JP4321007B2 - 多糖類複合体及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、生分解性、生体親和性に優れる天然物由来の多糖類に、薬剤成分を担持させた多糖類複合体に関するものであり、また、水系での簡便な製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
医療、医薬、農薬等の分野において、薬剤の薬効を十分に発揮し、副作用を抑えるために、薬剤を特定の部位にて必要な時間、有効量を放出するシステムに対する要求は極めて高い。従来から、薬剤成分を担体に担持させる様々な試みが成されている。
【0003】
担体物質には、薬剤の放出速度を制御できるだけではなく、生分解性や生体親和性等が要求される。この担体として、ポリカチオン性物質とポリアニオン性物質からなるポリイオンコンプレックス材料は、水系で容易に調製できて、水に不溶な物質が得られることから、従来から様々な提案がなされている(特開平6−100468号公報、特開平7−33682号公報、特開11−130697号公報、特開2002−638号公報等)。例えば、天然物であるヒアルロン酸やコンドロイチン、キチン、キトサン、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、デキストラン等の多糖類、及びカルボキシメチルセルロース等の多等類誘導体、またゼラチンやポリアミノ酸及びポリペプチド及びタンパク質、さらにはポリアクリル酸等の合成高分子を利用したポリイオンコンプレックスがある。
【0004】
しかし、合成高分子は、分子内でのカチオン性基或いはアニオン性基のコントロールが可能で、様々な物性のポリイオンコンプレックスを調製し易い反面、生分解性や生体親和性に乏しく、適用範囲が限定される。
また生分解性や、生体親和性に優れる天然材料も、タンパク質材料はヒトや動物由来のウイルス感染の危険性があり、また、天然多糖類は、天然物故にカチオン性、或いはアニオン性の官能基のコントロールはできず、多様な要求物性に対応するポリイオンコンプレックスを形成することが難しいという欠点を有する。
さらにカルボキシメチルセルロース等の従来の多糖類誘導体では、置換度はコントロールできても、分子内、或いは分子間での置換基分布がバラバラであり、生体内での分解や代謝の機序が明確ではないという問題点を有していた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ウイルス感染等の危険性が無く、生分解性、生体親和性に優れ、化学構造が明確な構成単糖よりなる多糖類材料から形成されたポリイオンコンプレックスに、薬剤成分を担持させた多糖類複合体、及びその、水系での安全性の高い簡便な製造方法を提供することにある。
さらに本発明の目的は、ポリイオンコンプレックスを形成するアニオン性のカルボキシル基、およびカチオン性のアミノ基の制御が可能で、薬剤の放出速度及び担体自体の物性もコントロールし易い多糖類複合体、およびその製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、酸化により多糖類のピラノース環の6位にカルボキシル基を導入したCOOH型の酸化多糖類と、構成単糖であるグルコサミンとN−アセチルグルコサミンの比率が45:55から55:45の範囲にあり対イオンを持たないキトサンと、少なくとも1種類以上の薬剤成分からなることを特徴とする多糖類複合体である。
【0007】
請求項2の発明は、前記酸化多糖類と前記キトサンによりポリイオンコンプレックス構造を形成されていることを特徴とする請求項1に記載の多糖類複合体である。
【0008】
請求項3の発明は、前記酸化多糖類が、水に溶解又は分散させた多糖類を水系で、N−オキシル化合物の触媒の存在下、酸化剤を用いて酸化する方法により得られ、かつ多糖類のピラノース環中6位の1級水酸基が、選択的に酸化されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の多糖類複合体である。
【0010】
請求項4の発明は、前記薬剤成分が、医薬成分であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の多糖類複合体である。
【0011】
請求項5の発明は、前記薬剤成分が、農薬、抗菌剤、防カビ剤、防虫剤、芳香剤のいずれかであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の多糖類複合体である。
【0012】
請求項6の発明は、少なくとも1種類以上の薬剤成分を溶解または分散させた水溶液中に、多糖類のピラノース環の6位にカルボキシル基を導入したCOOH型の酸化多糖類と、構成単糖であるグルコサミンとN−アセチルグルコサミンの比率が45:55から55:45の範囲にあり対イオンを持たないキトサンを添加することにより、ポリイオンコンプレックスを形成させて水不溶化するとともに、前記薬剤成分を包含させてなることを特徴とする多糖類複合体の製造方法である。
【0013】
