JP4247513B2 - エラグ酸誘導体から成る5α−リダクターゼ阻害剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、5α−リダクターゼ阻害剤に関し、詳述すれば植物タンニン関連化合物であるエラグ酸構造を有する化合物から成る新規な5α−リダクターゼ阻害剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
5α−リダクターゼは、血中の主要な男性ホルモン(アンドロゲン)であるテストステロンをより強力な男性ホルモン作用を示すジヒドロテストステロン(以下DHTということがある)へと変換する酵素である。生じたDHTはアンドロゲン特異的受容体(アンドロゲンレセプター)と結合し、さらに核内の応答部位(アンドロゲンレスポンシブエレメント)およびコアクティベータータンパクと結合し、ここで初めて遺伝情報に基づいたタンパク合成が開始されると理解されている。
【0003】
前立腺肥大症組織では、正常前立腺組織に比べてDHT含量が有意に高いこと、また若くして男性型脱毛症を発症した男女の前頭部において5α−リダクターゼの発現レベルが高いことから、DHTがこれらの疾病に関与しており、5α−リダクターゼ阻害活性剤は前立腺肥大症や男性型脱毛症の治療や予防に有用であることが知られている。
【0004】
また、一般的に5α−リダクターゼ阻害物質は皮脂分泌の増大を抑制し、また、頭皮においてはフケ防止に効果があるとされることから、5α−リダクターゼ阻害剤は前立腺肥大症や男性型脱毛症の他、脂漏性脱毛症、ニキビ、並びに脂漏等の皮膚分泌機能の亢進が原因とされる皮膚疾患の治療に有効である。
【0005】
さらに、前立腺肥大症患者が前立腺ガンになる確率が対照群の4倍にも達するという報告があることから(Armenian et al. Lancet 2:115 (1974))、5α−リダクターゼ阻害剤は前立腺ガンの予防にも有効である。
【0006】
現在までに開発されている5α−リダクターゼ阻害剤としてステロイド系(4−アザステロイド)化合物のフィナステリド(Rasmusson GH et al. J. Med. Chem. 29:2298 (1986))がある。しかしながらフィナステリドは性機能障害等の副作用があることが知られており、非ステロイド性の阻害剤が安全性の面で開発が望まれている。
【0007】
非ステロイド性の阻害剤としてこれまでにONO−3805(EP 0 291 245 A2)等が、知られている。一方、天然物としてはカテキン類(Liao S et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 214:833 (1995))、脂肪酸類(Liang T et al. Biochem. J. 285:557 (1992))、リボフラビン(Nakayama O et al. J. Antibiot. 43:1615 (1990))、メナキノン類(Kim YU et al. Biol. Pharm. Bull 22:1396 (1999))等が知られている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、非ステロイド系の5α−リダクターゼ阻害剤、特に天然物由来で安全性が高い新しいタイプの5α−リダクターゼ阻害剤を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は研究を重ねた結果、タンニン関連化合物であるエラグ酸構造を有する化合物の中に従来より全く知られていなかった5α−リダクターゼ阻害活性があることを発見した。さらに、本発明者は、ショレア(Shorea)属樹木のバンキライ(bangkirai : Shorea laeviforia)心材部に、そのような5α−リダクターゼ阻害活性を有するタンニン関連化合物が含まれていることも見出した。
【0010】
かくして、本発明に従えば、この知見に基づき、下記の一般式(1)で表わされるエラグ酸誘導体またはその塩の少なくとも1種を含有することを特徴とする5α−リダクターゼ阻害剤が提供される。
【0011】
【化4】
【0012】
