以下、本発明の実施形態に係る防振装置について図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
図1には本発明の第1の実施形態に係る防振装置が示されている。この防振装置100は、自動車における振動発生部であるエンジンを振動受部である車体へ支持するエンジンマウントとして適用されるものである。なお、図1にて符合Sが付された一点鎖線は装置の軸心を示しており、この軸心Sに沿った方向を装置の軸方向として以下の説明を行う。
図1に示されるように、防振装置10は、ボルト12を介してエンジン側に連結される略円柱状の連結金具14と、ブラケット(図示省略)を介して車体側へ連結されるカップ状のホルダ金具16と、このホルダ金具16内へ嵌挿固定された略円筒状の外筒18と、連結金具14と外筒18との間に配置され、吸振主体となるゴム製の弾性体20とを備えている。
弾性体20は、連結金具14の下部側に設けられた肉厚円板状の連結部22に加硫接着されると共に、外筒18の上端部に形成されたフランジ部24に加硫接着されており、連結金具14と外筒18とを弾性的に連結している。外筒18は、その内周面が弾性体20の下端部から延出する薄肉状の被覆部26により被覆されている。
外筒18内には、その軸方向中間部に全体として略円筒状に形成された仕切部材28が挿入されると共に、この仕切部材28の下部側に円筒状の支持筒30が挿入されている。支持筒30は、外筒18の下端部が内周側へかしめられることにより外筒18へ固定されており、仕切部材28は、支持筒30とフランジ部24とにより軸方向に沿って挟持されることにより、外筒18内で固定されている。また支持筒30には、内周面の下部側に上方へ向って凸状のカップ状に形成されたゴム製のダイヤフラム32の外周部が全周に亘って加硫接着されている。
防振装置10内には、外筒18、弾性体20及びダイヤフラム32により外部から密閉された液室空間が形成されており、この液室空間は、仕切部材28により弾性体20を隔壁の一部とする主液室34と、ダイヤフラム32を隔壁の一部とする副液室36とに区画されている。また仕切部材28には、その外周面に周方向へ延在する凹状の溝部38が設けられている。この溝部38は、その外周側が被覆部26を介して外筒18の内周面により閉止されることにより、主液室34と副液室36とを連通させる制限通路であるオリフィス40を形成している。また仕切部材28は、その内周側の軸方向に沿った中央付近に円柱状の空間を主液室34側と副液室36側とに区画するように中間板42が一体的に形成されている。
ここで、主液室34、副液室36及びオリフィス40内には、水、エチレングリコール等の液体が充填されており、主液室34と副液室36との間では、液体がオリフィス40を通して流通可能とされている。オリフィス40は、その路長及び断面積がシェイク振動に適合するように設定(チューニング)されている。
仕切部材28の内周側には、主液室34側から有底筒状の押え金具44が嵌挿されている。この押え金具44には、その上端部に外周側へ延出するようにフランジ部46が屈曲形成されており、このフランジ部46が仕切部材28の上端部と外筒18のフランジ部24との間に挟持されることにより、押え金具44は外筒18内で仕切部材28と固定されている。押え金具44は、その底板部48を軸方向に沿って所定の間隔TSを空けつつ中間板42に対向するように支持している。これにより、仕切部材28の内周側には、中間板42と底板部48との間に円板状の空間が形成される。この仕切部材28と押え金具44との間の空間内には、円板状に形成されたゴム製の可動メンブラン50が収納される。また中間板42及び底板部48には、それぞれ軸方向へ貫通する複数の開口部52,54が穿設されている。
ここで、中間板42と底板部48との間隔TSは、可動板である可動メンブラン50の厚さTMよりも広くされており、また中間板42と底板部48との間における仕切部材28の内径RSは、可動メンブラン50の外径RMよりも広くされている。これにより、可動メンブラン50は、軸方向へは間隔TSと厚さTMとの寸法差dTに対応する範囲(振幅)内で移動可能になり、また可動メンブラン50と仕切部材28との間には、軸心Sを中心とする径方向に沿って内径RSと外径RMとの寸法差dRの幅の隙間が形成される。
