[4]の何れかに記載する分離方法。
〔6〕セレン白金族含有物が脱銅製錬スライムの塩酸浸出液から溶媒抽出によって金を分離した抽出残液の還元処理滓である上記[1]〜上記[5]の何れかに記載する分離方法。
〔7〕脱銅製錬スライムを塩酸および過酸化水素によってスラリーにし、これを濾過して主に銀を含む浸出滓と、金、白金族元素、およびセレン、テルルを含む浸出液とに分離し、次に、この浸出液から溶媒抽出によって金を分離する一方、抽出残液に二酸化イオウを添加してセレンおよびテルルを沈澱させ、これを固液分離して得たセレン白金族含有物を用いる上記[1]〜上記[6]の何れかに記載する分離方法。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施例と共に具体的に説明する。
本発明の処理方法の概略を図1に示す。図示するように本発明の処理方法は、セレン白金族含有物を高温下でアルカリ浸出してセレンを液中に移行させ、これを固液分離して固形分に含まれる白金族元素と液分に含まれるセレンとを分離する一方、分離した固形分に塩酸酸性下で酸化剤を加えて白金族元素を溶解することを特徴とする白金族元素の分離方である。
【0011】
さらに本発明の分離方法は、〔イ〕セレン白金族含有物を高温下でアルカリ浸出することによってセレンと共にテルルを液中に移行させて白金族元素と分離する方法、〔ロ〕セレン白金族含有物を60℃以上の温度下および1モル/L以上のアルカリ濃度下で浸出する分離方法、〔ハ〕アルカリ浸出後に固液分離した固形分に、塩酸と共に過酸化水素または塩素ガスを添加して白金族元素を溶解する分離方法、〔ニ〕セレン白金族含有物が脱銅製錬スライムの塩酸浸出液から溶媒抽出によって金を分離した抽出残液の還元処理滓である分離方法を含む。なお、本発明においてセレン白金族含有物とは、白金族元素と共にセレンを含有し、または白金族元素と共にセレンおよびテルルを含有するものを云う。
【0012】
セレン白金族含有物として、例えば、脱銅製錬スライムの塩酸浸出液から溶媒抽出によって金を分離した抽出残液の処理滓を用いることができる。この脱銅製錬スライムには金、銀、白金族元素、セレン、テルルなどの有価金属が多量に含まれている。この処理方法の一例を図2に示す。図示するように、上記脱銅スライムを塩酸および過酸化水素によってスラリーにし、これを濾過して主に銀を含む浸出滓と、金、白金族元素およびセレン、テルルを含む浸出液とに分離する。次に、この浸出液から溶媒抽出によって金を分離する。一方、抽出残液には白金族元素、セレン、テルルが残留している。そこで、この抽出残液に二酸化イオウを添加してこれらの白金族元素、セレンおよびテルルを沈澱化し、処理滓として回収することができる。
【0013】
なお、上記抽出残液に二酸化イオウを添加してセレンとテルルを還元し、沈澱化させる際、テルルはセレンより還元電位が低く、セレンが沈澱した後にテルルが沈澱するので、セレン沈澱を濾別した後に、この濾液にさらに二酸化イオウを添加してテルルを沈澱化することによって両者を分離回収することができる。これらの還元の際に白金族元素はセレンないしテルルと共に沈澱する。本発明はセレン白金族含有物としてこれらのセレン沈澱滓あるいはテルル沈澱滓を用いることができる。
【0014】
セレン白金族含有物のアルカリ浸出は、1モル/L以上のアルカリ濃度下で行うのが適当であり、例えば5モル/L〜8モル/Lの範囲が好ましい。アルカリ濃度を1モル/L以上にすることにより、pH>14の強アルカリ性下でセレンやテルルの酸化還元電位が下がり、常圧下において酸化剤を用いずに、セレンおよびテルルをアルカリ溶液中に溶出させることができる。なお、常温ではこのセレンやテルルの溶出反応の進行が遅いので、60℃以上の温度下、好ましくは80℃程度の温度下で浸出を行うのが適当である。
【0015】
