JP2004232708A - 液体封入式防振装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】ダイヤフラムの耐久性を損なうことなく、広い周波数領域において防振性能を発揮することのできる液体封入式防振装置を提供する。
【解決手段】筒状の第1取付部材10の内側に配された第2取付部材12が軸方向に引き出される方向に支持荷重が及ぼされる吊り下げ型の液体封入式防振装置において、下側の主液室32と上側の副液室34とを仕切る仕切部30を、振動付加時の防振基体14の弾性変形に伴い両液室32,34の体積を可変するように変位可能なピストン状部材36とシリンダ状部材38で構成し、両者36,38間に磁界強さに応じて粘度が変化するMR流体40を密封保持し、また磁界強さを制御可能な電磁石46を設ける。
【選択図】 図1
【解決手段】筒状の第1取付部材10の内側に配された第2取付部材12が軸方向に引き出される方向に支持荷重が及ぼされる吊り下げ型の液体封入式防振装置において、下側の主液室32と上側の副液室34とを仕切る仕切部30を、振動付加時の防振基体14の弾性変形に伴い両液室32,34の体積を可変するように変位可能なピストン状部材36とシリンダ状部材38で構成し、両者36,38間に磁界強さに応じて粘度が変化するMR流体40を密封保持し、また磁界強さを制御可能な電磁石46を設ける。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として自動車エンジン等の振動体を防振的に支持するのに用いられる液体封入式防振装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、液体封入式防振装置は、車体フレーム等の支持側とエンジン等の振動発生体側にそれぞれ取り付けられる2つの取付金具と、両取付金具を結合するゴム材よりなる防振基体と、防振基体にて室壁の一部が形成された主液室と、主液室にオリフィスを介して連結されるとともにダイヤフラムにて室壁の一部が形成された副液室とを備えてなり、オリフィスによる両液室間の液流動効果や防振基体の制振効果により、振動減衰機能を果たすように構成されている。
【0003】
従来、かかる液体封入式防振装置において、シェイク振動とアイドル振動等の異なる周波数域の振動に対応させるように複数のオリフィスを設けたものが提案されている。例えば、特開2001−20992号公報に開示された液体封入式防振装置では、主液室と副液室とを仕切る仕切部に、主液室と副液室を連結する第1オリフィスを設けるとともに、第2副液室と該第2副液室に通じる第2オリフィスとを設けて、第1オリフィスで例えばシェイク振動を吸収し、第2オリフィスで例えばアイドル振動を吸収するように構成されている。
【0004】
しかしながら、最近の自動車ではアイドル振動の周波数域が低周波数化の傾向にあり、シェイク振動の周波数域との差が小さくなってきているため、上記のような単に複数のオリフィスを設けたものでは、各オリフィスでそれぞれの振動を効果的に吸収するのには限界がある。
【0005】
一方、液体封入式防振装置においては、低周波数域の振動に対してはオリフィスを通る液体の流動効果により主液室内の液圧変動を吸収することができるものの、高周波数域の振動に対してはオリフィスが閉ざされたと同様の状態となるため、主液室内の液圧変動を吸収することができず、従って高周波数域の振動については良好な防振性能を確保できないという問題がある。
【0006】
かかる問題を解決するため、特開2002−206591号公報には、図4に示すような防振装置が開示されている。この防振装置は、筒状の下側取付金具101とその軸心上に配された上側取付金具102とを防振基体103を介して結合し、下側取付金具101の下部側にダイヤフラム104を設けて、防振基体103との間の液室を仕切部105により上側の主液室106と下側の副液室107とに仕切り、両液室106,107をオリフィス108で連結してなり、主液室106が圧縮される方向に支持荷重が及ぼされる、いわゆる圧縮お椀型の防振装置である。そして、仕切部105を上下の液室106,107の体積を相対的に可変する方向に変位可能に構成するとともに、この仕切部105の変位しやすさを調整するために、磁界強さにより粘度が増減変化可能なMR流体を保持する流路109と、磁界強さを制御可能な電磁石110とを設けており、電磁石110への通電を制御することにより仕切部105の動バネ定数を可変にして広い周波数領域の振動に対して防振性能を発揮させることができる。
【0007】