請求項7の発明は、多糖類のピラノース環の6位にカルボキシル基を導入したCOOH型の酸化多糖類と、構成単糖であるグルコサミンとN−アセチルグルコサミンの比率が45:55から55:45の範囲にあり対イオンを持たないキトサンと、少なくとも1種類以上の薬剤成分を共に溶解又は分散させた水溶液を、酸又はアルカリで中和処理することにより、酸化多糖類とキトサンのポリイオンコンプレックスを形成させて水不溶化するとともに、前記薬剤成分を包含させてなることを特徴とする多糖類複合体の製造方法である。
【0014】
請求項8の発明は、多糖類のピラノース環の6位にカルボキシル基を導入したCOOH型の酸化多糖類、及び構成単糖であるグルコサミンとN−アセチルグルコサミンの比率が45:55から55:45の範囲にあり対イオンを持たないキトサンを溶解又は分散させた水溶液を予め別々に調製しておき、その一方或いは双方、或いは両水溶液とは別に、少なくとも1種類以上の薬剤成分を溶解或いは分散させ、各水溶液を混合することでポリイオンコンプレックスを形成させて水不溶化するとともに、前記薬剤成分を包含させてなることを特徴とする多糖類複合体の製造方法である。
【0015】
請求項9の発明は、前記酸化多糖類が、水に溶解又は分散させた多糖類を水系で、N−オキシル化合物の触媒の存在下、酸化剤を用いて酸化する方法により得られ、かつ天然多糖類のピラノース環中6位の1級水酸基を選択的に酸化されてなることを特徴とする請求項6から8のいずれかに記載の多糖類複合体の製造方法である。
【0017】
請求項10の発明は、前記薬剤成分が、医薬成分であることを特徴とする請求項6から9のいずれかに記載の多糖類複合体の製造方法である。
【0018】
請求項11の発明は、前記薬剤成分が、農薬、抗菌剤、防カビ剤、防虫剤、芳香剤のいずれかであることを特徴とする請求項6から9のいずれかに記載の多糖類複合体の製造方法である。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の詳細を説明する。
本発明の多糖類複合体は、選択性の高い酸化方法により多糖類のピラノース環の6位にカルボキシル基又はその塩を導入した酸化多糖類をポリアニオン成分とし、構成単糖であるN−アセチルグルコサミンとグルコサミンの比率をコントロールしたキトサンをポリカチオン成分として、両者のポリイオンコンプレックスを形成して、少なくとも1種類以上の薬剤成分を包含させてなることを特徴とするものである。
【0020】
先ず、本発明においてポリイオンコンプレックスを形成するためのポリアニオン成分となる酸化多糖類について説明する。本発明に用いられる酸化多糖類は、天然多糖類のピラノース環の6位を選択的に酸化し、カルボキシル基またはその塩を導入したウロン酸構造を有する多糖類である。原料の天然多糖類としては、その種類、由来などは特に限定されるものではないが、ほとんど単一の構成単糖が直鎖状に連なったセルロース、キチン、デンプン等は、原料の調達、酸化処理の容易さ、また酸化により生成するウロン酸の安全性の観点から、特に好ましい。
【0021】
本発明に用いられる酸化多糖類は、カルボキシメチル化など多糖類への誘導体化によるカルボキシル基の導入とは異なり、1つのピラノース環内に1つだけ6位に選択的にカルボキシル基が導入され、分子間、分子内での分布が均一であり、且つ、水酸基へエステル結合またはエーテル結合により置換基を導入するものではない為、ポリイオンコンプレックスを形成する際の立体障害による影響が少ない。また、生体内外で分解された後の置換基の影響がない。例えばセルロースが酸化されたものはセロウロン酸と呼ばれ、グルクロン酸がβ−1,4結合で連なっている。デンプンが酸化されたものはアミロウロン酸と呼ばれ、グルクロン酸がα−1,4結合で連なっている。キチンが酸化されたものはキトウロン酸または6−オキシキチンと呼ばれ、N−アセチルグルコサミノウロン酸(N−アセチルグルコサミンの6位炭素がカルボキシル基になったもの)がβ−1,4結合で連なっている。
【0022】
天然にもアルギン酸、ペクチン、ヒアルロン酸などウロン酸類は存在するが、主にヘテロ多糖類が多く、天然物故に糖残基の分布や導入される側鎖の影響など、制御不能な部分が多く、本発明のポリアニオン成分としては好ましくない。本発明に用いられるポリアニオン成分は、酸化度を制御してウロン酸の割合をコントロールした酸化多糖類であることが一つの特徴である。
【0023】
以下、本発明の酸化多糖類を得る為の酸化方法について述べる。
本発明における酸化方法はN−オキシル化合物などの触媒の存在下で、水に溶解又は分散させた多糖類を水系で処理することを特徴とするもので、多糖類のピラノース環の6位を選択的に酸化して、カルボキシル基又はその塩を導入することができる。
【0024】
本発明の酸化多糖類は、N−オキシル化合物(オキソアンモニウム塩)の存在下、酸化剤を用いて、原料の多糖類を酸化することにより得ることができる。N−オキシル化合物としては、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(以下TEMPOと称する)などが挙げられる。この酸化方法では、酸化の程度に応じて、カルボキシル基を均一かつ効率よく導入できる。N−オキシル化合物は触媒としての量で済み、例えば、多糖類の構成単糖のモル数に対し、10ppm〜5%あれば充分であるが、0.05%から3%が好ましい。
