以下、本発明の実施形態に係る防振装置について図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
図1及び図2には本発明の第1の実施形態に係る防振装置が示されている。この防振装置10には、その下部側に円筒状であって上端部に外周側に延出するフランジ部14を有した下部外筒金具12が設けられると共に、この下部外筒金具12の上側に円筒状であって段差部18を介して下端側よりも上端側が小径とされた上部外筒金具16が配置されている。上部外筒金具16の下端部にも、外周側へ延出するフランジ部20が形成されており、このフランジ部20が下部外筒金具12のフランジ部14上に載置され、フランジ部14の外周側がフランジ部20の外周側を挟み込みむように内周側へかしめられることにより、下部外筒金具12と上部外筒金具16とが互いに連結固定されている。防振装置10は、例えば、上部外筒金具16がカップ状のホルダ金具(図示省略)内へ嵌挿され、このホルダ金具を介して車両のエンジン側へ連結固定される。
上部外筒金具16の内周面には、その上端側に円筒形状をしたゴム製の弾性体22の外周部が加硫接着されると共に、この弾性体22の外周部から下方へ延出する薄肉ゴム層24が下端側に加硫接着されている。弾性体22の内周側には円柱状の内周金具26が配設されており、内周金具26の外周面には弾性体22の内周面が加硫接着されている。内周金具26には、その上端面から軸心Sに沿ってねじ穴28が穿設されている。このねじ穴28にはボルトがねじ込まれ、このボルトにより車両の車体側との連結用のブラケット(図示省略)の一端部が内周金具26に固定される。
防振装置10内には、全体として略肉厚円板状に形成された隔壁構造体30が下部外筒金具12及び上部外筒金具16の内周側であって、弾性体22の下側に配設されている。隔壁構造体30は、上部外筒金具16及び下部外筒金具12に固定されると共に、下部外筒金具12及び上部外筒金具16の内周側の空間を軸方向に沿って2個の小空間に区画する。これら2個の小空間はそれぞれオイル、エチレングリコール等の液体が封入される主液室32及び副液室34とされる。主液室32は、上部外筒金具16、隔壁構造体30及び弾性体22により構成され、弾性体22の弾性変形に伴って内容積が拡縮する。
下部外筒金具12の内周面及び外周面には薄膜状のゴム膜36がそれぞれ加硫接着により被覆されており、このゴム膜36の下端部には、弾性変形可能なゴム製のダイヤフラム38の周縁部が全周に亘って接合されている。このダイヤフラム38は下部外筒金具12の下端側の開口を閉止して、副液室34の隔壁の一部を形成している。尚、ダイヤフラム38は、その外側(下側)の面が大気に開放されており、副液室34の内容積を拡縮するように変形可能とされている。
隔壁構造体30は、図3及び図4に示されるように、合成樹脂やアルミニウム等の金属材料により形成された下部隔壁部材40と、アルミニウム等の金属材料により形成された皿状の上部隔壁部材42とを備えている。下部隔壁部材40は、上面側が開口した有底円筒状に形成されており、その下面側を閉止した底板部には、図5(C)に示されるように略扇状に形成された複数個(本実施形態では、4個)の開口部46が穿設されると共に、これら開口部46の中心部にパイプ状の軸部48が上方へ突出するように形成されている。この軸部48には、その中心部に軸心Sに沿って貫通するリーク路50が形成されている。また下部隔壁部材40には、その上端部に外周側へ延出する円環状のフランジ部52が一体的に形成されている。
図4に示されるように、上部隔壁部材42には、中央部に上方へ向かって凸状に形成された円形の液室形成部44が形成されると共に、その下端部に下部隔壁部材40のフランジ部52に対応する円環状のフランジ部54が形成されている。図1に示されるように、下部隔壁部材40のフランジ部52と上部隔壁部材42のフランジ部54とは互いに突き合わされ、これらのフランジ部52,54は、上部外筒金具16のフランジ部20と下部外筒金具12のフランジ部14との間に挟持固定される。これにより、下部隔壁部材40と上部隔壁部材42とが互い固定されると共に、隔壁構造体30が上部外筒金具16及び下部外筒金具12に固定される。
図1に示されるように、隔壁構造体30は、上部隔壁部材42の液室形成部44内へ挿入される仕切部材130と、この仕切部材130により弾性的に支持されたマス部材132を備えている。仕切部材130には、その外周部に内周側よりの肉厚とされた環状のオリフィス形成部134が形成されると共に、このオリフィス形成部134から内周側へ延出する弾性隔壁部136が形成されている。
オリフィス形成部134及び弾性隔壁部136はゴム材料を素材として一体的に成形されており、オリフィス形成部134には、図1に示されるように、その内周端に沿ってリング状の支持金具138がインサートされている。支持金具138には、その周方向に沿った一部分に外周側へ向って開いたコ字状に屈曲形成された樋状部140が形成されている。この樋状部140の内面部分にはオリフィス形成部134の一部が薄膜状とされて被覆されており、樋状部140の内側は、オリフィス形成部134の外周面において周方向へ延在する溝部142とされている。またオリフィス形成部134には、図3に示されるように、その上面部分から溝部142の一端部まで貫通する上側切欠部144が形成されると共に、下面部分から溝部142の他端部まで貫通する下側切欠部146が形成されている。