防振装置10には、副液室36内における上端部に弾性隔壁56が設けられている。弾性隔壁56は、固定リング58と、この固定リング58の内周側に張設された薄肉状のゴム膜60とを備えており、ゴム膜60は、その外周部が固定リング58の内周面に全周に亘って加硫接着されている。固定リング58は、仕切部材28の内周側へダイヤフラム32側から挿入されており、中間板42へ当接する位置で接着、かしめ等により固定されている。これにより、副液室36内は、中間板42の開口部52を介して可動メンブラン50に面した受圧部62と、ダイヤフラムに面すると共にオリフィス40と繋がった拡縮部64とに区画され、これらの受圧部62と拡縮部64の間は、弾性隔壁56により副液室36で液密状態が保たれるように隔離される。
ここで、受圧部62の内容積は、拡縮部64の内容積に対して十分小さくなっている。また弾性隔壁56のゴム膜60は、副液室36内の液圧変化により生じる荷重に対する剛性がダイヤフラム32の剛性よりも高くなるように、材質が選択されると共に、その形状及び厚さが設定されている。これにより、副液室36の拡縮部64内の液圧が変化した場合には、ダイヤフラム32はゴム膜60に対して優先的に弾性変形し、拡縮部64の内容積を拡縮する。
防振装置10内には、ダイヤフラム32とホルダ金具16の底板部との間に空気室66が設けられており、この空気室66は、必要に応じてホルダ金具16の底板部に穿設された空気穴(図示省略)を通して装置の外部空間に連通し、あるいは外部空間から密封されている。ダイヤフラム32は、副液室36に隣接して空気室66が設けられていることにより、副液室36内の液圧変化に応じて副液室36の内容積を拡縮するように弾性変形可能とされている。
防振装置10には、ホルダ金具16の上端部にカップ状のストッパ金具68の下端部がかしめ固定されると共に、連結金具14の上部側に円板状に形成されたゴム製のバウンドストッパ70がストッパ金具68に対向するように固着されている。また弾性体20には、連結金具14における連結部22の上面部を被覆すると共に、この連結部22の上面部からストッパ金具68の頂板部側へ突出するクッション部72が一体的に形成されている。従って、防振装置10では、バウンドストッパ70がストッパ金具68へ当接することで、弾性体20のバウンド方向(下方)への弾性変形が制限され、また連結金具14がクッション部72を介してストッパ金具68へ当接することで、弾性体20のリバウンド方向(上方)への弾性変形が制限される。
次に、上記のように構成された本発明の第1の実施形態に係る防振装置10の作用について説明する。防振装置10では、エンジンからの振動入力時に、弾性体20が弾性変形すると、振動が弾性体20によって吸収される。
また防振装置10では、主液室34内及び副液室36内にそれぞれ面するように仕切部材28内に配置された可動メンブラン50が、中間板42と底板部48との間隔TSと可動メンブラン50の厚さTMとの寸法差dTの範囲内で振動可能とされていることにより、入力振動により生じる主液室34内での液体の移動量が可動メンブラン50の可動範囲、すなわち寸法差dTに対応する値よりも大きい場合には、仕切部材28内により配置された可動メンブラン50が振動入力に伴う主液室34内の液圧変化により振動しても、主液室34内の液圧変化を完全に吸収する前に可動メンブラン50が中間板42又は底板部48に密着した状態となるので、主液室34と副液室36との間に液圧差が生じ、この液圧差によって入力振動に同期するようにオリフィス40を通して液体が主液室34と副液室36との間で相互に流通する。このとき、ここで、入力振動により発生する主液室34内での液体の移動量は、入力振動の振幅に応じて増減する。
この際、可動メンブラン50の振動に伴う受圧部62内での液圧変化がゴム膜60の弾性変形により吸収されることから、可動メンブラン50へ作用する受圧部62内の液体の抵抗を抑制し、可動メンブラン50が円滑に振動できるようになる。また入力振動の周波数がオリフィス40の長さ及び断面積の設定値に対応する範囲内であるならば、オリフィス40内を流通する液体に共振現象(液柱共振)が生じるので、この液柱共振の作用によって振幅が大きい入力振動を効果的に減衰できる。