式(1)中、X1およびX2の少なくとも一方は、エーテル結合またはラクトン環を介して結合している没食子酸残基であり、没食子酸残基でないX1またはX2は水酸基である。
【0013】
本発明に従い上記の一般式(1)に包含されるエラグ酸誘導体であって5α−リダクターゼ阻害剤として使用されるのに特に好ましい具体例は、下記の式(2)で表わされるヴァロン酸ジラクトン(valoneic acid dilactone)、または下記の式(3)で表わされるガラジルジラクトン(gallagyldilactone)である。
【0014】
【化5】
【0015】
【化6】
【0016】
ヴァロン酸ジラクトンが、キサンチンオキシダーゼ(xantine oxidase)を阻害することは知られ(Hatano T.他、Chem, Pharm. Bull. 38:1224 (1990))、また、ガラジルジラクトンがカーボニックアンハイドラーゼ(carbonic anhydrase)を阻害することは知られているが(Satomi H.他、Biol. Pharm. Bull. 16:787 (1993))、これらの化合物に5α−リダクターゼ阻害活性があることはまだ報告されていない。
【0017】
さらに、本発明に従えば、上記式(1)のエラグ酸誘導体、特に、ヴァロン酸ジラクトンおよびガラジルジラクトンを製造するための方法であって、ショレア属樹木バンキライの心材部から抽出することを特徴とする方法が提供される。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明は、植物タンニン関連化合物の1種であるエラグ酸構造を有する化合物のうち特定の構造のものが5α−リダクターゼ阻害活性を有することを見出したことに基づくものである。すなわち、本発明の5α−リダクターゼ阻害剤を構成するエラグ酸誘導体は、式(1)においてX1およびX2の少なくとも一方がエーテル結合またはラクトン環を介して結合している没食子酸残基であり、没食子酸残基でないX1またはX2が水酸基であるような分子構造を有するものである。すなわち、式(1)のX1(またはX2)は、ヴァロン酸ジラクトンの化学構造式(2)に示されるように、没食子酸がエーテル結合を形成するようにエラグ酸部位に結合した後の残基、または、ガラジルジラクトンの化学構造式(3)に示されるように、没食子酸がラクトン環(γ−ラクトン)を形成するようにエラグ酸部位に結合した後の残基を表わす。
【0019】
本発明者は、如上の特定のエラグ酸構造を有するヴァロン酸ジラクトンやガラジルジラクトンのような化合物がショレア属樹木のバンキライに存在することを見出し、この樹木の心材部から抽出することによってこれらの化合物を得る技術も確立した。バンキライはフタバガキ科ショレア属の南洋性樹木であり、セランガンバトゥ(selangan-batu)、イエローバラウ(balau yellow)とも呼ばれ、これらの名で呼ばれるもの、具体的にはS. argentea, S. astylosa, S. atrineryosa, S. balangeran, S. ciliata, S. gisok, S. glauca, S. laevis, S. materialis, S. maxwelliana, S. senimis, S. scrobiculata, S. submontana, S. sumatranaなどの樹種を使用することができる。本発明に従い、ショレア属樹木バンキライの心材部から抽出することにより、ヴァロン酸ジラクトンやガラジルジラクトンのような化合物を製造する方法は、一般に、(1)当該樹木の心材部を粉砕して、木材との親和性が高い低級アルコール(例えば、メタノール)で抽出し、(2)このアルコール抽出物に、例えば、ジエチルエーテルを添加することにより、そのエーテル可溶分を除去し、(3)その残渣を濃縮、精製すること、例えば、残渣に酢酸エチルもしくはn−ブタノールを添加し、その可溶分を濃縮し各種クロマトグラフィーにより精製すること、あるいは、残渣を濃縮乾固したのち、アセトン、アセトニトリル、低級アルコールなどの極性溶媒を含む水溶液により抽出し、これを各種クロマトグラフィーにより精製することを含む。
【0020】
