JP4260349B2 - 物質を熱的に分析するための方法及びその装置 - Google Patents

物質を熱的に分析するための方法及びその装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、物質を熱的に分析する方法に関し、該方法は、前記物質の試料を提供する過程と、熱源を提供し前記試料と熱源との間に熱流を生じさせる過程と、前記熱源を時間の関数として加熱条件を制御する過程と、前記試料と熱源との間の熱流を表わす信号と、前記熱流に関連した温度を表わす信号とを測定する過程と、前記測定した熱流の信号と温度の信号との間の関数関係を計算する過程とからなる。また、本発明は、前記方法を実行するようになった装置にも関する。
【0002】
【従来の技術】
物質の熱的分析においては、物質の試料が熱源によって加熱され、熱源と試料との間の熱流が計算され、これにより、物質の、特に熱容量、熱の反応相転位、開始温度等の構造的情報及び組成情報が得られる。特に、精度とダイナミックレンジのために、差分法又は差動的手法である、例えば示差スキャニング熱測定(DSC)が現在は用いられている。これらの差動的方法では、基準物質が、分析の対象である試料に対して対称的に熱流の中に配置され、分析は試料と基準物質との間の差動的熱流に基づいて行われる。
【0003】
ヨーロッパ特許公開公報EP0559362A1は、周期的な温度変調に重ねられた温度の直線上昇に応じて熱源の温度を変化させるように、熱源の温度が所定の温度制御プログラムに従って制御される差動的方法を開示する。差動的な熱流から、熱源温度の直線的に変化する成分と変調成分とによってそれぞれ生じる二つの分離した信号成分を得るために、非畳み込み手法が用いられている。
【0004】
国際出願公開公報WO95/33199と国際出願公開公報WO95/33200は同様に、熱源の温度が所定の温度制御プログラムによってドライブされる差動的方法を開示する。この温度制御プログラムは、第1のケースにおいては同一持続時間の二つの直線的に変化する部分と、第2のケースにおいては周期的に変化する部分によって重畳された直線的に変化する部分とからなる。差動的な熱流信号、該差動的熱流信号と熱源のプログラム化された温度との間の相差は、実部及び虚部信号部分とをそれぞれ分離して求めるために計算される。
【0005】
これらの従来技術の方法では、試料の熱励起は、線形又は周期関数、あるいはこれら二つの関数の組合せによって起こるものである。その結果、励起周波数に一致した熱事象のサブグループが、全ての起こり得る事象の全体グループの中から選択的に励起される。これらの選択的に励起される事象は、同じ周波数のものであるか、または、励起の形式及び試料の状態にもよるが、励起周波数の整数倍(高次高調波)に一致した事象である。このように、試料の反応は周波数依存性を有するものである。
【0006】
【発明の課題】
本発明の目的は、周波数選択的励起に制限されることなく、事象からの反応を検出することができる、物質を熱的に分析するための方法を提供することである。本発明の更なる目的は、この方法を実施することが可能な装置を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
方法に関して言えば、この目的は、前記制御過程が確率的に前記加熱条件を変更することを含む点において、本発明により達成される。
【0008】
本発明によれば、加熱条件、例えば熱源の加熱パワー又は加熱温度を確率的に変化させることにより、励起がある周波数に選択的に制限されないようになる。物質試料の反応は、物質試料中のどれだけの事象が励起と時関連状態にあるかに依存する。確率的な励起は、緩和関数を直接測定することを許容する。緩和関数は、パルス状外乱への物質の時間反応を表わす。試料物質の時間依存励起は、周波数依存励起とは対照的に、試料物質の異なる特徴及び性質をもたらし、熱伝導路での検出を可能にする。
【0009】
理論的には、従来の周波数依存励起と本発明による確率的励起の結果は、フーリエ変換により数学的には関連付けることはできる。しかしながら、実際上はこれは不可能である。数学的な関係を計算するには、周波数及び時間においてゼロから無限大の範囲で、誤差が無い測定値が要求されことになる。実際上はこのようなことは実現できないので、数学的関係の計算は情報の損失を蒙ることになる。さらに、この関係は、試料物質が測定中に線形の性状を呈する時にのみ当てはまる。しかしながら、線形な性状と言う仮定は一般的になり得ない。