この防振装置では、電磁石110を仕切部105に一体に組付けることにより装置全体のコンパクト化を図っているが、このように仕切部105に電磁石110を設けた場合、電磁石110用のリード線111を副液室107内を通さずに引き出すための工夫が必要となる。そのため、ダイヤフラム104の中央部に開口を設け、その開口周縁部104Aを仕切部105の下面に結合して、結合部の内側からリード線111を引き出しており、これにより副液室107内を通過させることなくリード線111を接続している。しかしながら、このようにダイヤフラム104の中央部を仕切部105に結合させた場合、ダイヤフラム104の撓み代を確保することが難しい。十分な撓み代を確保するために、ダイヤフラム104を図4において二点鎖線Xで示すような断面蛇腹状に折り返した形状とすると、支持荷重が及ぼされる方向である上側取付金具102の下方への過大変位時に、中折れ部104Bが二点鎖線Yで示すように下方に反転してしまい、ダイヤフラムの耐久性を損なうことが懸念される。
【0008】
【特許文献1】特開2001−20992号公報
【0009】
【特許文献2】特開2002−206591号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、ダイヤフラムの耐久性を損なうことなく、広い周波数領域において防振性能を発揮することのできる液体封入式防振装置を提供することを目的とする。
【0011】
本発明の液体封入式防振装置は、筒状の第1取付部材と、該第1取付部材の内側に配された第2取付部材と、これら取付部材の間に介設されて両取付部材を結合するゴム材よりなる防振基体とを備え、前記第2取付部材が前記第1取付部材から軸方向に引き出される方向に支持荷重が及ぼされるようにした吊り下げ型の防振装置であって、前記防振基体に対向させて前記第1取付部材にダイヤフラムが取着され、該第1取付部材の内側における防振基体とダイヤフラムとの間が液封入室とされ、該液封入室が仕切部により防振基体側の主液室とダイヤフラム側の副液室とに仕切られ、両液室がオリフィスを介して連結されており、前記仕切部が、振動付加時の前記防振基体の弾性変形に伴い両液室の体積を相対的に可変する方向に変位可能なピストン状部材とその外周を取り囲むシリンダ状部材とで構成され、これらピストン状部材とシリンダ状部材との間に、磁界強さに応じて粘度が変化するMR流体を流動可能な状態に密封保持するMR流路が形成され、該MR流路を横断する磁路を形成してMR流体の粘度を変化させるための磁界強さを制御可能な電磁石が設けられたものである。
【0012】
本発明の液体封入式防振装置では、電磁石への通電をオン/オフあるいは通電電流をコントロールしてMR流体の粘度を増減変化させることにより、ピストン状部材を定位置に固定したり、主液室と副液室の体積を相対的に可変する方向に変位させたりすることができ、これにより、防振装置の動バネ定数や減衰係数を切り替え制御することができるので、広い周波数領域にわたり防振性能を発揮することができる。そして、特に本発明によれば、吊り下げ型防振装置であるため、支持荷重が及ぼさせる方向への過大変位時に、ダイヤフラム側の副液室は拡張方向ではなく縮小方向にあり、そのためダイヤフラムの中折れ部の反転変形を防止することができる。従って、たとえ電磁石をピストン状部材に一体に固定支持し、ダイヤフラムの中央部に開口を設け、その開口周縁部をピストン状部材に結合して、結合部の内側から電磁石用のリード線を引き出すようにした場合であっても、ダイヤフラムの耐久性を損なうことがない。
【0013】
本発明の防振装置においては、前記MR流路が、前記ピストン状部材の変位方向に沿い互いに平行に位置する流路部分とそれら流路部分を相互に連通するように前記変位方向に直交又はほぼ直交する方向に沿って位置して磁路の横断部を構成する流路部分とを有する断面クランク状に形成されていることが好ましい。
【0014】
このようにMR流体の流路を断面クランク状にし、そのクランク状流路のうちピストン状部材の変位方向に対して概略直交する流路部分に磁路を横断させる構成を採用したことにより、通電に伴い磁路横断箇所に対応する流路部分のMR流体の粘度増大によってMR流体の流れを堰き止めてピストン状部材の剛性を急速に増大させることができる。詳述すると、例えば、MR流体の流路を一直線状に形成し、その直線状流路の一部分に磁路を横断させることにより、通電に伴い粘度増大するMR流体の内部摩擦力に依存して剛性の増大を図るように構成したものに比べて、通電電流に対する剛性(ばね定数)の変化率を大きくすることが可能である。従って、防振減衰性能の切り換えを少ない消費電力のもとで発揮させてランニングコストの低減が図れるとともに、切り換えの迅速化が図られる。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の一実施形態に係る液体封入式防振装置について図1〜3に基づいて説明する。
