JP4266317B2 - 打ち抜き加工性に優れた冷延鋼板及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として自動車のオートマチックトランスミッションの構成部材であるセパレートプレート、フリクションプレート、バッキングプレート等として好適に使用される打ち抜き加工性に優れた冷延鋼板に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車のオートマチックトランスミッション(AT)を構成するセパレートプレート(ドリブンプレート又はメーティングプレート等とも称される)、フリクションプレート(ドライブプレート,コアープレート又はディスク等とも称される)、バッキングプレート(リテーニングプレート,リアクションプレート又はエンドプレート等とも称される)等の部材(以下「ATプレート」)は、鋼板をほぼ円環形状にプレス打ち抜きした成形品である。セパレートプレートとフリクションプレートは摩擦材を介して交互に配置され、これにバッキングプレート等を組付けられてトルク伝達機構が構成される。これらの部材料の機能上、硬度及び表面性状の要求特性(硬さHv≧230,表面粗さRa≦0.4μm)と併せて、打ち抜き面の美麗さを保証するための良好な打ち抜き加工性が要求される。
【0003】
従来、ATプレート素材としてJIS G3311に規定の機械構造用鋼、主としてS35Cの冷延鋼板が使用され、これは、「製鋼→連続鋳造→熱間圧延→酸洗→焼鈍→冷間圧延→脱脂→精整」の工程で製造されている。この製造工程で、ATプレート用冷延鋼板の要求特性(硬さHv≧230,表面粗度Ra≦0.4μm)を満たすために、冷間圧延の圧下率を50%以上とすることが必要とされている。その冷間圧延に先立って「焼鈍」を行なうのは、熱延鋼板のままでは硬質で、冷間圧延(圧下率≧50%)の安定操業に支障をきたすことがあり、また熱延鋼板のままでは熱延鋼板の粗大なパーライト組織が冷延鋼板に持ち越されるために、ATプレートのプレス打ち抜き性が悪く、打ち抜き端面にムシレ等が生じ易くなるからである。
【0004】
上記のように冷間圧延前に行なっている「焼鈍」は、熱延鋼板の軟質化と炭化物の球状化を目的とするものであり、その焼鈍の実施により圧下率50%以上の冷間圧延の安定操業が維持されると共に、得られる冷延鋼板のプレス打ち抜き性が改善され、美麗な打ち抜き面が確保される。従ってS35Cを素材とする従来のATプレート用冷延鋼板の製造においては、冷間圧延前に熱延鋼板を焼鈍することが必須の工程とされ、その焼鈍処理は通常、タイトコイル焼鈍(TCA)として実施されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
近時、小型大衆車NBC(New Basic Car)の開発動向に見られるように、低価格化の要求が時代の趨勢となっている。その一環としてオートマチックトランスミッションについても低価格化への対応が急務とされ、所要の硬度及び打ち抜き加工性等を備えた低価格材の開発要求が一段と強くなっている。しかるにS35C鋼を素材とする従来のATプレート用冷延鋼板は、前記のように冷間圧延前の焼鈍の実施を必須とし、しかもTCA焼鈍による長時間の処理(通常は均熱:約10Hr以上)を必要とし、コストアップの大きな要因となっている。
【0006】
本発明は上記に鑑み、従来ATプレートの製造工程で必須とされている冷間圧延前の焼鈍処理を省略してコストアップの要因を排除しながら、ATプレート用素材等としての硬度,表面性状等の要求特性を確保すると共に、改良された打ち抜き加工性を具備せしめた冷延鋼板を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る打ち抜き加工性に優れた冷延鋼板( 請求項1 )は、
