JP4341932B2 - 液封防振装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は液封防振装置に係り、特に内圧を容易に制御できるようにしたものに関する。
【0002】
【従来の技術】
振動源側へ取付けられる第1の取付部材と、振動受側へ取付けられる第2の取付部材と、これらの間に介在して振動を吸収するインシュレータと、このインシュレータが壁の一部をなす液室とを備え、この液室を主液室及び副液室に区画してオリフィス通路を介して連絡するとともに、主液室を囲む璧部の一部に内圧吸収膜を設け、この膜剛性を剛又は柔に切り換えて変化させるようにした内圧吸収型液封エンジンマウントは公知である。この形式のエンジンマウントにおいては、内圧吸収膜を柔にすれば、内圧変化を吸収して低動バネとなり、剛にすればエンジンマウントにおける内部圧力の変化により発生するバネである拡張バネを高めてオリフィス通路に対する流量を増大させ、これによって共振効率を大きくして振動伝達を少なくするようになっている。
【0003】
このような膜剛性可変手段は、例えば、内圧吸収膜の主液室と反対側に負圧室を設けて、この負圧室内を負圧源又は大気へ接続切替えすることにより、内圧吸収膜を壁面等へ負圧で吸着固定すると剛になり、大気開放してフリー状態にすると柔になる。他にモーター等の機械的手段で強制的に内圧吸収膜を弾性変形させることも公知である(特許文献1・2参照)。さらに主液室と副液室の間に設けた弾性膜の周囲を支持部材で支持するとともに、この支持部材の支持力を磁性粘性流体の粘度変化により変化させるようにしたものもある(特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開平10−325443号公報
【特許文献2】
特開2003−4090号公報
【特許文献3】
特開2002−213517号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、内圧吸収膜の駆動手段として吸気負圧を利用するものは、空気通路の配管や切換バルブが必要となり、装置全体が比較的複雑かつ重量が増加する。またソレノイド等の機械的手段を用いる場合も同様である。そのうえ、無段階かつ連続的に制御しようとすれば、吸気負圧による制御は困難であり、ソレノイド等の機械的手段によることになるが、この場合には高精度で作動する装置が必要となる。
そこで、本願発明は比較的簡単かつ軽量な構造で内圧制御ができるようにすることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため本願の液封防振装置に係る請求項1は、振動源側へ取付けられる第1の取付部材と、振動受側へ取付けられる第2の取付部材と、これらの間に介在して振動を吸収するインシュレータと、このインシュレータが壁の一部をなす液室とを備え、この液室を共振オリフィスで連絡される主液室及び副液室に区画する仕切部材と、この仕切部材との間に前記副液室を形成する第1ダイアフラムと、前記仕切部材とインシュレータの間に形成される主液室に臨み前記作動液の液圧を受けて変形又は変位する弾性体の内圧吸収膜と、
この内圧吸収膜の変形又は変位を調整する内圧調整手段とを備え、
この内圧調整手段が、前記内圧吸収膜によって少なくとも璧部の一部が形成された調整室と、この調整室内へ封入された磁性粘性流体と、調整室内に設けられる流動抵抗手段と、調整室の容積変化を抑制するべく変形又は変位する第2ダイアフラムと、前記磁性粘性流体の粘度を変化させるために磁力を発生するコイルとを備え、磁力変化で前記磁性粘性流体の粘度を変化させることにより前記内圧吸収膜の変形又は変位量を変化させて内圧吸収能を制御する液封防振装置において、
前記第1の取付部材、第2の取付部材、インシュレータ、仕切部材及び第1ダイアフラムを組み立てて前記作動液を封入した小組体を振動受側へ取付けられるブラケットへ嵌合可能に形成し、このブラケットに小組体を嵌合したときブラケットに面するように前記内圧吸収膜を前記小組体に設け、
