JP4246827B2 - ダイヤモンド状炭素膜を被覆した部材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種金型、ツール等、耐摩耗性および耐衝撃性を必要とする各種部材に用いられるダイヤモンド状炭素膜を被覆した部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
気相法により製造されるダイヤモンド状炭素膜(DLC膜)は、硬度が高く、摩擦係数が低いため、耐摩耗性、耐久性に優れている。また、任意形状の物品に被着することができる。そのため、耐摩耗性を必要とする金型、工具等に用いられ、その寿命向上に効果が得られている場合がある。
【0003】
しかしながら、DLC膜を被覆すると表面の摩耗は防止されるが、DLC膜は金属、例えば、工具鋼、ステンレス鋼等の鉄鋼、超硬合金、あるいは、アルミニウム合金等に対する密着力が弱く、外力の作用で母材から剥離し易いという問題がある。そのため、使用できる母材材質や用途がかなり制限されていた。上記の鉄系材料等は金型、工具等に用いられ、用途が広く、これらの母材の表面に形成されるDLC膜の母材への密着性を向上させることが耐久性、寿命向上のために重要である。
【0004】
そこで、各種中間層を母材とDLC膜との間に介在させることにより、密着性を改善する試みがいくつかなされている。
【0005】
例えば、特開昭61−104078号公報には、周期表第4A〜6A族(4〜6族)金属の炭化物、炭窒化物、炭酸化物、炭窒酸化物、炭硼化物あるいはSiの炭化物、炭窒化物(いずれも非化学量論的化合物)、または、これらの相互固溶体で形成した単層または多重層の中間層、および、中間層を2層構成とし、DLC膜側を上記と同じ構成の層とし、母材側を周期表4A〜6A族金属の炭化物、窒化物、酸化物、硼化物、または、これらの相互固溶体で形成された単層または多重層とした構成の層とすることが開示されている。また、特開昭62−116767号(特公平6−60404号)公報には、母材側のクロムまたはチタンを主体とする下層と、DLC膜側のシリコンまたはゲルマニウムを主体とする上層とからなる中間層が開示されている。特開平5−311444号公報には、母材側の周期表第4A〜6A族金属の炭化物、窒化物あるいは窒炭化物からなる硬質化合物膜の層と、DLC膜側のシリコン膜またはゲルマニウム膜の層とを積層した中間層が開示されている。また、特開平5−124875号公報には、珪素と炭素の非晶質混合物からなる中間層が開示されている。さらには、特開平2−120245号公報には、Ti、Cr、Hf、BまたはSiの炭化物からなる中間層が開示されいている。
【0006】
しかし、それらに関しても未だ母材とDLC膜との密着力は充分とは言えず、例えば金型において、成型時に異物が混入したりしてDLC膜および中間層を被覆した金型に衝撃的な力が加わった場合、DLC膜および中間層が金型母材から剥離してしまい、思うように寿命向上が果たせないという問題がある。
【0007】
また、近年、例えば高温条件下で金型を使用する必要があるなど、それ自体または雰囲気の温度が高い条件(300℃以上)でDLC膜を被覆した部材が使用される用途のニーズが高くなってきている。そのような用途の場合、より中間層が母材から剥離しやすく、十分な耐久性、寿命が得られていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、特に高温条件下で使用される金型、工具等のダイヤモンド状炭素膜を被覆した部材において、母材とダイヤモンド状炭素膜との密着性を向上させてその寿命を向上させることにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、下記の本発明によって達成される。
【0010】
(1)ステンレス鋼、 SKS 、 SKD 、超硬合金( JIS:S 種、 G 種、 D 種および M45 、 46 、 63S から選択した一種)、ステライト、 SNCM または DC 53の何れか一種からなる母材上にダイヤモンド状炭素膜を被覆した部材であって、
母材上に、周期表第4A族(4族)金属(Ti,Zr,Hf)、周期表第5A族(5族)金属(V,Nb,Ta)および周期表第6A族(6族)金属(Cr,Mo,W)のいずれか一種以上を含有する下地層を有し、