質量%で、C:0.15〜0.25%,Si:0.25%以下,Mn:0.3〜0.9%,P:0.03%以下,S:0.005%以下,Al:0.08%以下,N:0.008%以下,Ca:0.002〜0.006%,Ti:0.07%以下,B:0.006%以下、残部はFe及び不可避不純物からなり、パーライト+セメンタイト分率:30%以上、フェライト粒径:5〜15μmの熱延鋼板を、焼鈍処理することなく圧下率50%以上で冷間圧延してなる、Hv230以上の硬さ及びRa0.4μm以下の表面粗さを有すると共に、介在物の清浄度指数(JIS-G0555)dT:0.03%以下,dA:0.01%以下であることを特徴としている。
【0009】
本発明の冷延鋼板は、上記化学組成に基づく効果として、従来必須とされていた冷間圧延前の焼鈍(熱延鋼板の軟質化及び炭化物球状化処理)を省略しながら、冷間圧延(圧下率≧50%)の安定操業を可能にすると共に、主としてATプレート用冷延鋼板等の要求特性(硬さHv≧230、表面粗さRa≦0.4μm)を満たすと共に、良好な打ち抜き加工性を確保することを実現している。しかも、その冷延鋼板は、打ち抜き加工後、調質のための熱処理を必要とせず、そのまま(硬引き材のまま)ATプレート等として使用することができる。
【0010】
本発明の冷延鋼板は、前記化学組成を有する鋼のスラブを熱間圧延(熱延温度≧Ar3変態点)し、500〜600℃で巻き取った熱延鋼板を、酸洗処理し、焼鈍処理することなく、圧下率50%以上で冷間圧延する工程により製造される。冷間圧延は、後述のように、酸洗処理前の冷間圧延(プレ圧延)と酸洗処理後の冷間圧延(仕上げ圧延)とに分け、前後の圧延(プレ圧延と仕上げ圧延)の合計圧下率が50%以上となるように2段階の冷間圧延として実施することもできる。従って、ここにいう冷間圧延は、酸洗処理後に行なわれる通常の圧延形態のほか、酸洗処理の前後に分けて行なう二段階の圧延形態をも包含している。
【0011】
本発明の鋼組成、特にC量,S量の規定,及び一定量のCaの添加、並びにTiとBの複合添加は重要である。
本発明におけるC量は、従来材(S35C)より低い範囲に規定されている。このC量の制限により、熱延鋼板のパーライト量を少なくし熱延鋼板を軟質化することができ、その効果として冷間圧延前における熱延鋼板の軟質化および炭化物(Fe3C)の球状化を目的とする焼鈍処理の省略を可能にしている。
【0012】
S量の規定は打ち抜き加工性に関連している。Sは鋼中でMnSのA系介在物を形成する。A系介在物は一般的には加工に粘性変形を生じて加工方向に細長く延びた形態を呈し、打ち抜き加工において割れの起点になり易く、端面の美麗さを損なう要因となる。本発明者等は、打ち抜き加工性を高めるための条件として、その介在物の清浄度指数(JIS G0555)dAを0.01以下に抑える必要があり、そのためにS量を0.005%以下に抑制すべきことを見出した。
【0013】
更に、CaはSと結合しCaSを形成することにより、前記MnSの生成量を低減する。CaS(C系介在物である)は球状の形態で鋼中に存在するので、MnS(A系介在物)と異なって打ち抜き加工性の阻害因子とはならない。このCa添加による介在物の形態制御は、打ち抜き加工性を高めるための最も重要な要件の1つである。そして美麗な打ち抜き端面を確保するためには、A系介在物量の低減と併せて、CaSを含むトータルの介在物量を低減することも重要であり、その清浄度指数dTを0.03%以下に抑えることを要する。Caの添加(生成するCaSは前記MnSよりも鋼浴から浮上分離し易い)は、清浄度指数dTの改善にも奏効する。
【0014】
本発明の冷延鋼板は、パーライト+セメンタイト分率:30%以上の均一微細な炭化物組織を有すると共に、フェライト粒径:5〜15μmの細粒化されたフェライト組織を有する。この微細均質性を有する組織は、ATプレート用素材等に要求される硬度や打ち抜き加工性等を得るために必要である。そしてこの材料特性はTi及びBの一定量の複合添加により増強される。
【0015】