【0010】
本明細書において使用される用語“加熱”、“熱流”、“熱源”及びこれらに関連した用語は、加熱又は冷却の何れかを意味するものと理解すべきである。後者の冷却の場合には、“熱源”は、例えば試料に対して熱的に結合される冷却剤源となる。
【0011】
本発明の一つの実施例では、前記制御過程は、前記熱源を時間の関数として所定の温度を呈するようにさせる第1の制御入力と、前記第1の制御入力による前記熱源の加熱条件を確率的に変化させるための第2の制御入力とに基づいて行われる。
【0012】
加熱条件を確率的に変化させるための前記第2の制御入力は、熱源の温度、加熱速度、加熱パワー又は熱流の相当量の変更に関するものとして定義することもできる。数量的に又は電気的に生じさせることができる。
【0013】
熱源を時間の関数で所定の温度を呈するようにさせる第1の制御入力は、加熱速度がゼロで、熱源の温度が選択された温度値で一定となるように制御される等温ケースに相当するものである。より一般的なケースでは、第1の制御入力は、対応する温度対時間関数が、確率的に変化する第2の制御入力よりも、かなり遅く時間と共に変化する。特に興味深い特別なケースでは、熱源の温度を第1の制御入力によって、選択された一定加熱速度を意味する線形温度プログラムにしたがって変化させるものを含む。
【0014】
本発明の他の実施例によれば、方法は更に、前記熱源の温度を測定する過程と、前記第1の制御入力に前記第2の制御入力を重畳させたものと、前記熱源の測定した温度との間の差を表わす信号を、前記熱源の加熱パワー制御信号として用いる過程とを有する。この場合、熱源の測定された温度は、第1及び第2の制御入力の重畳したものと比較され、この比較の結果として得られた差は、熱源の加熱パワーの制御に用いられる。この場合、重畳された第1及び第2の入力は、熱源の加熱温度に対応するものである。
【0015】
更に他の実施例では、本発明による方法は、前記熱源の温度を測定する過程と、前記熱源の測定した温度をフィルタリングし、前記熱源の変化されていない加熱パワーに関連した平均温度を求める過程と、前記第2の制御入力を前記第1の制御入力と前記平均温度との間の差に重畳したものを表わす信号を、前記熱源のための加熱パワー制御信号として利用する過程とを有する。この場合、熱源の平均温度は第1の制御入力と比較され、前記第2の制御入力は、熱源の加熱パワーを制御するために、その比較の結果に重畳される。したがって、第1の制御入力は熱源の平均温度に対応し、他方、第2の制御入力は、第1の制御入力に相当する平均温度に確率的な変化をもたらすものである。
【0016】
好ましくは、熱流を表わす前記信号は、前記試料と前記熱源との間、及び前記基準物質と前記熱源との間の熱流の差に相当する差動信号である。こうすることにより、既知の基準物質への熱の流入・流出に対する、試料への熱の流入・流出の差だけが分析の目的に使用され、また、絶対値の測定が必要でないために、高い精度と広いダイナミックレンジを提供することができる。
【0017】
熱源の温度または試料温度のそれぞれは熱流に関連した温度として使用できる一方、前記基準物質の温度が測定され、前記熱流に関連した温度を表わす信号として用いられることが好ましい。
【0018】
他の基本的なこととして、本発明による方法は、選択された時間間隔における、前記熱流に関連した前記測定した温度から得た前記測定された熱流と加熱速度との少なくとも一方の平均成分を得る過程と、前記熱流と加熱速度のうちの少なくとも一方の動的成分を、前記測定した熱流、または得た加熱速度と前記それぞれ得られた平均成分との間の差として得る過程と、前記選択された時間間隔における、前記熱流に関連した前記測定した温度の平均温度を得る過程と、前記動的成分の少なくとも一つを前記得られた平均温度の関数として表わす過程とを有する。
【0019】
この種の計算方法により得られた動的成分は、熱源の加熱パワーの確率的変化に関係し、他方、平均成分は、第2の制御入力によって生じた確率的変動が平滑化される状態で、第1の制御入力によって制御される加熱パワーに関係する。平均化処理において選択される時間間隔の長さは、正当な平均値を得るには十分な長さの時間ではあるが、しかし、物質の分析において求められる励起反応を抑制する程には長くない値として、測定の形式に応じて適宜決められる。
【0020】