この下地層上に、Siを含有する中間層を有し、
この中間層上に、ダイヤモンド状炭素膜を有し、
前記下地層の前記母材に接する界面から5nmまでの平均酸素濃度および/または前記母材の前記下地層に接する界面から5nmまでの平均酸素濃度が、3〜50mol%であるダイヤモンド状炭素膜を被覆した部材。
(2)前記中間層が、SiまたはSiの炭化物から形成されている上記(1)のダイヤモンド状炭素膜を被覆した部材。
(3)前記中間層の組成を、SiCpHqと表したとき
0≦p≦25、
0≦q≦20
である上記(2)のダイヤモンド状炭素膜を被覆した部材。
(4)前記下地層が、周期表第4A族(4族)金属(Ti,Zr,Hf)、周期表第5A族(5族)金属(V,Nb,Ta)および周期表第6A族(6族)金属(Cr,Mo,W)のいずれか一種以上を、金属、炭化物または炭窒化物のいずれかの形で含有する上記(1)〜(3)のいずれかのダイヤモンド状炭素膜を被覆した部材。
(5)ステンレス鋼、 SKS 、 SKD 、超硬合金( JIS:S 種、 G 種、 D 種および M45 、 46 、 63S より選択した一種)、ステライト、 SNCM または DC 53の何れか一種からなる母材上にダイヤモンド状炭素膜を被覆した部材であって、
母材上に、周期表第5A族(5族)金属(V,Nb,Ta)の珪炭化物、周期表第6A族(6族)金属(Cr,Mo,W)の珪炭化物、Tiの珪炭化物、Zrの珪炭化物のいずれか一種以上を含有する中間層を有し、
この中間層上に、ダイヤモンド状炭素膜を有し、
前記中間層の前記母材に接する界面から5nmまでの平均酸素濃度および/または前記母材の前記中間層に接する界面から5nmまでの平均酸素濃度が、3〜50mol%であるダイヤモンド状炭素膜を被覆した部材。
(6)前記中間層のOを除いた組成をMSiaCb
(ただし、MはV、Nb、Ta、Cr、Mo、W、TiおよびZrのいずれか一種以上である)
と表したとき
0.3≦a≦10、
0≦b≦5、
0.3≦a+b≦10
である上記(5)のダイヤモンド状炭素膜を被覆した部材。
(7)前記中間層が、前記母材側にV、Nb、Ta、Cr、Mo、W、TiおよびZrのいずれか一種以上が多く、前記ダイヤモンド状炭素膜側にSiおよび/またはCが多い傾斜構造を有する上記(5)または(6)のダイヤモンド状炭素膜を被覆した部材。
(8)前記ダイヤモンド状炭素膜の基本組成をCHxSiyOzNvFwと表したとき、
モル比を表すx,y,z,v,wがそれぞれ、
0.05≦x≦0.7、
0≦y≦3.0、
0≦z≦1.0、
0≦v≦1.0、
0≦w≦0.2
である上記(1)〜(7)のいずれかのダイヤモンド状炭素膜を被覆した部材。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明のダイヤモンド状炭素膜(DLC膜)を被覆した部材は、母材とDLC膜との間に、下地層および中間層、または、中間層が設けられたものである。そして、母材上の下地層または中間層の母材に接する界面から5nmまでの平均酸素濃度および/または母材の下地層または中間層に接する界面から5nmまでの平均酸素濃度は3〜50mol%である。どちらか片方の界面に酸素が含有されていれば、本発明の効果は得られるが、母材上の下地層または中間層の母材に接する界面から5nmまでの平均酸素濃度、母材の下地層または中間層に接する界面から5nmまでの平均酸素濃度ともに3〜50mol%であることが好ましい。ここでいう酸素濃度は、オージェ電子分光法(AES)により測定した場合の酸素濃度のことをいう。また、下地層側または中間層側から深さ方向にAES測定を行ったとき、Ta等の下地層または中間層の成分のピークは界面付近になると小さくなり、Fe等の母材の成分のピークは界面付近になると大きくなるが、その強度が等しくなった点を本明細書では界面という。
【0013】
このように母材と下地層との界面、または、母材と中間層との界面に3〜50mol%の酸素を含有させることによって、鋼材等を材質とする母材とDLC膜との密着性が格段と向上し、例えば金型や工具に本発明を適用した場合、特に250〜700℃程度の高温条件下の使用においてその寿命が著しく長くなる。これは、母材と下地層との間または母材と中間層との間におけるそれぞれの強固な密着性によって得られると考えられる。また、下地層、中間層を後述のものとすることによって、下地層と中間層との間、中間層とDLC膜との間も強固な密着性が得られ、長寿命化に寄与していると考えられる。ただし、母材と下地層との界面、または、母材と中間層との界面に3〜50mol%の酸素を含有させなければ、密着性が低くなるので、本発明の効果は得られない。