すなわちTiはTiC,Ti(C,N)等の微細析出物(大きさ:約500〜3000Å)を形成して鋼中に均一分散し、熱延鋼板のフェライト組織を著しく細粒化する作用をなす。熱延鋼板では、炭化物がフェライト粒界に優先的に析出するため、細粒化の効果として炭化物は均一微細に分散する。これにより冷延鋼板の炭化物組織はより微細化され、パーライト+セメンタイト分率を30%以上に高めることができる。この効果として、打ち抜き加工性が更に良好化し、かつ硬度その他の材料特性(疲労強度等)も高められる。
【0016】
またBの添加により固溶Bを生成する。固溶Bは結晶粒界の強化作用を有するほか、熱延鋼板の結晶粒の細粒化作用を有する。その細粒化作用により熱延鋼板に5〜15μmのより細粒化されたフェライト組織が付与される。この細粒化効果として冷延鋼板の打ち抜き加工性等をより高めることができる。このB添加による材質改善効果はTiの共存により助長される。これは、TiNがBNより生成し易く、BNの生成(Bの消耗)が抑制され、固溶B量が増加することによる。
【0017】
次に本発明の鋼組成の限定理由について説明する。元素含有量を示す%は質量%である。
C:0.15〜0.25%
ATプレート用冷延鋼板に求められる硬度(230Hv以上)を確保する観点からはC量が高いほど有利であるが、0.25%を超えると、熱延鋼板の炭化物の球状化と軟質化のための焼鈍処理を省略することができなくなる。一方0.15%に満たないと、ATプレート用冷延鋼板に必要な硬度を確保することが困難となる。このためC量は0.15〜0.25%であることを要する。
【0018】
Si:0.25%以下
Siは通常、鋼の溶製工程での脱酸剤として添加される。そのための添加量は0.25%までで十分である。またそれを超えると熱延鋼板の酸洗処理性の低下及び酸洗後のスケール残存による表面欠陥の発生原因ともなり、ATプレート用素材としての表面品質の低下をきたすので、これを上限とする。
【0019】
Mn:0.3〜0.9%
Mnは、鋼の熱間脆性の防止及びマトリックスの強化のために添加される。0.3%に満たないとその効果が少なく、マトリックスの強度が不足する。増量により効果を増すが、0.9%を超えると過度に硬質化して加工性が損なわれる。
【0020】
P:0.03%以下
Pは不純分であり、鋼中に多量に存在すると、粒界の強度低下をきたし、スラブ割れに起因するへげ疵等の発生要因となり、ATプレート用素材としての表面品質が損なわれる。0.03%以下であれば、実質的な悪影響を生じないので、これを上限とする。
【0021】
S:0.005%以下
SはMnSのA系介在物を形成する。A系介在物は一般に加工により粘性変形を起こし、加工方向に細長い形態を呈するため、打ち抜き加工において割れの起点となり易く、打ち抜き端面の美麗さを損なう要因となる。S量が0.005%を超えると、打ち抜き端面にムシレ等を生じ易く、ATプレート用素材に望まれる美麗な端面を得ることができなくなるので、これを上限とする。
【0022】
Al:0.08%以下
Alは鋼の溶製過程における脱酸剤として添加される。このための添加量は0.08%までで十分である。またこれを超えると、鋼の清浄度が損なわれると共に表面疵が生じ易くなり製品鋼板の表面品質が低下するので、これを上限とする。なお、本発明ではSiも脱酸剤としてはたらくので、Alの下限量を規定する必要は特にないが、鋼中のNをAlNとして固定する作用を有し、このことはBの消耗(BNの生成)を抑制し、Bの固溶量を多くするのに役立つ。このため0.02%以上とするのが好ましい。
【0023】
N:0.008%以下
Nは不可避的に混入する不純分元素であり、含有量が多くなると、窒化物(AlN,TiN等)等の生成量が増加し、過度の硬質化を招くので、0.008%以下に制限することを要する。
【0024】
Ca:0.002〜0.006%