また防振装置10では、副液室36内に配置された弾性隔壁56が副液室36を可動メンブラン50に面した受圧部62と、ダイヤフラム32に面すると共にオリフィス40と繋がった拡縮部64とに区画し、かつ弾性隔壁56のゴム膜60が受圧部62内の液圧変化に応じて弾性変形可能とされていることにより、入力振動により生じる主液室34内での液体の移動量が可動メンブラン50の可動範囲、すなわち寸法差dTとの隙間に対応する値よりも小さい場合には、仕切部材28内に配置された可動メンブラン50が振動入力に伴う主液室34内の液圧変化により振動すると共に、可動メンブラン50と仕切部材28との隙間を通して液体が主液室34内から副液室36の受圧部62内へ流出するが、この液体が受圧部62から拡縮部64へ流入することが弾性隔壁56により阻止されるので、振動入力時には主液室34と副液室36の拡縮部64との間には液圧差が生じ、この液圧差を駆動力とし、入力振動に同期するようにオリフィス40を通して液体が主液室34と副液室36との間で相互に流通する。
この際、可動メンブラン50の振動に伴う受圧部62内での液圧変化がゴム膜60の弾性変形により吸収されることから、可動メンブラン50へ作用する受圧部62内の液体の抵抗を抑制し、可動メンブラン50が円滑に振動できるようになり、かつ主液室34から受圧部62内へ液体が流入可能になるので、振幅が小さい振動入力時における主液室34内の液圧上昇を効果的に抑制できるようになる。またダイヤフラム32に対してゴム膜60の剛性が高く設定されていることから、主液室34と副液室40との間には差圧が生じるため、入力振動の周波数がオリフィス40の長さ及び断面積の設定値に対応する範囲内であるならば、オリフィス40内を流通する液体に共振現象(液柱共振)が生じ、かつ主液室34内の液圧上昇に伴う動ばね定数の上昇も抑制されるので、振幅が小さい入力振動についても効果的に減衰できる。
従って、本実施形態に係る防振装置10によれば、主液室と副液室との間に可動メンブランが設けられているが、副液室内には弾性隔壁を持たない防振装置や、主液室と副液室とを区画する仕切部材に弾性変形可能とされたメンブランが固定された防振装置等の従来の防振装置と比較し、入力振動の振幅に影響されることなく、振幅が小さい振動を含む広い周波数帯の入力振動に対して高い減衰を得ることができる。
また本実施形態に係る防振装置10は、主液室と副液室との間に可動メンブランが設けられているが、副液室内には弾性隔壁を持たない従来の防振装置と比較し、構成上は副液室36内に弾性隔壁56が追加されているだけなので、仕切部材28及び可動メンブランの寸法精度をそれぞれ高めて、これらの隙間からの液体の洩れを防止する対応を採った場合と比較し、装置コストの上昇を小さなものにできる。
次に、本発明の第1の実施形態に係る防振装置10の性能を従来の防振装置とを比較し具体的に説明する。
図4(A)には、振幅が±0.1mmの入力振動に対する本実施形態に係る防振装置10における減衰係数と振動周波数との関係が実線L1により示され、主液室と副液室とを区画する仕切部材に弾性変形可能とされたメンブランが固定された従来の防振装置(以下、「メンブラン固定型の防振装置」という。)における減衰係数と振動周波数との関係が破線L2により示され、主液室と副液室との間に可動メンブランが設けられているが、副液室内には弾性隔壁を持たない従来の防振装置(以下、「メンブラン可動型の防振装置」という。)における減衰係数と振動周波数との関係が一点鎖線L3により示されている。
図4(A)から明らかなように、メンブラン可動型の防振装置では、±0.1mmの振幅を有する振動に対する減衰係数Cが5Hz〜20Hzの周波数帯で極めて低いものになり、このような微小振幅の振動を効果的に減衰できない。またメンブラン固定型の防振装置では、±0.1mmの振幅を有する振動に対する減衰係数Cが約9Hzをピークとする狭い周波数帯で高いものになるが、この狭い帯域から離れるに従って減衰係数Cが急激に低下する。従って、効果的に振動を減衰できる周波数帯で極めて狭くなっている。