【0025】
酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸,亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、目的の酸化反応を推進し得る酸化剤であれば、いずれの酸化剤も使用できる。
【0026】
さらに本酸化方法では、臭化物やヨウ化物との共存下で酸化反応を行うと、温和な条件下でも酸化反応を円滑に進行させることができ、カルボキシル基の導入効率を大きく改善できる。この臭化物又はヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択でき、例えば、多糖類の構成単糖のモル数に対し0〜100%である。しかし、反応効率の点から、1〜50%が好ましい。
【0027】
本発明における多糖類の酸化方法では、例えばN−オキシル化合物にはTEMPOを用い、臭化ナトリウムの存在下、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを用いて行うのが特に好ましい。
【0028】
また、構成単糖残基の1級水酸基への酸化の選択性を上げ、副反応を抑える目的で、反応温度は室温以下、より好ましくは系内を5℃以下で反応させることが望ましい。さらに、反応中は系内をアルカリ性に保つことが好ましい。この時のpHは9〜13、より好ましくはpH10〜12に保つとよい。
【0029】
ここで、この酸化方法はpHを一定値に保つ際に添加されるアルカリの量により酸化度を制御できることを特徴としている。糖残基1モルに対し、添加するアルカリが1モルであると、全ての糖残基中6位の一級水酸基がカルボキシル基にまで酸化される。
従って、アルカリや前記酸化剤の添加量を少なくして、カルボキシル基の導入量を少なくすれば、ポリイオンコンプレックスを形成する際の酸化多糖類とキトサンとの接点が少なくなり、多糖類複合体の物性を制御することが可能である。
【0030】
また、原料となる多糖類の結晶性が高い場合、酸化効率が悪くなるが、それぞれの溶解し得る溶媒に一旦溶解させ、再生処理を施すことで、酸化効率を改善することができる。
【0031】
また、酸化多糖類の6位カルボキシル基は、ナトリウム塩など塩で存在する方が安定であり、これらの酸化多糖類の塩は水溶性が高い。またこの酸化多糖類塩の水溶液に塩酸などの酸を添加するか、イオン交換樹脂で処理することにより、脱塩したCOOH型の酸化多糖類を得ることができる。特に、前記したアミロウロン酸、及びキトウロン酸(または6−オキシキチン)は、COOH型でも水溶性を示す。
【0032】
続いて、本発明においてポリイオンコンプレックスを形成するためのポリカチオン成分となるキトサンについて説明する。
N−アセチルグルコサミンと、グルコサミンがβ−1、4グリコシド結合した多糖で、一般にグルコサミンの割合が高いものをキトサン、N−アセチルグルコサミンの割合が高いものをキチンという。キチンは蟹やエビの骨格物質として、また菌類などの細胞壁に存在し、脱灰、除タンパク、脂質および色素の除去などの精製工程を経て得られるものであり、キトサンはこれらの工程と同時か、或いは上記工程で得られたキチンを、さらに酸やアルカリで加水分解して脱アセチル化処理することにより得られるのが一般的である。また、構成単糖であるN−アセチルグルコサミンとグルコサミンは生体内にも存在し、生体内外において容易に分解し、その安全性は高いと言える。
【0033】
本発明に用いられるキトサンとしては、上記した一般的なキトサンが適用可能であり、原料や精製方法、重合度等については特に限定されるものではない。また、構成単糖中のグルコサミンの割合は20から100%であることが望ましい。グルコサミンはカチオン性の遊離のアミノ基を有するため、この割合は本発明の多糖類複合体の物性を制御する上で重要な因子となるものである。
【0034】
N−アセチルグルコサミンとグルコサミンの割合、つまりN−アセチル基とアミノ基の割合は、酸やアルカリでの加水分解による脱アセチル化や、逆に無水酢酸などを用いたN−アセチル化の手法により制御可能である。脱アセチル化反応においては加水分解の反応時間により、N−アセチル化反応においては試薬の添加量により、アミノ基の割合を制御できる。
【0035】
ここで、キトサンは希酸溶液に対して塩を形成して溶解するが、中性からアルカリ性では水不溶である。しかしグルコサミンとN−アセチルグルコサミンの比率が、45:55から55:45の範囲では幅広いpH領域で水に可溶であることが知られている。この水溶性キトサンを調製する場合は、均一系でのN−アセチル化或いは脱アセチル化を行うことが重要となる。
【0036】
この水溶性キトサンは、幅広いpH領域の水に可溶なため、酸性溶液ではもちろん、前記ウロン酸塩のアルカリ性を示す水溶液中でも溶解し、アルカリ性水溶液でもウロン酸とキトサンの均一な分布の複合体を製造することができる。
【0037】
また、この水溶性キトサンを対イオンなく水に溶解させたものと、ウロン酸のCOOH型を用いてポリイオンコンプレックスを形成させた複合体は、対イオンの除去作業を必要とせず、工程を短縮できるとともに、生体内における塩の影響もない。