【0014】
まず、本発明で用いられる母材について説明する。なお、母材に含有させる酸素については後述する。
【0015】
本発明において、下地層、中間層を介してDLC膜が被覆される母材としては、例えば金型や工具類等の力が加わる部材、すなわち耐衝撃性および耐摩耗性が要求される部材にDLC膜が用いられることから、このような部材の構成材料となりうるものであれば特に制限はない。こうした構成材料としては、種々の金属系の材料があり、鉄鋼や非鉄金属をはじめ、その他サーメット等が挙げられる。鉄鋼としては、ステンレス綱(JIS:SUS303、304、316、420J、440CおよびELMAX、STAVAX等)、工具綱(JIS:SK2、SKH、SKS2、3、4、11、SKD11、61およびDC53等)、合金綱(JIS:SCM、SNCM、SNC、SCr等)、ダイス綱などがある。また、非鉄金属としては、アルミニウム合金、銅合金(りん青銅、洋白等)、チタン合金、マグネシウム合金、超硬合金(JIS:S種、G種、D種およびM45、46、63S等)、ステライトなどがある。これらの中でも、各種のステンレス鋼、SKS、SKD、超硬合金、ステライト、SNCMおよびDC53を用いることが好ましい。
【0016】
このような母材は、目的・用途等に応じて、種々の形状にして用いられる。
【0017】
次に、母材上に設けられる本発明の下地層、中間層について説明する。本発明の下地層、中間層にはいくつかの構成がある。
【0018】
本発明の下地層、中間層の第一の構成は、母材側に、周期表第4A族(4族)金属(Ti,Zr,Hf)、周期表第5A族(5族)金属(V,Nb,Ta)および周期表第6A族(6族)金属(Cr,Mo,W)のいずれか一種以上を含有する下地層を有し、DLC膜側に、Siを含有する中間層を有するものである。
【0019】
まず、母材側に形成される下地層について説明する。なお、含有させる酸素については後述する。
【0020】
下地層は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびWのいずれか一種以上を含有する。特に、Ti、Ta、V、Cr、Moを含有することが好ましく、中でもTaを含有することが好ましい。また、中間層がSiC系膜である場合はTiおよび/またはTaを含有することが特に好ましい。下地層は、2種以上の金属を含有するものであってもよい。
【0021】
これらの周期表第4A族(4族)金属(Ti,Zr,Hf)、周期表第5A族(5族)金属(V,Nb,Ta)および周期表第6A族(6族)金属(Cr,Mo,W)は、金属単体(合金を含む)、炭化物、窒化物、炭窒化物、炭酸化物、炭窒酸化物または炭硼化物のいずれかの形で存在することが好ましい。特に、金属単体(合金を含む)、炭化物または炭窒化物のいずれかの形で存在することが好ましく、さらには、下地層は金属から形成されていることが好ましい。なお、下地層が2種以上から形成されている場合、通常、相互固溶体として存在する。また、これらの炭化物、炭窒化物等は、化学量論組成であっても、非化学量論組成であってもかまわない。この場合、金属元素1molに対して、Oを除いた非金属元素が10mol以下であることが好ましい。
【0022】
また、母材界面付近においては母材の構成成分が拡散していてもよく、中間層界面付近においては中間層の構成成分が拡散していてもよい。
【0023】
このような下地層は、通常、アモルファス状態である。
【0024】
上記の下地層は、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等のPVD法や熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等のCVD法によって形成することができる。また、湿式メッキ法、溶射、クラッド接合等により形成してもよい。具体的には公知の方法による。
【0025】
なかでも、下地層はスパッタ法により形成することが好ましい。この場合、目的とする組成に応じたターゲットを用い、高周波電力、交流電力、直流電力のいずれかを付加し、ターゲットをスパッタし、これを母材(基板)上にスパッタ堆積させることにより下地層を形成する。
