JP4265180B2 - 紙識別照合装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、有価証券や、各種の権利書、保険証書、住民票、出生証明書、保証書、旅券、銀行券、機密文書等の紙文書の真偽を判定する際に用いて好適な紙識別照合装置及び紙識別照合方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、文書の電子化が急速に進むなかで、紙文書の重要性や有用性が見直され、これに伴って紙に文書を出力(印刷)して発行される各種の紙文書の原本性や真正性などを確保するために、紙文書の真偽を的確に判定する技術が求められている。一般に、書類の偽造防止の手段としては、書類そのものに識別符号を印刷するとともに、この識別符号を印刷するにあたって、偽造を困難にするために高度な印刷技術や入手困難な特殊なインクを用いる方法が知られている。また、これ以外にも、ホログラフのような特殊な技術による偽造防止シートを貼付する方法が知られている。
【0003】
また、識別符号無しに個々の書類を弁別する技術として、例えば、下記特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4には、紙等の媒体に発色反応を呈する反応体や、紫外線照射によって蛍光色を発する細片、赤外線吸収繊維や細片等を抄紙工程で紙に漉き込むことにより、ランダムな異物パターンを形成する方法が示されている。その他にも、磁性材料をランダムパターンに付与する方法や、スレッドを用紙中に挿入する技術(特許文献4、特許文献5)等が存在する。
【0004】
さらに、下記特許文献6には、識別符号とともにシート(用紙)中にランダムパターンを形成する機能性材料を付与することで偽造を防止する方法が開示されている。また下記特許文献7や特許文献8には、赤外吸収インクによって不可視パターンを印刷して偽造防止を図る方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】
特開平6−287895号公報
【0006】
【特許文献2】
特開平7−166498号公報
【0007】
【特許文献3】
特開平8−120598号公報
【0008】
【特許文献4】
特開平10−269333号公報
【0009】
【特許文献5】
特開平10−219597号公報
【0010】
【特許文献6】
特開2002−83274号公報
【0011】
【特許文献7】
特開平6−210987号公報
【0012】
【特許文献8】
特開2002−146254号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述したような特殊印刷や機能性材料等の異物混入技術は、通常の紙との区別が第1の目的であり、銀行券のような大量発行物での利用が想定されている。そのため、不可視の機能性材料を漉き込む技術であっても、そのランダムパターンを利用した個別の紙の識別や照合は行われていない。この場合、個々の紙の分離(区別)は識別符号という可視情報を用いて行われる。
【0014】
銀行券や証券等のように基本的に同一券種、同一の証券では、識別符号を除いて印刷内容が同一であるため、偽造犯にとっては上記機能性材料を漉き込む技術等を一度習得すれば、大量偽造が可能になるという問題がある。ここでは識別符号は偽造券の特定手段でしかなく、偽造防止には限界がある。
【0015】
各種の証明書や機密文書のように印刷内容が個々に異なるような場合でも、原本性を確保する手段としては、やはり識別符号の印刷や機能性材料を漉き込む等の特殊紙、あるいはそれらの技術を併用することが最善である。しかし、銀行券や証券のように特定の印刷所で大量に印刷する場合と異なり、企業や地方自治体等で限られた量を印刷する場合は、特殊紙や特殊な印刷技術を用いるこれらの方法では高コストという問題が生ずる。
【0016】
また、パーソナルコンピュータとネットワーク技術の進展によって、オンデマンドで何処でも手軽に証明書等、原本性を保証すべき文書を出力したいという要求が強まっている。このような要求に応えるためには、特殊紙あるいは特殊なインク等の消耗品の入手性が良くならなければならない。しかし、特殊紙や特殊インクを用いる技術は、元々消耗品の入手が困難であるゆえに偽造の抑止効果を期待するものであるから、その入手性を良くすることは偽造防止の抑止効果を失するという相矛盾した結果を招いてしまう。
【0017】
さらに、個々の紙を分離できる機能性材料等の異物をランダムパターンとして混入した特殊紙は、高コストであるだけでなく、一般に流通するものではない。そのため、用紙切れによる出力不能という事態も起り得る。
【0018】
このように従来の技術は、原本性の確保あるいは偽造防止という安全性と、何処でも手軽にという利便性、更に低コストであるという3つの要素を同時に満足し得るものではなかった。
【0019】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、各種書類の原本性を確保できるとともに、極めて詐称が困難である紙の識別照合技術を低コストにて実現することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明は、検査対象となる紙(以下、被検査紙)に機能性材料等の特殊な物体を漉き込んだり、特殊な印刷方法やインクを用いることなく、紙の識別照合を行い得る装置及び方法である。
【0021】
本発明に係る紙識別照合装置は、被検査紙を形成する植物繊維が不定形に絡み合った状態で前記植物繊維が作り出すランダムなパターン画像を観測する観測手段と、前記観測手段で観測された前記パターン画像の特徴量を抽出する抽出手段と、前記抽出手段で抽出されたパターン画像の特徴量を登録済の紙の特徴量として記憶する記憶手段と、前記抽出手段で被検査紙のパターン画像から抽出された特徴量と前記記憶手段に記憶されている前記登録済の紙の特徴量とを比較する比較手段と、前記比較手段の比較結果に基づいて、紙の識別・照合の判定を行なう判定処理手段と、前記被検査紙上で前記パターン画像を観測するための観測領域を特定する特定手段とを備え、前記特定手段は、前記被検査紙の紙面上にそれぞれの紙ごとに位置が異なるように複数の点をランダムに設定するとともに、前記複数の点ごとに各々の点を含むように複数の観測領域を特定し、前記各々の観測領域ごとのパターン画像の特徴量に加えて、前記複数の点の位置関係を特徴情報として、紙の識別・照合を行なうものである。
【0022】