またオリフィス形成部134の外周面には、図4に示されるように、上側切欠部144とは反対側に軸方向へ延在する連通溝58が形成されており、この連通溝58の外周側は、上部隔壁部材42における液室形成部44の内周面により閉止される。また液室形成部44には、連通溝58の上端部に正対するように矩形状の連通開口150が穿設されている。これらの連通溝58及び連通開口150は、後述するシェイクオリフィス64及びアイドルオリフィス66の一部を形成する。
図1に示されるように、マス部材132はオリフィス形成部134の内周側に同軸的に配置されており、その外周面には弾性隔壁部136の内周端部が加硫接着されると共に、マス部材132の上面部分及び下面部分には弾性隔壁部136の内周端部から延出する薄膜状の被覆部152が加硫接着されている。これにより、マス部材132は、弾性隔壁部136によりオリフィス形成部134に弾性的に連結される。マス部材132は、樹脂材料や鉄、アルミニウム等の金属材料により形成されており、後述するアイドル振動の周波数に対応する重量を有している。また弾性隔壁部136は、前記アイドル振動の周波数に対応するばね定数を有するばね要素として構成されている。
図6に示されるように、隔壁構造体30には、下部隔壁部材40と上部隔壁部材42との間に円板状の中間金具154が配設されており、この中間金具154は、その外周部分が下部隔壁部材40の上面部と仕切部材130の下面部との間に挟持されて固定されている。中間金具154には、その下面中心部に円形凹状の座受部156が形成されると共に、図3に示されるように、座受部156の外周側に扇状に形成された複数個(本実施形態では、4個)の開口部158が穿設されている。ここで、中間金具154により下面側が閉止された液室形成部44内の空間は、エチレングリコール、シリコーンオイル等の液体が封入されたプランジャ駆動用液室160とされる。
マス部材132を支持した仕切部材130は、図6に示されるように、上部隔壁部材42の液室形成部44内へ嵌挿され、その外周面を液室形成部44の内周面に圧接させると共に、上面部を液室形成部44の頂面部へ圧接させている。これにより、液室形成部44内のプランジャ駆動用液室160は、仕切部材130により軸方向に沿って上部側の第1液室部162と下部側の第2液室部163とに区画される。またオリフィス形成部134に形成された上側切欠部144、溝部142及び下側切欠部146はプランジャ駆動用オリフィス164として構成されている。このプランジャ駆動用オリフィス164は第1液室部162と下部側の第2液室部163とを互いに連通させ、これら液室部162,163の間では、液体がプランジャ駆動用オリフィス164を通して相互に流通可能となる。
図1に示されるように、隔壁構造体30では、有底円筒状の下部隔壁部材40の上面側が中間金具154により閉止されることより、下部隔壁部材40内には外部から区画された円柱状のシリンダ室62が形成される。このシリンダ室62は、中間金具154の開口部158を通してプランジャ駆動用オリフィス164の第2液室部163と連通し、その内部にはプランジャ駆動用オリフィス164内と同一の液体が封入される。
図5に示されるように、下部隔壁部材40には、その外周面に軸心Sを中心として螺旋状に延在する外周溝68が形成されており、この外周溝68は、下部隔壁部材40の外周面を2周近くに亘って周回し、その外周側が下部外筒金具12の内周面に被覆されたゴム膜36により閉止される。また下部隔壁部材40には、そのフランジ部52に軸方向へ貫通する上部連通穴70が穿設されると共に、底板部の外周縁部から内周側へ向って下部連通穴72が切り欠れている。上部連通穴70は外周溝68の上端部を弾性隔壁部136の連通溝58の下端部に連通させ、また下部連通穴72は外周溝68の下端部を副液室34に連通させる。これにより、外周溝68と連通溝58とは上部連通穴70を通して1本に繋がり、その両端部がそれぞれ下部連通穴72及び連通開口150を通して副液室34及び主液室32に接続される。
図5に示されるように、下部隔壁部材40には、その外周壁部を径方向に沿って貫通する中間開口112が形成されており、この中間開口112は、外周溝68の上段中間部付近をシリンダ室62に連通させている。ここで、上部連通穴70を通して1本に繋がった外周溝68と連通溝58とは、全体としてシェイクオリフィス64を形成し、また外周溝68における上部連通穴70から中間開口112までの部分は、上部隔壁部材42の連通溝58と共にアイドルオリフィス66の一部を形成する。
図6及び図7に示されるように、隔壁構造体30のシリンダ室62内には、プランジャ部材74が軸方向に沿って移動可能に配設されている。プランジャ部材74は全体として肉厚円板状に形成されており、プランジャ本体86と、このプランジャ本体86に組み付けられる弁体90及び押え金具92とを備えている。プランジャ本体86は、軸方向に沿って移動する際の慣性力を抑制するために、ナイロン、ポリアセタール、PPS、フェノール樹脂等の樹脂材料により形成されて軽量化されている。プランジャ本体86には、その中心部に軸方向に沿って上下へ突出するパイプ状の支持筒76が一体的に形成されると共に、この支持筒76を軸方向に沿って貫通する軸穴88が穿設されている。