【0016】
本実施形態の防振装置は、自動車のエンジンを防振的に支持するエンジンマウントであり、車体側に取り付けられる筒状の金属製の第1取付部材10と、その内側の軸心上に配されエンジン側に取り付けられる金属製の第2取付部材12と、これら取付部材10,12の間に介設されて両者を結合するゴム材よりなる防振基体14とを備えてなり、第2取付部材12が第1取付部材10から軸方向下方に引き出される方向に支持荷重が及ぼされるようにした吊り下げ型の液封入式防振装置である。
【0017】
詳細には、防振基体14は、外形が略截頭円錐形をなし、その中心軸を貫通するように略円柱状の第2取付部材12が埋設され、防振基体14の下端外周部が第1取付部材10の下部内周面に加硫成形手段により接着固定されている。また、第1取付部材10は、上側筒状金具16と下側筒状金具18を両者の端部でかしめ締結してなり、下側筒状金具18は、第2取付部材12が貫通される開口20を持つカップ状金具22に対しその内部に嵌合状態に装着されている。
【0018】
第1取付部材10の上端開口部には、防振基体14と対向するように薄肉ゴム膜よりなる可撓性のダイヤフラム24が取着されている。第1取付部材10の内側には、ダイヤフラム24と防振基体14との間に密閉された液封入室26が形成されており、液封入室26内における第1取付部材10の内周には、外周にオリフィス28を形成する円盤状の仕切部30が液密に嵌着されている。液封入室26は、この仕切部30により上下に仕切られている。仕切部30の防振基体側、即ち下側には、防振基体14にて室壁の一部が形成された主液室32が設けられ、仕切部30のダイヤフラム側、即ち上側には、ダイヤフラム24にて室壁の一部が形成された副液室34が設けられ、両液室32,34はオリフィス28を介して連結されている。
【0019】
仕切部30は、振動付加時の防振基体14の弾性変形に伴い両液室32,34の体積を相対的に可変する方向、即ち上下方向(軸方向)に変位可能な円盤状のピストン状部材36と、その外周を取り囲む環状のシリンダ状部材38とで構成されており、シリンダ状部材38の外周に上記したオリフィス28が形成されている。ピストン状部材36とシリンダ状部材38との間には、磁界強さによって粘度が変化するMR流体40を流動可能な状態に密封保持するMR流路42が形成されている。MR流路42は、ピストン状部材36の外周部とシリンダ状部材38の内周部との間に取着された薄肉のカバーゴム44により全周にわたって設けられている。
【0020】
図2に示すように、ピストン状部材36は、MR流路42を横断する磁路mpを形成してMR流体40の粘度を変化させるための磁界強さを制御可能な円環状コイルからなる電磁石46と、電磁石46を保持するボビン48と、ボビン48を締結ボルト50を用いて上下に挟み込むように保持するケース52とからなる。ケース52の外周面は全周にわたって切り欠かれ、これにより、ピストン状部材36は外周面に周方向に延びる凹部54を持つ短円柱状に形成されている。
【0021】
シリンダ状部材38は、非磁性あるいは弱磁性材質からなり、その内周面には内側のピストン状部材36に向けて突出する強磁性材質からなる円環状のヨーク部56が設けられている。
【0022】
MR流路42は、ピストン状部材36とシリンダ状部材38との相対変位方向に沿って互いに平行に位置する上下一対の垂直流路部分42A,42A及び中間垂直流路部分42Bと、それら上下一対の垂直流路部分42A,42A及び中間流路部分42Bをそれぞれ相互に連通するように相対変位方向に直交又はほぼ直交する方向に沿って位置する上下一対の水平流路部分42C,42Cとを有し、全体として断面クランク状に形成されている。詳細には、ピストン状部材36の凹部54に対しその外側からシリンダ状部材38のヨーク部56の内周端を差し入れることで断面クランク状の流路42が形成されており、ヨーク部56の上下両側にそれぞれ前記垂直流路部分42A,42Aが設けられるとともに、ヨーク部56の内周端に沿って中間垂直流路部分42Bが設けられ、これらを連通する水平流路部分42C,42Cがヨーク部56の上下両面に沿ってそれぞれ設けられている。
【0023】
上記電磁石46は、MR流路の上下一対の水平流路部分42C,42Cを横断するような磁路mpを形成するように、ピストン状部材36の凹部54の内側に配置されている。電磁石46にはリード線58が接続されており、リード線58は制御部60に接続されている。詳細には、ダイヤフラム24の中央部に開口を設け、その開口周縁部24Aをピストン状部材36の上面に結合して、結合部の内側からリード線58を引き出すことにより、副液室34内を通過させることなくリード線58を接続している。ダイヤフラム24は、撓み代を確保するため、仕切部30へ向かう方向、即ち下方に突出するように折り返された中折れ部24Bを持つ断面蛇腹状に形成されている。