【0038】
ここで、キトサンのグルコサミンとN−アセチルグルコサミンの比率は、一般に脱アセチル化度或いはN−アセチル化度((N−アセチル化度(%))=100%−(脱アセチル化度(%)))と呼ばれるが、コロイド滴定や、KBr錠剤法による赤外分光法(IR)、或いは酸性溶液に溶解して核磁気共鳴分光法(NMR)などにより求めることができる。
【0039】
次に、本発明に用いられる薬剤成分としては、本発明のポリイオンコンプレックスに担持させ得るものであれば、種類や形態は、特に限定されるものではないが、医薬、農薬、抗菌剤、防カビ剤、防虫剤、芳香剤等の薬剤成分が好ましく用いられる。これらの薬剤成分は1種類を単独で或いは2種類以上を組み合わせて用いることが可能である。
【0040】
例えば医薬成分としては、抗炎症薬、抗てんかん薬、睡眠鎮静薬、解熱鎮痛薬、興奮薬、覚醒薬、鎮暈薬、中枢神経用薬、骨格筋弛緩薬、自律神経薬、自律神経遮断薬、末梢神経系用薬、眼科用薬、感覚器官用薬、強心薬、不整脈用薬、利尿薬、血圧降下薬、血管補強薬、血管収縮薬、血管拡張薬、動脈硬化用薬、循環器官用薬、呼吸促進薬、鎮咳去痰薬、呼吸器官用薬、消化性潰瘍用薬、健胃消化薬、制酸剤、下剤、利胆薬、消化器官用薬、ホルモン薬、尿路消毒剤、子宮収縮薬、泌尿生殖器官用薬、肛門用薬、ビタミン、滋養強壮薬、血液及び体液用薬、肝臓疾患用薬、解毒薬、習慣性中毒用薬、痛風治療薬、酵素製剤、糖尿病用薬、細胞賦活用薬、腫瘍用薬、抗生物質、化学療法薬、関節炎治療薬等が挙げられる。
【0041】
また例えば農薬成分としては、有機リン系、有機フッ素系、有機塩素系、カルバメート系、抗生物質などの殺虫剤や殺菌剤、および土壌改質剤等が挙げられる。
また抗菌、防カビ剤としては、有機系、無機系、天然系のものが例示できる。
【0042】
本発明の多糖類複合体は、前記した酸化多糖類、キトサン、薬剤成分の3成分を必須成分として、その他に、複合体の物性を調整するための成分や、薬効を調整するための成分や、薬剤の放出を調整する成分や、ポリイオンコンプレックスを形成する際に二次的に生成する成分等を含んでいても構わない。また上記の必須3成分も、それぞれ1種類或いは2種類以上を組み合わせて用いても構わない。さらに各成分の混合比も、ポリイオンコンプレックスを形成する範囲であれば特に限定されず、要求物性に合わせて調整されるべきものである。
【0043】
また、複合体を形成する酸化多糖類とキトサンは分子レベルで複合化させる為にも、適した溶媒で溶解させてポリイオンコンプレックスを形成させることが好ましい。本発明では特に水を媒体として用いるのが好ましく、必要に応じてアルコールやアセトンなどの有機溶媒を添加することもできる。また溶液中の酸化多糖類或いはキトサン或いは薬剤の濃度もこれらの複合体が形成する範囲にあれば特に限定されるものではなく、複合体の要求特性に応じて選択できるものである。
以下に本発明の多糖類複合体のポリイオンコンプレックスを形成する方法を例示する。
【0044】
まず第1の方法は、薬剤成分を溶解または分散させた水溶液に、前記酸化多糖類又はその塩の粉末或いは水溶液と、前記キトサン又はその塩の粉末或いは水溶液を添加すると、酸化多糖類とキトサンはポリイオンコンプレックスを形成して水に不溶化する。この際予め溶液中に存在した薬剤成分は多糖類複合体中に取り込まれ、薬剤成分を包含した本発明の多糖類複合体が得られる。必要に応じて、水洗処理を施せば、対イオン同士の塩を除去することができる。また均一な多糖類複合体を得るためには十分に攪拌しながら混合することが好ましい。
【0045】
さらに第2の方法では、まず前記酸化多糖類と前記キトサン及び薬剤成分を共に溶解又は分散させた酸性又はアルカリ性の溶液を調製し、よく攪拌しながら酸又はアルカリで中和処理することにより、酸化多糖類とキトサンのポリイオンコンプレックスを形成させて水不溶化するとともに、薬剤成分を包含させて本発明の多糖類複合体を得ることができる。必要に応じて、水洗することで中和により生じた塩を除去することが可能である。また中和の手法は特に限定されるものではなく、複合体の要求特性に応じて選択できる。
【0046】
酸化多糖類は幅広いpH領域で溶解する為、酸性の溶液にも溶解する。従ってキトサンの酸性水溶液に粉末、或いは水溶液で酸化多糖類を添加して溶解させると、両多糖類を溶解した酸性水溶液を調製できる。また逆に、脱アセチル化度が45から55%の水溶性キトサンは幅広いpH領域で水に溶解するため、酸化多糖類のアルカリ性の水溶液に粉末、或いは水溶液で水溶性キトサンを添加して溶解させると、両多糖類を溶解したアルカリ性水溶液を調製できる。従って添加する薬剤成分の特性に合わせて、酸性とアルカリ性の液性を選択することも可能である。
【0047】
この方法により得られる多糖類複合体は、カチオン性、アニオン性の両多糖類が均一に分散した溶液からポリイオンコンプレックスを形成する為に、含まれる多糖類の分布がより均一な複合体となる。さらにこの多糖類複合体はポーラスな構造を有する為に水に膨潤させたときの引張り伸びが大きいなどの特徴を有する。
【0048】
