JP4254120B2 - 酸化キトサンの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、キトサンの酸化物の製造方法に関するものである。特に副反応を抑えて、水系で簡便な手法にて、構成単糖のピラノース環中、6位炭素を選択的に酸化してカルボキシル基又はその塩に変換し、キトサンの分子内にカルボキシル基とアミノ基の両方の官能基を有して、幅広いpH領域において水に容易に膨潤または溶解する酸化キトサンの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
キチンはカニやエビなどの甲殻類、カブトムシやコオロギなどの昆虫類の骨格物質として、また菌類や細胞壁にも存在し、N−アセチルD−グルコサミン残基が多数、β−(1,4)−結合した多糖類である。そして地球上でもっとも豊富な有機化合物であるセルロ−スと類似の構造を有し、2位の炭素に結合している水酸基の代わりにアセトアミド基が付加したアミノ多糖類(ムコ多糖類)である。キトサンはキチンを脱アセチル化して得られる多糖類で、グルコサミン残基またはN−アセチルグルコサミン残基がβ−(1,4)−結合した多糖類であり、グルコサミン残基に由来するカチオン性のアミノ基をもつ。
キチン・キトサンはセルロースと構造が類似しているが、一般に水不溶性である上、適正な溶媒が少ないことにより有効な利用がなされていない。
【0003】
一方、近年これらの天然多糖類は、新しいタイプの生分解性高分子材料として、また生体親和性材料として注目され、その利用について多くの研究がなされ、数々の知見が得られてきている。特にキチン・キトサンは、この分野においての研究が盛んで、創傷治癒促進効果、抗凝血作用、免疫賦活活性、静菌・抗菌活性などさまざまな生物活性効果が報告されている。更にまた、細胞認識やそれに伴う情報伝達機構など生体機能発現において、糖鎖が鍵物質として重要な役割を演じていることも明らかになりつつある。
【0004】
このような医用材料として利用する場合も、取扱い上の利便性、各種化学薬品、薬剤との相溶性、薬効の均一性、加工性等の観点から、広範なpH領域に於いて水溶性であることが望ましい。
キトサンは、酸性の水には塩を形成して溶解するが、中性からアルカリ性の水には難溶である。キチン、キトサンの水溶化の方法として、様々な誘導体化が知られているが、その殆どは置換基分布もばらばらで、構造が均一ではなく、また、誘導体化により導入した官能基が、生体に影響を及ぼす可能性は高いという問題があった。
【0005】
一方、酸化により水可溶化する手法も知られており、二酸化窒素などを用いた酸化方法など、目的の官能基のみを選択的に酸化するとされている方法もあるが、これらの酸化手法では有毒な試薬を用いる上、酸化の選択性も低く、特に酸化度を上げると必要な官能基以外も酸化してしまうことが多い。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、高い親水性や幅広いpH領域での水溶性が付与された高純度の酸化キトサンを得るための製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、キトサンの構成単糖であるグルコサミンまたはN−アセチルグルコサミン残基の1級水酸基が選択的に酸化されたウロン酸残基を有する酸化キトサンを、安全な試薬を用いて、温和な反応条件下で、副反応を抑えて、より効率よく製造する方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、キトサンの構成単糖であるグルコサミンのアミノ基をアセトアミド基に変換し、N−オキシル化合物触媒の存在下で、臭化アルカリ金属またはヨウ化アルカリ金属の存在下、酸化剤を用いて酸化し、然る後に、アルカリ又は酸又はヒドラジンを用いて脱アセチル化することにより、キトサンの構成単糖であるN−アセチルグルコサミン、またはグルコサミンのピラノース環中、6位炭素を選択的に酸化しカルボキシル基又はその塩に変換することを特徴とする酸化キトサンの製造方法である。
【0009】
請求項2記載の発明は、キトサンにアルデヒド基を有する物質を作用させて、キトサンの構成単糖であるグルコサミンのアミノ基をシッフ塩基化し、N−オキシル化合物触媒の存在下で、臭化アルカリ金属またはヨウ化アルカリ金属の存在下、酸化剤を用いて酸化し、然る後に酸を加えてシッフ塩基をアミノ基に戻すことにより、キトサンの構成単糖であるN−アセチルグルコサミン、またはグルコサミンのピラノース環中、6位炭素を選択的に酸化しカルボキシル基又はその塩に変換することを特徴とする酸化キトサンの製造方法である。