【0026】
ターゲットは、通常、下地層と同じ組成のものを用いればよいが、Ta等の金属とC等とをターゲットとする多元スパッタとしてもよいし、反応性スパッタでC等を導入する場合はその成分を含まないターゲットを用いることができる。
【0027】
スパッタガスには、通常のスパッタ装置に使用される不活性ガスが使用できる。中でも、Ar、Kr、Xeのいずれか、あるいは、これらの少なくとも1種以上のガスを含む混合ガスを用いることが好ましい。
【0028】
また、反応性スパッタを行ってもよく、反応性ガスとしては、酸化物を形成する場合、O2 、CO、CO2等が挙げられ、窒化物を形成する場合、N2 、NH3 、NO、NO2 、N2 O等が挙げられ、炭化物を形成する場合、CH4 、C2 H2 、C2 H4 、CO等が挙げられる。これらの反応性ガスは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
スパッタ時の動作圧力は、0.002〜0.5Torrの範囲が好ましい。また、成膜中にスパッタガスの圧力を、前記範囲内で変化させることにより、濃度勾配を有する下地層を容易に得ることができる。
【0030】
スパッタ法としては、RF電源を用いた高周波スパッタ法を用いても、DCスパッタ法を用いてもよい。スパッタ装置の電力としては、DCスパッタで0.5〜30W/cm2程度、周波数1〜50MHzの高周波スパッタでは0.5〜30W/cm2程度、50kHz〜1MHzの低周波では0.5〜30W/cm2程度が好ましい。また、対象物にバイアス電圧を印加してもよい。
【0031】
成膜速度は3〜300nm/minの範囲が好ましい。
【0032】
また、基板温度は10〜150℃であることが好ましい。
【0033】
また、下地層は蒸着法により形成してもよい。蒸着法としては、抵抗加熱方式であっても電子ビーム加熱方式であってもよい。また、2元蒸着であっても、1元蒸着であってもよい。1元蒸着でも、膜組成は蒸着源の組成とほぼ同じものが経時的に安定して得られる。
【0034】
真空蒸着の条件は特に限定されないが、真空度は10-5Torr以下、特に10-6Torr以下が好ましい。成膜速度は、通常、3〜300nm/min程度が好ましい。
【0035】
次に、DLC膜側に形成される中間層について説明する。
【0036】
中間層は、Siを含有し、SiまたはSiの炭化物から形成されていることが好ましい。
【0037】
中間層は、その他に、水素を含んでいてもよい。
【0038】
中間層の基本組成をSiCpHqと表したとき、
0≦p≦25、
0≦q≦20
であることが好ましい。qがこれより大きくて炭素が多くなると、下地層との密着力が悪くなってくる。rがこれより大きくて水素が多くなっても、密着力が悪くなってくる。
【0039】
また、下地層界面付近においては下地層の構成成分が拡散していてもよく、DLC膜界面付近においてはDLC膜の構成成分が拡散していてもよい。
【0040】
このような中間層は、通常、アモルファス状態である。
【0041】
上記の中間層は、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等のPVD法や熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等のCVD法によって形成することができる。また、湿式メッキ法、溶射、クラッド接合等により形成してもよい。具体的には公知の方法による。
【0042】
なかでも、上記の中間層はスパッタ法により形成することが好ましい。この場合、目的とする組成に応じたターゲットを用い、高周波電力、交流電力、直流電力のいずれかを付加し、ターゲットをスパッタし、これを下地層上にスパッタ堆積させることにより中間層を形成する。
【0043】
ターゲットは、通常、中間層と同じ組成のもの、つまり、SiまたはSiCを用いればよいが、SiとCとをターゲットとする多元スパッタとしてもよいし、反応性スパッタでC等を導入する場合はその成分を含まないターゲットを用いることができる。
【0044】
スパッタガスには、通常のスパッタ装置に使用される不活性ガスが使用できる。中でも、Ar、Kr、Xeのいずれか、あるいは、これらの少なくとも1種以上のガスを含む混合ガスを用いることが好ましい。