さらに第3の方法は、前記酸化多糖類及び前記キトサンを溶解又は分散させた水溶液を予め別々に調製しておき、各々の水溶液を混合することでポリイオンコンプレックスを形成することを特徴とするものである。この際、薬剤成分は両多糖類溶液の一方或いは双方、或いは両水溶液とは別に調製しておいて、混合することにより、薬剤成分を包含した多糖類複合体を得ることができる。
【0049】
ここでキトサンとして脱アセチル化度が45から55%の水溶性キトサンを、酸化多糖類として予め対イオンを除いたCOOH型を用いて、それぞれの水溶液を混合してポリイオンコンプレックスを形成すると、対イオン塩の生成がなく、塩の除去作業を必要とせず、また生体内における塩の影響もないため、特に好ましい。
【0050】
水溶液を混合する手法は特に限定されるものではなく、複合体の要求特性に応じて選択できる。例えば酸化多糖類或いはキトサンの一方の溶液をキャストして乾燥皮膜を形成してから、その上にもう一方の溶液をキャストしてその界面にポリイオンコンプレックスを形成する等の手法も適用できる。
【0051】
上記に3通りの本発明の多糖類複合体の製造方法を詳しく説明したが、さらに、前記酸化多糖類と前記キトサンからポリイオンコンプレックスを形成させてから、薬剤溶液を塗布、薬剤溶液に浸漬、或いは薬剤成分を貼り合わせたりすることで多糖類複合体に薬剤成分を担持させても構わない。
【0052】
また、本発明の多糖類複合体は必要に応じ乾燥させることもできる。乾燥後の複合体は水に溶解しないが膨潤する為、乾燥させた複合体を水などの溶媒で膨潤させて形状を変化させたり、貼り合わせたり、積層したりすることも可能である。 また多糖類複合体の形状としては、スポンジ状、板状、フィルム状、顆粒状、繊維状、ゲル状、フレーク状、パウダー状など任意に選定できる。
【0053】
こうして得られる本発明の多糖類複合体は、例えば図1に示すように酸化多糖類由来のCOO-とキトサン由来のNH3+によりイオンコンプレックス構造が形成された多糖類複合体のマトリックス中に薬剤成分を包含しているものである。
本発明の多糖類複合体は、天然多糖類と生体適合性の高いウロン酸類と、N−アセチルグルコサミン及びグルコサミンから成り、容易に生分解或いは代謝されるため、経口投与の医薬品、経皮吸収用の医薬品、及び外科手術等で生体内にて利用される医療用材料、および農薬、食品、化粧品等として利用できる。また、本発明の多糖類複合体は、多糖類をN−オキシル化合物触媒の存在下で酸化した、位置選択性が高く、酸化度の制御も容易な酸化多糖類と、脱アセチル化度の容易なキトサンからなり、ポリイオンコンプレックスを形成するカルボキシル基とアミノ基を制御できることから、薬剤の担持性能や放出特性、および多糖類複合体の物理的特性等をコントロールしやすく、様々な要求特性に対応することが可能となる。
また、このような特性から、ドラッグデリバリーシステムへの適用も可能である。
【0054】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0055】
<製造例1>
(酸化デンプン(アミロウロン酸ナトリウム塩)の調製)
原料のデンプンは市販のコンスターチを用いた。デンプン5gを水100mlに加熱溶解させ、冷却しておく。このデンプン溶液に、TEMPO0.1g、臭化ナトリウム1.25gを溶解させた水溶液を加えた。次に、反応系を冷却し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(Cl=5%)50gを添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。そして6位の1級水酸基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に達した時点で、エタノールを添加し、反応を停止させ、水:アルコール=2:8よりなる溶液により充分洗浄した後、アセトンで脱水し、40℃で減圧乾燥させ、白い粉末状の酸化度100%の酸化デンプン(アミロウロン酸ナトリウム塩)を得た(図2)。
【0056】
<製造例2>
(酸化セルロース(セロウロン酸ナトリウム塩)の調製)
原料のセルロースは市販の再生セルロースを用いた。セルロース5gを水350mlに懸濁させた。このセルロース溶液に、TEMPO0.1g、臭化ナトリウム1.25gを溶解させた水溶液を加えた。次に、反応系を冷却し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(Cl=5%)50gを添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。そして6位の1級水酸基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に達した時点で、エタノールを添加し、反応を停止させ、水:アルコール=2:8よりなる溶液により充分洗浄した後、アセトンで脱水し、40℃で減圧乾燥させ、白い粉末状の酸化度100%の酸化セルロース(セロウロン酸ナトリウム塩)を得た(図3)。
【0057】
<製造例3>
(酸化度60%の酸化セルロース(ナトリウム塩)の調製)