プランジャ本体86の軸穴88内には、下部隔壁部材40の軸部48が相対的に摺動可能に挿入されている。これにより、プランジャ本体86は、シリンダ室62内で軸部48により軸心Sと同軸的なるように位置決めされると共に、軸方向に沿って移動可能に支持される。このとき、プランジャ本体86の外周面とシリンダ室62の内周面との間には微小幅の隙間が形成され、これらの面間には直接的には摩擦が生じないようになっているが、これらの面間を通って実質的に液体が流通しないように隙間の幅が十分に狭いものになっている。
図6に示されるように、プランジャ本体86の下面中央部には、円形凸状の弁体保持部96が形成されており、この弁体保持部96上には円板状の弁体90が設置されている。弁体90には中心部に円形の嵌挿穴97が穿設されており、この嵌挿穴97内には、プランジャ本体86の支持筒76の下端部が嵌挿されている。ここで、弁体90は、中央部の肉厚が一定とされると共に、この肉厚一定の中央部よりも外周側の撓み部91の肉厚が外周側へ向かって徐々に薄くなっている。弁体90はゴム等の弾性材料により形成されており、撓み部91の撓み方向への剛性が所定の大きさになるように厚さ、材質等が調整されている。
プランジャ部材74の押え金具92は、上方へ向かって開いた底浅のキャップ状に形成されており、その上端部には外周側へ延出する環状のフランジ部94が屈曲形成されている。押え金具92は、弁体保持部96の外周側に下側から圧入固定されると共に、フランジ部材94をプランジャ本体86の下面へ当接させている。このとき、弁体保持部96と押え金具92との間には、弁体90が収容される円板状の空間が形成され、この空間の軸方向に沿った幅は、弁体90の中心部の厚さよりも若干狭くなっている。これにより、弁体90は、その中心部が弁体保持部96と押え金具92とにより圧縮された状態で、これらの弁体保持部96と押え金具92との間に保持される。
ここで、図3に示されるように、弁体保持部96の下面部は平面状の弁座98として構成されており、弁体保持部96内に収納された弁体90の撓み部91は、自然状態に対して所定量下方へ撓んだ変形状態に保持されており、これによる一定の復元力(予圧力)で弁座98に圧接している。また弁体90の撓み部91と押え金具92の上面部との間には、内周側から外周側へ向かって幅広となる隙間が形成され、この隙間により撓み部91は弁座98から離間するように撓み変形可能とされている。
プランジャ部材74は、シリンダ室62の内部を軸方向(上下方向)に沿って2個の小液室に区画すると共に、シリンダ室62内で、図1に示される閉鎖位置と図2に示される開放位置との間で移動可能とされている。2個の小液室のうちプランジャ部材74の下側の小液室は、アイドルオリフィス66の一部を形成する開放液室100とされ、またプランジャ部材74の上側の小液室はアイドルオリフィス66から隔離された閉鎖液室102とされている。この閉鎖液室102と副液室34とは、軸部76のリーク路50を通して互いに連通している。
プランジャ本体86には、図1及び図3に示されるように、弁体保持部96の下面部(弁座98)から閉鎖液室102側へ貫通する扇状の弁座開口99が複数個(本実施形態では、4個)形成されている。また押え金具92の底板部にも、扇状に形成された複数個(本実施形態では、4個)の連通口106が穿設されており、この連通口106は、下部隔壁部材40に穿設された複数個の開口部46及び弁体90の撓み部91にそれぞれ面するように開口している。これにより、弁座開口99、弁体保持部96と押え金具92との間の空間及び連通口106は、開放液室100と閉鎖液室102とを繋ぐ液体の流通路を構成し、この流通路内での液体の流通が弁体90及び弁座98からなる逆止弁104により制御される。
具体的には、逆止弁104は、図1に示されるように弁体90の撓み部91が弁座98に所定の与圧力で圧接している状態では、弁座開口99を閉止して閉鎖液室102と開放液室100との間における液体流通を阻止し、また閉鎖液室102内の液圧により弁体90の撓み部91が下方へ撓み変形して弁座98から離間している状態では、弁座開口99を開放して閉鎖液室102から開放液室100側へのみ液体を流通可能とする。
図1に示されるように、隔壁構造体30には、プランジャ本体86と中間金具154との間に介装されるコイルスプリング110が配設されており、このコイルスプリング110は、その下端部がプランジャ本体86の支持筒76の外周側へ嵌挿されると共に、上端部が中間金具154の座受部156に挿入され、プランジャ本体86と中間金具154との間で圧縮状態とされている。これにより、プランジャ本体86は、コイルスプリング110からの付勢力により常に閉鎖位置側へ付勢される。
図1に示されるように、プランジャ部材74が閉鎖位置にあるときには、プランジャ部材74(プランジャ本体86)の外周面により下部隔壁部材40の中間開口112が閉止される。これにより、主液室32と副液室34とは、下部隔壁部材40の外周溝68及び上部隔壁部材42の連通溝58により構成されたシェイクオリフィス64のみを通して互い連通する。