この小組体の外部となる前記内圧吸収膜の外側に前記流動抵抗手段とコイルを取付け、このコイルの前記調整室に臨む開口部を前記調整室の外方から前記第2ダイアフラムで覆うことにより前記内圧調整手段を形成し、
この内圧調整手段の構成部材のうち前記第2ダイアフラムを最も外側に位置させるとともに、
前記小組体を前記ブラケットへ嵌合したとき前記第2ダイヤフラムが前記内圧吸収膜の外側へ重なるように、前記内圧調整手段の前記流動抵抗手段、コイル及び第2ダイアフラムを前記ブラケットへ取付けたことを特徴とする。
【0007】
請求項2は上記請求項1において、前記磁性粘性流体の粘度を連続的又は多段階に変化させることにより、前記内圧吸収能を連続的又は多段階に変化させることを特徴とする。
【0008】
請求項3は上記請求項1において、前記主液室の外側に設けられ前記内圧調整膜が内側から臨む取付穴を有するブラケットを備え、この取付穴へ前記コイルを嵌合し、かつ前記第2ダイアフラムで前記取付穴の外方を覆うことを特徴とする。
【0009】
請求項4は上記請求項において、前記流動抵抗手段が前記取付穴へ嵌合する外周部を備え、この外周部の内側に前記コイルが嵌合することを特徴とする。
【0010】
請求項5は上記請求項3又は4において、前記コイルに嵌合する固定リングを備え、この固定リングに前記第2ダイアフラムの外周部を取付けたことを特徴とする。
【0013】
【発明の効果】
請求項1によれば、内圧調整手段として、内圧吸収膜と、この内圧吸収膜との間に調整室を形成する第2ダイアフラムと、この調整室内に封入された磁性粘性流体と、この磁性粘性流体の粘度を変化させる磁力を発生するためのコイルとを備えたので、内圧吸収膜が変位又は変形をしようとすると、それに伴う調整室の容積変化を第2ダイアフラムの変形又は変位で抑制するとともに内圧吸収膜の変位又は変形を許容する。また、コイルによる磁力を変化させると、磁性粘性流体の粘度が変化して、内圧吸収膜の動き易さが変化する。その結果、内圧変化に対する内圧吸収膜の弾性変形量が変化して内圧を吸収する能力、すなわち内圧吸収能が変化する。したがって、この内圧調整手段によれば、磁力を変化させるだけで自在に内圧調整が可能になる。そのうえ、磁力の調整だけで制御できるから、迅速かつ容易に制御できる。
また、調整室内に磁性粘性流体の流動抵抗手段を設けたので、粘度変化に対して膜剛性の変化を増幅させることができる。
そのうえ、第2ダイアフラムが大気開放され、その変形によって内圧吸収膜である弾性膜の変形を可能とし、それに伴う調整室の容積変化を抑制する。また、内圧吸収膜及び第2ダイアフラムをそれぞれ膜部材とすることによりこれらを容易に形成できる。
【0014】
請求項2によれば、磁性粘性流体の粘度を連続的又は多段階に変化させたので、内圧吸収能を連続的又は多段階に変化させて内圧吸収能を連続的又は多段階に変化させることができる。しかも、このような制御は磁力を変化させるだけで、段階的にも、さらには無段階かつ連続的にも、自在に内圧調整可能になる。そのうえ、磁力の調整だけで制御できるから容易に制御できる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて実施形態を説明する。図1〜4は第1実施例に係り、図1は液封防振装置の全体断面図、図2は作動原理を説明する要部の拡大断面図、図3は拡張バネの変化に伴う共振点の変化を示す図、図4は拡張バネの変化に伴う位相の変化を示す図である。
【0021】
図1において、エンジンマウント小組体1は、第1の取付部材2,第2の取付部材3及びインシュレータ4を備える。第1の取付部材2は図示しないエンジン等の振動源側へ連結され、第2の取付部材3はブラケット5に嵌合され、ブラケット5は同じく図示しない車体等の振動受側へ連結される。インシュレータ4は、ゴムからなる略円錐状をなす公知の防振ゴムである。但し、ゴム及び他のエラストマー等の適宜弾性材料からなる略円錐状をなす公知の弾性防振部材とすることができ、第1の取付部材2と第2の取付部材3の間を防振的に連結する。