【0024】
そして、制御部60からの信号に基づき、電磁石46への通電電流をコントロールすることにより、MR流路の水平流路部分42Cを横断する磁路mpに流れる磁界強さを制御してMR流体40の粘度を増減変化可能に構成している。なお、MR流体40は、高濃度の懸濁液中に1〜10μm程度の粒子径をもつ強磁性金属微粒子を分散させてなるビンガム流体で、−40〜150℃の作動温度域を有し磁界強さの大きさによって粘度が変化するものであり、磁気粘性流体あるいは磁気流動学的流体と呼ばれている。
【0025】
以上よりなる本実施形態の防振装置では、電磁石46への通電をオンにすると、MR流体40の粘度が上昇してピストン状部材36が変位しにくくなり定位置に固定される。一方、電磁石46への通電をオフにすると、MR流体40の粘度が小さくなってピストン状部材36が変位しやすくなり、その変位に伴って主液室32と副液室34の体積を可変することができるようになる。また、通電電流を制御してMR流体40の粘度を調整することにより、MR流体40の粘性効果によって振動を減衰することもできる。
【0026】
図3に示すように、通電をオフにすると、オンの場合に比べて、減衰係数のピーク周波数(オリフィス28の共振周波数)が低周波数側にシフトする。また、通電をオフにした場合、オンの場合に比べて、高周波数領域において動バネ定数が低下する。そこで、この現象を利用して以下のように制御することが好ましい。
【0027】
まず、その前提として、オリフィス28の共振周波数を、通電オフのときにシェイク振動(例えば12Hz前後)を減衰し、通電オンのときにアイドル振動(例えば15〜20Hz)を減衰するように設定しておく。そして、アイドル時には通電をオンにし、車両走行時には通電をオフに制御する。これにより、アイドル時には例えば17Hzのアイドル振動をオリフィス28で減衰することができる。また、走行時には通電をオフにすることで、オリフィス28の共振周波数が12Hz前後まで下がるのでシェイク振動を減衰することができるとともに、20Hzを越える高周波数域(例えば40〜300Hz)の振動に対して防振効果を発揮することができる。このように制御することにより、車両走行中における電力消費量を低減することができ、車両全体としての低燃費化に寄与することができる。
【0028】
なお、制御方法は上記に限定されるものではなく、例えば以下のように制御してもよい。低周波数領域の振動が作用する条件下では通電をオンにし、ピストン状部材36を定位置に固定して、オリフィス28を介して主液室32と副液室34との間で液体を流動させて主液室32内の液圧変動を吸収し、これにより低周波数領域の振動を減衰させる。そして、高周波数領域の振動が作用する条件下では通電をオフにし、あるいは通電電流を増減制御して磁界強さの大きさを調整することにより、ピストン状部材36の動バネ定数を通電時よりも小さくして、高周波数領域の振動に対して防振効果を発揮させる。
【0029】
このように本実施形態の液体封入式防振装置は、広い周波数領域において防振性能を発揮することのできるものであるが、それだけでなくダイヤフラム24の耐久性も向上されている。すなわち、このような吊り下げ型防振装置では、支持荷重が及ぼさせる方向(第2取付部材12が下方に移動する方向、即ち主液室32の拡張方向)への過大変位時には、副液室34は拡張方向にないため、仕切部30側に突出するダイヤフラム24の中折れ部24Bに反転変形は生じず、従ってダイヤフラム24の耐久性の問題も生じない。
【0030】
【発明の効果】
本発明によれば、ダイヤフラムの耐久性を損なうことなく、広い周波数領域において防振性能を発揮することのできる液体封入式防振装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る液体封入式防振装置の縦断面図。
【図2】同防振装置の要部拡大断面図。
【図3】同防振装置の周波数と動バネ定数及び減衰係数との関係を示すグラフ。
【図4】従来の液体封入式防振装置の縦断面図。
【符号の説明】
10……第1取付部材
12……第2取付部材
14……防振基体
24……ダイヤフラム
26……液封入室
28……オリフィス
30……仕切部
32……主液室
34……副液室
36……ピストン状部材
38……シリンダ状部材
40……MR流体
42……MR流路
42A,42B……垂直流路部分
42C……水平流路部分
46……電磁石