また図2に示されるように、プランジャ部材74が閉鎖位置から開放位置へ移動すると、プランジャ部材74(プランジャ本体86)が下部隔壁部材40の中間開口112を開放する。これにより、開放液室100が中間開口112を通して下部隔壁部材40の外周溝68の中間部に接続され、開放液室100、外周溝68の中間開口112から上部連通穴70までの部分、及び上部隔壁部材42の連通溝58からなるアイドルオリフィス66が開放状態となり、このアイドルオリフィス66を通して主液室32と副液室34とが互いに連通する。このとき、主液室32と副液室34とはシェイクオリフィス64を通しても互いに連通しているが、シェイクオリフィス64の路長がアイドルオリフィス66よりも長くなっているため、アイドルオリフィス66内における液体の流通抵抗が、シェイクオリフィス64内における液体の流通抵抗よりも十分に小さいものになり、主液室32内の液圧変化に伴って生じる主液室32と副液室34との間の液体の移動は、その大部分がアイドルオリフィス66を通して、すなわち実質的にはアイドルオリフィス66のみを通して行われる。
以上説明した防振装置10では、マス部材132を弾性的に支持した弾性隔壁部136、プランジャ駆動用オリフィス164及び、このプランジャ駆動用オリフィス164内を流通する液体が特定の周波数を有する共振振動に対応するプランジャ駆動用の質量・液柱共振系として構成されている。ここで、プランジャ駆動用オリフィスには、特定の周波数を有する共振振動としてアイドル振動(例えば、18〜30Hz)が設定されている。
この結果、防振装置10では、振動発生部であるエンジン側からアイドル振動が入力すると、このアイドル振動によりマス部材132を弾性的に支持した弾性隔壁部136に第1液室部162及び第2液室部163に対する容積拡縮方向に沿った共振が生じると同時に、弾性隔壁部136の共振に伴って第1及び第2液室部162,163内の液圧が互いに逆方向(差動方向)に増減するように周期的に変化する。これにより、質量・液柱共振系が、プランジャ駆動用オリフィス164を通して第1及び第2液室部162,163間で液体が相互に流通させると共に、プランジャ駆動用オリフィス164内を流通する液体に共振現象(液柱共振)を生じさせるので、第1及び第2液室部162,163内には、それぞれアイドル振動の周波数に対応する周期の液圧変化が生じ、この液圧変化が質量・液柱共振系による共振作用により経時的に増幅される。このとき、第2液室部163内の液圧変化は、中間金具154の開口部158を通してシリンダ室62の閉鎖液室102内へ伝達され、閉鎖液室102内にも共振振動の周波数に対応する周期の液圧変化が生じ、この液圧変化が経時的に増幅されることになる。
なお、上記のようなアイドル振動は、主として車両のエンジンアイドリング時に発生する。また車両がある程度の高速走行している際には、アイドル振動よりも低周波数域の振動であるシェイク振動(例えば、9〜15Hz)が主として発生する。
次に、本発明の第1の実施形態に係る防振装置10の作用を説明する。
防振装置10では、例えば、ブラケット(図示省略)を介して外筒金具12,16に連結されたエンジンが作動すると、エンジンの振動が外筒金具12,16を介して弾性体22に伝達される。このとき、弾性体22は吸振主体として作用し、弾性体22の内部摩擦等に基づく吸振作用によって振動を吸収し、ホルダ金具(図示省略)を介して内周金具26に連結された車体側へ伝達される振動が低減される。
また本実施形態に係る防振装置10では、マス部材132を弾性的に支持した弾性隔壁部136、プランジャ駆動用オリフィス164及び、このプランジャ駆動用オリフィス164内を流通する液体がアイドル振動に対応するプランジャ駆動用の質量・液柱共振系として構成されており、この質量・液柱共振系が、外筒金具12,16へのアイドル振動の入力時に、このアイドル振動の入力に同期し、弾性隔壁部136を第1及び第2液室部162,163の容積拡縮方向に沿って共振させつつ、プランジャ駆動用オリフィス164を通して第1液室部と第2液室部との間に液柱共振を発生させると共に、逆止弁104を通して閉鎖液室102から開放液室100へ液体を間欠的に流出させつつ、プランジャ部材74をコイルスプリング110の付勢力に抗して閉鎖位置から前記開放位置側へ間欠的に移動させる。
すなわち、本実施形態に係る防振装置10では、振動発生部であるエンジンからアイドル振動が入力し、このアイドル振動によりマス部材132を弾性的に支持した弾性隔壁部136に容積拡縮方向に沿った共振が生じると、この弾性隔壁部136の共振に伴ってプランジャ駆動用オリフィス164を通して第1及び第2液室部162,163間で液体が相互に流通すると共に、このプランジャ駆動用オリフィス164内を流通する液体に共振現象(液柱共振)が生じるので、第1及び第2液室部163内にはアイドル振動の周波数に対応する周期を有する液圧変化が生じ、この液圧変化がプランジャ駆動用共振系の共振作用により経時的に増幅される。
このとき、第2液室部163が中間金具154の開口部158を通して閉鎖液室102に連通していることから、アイドル振動の入力時に生じる第2液室部163内の液圧変化は閉鎖液室102内へ導入され、この液圧変化により閉鎖液室102と開放液室100との間にはプランジャ部材74に対して加振力として作用する液圧差が生じ、この液圧差がプランジャ部材74を閉鎖位置側へ付勢するコイルスプリング110の付勢力を越えるまで増幅されると、プランジャ部材74に配設された逆止弁104の弁体90が弁座98から一時的に離間し、弁座98に開口する弁座開口99を通して閉鎖液室102から開放液室100側へ液体が間欠的に流出すると共に、プランジャ部材74がコイルスプリング110の付勢力に抗して閉鎖位置から開放位置側へ間欠的に移動する。