計算方法の更に特定の特徴は、従属クレーム8から13に記載されている。
【0021】
本発明による方法を遂行するために、熱源と、試料配置場所を有し、前記熱源と前記試料配置場所の試料との間に熱流を生じさせるようになった試料ホルダーと、前記熱源の加熱条件を時間の関数として制御する制御装置と、前記試料配置場所の前記試料と前記熱源との間の熱流を表わす信号を測定するための手段と、前記熱流に関連した温度を表わす信号を測定するための手段と、前記測定された熱流信号と温度信号との間の関数関係を計算するための手段とを有する物質を熱的に分析する装置は、本発明によれば、前記制御装置が前記加熱条件を確率的に変化させる手段を有していることを特徴とする。
【0022】
一つの実施例では、前記制御装置は、時間の関数として、前記熱源の所定温度プログラムを表わす第1の制御信号を設定するための手段と、時間的に確率的に変化する第2の制御信号を発生し、これにより、前記第1の制御信号によって生じた前記加熱条件を確率的に変化させるための手段とを有する。
【0023】
前記第1及び第2の制御信号を設定するための両手段は、実際にはマイクロコンピュータと言う手段によって具現化してもよい。この場合、第2の制御信号は、マイクロコンピュータ内に実装された乱数発生器に基づいて生成することができる。これに代えて、時間的に確率的に変化する第2の制御信号を発生させるためのそれ専用の電子部品としても良い。
【0024】
【好適実施例の説明】
以下、添付図面を参照しながら、本発明による物質を熱的に分析する方法を、その方法を遂行するように構成された装置に関連して例示的に説明することとする。図1から分かる通り、物質を熱的に分析する装置は、銀からなる基本的に中空の円筒オーブンブロック1と、前記オーブンブロック1に加熱パワーを与えるための平板抵抗ヒータ2とを具備する。これに代えて、加熱ワイヤー巻線をオーブンブロック1の外側円筒表面上に巻きつけ、抵抗加熱をもたらしてもよい。オーブンブロック1の上端部の蓋アセンブリ3は、オーブンブロック1の内部4内へのアクセスを許すべく、ブロック1を開放又は閉鎖するために、自動的な移動が可能となっている。
【0025】
ディスク形状の基板5が、オーブンブロック1内にこれと熱的接触を保った状態で設けられている。基板5は、試料パン6及び基準物質パン7をそれぞれ支持するように、試料ホルダーと基準物質ホルダーとして形成された二つの環状領域を有する。試料ホルダー及び基準物質ホルダーの各環状領域には、試料パン6と基準物質パン7との間の温度差を検出するための、熱電対機構が形成されている。検出される温度差は従って、試料パン6と基準物質パン7にそれぞれ収納され、これらの互いに熱接触状態にある試料物質と基準物質との間の温度差に相当する。温度差を表わす電気信号は、信号線8により、外部に送り出される。オーブンブロック1の底部部分に設けられた白金温度計9は、熱源1,2の温度を検出し、それに応じた電気信号は、信号線10によって外部に送り出される。
【0026】
参照番号11,12,13は、パージガス供給パイプ、パージガス排出パイプ、ドライガス供給パイプをそれぞれ示し、他方、参照番号14,15,16は、冷却フランジ、冷却フィンガー、白金温度計をそれぞれ示す。耐熱材17が、冷却機構14,15とヒータ2との間に設けられている。
【0027】
図2を参照すると、電気的加熱パワーPが、パワー制御器18によって熱源1,2のヒータ2に供給される。パワー制御器18は、その制御入力端子に差動増幅器19の出力から供給される加熱パワー制御信号に従って、加熱パワーの量を制御する。差動増幅器19の反転入力端子には、信号線10上の温度計9からの温度Tを表わす信号が供給される。差動増幅器19の非反転入力端子には、第1の制御信号Tと第2の制御信号FSIP(t)が印加される。第1の制御信号Tは、プログラマー内(図示せず)に、時間関数として選択された温度プログラムを通して熱源1,2を駆動するように設定される。特に、第1の制御信号Tは、一定の加熱速度を有した線形温度プログラムとして設定され、これにより、熱源1,2の温度Tを、初期値から最終温度値の間で直線状に駆動する。
【0028】
第2の制御信号FSIP(t)は、マイクロプロセッサー又はこれに代わるハード結線された電子式発生器(共に図示せず)により、数的に発生させることができる確率的な信号である。確率的な第2の制御信号は従って、以下の式(1)に従った確率的に変化する加熱速度βSIP(t)に相当する。