次亜塩素酸ナトリウム水溶液を30gにする以外は酸化セルロースの調製1と同様の調整を繰り返し、酸化反応を開始した。pH維持の為に添加した0.5N−NaOH水溶液が37ml(グルコース残基のモル数に対し60mol%の水酸化ナトリウム)に達したところで反応を停止した。以降酸化セルロースの調製と同様の洗浄を繰り返し、酸化度60%の酸化セルロース(ナトリウム塩)を得た。
【0058】
<製造例4>
(酸化キチン(キトウロン酸ナトリウム塩)の調製)
原料となるキチンには蟹ガラから脱灰、除タンパク、脂質および色素の除去などの工程を経て得られた市販のキチンを用いた。
キチンを10g、45%水酸化ナトリウム水溶液150gに浸漬し、室温以下で2時間攪拌した。これに、砕いた氷を850g、周りを氷水などで冷やし、攪拌しながら添加した。このアルカリ処理によりキチンはほぼ溶解する。塩酸で中和し、十分に水洗した後、乾燥させないものを試料とした。
この5%キチン懸濁液100gに、TEMPO0.1g、臭化ナトリウム1.25gを溶解させた水溶液を加え、キチンの固形重量の全体に対する濃度が約2wt%になるよう調製した。次に、反応系を冷却し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(Cl=5%)35gを添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に5℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5N−NaOH水溶液を逐次添加し、pH10.75に調整した。そして6位の1級水酸基の全モル数に対し、100%のモル数に対応するアルカリ添加量に達した時点で、エタノールを添加し、反応を停止させ、水:アルコール=2:8よりなる溶液により充分洗浄した後、アセトンで脱水し、40℃で減圧乾燥させ、白い粉末状の酸化度100%の酸化キチン(キトウロン酸ナトリウム塩)を得た(図4)。
【0059】
<製造例5〜8>
(酸化多糖類のCOOH型の調製)
上記製造例1〜4の酸化多糖類はナトリウム塩として単離される。この粉末をそれぞれ2%水溶液とし、塩酸を用いてpHを1に調製した。過剰のエタノールで沈殿濾過、水:アセトン=1:7よりなる溶液により充分脱塩した後、アセトンで脱水し、40℃で減圧乾燥させ、上記したそれぞれの酸化多糖類(アミウロン酸、セロウロン酸、酸化度60%の酸化セルロース、キトウロン酸)のCOOH型を得た。
【0060】
<製造例9>
(N−アセチル化度30%のキトサンの調製)
脱アセチル化度100%のキトサン5gを10%酢酸95gに溶解し、メタノール500gで希釈し、攪拌しながら無水酢酸0.95gを加え、室温で15時間攪拌した。2N−NaOH水溶液を加えて中和するとフレークが析出するので、これを濾過し、メタノール及び水:アセトン=1:7よりなる溶液により充分に洗浄した後、アセトンで脱水し、40℃で減圧乾燥させて、フレーク状のN−アセチル化度30%のキトサンを得た(図5)。
【0061】
<製造例10>
(N−アセチル化度50%の水溶性キトサンの調製)
脱アセチル化度100%のキトサン5gを10%酢酸95gに溶解し、メタノール500gで希釈し、攪拌しながら無水酢酸1.59gを加え、室温で15時間攪拌した。2N−NaOH水溶液を加えて中和するとフレークが析出するので、これを濾過し、メタノール及び水:アセトン=1:7よりなる溶液により充分に洗浄した後、アセトンで脱水し、40℃で減圧乾燥させて、フレーク状のN−アセチル化度50%のキトサンを得た(図6、図7)。このキトサンは水溶性であり、1wt%の水溶液でpH8.2であった。さらに酸やアルカリを加えてpHを変動させても溶解していた。
【0062】
<製造例11>
(N−アセチル化度60%のキトサンの調製)
脱アセチル化度100%のキトサン5gを10%酢酸95gに溶解し、メタノール500gで希釈し、攪拌しながら無水酢酸1.90gを加えると1時間程でゲル化したが、そのまま室温で15時間静置した。2N−NaOH水溶液を加えて中和して濾過し、メタノール及び水:アセトン=1:7よりなる溶液により充分に洗浄した後、アセトンで脱水し、40℃で減圧乾燥させて、フレーク状のN−アセチル化度60%のキトサンを得た(図8)。
【0063】
<試験例1>
製造例2、4、6の酸化多糖類、及び製造例9、10のN−アセチル化キトサン、および微結晶セルロース粉末、さらに置換度0.7のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩について、下記の方法にて、土壌中の好気性微生物による生分解性を評価した。結果を図9に示す。カルボキシルメチルセルロースナトリウム塩が殆ど分解しないのに対して、本発明の原料となる酸化多糖類およびキトサンは、ほぼセルロースと同様に分解することが分かる。
【0064】
(生分解性の評価方法)