なお、アイドル振動の入力時には、逆止弁104が閉鎖液室102から開放液室100側へのみ液体を流出させ、開放液室100から閉鎖液室102側へは逆止弁104により液体が流れないので、閉鎖液室102内に封入された液圧の作用によりプランジャ部材74の閉鎖位置側への移動が阻止される。また逆止弁104における弁体90が弁座98から離間する際の変形抵抗も、プランジャ本体86の閉鎖位置から開放位置側への移動抵抗として作用するが、弁体90の撓み部91を十分に低剛性(低ばね定数)とすると共に、弁体90の撓み部91に対して弁座98側への予圧縮を適宜与えておけば、所定の液圧差により逆止弁104を確実に作動させることができ、かつ弁体90により生じるプランジャ本体86に対する移動抵抗も十分に小さいものにできる。
従って、防振装置10では、アイドル振動の入力が一定時間以上に亘って続くと、プランジャ部材74が閉鎖位置から開放位置へ移動してアイドルオリフィス66の一部を形成する開放液室100を開放するので、アイドルオリフィス66を通して液体が主液室32と副液室34との間で流通可能になる。ここで、アイドルオリフィスの路長及び断面積がアイドル振動に適合するように設定(チューニング)されていることから、このアイドルオリフィス66を通って主液室32と副液室34との間を流通する液体に共振現象(液柱共振)が生じるので、この液体の圧力変化や粘性抵抗等によってアイドル振動を効果的に吸収できる。
一方、防振装置10では、アイドル振動の入力後に、エンジンからアイドル振動以外の振動、すなわち共振周波数から外れた周波数を有する振動(例えば、シェイク振動)が入力すると、プランジャ駆動用の質量・液柱共振系が第1及び第2液室部162,163間で液柱共振を発生させないので、開放位置にあったプランジャ部材74がコイルスプリング110の付勢力により閉鎖位置へ移動する。これにより、プランジャ部材74が中間開口112を閉塞するので、アイドルオリフィス66(開放液室100)を通して主液室32と副液室34との間で液体が流通しなくなる。
このとき、プランジャ部材74の開放位置から閉鎖位置側への移動に従って、下部隔壁部材40に設けられたリーク路50を通して副液室34から閉鎖液室102へ液体が流入する。これにより、プランジャ部材74は、副液室34に連通した開放液室100内の液圧の影響により移動が阻害されず、コイルスプリング110の付勢力により円滑に開放位置から閉鎖位置まで移動する。
また本実施形態に係る防振装置10では、主液室32と副液室34と繋ぐ吸振用オリフィスとしてアイドルオリフィス66及びシェイクオリフィス64の2つが存在し、シェイクオリフィス64が、シェイク振動の周波数に適合するようにアイドルオリフィス66よりも長く形成されて液体の流通抵抗が大きくなっている。これにより、防振装置10では、アイドルオリフィス66では低減できないような低い周波数の振動(シェイク振動)が入力した場合には、閉鎖位置にあるプランジャ部材74によりアイドルオリフィス66の一部を構成する開放液室100が閉鎖された状態となるが、シェイクオリフィス64を通して主液室32と副液室34との間で液体が相互に流通すると共に、これらシェイクオリフィス64内を流通する液体に共振現象(液柱共振)が発生するので、このようなシェイク振動もシェイクオリフィス64内における液体の液柱共振によって効果的に減衰吸収できる。この結果、防振装置10では、アイドル振動及びシェイク振動の何れの振動が外部から入力しても、これらの振動を効果的に低減できるようになる。
なお、本実施形態の防振装置10では、アイドルオリフィス66の一部がシェイクオリフィス64の一部と共用された構造になったいたが、アイドルオリフィスとシェイクオリフィスとを共用部分が存在しないそれぞれ独立したものにしても良い。この場合にも、シェイクオリフィスは、アイドルオリフィスよりも細く又は長く形成されて液体の流通抵抗が大きいものとされる。
また防振装置10では、質量・液柱共振系の質量要素であるマス部材132をばね要素であるゴム製の弾性隔壁部136により弾性的に支持していたが、弾性隔壁部136とは別のコイルスプリング、リーフスプリング、ゴム状弾性体等のばね要素をマス部材132に連結し、この追加したばね要素を質量・液柱共振系の一部としても良い。また弾性隔壁部136だけでアイドル振動に対応する重量(質量)を確保できるならば、マス部材132を省略することも可能である。
以上説明した本実施形態に係る防振装置10によれば、従来のオリフィス切換式の防振装置で必要とされたアクチュエータ、電磁バルブ及びコントローラ等を不要として装置の製造コストを大幅に低減できると共に、入力振動の周波数に応じてアイドルオリフィス66及びシェイクオリフィス64の開閉状態を短時間で変化させることができるので、広い周波数範囲の入力振動を効果的に減衰吸収できる。
また本実施形態に係る防振装置10では、質量・液柱共振系がアイドル振動の入力によりプランジャ部材74を閉鎖位置から開放位置へ移動させて、装置の吸振モードをシェイクモードからアイドルモードへ切り替えることから、アイドル振動が連続的に入力する期間を除いて装置が常にシェイクモードに維持されるので、例えば、良好な路面を走行していた際に路面状態が急激に悪化してシェイク振動の入力が始まっても、シェイク振動の入力により装置モードをアイドルモードからシェイクモードへ切り替える場合のように、シェイク振動を効果的に吸収できない過渡期間が生じることなく、このシェイク振動を液柱共振等により直ちに効果的に吸振でき、またアイドル振動の入力が開始した際には、質量・液柱共振系が極めて短い時間でプランジャ部材74を閉鎖位置から開放位置へ移動させるので、アイドル振動に対する吸振特性が低下している過渡期間を極めて短いものにでき、この過渡期間の経過後には一定の時間に亘って連続的に入力するアイドル振動を液柱共振等により効果的に吸収できる。
