JP3894429B2 - 耐摩耗性及び打抜き加工性に優れたatプレート用冷延鋼板及び製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車のオートマチックトランスミッションの構成部材であるセパレートプレート,フリクションプレート,バッキングプレート等として好適に使用される耐摩耗性及び打抜き加工性に優れた冷延鋼板及び製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車のオートマチックトランスミッション(AT)を構成するセパレートプレート(ドリブンプレート又はメーティングプレート等とも称される)、フリクションプレート(ドライブプレート,コアープレート又はディスク等とも称される)、バッキングプレート(リテーニングプレート,リアクションプレート又はエンドプレート等とも称される)等の部材(以下「ATプレート」)は、鋼板をほぼ円環形状にプレス打抜きした成形品である。セパレートプレートとフリクションプレートは、摩擦材を介して交互に配置され、これにバッキングプレート等を組付けられてトルクの伝達機構を構成する部材であり、その機能上、耐摩耗性は非常に重要な特性である。また、耐摩耗性と併せて一定の表面粗度を有することも要求される。その要求特性として、硬さ(Hv):230以上,表面粗さRa:0.4μm以下を満たすことが求められる。
【0003】
従来、上記ATプレート用素材としてJIS G3311に規定される機械構造用鋼、主としてS35Cの冷延鋼板が使用されている。その冷延鋼板は下記の工程で製造されている。
「製鋼→連続鋳造→熱間圧延→酸洗→焼鈍→冷間圧延→脱脂→精整」
この製造工程において、ATプレート用冷延鋼板の要求特性(硬さ:HV≧230,表面粗度:Ra≦0.4μm)を満足するように、冷間圧延の圧下率を50%以上とすることが必要である。その冷間圧延に先だって「焼鈍」を行なうのは、熱延鋼板のままでは材料が硬質で、冷間圧延(圧下率≧50%)の安定操業に支障をきたす場合があり、また熱延鋼板のままでは、熱延鋼板の粗大なパーライト組織が冷延鋼板に持ち越されるため、ATプレートのプレス打抜き性が悪く、打抜き面にムシレ・ザラツキ等が生じ易いからである。
【0004】
すなわち冷間圧延前の「焼鈍」は、熱延鋼板の軟質化と炭化物の球状化を目的とし、この焼鈍の実施により、圧下率50%以上の冷間圧延の安定操業が維持されると共に、得られる冷延鋼板の打抜き加工性が改善され美麗な打抜き面が確保されるのである。このように、S35Cを素材とする従来のATプレート用冷延鋼板の製造においては、冷間圧延前に熱延鋼板を焼鈍することが必須の工程とされている。そしてこの焼鈍は通常、タイトコイル焼鈍(TCA)として実施されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
近時、小型大衆車NBC(New Basic Car)の開発の動向に見られるように低価格化の要求が時代の趨勢となっている。その一環としてオートマチックトランスミッションについても低価格化への対応が急務とされ、従来のS35C冷延鋼板並の耐摩耗性を有する低価格材の開発要求が一段と強くなっている。しかるにS35Cを素材とする従来のATプレート用冷延鋼板は、前記のように冷間圧延前の焼鈍の実施を必須とし、しかもTCA焼鈍で長時間(均熱:約10時間)の処理を要するため、コストアップの大きな要因となっている。
【0006】
本発明は上記に鑑み、従来ATプレートの製造工程で必須とされている冷間圧延前の焼鈍を省略してコストアップの要因を排除しつつ従来材(S35C)並の耐摩耗性及び打抜き加工性を具備せしめ、ATプレート用素材として、および同様の特性を要求される他の分野における素材として好適に使用される冷延鋼板及びその製造方法を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明のATプレート用冷延鋼板( 請求項1 )は、