Caは、鋼中の介在物の形態を制御するための重要な元素である。CaはSをCaSとして固定する。CaSは、MnS(A系介在物)と異なって加工による粘性変形を生じず、球状の介在物として鋼中に存在するC系介在物であり、MnSのように打ち抜き加工性を損なうことはない。このCaはMnよりもSとの親和性が高いため、Caの添加によりMnSの生成量が減少し、その効果として打ち抜き加工性が高められる。この効果を得るためにCaは0.002%以上であることを要する。しかし過度に添加すると、鋼の清浄度が低下し、打ち抜き加工性の確保に必要な清浄度(dT≦0.03%)を維持することが困難となるので、0.006%を上限とする。
【0025】
Ti:0.07%以下
Tiは一般的にはSをTiSとして固定し熱間脆性の回避に奏効する元素であるが、本発明では前記したとおり、TiC,Ti(C,N)等の微細析出物を形成して熱延鋼板のフェライト組織を細粒化し、その効果として炭化物が均一微細に分散され打ち抜き加工性等を高める作用をなす。しかし含有量が多くなると、微細析出物の過剰生成により不必要な硬質化をきたすので、0.07%以下とする。本発明では、Tiの添加量が少なくても、S量の制限及び一定量のCaの添加効果によりATプレート用素材等として必要な打ち抜き加工性を得ることができるが、Tiによる打ち抜き加工性向上効果を明瞭ならしめる点から0.02%以上とするのが好ましい。
【0026】
B:0.006%以下
Bは、前記のようにその多くは固溶Bを生成し、フェライト粒界の強化作用及びフェライト粒の細粒化作用により、均一微細なフェライト組織を形成して打ち抜き加工性等を高める。しかし多量に添加すると、フェライト組織が微細化し過ぎ、不必要な硬質化を招くので、0.006%を上限とする。本発明では、Bの添加量が少なくても、S量の制限及び一定量のCaの添加効果としてATプレート用素材に必要な打ち抜き加工性を得ることができるが、Bによる打ち抜き加工性向上効果を明瞭ならしめる点から、0.003%以上とするのが好ましい。
【0027】
次に本発明の冷延鋼板の製造工程について説明する。
[鋼の溶製・鋳造]
まず製鋼炉で所定の化学組成に溶製した鋼を、造塊・分塊圧延または連続鋳造によりスラブとし、表面手入れを適宜実施した後、熱間圧延する。連続鋳造による場合、熱鋳片(スラブ)をそのまま加熱炉に装入して熱間圧延するようにしてもよい。
【0028】
[熱間圧延]
熱間圧延は、熱延鋼板の品質及び熱延効率等の点から、熱延仕上げ温度はAr3変態点直上に調整される。熱延鋼板の巻取りは500〜600℃の温度域で行なうことを要する。500℃未満の低温巻取りでは、結晶粒径が過度に微細化して熱延鋼板の硬質化をきたし、一方600℃を超える高温巻取りを行なうと、炭化物が凝集し易く、良好な打ち抜き加工性等を得るのに必要な炭化物の均一分散性(パーライト+セメンタイト分率)、及び細粒化されたフェライト組織(フェライト粒径)の確保が困難となるからである。好ましくは500〜550℃である。
【0029】
上記熱延鋼板は、結晶粒径(JIS G0552「附属書2(規定)交差線分(粒径)による判定方法」)が5〜20μmの範囲に細粒化されたフェライト組織であることを要する。5μmに満たない極微細のフェライト組織では過度の硬質化をきたし、他方20μmを超える粗い組織では良好な打ち抜き加工性等を得ることが困難になる。本発明は、粒径の上限を15μmに規制して打ち抜き加工性の改良効果を高めている。
【0030】
熱延鋼板は、上記フェライト粒径の規定と併せ、炭化物の面積率の評価指標として、点算法により測定される「パーライト+セメンタイト分率」の規定が付加される。ここに点算法とは、金属便覧(社団法人日本金属学会編,丸善(株))改定6版所載の光学顕微鏡組織の定量解析法(第264頁)を指し、顕微鏡視野内にグリッドを置き、炭化物が占める格子点の総数をカウントし、グリッド格子点の総数に対する比として算定される。改良された打ち抜き加工性を得るために、パーライト+セメンタイト分率は20%以上であることを要する。本発明はこれを30%以上に規制し、打ち抜き加工性の改良効果をより高めるようにしている。打ち抜き加工性の観点からは上限の規定は特に必要としないが、60%を超えると、硬度が不必要に高くなる場合があるので、これを超えないことが望ましい。