この紙識別照合装置においては、被検査紙を形成する植物繊維が不定形に絡み合った状態で植物繊維が作り出すランダムなパターン画像が観測手段で観測され、この観測されたパターン画像の特徴量が抽出手段で抽出される。また、抽出手段で抽出された特徴量が記憶手段で記憶されることにより、紙の登録がなされるとともに、抽出手段で抽出された特徴量と記憶手段に記憶された特徴量とが比較手段で比較されることにより、紙の識別照合がなされる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0026】
図1は本発明の実施形態に係る紙識別照合装置の構成例を示すブロック図である。この紙識別照合装置1は、被検査紙を形成する植物繊維(セルロースが主成分)が不定形に重なり合った状態で植物繊維が自然に作り出す(醸し出す)ランダムなパターン画像を利用して個々の紙を識別照合するもので、主として、操作部2と、制御部3と、観測部4と、信号処理部5と、抽出処理部6と、記憶部7と、比較処理部8と、判定処理部9とを備えて構成されている。
【0027】
操作部2は、紙識別照合装置1を使用するユーザが当該装置を操作するための、いわゆるユーザインタフェースである。この操作部2は、各種のスイッチ、ボタン、キーボード等からなる入力部を備える。入力部には、処理開始を指示するためのスタートスイッチや、処理内容を設定するための選択スイッチなどが設けられている。
【0028】
スタートスイッチは、例えば指先で操作するスイッチでもよいし、種々の接触式センサあるいは非接触式センサにより被検査紙が観測部4に接触あるいは所定の距離まで接近したら自動的にオンするようなスイッチでもよい。スタートスイッチのオン/オフ信号は制御部3に送られる。選択スイッチによって設定される処理内容には、登録処理と比較判定処理といった2つの処理モードがある。登録処理とは、被検査紙を用いて得られた特徴量を登録する処理をいう。比較判定処理とは、被検査紙を用いて得られた特徴量と予め登録された特徴量とを比較することにより、被検査紙が登録済の紙であるか否かを判定する処理をいう。
【0029】
制御部3は、上記操作部2のスイッチのオン/オフ信号に基づいて、観測部4及び信号処理部5にそれぞれ処理開始の指示を与えるものである。
【0030】
観測部4は、被検査紙を形成する植物繊維が不定形に絡み合った状態で、この植物繊維が自然に作り出す(醸し出す)ランダムなパターン画像を観測するものである。この観測部4では、被検査紙に光を照射した際に得られる、被検査紙からの反射光又は透過光を受光することにより、上記パターン画像を観測する。観測部4による観測結果、すなわち上記パターン画像の画像信号は信号処理部5に送られる。
【0031】
信号処理部5は、観測部4によって観測されたパターン画像の画像信号に所定の信号処理を施すものである。この信号処理は、後述する抽出処理部6でパターン画像の特徴量を抽出するための前処理として行われる。信号処理の具体的な処理内容としては、例えば、照明系の光量バラツキ等を考慮した輝度補正などが一例として挙げられる。また、信号処理部5は、被検査紙上でパターン画像を観測するための観測領域を特定する機能を備える。観測領域の特定は、例えば観測部4で観測された、ある範囲内の画像の中から観測領域となる位置を特定し、この観測領域に相当するパターン画像の部分を切り出すことで行われる。この信号処理部5で信号処理が施されたパターン画像は抽出処理部6に送られる。
【0032】
抽出処理部6は、観測部4によって観測されたパターン画像の特徴量を抽出するもので、より具体的には、信号処理部5で信号処理されたパターン画像に基づいて被検査紙固有の特徴量を抽出するものである。この抽出処理部6では、上述した植物繊維のパターン画像から得られる、繊維の絡み合いによる濃度のデータ、又は、繊維の絡み合いによる特徴点の位置データ、あるいはその両方のデータを用いて、被検査紙固有の特徴量を抽出する。
【0033】
記憶部7は、抽出処理部6によって抽出された特徴量を記憶するもので、例えば大容量の記憶領域を有するハードディスクドライブ等によって構成される。この記憶部7への記憶によって紙(原本)の登録がなされる。また、上述した登録処理時においては、被検査紙に予め印刷等によって記された識別符号(番号、記号等)と、この被検査紙から得られた特徴量とを対応付けたデータ(以下、登録データとも記す)が記憶部7に記憶・登録される。
【0034】
比較処理部8は、抽出処理部6によって抽出された特徴量と記憶部7に記憶された特徴量とを比較することにより、紙の識別・照合を行うものである。紙の識別は、被検査紙のパターン画像から抽出処理部6により新たに抽出された特徴量と、記憶部7に予め記憶された全ての特徴量とを個々に比較することにより行われる。また、紙の照合は、被検査紙のパターン画像から抽出処理部6により新たに抽出された特徴量と、この被被検査紙に印刷された識別符号に対応して記憶部7から読み出された特徴量とを比較することにより行われる。比較処理部8による比較結果は判定処理部9に与えられる。
【0035】
判定処理部9は、比較処理部8の比較結果に基づいて、紙の識別・照合の判定を行い、この判定結果を出力するものである。すなわち、紙の識別においては、被検査紙と同一の紙が記憶部7に記憶された登録済の紙に中に存在するか否か(換言すると、被検査紙が登録済の紙であるか否か)を判定し、紙の照合においては、被検査紙が記憶部7から読み出した登録済の紙と同一のものであるか否かを判定する。判定処理部9による判定結果は、例えば操作部2に設けられた表示部やディスプレイなどの表示手段に表示出力される。
【0036】
以上の各構成要素のうち、信号処理部5、抽出処理部6、比較処理部7、判定処理部9は、各々の機能部の処理を実行する処理プログラム(ソフトウェア)によって具現化されるものである。
【0037】
ここで、上述したパターン画像を紙の識別・照合に利用する場合の優位点について説明する。紙の製造工程は、主として、植物繊維を抽出する「蒸解工程」、水中に繊維を分散させ機械力を加えながら膨潤させる「叩解工程」、脱膨潤させる「抄紙工程」といった3つの工程から成る。このうち、抄紙工程においては、紙の原料となる植物繊維(セルロース)がその位置関係を制御されることなく不定形に絡み合い、これによってランダムな網目構造をなす平面が厚さ方向に幾層にも積み重なって「紙」となる。このとき、植物繊維の作り出すパターンは、そのパターンが全く同じである複数の紙が存在することは考え難い。よって、このパターンは、各々の紙固有の個別情報(人間でいえば指紋等の情報)と成り得る。
【0038】
本発明で利用するパターン画像の情報は、例えば、図2に示すように植物繊維が不定形に絡み合うランダムなパターンの形状そのものであってもよいし、植物繊維の絡み合いの構造に由来する紙の光学的特性であってもよい。後者としては、例えば図3に示すように、紙に裏面から光を照射したときに観測できる微細な濃淡のパターンや、紙の表面に斜方から光を照射したときに観測できる表面の微細な凹凸のパターンなどがある。不定形に絡み合った植物繊維の微細構造は、全く同一のものを故意に作り出すことは不可能である。この理由は次のような事情による。