【数1】
Figure 0004260349
【0029】
この構成では、図2に示される制御ループは、熱源1,2の測定された温度Tを、第1の制御信号によって設定された温度Tと第2の制御信号によって表される確率的な温度変化FSIPとの合計と比較するように動作し、これにより、熱源の温度Tが制御されることになる。
【0030】
図3に概略的に示される実施例は、図2の実施例の変形であり、図2と図3の同一部分には同一の参照番号又は符号が用いられている。図3の実施例は図2の実施例とは次の二つの点で異なる。即ち、フィルター20が信号線10の途中に設けられている点と、確率的に変化する第2の制御信号FSIP(t)が差動増幅器19の出力信号に直接印加されている点である。他の点では図3は図2と類似しており、図2の上記説明がそのまま適用される。
【0031】
フィルター20は、その出力側に、第2の制御信号FSIP(t)によって生じた熱源温度Tfの確率的変化分を平滑にした平均温度信号<Tf>を発生する。
【0032】
この構成では、差動増幅器19は、平均温度信号によって表わされる平均温度<Tf>を、第1の制御信号によって設定されたプログラム化された温度Tpと比較し、そして確率的に変化する第2の制御信号FSIP(t)は差動増幅器19の出力信号に重畳される。これにより、熱源1,2の平均温度値<Tf>に影響を与えることになる。
【0033】
図4の実施例は、図3に示す実施例に対して、確率的に変化する第2の制御信号FSIP(t)がパワー制御器18のパワー制御出力に直接重畳されている点が違うのみである。この場合、第2の制御信号FSIP(t)は確率的に変化する加熱速度βSIPに比例する。
【0034】
従来の熱量測定で良く知られている通り、試料と熱源との間の熱流は試料温度と熱源温度との差に比例し、他方、差動方法による場合には、差動的熱流は、試料温度と基準物質温度との差に比例する。図1の実施例における試料と基準物質との間の温度差を表わす信号線8の信号は、従って、差動的熱流Φm(t)を表わす(ここで、下付きのmは測定された熱流であることを示す)。これは、熱流Φm(t)を時間の関数として示す図5に表わされている。なお、図5では、時間間隔Δtをカバーする部分を付加的に拡大して示されている。熱流Φm(t)と温度の間の関数関係を求めるためと、確率的変化に関連した動的成分と平均温度に関連する平均成分の間を区別するために、平均化処理を含む、測定した信号の分析が行われなければならない。この分析は、図1の試料パン6及び基準物質パン7に設けられた熱電対によって検出された試料及び基準物質温度のうちの何れか一つに関して行うことができる。これに代えて、この分析は、図1の温度計9によって検出される熱源温度Tfに関して行うこともできる。上で述べた三つの温度値を用いるに際しては、いかなる差も、校正されることが考慮されても良い。
【0035】
有効な分析方法の一つは、以下の式(2),(3),(4)に従って、適当に選択された時間間隔Δtにおいて測定された熱流及び加熱速度(測定された温度の時間導関数)の自己相関関数αΦΦ(t),αββ(t)と相互相関関数を計算することである。
【数2】
Figure 0004260349
上記式において、tnは測定値が取られた、時間におけるN個の時点から選択されるものである。これは、N個の自己相関関数及び相互相関関数の最大値を導く。式(2)〜(4)の自己及び相互相関関数に関連した温度Tnは、以下の式(5)による時間間隔Δtの平均温度である。
【数3】
Figure 0004260349
【0036】
上記自己及び相互相関関数により、熱流及び加熱速度それぞれの平均値Φ0及びβ0が、極限化処理による以下の式(6)により求まる。
【数4】
Figure 0004260349
【0037】
上記式(6)中の無限極限は、適当に長い時間間隔Δtを意味するものと理解されなければならない。さらに、試料の熱事象は、測定の開始時の時間間隔Δtでは起こらないものと理解すべきである。
【0038】
上記の極限化計算処理により、加熱速度及び熱流の平均値Φ0及びβ0が決まる。これに代えて、以下の式(7)に従って平均化することにより決めることもできる。
【数5】
Figure 0004260349
【0039】
従って、時間間隔Δtの長さは、測定されたカーブの全長の各部分に対して最良の値とすることができる。時間間隔Δtの長さは、試料の特徴によって変えても良い。平均の熱流において変動が無いか又はごく僅かな変動だけがある部分においては、時間間隔Δtは、相対的に速い熱事象が起こる部分に比べて、長く設定しても構わない。