【0010】
請求項3記載の発明は、キトサンにフタル酸無水物を作用させて、キトサンの構成単糖であるグルコサミンのアミノ基をフタルイミド基に変換し、N−オキシル化合物触媒の存在下で、臭化アルカリ金属またはヨウ化アルカリ金属の存在下、酸化剤を用いて酸化し、然る後にヒドラジンによりフタルイミド基をアミノ基に戻すことにより、キトサンの構成単糖であるN−アセチルグルコサミン、またはグルコサミンのピラノース環中、6位炭素を選択的に酸化しカルボキシル基又はその塩に変換することを特徴とする酸化キトサンの製造方法である。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の詳細を説明する。
本発明の原料となるキトサンは、特に限定するものではないが、例えばキチンを脱アセチル化して得られるものがある。また、精製方法、重合度、脱アセチル化度等については特に限定されるものではない。また、粉末、フレーク、ゲル、繊維、フィルム、不織布などキトサンの形状においても特に限定されるものではない。
【0012】
一般的に、キチンは下記化学式(1)(Y:NHCOCH3)で表されるものを構成単糖として含む化合物である。キトサンは、一般的にキチンを脱アセチル化処理などを行い、下記化学式(1)中のYで示される部分のNHCOCH3をNH2に変換して得られるものを構成単糖として含む化合物である。本発明のキトサンは、脱アセチル化度が100%であるものだけではなく、下記化学式(1)中のYで示される部分として、NHCOCH3とNH2が混在しているものも含む。
【0013】
【化1】
【0014】
本発明では、キトサンのN−アセチルグルコサミン、またはグルコサミンのピラノース環中6位炭素の部分に、カルボキシル基を選択的に導入するために、水中で、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(以下TEMPOと称する)などのN−オキシル化合物触媒の存在下で、さらに臭化アルカリ金属またはヨウ化アルカリ金属の存在下、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸およびそれらの塩のうち少なくとも1種の酸化剤を用いて、アルカリを添加してpHを一定に保ちながら酸化(以下TEMPO触媒酸化と称する)する。
【0015】
しかし、前記化学式(1)中のアミノ基(Y:NH2)は、上記次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸およびそれらの塩等の酸化剤の作用を受け易いため、前記のピラノース環中6位炭素の部分に、カルボキシル基を導入するための選択的な酸化の妨げとなり、収率の低下や、低分子量化等を引き起こす。
【0016】
そこで本発明では、まずキトサンの構成単糖であるグルコサミンのアミノ基に置換基を導入して、前記酸化剤からアミノ基部分を保護した形で、TEMPO触媒酸化を行い、然る後にアミノ基を修飾した置換基をはずすことで、効果的に、キトサンのN−アセチルグルコサミン、またはグルコサミンのピラノース環中6位炭素の部分に、カルボキシル基を選択的に導入した酸化キトサンを得ることを特徴とするものである。
【0017】
本発明において、アミノ基を保護するために導入する置換基としては、特に制限するものではないが、キトサンのアミノ基に容易に導入できて、他の官能基(水酸基やアセトアミド基)への影響がないものであり、さらにこの置換基は、TEMPO触媒酸化において不活性であり、且つTEMPO触媒酸化の1級水酸基の選択的な酸化を妨げず、さらにTEMPO触媒酸化後に、容易に脱離してアミノ基に戻すことができ、その際TEMPO触媒酸化により導入されたカルボキシル基に対して作用しない特徴を持つものである。
【0018】
本発明では、上記アミノ基の保護の一例として、例えば、1)アミノ基にN−アセチル基を導入しアセトアミド基に変換する、2)アルデヒド基を有する物質を作用させて、アミノ基をシッフ塩基に変換する、3)フタル酸無水物を反応させて、アミノ基をN−フタロイル化すること、などが挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0019】
以下、キトサンのアミノ基の保護の例を説明する。
まず、前記1)の方法の説明をする。