【0039】
一般に、紙はその抄紙工程で水を媒介して繊維同士がこう着されて作られる。このとき、水中に分散された植物繊維は、乾燥が始まると繊維内部に浸透していた水が除かれ、多くの繊維間の接触点でその表面の水酸基同士が水素結合を作る。この工程において一本一本の繊維の位置や繊維間の接触点を全て自由に制御することは技術的に不可能である。また、太さ4〜70μm、長さ0.25〜50mm程度の無数の植物繊維が絡み合う三次元的な位置関係を正確に模倣して再現することも極めて困難である。特に、高叩解によって外部フィブリル化(繊維の損傷によって内部のフィブリルが露出した状態)が進んだ繊維がある場合は、より一層模倣が困難なものとなる。
【0040】
以上のことから、紙の製造工程においては、植物繊維を同じ状態(位置関係、積層状態など)に絡み合わせて同一の紙を作り出すこと、つまり偽造することは実質的に不可能である。また、一度こう着した繊維同士は、通常の使用では解離しないため、そのパターンは安定的に維持される。よって、植物繊維が作り出すランダムなパターン画像を紙の識別照合に好適に利用することができる。
【0041】
なお、ここでは「紙」として、その製造の仕組みが水の媒介によって行われるものについて説明したが、例えば、JIS(日本工業規格)の紙、パルプ用語(JIS P001-1979)による定義「植物繊維その他の繊維を絡み合わせ、こう着させて製造したもの」に含まれるパピルス、タパ(樹皮の内皮を叩き伸ばした伝統的な不織布の一種)、合成繊維紙や、あるいは不織布なども、本発明における「紙」に含まれることは勿論である。
【0042】
続いて、本発明の実施形態に係る紙識別照合装置の具体的な形態と動作について説明する。本発明の紙識別照合装置及び紙識別照合方法は、先述のように紙を形成するランダムな植物繊維のパターン画像を直接的あるいは間接的に利用する。植物繊維のパターン画像の読み取りには、触針法、電子顕微鏡観察法等の幾つかの方法が考えられるが、紙面上に載る情報の保護の観点からすると、未処理で非破壊であることが望ましい。光を利用する方法はこの点で優れている。
【0043】
図4は観測部4の具体的な構成例を示す斜視図であり、図5はその側面図である。図示のように観測部4は、大きくは、照明ユニット401と、撮像ユニット402とによって構成されている。
【0044】
照明ユニット401は、平面視円形のユニット筐体403と、このユニット筐体403の内部に設けられた光源404と、この光源404の上方に設けられた光拡散板405とを有している。光源404は、例えばLED、ハロゲンランプ、蛍光燈、キセノン放電管等によって構成されるものである。ユニット筐体403の上面は、被検査紙をセットするための検査ステージ406を形成している。
【0045】
検査ステージ406の中央には、図6に示すように円形の透光孔407が設けられている。上述した光拡散板405は、この透光孔407を塞ぐ状態で取り付けられている。また、検査ステージ406上には被検査紙を位置決めするための突き当て板408が設けられている。突き当て板408は、上記透光孔407を囲む位置に互いに直角をなして略L字形に配置されている。このように突き当て板408を略L字形に配置する理由は、被検査紙414の外形が長方形でその角部が直角に形成されているためである。
【0046】
撮像ユニット402は、平面視円形のユニット筐体409と、このユニット筐体409の内部に設けられた撮像用のレンズ410と、ユニット筐体409の内部でレンズ410による光の結像位置に設けられた撮像素子411とを有している。ユニット筐体409の下面部には、上述した突き当て板408との位置的な干渉を避けるために凹状の逃げ部412が形成されている。レンズ410は、対物レンズ系によって構成されている。撮像素子411は、CCDやCMOSなどの撮像素子によって構成されている。
【0047】
また、照明ユニット401と撮像ユニット402とは、照明ユニット401を下側、撮像ユニット402を上側とした上下の位置関係で互いに同軸上に配置されている。これらのユニット401,402は、支持アーム413によって連結されている。また、撮像ユニット402は、支持アーム413によって上下動可能に支持されている。
【0048】
上記構成からなる観測部4においては、上記図6に示すように、照明ユニット401と撮像ユニット402とを上下に分離した状態で、それらのユニット401,402間(検査ステージ406上)に被検査紙414がセットされる。このとき、検査ステージ406上で被検査紙414の一辺とこれに直角をなす他辺をそれぞれ突き当て板408に突き当てることにより、被検査紙414の位置決めがなされる。さらに、この状態で撮像ユニット402を下降させることにより、被検査紙がユニット401,402間に挟持される。
【0049】
また、上述のように被検査紙414をセットした後、照明ユニット401の光源404を発光(点灯)させると、光源404からの光が光散乱板405を通して被検査紙414の裏面(下面)に照射される。このとき、被検査紙414に対しては、光拡散板405で光強度を均一化した光が照射される。また、照明ユニット401と撮像ユニット402との間が隙間のないように閉じられるため、被検査紙414には光源404からの光だけが照射される。したがって、植物繊維の絡み合いに由来するパターン画像を常に安定して読み取ることができる。
【0050】
また、光源404からの光の照射により、この光が被検査紙414で散乱、吸収された後の光、すなわち被検査紙414からの透過光がレンズ410を通して撮像素子411に受光される。このとき、被検査紙414を透過する光の状態(強度分布等)は、この被検査紙414を形成している植物繊維がどのような状態で絡み合っているかによって微妙に変化する。すなわち、植物繊維が多く重なり合ったところや、植物繊維が密に配置されたところでは、透過光量が少なくなって暗く観測され、逆に、植物繊維が少なく重なり合ったところや、植物繊維が疎に配置されたところでは、透過光量が多くなって明るく観測される。そのため、被検査紙414からの透過光を撮像素子411で撮像することにより、被検査紙を形成している植物繊維が作り出すランダムなパターン画像を観測することができる。
【0051】
なお、観測部4の構成としては、光拡散板405の代わりに、観測する紙面に光を集める集光レンズを用いてもよい。
【0052】