重量%で、C:0.15〜0.25%,Si:0.25%以下,Mn:0.3〜0.9%,P:0.03%以下,S:0.015%以下,Al:0.01〜0.08%,N:0.008%以下,Ti:0.01〜0.05%,B:0.002〜0.005%,残部はFe及び不可避不純物からなり、フェライト粒径5〜15μmのフェライト組織を有する熱延鋼板を、焼鈍処理することなく圧下率50%以上で冷間圧延することにより製造される、Ra:0.4μm以下の表面粗さおよびHv:230以上の硬さを有する耐摩耗性及び打抜き加工性に優れた冷延鋼板である。
【0008】
本発明の冷延鋼板は、上記化学組成、特にC量の規定および一定量のTiとBの複合添加という鋼組成に基づく効果として、従来不可欠とされていた冷間圧延前の焼鈍処理(熱延鋼板の軟質化及び炭化物球状化)を省略しながら、冷間圧延(圧下率≧50%)の安定操業を可能にすると共に、セパレートプレート,フリクションプレート,バッキングプレート等のATプレート用冷延鋼板等として従来材(S35C)並の耐摩耗性等の要求特性、美麗な打抜き面性状等を確保することを実現している。しかも、その冷延鋼板は、打抜き後、調質のための熱処理を必要とせず、そのまま(硬引き材のまま)ATプレートとして使用することができる。
【0009】
本発明に係るATプレート用冷延鋼板は、前記化学組成を有する鋼のスラブを熱延仕上げ温度:Ar 3 変態点以上、巻取り温度:500〜600℃で熱間圧延してフェライト粒径5〜15μmのフェライト組織を有する熱延鋼板を得、熱延鋼板を酸洗処理した後、焼鈍処理することなく、圧下率50%以上で冷間圧延する工程により製造される( 請求項2 )。
別法として、上記工程における冷間圧延(圧下率50%以上)を、酸洗処理前の冷間圧延(プレ圧延)と酸洗処理後の冷間圧延(仕上げ圧延)の2段階に分け、プレ圧延を25%以下の圧下率で行ない、仕上げ圧延を、全圧下率(プレ圧延と仕上げ圧延の合計圧下率)が50%以上となる圧下率で行なう ( 請求項3 )。
【0010】
本発明におけるC量の規定は重要である。本発明におけるC量は従来材(S35C)より低く規定されている。このC量の制限により、熱延鋼板のパーライト量を少なくし、かつ熱延鋼板を軟質化することができ、その効果として冷間圧延前の熱延鋼板の軟質化および炭化物(Fe3C)の球状化を目的とする焼鈍処理を省略することが可能となる。
【0011】
上記C量の規定と併せてTi及びBを複合添加したことに基づく鋼組織の制御とそれに伴う材質改善効果は本発明の最も特徴とする点である。Tiの添加により、TiC,Ti(C,N)等の微細析出物(大きさ:約500〜3000Å)が鋼中に形成され、熱延鋼板のフェライト組織が著しく細粒化される。熱延鋼板では、炭化物がフェライト粒界に優先的に析出するため、細粒化の効果として炭化物は均一微細に鋼中に分散され、耐摩耗性に有利な組織が形成されるのである。
【0012】
またBの添加により鋼中に固溶Bが形成される。固溶Bの生成はTiの共存により顕著になる。これはTiNがBNよりも生成し易いため、BNの生成が抑制され固溶B量が増加するのである。この固溶Bは、粒界を強化する作用及び熱延鋼板のフェライト組織を細粒化する作用を有し、これによりマトリックスが強化され耐摩耗性が一段と高められる。
【0013】
なお、C量を従来材(S35C)より少なく規定することは、球状化焼鈍の省略というメリットの反面において、C量が少なくなる分、耐摩耗性の面で不利であるが、上記のようにTi,Bの添加に基づく炭化物の均一分散作用及びマトリックスの強化作用により、後記実施例にも示したように、C量の低減による不利を十分に補って余りある改善効果が得られる。
【0014】
本発明における鋼組成の限定理由は次のとおりである。元素含有量はすべて重量%である。
C:0.15〜0.25%