また、以上説明した本実施形態に係る質量・液柱共振系の構成要素と液柱共振の共振周波数との関係は、次の(a)〜(d)のように整理される。
(a)プランジャ駆動用オリフィス164の断面積を縮小するに従って共振周波数は低くなり、プランジャ駆動用オリフィス164の断面積を拡大するに従って共振周波数は高くなる。
(b)プランジャ駆動用オリフィス164の路長を延長するに従って共振周波数は低くなり、プランジャ駆動用オリフィス164の路長を短縮するに従って共振周波数は高くなる。
(c)ばね要素である弾性隔壁部136のばね定数を低くするに従って共振周波数は低くなり、弾性隔壁部136のばね定数を高くするに従って共振周波数は高くなる。
(d)質量要素であるマス部材132の重量を増加するに従って共振周波数は低くなり、マス部材132の重量を減少するに従って共振周波数は高くなる。
以上(a)〜(d)の記載から明らかなように、プランジャ本体86をコイルスプリング110に抗して移動させる液柱共振系の共振周波数は、アイドル振動以外の振動(例えば、シェイク振動)に設定することも可能である。このことから、本発明を適用した防振装置では、コイルスプリング110の付勢方向及び中間開口112の配置をそれぞれ変更すれば、シェイク振動等のアイドル振動以外の振動入力に同期して、プランジャ駆動用オリフィス164を通して第1液室部162と第2液室部163との間で液柱共振を発生させ、この液柱共振により生じる液圧差によりプランジャ本体86を開放位置及び閉鎖位置の一方から他方へ移動させることも可能になる。
(第2の実施形態)
図8及び図9には本発明の第2の実施形態に係る防振装置が示されている。この防振装置170において、第1の実施形態に係る防振装置10と共通な部分については同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態に係る防振装置170が第1の実施形態に係る防振装置10と基本的に異なる点は、防振装置10ではプランジャ駆動用オリフィス164が仕切部材130のオリフィス形成部134に設けられていたの対し、防振装置170ではプランジャ駆動用オリフィス194が仕切部材172により支持されたマス部材174に設けられている点である。
図8及び図9に示されるように、防振装置170は、第1の実施形態に係る防振装置10と同様に、隔壁構造体30内に配設される仕切部材172及び、この仕切部材172により弾性的に支持されたマス部材174とを備えている。一方、下部隔壁部材40には、その上端部に軸心Sを中心とする周方向に沿って延在するように円筒状の周壁部176が形成されており、この周壁部176の内周側には、中間金具154及び仕切部材172が嵌挿されている。仕切部材172には、その外周部に円筒状の支持金具178が配設されており、この支持金具178の外径は周壁部176の内径よりも僅かに小さくなっている。仕切部材172には、支持金具178の内周面に全周に亘って固着されたリング状の弾性隔壁部180が設けられると共に、この弾性隔壁部180の内周側に肉厚円板状のマス部材174が配設されている。
弾性隔壁部180はゴム材料により形成されており、その外周端部が支持金具178の内周面に全周に亘って加硫接着されると共に、内周端部がマス部材174の外周面に全周に亘って加硫接着されている。これにより、マス部材174は、仕切部材172により軸方向に沿って移動(振動)可能となるように弾性的に支持される。ここで、マス部材174はアイドル振動の周波数に対応する重量(質量)を有している。
マス部材174には、図10に示されるように、上面中央部に円形凹状の嵌挿部184が形成されると共に、この嵌挿部184内へ嵌挿され、ビス等により嵌挿部184の底面部に密着するように固定される円板状の蓋板186が設けられている。また嵌挿部184の底面部には、径方向へ延在するスロット状の連通溝188が形成されており、この連通溝188の上面側は蓋板186により閉止されている。蓋板186には、連通溝188の長手方向一端部に対応する部位に円形の上部連通穴190が穿設されている。マス部材174には、その下面部から連通溝188の長手方向他端部まで貫通する下部連通穴192が穿設されている。連通溝188は、その一端部が上部連通穴190を通して第1液室部162に接続されると共に、他端部が下部連通穴192を通して第2液室部163に接続される。ここで、連通溝188は、上部連通穴190及び下部連通穴192と共に、アイドル振動に対応する路長及び断面積を有するプランジャ駆動用オリフィス194を構成する。
図10に示されるように、上部隔壁部材196は下方へ向って開いた略皿状に形成されており、その中央部には、上方へ向かって凸状に形成された円形の液室形成部198が形成されると共に、その外周側に周方向に沿った断面がL字状に屈曲されたオリフィス形成部200が形成されている。オリフィス形成部200には、後述する周液路206の一端部に面して開口する矩形状の連通開口202が穿設されている。また上部隔壁部材196には、オリフィス形成部200の下端部から外周側へ延出する円環状のフランジ部204が形成されている。