【0045】
また、反応性スパッタを行ってもよく、反応性ガスとしては、炭素を導入する場合には、CH4 、C2 H2 、C2 H4 、CO等を用い、珪素を導入する場合には、シランガス等を用いる。また、水素を導入する場合には、H2等を用い、酸素を導入する場合、O2 、CO等を用いる。これらの反応性ガスは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
スパッタ時の動作圧力は、0.002〜0.5Torrの範囲が好ましい。また、成膜中にスパッタガスの圧力を、前記範囲内で変化させることにより、濃度勾配を有する中間層を容易に得ることができる。
【0047】
スパッタ法としては、RF電源を用いた高周波スパッタ法を用いても、DCスパッタ法を用いてもよい。スパッタ装置の電力としては、DCスパッタで0.5〜30W/cm2程度、周波数1〜50MHzの高周波スパッタでは0.5〜30W/cm2程度、50kHz〜1MHzの低周波では0.5〜30W/cm2程度が好ましい。
【0048】
成膜速度は1〜300nm/minの範囲が好ましい。
【0049】
また、基板温度は10〜150℃であることが好ましい。
【0050】
また、中間層は蒸着法により形成してもよい。蒸着法としては、抵抗加熱方式であっても電子ビーム加熱方式であってもよい。また、2元蒸着であっても、1元蒸着であってもよい。1元蒸着でも、膜組成は蒸着源の組成とほぼ同じものが経時的に安定して得られる。
【0051】
真空蒸着の条件は特に限定されないが、真空度は10-5Torr以下、特に10-6Torr以下が好ましい。成膜速度は、通常、1〜300nm/min程度が好ましい。
【0052】
この他、SiC系膜は、特願平2−14480号に記載されているバイアス印加プラズマCVD法、または、特開昭58−174507号および特開平1−234396号に記載されたイオン化蒸着法により形成できる。
【0053】
イオン化蒸着法およびバイアス印加CVD法においては、下記の単独または混合ガスを用いる。すなわち、次の(1)の炭素および珪素を共に含有する低分子量の化合物のガス、(2)と(3)、(1)と(2)、(1)と(3)または(1)と(2)と(3)の低分子量の化合物の混合ガスである。
【0054】
(1)有機けい素化合物−メチルシランCH3SiH3、ジメチルシラン(CH3)2SiH2、トリメチルシラン(CH3)3SiH、テトラメチルシランSi(CH3)4。
【0055】
(2)けい素化合物−シランSiH4、ジシランSi2H6。
【0056】
(3)炭素化合物−メタンCH4、エタンC2H6、プロパンC3H8、エチレンC2H4、アセチレンC2H2。
【0057】
これに用いられる装置の具体例については、特開平5−124875号に開示されており、これらを好ましく用いることができる。
【0058】
バイアス印加プラズマCVD法では高周波電源を用いることが好ましく、高周波電力としては10W〜5kW程度である。また、通常、バイアス電圧は−50V〜−5kV、全圧は0.01〜0.5Torr、反応時間は1〜60分、電極間距離は例えば4cm程度、ガス流量は5〜1000sccmであり、基板温度は10〜300℃である。
【0059】
一方、イオン化蒸着法においては、真空容器内を10-6Torr程度までの高真空とする。この真空容器内には交流電源によって加熱されて熱電子を発生するフィラメントが設けられ、このフィラメントを取り囲んで対電極が配置され、フィラメントとの間に電圧Vdを与える。また、フィラメント、対電極を取り囲んでイオン化ガス閉じこめ用の磁界を発生する電磁コイルが配置されている。原料ガスはフィラメントからの熱電子と衝突して、プラスの熱分解イオンと電子を生じ、このプラスイオンはグリッドに印加された負電位Vaにより加速される。この、Vd,Vaおよびコイルの磁界を調整することにより、組成や膜質を変えることができる。また、バイアス電圧を印加してもよい。
【0060】
この場合の原料ガスの流量はその種類に応じて適宜決定すればよい。動作圧力は、通常、0.01〜0.5Torr程度が好ましい。
【0061】
中間層の成膜には、特に、複雑な形状の金型における密着力の点からスパッタ法が、膜欠陥の少なさからプラズマCVD法が好ましく用いられる。
【0062】