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として自動車エンジン等の振動体を防振的に支持するのに用いられる液体封入式防振装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、液体封入式防振装置は、車体フレーム等の支持側とエンジン等の振動発生体側にそれぞれ取り付けられる2つの取付金具と、両取付金具を結合するゴム材よりなる防振基体と、防振基体にて室壁の一部が形成された主液室と、主液室にオリフィスを介して連結されるとともにダイヤフラムにて室壁の一部が形成された副液室とを備えてなり、オリフィスによる両液室間の液流動効果や防振基体の制振効果により、振動減衰機能を果たすように構成されている。
【0003】
従来、かかる液体封入式防振装置において、シェイク振動とアイドル振動等の異なる周波数域の振動に対応させるように複数のオリフィスを設けたものが提案されている。例えば、特開2001−20992号公報に開示された液体封入式防振装置では、主液室と副液室とを仕切る仕切部に、主液室と副液室を連結する第1オリフィスを設けるとともに、第2副液室と該第2副液室に通じる第2オリフィスとを設けて、第1オリフィスで例えばシェイク振動を吸収し、第2オリフィスで例えばアイドル振動を吸収するように構成されている。
【0004】
しかしながら、最近の自動車ではアイドル振動の周波数域が低周波数化の傾向にあり、シェイク振動の周波数域との差が小さくなってきているため、上記のような単に複数のオリフィスを設けたものでは、各オリフィスでそれぞれの振動を効果的に吸収するのには限界がある。
【0005】
一方、液体封入式防振装置においては、低周波数域の振動に対してはオリフィスを通る液体の流動効果により主液室内の液圧変動を吸収することができるものの、高周波数域の振動に対してはオリフィスが閉ざされたと同様の状態となるため、主液室内の液圧変動を吸収することができず、従って高周波数域の振動については良好な防振性能を確保できないという問題がある。
【0006】
かかる問題を解決するため、特開2002−206591号公報には、図4に示すような防振装置が開示されている。この防振装置は、筒状の下側取付金具101とその軸心上に配された上側取付金具102とを防振基体103を介して結合し、下側取付金具101の下部側にダイヤフラム104を設けて、防振基体103との間の液室を仕切部105により上側の主液室106と下側の副液室107とに仕切り、両液室106,107をオリフィス108で連結してなり、主液室106が圧縮される方向に支持荷重が及ぼされる、いわゆる圧縮お椀型の防振装置である。そして、仕切部105を上下の液室106,107の体積を相対的に可変する方向に変位可能に構成するとともに、この仕切部105の変位しやすさを調整するために、磁界強さにより粘度が増減変化可能なMR流体を保持する流路109と、磁界強さを制御可能な電磁石110とを設けており、電磁石110への通電を制御することにより仕切部105の動バネ定数を可変にして広い周波数領域の振動に対して防振性能を発揮させることができる。
【0007】
この防振装置では、電磁石110を仕切部105に一体に組付けることにより装置全体のコンパクト化を図っているが、このように仕切部105に電磁石110を設けた場合、電磁石110用のリード線111を副液室107内を通さずに引き出すための工夫が必要となる。そのため、ダイヤフラム104の中央部に開口を設け、その開口周縁部104Aを仕切部105の下面に結合して、結合部の内側からリード線111を引き出しており、これにより副液室107内を通過させることなくリード線111を接続している。しかしながら、このようにダイヤフラム104の中央部を仕切部105に結合させた場合、ダイヤフラム104の撓み代を確保することが難しい。十分な撓み代を確保するために、ダイヤフラム104を図4において二点鎖線Xで示すような断面蛇腹状に折り返した形状とすると、支持荷重が及ぼされる方向である上側取付金具102の下方への過大変位時に、中折れ部104Bが二点鎖線Yで示すように下方に反転してしまい、ダイヤフラムの耐久性を損なうことが懸念される。
【0008】
【特許文献1】特開2001−20992号公報
【0009】
【特許文献2】特開2002−206591号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、ダイヤフラムの耐久性を損なうことなく、広い周波数領域において防振性能を発揮することのできる液体封入式防振装置を提供することを目的とする。
【0011】