また、上記図4及び図5においては、被検査紙414の裏面側から光を照射し、被検査紙414からの透過光を撮像素子411で受光する構成としているが、これ以外にも、例えば図7に示すように、レンズ410の周囲に光導波路光学系415を設け、この光導波路光学系415を用いて光源404A,404Bからの光を被検査紙414の表面(上面)に照射する、暗視野照明(斜方照明)を採用してもよい。この図7に示す構成では、被検査紙414からの反射光をレンズ410を通して撮像素子411が受光することになる。いずれの構成を採用するにしても、外乱光の影響を除くため、装置全体が光学的に閉じられていることが望ましい。
【0053】
ここで、観測対象とする紙の繊維パターン、あるいは絡み合う繊維に由来する光学的濃淡等の情報から得られる紙の個体差は、観測領域が広ければ一般的にはより多くの情報が得られるため、鮮明になると考えられる。しかし、平面的素材として価値のある紙は均質であることが求められる。そのため、観測領域が広すぎると、情報に占める一様性が大きくなり、個々の紙を弁別するための特徴を抽出し難くなる。また、観測領域が広くなると、その分だけ観測機器のサイズも大型化するため、設置面積やコスト上などの点でも不利になる。よって、観測領域のサイズ(面積)は、抽出すべき特徴や観測部2のコスト、サイズなどを考慮して、できるだけ多くの紙の個体差を明瞭にできるように決定すべきである。
【0054】
こうした観点から、観測領域のサイズは、例えば情報用紙(コピー、プリンタ、ファックス等の用紙)の場合、紙面上の面積が0.1〜1000mm2の範囲内で設定することが適切である。この範囲内で例えば6.3mm×5.0mmの領域を観測する場合、照明ユニット401における光散乱板(拡散板)405の面積は50mm2程度で十分である。
【0055】
また、撮像素子411として、例えば、白黒タイプで、有効画素数1300×1030(約130万画素)、正方格子のCCDを用い、有効画素領域全体に6.3mm×5.0mmの観測領域を光学系(レンズ410)で結像すると、このときの1画素当りの観測面積はおおよそ4.9×4.9μm(6.3mm/1300=4.9μm、5.0mm/1030=4.9μm)となる。先述のように植物繊維の太さは4〜70μmであるから、この場合は十分に植物繊維の状態を観測できることになる。また、この場合、CCDが2/3型で、画素サイズが6.7μm×6.7μmの正方格子(CCD有効画面サイズ8.7mm×6.9mm)であるとすると、レンズ410による結像光学系の倍率は1.38倍(横倍率、8.7/6.3=1.38、6.9/5.0=1.38)となる。
【0056】
また、撮像素子411として、白黒タイプ、有効画素数640×480(約30万画素)のCCDを用い、有効画素領域全体に7.7mm×5.7mmの観測領域を光学系(レンズ410)で結像すると、このときの1画素当りの観測面積はおおよそ12μm×12μm(7.7mm/640=12μm、5.7mm/480=12μm)となる。この場合でも、植物繊維のおおよその状態や、植物繊維が作り出す濃淡の状態を観測することができる。また、この場合、CCDが1/3型で、画素サイズが8.4μm×8.4μmの正方格子(CCD有効画面サイズ5.4mm×4.0mm)であるとすると、レンズ410による結像光学系の倍率は0.7倍(横倍率、5.4/7.7=0.7、4.0/5.7=0.7)に設計すればよい。
【0057】
また、撮像素子411として、白黒タイプ、有効画素数367×291(約11万画素)、出力信号8ビット(256階調)のCMOSを用い、有効画素領域全体に7.3mm×5.8mmの観測領域を光学系(レンズ410)で結像すると、このときの1画素当りの観測面積はおおよそ20μm×20μm(7.3mm/367=20μm、5.8mm/291=20μm)となる。この場合でも植物繊維が作り出す濃淡の状態を十分に観測することができる。また、この場合、CMOSが1/7型で、画素サイズが5.6μm×5.6μmの正方格子(CMOS有効画面サイズ2.1mm×1.6mm)であるとすると、レンズ410による結像光学系の倍率は約0.3倍(横倍率、2.1/7.3=0.3、1.6/5.0=0.3)に設計すればよい。
【0058】
続いて、上記構成からなる紙識別照合装置1を用いた紙識別照合方法について説明する。図8は紙識別照合装置1で行われる処理手順の一例を示すフローチャートである。先ず、観測部4の検査ステージ406に被検査紙414をセットした後、操作部2で選択スイッチにより処理内容(登録処理又は比較判定処理)を設定し、スタートスイッチを入れると(オンすると)、このスイッチオン信号を受けて制御部3が観測部4及び信号処理部5に処理開始を指示する。
【0059】
そうすると、観測部4では、照明ユニット401の光源404を点灯して被検査紙414に光を照射し、これによって得られる被検査紙414からの透過光を撮像ユニット402の撮像素子411で受光することにより、被検査紙414の紙面上に現れた植物繊維のパターン画像を観測する(ステップS1)。
【0060】
一方、信号処理部5では、観測部4での観測によって得られたパターン画像の画像信号を取り込むとともに、この画像信号に対して特徴量抽出のための信号処理(前処理)を行う(ステップS2)。この信号処理では、上述した輝度補正などの処理と併せて、被検査紙上でパターン画像を観測するための観測領域の特定処理を行う。観測領域の特定処理は、観測すべきパターン画像の領域が被検査紙414のどの部分に相当するかを特定することで行われる。以下に、観測領域の具体的な特定方法について説明する。
【0061】
まず、特徴量の抽出に際しては、紙全体の植物繊維の状態を反映する特徴的なデータを用いることは希であり、先述のように紙の限られた部分の情報を用いるのが普通である。したがって、選択スイッチで設定された処理内容が登録処理と比較判定処理のいずれであっても、同一の紙であれば、常に同一の場所を観測領域として特定する必要がある。観測領域の特定は、紙全体を走査することで登録情報と比較する方法でも可能であるが、この場合は走査に時間がかかるため効率的ではない。
【0062】
観測領域を特定する最も簡単な手法としては、被検査紙414に予め設けられた起点、例えば紙の縁や角を起点とし、この起点からの距離によって観測領域を特定する方法が考えられる。検査ステージ406上の突き当て板408はそのために設けられたものである。この方法では被検査紙414に何の処理を施さなくても、観測領域特定のための起点を設定することができる。ただし、この方法は、紙の変形の影響を受け易いという難点も併せ持つ。
【0063】
そこで、他の方法として、被検査紙414に観測領域を特定するためのマークを予め設けておき、このマークを用いて観測領域を特定する方法が考えられる。例えば、図9に示すように、被検査紙414の紙面上に十字(+)のマークを印刷しておき、このマークを手がかりに観測領域Sを特定する。具体的には、例えば+マークの交点を起点Pとし、この起点Pから距離0(ゼロ)にある点Q(すなわち点P=点Q)を中心に半径rの円内を観測領域Sとして特定する。あるいは、+マークの交点を起点とし、この起点を頂点とした四角形領域を観測領域として特定する。