【0040】
動的成分は、平均成分を差し引くことにより、次の式(8)、(9)、(10)で求まる。
【数6】
Figure 0004260349
【0041】
図6は、350ケルビン度の温度において、ポリスチレン内の確率的に変化する励起によって生じる熱流及び加熱速度の動的成分を表わす。
【0042】
Figure 0004260349
路を特徴づける。図7は、図6の動的成分から計算された非修正緩和関数を示す。
【0043】
修正緩和関数は校正によって得られる。校正関数g(t)は、熱事象が生じない(例えば、測定開始時)温度で測定された相関関数と、加熱速度自己相関関数の
Figure 0004260349
式(11)による畳み込み処理で計算することができる。
【数7】
Figure 0004260349
【0044】
物理的観点から、全ての温度に対する緩和関数の知識は、十分且つ強力な情報である。時間に依存した処理を通して物理的モデルを検証し、試料の動的性状に関する情報を得ることは、特に好ましいことである。そのような広範囲な情報は、もし複数の周波数が用いられたとしても、周波数に依存した分析では得ることができない。
【0045】
もし試料の修正された緩和関数が分かっており、且つ非修正緩和が決まれば、校正関数を決めることができる。この関数を用いることにより、試料の熱伝達態様又は熱量測定が特徴付けられる。
【0046】
これに代わるもう一つの計算方法は、フーリエ変換である。この目的のために、確率的に変化する動的成分Φsは、最初は、フィルタリング又はその他の平均化処理により分離されていなければならない。測定された各時間間隔Δtにおいて、熱流の動的成分は、式(12)により、加熱速度の動的成分に関係する。
【数8】
Figure 0004260349
【0047】
上の畳み込み積分は、例えば、Φs(t,Tn)とβSIP(t,Tn)のフーリエ変換
Figure 0004260349
【数9】
Figure 0004260349
【0048】
校正の後、図8に示されるような曲線が得られた。図8は、ガラス転移領域中の各種温度におけるポリスチレンの複合熱容量の標準化された実部を示す。図8の中に挿入されている小さい図は、測定された曲線から得られた80mHzでの温度依存性を示す。
【0049】
他の計算方法は狭帯域バンドパスフィルターを使用することであり、これを用いることにより、測定された曲線から周波数依存パラメータを得ることができる個々の情報を取り出すことができる。
【0050】
更に他の方法は、測定装置のモデルを開発することである。このモデルは、装置内の熱流の微分方程式を導く。さらに、試料の物理的及び化学的性状のモデルが明らかにされる。得られた方程式は、測定装置の方程式と組み合わされる。微分方程式の解として、測定装置を表わすパラメータと試料を表わすパラメータとを含む方程式が得られる。測定装置を特徴付けるパラメータは実験的に決定されれば良い。そして、測定された熱流Φm又はこれに代わる確率的に変化するその動的成分Φsは、動的加熱速度βSIPを用いたモデル方方式に適用すれば良い。こうすることにより、試料を特徴付るパラメータを得ることができる。
【0051】
加熱状態の確率的変化をもたらす方法手段には種々のものがある。図9には、基本的には図1に示される装置に類似した装置が概略的に示されている。なお、同図には、図1の構成要素と一致する構成要素には、同じ参照番号を用いて示されている。図9の構成において、オーブンブロック1と一体的に形成された流路部材21は、オーブンブロック1の内部に突き出している。流路部材21の端部22はディスク様の形状をしており、試料パン6及び基準物質パン7をそれぞれ支持する。流路部材21はオーブンブロック1と同一の熱伝導材料からなり、オーブンブロック1と試料パン6との間、又はオーブンブロック1と基準物質パン7との間それぞれの熱結合を相当強いものとする。
【0052】
前記試料パン6及び基準物質パン7に近い位置の端部22に設けられる熱電対構造体23は、試料パン6と基準物質パン7との間の温度差を検出する。検出された温度差に応じた信号は、信号線8によって外部に送り出される。この温度差信号は差動熱流Φを表わす。オーブンブロック1内の白金温度計9からの信号は、オーブンの温度Tを表わす。
【0053】