本発明の液体封入式防振装置は、筒状の第1取付部材と、該第1取付部材の内側に配された第2取付部材と、これら取付部材の間に介設されて両取付部材を結合するゴム材よりなる防振基体とを備え、前記第2取付部材が前記第1取付部材から軸方向に引き出される方向に支持荷重が及ぼされるようにした吊り下げ型の防振装置であって、前記防振基体に対向させて前記第1取付部材にダイヤフラムが取着され、該第1取付部材の内側における防振基体とダイヤフラムとの間が液封入室とされ、該液封入室が仕切部により防振基体側の主液室とダイヤフラム側の副液室とに仕切られ、両液室がオリフィスを介して連結されており、前記仕切部が、振動付加時の前記防振基体の弾性変形に伴い両液室の体積を相対的に可変する方向に変位可能なピストン状部材とその外周を取り囲むシリンダ状部材とで構成され、これらピストン状部材とシリンダ状部材との間に、磁界強さに応じて粘度が変化するMR流体を流動可能な状態に密封保持するMR流路が形成され、該MR流路を横断する磁路を形成してMR流体の粘度を変化させるための磁界強さを制御可能な電磁石が設けられたものである。
【0012】
本発明の液体封入式防振装置では、電磁石への通電をオン/オフあるいは通電電流をコントロールしてMR流体の粘度を増減変化させることにより、ピストン状部材を定位置に固定したり、主液室と副液室の体積を相対的に可変する方向に変位させたりすることができ、これにより、防振装置の動バネ定数や減衰係数を切り替え制御することができるので、広い周波数領域にわたり防振性能を発揮することができる。そして、特に本発明によれば、吊り下げ型防振装置であるため、支持荷重が及ぼさせる方向への過大変位時に、ダイヤフラム側の副液室は拡張方向ではなく縮小方向にあり、そのためダイヤフラムの中折れ部の反転変形を防止することができる。従って、たとえ電磁石をピストン状部材に一体に固定支持し、ダイヤフラムの中央部に開口を設け、その開口周縁部をピストン状部材に結合して、結合部の内側から電磁石用のリード線を引き出すようにした場合であっても、ダイヤフラムの耐久性を損なうことがない。
【0013】
本発明の防振装置においては、前記MR流路が、前記ピストン状部材の変位方向に沿い互いに平行に位置する流路部分とそれら流路部分を相互に連通するように前記変位方向に直交又はほぼ直交する方向に沿って位置して磁路の横断部を構成する流路部分とを有する断面クランク状に形成されていることが好ましい。
【0014】
このようにMR流体の流路を断面クランク状にし、そのクランク状流路のうちピストン状部材の変位方向に対して概略直交する流路部分に磁路を横断させる構成を採用したことにより、通電に伴い磁路横断箇所に対応する流路部分のMR流体の粘度増大によってMR流体の流れを堰き止めてピストン状部材の剛性を急速に増大させることができる。詳述すると、例えば、MR流体の流路を一直線状に形成し、その直線状流路の一部分に磁路を横断させることにより、通電に伴い粘度増大するMR流体の内部摩擦力に依存して剛性の増大を図るように構成したものに比べて、通電電流に対する剛性(ばね定数)の変化率を大きくすることが可能である。従って、防振減衰性能の切り換えを少ない消費電力のもとで発揮させてランニングコストの低減が図れるとともに、切り換えの迅速化が図られる。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の一実施形態に係る液体封入式防振装置について図1〜3に基づいて説明する。
【0016】
本実施形態の防振装置は、自動車のエンジンを防振的に支持するエンジンマウントであり、車体側に取り付けられる筒状の金属製の第1取付部材10と、その内側の軸心上に配されエンジン側に取り付けられる金属製の第2取付部材12と、これら取付部材10,12の間に介設されて両者を結合するゴム材よりなる防振基体14とを備えてなり、第2取付部材12が第1取付部材10から軸方向下方に引き出される方向に支持荷重が及ぼされるようにした吊り下げ型の液封入式防振装置である。
【0017】
詳細には、防振基体14は、外形が略截頭円錐形をなし、その中心軸を貫通するように略円柱状の第2取付部材12が埋設され、防振基体14の下端外周部が第1取付部材10の下部内周面に加硫成形手段により接着固定されている。また、第1取付部材10は、上側筒状金具16と下側筒状金具18を両者の端部でかしめ締結してなり、下側筒状金具18は、第2取付部材12が貫通される開口20を持つカップ状金具22に対しその内部に嵌合状態に装着されている。
【0018】
第1取付部材10の上端開口部には、防振基体14と対向するように薄肉ゴム膜よりなる可撓性のダイヤフラム24が取着されている。第1取付部材10の内側には、ダイヤフラム24と防振基体14との間に密閉された液封入室26が形成されており、液封入室26内における第1取付部材10の内周には、外周にオリフィス28を形成する円盤状の仕切部30が液密に嵌着されている。液封入室26は、この仕切部30により上下に仕切られている。仕切部30の防振基体側、即ち下側には、防振基体14にて室壁の一部が形成された主液室32が設けられ、仕切部30のダイヤフラム側、即ち上側には、ダイヤフラム24にて室壁の一部が形成された副液室34が設けられ、両液室32,34はオリフィス28を介して連結されている。