八幡物産(株)製の微生物酸化分解測定装置(MODA)を用い、試験土壌として、水分60%に調整した標準コンポスト(八幡物産(株)製 YK−2)250ccと、水分18%に調整した海砂250ccを混合したものを用いた。試料10gを試験土壌と均一に混合して、カラム状の反応筒に充填し、反応筒内の温度を35℃で一定に保持した。さらに反応筒下方より水蒸気を飽和した脱炭酸空気を40ml/分で通気し、反応筒上部からはガス漏れなく配管されて、アンモニアガスを除くために硫酸水浴中を通り、水分を除くためにシリカゲルと塩化カルシウムを充填した吸湿筒を通り、さらにソーダタルク及びソーダライムを充填した吸収筒に導かれる。試料が好気的に生分解して発生する二酸化炭素は全て、吸収筒に吸収されるため、吸収筒の重量変化から生分解により発生した二酸化炭素量を定量できるものである。なお試料を入れない試験土壌のみの空試験を同時に行い、空試験で発生した二酸化炭素量を差し引いて、分解により発生した二酸化炭素量を求めた。試料10g中の炭素含量から理論的に発生する二酸化炭素量を算出し、理論量に対する発生二酸化炭素量の割合を生分解度として、図9に示した。
【0065】
<実施例1>
製造例10で作成したN−アセチル化度50%の水溶性キトサンの1wt%水溶液100mlに、L−アスコルビン酸200mgを溶解した。この溶液に、製造例5で作成したアミロウロン酸のCOOH型の2wt%水溶液50mlを攪拌しながら混合すると、ゲルが生成し、実施例1の多糖類複合体を得た。上澄み液をサンプリングし、上澄み液中のアスコルビン酸濃度をインドフェノール法により測定したところ、0.001%であり、添加したアスコルビン酸の大半が多糖類複合体中に取り込まれたことが確認された。なおこの多糖類複合体は、酸性及びアルカリ性の水溶液中では完全に溶解した。
【0066】
<実施例2>
製造例9で作成したN−アセチル化度30%のキトサン3gと、製造例1で作成したアミロウロン酸ナトリウム塩2gを、0.1N−塩酸溶液100mlに溶解した。この溶液にd−リモネン100mgを加えて攪拌し、溶液中に分散させた。その後0.2N−NaOH水溶液を加えてpH7に調整し、ゲルを生成させ、実施例2の多糖類複合体を得た。ここで上澄み液中に分散したリモネンの油滴は大幅に減少しており、大半が多糖類複合体中に取り込まれたことが確認された。また多糖類複合体を取出し、ガラス瓶に入れ、蓋をせずに放置したが、1ヶ月後でも柑橘系の香気が確認できた。
【0067】
<実施例3>
殺虫剤成分であるアレスリン20mgを酢酸エチル0.5mlに溶解して、精製水100mlに分散させた。この分散液に攪拌しながら、製造例10で作成したN−アセチル化度50%の水溶性キトサン2gと、製造例8で作成したキトウロン酸のCOOH型1gを添加して、ゲルを生成させ、実施例3の多糖類複合体を得た。上澄み液上に浮く酢酸エチル溶液量は大幅に減少しており、添加したアレスリンの大半は多糖類複合体中に取り込まれたことが確認された。
【0068】
<実施例4>
抗菌剤である銀ゼオライトの0.5%スラリー100mlに攪拌しながら、製造例11で作成したN−アセチル化度60%のキトサン2.5gと、製造例7で作成した酸化度60%の酸化セルロースのCOOH型1gを添加して、ゲルを生成させ、実施例4の多糖類複合体を得た。上澄み液の濁度は低下し、銀ゼオライトの大半が多糖類複合体中に取り込まれたことが確認された。
【0069】
<実施例5>
脱アセチル化度75%の市販のキトサン3gと製造例4で作成したキトウロン酸アトリウム塩2gを0.1N−塩酸溶液100mlに溶解した。殺虫剤成分であるアレスリン20mgを酢酸エチル1mlに溶解して、前記酸化多糖類、キトサン溶液中に分散させた。さらに0.2N−NaOH水溶液を加えてpH7に調整し、ゲルを生成させ、実施例5の多糖類複合体を得た。上澄み液上に浮く酢酸エチル溶液量は大幅に減少しており、添加したアレスリンの大半は多糖類複合体中に取り込まれたことが確認された。
【0070】
<実施例6>
製造例10で作成したN−アセチル化度50%の水溶性キトサンの1wt%水溶液50mlをキャストし、乾燥させて厚さ50μmのフィルムを得た。その上にL−アスコルビン酸の5wt%水溶液1mlをキャストし、続けて、製造例8で作成したキトウロン酸のCOOH型の2.5wt%水溶液10mlをキャストし、乾燥させ実施例6の多糖類複合体フィルムを得た。
得られたフィルムは塩化ナトリウムや酢酸ナトリウムなどの塩が存在せず、片側最表面は殆どキトサンからなり、反対側最表面は殆どウロン酸からなるL−アスコルビン酸を包含した複合体フィルムが得られた。この多糖類複合体フィルムは、水に膨潤するものの溶解はせず、酸、アルカリで完全に溶解した。
【0071】
【発明の効果】
本発明によれば、医療・医薬、農薬、食品、化粧品分野で有用な、医薬成分や農薬成分、抗菌剤、防カビ剤、殺虫剤、芳香剤成分等を、担持させた水不溶性の多糖類複合体を簡便な方法で容易かつ安価に得ることができる。また本発明の多糖類複合体は、天然多糖類と化学構造が制御されたウロン酸構造を有する酸化多糖類と、N−アセチルグルコサミン及びグルコサミンよりなるキトサンからなるポリイオンコンプレックスであるため、容易に生分解し、生体親和性が高いことから、経口投与の医薬品、経皮吸収用の医薬品、及び外科手術等で生体内にて利用される医療用材料、および農薬、食品、化粧品等として利用できる。
さらに本発明では、従来の天然物材料からなるポリイオンコンプレックスと違い、ポリイオンコンプレックスを形成するカルボキシル基とアミノ基を制御できることから、構造が明確で安全性が高く、また薬剤の担持性能や放出特性、および多糖類複合体の物理的特性等をコントロールしやすく、様々な要求特性に対応することが可能となる。