【0064】
このようにマークを用いて観測領域を特定する場合でも、上述した突き当て板408によって被検査紙414の概略の位置を指定することが望ましい。また、概略の位置の範囲において広視野角(画角)のレンズ系を用い(撮像ユニット402のレンズ410とは別に用意しておく)、撮像ユニット402の撮像素子411により、図10に示すように、大きさM×Mの+のマークを含む大きさL×L(但し、L>M)の画像を一括に取得し、このL×Lの画像の範囲内で、例えば相関法や残差逐次検定法等の手法により、M×Mの+マーク画像が対応するL×Lの画像上の位置(観測領域S)を特定すればよい。この場合の領域特定にかかる処理も一種の照合処理であるが、紙の繊維情報に比べ遥かに情報量が少ないため、容易に観測領域Sを特定することができる。
【0065】
また、マークが半径Rの円で形成(印刷)されていた場合は、起点Pが円の中心、点Q=点Pとし、観測領域を点Qを中心とする半径R−α(αは円マークの線幅以上)の円内とすることにより、パターン画像の観測時にマーキング材料の影響を受けることがないため好都合である。
【0066】
なお、ここでは、マークを印刷によって被検査紙に設けるものとしたが、観測領域の特定に用いられるマークは、被検査紙を貫通する孔や、被検査紙の紙面上に形成された凹凸であってもよい。これらのマークは、インクを用いた印刷によるマークと同様に撮像ユニット402で光学的に読み取ることができるが、これ以外にも、検査ステージ406上に針や突起物等の検出部を設け、この検出部によって機械的にマークの位置を検出することもできる。
【0067】
上記の手法を用いて信号処理部5が観測領域を特定すると、これに続いて抽出処理部6は、信号処理部5で特定された観測領域のパターン画像から、このパターン画像の特徴を示す特徴量を抽出する(ステップS3)。特徴量の抽出方法としてはこれまでに多くの方法が提案されており、その中の一例を以下に記述する。
【0068】
先ず、観測領域のパターン画像を適切な大きさのメッシュ(メッシュ数d=縦M×横N)に区切り、各メッシュ内に存在する複数の画素の濃度値を平均化することにより、各々のメッシュをある濃度値(濃度レベルq)で代表させる。ここで、j番目(jは正の整数)のメッシュの濃度値をXjとすると、このパターン画像は、X=(X1,X2,X3,…Xd)t(tは転置を表す)なるベクトルで記述できる。このベクトルを特徴ベクトルと呼ぶ。ベクトルの各要素は対応する画像領域の濃度を与える。図11(A)は0.8×0.8mmの紙面領域の元のパターン画像を示し、図11(B)はそのパターン画像をd=25×25(M=N)のメッシュで区切り、各々のメッシュの濃度値をq=255レベルに量子化・標本化した結果を示すものである。
【0069】
こうして処理されたパターン画像は、特徴ベクトルによって張られた特徴空間上の1点として表されることになる。すなわち、突き当て板408に突き当てて被検査紙414を位置決めした後、撮像素子411によって得られた観測領域のパターン画像は上記のように特徴ベクトルとして記述される。また、特徴ベクトルの全ベクトルから計算された分散共分散行列(又は相関行列)は特徴行列として記述される。これら特徴ベクトルと特徴行列は、一つの特徴量として取り扱われる。なお、ここでは特徴ベクトルと特徴行列の組を特徴量としているが、特徴ベクトルのみを特徴量としてもよい。
【0070】
こうして特徴量を抽出した後は、現在設定されている処理内容が登録処理であるか否かにより、その後の処理が分かれる。すなわち、現在設定されている処理内容が登録処理である場合(ステップS4でYesの場合)は、先のステップS3で抽出処理部6により抽出された特徴量(すなわち、特徴ベクトルと特徴行列を表す数値データ)を記憶部7に記憶(登録)する(ステップS5)。このとき、被検査紙414に識別符号が印刷されている場合は、この識別符号をOCR(光学式文字読取装置)で光学的に読み取る、あるいは操作部2を用いて識別符号を入力することにより、抽出した特徴量を識別符号と対応付けて記憶部7に記憶する。また、識別符号がバーコードの形態で被検査紙414に印刷されている場合は、別途、紙面上のバーコードをバーコードリーダで読み取って得た識別符号と対応付けて特徴量を記憶部7に記憶する。また、被検査紙414から得たパターン画像の特徴量を表す数値を符号化して被検査紙414の紙面上に直接印刷しておいてもよい。
【0071】
これに対して、現在設定されている処理内容が比較判定処理である場合(ステップS4でNoの場合)は、先のステップS3で抽出処理部6により抽出された特徴量と記憶部7に記憶された特徴量とを比較処理部8で比較し(ステップS6)、この比較結果に基づく判定結果を出力する(ステップS7)。
【0072】
比較処理部8による比較処理において、紙を照合するときは、予め記憶部7に記憶された特徴量のデータの中から、比較対象となる特徴量のデータを、被検査紙414に印刷された識別符号を使って記憶部7から読み出し、この読み出した特徴量のデータと実際に被検査紙414のパターン画像から抽出した特徴量のデータとを比較する。この場合、両者の特徴量(特徴ベクトル又は特徴行列)の距離を算出し、この算出した距離と、予め設定された閾値距離との比較を行うことにより、被検査紙414が、登録された原本の紙であるか否かを判定する。
【0073】
照合で使用する識別符号については、被検査紙414に印刷された識別符号をOCR等で読み取ってもよいし、操作部2を用いて識別符号を入力してもよい。また、被検査紙414の紙面上に特徴量のデータを符号化して印刷してある場合には、直接紙面からその特徴量データ(登録データ)を読み取ってもよい。特徴量のデータを比較する際は、多少のデータ入力時の揺れを見込んで所定の許容範囲を設けてもよい。また、何らかの操作ミスや位置ずれなどの事故が発生することも想定されるため、比較結果が紙の原本性を否定するもの、つまり被検査紙414が原本の紙であると判定しない場合にも所定の回数の再試行を認める設定にしてもよい。また、記憶部7に記憶された特徴量のデータ数が少ない場合には、いちいち識別符号を用いずに、登録データ全数と比較する処理、すなわち識別処理を適用してもよい。
【0074】
一方、紙を識別するときは、被検査紙414のパターン画像から抽出した特徴量のデータと記憶部7に記憶されている全ての特徴量のデータとを順に比較するとともに、各々の比較に際して双方の特徴量である特徴ベクトル又は特徴行列の距離を算出する。そして、被検査紙414の特徴ベクトルと最も近い距離にある特徴ベクトルに対応する登録紙がその紙であると判定する。ただし、被検査紙414の特徴ベクトルと最も近い距離にある登録紙であって、比較に際して算出した双方の距離が、予め設定された閾値距離よりも離れている場合は、登録紙のなかに該当する紙が存在しない、つまり登録された原本の紙ではないと判定する。