【0031】
熱延鋼板におけるフェライト粒径及びパーライト+セメンタイト分率で規定される均一微細組織は、前記C量の規定および所望により添加される一定量のTiとBを複合含有する鋼組成の効果として前記熱延条件により確保される。このようにフェライト粒が細粒化され、かつ炭化物が均一微細に分散した組織(熱延鋼板)とすることにより、ATプレート用素材等として望まれる最終製品(冷延鋼板)の打ち抜き加工性等を一段と高めることが可能となる。
【0032】
[冷間圧延]
熱延鋼板は、酸洗処理で表面のスケールを除去された後、冷間圧延に付される。冷間圧延における圧下率は50%以上であることを要する。これは、ATプレート用冷延鋼板等として必要な硬度(Hv≧230)及び表面粗さ(Ra≦0.4μm)を得るためである。圧下率の上限は特に限定されないが、約60%を超える高い圧下率を適用する必要はない。なお、硬さは望ましくは240〜280Hvである。240Hvに満たないとスペック下限に近くATプレートの機能の安定性の面で得策でなく、他方280Hvを超えるとATプレートのプレス打ち抜きの作業負担が大きくなるからである。この硬さ(Hv)の調節は、圧下率の調整により行なわれる。また冷間圧延では、所要の表面粗さが確保されるように、圧延ロールの表面粗度管理が適宜実施される。
【0033】
上記冷間圧延は、酸洗処理前のプレ圧延と処理後の仕上げ圧延との2段階に分けて実施することもできる。プレ圧延(酸洗処理前)によるスケールの破砕効果として脱スケール性が大きく改善され、酸洗処理時間の大幅な短縮とコスト低減が可能となる。この場合、プレ圧延(酸洗処理前)と仕上げ圧延(酸洗処理後)とは連続しなくても構わないが、酸洗槽の入側にプレ圧延機を、出側に仕上げ圧延機をそれぞれ設置し、プレ圧延-酸洗処理-仕上げ圧延の連続構成とすることが生産効率の面から有利である。
【0034】
上記2段階の冷間圧延におけるプレ圧延(酸洗処理前)は、圧下率を25%以下に抑えるのが好ましい。これを超える高い圧下率でプレ圧延すると、スケールの鋼板表面への押込みによる疵が発生し表面品質を損なうおそれがあるからである。仕上げ圧延(酸洗処理後)における圧下率は、全圧下率(=プレ圧延の圧下率+仕上げ圧延の圧下率)が50%以上となるように設定される。全圧下率をこのように調整するのは、前記の場合(冷間圧延を酸洗後の1段階で実施)と同じように、ATプレート用素材等の要求特性(硬さ:Hv≧230,表面粗さ:Ra≦0.4μm)を充足させるためである。
【0035】
冷間圧延において、鋼中に存在するMnSのA系介在物は圧延方向に細長く延びた形状に変化(粘性変形)する。本発明では、前記S量の制限及び一定量のCa添加によりMnSの生成が少量に抑制されているので、A系介在物による実質的な弊害はなく、またCaSを含むトータルの介在物量も低いレベルにあり、良好な打ち抜き加工性を得るのに必要な、dA:0.01%以下,dT:0.03%以下の清浄度(JIS G0555)が確保される。
【0036】
[脱脂・精整]
冷間圧延の後、脱脂処理(電解洗浄等)により鋼板表面を浄化し、ついで所定の検査(板厚・板幅等の諸元寸法,表面疵等)及び形状修正等のための精整工程を経て製品冷延鋼板を得る。これらの処理工程は常法に従って行なえばよい。
【0037】
こうして得られる本発明の冷延鋼板を、自動車用ATプレート素材等として適用する場合は、プレス打ち抜き加工を行なって所要の円環形状に成形すればよく、得られた成形品は調質のための熱処理を特に必要とせず、そのまま(硬引き材のまま)、ATプレートとして実機使用に供することができる。
【0038】
【実施例】
[1]供試鋼板の製造