キトサンのN−アセチル化の具体的な方法としては公知の様々な手法が利用できるが、一例としては、キトサンを希酢酸に溶解し、さらにメタノールで希釈して、キトサン中のアミノ基に対して1〜3倍molの無水酢酸を添加して、ゲル化させ、アルコール及び水で十分に洗浄する方法が挙げられる。
【0020】
このN−アセチル化したキトサンは、乾燥させずに水に分散させた状態で、そのままTEMPO触媒酸化に供することが可能である。また乾燥させて保存する場合には、凍結乾燥するか、アセトンやエーテルで水を完全に置換してから乾燥しておけば、前処理なく、再度水に分散させてTEMPO触媒酸化が可能である。
【0021】
ここで、キトサンをN−アセチル化するということは、前記化学式(1)中のYで示される部分のNH2をNHCOCH3に変換していることであり、キチンに戻す形となる。ここでキチンはTEMPO触媒酸化により、構成単糖であるN−アセチルグルコサミンの6位炭素の部分を選択的に酸化してカルボキシル基とすることが可能であり、アセトアミド基はTEMPO触媒酸化において全く影響を受けない。
【0022】
さらにTEMPO触媒酸化によりカルボキシル基を導入されたキチンも、キチンの脱アセチル化反応と同様に、アルカリ又は酸又はヒドラジンを用いて脱アセチル化することが可能である。この際脱アセチル化度は、処理温度や処理時間によりコントロールすることが可能である。ここでアセトアミド基は生体に体する安全性が高いことから、用途や要求される物性によっては、100%脱アセチル化する必要はなく、脱アセチル化度をコントロールすることができる。脱アセチル化度が20%〜100%であれば、カチオン性のアミノ基とアニオン性のカルボキシル基を有する両性多糖類としての可能性が期待できる。この点で、キトサンのTEMPO触媒酸化におけるアミノ基の保護基としてN−アセチル化は特に好ましいと言える。
【0023】
またさらに、キチンを原料にTEMPO触媒酸化する場合は、キチンの結晶性を低下させて、反応効率を上げるために、キチンを高濃度のアルカリで膨潤させてから中和して再生するという前処理が必要になる。高濃度のアルカリを使用する危険性や、中和に伴い発生する大量の塩の除去に要する労力が問題となるが、本発明のN−アセチル化したキトサンの場合、既に結晶性が低下していることから、上記前処理の問題点を解消できる利点も有する。
【0024】
次に前記2)の方法を説明する。
キトサンにアルデヒド基を有する物質を作用させると、下記の化学式(2)に示す物質が得られる。キトサンのアミノ基とアルデヒド基が反応して、N−メチレン化され、化学式(2)中のYがN=CHRとなったシッフ塩基を生成する。この反応は可逆的であり、形成されたシッフ塩基は、希塩酸或いは希酢酸で処理する事により容易にキトサンに戻すことができる。後述するようにTEMPO触媒酸化は、pH9〜13で行われるため、TEMPO触媒酸化反応中は、安定にシッフ塩基として存在してアミノ基を保護し、酸化反応終了後に系内を酸性にすることで、酸化により導入されたカルボキシル基から塩が外れるとともに、シッフ塩基はアミノ基に戻り、脱保護の操作が極めて容易であり、効果的に酸化キトサンを得ることができる。
【0025】
【化2】
【0026】
(Y:NHCOCH3又はNH2又はN=CHR(R:H又は炭素数1から6の低級アルキル基又はアリル基を示す))
【0027】
本発明におけるキトサンのシッフ塩基化に用いられるアルデヒド基を有する物質としては、特に限定されるものではないが、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アクロレイン等の脂肪族アルデヒド、およびベンズアルデヒド等の芳香族アルデヒド等が好ましく用いられる。
【0028】
キトサンのシッフ塩基化の具体的な方法としては、例えばキトサンを希酢酸に溶解し、必要に応じてメタノールで希釈して、キトサンのアミノ基に対して過剰量のアルデヒド基含有物質を添加し、生成したゲルをアルコールやエーテル等で洗浄し、過剰のアルデヒド基含有物質を除くことにより得られる。
【0029】
シッフ塩基化したキトサンは乾燥させずに水に分散して、TEMPO触媒酸化に供するか、凍結乾燥或いはアセトン、エーテル等で脱水後に乾燥したものを再度水に分散して用いることができる。
【0030】
次に3)の方法を説明する。