さらに本発明によれば、COOH型の酸化多糖類とアセチル化率を制御した水溶性キトサンを用いることで、中性領域での薬剤成分を包含した複合化が可能であり、酸やアルカリによる中和処理を必要とせず、塩の影響をなくすことも可能で、且つ酸性、アルカリ性の両領域で完全に水溶性となる複合体を得ることができる。
【0072】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の多糖類複合体の一実施例を示す化学構造式である。
【図2】本発明に用いるアミロウロン酸ナトリウム塩を重水に溶解して測定した13C−NMRスペクトルと原料のデンプンを重水に溶解して測定した13C−NMRスペクトルである。
【図3】本発明に用いるセロウロン酸ナトリウム塩を重水に溶解して測定した13C−NMRのスペクトルである。
【図4】本発明に用いるキトウロン酸ナトリウム塩を重水に溶解して測定した13C−NMRのスペクトルである。
【図5】本発明に用いる30%N−アセチル化キトサンを塩化重水素酸重水溶液に溶解して測定した1H−NMRスペクトルである。
【図6】本発明に用いる50%N−アセチル化キトサンを塩化重水素酸重水溶液に溶解して測定した1H−NMRスペクトルである。
【図7】本発明に用いる50%N−アセチル化キトサンを重水に溶解して測定した1H−NMRスペクトルである。
【図8】本発明に用いる60%N−アセチル化キトサンを塩化重水素酸重水溶液に溶解して測定した1H−NMRスペクトルである。
【図9】本発明に用いる酸化多糖類、及びキトサンの、試験例1に従い測定した生分解度を示すグラフである。
Claims (11)
- 酸化により多糖類のピラノース環の6位にカルボキシル基を導入したCOOH型の酸化多糖類と、
構成単糖であるグルコサミンとN−アセチルグルコサミンの比率が45:55から55:45の範囲にあり対イオンを持たないキトサンと、
少なくとも1種類以上の薬剤成分からなることを特徴とする多糖類複合体。 - 前記酸化多糖類と前記キトサンによりポリイオンコンプレックス構造を形成されていることを特徴とする請求項1に記載の多糖類複合体。
- 前記酸化多糖類が、水に溶解又は分散させた多糖類を水系で、N−オキシル化合物の触媒の存在下、酸化剤を用いて酸化する方法により得られ、かつ多糖類のピラノース環中6位の1級水酸基が、選択的に酸化されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の多糖類複合体。
- 前記薬剤成分が、医薬成分であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の多糖類複合体。
- 前記薬剤成分が、農薬、抗菌剤、防カビ剤、防虫剤、芳香剤のいずれかであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の多糖類複合体。
- 少なくとも1種類以上の薬剤成分を溶解または分散させた水溶液中に、多糖類のピラノース環の6位にカルボキシル基を導入したCOOH型の酸化多糖類と、構成単糖であるグルコサミンとN−アセチルグルコサミンの比率が45:55から55:45の範囲にあり対イオンを持たないキトサンを添加することにより、ポリイオンコンプレックスを形成させて水不溶化するとともに、前記薬剤成分を包含させてなることを特徴とする多糖類複合体の製造方法。
- 多糖類のピラノース環の6位にカルボキシル基を導入したCOOH型の酸化多糖類と、構成単糖であるグルコサミンとN−アセチルグルコサミンの比率が45:55から55:45の範囲にあり対イオンを持たないキトサンと、少なくとも1種類以上の薬剤成分を共に溶解又は分散させた水溶液を、酸又はアルカリで中和処理することにより、酸化多糖類とキトサンのポリイオンコンプレックスを形成させて水不溶化するとともに、前記薬剤成分を包含させてなることを特徴とする多糖類複合体の製造方法。
- 多糖類のピラノース環の6位にカルボキシル基を導入したCOOH型の酸化多糖類、及び構成単糖であるグルコサミンとN−アセチルグルコサミンの比率が45:55から55:45の範囲にあり対イオンを持たないキトサンを溶解又は分散させた水溶液を予め別々に調製しておき、その一方或いは双方、或いは両水溶液とは別に、少なくとも1種類以上の薬剤成分を溶解或いは分散させ、各水溶液を混合することでポリイオンコンプレックスを形成させて水不溶化するとともに、前記薬剤成分を包含させてなることを特徴とする多糖類複合体の製造方法。
- 前記酸化多糖類が、水に溶解又は分散させた多糖類を水系で、N−オキシル化合物の触媒の存在下、酸化剤を用いて酸化する方法により得られ、かつ天然多糖類のピラノース環中6位の1級水酸基を選択的に酸化されてなることを特徴とする請求項6から8のいずれかに記載の多糖類複合体の製造方法。
- 前記薬剤成分が、医薬成分であることを特徴とする請求項6から9のいずれかに記載の多糖類複合体の製造方法。
- 前記薬剤成分が、農薬、抗菌剤、防カビ剤、防虫剤、芳香剤のいずれかであることを特徴とする請求項6から9のいずれかに記載の多糖類複合体の製造方法。
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