上記のような下地層と中間層とは、合計で20A(2nm)〜5μm の厚さであることが好ましく、さらには50A(5nm)〜1μm の厚さであることが好ましい。下地層および中間層の各厚さは10A(1nm)〜2.5μm が好ましく、さらには25A(2.5nm )〜0.5μm が好ましい。このような厚さとすることで密着性が向上する。これに対し、薄すぎると密着性向上の効果が十分ではなくなり、厚すぎると耐衝撃性が悪くなってくる。
【0063】
上記のような下地層および中間層は、生産性の点などから、通常、各1層ずつ設けることが好ましいが、場合によっては、各膜を多層構成としてもよい。多層構成とする場合は合計で上記範囲の厚さとなるようにすればよい。
【0064】
次に、本発明の第二の構成の中間層について説明する。なお、含有させる酸素については後述する。
【0065】
本発明の中間層の第二の構成は、母材とDLC膜との間に中間層が設けられており、この中間層は、周期表第5A族(5族)金属(V,Nb,Ta)の珪化物、これらの珪炭化物、周期表第6A族(6族)金属(Cr,Mo,W)の珪化物、これらの珪炭化物、Tiの珪化物、Tiの珪炭化物、Zrの珪化物およびZrの珪炭化物のいずれか一種以上を含有するものである。これらの場合、下地層を設けなくても母材と中間層との間、中間層とDLC膜との間で強固な密着性が得られる。また、下地層を形成しなくてよいので、製造工程が少なく、歩留まり、スループットに優れ、生産性が高いという利点がある。
【0066】
中間層のOを除いた組成をMSiaCb
(ただし、MはV、Nb、Ta、Cr、Mo、W、TiおよびZrのいずれか一種以上である)
と表したとき、
である。aがこれより大きくて珪素が多くなると、母材との密着力が悪くなる。aがこれより小さくて珪素が少なくなると、DLC膜との密着力が悪くなる。bがこれより大きくて炭素が多くなると、母材との密着力が悪くなる。bがこれより小さくて炭素が少なくなると、DLC膜との密着力が悪くなる。また、a+bがこれより大きくても母材との密着力が悪くなり、a+bがこれより小さくてもDLC膜との密着力が悪くなる。
【0067】
用いる金属Mは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、TiおよびZrのいずれか一種以上であり、二種以上を併用してもよい。特に、Ti、Ta、V、Cr、Moを用いることが好ましく、中でもTi、Taを用いることが好ましい。
【0068】
また、母材界面付近においては母材材料が拡散していてもよく、DLC膜の界面付近においてはDLC膜の構成成分が拡散していてもよい。
【0069】
中間層は、その他に、水素を25原子%以下、好ましくは20原子%以下含んでいてもよい。水素の含有量がこれを超えると、母材との密着力が悪くなってくる。
【0070】
また、上記の中間層は、全体の平均値としてこのような組成であれば、膜厚方向に濃度勾配をもっていてもよく、母材側にV、Nb、Ta、Cr、Mo、W、TiおよびZrのいずれか一種以上が多く、DLC膜側にSiおよび/またはCが多い傾斜構造を有することが好ましい。母材側にV、Nb、Ta、Cr、Mo、W、TiおよびZrのいずれか一種以上が多いと中間層の母材に対する密着性がさらに向上し、DLC膜側にSiおよび/またはCが多いと中間層のDLC膜に対する密着性がさらに向上する。そのため、中間層を上記のような傾斜構造とすれば、寿命がより長くなる。特に、母材に接する界面から10nmまで、あるいは、膜厚の1/2までの小さい方のOを除いた組成の平均値が、MSiaCbと表したとき、
0≦a+b≦5
であることが好ましい。また、DLC膜に接する界面から10nmまで、あるいは、膜厚の1/2までの小さい方のOを除いた組成の平均値が、MSiaCbと表したとき、
1≦a+b
であることが好ましい。ただし、MはV、Nb、Ta、Cr、Mo、W、TiおよびZrのいずれか一種以上を表す。
【0071】
このような中間層は、通常、アモルファス状態である。
【0072】
中間層は、20A(2nm)〜5μm の厚さであることが好ましく、さらには50A(5nm)〜1μm の厚さであることが好ましい。このような厚さとすることで密着性が向上する。これに対し、中間層が薄すぎると密着性向上の効果が十分ではなくなり、厚すぎると耐衝撃性が悪くなってくる。
【0073】