【0019】
仕切部30は、振動付加時の防振基体14の弾性変形に伴い両液室32,34の体積を相対的に可変する方向、即ち上下方向(軸方向)に変位可能な円盤状のピストン状部材36と、その外周を取り囲む環状のシリンダ状部材38とで構成されており、シリンダ状部材38の外周に上記したオリフィス28が形成されている。ピストン状部材36とシリンダ状部材38との間には、磁界強さによって粘度が変化するMR流体40を流動可能な状態に密封保持するMR流路42が形成されている。MR流路42は、ピストン状部材36の外周部とシリンダ状部材38の内周部との間に取着された薄肉のカバーゴム44により全周にわたって設けられている。
【0020】
図2に示すように、ピストン状部材36は、MR流路42を横断する磁路mpを形成してMR流体40の粘度を変化させるための磁界強さを制御可能な円環状コイルからなる電磁石46と、電磁石46を保持するボビン48と、ボビン48を締結ボルト50を用いて上下に挟み込むように保持するケース52とからなる。ケース52の外周面は全周にわたって切り欠かれ、これにより、ピストン状部材36は外周面に周方向に延びる凹部54を持つ短円柱状に形成されている。
【0021】
シリンダ状部材38は、非磁性あるいは弱磁性材質からなり、その内周面には内側のピストン状部材36に向けて突出する強磁性材質からなる円環状のヨーク部56が設けられている。
【0022】
MR流路42は、ピストン状部材36とシリンダ状部材38との相対変位方向に沿って互いに平行に位置する上下一対の垂直流路部分42A,42A及び中間垂直流路部分42Bと、それら上下一対の垂直流路部分42A,42A及び中間流路部分42Bをそれぞれ相互に連通するように相対変位方向に直交又はほぼ直交する方向に沿って位置する上下一対の水平流路部分42C,42Cとを有し、全体として断面クランク状に形成されている。詳細には、ピストン状部材36の凹部54に対しその外側からシリンダ状部材38のヨーク部56の内周端を差し入れることで断面クランク状の流路42が形成されており、ヨーク部56の上下両側にそれぞれ前記垂直流路部分42A,42Aが設けられるとともに、ヨーク部56の内周端に沿って中間垂直流路部分42Bが設けられ、これらを連通する水平流路部分42C,42Cがヨーク部56の上下両面に沿ってそれぞれ設けられている。
【0023】
上記電磁石46は、MR流路の上下一対の水平流路部分42C,42Cを横断するような磁路mpを形成するように、ピストン状部材36の凹部54の内側に配置されている。電磁石46にはリード線58が接続されており、リード線58は制御部60に接続されている。詳細には、ダイヤフラム24の中央部に開口を設け、その開口周縁部24Aをピストン状部材36の上面に結合して、結合部の内側からリード線58を引き出すことにより、副液室34内を通過させることなくリード線58を接続している。ダイヤフラム24は、撓み代を確保するため、仕切部30へ向かう方向、即ち下方に突出するように折り返された中折れ部24Bを持つ断面蛇腹状に形成されている。
【0024】
そして、制御部60からの信号に基づき、電磁石46への通電電流をコントロールすることにより、MR流路の水平流路部分42Cを横断する磁路mpに流れる磁界強さを制御してMR流体40の粘度を増減変化可能に構成している。なお、MR流体40は、高濃度の懸濁液中に1〜10μm程度の粒子径をもつ強磁性金属微粒子を分散させてなるビンガム流体で、−40〜150℃の作動温度域を有し磁界強さの大きさによって粘度が変化するものであり、磁気粘性流体あるいは磁気流動学的流体と呼ばれている。
【0025】
以上よりなる本実施形態の防振装置では、電磁石46への通電をオンにすると、MR流体40の粘度が上昇してピストン状部材36が変位しにくくなり定位置に固定される。一方、電磁石46への通電をオフにすると、MR流体40の粘度が小さくなってピストン状部材36が変位しやすくなり、その変位に伴って主液室32と副液室34の体積を可変することができるようになる。また、通電電流を制御してMR流体40の粘度を調整することにより、MR流体40の粘性効果によって振動を減衰することもできる。
【0026】
図3に示すように、通電をオフにすると、オンの場合に比べて、減衰係数のピーク周波数(オリフィス28の共振周波数)が低周波数側にシフトする。また、通電をオフにした場合、オンの場合に比べて、高周波数領域において動バネ定数が低下する。そこで、この現象を利用して以下のように制御することが好ましい。