装置は、図2〜図4に示され上で説明した方法の一つに従って制御されれば良い。これに代わるものとして、ヒータ(クーラー)2の加熱パワー(冷却パワー)Pは、P=P0(t)+FSIP(t)に従って制御されても良い。ここで、P0は定数、又は温度Tと差動熱流Φが測定され計算されている間の非確率的時間プログラムに従って変化しても良い。
【0054】
他の方法では、差動熱流は確率的関数として与えられても良く、そして、加熱パワーは温度Tが測定されている間、それに応じて制御される。
【0055】
図10に示す構成は図9に示す構成に相当するものであり、同一構成要素は同一参照符号又は番号で示されている。図10において、流路部材21の端部22には、試料パン6及び基準物質パン7のそれぞれに近い場所の温度T及びTを検出するための追加の温度センサーが設けられている。
【0056】
図9の装置を制御する上の方法は、図10に示す装置にも使用することができる。この場合、温度T、Tの何れか、又はこれらの温度の総和は、図9の代替例において制御変数又は測定変数として使用される温度Tに代わって使用することができる。
【0057】
図11に示される構成は、図10に示される構成の全ての要素を、同一の参照符号で示すものとして有している。図11の実施例において、ヒータ2は、非確率的基礎加熱のみを提供する第1加熱装置として動作する。さらに、基礎加熱を確率的に変化させるための第2加熱装置26,27が、試料パン6及び基準物質パン7のそれぞれに近い場所で、流路部材21の端部22のところに設けられている。第2加熱装置26,27によって与えられる確率的加熱パワーは、それぞれ、P、Pとして示されている。さらに、図11の例では、分離した熱電対23,23’が、試料パン6と基準物質パン7に設けられている。こうすることにより、試料パンと基準物質パンに関する熱流ΦとΦが検出され、分離して制御されて良い。図9又は図10を参照して説明した上の何れの制御方法を使用することもできる。
【0058】
図12の実施例は、図11の抵抗ヒータ26,27に代えて、第2の加熱装置として放射源を使用している。試料パン6及び基準物質パン7にそれぞれ位置合わせされた窓部28,29が、オーブンブロック1に形成されており、こうすることにより、これらの放射源が試料パン6及び基準物質パン7上に確率的に変化する加熱パワーP,Pを照射するようになっている。
【0059】
図9〜図12に示す構成において、流路部材21は熱流を伝導するために用いられており、その結果、熱源に対して試料と基準物質の熱結合を強固なものとする。これに対して、図13の構成は、オーブンブロック1の内部4の雰囲気を介して、試料6と基準物質7のオーブンブロック1への弱い熱結合のみを利用するものである。オーブンブロック1の温度Tは、ヒータ2の加熱パワーPを制御することにより、所望の温度プログラムに維持される。第2加熱装置26,27は、確率的な加熱を提供する。温度センサー24,25からの温度T,Tは、第2加熱装置26,27からの必要な加熱パワーP,Pが測定され且つ計算されている間、確率的に変化するように予め決められても良い。これに代えて、P,Pは、温度T及びT、又はそれらの組み合わせが測定され且つ計算されている間、確率的に変化する制御変数としても良い。
【0060】
種々の他の変更が行われても良い。特に、図12に類似する放射源は、図13の抵抗型ヒータに代えて、第2加熱装置26,27として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明による方法を遂行するための装置における主要部分の概略図である。
【図2】図2は図1の装置における熱源の制御のための手段の概略図である。
【図3】図3は制御手段の他の実施例を示す概略図である。
【図4】図4は制御装置の更に他の実施例を示す概略図である。
【図5】図5は熱流を時間の関数として表わす測定信号を示す図である。
【図6】図6は時間の関数として熱流の動的成分及び加熱速度をそれぞれ示す図である。
【図7】図7は非修正緩和関数を示す図である。
【図8】図8はガラス転移領域における異なる温度での、ポリスチレンの複合熱容量の実部を示す図である。
【図9】図9は図1の装置の変更例を示す図である。
【図10】図10は図1の装置の他の変更例を示す図である。
【図11】図11は図1の装置の更に他の変更例を示す図である。
【図12】図12は図1の装置の更に他の変更例を示す図である。
【図13】図13は図1の装置の更に他の変更例を示す図である。