上記アルカリ浸出によって、セレンおよびテルルはアルカリ溶液中に溶出してコロイド状に分散する。一方、ロジウムやパラジウムなどの白金族元素は溶出せずに残留する。これを濾別して、セレンないしテルルの分散液と、白金族元素を含む固形分とに分離する。
【0016】
上記固液分離後、濾別した固形分に過酸化水素などの酸化剤を塩酸と共に添加し、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムなどの白金族元素を溶出させる。白金族元素は過酸化水素によって酸化されると共に塩素イオンによって塩化物錯体となり、安定化されて液中に溶出する。過酸化水素は白金族元素を安定な酸化数のイオンにするために必要な当量、すなわち白金を4価、バラジウムを2価、ロジウムおよびルテニウムを3価に酸化するのに必要な当量を用いる。塩酸はそれぞれPtCl6 -,PdCl4 -,RhCl6 3-,RuCl6 3-に相当する量、および遊離塩酸として2モル/L以上を用いる。反応温度は反応を促進するため60℃以上が良く、また過酸化水素の分解を抑制するため80℃以下が適当であり、70℃程度の温度下で行うのが好ましい。この溶解処理によって、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムなどが溶解した塩酸性溶液を得ることができる。
【0017】
【発明の効果】
本発明の処理方法によれば、セレン白金族含有物を60℃〜80℃程度の処理温度においてアルカリ浸出することによって、常圧下で酸化剤を用いずに、セレンやテルルを溶解して白金族元素から分離することができる。従って、白金族元素と共にセレンやテルルを含有する処理滓から容易にセレンおよびテルルを分離して白金族元素を概ね95%以上の収率で選択的に回収することができる。しかも、このアルカリ浸出の際に白金族元素は酸化されないため、難溶性の酸化ロジウムや酸化ルテニウムを生じることがなく、溶液化が容易である。この浸出残渣中の白金族元素を塩酸酸性下で酸化して塩化物錯体を形成させることによって白金族元素含有液を得ることができる。一方、溶出したセレンやテルルはコロイド状に分散しており、浸出液を中和するとメタルになって沈澱するので、これらも容易に回収することができる。因みに、従来の酸化剤を用いてアルカリ浸出する方法は加圧下で浸出を行い、セレン酸ソーダないし亜セレン酸ソーダなどが生じるので、その後のセレン回収工程が面倒である。一方、本発明の処理方法は、常圧下で酸化剤を用いずにセレンおよびテルルを溶解して白金族元素と分離するので、工程の管理および回収処理が容易である。
【0018】
【実施例】
以下、本発明の実施例および比較例を示す。なお、%は特に示さない限りwt%である。
〔実施例1〕
セレン白金族含有物(Se:65%,Te:30%,Pd:5%,Pt:0.5%,Rh:0.2%,Ru:0.4%)1kgを、5モル/Lの苛性ソーダ溶液10Lと混合して80℃に加熱して1時間保持したところ、大部分は溶解して液は濃い紫色になつた。これを冷却後に濾過し、残渣65gを回収した。この残渣を分析したところ、Pd、Pt、Rh、Ruの白金族元素が主成分として確認され、その品位はPd:80%、Pt:8%、Rh:3%、Ru:6%であった。なお、濾液にはSe:65g/LおよびTe:30g/Lが溶解していたが、白金族元素は検出されなかった。
【0019】
〔実施例2〕