上記の中間層は、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等のPVD法や熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等のCVD法によって形成することができる。また、湿式メッキ法、溶射、クラッド接合等により形成してもよい。具体的には公知の方法による。
【0074】
なかでも、上記の中間層はスパッタ法により形成することが好ましい。この場合、目的とする組成に応じたターゲットを用い、高周波電力、交流電力、直流電力のいずれかを付加し、ターゲットをスパッタし、これを母材(基板)上にスパッタ堆積させることにより中間層を形成する。
【0075】
ターゲットは、通常、中間層と同じ組成のものを用いればよいが、Ta等の金属とSiとをターゲットとする多元スパッタとしてもよいし、反応性スパッタでCやSiを導入する場合はその成分を含まないターゲットを用いることができる。
【0076】
スパッタガスには、通常のスパッタ装置に使用される不活性ガスが使用できる。中でも、Ar、Kr、Xeのいずれか、あるいは、これらの少なくとも1種以上のガスを含む混合ガスを用いることが好ましい。
【0077】
また、反応性スパッタを行ってもよく、反応性ガスとしては、炭素を導入する場合には、CH4 、C2 H2 、C2 H4 、CO等を用い、珪素を導入する場合には、シランガス等を用いる。また、また、水素を導入する場合には、H2等を用い、酸素を導入する場合、O2 、CO等を用いる。これらの反応性ガスは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0078】
スパッタ時の動作圧力は、0.002〜0.5Torrの範囲が好ましい。また、成膜中にスパッタガスの圧力を、前記範囲内で変化させることにより、濃度勾配を有する中間層を容易に得ることができる。
【0079】
スパッタ法としては、RF電源を用いた高周波スパッタ法を用いても、DCスパッタ法を用いてもよい。スパッタ装置の電力としては、DCスパッタで0.5〜30W/cm2程度、周波数1〜50MHzの高周波スパッタでは0.5〜30W/cm2程度、50kHz〜1MHzの低周波では0.5〜30W/cm2程度が好ましい。また、対象物にバイアス電圧を印加してもよい。
【0080】
成膜速度は1〜300nm/minの範囲が好ましい。
【0081】
また、基板温度は10〜150℃であることが好ましい。
【0082】
また、本発明の中間層は蒸着法により形成してもよい。蒸着法としては、抵抗加熱方式であっても電子ビーム加熱方式であってもよい。蒸着源には、Ta等の金属とSiとを用いる2元蒸着であっても、中間層と同じ組成のものを用いる1元蒸着であってもよい。1元蒸着でも、膜組成は蒸着源の組成とほぼ同じものが経時的に安定して得られる。
【0083】
真空蒸着の条件は特に限定されないが、真空度は10-5Torr以下、特に10-6Torr以下が好ましい。成膜速度は、通常、1〜300nm/min程度が好ましい。
【0084】
また、中間層は、プラズマCVD法、イオン化蒸着法によっても形成でき、その場合、後述するDLC膜を参考にして成膜すればよい。
【0085】
中間層は、生産性の点などから、通常、1層のみを設けるが、場合によっては、多層構成としてもかまわない。多層構成とする場合は合計で上記範囲の厚さとなるようにすればよい。
【0086】
次に、本発明の第三の構成の中間層について説明する。なお、含有させる酸素については後述する。
【0087】
本発明の中間層の第三の構成は、母材とDLC膜との間に中間層が設けられており、この中間層は、Siの炭化物または炭窒化物を含有するものである。
【0088】
Siの炭化物または炭窒化物は、化学量論組成であっても、非化学量論組成であってもかまわない。また、炭窒化物の場合、CとNの量比は任意であるが、炭化ケイ素が窒化ケイ素より多い方が好ましい。
【0089】
中間層は、特に、Siの炭化物から形成されていることが好ましい。中間層のOを除いた基本組成をSiCsHtと表したとき、
0.3≦s≦25、
0≦t≦20
であることが好ましい。sがこれより大きくて炭素が多くなると、母材との密着力が悪くなってくる。sがこれより小さくて炭素が少なくなると、DLCとの密着力が悪くなってくる。tがこれより大きくて水素が多くなると、密着力が悪くなってくる。