一方、本実施形態に係る防振装置10では、±0.1mmの振幅を有する振動に対する減衰係数Cが約8Hzをピークとする広い周波数帯で高いものになり、メンブラン固定型の防振装置と比較し、ピークからの周波数差に対する減衰係数Cの低下が小さくなっている。従って、本実施形態に係る防振装置10によれば、メンブラン可動型の防振装置の防振装置と比較し、入力振動(シェイク振動)を効果的に減衰でき、かつメンブラン固定型の防振装置と比較し、効果的に減衰できる振動の周波数帯が十分に広いものになっている。
上記した本実施形態に係る防振装置10とメンブラン可動型の防振装置との特性の差は、±0.1mm程度の微小振幅を有する振動入力時には、可動メンブランが振動すると共に、主液室内の液体が可動メンブランと仕切部材との隙間から副液室側へ洩れることから生じると考えられる。
図4(B)、図5(A)及び図5(B)には、それぞれ振幅が±0.5mm、±1.0mm及び±2.0mmの入力振動に対する本実施形態に係る防振装置10における減衰係数と振動周波数との関係が実線L1(弾性隔壁追加)により示され、メンブラン固定型の防振装置における減衰係数と振動周波数との関係が破線L2(メンブラン固定型)により示され、メンブラン可動型の防振装置における減衰係数と振動周波数との関係が一点鎖線L3(メンブラン可動型)により示されている。
これらの図4(B)、図5(A)及び図5(B)から明らかなように、本実施形態に係る防振装置10は、振幅が±0.5mm、±1.0mm及び±2.0mmの入力振動に対しては、5Hz〜20Hzの周波数帯においてメンブラン固定型の防振装置の防振装置よりも概ね高い減衰係数が得られており、また5Hz〜20Hzの周波数帯においてメンブラン可動型の防振装置と略同等の減衰特性を有している。すなわち、本実施形態に係る防振装置10によれば、振幅が±0.5mm、±1.0mm及び±2.0mmの入力振動に対しても、メンブラン固定型の防振装置の防振装置と比較し、入力振動(シェイク振動)を効果的に減衰でき、かつメンブラン可動型の防振装置と略同等の減衰特性を得られる。
また図6には、振幅が±0.03mmの入力振動に対する本実施形態に係る防振装置10における絶対ばね定数K*と振動周波数との関係が実線C1により示され、メンブラン固定型の防振装置における絶対ばね定数K*と振動周波数との関係が破線C2により示され、メンブラン可動型の防振装置における絶対ばね定数K*と振動周波数との関係が一点鎖線C3により示されている。
図6から明らかなように、本実施形態に係る防振装置10では、7Hz程度の周波数で絶対ばね定数K*が比較的低いピークを示しているが、10Hz〜100Hz程度の広い周波数帯で絶対ばね定数K*が略一定に保たれている。この10Hz〜100Hz程度の広い周波数帯において、防振装置10の絶対ばね定数K*は、メンブラン可動型の防振装置の絶対ばね定数K*よりも高くなっているが、メンブラン固定型の防振装置の絶対ばね定数K*よりも低くなっている。すなわち、本実施形態に係る防振装置10によれば、メンブラン可動型の防振装置と比較し、広い周波数帯で絶対ばね定数K*が高く保たれているが、メンブラン固定型の防振装置と比較すると、広い周波数帯で絶対ばね定数K*が低く保たれており、特定の周波数で防振特性が急激に悪化することがない。
(第2の実施形態)
図2及び図3には、本発明の第2の実施形態に係る防振装置が示されている。図2に示されるように、防振装置100の下部側を第1の取付部材であるホルダ金具102が底部を有した円筒状に形成されている。このホルダ金具102の底板部中央には、外部への開口となる管状の下部ポート104が取り付けられている。また、このホルダ金具102の外周側には、図示しない車体にこの防振装置100を連結して固着する為のブラケットが、図示しないもののホルダ金具102の円周方向に複数個設置されている。
さらに、このホルダ金具102には円筒状に形成された筒部106が設けられており、この筒部106の上端部がかしめられることで、この筒部106の上端部に、円筒状に形成された外筒108がホルダ金具102に連結されつつ配置されている。この外筒108の上部側はテーパ状に拡がるように形成されており、この外筒108の上部側の内周面には、円筒形状をしたゴム製の弾性体110の下部側が加硫接着されている。