キトサンのN−フタロイル化の反応は無水反応であり、例えばキトサンをジメチルホルムアミド等の溶剤に分散させ、アミノ基の1〜3倍molのフタル酸無水物を加えて、窒素気流下で100〜150℃の温度で数時間加熱することで、キトサンはN−フタロイル化され完全に溶解する。この溶液を氷水に注いで沈殿を析出させ、アルコールやエーテルで洗うと、下記の化学式(3)に示すN−フタロイル化キトサンが得られる。
【0031】
【化3】
【0032】
(Y:NHCOCH3又はNH2)
【0033】
キトサンのN−フタロイル化反応では、系内に水が存在すると反応効率が低下するため、原料キトサンは十分脱水したものを用いるのが好ましい。
【0034】
この反応は定量的に進み、すべてのアミノ基をフタルイミド基に変換できる。N−フタロイル化されたキトサンは、水に分散して、後述のTEMPO触媒酸化に供される。ここでフタルイミド基は、TEMPO触媒酸化反応中安定であり、酸化後にヒドラジンを作用させることで、容易にフタルイミド基をアミノ基に戻すことができる。この際原料キトサン中に存在したアセトアミド基もアミノ基に変換されることから、より効果的に酸化キトサンを得ることができる。
【0035】
以下本発明のTEMPO触媒酸化方法について説明する。
前記のアミノ基を保護したキトサンは、水中に分散され、TEMPOなどのN−オキシル化合物(オキソアンモニウム塩)を触媒として、臭化アルカリ金属またはヨウ化アルカリ金属の存在下、次亜ハロゲン酸,亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸およびそれらの塩のうち少なくとも1種の酸化剤を用いて、アルカリを添加してpHを一定に保ちながら酸化する。この酸化方法では、酸化の程度に応じて、カルボキシル基を均一かつ効率よく導入できる。
【0036】
ここで、N−オキシル化合物は触媒量で済み、例えば、上記キトサンの構成単糖のモル数に対し、10ppm〜5%あれば充分であるが、0.05%から3%が好ましい。
【0037】
さらに酸化剤としては、上記した以外でも、ハロゲン、次亜ハロゲン酸,亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、目的の酸化反応を推進し、アミノ基の保護基として導入した置換基に影響しない範囲で、いずれの酸化剤も使用することができる。
【0038】
さらに本酸化反応においては、臭化アルカリ金属やヨウ化アルカリ金属との共存下で酸化反応を行うことで、温和な条件下で円滑に酸化反応を進行させ、カルボキシル基の導入効率を大きく改善できる。臭化アルカリ金属やヨウ化アルカリ金属の使用量は、例えば、キトサンの構成単糖のモル数に対し0〜100%である。しかし、反応効率の点から、1〜50%が好ましい。
【0039】
また、キトサンのピラノース環中のC6位1級水酸基への酸化の選択性を上げ、副反応を抑える目的で、反応温度は室温以下、より好ましくは系内を5℃以下で反応させることが望ましい。
【0040】
さらに、本発明のTEMPO触媒酸化では、反応中は系内をアルカリ性に保つことが好ましい。この時のpHは9〜13、より好ましくはpH10〜12に保つとよい。更に、本発明の酸化方法では、このpHを一定に保つ際に添加されるアルカリの量により酸化度を制御できる事が一つの特徴であり、キトサンの構成単糖1モルに対し、添加するアルカリが1モルとなるところが酸化度100%となり、(アミノ基を保護された)グルコサミンまたはN−アセチルグルコサミン残基の全てが酸化され、C6位の一級水酸基がほぼ100%カルボキシル基となる。
【0041】
このように酸化された後に、前記したアミノ基の脱保護の処理が施され、必要に応じて、精製、乾燥され、下記化学式(4)に示されるような構造を構成単糖とする酸化キトサンが得られる。本発明の製造方法により得られる酸化キトサンは、非常に高い選択性で1級水酸基と還元末端のみが酸化されており、2級水酸基やアミンの酸化は見られない。酸化キトサンは、キトサンの構成単糖であるグルコサミンまたはN−アセチルグルコサミン残基のC6位が酸化されたウロン酸構造を有する為、1分子内、1ユニット内にアニオン性とカチオン性の両方の官能基をもち、両性高分子としての利用が期待できる。更に、酸化キトサンは天然物由来の高分子で、生成したウロン酸も安全性が高く、食品、化粧品などの分野はもちろん、生体材料などとして、医療・医薬分野での利用も期待できる。
【0042】
【化4】
【0043】
(Z:CH2OH又はCOOX(X:H又はアルカリ金属又はアルカリ土類金属)、Y:NHCOCH3又はNH2)
【0044】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