【符号の説明】
1 オーブンブロック
2 ヒータ
3 蓋アセンブリ
4 内部
5 基板
6 試料パン
7 基準物質パン
8 信号線
9 温度計
10 信号線
11 パージガス供給パイプ
12 パージガス排出パイプ
13 ドライガス供給パイプ
14 冷却フランジ
15 冷却フィンガー
16 白金温度計
17 熱抵抗器
18 パワー制御装置
19 差動増幅器
20 フィルター
21 流路部材
22 端部
23,23’ 熱電対構造体
24,25 温度センサー
26,27 第2加熱装置
28,29 窓部

Claims (22)

  1. 物質を熱的に分析する方法であって、該方法は、
    前記物質の試料を提供する過程と、
    熱源を提供し、前記試料と前記熱源との間に熱流を生じさせる過程と、
    前記熱源の加熱条件を時間の関数として制御する過程と、
    前記試料と前記熱源との間の前記熱流を表わす信号と、前記熱流に関連した温度を表わす信号とを測定する過程と、
    前記測定した熱流の信号と温度の信号との間の関数関係を計算する過程とからなり、
    前記制御過程が前記加熱条件を確率的に変化させる過程を有する、
    ことを特徴とする分析方法。
  2. 請求項1記載の分析方法において、前記制御過程は、前記熱源を時間の関数として所定の温度となるようにさせる第1の制御入力と、前記第1の制御入力によって生じる前記熱源の加熱条件を確率的に変化させる第2の制御入力とに基づき遂行することを特徴とする分析方法。
  3. 請求項2記載の分析方法において、該方法は更に、
    前記熱源の温度を測定する過程と、
    前記第1の制御入力を前記第2の制御入力に重畳したものと、前記熱源の測定した温度との間の差を表わす信号を、前記熱源の加熱パワー制御信号として用いる過程と、
    を有することを特徴とする分析方法。
  4. 請求項2記載の分析方法において、該方法は更に、
    前記熱源の温度を測定する過程と、
    前記熱源の測定された温度をフィルタリングし、前記熱源の変化されていない加熱パワーに関連した平均温度を得る過程と、
    前記第2の制御入力と、前記第1の制御入力と前記平均温度との間の差とを重畳したものを表わす信号を、前記熱源の加熱パワー制御信号として用いる過程と、
    を有することを特徴とする分析方法。
  5. 請求項1乃至請求項4の何れかに記載の分析方法であって、前記熱流を表わす信号は、前記試料と前記熱源との間、及び前記基準物質と前記熱源との間の熱流の差に相当する差動信号であることを特徴とする分析方法。
  6. 請求項5記載の分析方法であって、前記基準物質の温度は、前記熱流に関連した前記温度を表わす信号として測定され且つ利用されることを特徴する分析方法。
  7. 請求項1乃至請求項6の何れかに記載の分析方法であって、前記測定された熱流信号と温度信号との間の関数関係を計算する前記過程は、
    選択された所定時間間隔において前記熱流に関連した、測定された前記温度から得られた測定された前記熱流と加熱速度のうちの少なくとも一方の平均成分を得る過程と、
    前記測定された熱流又は得られた加熱速度それぞれと、前記各得られた平均成分との間の差として、前記熱流と加熱速度のうちの少なくとも一方の動的成分を得る過程と、
    前記選択された時間間隔において、前記熱流に関連した前記測定された温度の平均温度を得る過程と、
    前記動的成分の少なくとも一つを前記得られた平均温度の関数として表わす過程と、
    を有することを特徴とする分析方法。
  8. 請求項7記載の分析方法において、前記熱流に関連して測定された前記温度から得られた測定された前記熱流と加熱速度のうちの少なくとも一方の平均成分を得る過程は、前記熱流と加熱速度の自己相関関数又は相互相関関数の少なくとも一方を計算する過程を有し、前記動的成分の少なくとも一つは、前記自己相関関数又は相互相関関数のそれぞれ一つと、前記自己相関関数又は相互相関関数の極限値との差として計算されることを特徴とする分析方法。
  9. 請求項8記載の分析方法において、該方法は更に、前記物質中に温度事象が無い所定の時間間隔に応じた、前記相関関数の少なくとも一つに基づいて校正関数を計算する過程を有することを特徴とする分析方法。
  10. 請求項9記載の分析方法において、前記物質の少なくとも一つの緩和関数は、前記校正関数と前記相関関数の少なくとも一つのの畳み込み積分として計算されることを特徴とする分析方法。