【0022】
第1の取付部材2,第2の取付部材3及びインシュレータ4及び仕切部材7に囲まれた内部に主液室6が形成され、ここに公知の非圧縮性の作動液が封入されている。主液室6は仕切部材7の外周部に形成されたダンピングオリフィス8を介して副液室9と連通されている。ダンピングオリフィス8は約10Hz前後の低周波数小振幅の乗り心地に影響する通常走行時の振動に対して高減衰にできる。副液室9は第1ダイアフラム10によって覆われている。
【0023】
仕切部材7は樹脂等の適宜材料からなるデイスク状の部材であり、その中央部に開口11が形成され、ここに弾性膜12が取り付けられている。この開口11と弾性膜12は主液室6における液体振動により、所定周波数(本実施例の場合約60Hz)で液柱共振するホールオリフィス13を形成してある。この共振周波数域は発進時の振動周波数域である。ホールオリフィスとはオリフィス通路の一端側を弾性膜で覆うことにより、主液室6の液体振動と弾性膜の振動とによってオリフィス通路内に液体流動を発生させて液柱共振を生じさせる形式の共振オリフィスである。
【0024】
ダンピングオリフィス8は、仕切部材7の外周部に径方向外方へ開放されて形成され、その一部に形成された入り口14aで主液室6と連通し、出口14bで副液室9と連通する。また、仕切部材7の外周部に径方向外方へ開放されるダンピングオリフィス8の開口部は第1ダイアフラム10の外周部と連続する筒状弾性壁15に密接してシールされる。筒状弾性壁15はインシュレータ4と同様のゴム等からなる適宜弾性部材からなり、第2の取付部材3の内周面及び外周面を覆っている。
【0025】
第2の取付部材3は、金属等からなる筒状の部材であり、ダンピングオリフィス8の外周側を囲む小径部16と主液室6を囲む大径部17を備え、図の上端部にはフランジ18が形成され、ブラケット5の上端部に重なる。さらにこのフランジ18にはインシュレータ4の下部に一体化されているリング金具19が重なり、ここでインシュレータ4、第2の取付部材3及びブラケット5がリベット等の適宜方法で結合一体化される。小径部16の下端部は底部20をなし、ブラケット5の内面に形成された段部21上へ置かれて位置決めされる。
【0026】
筒状弾性壁15の内部には仕切部材7が挿入され、その外周下部が底部20によって形成される段部22の上へ置かれて位置決めされる。この状態で第2の取付部材3の上端部におけるフランジ18とインシュレータ4のリング金具19とを図示しない曲げカシメ等で一体化することによりエンジンマウント小組体1が構成される。このエンジンマウント小組体1をブラケット5へ挿入してフランジ18をブラケット5の上端部とリベット等の適宜手段で一体化することにより、エンジンマウントが組み立てられる。
【0027】
仕切部材7の外周部には図の上方へ向かって突出する環状壁23が一体に形成され、この環状壁23と大径部17を覆う筒状弾性壁15のとの間に作動液が充填された環状室24が形成されている。環状壁23は周方向の一部に切り欠き部25を備え、ここで環状室24は主液室6と連通している。
【0028】
さらに、大径部17の切り欠き部25と対応する部分には開口26が形成され、筒状弾性壁15のうち開口26部分が内圧吸収膜27となっている。内圧吸収膜27は筒状弾性壁15と連続一体であってゴム等の適宜弾性材料からなる弾性膜であり、主液室6の内圧変動を弾性変形により吸収する。なお、筒状弾性壁15と別体に形成することもできる。
【0029】