冷延鋼板の硬度・耐摩耗性を高める点からはC量が高いほど有利であるが、0.25%を超えると、熱延鋼板の炭化物の球状化と軟質化のための焼鈍を省略することができなくなる。一方C量が低過ぎると、従来材であるS35C並の耐摩耗性を確保することが困難となる。このためC量は0.15〜0.25%の範囲に規定されることを要する。
【0015】
Si:0.25%以下
Siは、鋼の溶製工程における脱酸元素として添加される。そのための添加量は0.25%までで十分である。またそれを超える添加は、熱延鋼板の酸洗処理性の低下および酸洗後のスケール残存による表面欠陥の原因ともなり、ATプレートとしての表面品質を低下させるので、これを上限とする。
【0016】
Mn:0.3〜0.9%
Mnは、鋼の熱間脆性の防止及びマトリックスの強化のために添加される。0.3%に満たないとその効果が少なく、マトリックスの強度が不足し、耐摩耗性が低くなる。増量により効果を増すが、0.9%を超えると過度に硬質化して加工性が損なわれる。
【0017】
P:0.03%以下
Pは不純分であり、鋼中に多量に存在すると、粒界の強度低下を招き、スラブ割れに起因するへげ疵の発生要因となり、ATプレートの表面品質を損なう。0.03%以下であれば、実質的な悪影響を生じないので、これを上限とする。
【0018】
S:0.015%以下
SはMnSを形成して熱間脆性を抑制する効果を有する反面、多すぎるとMnSを起点とする加工割れの原因となり、ATプレートでは打抜き加工における面性状の低下を招く。また、MnSを起点とする摩耗を生じ易くなり耐摩耗性が低下する。0.015%以下であれば、その実害は回避されるので、これを上限とする。
【0019】
Al:0.01〜0.08%
Alは鋼の溶製過程における脱酸剤として添加される。また鋼中のNをAlNとして固定する作用も有する。0.01%未満では脱酸作用が不足し、他方0.08%を超えると、鋼の清浄度が損なわれ、表面疵が発生し鋼板の表面品質を低下させる原因となる。このため、0.01〜0.08%とする。
【0020】
N:0.008%以下
Nは不可避的に混入する元素である。含有量が多くなると、窒化物(AlN,TiN等)等の生成量が増加し、過度の硬質化を招くので、0.008%以下であることを要する。
【0021】
Ti:0.01〜0.05%
Tiは一般的にはTiSを形成して熱間脆性を回避する作用を有する。更に前記したとおり、Tiは鋼中でTiCやTi(C,N)等の微細析出物を形成して熱延鋼板のフェライト組織を細粒化し、その効果として炭化物が均一微細に分散し耐摩耗性が高められる。この効果を確保するために0.01%以上の添加を必要とする。他方多量に添加すると、微細析出物の過剰生成により過度の硬質化を招くので、0.05%を上限とする。
【0022】
B:0.002〜0.005%
Bは、前記のようにその多くが固溶Bを形成し、固溶Bによる粒界の強化作用及びフェライト組織の細粒化作用により、マトリックスを強化し、耐摩耗性を高める効果を有する。この効果を得るには少なくとも0.002%の添加が必要である。しかし0.005%を超えると、フェライト組織の過度の細粒化による硬質化をきたすので、これを上限とする。
【0023】
次に本発明のATプレートの製造工程について説明する。
[鋼の溶製・鋳造]
まず製鋼炉で所定の化学組成に溶製した鋼を、造塊・分塊圧延により又は連続鋳造によりスラブとし、スラブの表面手入れを適宜実施した後、熱間圧延する。連続鋳造による場合、熱鋳片(スラブ)をそのまま加熱炉に装入して熱間圧延するようにしてもよい。
【0024】
[熱間圧延]
熱間圧延は、常法に従って行なわれ、熱延鋼板の品質及び熱延効率等の点から、熱延仕上げ温度はAr3変態点直上に調整される。巻取りは500〜600℃の温度域で行なうのがよい。500℃未満の低温巻取りでは、結晶粒径が過度に微細化して熱延鋼板の硬質化をきたし、一方600℃を超える高温巻取りでは炭化物が凝集し易く、高耐摩耗性を得るのに必要な炭化物の均一分散の確保が困難になると共に、フェライト組織が粗大化するからである。好ましくは500〜550℃である。