転炉及び脱ガス処理装置により溶製・成分調整を行なった溶鋼を連続鋳造に付してスラブ(200mm厚)とし、下記のA工程(焼鈍省略)又はB工程(焼鈍実施)によりATプレート用冷延鋼板を得る。
A:熱延→酸洗→冷延(1段又は2段圧延)→脱脂→精整(検査)
B:熱延→酸洗→焼鈍→冷延(1段圧延)→脱脂→精整(検査)
【0039】
(1)供試材の概要
表1〜表4参照。No.3〜10は発明例、比較例1(No.01,02,11-22)は本発明に類似の鋼組成を有しているが、いずれかの元素の含有量(下線付記)が本発明の規定から外れいている例、比較例2(No.23-27)は熱延巻取り温度又は冷延での全圧下率(下線付記)が本発明の規定から外れている例、比較例3(No.28-37)は従来材(S35C相当材)の例である。
【0040】
(2)熱間圧延
a:No.3〜10(発明例)及びNo.01,02,11〜22(比較例1)
加熱温度:1230℃,熱延仕上温度:880℃,巻取温度:540℃
熱延板の板厚:4.0mm
b:No.23〜27(比較例2)
加熱温度:1230℃,熱延仕上温度:880℃,巻取温度:470〜620℃
熱延板の板厚:3.0〜4.0mm
c:No.28〜37(比較例3)
加熱温度:1230℃,熱延仕上温度:860℃,巻取温度:600℃
熱延板の板厚:4.0mm
【0041】
(3)焼鈍処理
No.28〜37(S35C材)について実施
(No.3 〜 10 、 No.01,02,11〜27は焼鈍なし)。
焼鈍方式:タイトコイル焼鈍(TCA)
処理温度/時間:700℃/10Hr
【0042】
(4)冷間圧延
a:圧下率(2段圧延の場合は合計圧下率)
No.3-10 、 No.01,02,11-26, No.28-37:55% No.27:40%
b:製品鋼板厚さ:1.8mm
(5)脱脂
電解洗浄(処理液:オルソ珪酸ソーダ)
【0043】
[2]打ち抜き加工試験
(1)打ち抜き加工条件
▲1▼試験機:200トンメカプレス
▲2▼ストローク長さ:250mm
▲3▼ストローク数 :25spm
▲4▼クリアランス :10%(板厚1.8mm)
▲5▼打ち抜き寸法 :内径105mm×外径127mm
【0044】
(2)打ち抜き端面の評価
▲1▼剪断面比率(α)
図1に剪断面の断面形状(矢符Yは打ち抜き方向)を示す。剪断面比率(α)は下記の式で定義される。断面比率(α)が大きいほど、打ち抜き性が良好と評価される。bは剪断面に現れる垂直端面の長さである。
剪断面比率(α)=b/(a+b+c)
▲2▼打ち抜き面性状
観察方法:走査型電子顕微鏡像(倍率20)により判定
観察断面:圧延方向断面
【0045】
表3及び表4に、熱延鋼板のフェライト粒径(μm)とパーライト+セメンタイト分率(%)、製品冷延鋼板の清浄度指数dA,dT(JIS G0555の規定に準拠,測定視野数:60・倍率:400)、硬さHv
(測定荷重:10kg)・表面粗度Ra等の測定値及び打ち抜き加工の試験結果等を、製造条件と共に示している。
【0046】
発明例(No.3〜10)は、ATプレート素材等に要求される硬さ及び表面粗度スペック(硬さHv≧230,表面粗度Ra≦0.4μm)を十分に満たすと共に、改良された打ち抜き加工性を具備し、美麗な打ち抜き端面を有している。これらの諸特性は、前記した鋼の化学組成と細粒化された均質微細な組織、及びA系介在物が低減された介在物の形態制御等に基づくものである。また、比較例1の No.01,02(Ti,B 添加なし )と発明例のNo.3-10(Ti,B複合添加)の比較にみるように、Ti,Bの複合添加による炭化物組織の均一微細化及びフェライト細粒化の助長効果として、硬度及び打ち抜き面性状等が更に高められている。
【0047】
他方、比較材No.11〜27をみると、No.11(C過剰)は過度に硬質化し、No.12(C不足)は硬度の不足をきたしている。No.13及び14(S量過剰)は、鋼の清浄度が低く、従来材(No.28-37のS35C)に比して打ち抜き加工性が劣っている。