図2に示すように、内圧吸収膜27の主液室6と反対側には調整室28が第2ダイアフラム29で囲まれて形成されている。この調整室28の内部には公知の磁性粘性流体30が封入されている。第2ダイアフラム29は調整室28と反対側の面のうち少なくとも一部が大気開放されており、外周部は固定リング31と一体化され、この固定リング31にコイル32が取り付けられている。固定リング31の外周部はブラケット5の外側面へ重ねられてリベット等の適宜手段で一体に取り付けられる。
【0030】
コイル32は調整室28の周囲を囲み、磁力を発生して磁性粘性流体30の粘度を、例えば、水様の状態からシャーベット状態まで瞬時に変化させることができるようになっている。コイル32の発生する磁力は、エンジンの回転数等の適宜センサー量に基づいて図示しない制御装置により連続的又は多段階に変化して発生するようになっており、この磁力の大きさに応じて磁性粘性流体30の粘度も変化するようになっている。本実施例では粘度が高中低の3段階に変化するように設定されている。この設定については後述する。
【0031】
磁性粘性流体30の粘度が高くなると、内圧吸収膜27は弾性変形しにくくなるので内圧吸収能が低くなり、防振装置としての内部圧力の変化により発生するバネである拡張バネを大きくし、ホールオリフィス13の共振周波数を高くする。
逆に、粘度を下げると、内圧吸収膜27は弾性変形容易になって内圧吸収能が高くなるので、拡張バネが小さくなり、ホールオリフィス13の共振周波数を低くくする。
【0032】
調整室28内には抵抗板33が設けられ、その外周部34はコイル32と一体化され、中央部には絞り通路35が形成され、磁性粘性流体30がこの絞り通路35を通過するとき、粘度抵抗によって減衰力を生じるようになっている。絞り通路35の開口径は、磁性粘性流体30が減衰力を生じることができる範囲で任意に設定できる。なお絞り通路35は比較的小径の複数の穴を設けることによって形成することができる。
【0033】
抵抗板33の外周部34とコイル32はブラケット5の側壁に形成された取付穴36に嵌合して固定される。コイル32の内周面側に重なる金具は、固定リング31であり、第2ダイアフラム29の外周部を焼き付け等で一体化してある。抵抗板33の外周部はコイル32の外側面に重なる。固定リング31と外周部34
の間は適宜な手段でシールされる。
【0034】
また、固定リング31の表面に対する第2ダイアフラム29の一部による被覆部分を少なくして、その多くの部分が調整室28内へ直接臨むことにより、磁力の損失を防止している。なお、内圧吸収膜27、調整室28、第2ダイアフラム29、磁性粘性流体30及びコイル32をまとめて内圧調整手段37とする。また、内圧調整手段37を構成する内圧吸収膜27と第2ダイアフラム29の主液室6に対する位置関係を内外逆にしてもよい。
【0035】
次に、内圧吸収膜27における膜剛性の設定方法を説明する。図3は3段階の拡張バネにおけるホールオリフィス13の共振点変化を示す図であり、横軸に周波数、縦軸に動バネを示し、各曲線の極小点が共振点である。この図から明らかなように、拡張バネが小−中−大と変化すると、それぞれの共振点が低−中−高になる。
【0036】
この拡張バネは内圧調整手段37の内圧吸収能を変化させることにより実現でき、この内圧吸収能は内圧吸収膜27の動き易さの程度で決まる。さらに内圧吸収膜27の動き易さは、調整室に封入されている磁性粘性流体の流動性によって決まる。ここで粘度流動における流動性の指標を流動抵抗で表現すれば、流動抵抗が大きければ、内圧吸収膜27が動きにくくなり、拡張バネが大きくなる。一方、流動抵抗が小さければ、内圧吸収膜27が動き易くなり、拡張バネが小さくなる。
【0037】
また、流動抵抗の大きさは、抵抗板33の絞り通路35が一定であれば、磁性粘性流体の粘度で決まることになる。したがって、コイル32で発生する磁力の強さを調節して、磁性粘性流体の粘度を変化させれば、流動抵抗が変化して内圧吸収膜27の動き易さが変化し、それに対応する内圧吸収能が変化することになる。その結果、これに対応する拡張バネの変化が得られる。