図8に示されるように、隔壁構造体30では、下部隔壁部材40の周壁部176の内周側には、中間金具154及び仕切部材172が順に嵌挿され、この周壁部176の外周側に上部隔壁部材196のオリフィス形成部200が上方から外嵌される。このとき、下部隔壁部材40のフランジ部52と上部隔壁部材196のフランジ部204とが互いに突き合わされ、これらのフランジ部52,204が、上部外筒金具16のフランジ部20と下部外筒金具12のフランジ部14との間に挟持固定される。これにより、下部隔壁部材40と上部隔壁部材196とが互い固定されると共に、隔壁構造体30が上部外筒金具16及び下部外筒金具12に固定される。
図8に示されるように、隔壁構造体30には、周壁部176の外周側に上部隔壁部材196のオリフィス形成部200により外周側が閉止されて周方向へ細長い空間である周液路206が形成される。また隔壁構造体30には、中間金具154と上部隔壁部材196の液室形成部198との間にはプランジャ駆動用液室160が形成され、このプランジャ駆動用液室160は、仕切部材172及びマス部材174により軸方向に沿って上部側の第1液室部162と下部側の第2液室部163とに区画される。
一方、下部隔壁部材40には、周壁部176の外周面から突出する閉塞部208が形成されており、この閉塞部208は周液路206の周方向に沿った一部分を閉塞している。これにより、周液路206は周方向へ延在する有端状の空間となり、その一端部が連通開口202を通して主液室32接続される。また下部隔壁部材40には、図10に示されるように、フランジ部204に周液路206の他端部から外周溝68の一端部まで貫通する連通穴210が穿設されており、この連通穴210を通して、周液路206の他端部と外周溝68の他端部とが接続される。
ここで、外周溝68は、図8に示されるように、外周側がゴム膜36を介して下部外筒金具12の内周面により閉塞される。周液路206全体と外周側が閉塞された外周溝68全体とは、シェイク振動の周波数に対応する路長及び断面積を有するシェイクオリフィス64を構成し、また周液路206全体と外周側が閉塞された外周溝68における一端部から中間開口112までの部分とは、アイドル振動の周波数に対応する路長及び断面積を有するアイドルオリフィス66を構成する。
以上説明した防振装置170では、マス部材174、マス部材174を弾性的に支持した弾性隔壁部180、プランジャ駆動用オリフィス194及び、このプランジャ駆動用オリフィス194内を流通する液体が特定の周波数を有する共振振動に対応するプランジャ駆動用の質量・液柱共振系として構成されている。ここで、プランジャ駆動用オリフィスには、特定の周波数を有する共振振動としてアイドル振動(例えば、18〜30Hz)が設定されている。
この結果、防振装置170では、振動発生部であるエンジン側からアイドル振動が入力すると、このアイドル振動によりマス部材174を弾性的に支持した弾性隔壁部180に第1液室部162及び第2液室部163に対する容積拡縮方向に沿った共振が生じると同時に、弾性隔壁部180の共振に伴って第1及び第2液室部162,163内の液圧が互いに逆方向(差動方向)に増減するように周期的に変化する。これにより、質量・液柱共振系が、プランジャ駆動用オリフィス194を通して第1及び第2液室部162,163間で液体を相互に流通させると共に、プランジャ駆動用オリフィス194内を流通する液体に共振現象(液柱共振)を生じさせるので、第1及び第2液室部162,163内には、それぞれアイドル振動の周波数に対応する周期の液圧変化が生じ、この液圧変化が質量・液柱共振系による共振作用により経時的に増幅される。このとき、第2液室部163内の液圧変化は、中間金具154の開口部158を通してシリンダ室62の閉鎖液室102内へ伝達され、閉鎖液室102内にも共振振動の周波数に対応する周期の液圧変化が生じ、この液圧変化が経時的に増幅されることになる。
次に、本発明の第2の実施形態に係る防振装置170の作用を説明する。
防振装置10では、例えば、ブラケット(図示省略)を介して外筒金具12,16に連結されたエンジンが作動すると、エンジンの振動が外筒金具12,16を介して弾性体22に伝達される。このとき、弾性体22は吸振主体として作用し、弾性体22の内部摩擦等に基づく吸振作用によって振動を吸収し、ホルダ金具(図示省略)を介して内周金具26に連結された車体側へ伝達される振動が低減される。
また本実施形態に係る防振装置170では、マス部材174を弾性的に支持した弾性隔壁部180、プランジャ駆動用オリフィス194及び、このプランジャ駆動用オリフィス194内を流通する液体がアイドル振動に対応するプランジャ駆動用の質量・液柱共振系として構成されており、この質量・液柱共振系が、外筒金具12,16へのアイドル振動の入力時に、このアイドル振動の入力に同期し、弾性隔壁部180を第1及び第2液室部162,163の容積拡縮方向に沿って共振させつつ、プランジャ駆動用オリフィス194を通して第1液室部162と第2液室部163との間に液柱共振を発生させると共に、逆止弁104を通して閉鎖液室102から開放液室100へ液体を間欠的に流出させつつ、プランジャ部材74をコイルスプリング110の付勢力に抗して閉鎖位置から前記開放位置側へ間欠的に移動させる。