この弾性体110の上部側中央部には、第2の取付部材となるブロック状に形成された連結金具112が位置しており、この連結金具112に弾性体110の上部側が加硫接着されている。そして、この連結金具112の中央部には、エンジンの連結用として用いられる植え込みボルト114がねじ込まれるねじ穴116が形成されており、このねじ穴116に植え込みボルト114がねじ込まれることで、図示しないエンジン側ブラケットが連結金具112に固定されつつ連結されることになる。
一方、この外筒108の下部側の内周面には、リング状の支持金具118が嵌合されて設置されている。この支持金具118の内側には、薄肉で弾性変形可能なゴム製の弾性膜であるダイヤフラム120が、その外周端を支持金具118の内周面に加硫接着されて配置されており、これら弾性体110及びダイヤフラム120により挟まれて区画された空間が、例えばエチレングリコール等の液体が封入される液室空間を構成している。
さらに、この液室空間内には、それぞれ円板状に形成された上部仕切部材122及び下部仕切部材124が、ホルダ金具102と外筒108との間のかしめ部分にその外周部分を挟まれて固定されつつ、配置されている。この内の下部仕切部材124の上面中央部には、周囲より一段低い凹部126が形成されており、この凹部126内の中心位置に下部仕切部材124を貫通する穴部128が形成されている。そして、この下部仕切部材124の上側には、上部仕切部材122が配置されており、これら下部仕切部材124と上部仕切部材122との間には、ゴム製でリング状に形成された可動メンブラン130が、凹部126内に入り込む形で、設置されている。
この結果、液室を二分するように下部仕切部材124、上部仕切部材122及び可動メンブラン130が液室を区画し、これら仕切部材122,124等の上側の液室空間が主液室132とされ、仕切部材122,124等の下側の液室空間が副液室134とされている。従って、液体が封入された主液室132の隔壁の一部が弾性体110により構成され、主液室132の隔壁の他の一部が可動メンブラン130により振動可能に構成され、液体が封入された副液室134の隔壁の一部がダイヤフラム120により構成されることになる。
他方、円管状に形成されて上端部が外周に拡がるフランジ部138を有したオリフィス部材136が、上部仕切部材122と可動メンブラン130との間にフランジ部138を配置すると共にその下部側を副液室134内に配置する形で、設けられている。但し、仕切部材122,124の可動メンブラン130と対向する部分にはそれぞれ開口部140、142が設けられており、また、この開口部140に対応するフランジ部138の部分にも開口部144が設けられていて、可動メンブラン130が主液室132及び副液室134にそれぞれ面するようになっている。
そして、このオリフィス部材136の内部の空間が、大径の通路であるアイドルオリフィス146とされている。つまり、このアイドルオリフィス146の一端は上方に伸びて主液室132に開放されており、このアイドルオリフィス146の他端側は下方に伸びて副液室134に開放されていて、このアイドルオリフィス146が、アイドル振動吸収用の制限通路となっている。
また、この上部仕切部材122の中央部には、円筒状の円筒部148が上側に突出するように設けられていて、この円筒部148の頂面に連通穴149が形成されている。そして、この上部仕切部材122の円筒部148内には、コイルスプリング150がオリフィス部材136のフランジ部138を下方に付勢するように、配置されている。従って、上記アイドルオリフィス146はコイルスプリング150の内周部分及び連通穴149を貫通して主液室132に繋がることになる。
一方、この下部仕切部材124の外周寄りの部分には、その周方向に沿って延びるように溝部152が形成されることになり、この溝部152の開放端が上部仕切部材122の下面により塞がれてシェイク振動吸収用の通路であるシェイクオリフィス154が形成されている。このシェイクオリフィス154の一端側は上方に伸びて主液室132に開放されており、このシェイクオリフィス154の他端側は下方に伸びて副液室134に開放されている。