<実施例1>
原料となるキトサンにはフレーク状の市販のキトサン(脱アセチル化度約75%)を用いた。10%酢酸にキトサン5gを5%濃度になるように溶解し、メタノール500mLを静かに加えて希釈した。この溶液に無水酢酸4.8gを添加した。数分でゲル化するが、そのまま一晩放置し、ゲルを濾過して、2Lのメタノール中に懸濁し、過剰の酢酸を除く。さらにメタノール、水を用いて十分に洗浄した。
このN−アセチル化キトサンを水に分散させ、TEMPO 0.1g、臭化ナトリウム 2.4gを溶解させた水溶液を加え、N−アセチル化化キトサンの固形重量の全体に対する濃度が約2wt%になるよう調製した。反応系を冷却し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(Cl=5%)45gを添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。6位の1級水酸基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量61.68mLに達した時点で、エタノールを添加して反応を停止させ、この溶液を3Lのエタノール中に注ぎ、沈殿を析出させた。この沈殿を、水:アルコール=2:8溶液により充分洗浄した後、アセトンで脱水し、40℃で乾燥させ、酸化度100%の酸化キチン(N−アセチル化キトサン)を得た。
得られた酸化物の5%水溶液に、濃水酸化ナトリウム水溶液を加え、水酸化ナトリウム濃度10%の水溶液とした。この水溶液を20℃で20時間攪拌し、塩酸で中和した後、多量のエタノールで沈殿させ、水:アセトン=1:7溶液で数回脱塩、洗浄し、アセトンで脱水し、40℃で乾燥させて、脱アセチル化度50%、酸化度100%の酸化キトサン 4.5gを得た。
【0045】
得られた酸化キトサンをKBr錠剤法により赤外分光スペクトルを測定し、構造を解析した。その結果、IRスペクトルからは、1620、1420cm-1付近にカルボキシル基(ナトリウム塩)由来のピークが観測された。酸化によりカルボキシル基が導入されていることが確認され、脱アセチル化処理によっても導入されたカルボキシル基が影響を受けない事が確認された。
また、得られた酸化キトサンは完全に水に溶解した。この酸化キトサンを重水に溶解し、1H−NMRおよび13C−NMRを測定した。13C−NMRスペクトルから、1級水酸基をもつC6位のピークが無くなり、175−178ppmにキトサンの元々持つアセチル基のカルボニルピークの他に、導入されたカルボキシル基(ナトリウム塩)のカルボニルピーク(グルコサミン残基についているものとN−アセチルグルコサミン残基についているもの2本)が観測され、3位の酸化によるケトンの生成などは認められなかった。さらに1H−NMRスペクトルから、脱アセチル化により生じたグルコサミン残基の2位のプロトンを示す2.9ppm付近のピークが確認された。このピークとN−アセチルグルコサミン残基のアセチル基のメチルプロトンのピーク(2.0ppm付近)から、前記したように脱アセチル化度50%を確認した。
【0046】
<実施例2>
原料となるキトサンにはフレーク状の市販のキトサン(脱アセチル化度約75%)を用いた。2%酢酸にキトサン5gを2%濃度になるように溶解し、35%ホルムアルデヒド溶液(ホルマリン)20gを添加し攪拌した。1時間程度でゲル化するので、このゲルを2Lのメタノール中に懸濁し、過剰のホルムアルデヒドを除いた。さらにメタノール、水を用いて十分に洗浄した。
このシッフ塩基化したキトサンを水に分散させ、TEMPO 0.1g、臭化ナトリウム 2.4gを溶解させた水溶液を加え、シッフ塩基化キトサンの固形重量の全体に対する濃度が約2wt%になるよう調製した。反応系を冷却し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(Cl=5%)45gを添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。6位の1級水酸基の全モル数に対し、70%のモル数に対応するアルカリ添加量43.17mLに達した時点で、エタノールを添加して反応を停止させ、この溶液を3Lのエタノール中に注ぎ、沈殿を析出させた。この沈殿を、水:アルコール=2:8溶液により充分洗浄した後、アセトンで脱水し、40℃で乾燥させ、再度水に溶解させて、pH1.0になるまで1N−塩酸を添加した。この溶液を再び3Lのエタノール中で析出させ、この沈殿を、水:アルコール=2:8溶液により充分洗浄した後、アセトンで脱水し、40℃で乾燥させて、酸化度70%の酸化キトサン 3.4gを得た。