すなわち、本実施形態に係る防振装置170でも、第1の実施形態に係る防振装置10と同様に、振動発生部であるエンジンからアイドル振動が入力すると、第2液室部163内の液圧変化が閉鎖液室102内へ導入され、この液圧変化により閉鎖液室102と開放液室100との間にはプランジャ部材74に対して加振力として作用する液圧差が生じ、この液圧差がプランジャ部材74を閉鎖位置側へ付勢するコイルスプリング110の付勢力を越えるまで増幅されると、プランジャ部材74に配設された逆止弁104の弁体90が弁座98から一時的に離間し、弁座98の弁座開口99を通して閉鎖液室102から開放液室100側へ液体が間欠的に流出すると共に、プランジャ部材74がコイルスプリング110の付勢力に抗して閉鎖位置から開放位置側へ間欠的に移動する。
従って、防振装置170では、アイドル振動の入力が一定時間以上に亘って続くと、図9に示されるように、プランジャ部材74が閉鎖位置から開放位置へ移動してアイドルオリフィス66の一部を形成する開放液室100を開放するので、アイドルオリフィス66を通して液体が主液室32と副液室34との間で流通可能になる。ここで、アイドルオリフィスの路長及び断面積がアイドル振動に適合するように設定(チューニング)されていることから、このアイドルオリフィス66を通って主液室32と副液室34との間を流通する液体に共振現象(液柱共振)が生じるので、この液体の圧力変化や粘性抵抗等によってアイドル振動を効果的に吸収できる。
一方、防振装置170では、アイドル振動の入力後に、エンジンからアイドル振動以外の振動、すなわち共振周波数から外れた周波数を有する振動(例えば、シェイク振動)が入力すると、プランジャ駆動用の質量・液柱共振系が第1及び第2液室部162,164間で液柱共振を発生させないので、開放位置にあったプランジャ部材74がコイルスプリング110の付勢力により閉鎖位置へ移動する。これにより、プランジャ部材74が中間開口112を閉塞するので、開放された開放液室100を含むアイドルオリフィス66を通して主液室32と副液室34との間で液体が流通しなくなる。
また本実施形態に係る防振装置170でも、主液室32と副液室34と繋ぐ吸振用オリフィスとしてアイドルオリフィス66及びシェイクオリフィス64の2つが存在することにより、アイドルオリフィス66では低減できないような低い周波数の振動(シェイク振動)が入力した場合には、閉鎖位置にあるプランジャ部材74によりアイドルオリフィス66の一部を構成する開放液室100が閉鎖された状態となるが、シェイクオリフィス64を通して主液室32と副液室34との間で液体が相互に流通すると共に、これらシェイクオリフィス64内を流通する液体に共振現象(液柱共振)が発生するので、このようなシェイク振動もシェイクオリフィス64内における液体の液柱共振によって効果的に減衰吸収できる。
以上説明した本実施形態に係る防振装置170によっても、従来のオリフィス切換式の防振装置で必要とされたアクチュエータ、電磁バルブ及びコントローラ等を不要として装置の製造コストを大幅に低減できると共に、入力振動の周波数に応じてアイドルオリフィス66及びシェイクオリフィス64の開閉状態を短時間で変化させることができるので、広い周波数範囲の入力振動を効果的に減衰吸収できる。
また、以上説明した本実施形態に係る質量・液柱共振系の構成要素と液柱共振の共振周波数との関係は、次の(a)〜(d)のように整理される。
(a)プランジャ駆動用オリフィス94の断面積を縮小するに従って共振周波数は低くなり、プランジャ駆動用オリフィス94の断面積を拡大するに従って共振周波数は高くなる。
(b)プランジャ駆動用オリフィス94の路長を延長するに従って共振周波数は低くなり、プランジャ駆動用オリフィス94の路長を短縮するに従って共振周波数は高くなる。
(c)マス部材132の重量を大きくするに従って共振周波数は低くなり、マス部材132の重量を小さくするに従って共振周波数は高くなる。
(d)コイルスプリング110のばね定数を低くするに従って共振周波数は低くなり、コイルスプリング110のばね定数を高くするに従って共振周波数は高くなる。
以上(a)〜(d)の記載から明らかなように、質量・液柱共振系の共振周波数は、アイドル振動以外の振動(例えば、シェイク振動)に設定することも可能である。このことから、本発明を適用した防振装置では、質量・液柱共振系の共振周波数の設定を変更すると共に、コイルスプリング110の付勢方向及び中間開口112の配置をそれぞれ変更すれば、シェイク振動の入力に同期して、質量・液柱共振系により液柱共振を発生させ、この液柱共振により生じる液圧差によりプランジャ本体86を開放位置から閉鎖位置へ移動させることも可能になる。
最後に、本実施形態に係る防振装置170と第1の実施形態に係る防振装置10とを比較した結果について説明する。
(a)防振装置10においては、プランジャ駆動用オリフィス164が弾性隔壁部136の外周側に設けられたオリフィス形成部134に形成されることから、オリフィス設計の自由度、特に路長を長くした場合の設計自由度を高いものにできる。このことは、例えば、プランジャ駆動用オリフィスをシェイク振動の周波数に対応したものチューニングする場合に、防振装置170よりも有利となる。
(b)一方、防振装置170においては、プランジャ駆動用オリフィス194をマス部材174内に配設することにより、防振装置10のようにマス部材174の外周側にオリフィス形成部134を設ける必要がなくなるので、マス部材174を外周側へ拡大して重量を増加することが可能になり、質量・液柱共振系の共振周波数を高周波側へチューニングすることが容易になる。