【0075】
特徴量の比較に際して計算する距離としては、統計学上の判別分析やクラスター分析等で用いられる距離、例えば市街地距離、ユークリッドの距離、標準化ユークリッド距離、ミンコフスキーの距離、マハラノビスの距離等を適用することができる(村上征勝著:行動計量学シリーズ「真贋の科学」朝倉書店、1996)。前者4つの距離は、いずれも未知の紙の特徴ベクトルと登録された特徴ベクトル間の距離として得られる。マハラノビスの距離は、未知の紙の特徴ベクトルと登録された特徴ベクトル(平均ベクトル)と、特徴行列(分散共分散行列、又は相関行列)の逆行列から計算される。
【0076】
なお、紙の識別照合のために設定される閾値距離は、登録される用紙毎に異なる場合もあるので、登録時に識別符号とともに記憶部7に記憶しておく。また、ここでは距離で判定する場合を述べたが、ベクトルの成す角度から判定してもよい。以上のようにデータを処理することで、紙の特徴を捕らえて識別・照合することができる。無論、KL(Karhunen-Loeve)展開等による特徴空間の次元削減を行って識別・照合計算を行ってもよい。
【0077】
また、上述のように観測部4で観測されたパターン画像から実空間上で識別や照合をする方法以外にも、例えば、観測部4によって得られたパターン画像を、2次元フーリエ変換を用いて周波数領域へ変換し、フーリエ空間上で識別、照合を行ってもよい。この場合、予め登録された画像と被検査紙の画像とをフーリエ空間上で画像合成し、逆フーリエ変換することで相関強度画像を得て、そのピーク値から二つの画像の類似性を評価することができる。例えば、振幅のピークの大きさが予め設定された閾値以上であった場合に同一画像、すなわち同一の紙であると判定することができる。
【0078】
また、上述したような画像データレベルでの比較(識別・照合)ではなく、抽出した特徴量のレベルで比較してもよい。例えば、図12に示すように、観測部4での観測によって得られたパターン画像を微分演算後に2値化し、さらに細線化演算を行うことにより、植物繊維の流れの状態を示す線画像を得て、各々の植物繊維の交点や端点、分岐点などの特徴点の位置データを、当該パターン画像の特徴量として抽出する方法も考えられる。この方法は、一般に画像データレベルで扱うデータ量に比べ、格段に小さなデータで特徴量を記述することができる。
【0079】
続いて、本発明の応用例について説明する。
【0080】
[第1応用例]
第1応用例は、観測部4の構成に関連するものである。すなわち、第1応用例においては、観測部4の構成として、図13及び図14に示すものを採用している。図において、照明ユニット401、撮像ユニット402、ユニット筐体403、光源404、光拡散板405、検査ステージ406、突き当て板408、ユニット筐体409、レンズ410、撮像素子411、逃げ部412、支持アーム413等については先述したとおりであるが、これに加えて本第1応用例に係る観測部4は、検査ステージ406上で被検査紙の紙面を押さえる押圧手段と、検査ステージ406上で被検査紙の観測領域への不要光の侵入を阻止する遮光手段を備えた構成となっている。
【0081】
押圧手段は、複数の弾性体416と、押さえ板417とを用いて構成されている。弾性体416は、例えば圧縮コイルバネ等のバネ部材からなるものである。弾性体416は、ユニット筐体409下面部の逃げ部412に垂直にぶら下がる状態で取り付けられている。押さえ板417は、例えば直径20mm、厚さ1.2mmの円形のアクリル製の板からなるもので、透明なアクリル板を用いることにより、被検査紙に照射される光を透過する性質(透光性)を有している。押さえ板417は、その外周上の3点に上記弾性体416の一端を取り付けることにより、検査ステージ406の上方で略水平に支持されている。
【0082】
遮光手段は、リング状の遮光部材418を用いて構成されている。遮光部材418は、例えば、被検査紙を傷付けないようにゴム状弾性体からなるもので、ユニット筐体409の下面部で逃げ部412を取り囲む状態に形成されている。遮光部材418は、例えば、外径25mm、内径22mm、厚さ1.8mmの黒色のシリコーンゴムによって形成される。
【0083】
以上の押圧手段及び遮光手段を備えた観測部4において、検査ステージ406上に被検査紙をセットして撮像ユニット402を下降させると、被検査紙がユニット401,402間に挟持される。このとき、撮像ユニット402を下降させる途中で被検査紙の紙面に押さえ板417が面的に接触(面接触)し、そのまま被検査紙を検査ステージ406に押さえつける。この場合、押さえ板417は、上記複数(図例では3つ)の弾性体416によって得られる弾性力を利用して被検査紙の紙面を押さえる。
【0084】
これにより、観測部4においては、検査ステージ406上で被検査紙が波打ったり、検査ステージ406のステージ面から被検査紙が浮いたりすることなく、常に検査ステージ406のステージ面(平面)に被検査紙を密着させた状態でパターン画像を観測することができる。また、透光性を有する押さえ板417を用いることにより、被検査紙の観測領域を押さえ板417で直接押さえることができる。また、押さえ板417の周囲3点に弾性体416を均等な位置関係で設けているため、被検査紙を押さえ板417で均一に押さえることができる。
【0085】
さらに、撮像ユニット412の下降によってユニット筐体403,409を閉じた状態では、ユニット筐体403,409の突き合わせ部分で遮光部材418が検査ステージ406に接触(密着)した状態となる。この状態では、被検査紙の観測領域の周囲が遮光部材418で囲まれ、これによって観測領域への不要光の侵入が阻止される。そのため、被検査紙の観測領域を光学的に周囲(外部)から閉ざすことができる。よって、外部からの不要光の影響を受けることなく、常に安定した環境で植物繊維のパターン画像を観測することができる。この場合、撮像ユニット402のユニット筐体409が完全に下りたことを検出して、先述の操作部2におけるスタートスイッチをオンするようにしてもよい。
【0086】
[第2応用例]
第2応用例は、観測領域の特定に関連するものである。すなわち、第2応用例においては、観測領域を特定するにあたって、被検査紙の紙面に印刷によって設けたマークを用いるとともに、このマークを印刷するためのマーキング材料として、所定の波長域、例えば赤外領域(波長700nm〜1.5μm)の光を吸収する特性を有するものを用いるものである。このマーキング材料は赤外領域にのみ吸収のある色素・顔料を含む材料を用いてなり、観測領域全域をこのマーキング材料(インク)で塗りつぶす。そして、観測領域の位置の検出(特定)には赤外領域の波長の光を用い、植物繊維のパターン画像の観測には赤外領域と異なる波長域の光、すなわち可視域の光を用いる。