【0047】
得られた酸化キトサンをKBr錠剤法により赤外分光スペクトルを測定し、構造を解析した。その結果、IRスペクトルからは、1740cm-1付近にカルボキシル基由来のピークが観測された。酸化によりカルボキシル基が導入されていることが確認され、酸処理によりナトリウム塩がはずれたカルボキシル基が導入されている事が確認された。
また、得られた酸化キトサンは完全に水に溶解した。この酸化キトサンを重水に溶解し、1H−NMRおよび13C−NMRを測定した。13C−NMRスペクトルから、1級水酸基をもつC6位のピークが減少し、175−178ppmにキトサンの元々持つアセチル基のカルボニルピークの他に、導入されたカルボキシル基のカルボニルピーク(グルコサミン残基についているものとN−アセチルグルコサミン残基についているもの2本)が観測され、3位の酸化によるケトンの生成などは認められなかった。さらに1H−NMRスペクトルから、酸処理によりシッフ塩基がアミノ基の塩酸塩に変換されて生じたグルコサミン残基の2位のプロトンを示す3.2ppm付近のピークが確認された。このピークとN−アセチルグルコサミン残基のアセチル基のメチルプロトンのピーク(2.0ppm付近)から、脱アセチル化度を計算すると原料キトサン同様に75%であり、シッフ塩基は全てアミノ基に変換されていることを確認した。
【0048】
<実施例3>
原料となるキトサンにはフレーク状の市販のキトサン(脱アセチル化度約75%)を用いた。キトサン5gを100mLのジメチルホルムアミドに分散し、フタル酸無水物10.0gを加え、窒素気流下で130℃に加熱し、6時間反応させた。キトサンは完全に溶け込み、均一な溶液となる。この溶液を氷水に注ぎ、生成する沈殿を熱エタノール、次いでエーテルで洗い、乾燥した。
このN−フタロイル化キトサンを水に分散させ、TEMPO 0.1g、臭化ナトリウム 2.4gを溶解させた水溶液を加え、シッフ塩基化キトサンの固形重量の全体に対する濃度が約2wt%になるよう調製した。反応系を冷却し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(Cl=5%)45gを添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。6位の1級水酸基の全モル数に対し、90%のモル数に対応するアルカリ添加量55.51mLに達した時点で、エタノールを添加して反応を停止させ、この溶液を3Lのエタノール中に注ぎ、沈殿を析出させた。この沈殿を、水:アルコール=2:8溶液により充分洗浄した後、アセトンで脱水し、40℃で乾燥させ、酸化度90%のN−フタロイル化キトサンの酸化物を得た。
得られた酸化物を、1%ヒドラジン硫酸塩を含む30%含水ヒドラジン中で、96℃で6時間加熱した。この溶液を多量のエタノール中に注ぎ、沈殿を生成させ、水:アセトン=1:7溶液で十分に洗浄し、アセトンで脱水し、40℃で乾燥させて、酸化度90%の酸化キトサン 4.1gを得た。
【0049】
得られた酸化キトサンをKBr錠剤法により赤外分光スペクトルを測定し、構造を解析した。その結果、IRスペクトルからは、1620、1420cm-1付近にカルボキシル基(ナトリウム塩)由来のピークが観測された。酸化によりカルボキシル基が導入されていることが確認され、脱保護のためのヒドラジン処理によっても導入されたカルボキシル基が影響を受けない事が確認された。
また、得られた酸化キトサンは完全に水に溶解した。この酸化キトサンを重水に溶解し、1H−NMRおよび13C−NMRを測定した。13C−NMRスペクトルから、1級水酸基をもつC6位のピークがほぼ無くなり、175−178ppmにキトサンの元々持つアセチル基のカルボニルピークの他に、導入されたカルボキシル基(ナトリウム塩)のカルボニルピーク(グルコサミン残基についているものとN−アセチルグルコサミン残基についているもの2本)が観測され、3位の酸化によるケトンの生成などは認められなかった。さらに1H−NMRスペクトルから、ヒドラジン処理によりフタルイミド基がアミノ基に変換されて生じたグルコサミン残基の2位のプロトンを示す2.9ppm付近のピークが確認された。このピークとN−アセチルグルコサミン残基のアセチル基のメチルプロトンのピーク(2.0ppm付近)から、脱アセチル化度を計算すると原料キトサン同様に75%であり、フタルイミド基は全てアミノ基に変換されていることを確認した。