【0025】
上記熱延鋼板は、結晶粒径(JIS G0552「附属書2(規定)交差線分(粒径)による判定方法」)が5〜15μm(実質的に10μmを超えない)の細粒化されたフェライト組織であることを要する。5μmに満たない微細なフェライト組織では鋼の過度の硬質化をきたし、他方15μmを超える粗い組織では耐摩耗性の不足等の不具合を招くことになる。この結晶粒径(5〜15μm)は、前記C量の規制と一定量のTi,Bを複合含有する鋼組成の効果として前記熱延条件により安定して確保される。このように細粒化されたフェライト組織であることにより、最終製品(冷延鋼板)における鋼中の炭化物がより均一微細に分散され、耐摩耗性やプレス打抜き端面の性状改善の改善効果を保証することが可能となる。
【0026】
[冷間圧延]
熱延鋼板は、酸洗処理で表面のスケールを除去された後、冷間圧延に付される。冷間圧延における圧下率は50%以上であることを要する。これは、ATプレート用冷延鋼板等として必要な硬度(Hv≧230)と表面粗さ(Ra≦0.4μm)を得るためである。圧下率の上限は特に限定されないが、約60%を超える高い圧下率を適用する必要は特にない。なお、硬さは望ましくはHv:240〜280である。240に満たないとスペック下限に近くATプレートの機能の安定性の面で得策でなく、他方280を超えるとATプレートのプレス打抜きの作業負担が大きくなるからである。この硬さ(Hv)の調節は、圧下率の調整により行なうことができる。また冷間圧延においては、所要の表面粗さが確保されるように、圧延ロールの表面粗度管理が適宜実施される。
【0027】
上記冷間圧延は、所望により、酸洗処理前のプレ圧延と処理後の仕上げ圧延との2段階に分けて実施される。プレ圧延(酸洗処理前)によるスケールの破砕効果として脱スケール性が大きく改善され、酸洗処理時間の大幅な短縮とコスト低減が可能となる。この場合、プレ圧延(酸洗処理前)と仕上げ圧延(酸洗処理後)は連続させなくても構わないが、酸洗槽の入側にプレ圧延機を、出側に仕上げ圧延機をそれぞれ設置し、プレ圧延-酸洗処理-仕上げ圧延の連続構成とすることが生産効率の面から有利である。
【0028】
上記2段階圧延におけるプレ圧延(酸洗処理前)の圧下率は25%以下であることを要する。これを超える高い圧下率でプレ圧延すると、スケールの鋼板表面への押込みによる疵が発生し表面品質を損なうおそれがあるからである。仕上げ圧延(酸洗処理後)における圧下率は、全圧下率(=プレ圧延の圧下率+仕上げ圧延の圧下率)が50%以上となるように設定される。全圧下率をこのように調整するのは、前記の場合(冷間圧延を酸洗後の1段階で実施)と同じように、ATプレートとしての要求特性(硬さ:Hv≧230,表面粗さ:Ra≦0.4μm)を充足させるためである。
【0029】
[脱脂・精整]
冷間圧延の後、脱脂処理(電解洗浄等)により鋼板表面を浄化し、ついで所定の検査(板厚・板幅等の諸元寸法,表面疵等)及び形状修正等のための精整工程を経て製品冷延鋼板を得る。これらの処理工程は常法に従って行なえばよい。
【0030】
こうして得られる本発明の冷延鋼板を、自動車用ATプレート用素材等として適用する場合は、プレス打抜き加工を行なって所要の円環形状に成形すればよく、得られた成形品は調質のための熱処理を必要とせず、そのまま(硬引き材のまま)、ATプレートとして実機使用に供することができる。
【0031】
【実施例】
[1]供試鋼板の製造
転炉及び脱ガス処理装置により溶製・成分調整を行なった溶鋼を連続鋳造に付してスラブ(200mm厚)とし、下記のA工程(焼鈍省略)又はB工程(焼鈍実施)によりATプレート用冷延鋼板を得る。
A:熱延→酸洗→冷延(1段又は2段圧延)→脱脂→精整(検査)
B:熱延→酸洗→焼鈍→冷延(1段圧延)→脱脂→精整(検査)
【0032】
(1)鋼組成