No.15とNo.16(Ti量過剰)及びNo.17とNo.18(B量過剰)は、熱延鋼板のフェライト組織の微細化が進み過ぎ、過度の硬質化をきたしている。No.19とNo.20(Ca量不足)及びNo.21とNo.22(Ca量過剰)は、鋼の清浄度の低下(dA,dTの増加)により打ち抜き加工性は従来材(No.28-37のS35C)よりも劣る。
【0048】
またNo.23,No.24(熱延巻取り温度高過ぎ)は、熱延鋼板のフェライト組織の粗大化し、又は微細炭化物組織が得られず、結果として硬度の不足をきたし、かつ打ち抜き加工性も従来材よりも劣っている。No.25,No.26(熱延巻取り温度低過ぎ)は、熱延鋼板のフェライト組織が過度に微細化したために、細粒化が進み過ぎ必要以上に硬質化し、他方No.27(冷延圧下率の不足)は硬度の不足をきたしている。このように比較例1,2及び3はいずれも発明例の改良された打ち抜き加工性及びその他の材料特性に及ばない。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
【発明の効果】
本発明によれば、従来自動車のATプレート用冷延鋼板の製造に不可欠であった焼鈍処理が不要となり、これを省略した製造工程により、製造コストを大幅に削減しながら、ATプレート用素材等として要求される硬さ、表面性状等と共に改良された打ち抜き加工性を具備した冷延鋼板が得られる。しかも、これを打ち抜き加工して得られるATプレートは、調質のための熱処理を必要とせず、そのまま(硬引き材のまま)実機使用に供することができる。
また熱延鋼板の冷間圧延を酸洗処理の前後に実施する二段階圧延により酸洗処理の負荷が大幅に軽減され一段と低コスト化効果が得られる。従って本発明は近時の小型大衆車NBCの開発動向等に関連するオートマチックトランスミッションの低価格化の要請に対処し得るものである。
なお、本発明の冷延鋼板は、上記ATプレート用途のみらなず、これと同じように打ち抜き加工性や硬度等を要求される各種用途の素材として広く適用され、品質の安定、コスト削減等の効果をもたらすものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】打ち抜き加工された鋼板の打ち抜き面の断面形状を示す模式的説明図である。
Claims (2)
- 質量%で、C:0.15〜0.25%,Si:0.25%以下,Mn:0.3〜0.9%,P:0.03%以下,S:0.005%以下,Al:0.08%以下,N:0.008%以下,Ca:0.002〜0.006%,Ti:0.07%以下,B:0.006%以下、残部はFe及び不可避不純物からなり、パーライト+セメンタイト分率:30%以上、フェライト粒径:5〜15μmの熱延鋼板を、焼鈍処理することなく圧下率50%以上で冷間圧延してなる、Hv230以上の硬さ及びRa0.4μm以下の表面粗さを有すると共に、介在物の清浄度指数(JIS-G0555)dT:0.03%以下,dA:0.01%以下であることを特徴とする打ち抜き加工性に優れた冷延鋼板。
- 質量%で、C:0.15〜0.25%,Si:0.25%以下,Mn:0.3〜0.9%,P:0.03%以下,S:0.005%以下,Al:0.08%以下,N:0.008%以下,Ca:0.002〜0.006%,Ti:0.07%以下,B:0.006%以下、残部はFe及び不可避不純物からなるスラブを、熱延仕上げ温度:Ar3変態点直上、巻取り温度:500〜600℃、である熱間圧延に付して、パーライト+セメンタイト分率:30%以上、フェライト粒径:5〜15μmの熱延鋼板を得、該熱延鋼板を焼鈍処理することなく圧下率50%以上で冷間圧延することからなる、Hv230以上の硬さ及びRa0.4μm以下の表面粗さを有し、介在物の清浄度指数(JIS-G0555)dT:0.03%以下,dA:0.01%以下である打ち抜き加工性に優れた冷延鋼板の製造方法。
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