以上より、シェイクオリフィス154及びアイドルオリフィス146を介して、主液室132と副液室134とがそれぞれ連通されることになる。また、一対のオリフィス146,154の内のアイドルオリフィス146は、その通路の長さが短く且つ大径であるので、シェイクオリフィス154と比較して液体の通過抵抗が小さくされている。
さらに、ホルダ金具102の内周面には、円筒状の支持筒156が嵌合されており、この支持筒156の下部に円板状に形成されたゴム膜158の外周端が固定されており、ホルダ金具102とダイヤフラム120との間には、このゴム膜158の中央部を塞ぐように円筒状に形成された金属製の弁体であるバルブ機構160が、アイドルオリフィス146の開口部にダイヤフラム120を介して対向する形で、配置されている。
この為、アイドルオリフィス146の閉鎖時において、バルブ機構160がダイヤフラム120をオリフィス部材136の下側の開口端に当接することで、バルブ機構160がアイドルオリフィス146を確実に封止することになる。そして、ゴム膜158及びバルブ機構160を上面とすると共にホルダ金具102の底面を下面として第1空気室162となる空間が区画され、また、このゴム膜158とダイヤフラム120との間の空間が第2空気室163とされていて、この第2空気室163に対応するホルダ金具102の部分には、貫通孔164が形成されている。
つまり、副液室134に面するダイヤフラム120の部分とゴム膜158との間の空間が第2空気室163とされて、ダイヤフラム120の変位を容易にしており、また、前述の下部ポート104により第1空気室162内の空気が吸排可能とされている。さらに、第1空気室162内のホルダ金具102の底面とバルブ機構160との間には、バルブ機構160を上方に付勢する為の第1バネ部材であるコイルスプリング166が配置されている。これに伴ってゴム膜158と繋がって上下動可能とされるバルブ機構160が、コイルスプリング166により上方に常時付勢されていることになる。
また、上部仕切部材122とオリフィス部材136との間に配置された第2バネ部材であるコイルスプリング150は、コイルスプリング166より小さい力で、アイドルオリフィス146を開放する方向であるオリフィス部材136を常時下側方向に向かって付勢している。従って、図3に示されるように、バルブ機構160が下降してアイドルオリフィス146が開放された時には、コイルスプリング150に付勢されてオリフィス部材136も下降し、そのフランジ部138で可動メンブラン130に当接して、可動メンブラン130の動きを拘束することになる。
さらに、前述の下部ポート104には配管168の一端が連結され、この配管168の他端が切換弁170に連結されている。つまり、ダイヤフラム120の背面側の第1空気室162に切換弁170が連結されている。この切換弁170は、電磁的に作動する電磁弁である3ポート2位置切換弁を構成し、図2に示されるように、エンジンの吸気部分であるインテークマニホールド172と繋がる接続パイプ174に連結されると共に、大気側にも開放可能とされている。
以上より、切換弁170は、第1空気室162がインテークマニホールド172側に連通される状態と第1空気室162が大気側に連通される状態との間で、これらの間を繋ぐ通路を切り換え可能としている。他方、切換弁170は、車両の運転状況を判断して印加電圧をオン・オフする制御手段である制御回路176に連結されている。制御回路176は車両電源によって駆動され、少なくとも車両の運転状況を判断する車速センサ178及びエンジン回転数センサ180からの検出信号を受け、車速及びエンジン回転数を検出できる。
これにより制御回路176は、シェイク振動発生時かアイドル振動発生時かの判断、すなわち車両の停止時か走行時かの判断ができるようになっている。従って、制御回路176により、切換弁170への通電及び通電の停止が制御されて、第1空気室162内の気圧が大気圧と負圧との間で切り換えられることになる。