【0087】
具体的には、例えば、赤外領域の光を収材する材料を含有する透明なトナーを用いて、図15(A)のように、被検査紙414の観測領域S全体を塗りつぶすようにマークを印刷によって形成しておく。このように被検査紙414にマークを形成した状態で、被検査紙414に赤外光を照射し、これによって得られる被検査紙414からの反射光を、赤外領域に感度のある受光素子や撮像素子を含む撮像ユニット402(広視野角のレンズ系)で観測すると、図15(B)に示すように、先にマークとして塗りつぶした部分(すなわち、観測領域S)だけが他の部分と異なる状態(赤外光の吸収によって暗い状態)で見えるため、観測領域Sを光学的に検出し、その位置を正確に特定することができる。
【0088】
次いで、被検査紙414に対する赤外光の照射を停止した後、赤外光と波長域の異なる光、すなわち可視域の光を被検査紙414に照射することにより、図15(C)に示すように、植物繊維のパターン画像を撮像ユニット402によって撮像し、これを観測する。なお、ここでは、赤外光は反射光、可視光は透過光としているが、無論照明方法はこれに限らず、赤外光を透過光、可視光を反射光としても、赤外光、可視光の両方を透過光又は反射光としてもよい。
【0089】
また、照明ユニット401の光源404として、例えばハロゲンランプのように可視、赤外領域の波長成分を含む光源であり、かつ両照射方法とも同じ方法であれば、光源を共通化できるため好都合である。この場合、観測領域Sを特定する際には、光源404の前に赤外透過フィルターを設け、この赤外透過フィルターを通して光源404からの光を被検査紙414に照射することにより、観測領域Sを検出することができる。
【0090】
一方、植物繊維のパターン画像を観測する際には、光源404の前に赤外吸収フィルターを設け、この赤外吸収フィルターを通して光源404からの光を被検査紙414に照射することにより、植物繊維のパターン画像を光学的に読み取るこができる。また、上述のように観測領域Sをマーキング材料で覆うことにより、観測領域S内で植物繊維のパターンを保護する効果も得ることもできる。
【0091】
赤外領域の光を吸収するマーキング材料(インク)を用いてマークを形成する際のマーキングパターンとしては、図16に示すように、外形が矩形でその中に円形の中抜き部(非印刷部)が空いた形状をマークMkとして印刷してもよい。この場合、マーキング材料がのっていない円形の中抜き部が観測領域Sに相当し、その中抜き部の周囲のマークMkを用いて観測領域Sの位置検出(特定)を行う。
【0092】
この手法では、照明ユニット401の光源404として可視域、赤外領域の波長成分を含む光源を用い、撮像ユニット402の撮像素子411がCCDのような赤外領域、可視域の両方に感度をもつ素子であれば、マークMkの位置検出と、このマークMkを用いて特定した観測領域S、すなわち中抜き部(非印刷部)での植物繊維のパターン画像の観測を、同じ光学系で行うことができる。
【0093】
上記の説明では赤外領域の光を吸収する色素・顔料を含む材料を用いたマーキング材料でマークを印刷するものとしたが、マーキング材料の特性としては、紫外領域の光を吸収する特性を有するものであってもよい。もちろん、その場合は、マーク位置検出用の光源として紫外領域を光を含むことが必要となる。また、マーキングパターンも任意の形状(例えば外形が矩形のパターンなど)を採用してもよい。
【0094】
また、一般に、紙は経年変化や保存、使用状態によって破損したり変形したりすることが考えられる。そのため、上述した登録処理で登録された被検査紙の観測領域を読み取ることができなくなる恐れがある。そうした場合への対応策としては、被検査紙上で複数箇所にわたって観測領域を特定することが有効な手段となる。具体的には、例えば図17に示すように、被検査紙414の紙面上で点Q1〜Q5を含む特定の範囲(ここでは図示するような矩形の領域)の5個所をそれぞれ観測領域S1〜S5として特定する。この場合、各々の観測領域S1〜S5に優先順位を付け、必要に応じて順番に照合をとる等の手法を採用すれば、ロバストネスを向上させることができる。
【0095】
また、1枚の被検査紙414上に複数の観測領域S1〜S5を設けることの利点としては、上記ロバストネスの向上だけではなく、いたずらに冗長度を上げることなく、多くの紙を分離できる情報が得られることも挙げられる。例えば、各々の観測領域毎のパターン画像の特徴量に加え、各点Qの紙面上の位置を紙毎にランダムに決定し、点Q間の位置関係も特徴情報としてもよい。この場合は、例えば仮に点Q1を含む特定の範囲の情報と点Q2を含む特定の範囲の情報が、それぞれ別の紙の点Q1'を含む特定の範囲の情報と点Q2'を含む特定の範囲の情報に一致したとしても、点Q1,Q2と点Q1',Q2'の紙面上における相対的な位置関係まで一致する可能性はきわめて低くなるため、より信頼性を向上させることができる。
【0096】
このことは逆に、複数箇所の観測領域のパターン画像情報を利用することにより、各々の観測領域での情報、すなわち各点Qnを含む特定の範囲の情報量を、一個所で判定する場合に比べて低く抑えることができるとも言える。図18に複数箇所の観測領域のパターン画像情報を用いる場合の他の例を示す。先の図17では、主に情報観測箇所に冗長性を持たせ、紙の破損や変形時にも対応できることを意図し、紙面全体に点Qnを分散させた例を示している。これに対して、図18に示す例は、主に観測領域の位置関係も特徴情報に利用することを意図したもので、各点Qnの相対的位置関係を観測部4で観測し易いように比較的狭い範囲にこれらの点を置いている。
【0097】
すなわち、図18に示す例では、被検査紙414の紙面上の四角形領域内を、観測部4による観測対象(観測視野の範囲内)とする。この観測対象となる領域全体をレンズ410を介して撮像素子411で観測する。この四角形領域は、突き当て板408への被検査紙414の突き当てによって概略の位置を決めた後、図示するように予め紙面上に印刷した頂点P1,P2,P3を検出することで決定する。
【0098】
仮にCCDが白黒1/1.8型、有効画素数が2452×1634(約401万画素)、正方格子3.1μm画素(有効画素面積7.6×5.1mm)で、光学系の倍率(横倍率)が0.15倍とすると、CCDの撮像面上に結像される紙面の面積は約51mm×34mmとなる。例えば、P1P2=45mm、P1P3=28mmであれば、この撮像面内に四角形を十分に収めることができる。次いで、頂点P1,P2,P3を基準として、この四角形内に収まるように点Q1,Q2,Q3の位置を決定する。
【0099】