【0038】
ゆえに、コイル32の磁力を変化させれば、自由に内圧吸収能を変化させて、任意の拡張バネを得ることが可能になる。そこで本実施例における内圧調整手段37は、磁力を0及び小・大の3段階に変化させて、拡張バネを小−中−大と3段階に制御できるようにした。なお、磁力変化のさせ方により拡張バネの大きさを多段階にも無段階かつ連続的にも制御できる。
【0039】
例えば、発進時の最大周波数の共振点を実現する拡張バネを与える内圧吸収能を実現する磁力を最大とすれば、拡張バネの中に対しては、磁力を小とし、拡張バネの小に対しては磁力を0とすることにより、磁力を3段階に切替えて共振点を低−中−高と変化させることができる。
【0040】
次に、本実施例の作用を説明する。発進時において、内圧調整手段37のコイル32には通電されず、磁力は当初段階では0に設定され、ホールオリフィス13は比較的低い周波数で液柱共振を発生して入力振動を吸収する。その後、エンジンの回転数が大きくなるにしたがって主液室6への入力振動の周波数が増大し、この周波数の増大に応じてコイル32に通電して電流を増大させることにより、磁性粘性流体30の粘度を上げて内圧調整手段37の内圧吸収能を中及び小へ切替え制御する。
【0041】
これにより、拡張バネを切替え制御して共振点を中又は高へ段階的に変化させる。その結果、低〜高の比較的広い周波数範囲で、拡張バネを3段階に切替え制御し、これに応じてホールオリフィス13の共振点を3段階に変化させて共振領域を広範囲にする。このとき、抵抗板33を設けたので、磁性粘性流体30が絞り通路35を通過するとき発生する減衰力は、粘度変化を増幅したものになる。その結果、内圧吸収能の変化を大きくでき、かつこの内圧吸収能変化を磁性粘性流体の粘度変化だけで形成する場合よりもより高くすることができる。
【0042】
しかも、共振点の変化に応じて位相も変化する。図4はこの位相変化を示す図であり、横軸に周波数、縦軸に位相を示し、各曲線は拡張バネの大−中−小の3段階に対応する位相曲線であり、その極大値が各拡張バネで発生する最大位相である。この図に明らかなように、共振周波数が増大するにしたがって最大位相も波線で示すようにほぼ直線的に増大する。本実施例の予測最大位相は、拡張バネが小−中−大と変化するのに対応して、小−中−大に変化する。
【0043】
この結果、広範囲の周波数域(低〜高)で、比較的大きな位相を発生することができ、位相制御の必要な振動、例えば、車体振動を抑制できる。しかも、このような共振領域の広域化及び比較的大きな位相の発生を、一つのホールオリフィス13だけで実現でき、各共振点に応じた複数のオリフィスを設ける必要がないから、構造が簡単になる。しかもエンジンの回転数に応じて制御すれば、エンジンの運転状況に応じて正確に共振周波数や位相を追随変化させることができる。
【0044】
しかも、内圧調整手段37の内圧吸収能を、内圧吸収膜27が壁の一部をなす調整室28内における磁性粘性流体30の粘度変化で直接制御でき、かつコイル32に対する通電量だけで磁性粘性流体30の粘度を迅速かつ容易に制御できるから、内圧吸収能の制御が迅速・容易になり、かつ正確になる。また、ソレノイドやモーターなどの機械的手段を必要としないので、内圧調整手段37の構造が比較的簡単になる。
【0045】
次に、第2実施例を説明する。なお、前実施例と共通する部分には共通符号を用い、原則として共通部の重複説明は省略すものとする。図5は第2実施例に係る液封防振装置の全体断面図である。
【0046】
図5に示すように、この実施例のエンジンマウントは、仕切部材7が上下部材7a及び7bの上下合わせ構造になっており、その内部にはホールオリフィスに代わってアイドルオリフィス40が設けられている。アイドルオリフィス40は主液室6と副液室9を連通してアイドル時のエンジン振動周波数(約20Hz前後)で液柱共振を発生して低動バネ化することにより、第1の取付部材2側から第2の取付部材3側への振動伝達を低減する。