表1参照。No.1〜10は発明例、No.11〜20はC,Ti,Bのいずれかの元素の含有量(下線付記)が本発明の規定から外れている比較例、No.21〜30は従来材(S35C相当材)の例である。
【0033】
(2)熱間圧延
▲1▼No.1〜10及びNo.11〜20
加熱温度:1230℃,熱延仕上げ温度:860℃,巻取り温度:540℃
熱延板の板厚:4.0mm
▲2▼No.21〜30
加熱温度:1230℃,熱延仕上げ温度:850℃,巻取り温度:600℃
熱延板の板厚:4.0mm
【0034】
(3)焼鈍処理
No.21〜30について実施(No.1〜10及びNo.11〜20は焼鈍なし)。
焼鈍方式:タイトコイル焼鈍(TCA)
処理温度:700℃
処理時間:10Hr
【0035】
(3)冷間圧延
圧下率(2段圧延の場合は合計圧下率):55%
製品鋼板厚さ:1.8mm
(4)脱脂
電解洗浄(処理液:オルソ珪酸ソーダ)
【0036】
[2]耐摩耗性の評価
大越式迅速摩耗試験機による(図4参照)。
下記条件の試験後、摩耗痕の幅(b0)を測定し、摩耗部の体積から摩耗量A(mm3)を算出する。耐摩耗性は比摩耗量[=A/(P×L)
(mm3/kg・m)] で評価した。
▲1▼試験環境:室温(14℃),大気中
▲2▼回転円板:SK5/400Hv(焼入れ焼戻しにより調質)
円板半径(r)30mm,円板厚(B)3.0mm。
▲3▼摩耗距離(L):200m
▲4▼負荷荷重(P):6.3kg
▲5▼摩耗速度(V):4m/sec
【0037】
[3]プレス打抜き性の評価
セパレートプレートのプレス打抜きを行ない、得られた成形品の打抜き端面性状を評価する。
[打抜き条件]
・プレス機:200トンメカプレス
・ストローク長さ:250mm
・ストローク数:25spm
・クリアランス:10%(板厚1.8mm)
・打抜き寸法:内径105
mm×外径127 mm
【0038】
[打抜き端面の評価]
・観察方法:走査型電子顕微鏡(倍率×20)により判定
・観察断面:鋼板の長手方向断面
・評価基準:
〇…打抜き端面美麗(ムシレやクラックの発生なし)
×…打抜き端面にムシレ・クラック(1個以上)が認められる
【0039】
図1〜3は上記供試冷延鋼板の金属組織を示している。図1は発明例No.1(焼鈍なし)、図2は比較例No.11(Ti,Bの添加なし,焼鈍省略)、図3は比較例No.21(焼鈍実施のS35C相当材)である。比較例No.11(Ti,Bの添加なし,焼鈍省略)は粗いパーライト組織であるのに対し、発明例No.1は、焼鈍を省略されているにも拘わらず、炭化物(Fe3C)が均一微細に分散し、比較例No.21(S35C相当材)の焼鈍処理材と同等の細粒化された微細均質な組織を有している。
【0040】
表2は、硬さ(Hv)(測定荷重:10kg)、表面粗度(Ra)及び熱延鋼板のフェライト粒径(μm)の測定結果、並びに前記の試験結果を製造条件と共に示している。
発明例(No.1〜10)は、従来材であるS35C(No.21〜30)と同等ないしそれ以上の耐摩耗性を有し、ATプレート用冷延鋼板として要求される硬さ及び表面粗度のスペック(Hv≧230,Ra≦0.4μm)を十分に満たしている。またプレス打抜き性も良好であり、従来材(S35C)と同様の美麗な打抜き面性状を有している。これらの諸特性は、前記した鋼の化学組成と細粒化された均質微細な組織に基づくものである。
【0041】
他方、比較例No.11〜20をみると、No.11〜13,15,16,18(Ti,Bの含有量が本発明の規定から外れている)は、従来材(S35C)と比べて耐摩耗性に劣り、No.14(B量過剰)及びNo.17(Ti量過剰)は硬さが過度に高くなっている。更にNo.19(C量不足)は硬度のスペック下限を下回り、耐摩耗性も従来材(S35C)に比し著しく低く、No.20(C量過剰)は良好な耐摩耗性を有しているが、過度に硬質化している。またプレス打抜きの打抜き面性状も悪く、いずれも発明例の改良された材料特性に及ばない。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【発明の効果】