【0027】
まず、その前提として、オリフィス28の共振周波数を、通電オフのときにシェイク振動(例えば12Hz前後)を減衰し、通電オンのときにアイドル振動(例えば15〜20Hz)を減衰するように設定しておく。そして、アイドル時には通電をオンにし、車両走行時には通電をオフに制御する。これにより、アイドル時には例えば17Hzのアイドル振動をオリフィス28で減衰することができる。また、走行時には通電をオフにすることで、オリフィス28の共振周波数が12Hz前後まで下がるのでシェイク振動を減衰することができるとともに、20Hzを越える高周波数域(例えば40〜300Hz)の振動に対して防振効果を発揮することができる。このように制御することにより、車両走行中における電力消費量を低減することができ、車両全体としての低燃費化に寄与することができる。
【0028】
なお、制御方法は上記に限定されるものではなく、例えば以下のように制御してもよい。低周波数領域の振動が作用する条件下では通電をオンにし、ピストン状部材36を定位置に固定して、オリフィス28を介して主液室32と副液室34との間で液体を流動させて主液室32内の液圧変動を吸収し、これにより低周波数領域の振動を減衰させる。そして、高周波数領域の振動が作用する条件下では通電をオフにし、あるいは通電電流を増減制御して磁界強さの大きさを調整することにより、ピストン状部材36の動バネ定数を通電時よりも小さくして、高周波数領域の振動に対して防振効果を発揮させる。
【0029】
このように本実施形態の液体封入式防振装置は、広い周波数領域において防振性能を発揮することのできるものであるが、それだけでなくダイヤフラム24の耐久性も向上されている。すなわち、このような吊り下げ型防振装置では、支持荷重が及ぼさせる方向(第2取付部材12が下方に移動する方向、即ち主液室32の拡張方向)への過大変位時には、副液室34は拡張方向にないため、仕切部30側に突出するダイヤフラム24の中折れ部24Bに反転変形は生じず、従ってダイヤフラム24の耐久性の問題も生じない。
【0030】
【発明の効果】
本発明によれば、ダイヤフラムの耐久性を損なうことなく、広い周波数領域において防振性能を発揮することのできる液体封入式防振装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る液体封入式防振装置の縦断面図。
【図2】同防振装置の要部拡大断面図。
【図3】同防振装置の周波数と動バネ定数及び減衰係数との関係を示すグラフ。
【図4】従来の液体封入式防振装置の縦断面図。
【符号の説明】
10……第1取付部材
12……第2取付部材
14……防振基体
24……ダイヤフラム
26……液封入室
28……オリフィス
30……仕切部
32……主液室
34……副液室
36……ピストン状部材
38……シリンダ状部材
40……MR流体
42……MR流路
42A,42B……垂直流路部分
42C……水平流路部分
46……電磁石
Claims (3)
- 筒状の第1取付部材と、該第1取付部材の内側に配された第2取付部材と、これら取付部材の間に介設されて両取付部材を結合するゴム材よりなる防振基体とを備え、前記第2取付部材が前記第1取付部材から軸方向に引き出される方向に支持荷重が及ぼされるようにした吊り下げ型の防振装置であって、
前記防振基体に対向させて前記第1取付部材にダイヤフラムが取着され、該第1取付部材の内側における防振基体とダイヤフラムとの間が液封入室とされ、該液封入室が仕切部により防振基体側の主液室とダイヤフラム側の副液室とに仕切られ、両液室がオリフィスを介して連結されており、
前記仕切部が、振動付加時の前記防振基体の弾性変形に伴い両液室の体積を相対的に可変する方向に変位可能なピストン状部材とその外周を取り囲むシリンダ状部材とで構成され、
これらピストン状部材とシリンダ状部材との間に、磁界強さに応じて粘度が変化するMR流体を流動可能な状態に密封保持するMR流路が形成され、
該MR流路を横断する磁路を形成してMR流体の粘度を変化させるための磁界強さを制御可能な電磁石が設けられた
ことを特徴とする液体封入式防振装置。 - 前記MR流路が、前記ピストン状部材の変位方向に沿い互いに平行に位置する流路部分とそれら流路部分を相互に連通するように前記変位方向に直交又はほぼ直交する方向に沿って位置して磁路の横断部を構成する流路部分とを有する断面クランク状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の液体封入式防振装置。
- 前記電磁石が、前記ピストン状部材に固定支持されている請求項1記載の液体封入式防振装置。
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