【0047】
アイドルオリフィス40の副液室9側の出口41は第1ダイアフラム10の中央部に形成された開閉バルブ43で開閉自在であり、アイドル周波数域でのみ開き、それ以外では閉じている。開閉バルブ43は押し付け部材44の伸縮によって開閉される。第1ダイアフラム10は副液室9を覆うが中央に開閉バルブ43を一体化している点が異なる。
【0048】
押し付け部材44と底部45との間に負圧室46が形成され、通気ノズル47を介して吸気負圧と大気とを接続切替えするようになっている。吸気負圧が適用されると、リターンバネ48に抗して図の下方へ移動して開閉バルブ43が出口41を開き、吸気負圧を遮断して大気開放すると、リターンバネ48により図の上方に移動して出口41を閉じる。
【0049】
本実施例では、対向配置された内圧調整手段37が一対で設けられる。各内圧調整手段37の構造は前実施例と同様である。各内圧吸収膜27は仕切部材7を構成する上部部材7aによって形成された環状壁23と主液室6の内壁面との間に形成された環状室24に臨み、環状壁23に対面している。
【0050】
次に、本実施例の作用を説明する。アイドル時には、開閉バルブ43が開いてアイドルオリフィス40が主液室6と副液室9を連通する。同時に各内圧調整手段37における各コイル32に通電して各内圧吸収膜27を最も動きにくくする。このためアイドルオリフィス40に対する液体流量が多くなり共振効率を大きくする。また、アイドル回転数は、ヘッドライトの点灯やエアコンのON・OFFで回転数が変化することが一般的であるが、その場合、内圧吸収能をアイドル回転数に応じて制御することもできる。
【0051】
逆に、アイドル時以外では、開閉バルブ43が閉じ、同時に各内圧調整手段37における各コイル32に通電停止して各内圧吸収膜27を最も動き易くすることにより内圧吸収能を最大にする。このため各内圧吸収膜27が柔の状態になり、主液室6の内圧変動を弾性変形により吸収し、低動バネにする。なお、開閉バルブ43が閉じている状態でも、シェイク振動時には、これを例えばエンジン偏位等を検知するような適宜センサーの信号に基づいて各内圧調整手段37を作動させることにより内圧吸収能を低下させる。このため各内圧吸収膜27が剛の状態になり、拡張バネが上がるため、ダンピングオリフィス8の共振効率が高くなり、高減衰を実現してシェイク振動を効果的に低減させることができる。
【0052】
このように複数の内圧調整手段37を設けると、あるレベルの性能を得るために単独の内圧調整手段37を用いると大きくなりすぎるような場合に、比較的小型の内圧調整手段37を複数用いることにより、要求される性能を容易に実現できる。また、大きな内圧調整手段37を一つだけ設けるよりは小さなものを複数設けた方が強度バランスが良くなる。
【0053】
次に、第3実施例を説明する。図6は第3実施例に係る液封防振装置の全体断面図である。図6に示すように、この実施例のエンジンマウントは、図5のエンジンマウントにホールオリフィス13を設けた点が異なる。すなわち、仕切部材7の側部に通路50を設け、その上端部に形成された主液室6に臨む入り口51をバルブ52で開閉自在とし、このバルブ52をモーター等の駆動手段53により径方向へ進退させて入り口51を開閉する。
【0054】
通路50の副液室9に臨む下端部54には弾性膜12が取り付けられ、この弾性膜12と通路50によってホールオリフィス13を構成する。このホールオリフィス13はバルブ52が開いた状態で主液室6の液体が入力振動により流動すると所定の入力振動数により液柱共振を発生する。この共振周波数は、各内圧吸収膜27が最も柔の状態にて約60Hzとなるように設定する。
【0055】