また防振装置10には、副液室134内における上端部に弾性隔壁182が設けられている。弾性隔壁182には、内外径が異なる固定リング184及び固定リング186が設けられており、これらの固定リング184,186は略同心状に配置されている。また弾性隔壁56には、固定リング184と固定リング186との間に張設された薄肉リング状のゴム膜188が設けられており、このゴム膜188は、その外周端部が固定リング184の内周面に全周に亘って加硫接着されると共に、内周端部が固定リング186の外周面に全周に亘って加硫接着されている。外周側の固定リング184は、下部仕切部材124の下面中央部に形成された円形の凹部190に嵌挿され、その外周面が凹部190の内周面に固着されている。また内周側の固定リング186は、オリフィス部材136の外周側に嵌挿され、その内周面がオリフィス部材136の外周面に固着されている。これにより、副液室134内は、下部仕切部材124の開口部142を介して可動メンブラン130に面した受圧部192と、ダイヤフラムに面すると共にシェイクオリフィス154と繋がった拡縮部194とに区画され、これらの受圧部192と拡縮部194の間は、弾性隔壁182により副液室134内で液密状態が保たれるように隔離される。
ここで、受圧部192の内容積は、拡縮部194の内容積に対して十分小さくなっている。また弾性隔壁182のゴム膜188は、副液室134内の液圧変化により生じる荷重に対する剛性がダイヤフラム120の剛性よりも高くなるように、材質が選択されると共に、その形状及び厚さが設定されている。これにより、副液室134の拡縮部194内の液圧が変化した場合には、ダイヤフラム120はゴム膜188に対して優先的に弾性変形し、拡縮部194の内容積を拡縮する。
次に、上記のように構成された本実施形態に係る防振装置100の作用を説明する。
連結金具112に搭載されるエンジンが作動すると、エンジンの振動が連結金具112を介して弾性体110に伝達される。弾性体110は吸振主体として作用し、弾性体110の弾性変形に基づく制振機能によって振動を吸収することができる。さらに、この弾性体110の変形に伴って、主液室132の内容積が変化し、隔壁の一部がダイヤフラム120により変形可能に形成される副液室134とこの主液室132との間をそれぞれ連通するオリフィス146,154内の液体に圧力変化が生じ、また、ダイヤフラム120が変形することで、主液室132と連通する副液室134が拡縮される。
この結果、エンジン側からの振動が伝達されると、弾性体110の変形により減衰されるだけでなく、主液室132と副液室134との間のオリフィス146,154内の液柱共振等に基づく減衰作用により振動が減衰されて、車体側に振動が伝達され難くなる。
また、防振装置100では、バルブ機構160がアイドルオリフィス146に対応して配置され、コイルスプリング166が、アイドルオリフィス146を閉鎖する方向に向かってこのバルブ機構160を付勢している。これに対して、コイルスプリング150が、コイルスプリング166より小さい力でアイドルオリフィス146を開放する方向に向かって、往復動可能なオリフィス部材136を付勢している。そしてこのような構造から、本実施の形態では以下のように動作することになる。
以下に、本実施の形態に係る防振装置100の具体的な動作を説明する。
例えば車両が走行すると、シェイク振動が生じる。制御回路176は、車速センサ178及びエンジン回転数センサ180によりシェイク振動発生時であると判断し、切換弁170により第1空気室162内を大気側と連通させる。
これにより、第1空気室162内の空気圧が大気圧となり、図2に示される走行状態のように、バルブ機構160がコイルスプリング166の付勢力により押し上げられ、バルブ機構160がダイヤフラム120を介してオリフィス部材136の下端に当接することによって、アイドルオリフィス146を閉鎖する閉鎖状態となり、シェイクオリフィス154のみで、主液室132と副液室134との間が連通される。この結果、シェイクオリフィス154内を液体が主液室132と副液室134との間に生じる液圧差により行き来して通過抵抗を受けつつ、液柱共振することによって、シェイク振動が吸収される。