これらの点Qnの位置は、それぞれの紙ごとに異なるように乱数関数等を用いて決める。点Qnの頂点Pnとの相対的な位置情報は、被検査紙に付与された識別符号とともに記憶部7に記憶しておく。その後、各点Qnを基準に先述のように植物繊維が作り出すランダムなパターン画像を取得する。図示するように紙面上あるいは撮像面上のP1を原点(0,0)として点Q1(x1,y1)を左上の頂点、点Q10(X1+m,y1+n)を右下とする四角形を一つ目の観測領域S1とする。ここでx,yは、距離であっても画素数であってもよい。同様に点Q2(x2,y2)を左上の頂点、点Q20(X2+m',y2+n')点を右下とする四角形の観測領域S2と、点Q3(x3,y3)を左上の頂点、点Q30(X3+m",y3+m")を右下とする四角形の観測領域S3を求める。
【0100】
これら観測領域S1、S2、S3内の特徴量(特徴ベクトルや分散共分散行列等)を点Q1、Q2、Q3の位置情報と同様に先の識別符号とともに記憶部7に記憶する。これにより、各々の紙ごとにランダムに決定された点Q1、Q2、Q3の位置情報は、観測領域S1、S2、S3におけるパターン画像の特徴量ととともに、紙を識別照合するための情報として利用することができる。
【0101】
ここで、例えばQ1Q10を対角線とする四角形の紙面上の面積を3mm×3mmとすると、CCDの撮像面上では0.45mm×0.45mm(3×0.15=0.45)の面積に相当する。すなわち、CCD1画素当りの観測面積は約21μm×21μm(300/(450/3.1)≒20.67)であり、植物繊維によって作り出された濃淡のパターン画像を十分に観測することができる。このようにして得られた登録データ(特徴量の蓄積データ)は、紙の識別照合の際に辞書として用いられる。ここに記載したように観測領域S1、S2、S3が頂点P1、P2、P3を頂点とする四角形内に存在する場合、撮像素子(ここではCCD)によって得られる全画像情報の一部を利用することになり、計算負荷を軽減することができる。
【0102】
一方、紙の偽造を試みる側から見れば、万が一、植物繊維が作り出すパターン画像が酷似した複数の紙を製造する技術(偽造技術)を有していたとしても、起点Pnが示す観測領域は繊維サイズに比べ非常に広いため、偽造の実行は極めて困難なものとなる。なお、位置検出用の点Pnの位置関係や個数、観測領域Snの形状や個数は、上述したものに限定されないことは言うまでもない。
【0103】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、紙そのものに異物を漉き込んだり識別子を貼付するなどの特別な処理を一切加えることなく、また特殊な印刷技術やインク等を何ら必要とせずに、個々の紙を識別照合することが可能になる。特に、紙を形成する植物繊維が不定形に絡み合った状態で植物繊維が作り出すランダムなパターン画像を、紙の識別照合のための情報として利用するため、これを偽造することは極めて困難であり、その紙は唯一のものであるという原本性を証明することが可能となる。また、本発明はどのような紙に対しても適応することができ、また装置導入コスト以外は消耗品を全く必要としないため、非常に低コストに実現することができる。さらに、本発明は紙の識別照合が必要になったときに、例えば印刷後の紙であっても、いつでも後から適応することができる。
【0104】
したがって、本発明によれば、紙を用いた各種書類(例えば、有価証券、銀行券、機密文書など)の原本性の確保あるいは偽造防止という安全性と、何処でも手軽にという利便性、更に低コストであるという3つの要素を同時に満足する紙識別照合装置及び紙識別照合方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態に係る紙識別照合装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】 植物繊維のパターン画像の一例を示す図である。
【図3】 植物繊維のパターン画像の他の例を示す図である。
【図4】 観測部の具体的な構成例を示す斜視図である。
【図5】 観測部の具体的な構成例を示す側面図である。
【図6】 観測部に被検査紙をセットする際の状態を示す図である。
【図7】 観測部の他の構成例を示す側面図である。
【図8】 紙識別照合装置の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図9】 観測領域の特定方法の一例を示す図である。
【図10】 観測領域の特定方法の他の例を示す図である。
【図11】 観測領域のパターン画像とこれを量子化・標本化した例を示す図である。
【図12】 パターン画像を細線化処理した場合の処理結果を示すイメージ図である。
【図13】 本発明の第1応用例に係る観測部の構成を示す側面図である。
【図14】 本発明の第1応用例に係る観測部の主要部を示す斜視図である。
【図15】 本発明の第2応用例に係る観測領域の特定手法を示す図(その1)である。
【図16】 本発明の第2応用例に係る観測領域の特定手法を示す図(その2)である。
【図17】 本発明の第2応用例に係る観測領域の特定手法を示す図(その3)である。
【図18】 本発明の第2応用例に係る観測領域の特定手法を示す図(その4)である。
【符号の説明】
1…紙識別照合装置、4…観測部、5…信号処理部、6…抽出処理部、7…記憶部、8…比較処理部、9…判定処理部、401…照明ユニット、402…撮像ユニット、404…光源、406…検査ステージ、410…レンズ、411…撮像素子、408…突き当て板、416…弾性体、417…押さえ板、418…遮光部材
Claims (1)
- 被検査紙を形成する植物繊維が不定形に絡み合った状態で前記植物繊維が作り出すランダムなパターン画像を観測する観測手段と、
前記観測手段で観測された前記パターン画像の特徴量を抽出する抽出手段と、
前記抽出手段で抽出されたパターン画像の特徴量を登録済の紙の特徴量として記憶する記憶手段と、
前記抽出手段で被検査紙のパターン画像から抽出された特徴量と前記記憶手段に記憶されている前記登録済の紙の特徴量とを比較する比較手段と、
前記比較手段の比較結果に基づいて、紙の識別・照合の判定を行なう判定処理手段と、
前記被検査紙上で前記パターン画像を観測するための観測領域を特定する特定手段とを備え、
前記特定手段は、前記被検査紙の紙面上にそれぞれの紙ごとに位置が異なるように複数の点をランダムに設定するとともに、前記複数の点ごとに各々の点を含むように複数の観測領域を特定し、
前記各々の観測領域ごとのパターン画像の特徴量に加えて、前記複数の点の位置関係を特徴情報として、紙の識別・照合を行なう
ことを特徴とする紙識別照合装置。
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