このため、アイドル周波数まではホールオリフィス13を閉じて前実施例同様に制御し、発進してから各内圧吸収膜27が最も柔の状態にてバルブ52を開く。これにより入力振動が約60Hzになるとホールオリフィス13が液柱共振して入力振動を吸収する。その後さらに入力振動の周波数が高くなれば、前実施例同様に複数の各内圧調整手段37を制御し、第1実施例同様にホールオリフィス13を利用して共振周波数及び位相を制御する。
【0056】
このようにすると、ダンピングオリフィス8、アイドルオリフィス40及びホールオリフィス13並びに複数の内圧調整手段37を用いて、最も広範な周波数域において効率的に防振することができる。
【0057】
次に、参考例を説明する。図7は参考例に係る液封防振装置の全体断面図であり、図1に対応する。図8は図7の一部を拡大した断面図であり、2に対応している。本実施例は、図1及び図2における内圧調整手段の構造及び配置を変更したものに相当する。以下、相違点のみ説明する。なお、同一部分については同一符号を付して説明を省略する。
【0058】
図7及び図8に示すように、この内圧調整手段37は、ブラケット5の内側に収容された配置になっている。第2ダイアフラム29は筒状弾性壁15の一部として、その内側に埋設されている大径部17に設けられた開口26を覆って形成されている。一方、内圧吸収膜27は筒状弾性壁15と別体に形成され、環状壁23の切り欠き部25内へ嵌合されている。
【0059】
内圧吸収膜27の周囲に枠金具60が一体化されている。この枠金具60は全体の断面が略コ字状であって中央に内圧吸収膜27が弾性変形をするための開口60aが形成され、外周部はコイル32の外周部へ重なる。コイル32の内周部には抵抗板33の外周部34が当接固定される。コイル32の内周側は一部が直接調整室28内へ臨み、磁力の損失を防止するようになっている。
【0060】
この状態で組み立てられると、内圧吸収膜27の周囲は、インシュレータ4の下部61、環状壁23のうち切り欠き部25の周囲をなす部分及び筒状弾性壁15の下部に形成された段部62でシールされる。符号63はこのシール面である。さらに、筒状弾性壁15に対面する外周部の端面はコイル32とともに筒状弾性壁15に当接してシールされる。したがって磁性粘性流体30を確実かつ容易にシールできる。
【0061】
そのうえ、調整室28は筒状弾性壁15の内側に設けられ、主液室6内に向かって開口するように形成されるから、シール面63は筒状弾性壁15より主液室6側に設けられる。したがって、仮にシール性が低下してシール面63から磁性粘性流体30が漏れたとしても、主液室6内へ漏れることになり、外部へ漏洩しない。このためシールが難しい磁性粘性流体60に対するシールが破られても内部の磁性粘性流体30が外部へ流出することを阻止できる。
【0062】
次に、第実施例を説明する。図9は図1の第1実施例における仕切部材7からホールオリフィス13(図1)を省略したものに相当し、共振オリフィスはダンピングオリフィス8のみとなっている液封エンジンマウントへ内圧調整手段37を設けた例である。このように制御される共振オリフィスを有しない形式のエンジンマウント(非コントロール式マウント)においても、ダンピングオリフィスの働く振動領域では内圧調整手段37の内圧吸収能を下げ、それ以外の領域では内圧吸収能を上げてかつその程度を調節すれば低動バネ化できる。したがって、このような非コントロール式マウントでも、前各実施例同様に磁力を用いて容易に内圧を制御できる。
【0063】
なお、本願発明は上記各実施例に限定されず、種々に変更可能である。例えば、内圧吸収膜27の膜剛性調整段数をより多段階にすることができる。また、無段階に連続変化させることができる。さらにエンジンマウント以外の他の各種防振装置に適用することもできる
らに、内圧吸収膜27及び第2ダイアフラム29は必ずしも膜状部材である必要はなく、これに代えて調整室内を摺動変位する可動板のような部材でもよい。また、いずれか一方を膜状部材とし、他方を可動板のような非膜状部材の組合せでもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施例に係る液封防振装置の全体断面図