【0050】
<比較例1>
原料となるキトサンにはフレーク状の市販のキトサン(脱アセチル化度約75%)を用いた。キトサンの2%酢酸水溶液を水酸化ナトリウムで中和して、脱塩のために水洗した。この中和再生キトサン5gを水中に分散させ、TEMPO 0.1g、臭化ナトリウム 2.4gを溶解させた水溶液を加え、キトサンの固形重量の全体に対する濃度が約2wt%になるよう調製した。反応系を冷却し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(Cl=5%)45gを添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。6位の1級水酸基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量61.68mLに達した時点で、エタノールを添加して反応を停止させ、この溶液を3Lのエタノール中に注ぎ、沈殿を析出させた。この沈殿を、水:アルコール=2:8溶液により充分洗浄した後、アセトンで脱水し、40℃で乾燥させ、比較例1の酸化物を得た。
【0051】
得られた酸化物は0.5gと極めて収量が少なかった。この酸化物を重水に溶解し、1H−NMRおよび13C−NMRを測定した。13C−NMRスペクトルからは、導入されたカルボキシル基(ナトリウム塩)のカルボニルピークが観測されたものの、未酸化のグルコサミン残基の6位炭素に由来するピークも残存しており、十分に酸化が進んでいないことが伺える。また1H−NMRスペクトルから、グルコサミン残基の2位のプロトンを示すピークが減小しており、グルコサミン残基のC2位に付いたアミノ基が、酸化により変化していることが予想された。
【0052】
【発明の効果】
本発明によれば、温和な反応条件下で簡便な方法により、キトサンを均一かつ効率よくその構成単糖であるグルコサミンまたはN−アセチルグルコサミンの2位や3位の炭素を酸化することなく、6位炭素のみを酸化し、カルボキシル基に変換でき、医薬分野あるいは化粧品分野など様々な分野において有用な、高い親水性や幅広いpH領域での水溶性が付与された高純度の酸化キトサンを得る事ができる。
また、これらの、水溶化した酸化キトサンは、含浸、塗工はもちろん、成形性にも優れ、繊維、膜など任意の形状に加工できる。
本発明の酸化キトサンは分子内にカチオン性であるアミンとアニオン性であるカルボキシル基の両方の官能基を有するため、両性高分子としての利用が期待できる。更に、酸化キトサンは天然物由来の高分子で、生成したウロン酸も安全性が高く、食品、化粧品などの分野はもちろん、生体材料などとして、医療・医薬分野での利用も期待できる。
Claims (3)
- キトサンの構成単糖であるグルコサミンのアミノ基をアセトアミド基に変換し、N−オキシル化合物触媒の存在下で、臭化アルカリ金属またはヨウ化アルカリ金属の存在下、酸化剤を用いて酸化し、然る後に、アルカリ又は酸又はヒドラジンを用いて脱アセチル化することにより、キトサンの構成単糖であるN−アセチルグルコサミン、またはグルコサミンのピラノース環中、6位炭素を選択的に酸化しカルボキシル基又はその塩に変換することを特徴とする酸化キトサンの製造方法。
- キトサンにアルデヒド基を有する物質を作用させて、キトサンの構成単糖であるグルコサミンのアミノ基をシッフ塩基化し、N−オキシル化合物触媒の存在下で、臭化アルカリ金属またはヨウ化アルカリ金属の存在下、酸化剤を用いて酸化し、然る後に酸を加えてシッフ塩基をアミノ基に戻すことにより、キトサンの構成単糖であるN−アセチルグルコサミン、またはグルコサミンのピラノース環中、6位炭素を選択的に酸化しカルボキシル基又はその塩に変換することを特徴とする酸化キトサンの製造方法。
- キトサンにフタル酸無水物を作用させて、キトサンの構成単糖であるグルコサミンのアミノ基をフタルイミド基に変換し、N−オキシル化合物触媒の存在下で、臭化アルカリ金属またはヨウ化アルカリ金属の存在下、酸化剤を用いて酸化し、然る後にヒドラジンによりフタルイミド基をアミノ基に戻すことにより、キトサンの構成単糖であるN−アセチルグルコサミン、またはグルコサミンのピラノース環中、6位炭素を選択的に酸化しカルボキシル基又はその塩に変換することを特徴とする酸化キトサンの製造方法。
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