本発明によれば、従来自動車のATプレート用冷延鋼板の製造工程に不可欠であった焼鈍工程が不要となり、これを省略した製造工程により従来材と同等以上の耐摩耗性を有し、ATプレートの要求特性を十分に満たす冷延鋼板が得られ、これを打抜き加工して得られるATプレートは、調質のための熱処理を必要とせず、そのまま(硬引き材のまま)実機使用に供することができる。なお熱延鋼板の冷間圧延を酸洗処理の前後に実施する2段階圧延により酸洗処理の負荷が大幅に軽減され、一段と低コスト化効果が得られる。従って本発明は近時の小型大衆車NBCの開発動向等に関連するオートマチックトランスミッションの低価格化の要請に対処し得るものである。
本発明の冷延鋼板は、上記ATプレート用途のみらなず、これと同じように耐摩耗性及びプレス打抜き性等を要求される各種用途の素材として広く適用され、品質の安定、コスト削減等の効果をもたらすものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例欄における発明例(No.1)の冷延鋼板の金属組織を示す図面代用顕微鏡写真(倍率×400)である。
【図2】実施例欄における比較例(No.11)の冷延鋼板の金属組織を示す図面代用顕微鏡写真(倍率×400)である。
【図3】実施例欄における比較例(No.21)の冷延鋼板の金属組織を示す図面代用顕微鏡写真(倍率×400)である。
【図4】実施例欄における耐摩耗性評価の試験要領を示す説明図である。
【符号の説明】
1:試験材
2:回転円板(相手材)
Claims (3)
- 重量%で、C:0.15〜0.25%,Si:0.25%以下,Mn:0.3〜0.9%,P:0.03%以下,S:0.015%以下,Al:0.01〜0.08%,N:0.008%以下,Ti:0.01〜0.05%,B:0.002〜0.005%,残部はFe及び不可避不純物からなり、フェライト粒径5〜15μmのフェライト組織を有する熱延鋼板を、焼鈍処理することなく圧下率50%以上で冷間圧延することにより製造される、Ra:0.4μm以下の表面粗さおよびHv:230以上の硬さを有する耐摩耗性及び打抜き加工性に優れたATプレート用冷延鋼板。
- 重量%で、C:0.15〜0.25%,Si:0.25%以下,Mn:0.3〜0.9%,P:0.03%以下,S:0.015%以下,Al:0.01〜0.08%,N:0.008%以下,Ti:0.01〜0.05%,B:0.002〜0.005%,残部はFe及び不可避不純物からなるスラブを、熱延仕上げ温度:Ar3変態点以上、巻取り温度:500〜600℃で熱間圧延してフェライト粒径5〜15μmのフェライト組織を有する熱延鋼板を得、熱延鋼板を酸洗処理した後、焼鈍処理することなく、圧下率50%以上で冷間圧延することからなる、Ra:0.4μm以下の表面粗さおよびHv:230以上の硬さを有する耐摩耗性及び打抜き加工性に優れたATプレート用冷延鋼板の製造方法。
- 重量%で、C:0.15〜0.25%,Si:0.25%以下,Mn:0.3〜0.9%,P:0.03%以下,S:0.015%以下,Al:0.01〜0.08%,N:0.008%以下,Ti:0.01〜0.05%,B:0.002〜0.005%,残部はFe及び不可避不純物からなるスラブを、熱延仕上げ温度:Ar3変態点以上、巻取り温度:500〜600℃で熱間圧延してフェライト粒径5〜15μmのフェライト組織を有する熱延鋼板を得、熱延鋼板を焼鈍処理することなく、酸洗処理前に圧下率25%以下で冷間圧延し、酸洗処理の後、全圧下率(酸洗処理前後の圧下率の合計値)が50%以上となる圧下率で冷間圧延することからなる、Ra:0.4μm以下の表面粗さおよびHv:230以上の硬さを有する耐摩耗性及び打抜き加工性に優れたATプレート用冷延鋼板の製造方法。
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