  11. 請求項7乃至請求項10の何れかに記載の分析方法において、熱流及び加熱速度の前記得られた動的成分は更に、フーリエ変換の手法によって計算されることを特徴とする分析方法。
  12. 請求項7記載の分析方法において、前記動的成分の少なくとも一つは、フィルタリングによって得られることを特徴とする分析方法。
  13. 請求項7記載の分析方法において、前記動的成分の少なくとも一つは、前記熱源の性状、及び前記試料と前記熱源との間の熱流路の性状を表わすモデル方程式から得られることを特徴とする分析方法。
  14. 物質を熱的に分析する装置であって、該装置は、
    熱源(1,2)と、
    試料位置(6)を有する試料ホルダー(5)であって、前記熱源(1,2)と前記試料位置(6)内の試料との間に熱流が生じるように構成されている試料ホルダー(5)と、
    前記熱源(1,2)の加熱条件を時間の関数として制御するための制御装置(18,19)と、
    前記試料位置内の前記試料と前記熱源との間の前記熱流を表わす信号を測定するための手段(8)と、
    前記熱流に関連した温度を表わす信号を測定するための手段(8)と、
    前記測定された熱流信号と温度信号との間の関数関係を計算する手段とを有し、
    前記制御装置が前記加熱条件を確率的に変化させるための手段を有することを特徴とする分析装置。
  15. 請求項14記載の分析装置において、前記制御装置は、前記熱源(1,2)の所定温度プログラムを時間の関数として表わす第1の制御信号(T)を設定するための手段と、前記第1の制御信号(T)によって生じる前記加熱パワーを確率的に変化させるために、時間において、確率的に変動する第2の制御信号(FSIP)を発生するための手段と、を有することを特徴とする分析装置。
  16. 請求項15記載の分析装置において、前記熱源(1,2)は、前記第1及び第2の制御信号(T,FSIP)が一方の入力に印加されると共に、前記熱源(1,2)の測定された温度(T)を表わす信号が他方の入力に印加されている差動増幅器(19)の出力信号によって制御されることを特徴とする分析装置。
  17. 請求項15記載の分析装置において、前記制御装置(18,19)は、前記熱源(1,2)の測定された温度を表わす信号がその入力側に印加され、そして前記熱源(1,2)の平均温度<T>を表わす信号をその出力側に生成するフィルタ(20)を有し、前記熱源(1,2)は、前記第1の制御信号(T)がその一方の入力側に印加されると共に、前記平均温度信号<T>が他方の入力側に印加されている差動増幅器(19)の出力信号に重畳される前記第2の制御信号(FSIP)によって制御されることを特徴とする分析装置。
  18. 請求項14乃至請求項17の何れかに記載の分析装置であって、該装置は更に、前記熱源(1,2)に熱結合された基準物質位置(7)を具えた基準物質ホルダー(5)であって、前記熱源(1,2)と前記基準物質ホルダー(7)内の基準物質との間の熱流の発生を可能とする基準物質ホルダー(7)と、前記試料位置と基準物質位置(6,7)との間の温度差を測定するための手段(8)と、を有することを特徴とする分析装置。
  19. 請求項14乃至請求項18の何れかに記載の分析装置であって、該装置は更に、熱伝導材料からなり、前記熱源(1,2)と、前記試料及び基準物質位置(6,7)の少なくとも一つとの間で前記熱流を伝達するための流路部材(21)を有することを特徴とする分析装置。
  20. 請求項14乃至請求項19の何れかに記載の分析装置において、前記熱源は、基本的な加熱を提供するために設けられた第1の加熱装置(2)と、前記第1の加熱装置(2)によって提供された前記基本加熱条件を確率的に変化させるために設けられた第2の加熱装置(26,27)とを有することを特徴とする分析装置。
  21. 請求項20記載の分析装置において、前記第2の加熱装置(26,27)は、前記試料及び基準物質位置(6,7)の少なくとも一つに対して、近接した空間関係をもって配置されていることを特徴とする分析装置。
  22. 請求項20記載の分析装置において、前記第2の加熱装置は、前記試料位置及び基準物質位置(6,7)の少なくとも一つの上に向けて設けられた放射源であることを特徴とする分析装置。
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