【図2】作動原理を示す要部の拡大断面図
【図3】拡張バネの変化に伴う共振点の変化を示す図
【図4】拡張バネの変化に伴う位相の変化を示す図
【図5】第2実施例に係る液封防振装置の全体断面図
【図6】第3実施例に係る液封防振装置の全体断面図
【図7】参考例に係る液封防振装置の全体断面図
【図8】図7の一部を拡大した断面図
【図9】第実施例に係る液封防振装置の全体断面図
【符号の説明】
1:エンジンマウント小組体、2:第1の取付部材、3:第2の取付部材、4:インシュレータ、5:ブラケット、6:主液室、7:仕切部材、8:ダンピングオリフィス、9:副液室、10:第1ダイアフラム、13:ホールオリフィス、27:内圧吸収膜、28:調整室、29:第2ダイアフラム、30:磁性粘性流体、32:コイル、33:抵抗板、37:内圧調整手段、40:アイドルオリフィス、43:開閉バルブ、50:通路、52:バルブ

Claims (5)

  1. 振動源側へ取付けられる第1の取付部材と、振動受側へ取付けられる第2の取付部材と、これらの間に介在して振動を吸収するインシュレータと、このインシュレータが壁の一部をなす液室とを備え、この液室を共振オリフィスで連絡される主液室及び副液室に区画する仕切部材と、この仕切部材との間に前記副液室を形成する第1ダイアフラムと、前記仕切部材とインシュレータの間に形成される前記主液室に臨み前記作動液の液圧を受けて変形又は変位する弾性体の内圧吸収膜と、
    この内圧吸収膜の変形又は変位を調整する内圧調整手段とを備え、
    この内圧調整手段が、前記内圧吸収膜によって少なくとも璧部の一部が形成された調整室と、この調整室内へ封入された磁性粘性流体と、調整室内に設けられる流動抵抗手段と、調整室の容積変化を抑制するべく変形又は変位する第2ダイアフラムと、前記磁性粘性流体の粘度を変化させるために磁力を発生するコイルとを備え、磁力変化で前記磁性粘性流体の粘度を変化させることにより前記内圧吸収膜の変形又は変位量を変化させて内圧吸収能を制御する液封防振装置において、
    前記第1の取付部材、第2の取付部材、インシュレータ、仕切部材及び第1ダイアフラムを組み立てて前記作動液を封入した小組体を振動受側へ取付けられるブラケットへ嵌合可能に形成し、このブラケットに小組体を嵌合したときブラケットに面するように前記内圧吸収膜を前記小組体に設け、
    この小組体の外部となる前記内圧吸収膜の外側に前記流動抵抗手段とコイルを取付け、このコイルの前記調整室に臨む開口部を前記調整室の外方から前記第2ダイアフラムで覆うことにより前記内圧調整手段を形成し、
    この内圧調整手段の構成部材のうち前記第2ダイアフラムを最も外側に位置させるとともに、
    前記小組体を前記ブラケットへ嵌合したとき前記第2ダイヤフラムが前記内圧吸収膜の外側へ重なるように、前記内圧調整手段の前記流動抵抗手段、コイル及び第2ダイアフラムを前記ブラケットへ取付けたことを特徴とする液封防振装置。
  2. 前記磁性粘性流体の粘度を連続的又は多段階に変化させることにより、前記内圧吸収能を連続的又は多段階に変化させることを特徴とする請求項1の液封防振装置。
  3. 前記小組体の外側に設けられ前記内圧吸収膜が内側から臨む取付穴を有するブラケットを備え、この取付穴へ前記コイルを嵌合し、かつ前記第2ダイアフラムで前記取付穴の外方を覆うことを特徴とする請求項1の液封防振装置。
  4. 前記流動抵抗手段は前記取付穴へ嵌合する外周部を備え、この外周部の内側に前記コイルが嵌合することを特徴とする請求項3の液封防振装置。
  5. 前記コイルに嵌合する固定リングを備え、この固定リングに前記第2ダイアフラムの外周部を取付けたことを特徴とする請求項3又は4の液封防振装置。
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