セレン白金族含有物(Se:65%,Te:30%,Pd:5%,Pt:0.5%,Rh:0.2%,Ru:0.4%)1kgを、5モル/Lの苛性ソーダ溶液10Lと混合して80℃に加熱して1時間保持したところ、大部分は溶解して液は濃い紫色になつた。これを冷却後に濾過し、残渣65gを回収した。なお、濾液にはSe:65g/LおよびTe:30g/Lが溶解していたが、白金族元素は検出されなかった。この残渣を分析したところ、Pd、Pt、Rh、Ruの白金族元素が主成分として確認され、その品位はPd:80%、Pt:8%、Rh:3%、Ru:6%であった。この残渣を塩酸400mlと水100mlでリパルプし、液温を70℃に保ちながら過酸化水素120mlを徐々に添加した。過酸化水素の添加終了後、冷却して濾過した濾液を分析したところ、Pd:74g/L、Pt:7g/L、Rh:2.8g/L、Ru:5.5g/Lであった。
【0020】
〔実施例3〕
苛性ソーダ溶液の濃度を1モル/Lとし、加熱保持時間を5時間とした以外は実施例1と同様にしてアルカリ浸出を行った。この結果、75gの残渣を回収した。残渣の主成分はPd、Pt、Rh、Ruであり、その品位はPd:67%、Pt:7%、Rh:3%、Ru:5%であった。一方、濾液にはSe:63g/LおよびTe:28g/Lが溶解していたが、白金族元素は検出されなかった。
【0021】
〔実施例4〕
苛性ソーダ溶液の濃度を8モル/Lとし、加熱温度を60℃とした以外は実施例1と同様にしてアルカリ浸出を行った。この結果、65gの残渣を回収した。残渣の主成分はPd、Pt、Rh、Ruであり、その品位はPd:77%、Pt:8%、Rh:3%、Ru:6%であった。一方、濾液にはSe:64g/LおよびTe:29g/Lが溶解していたが、白金族元素は検出されなかった。
【0022】
〔比較例1、2〕
苛性ソーダ溶液の濃度を0.5モル/Lとした以外は実施例1と同様にしてアルカリ浸出を行ったところ、セレンおよびテルルは溶出せず、白金族元素をセレンおよびテルルから分離することができなかった(比較例1)。
また、反応温度を室温とした以外は実施例1と同様にしてアルカリ浸出を行ったところ、セレンおよびテルルは溶出せず、白金族元素をセレンおよびテルルから分離することができなかった(比較例2)。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の処理方法の概略を示す工程図。
【図2】脱銅スライムの処理から本発明の処理方法に至る概略を示す工程図。

Claims (7)

  1. セレン白金族含有物を高温下でアルカリ浸出してセレンを液中に移行させ、これを固液分離して固形分に含まれる白金族元素と液分に含まれるセレンとを分離する一方、分離した固形分に塩酸酸性下で酸化剤を加えて白金族元素を溶解することを特徴とする白金族元素の分離方法。
  2. セレン白金族含有物を高温下でアルカリ浸出することによってセレンと共にテルルを液中に移行させて白金族元素と分離する請求項1の分離方法。
  3. セレン白金族含有物を60℃以上の温度下および1モル/L以上のアルカリ濃度下で浸出する請求項1または2に記載する分離方法。
  4. アルカリ浸出後に固液分離した固形分に、塩酸と共に過酸化水素または塩素ガスを添加して白金族元素を溶解する請求項1〜3の何れかに記載する分離方法。
  5. セレン白金族含有物に含まれる白金族元素がロジウム、ルテニウム、パラジウム、白金の一種または二種以上である請求項1〜4の何れかに記載する分離方法。
  6. セレン白金族含有物が脱銅製錬スライムの塩酸浸出液から溶媒抽出によって金を分離した抽出残液の還元処理滓である請求項1〜5の何れかに記載する分離方法。
  7. 脱銅製錬スライムを塩酸および過酸化水素によってスラリーにし、これを濾過して主に銀を含む浸出滓と、金、白金族元素、およびセレン、テルルを含む浸出液とに分離し、次に、この浸出液から溶媒抽出によって金を分離する一方、抽出残液に二酸化イオウを添加してセレンおよびテルルを沈澱させ、これを固液分離して得たセレン白金族含有物を用いる請求項1〜6の何れかに記載する分離方法。
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