本発明者は、以上のように、ヴァロン酸ジラクトンやガラジルジラクトンのような5α−リダクターゼ阻害活性を有するエラグ酸誘導体がバンキライ材の心材部から抽出できることを見出したが、これらの化合物はエラジタンニン類を加水分解することにより得ることもできる。すなわち、ヴァロン酸ジラクトンはヴァロネオイル(valoneoyl)基を有するエラジタンニン類の加水分解により得ることができ、また、ガラジルジラクトンはガラジル(gallagyl)基を有するエラジタンニン類の加水分解により得ることができる。
【0021】
加水分解は、一般に煮沸または希塩酸、希硫酸などの酸を用いて処理することにより効率的に実施できるが、加水分解酵素処理も有効である。ヴァロネオイル基を有するエラジタンニン類はたとえばフタバガキ科植物、アカバナ科植物、ミソハギ科植物、トウダイグサ科植物、ツバキ科植物、フトモモ科植物、ノボタン科植物、グミ科植物、マンサク科植物、バラ科植物などから、また、ガラジル基を有するエラジタンニン類は例えばフタバガキ科植物、ザクロ科植物、カバノキ科植物、シクンシ科植物などから得ることができ、これらの植物抽出物の加水分解物としてヴァロン酸ジラクトンやガラジルジラクトンを入手することが可能である。なお、エラジタンニン類の加水分解物としては、没食子酸、エラグ酸、フラボガロン酸ジラクトン(flavogallonic acid dilactone)、および低分子タンニン類等も知られているが、このうち、下記の式(4)で表わされるフラボガロン酸ジラクトンは、本発明で用いられるヴァロン酸ジラクトンのような化合物とは異なり、5α−リダクターゼ促進活性が認められるため取り除くことが必要である。
【0022】
【化7】
【0023】
本発明の5α−リダクターゼ阻害剤は、以上のようにして得られるヴァロン酸ジラクトンもしくはガラジルジラクトンのようなエラグ酸誘導体、またはその塩から構成される。塩の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩、カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属塩、マグネシウム、アルミニウムなどの金属塩、アミン類、アンモニアなどのアミン塩、グルタミン、アスパラギンなどのアミノ酸塩などの塩基性塩を挙げることができ、好適には薬理上許容される塩である。また、ヴァロン酸ジラクトンまたはガラジルジラクトンなどの化合物あるいはその塩が溶剤和物(例えば水和物など)を形成する場合、並びに大気中での放置または再結晶により水分を吸収し、水分が吸着したり、水和物を形成した場合、本発明にはそのような溶剤和物も含まれるものとする。さらに、生体内の代謝によりヴァロン酸ジラクトンやガラジルジラクトンのような化合物あるいはその塩に変換される化合物、いわゆるプロドラッグも本発明に従う5α−リダクターゼ阻害剤の構成成分として包含されるものとする。
【0024】
【実施例】
以下、本発明の特徴をさらに具体的に明らかにするための実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
実施例1:バンキライ材からのヴァロン酸ジラクトンおよびガラジルジラクトンの抽出、精製
バンキライ材の心材部を粉砕して得られた木粉(〜1.4mm)をメタノールで抽出した。このメタノール抽出物を濃縮し、同量の水と混合した後、ジエチルエーテルを添加し、その可溶分を除去した。得られた残渣は濃縮乾固後、濃縮残渣に対して100倍量の10%アセトニトリルを加え超音波処理により懸濁させた。懸濁液はそのまま室温で長時間放置し、不溶部を沈殿させた。上清部は濃縮後、逆相分取高速液体クロマトグラフィー(0.1%トリフルオロ酢酸:アセトニトリル=90:10〜50:50のリニアグラジェント)により、精製を重ね、ヴァロン酸ジラクトンおよびガラジルジラクトンを得た。
NMRデータ(400MHz):
ヴァロン酸ジラクトンの1H−NMR分析の結果:δH(DMSO-d6) 6.93(s), 7.01(s), 7.51(s)
13C−NMR分析の結果:δC(DMSO-d6) 106.9, 108.0, 108.2, 108.4, 110.5, 111.9, 113.8, 114.6, 135.1, 136.1, 136.5, 139.1, 139.4, 139.5, 140.4, 142.9, 148.4, 149.3, 159.0, 159.0, 165.6ガラジルジラクトンの1H−NMR分析の結果:δH(DMSO-d6) 7.50(s)