以上より、バルブ機構160が開口端に対向して配置されているアイドルオリフィス146が閉鎖されることで、オリフィス146,154の内の通過抵抗が大きく常時開放されているシェイクオリフィス154により、例えばシェイク振動が低減される。このとき、振幅が小さい振動(例えば、振幅が±0.1mmの振動)が入力した場合には、コイルスプリング150より力の大きいコイルスプリング166でオリフィス部材136が上方に移動されているので、可動メンブラン130が仕切部材122,124内で振動して、主液室132内の液圧の上昇を防止することができる。ここで、可動メンブラン130が仕切部材122,124内における軸方向への可動範囲は、第1実施形態に係る可動メンブラン50と実質的に等しくなるように設定される。
この結果、本実施形態に係る防振装置100でも、第1の実施形態に係る防振装置10と同様に、副液室134内に配置された弾性隔壁182が副液室134を可動メンブラン130に面した受圧部192と、ダイヤフラム120に面すると共にシェイクオリフィス154と繋がった拡縮部194とに区画し、かつ弾性隔壁182のゴム膜188が受圧部192の液圧変化に応じて弾性変形可能とされていることにより、入力振動により生じる主液室132内での液体の移動量が可動メンブラン130の可動範囲に対応する値よりも小さい場合には、仕切部材122,124内に配置された可動メンブラン130が振動入力に伴う主液室34内の液圧変化により振動すると共に、可動メンブラン130と仕切部材122,124との隙間を通して液体が主液室132内から副液室134の受圧部192内へ流出するが、この液体が受圧部192から拡縮部194へ流入することが弾性隔壁182により阻止されるので、振動入力時には主液室132と副液室134の拡縮部64との間には液圧差が生じ、この液圧差を駆動力とし、入力振動に同期するようにシェイクオリフィス154を通して液体が主液室132と副液室134との間で相互に流通する。
この際、入力振動の周波数がシェイクオリフィス154の長さ及び断面積の設定値に対応する範囲内であるならば、シェイクオリフィス154内を流通する液体に共振現象(液柱共振)が生じ、かつ主液室132内の液圧上昇に伴う動ばね定数の上昇も抑制されるので、振幅が小さい入力振動についても効果的に減衰できる。
従って、本実施形態に係る防振装置100によっても、第1の実施形態に係る防振装置10と同様に、主液室と副液室との間に可動メンブランが設けられているが、副液室内には弾性隔壁を持たない防振装置や、主液室と副液室とを区画する仕切部材に弾性変形可能とされたメンブランが固定された防振装置等の従来の防振装置と比較し、入力振動の振幅に影響されることなく、振幅が小さい振動を含む広い周波数帯の入力振動に対しても高い減衰を得ることができる。
一方、例えば車両が停止すると、エンジンがアイドリング運転となって振動の周波数がシェイク振動よりも高いアイドル振動が生じる。この場合、シェイクオリフィス154が目詰まり状態となるが、この際、制御回路176は、車速センサ178及びエンジン回転数センサ180によりアイドル振動発生時であると判断し、切換弁170により第1空気室162内をインテークマニホールド172側と連通させる。
これによって、第1空気室162内が負圧となり、図3に示されるアイドル状態のように、オリフィス部材136の下端からバルブ機構160が離れてコイルスプリング150の付勢力により下方に移動され、アイドルオリフィス146を開放する開放状態となる。この為、アイドルオリフィス146を介して主液室132と副液室134とが連通され、液体がアイドルオリフィス146を行き来することができるようになる。この結果、アイドルオリフィス146内で液体が液柱共振して防振装置100の動ばね定数が低減され、アイドル振動が吸収される。
この際、バルブ機構160によるアイドルオリフィス146の開閉の切替えに同調して、アイドルオリフィス146の開放時にコイルスプリング150がオリフィス部材136を可動メンブラン130に当接して可動メンブラン130の振動を抑えるので、可動メンブラン130の存在により邪魔されることなく、開放されたアイドルオリフィス146内に液体が十分に流れて確実にアイドルオリフィス146内の液体が液柱共振等する。つまり、アイドル振動の入力時には、可動メンブラン130の振動による主液室132内の圧抜き(圧力損失)が生じなくなり、液柱共振が大きくなって動ばね定数も大きく低減されるようになるので、アイドル振動を効果的に減衰できる。