13C−NMR分析の結果:δC(DMSO-d6) 106.5, 107.4, 110.1, 112.0, 112.4, 122.7, 135.7, 136.1, 138.7, 139.1, 145.6, 147.7, 157.6, 158.8
【0025】
実施例2:エラジタンニン類の加水分解によるヴァロン酸ジラクトン及びガラジルジラクトンの生成
実施例1におけるアセトニトリルを添加して超音波処理して得られた懸濁液の不溶部をIR分析したところ、1720〜1740cm− 1にエステル及びラクトンのカルボニル基に由来する吸収が見られたことから高分子量のエラジタンニン類からなる混合物であることが判明した。この沈殿物を5%硫酸で6時間還流することにより加水分解し、冷却後、n−ブタノールによる抽出を行い、酢酸エチル可溶部を濃縮後、実施例1と同様に逆相分取高速液体クロマトグラフィーによる精製を重ね、ヴァロン酸ジラクトン及びガラジルジラクトンを得た。
【0026】
実施例3:5α−リダクターゼ阻害活性の測定
実施例1により得られたヴァロン酸ジラクトン及びガラジルジラクトンの5α−リダクターゼ阻害活性を測定した。5α−リダクターゼ阻害活性の速度は、ラット肝臓ミクロソーム(以下、ミクロソームと称する)懸濁液を5α−リダクターゼの粗酵素液として用いた。また、基質として4.5mM[14C]テストステロン−エタノール溶液(以下、テストステロンと称する)、阻害剤試料のDMSO溶液(以下、阻害剤と称する)、pH6.5リン酸バッファー(以下、バッファーと称する)、1mM NADPH(以下、NADPHと称する)、3M NaOH(以下、NaOHと称する)を用意した。
酵素反応はテストステロン0.01ml、阻害剤0.01ml及び0.22mlバッファーにミクロソームを0.01ml、NADPHを0.05ml加え、37℃、10分間インキュベート後、NaOH0.01mlにより反応を停止させることにより行った。反応停止後の酵素反応液はジエチルエーテルにより抽出し、ジエチルエーテル可溶部を薄相クロマトグラフィー(Kieselgel 60 F254、酢酸エチル:n−ヘキサン=7.3)により展開した。得られたテストステロン及びDHTのスポットの放射活性はイメージングアナライザー(Fuji Film Co., Ltd.)を用いて測定した。
5α−リダクターゼ阻害活性(%)=[(Xc−Xi)/Xc]×100
ここで、Xiは阻害剤を用いた場合のDHT生成比率(DHT生成比率=DHTの放射活性/DHTとテストステロンの放射活性の和)であり、Xcは阻害剤を用いなかった場合のDHT生成比率である。
以上の方法によりIC50値、すなわち、5α−リダクターゼ阻害活性50%の濃度を調べたところ、次のようになり、いずれも充分に高い5α−リダクターゼ阻害活性を有することが確認された。
ヴァロン酸ジラクトンのIC50値:129.1μM
ガラジルジラクトンのIC50値:91.2μM
【0027】
【発明の効果】
本発明によれば、ヴァロン酸ジラクトン及びガラジルジラクトンのような特定構造のエラグ酸誘導体またはその塩から成る非ステロイド系の新しいタイプの5α−リダクターゼ阻害剤が得られる。さらに、本発明は、バンキライ(bangkirai)材のようなショレア(Shorea)属樹木にヴァロン酸ジラクトンやガラジルジラクトンのような5α−リダクターゼ阻害活性を有するエラグ酸誘導体が存在することを見出し、これらの化合物の新しい入手法を確立した。
ヴァロン酸ジラクトン及びガラジルジラクトンのようなエラグ酸誘導体またはその塩から成る本発明の5α−リダクターゼ阻害剤は、医薬品、医薬外品、化粧品等への応用が可能であり、例えば育毛料、養毛料、ニキビ、脂漏性皮膚障害、前立腺肥大症、前立腺ガンなどの治療及び予防に効果が期待できるものと考えられる。
Claims (4)
- 請求項1〜3に記載のエラグ酸誘導体を製造する方法であって、ショレア属樹木バンキライの心材部から抽出することを特徴とする方法。
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