【0090】
また、上記の中間層は、組成が均一なものであってもよいが、全体の平均値としてこのような組成であれば膜厚方向に濃度勾配をもっていてもよく、母材側にSi成分が多く、DLC膜側にC成分が多い傾斜構造を有することが好ましい。母材側にSiが多いと中間層の下地層に対する密着性がさらに向上し、DLC膜側にCが多いと中間層のDLC膜に対する密着性がさらに向上する。そのため、SiとCとを含有する中間層を上記のような傾斜構造とすれば、寿命がより長くなる。特に、母材に接する界面から10nmまで、あるいは、膜厚の1/2までの小さい方のOを除いた組成の平均値が、SiCsHtと表したとき、
s≦12.5、
0≦t≦20
であることが好ましい。また、DLC膜に接する界面から10nmまで、あるいは、膜厚の1/2までの小さい方のOを除いた組成の平均値が、SiCsHtと表したとき、
12.5≦s、
0≦t≦20
であることが好ましい。
【0091】
また、母材界面付近においては母材材料が拡散していてもよく、DLC膜の界面付近においてはDLC膜の構成成分が拡散していてもよい。
【0092】
このような中間層は、通常、アモルファス状態である。
【0093】
中間層は、20A(2nm)〜5μm の厚さであることが好ましく、さらには50A(5nm)〜1μm の厚さであることが好ましい。このような厚さとすることで密着性が向上する。これに対し、中間層が薄すぎると密着性向上の効果が十分ではなくなり、厚すぎると耐衝撃性が悪くなってくる。
【0094】
このような中間層の成膜は、本発明の下地層、中間層の第一の構成で説明した中間層と同様にすればよい。
【0095】
なかでも、上記の中間層は、本発明の下地層、中間層の第一の構成で説明した中間層と同様、スパッタ法により形成することが好ましい。
【0096】
ターゲットは、通常、中間層と同じ組成のもの、つまり、SiCまたはSiCNを用いればよいが、SiCとSiN、SiとC等をターゲットとする多元スパッタとしてもよいし、反応性スパッタでC、N等を導入する場合はその成分を含まないターゲットを用いることができる。
【0097】
スパッタガスには、通常のスパッタ装置に使用される不活性ガスが使用できる。中でも、Ar、Kr、Xeのいずれか、あるいは、これらの少なくとも1種以上のガスを含む混合ガスを用いることが好ましい。
【0098】
また、反応性スパッタを行ってもよく、反応性ガスとしては、炭素を導入する場合には、CH4 、C2 H2 、C2 H4 、CO等を用い、窒素を導入する場合には、N2 、NH3 、NO、NO2 、N2 O等を用い、珪素を導入する場合には、シランガス等を用いる。また、水素を導入する場合には、H2等を用い、酸素を導入する場合、O2 、CO等を用いる。これらの反応性ガスは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0099】
スパッタ条件は、本発明の下地層、中間層の第一の構成で説明した中間層と同様にすればよい。また、2元スパッタで各ターゲットに投入するパワーを経時変化させることにより、濃度勾配を有する中間層を容易に得ることができる。
【0100】
また、中間層は蒸着法により形成してもよく、この場合も本発明の下地層、中間層の第一の構成で説明した中間層と同様に蒸着すればよい。
【0101】
この他、SiC系膜は、本発明の下地層、中間層の第一の構成で説明した方法、つまり、特願平2−14480号に記載されているバイアス印加プラズマCVD法、または特開昭58−174507号および特開平1−234396号に記載されたイオン化蒸着法が使用できる。
【0102】
この中間層の成膜には、特に、複雑な形状の金型における密着力の点からスパッタ法が、膜欠陥の少なさからプラズマCVD法が好ましく用いられる。
【0103】
中間層は、生産性の点などから、通常、1層のみを設けることが好ましいが、場合によっては、多層構成としてもかまわない。多層構成とする場合は合計で上記範囲の厚さとなるようにすればよい。
【0104】
以上、本発明の下地層、中間層の構成について説明してきたが、これらの中でも、特に、第一の構成の下地層および中間層、または、第二の構成の中間層を設けることが好ましい。さらには、下地層がTi、Ta、V、CrおよびMoのいずれか一種以上、好ましくはTaを含有し、中間層がSiである第一の構成の下地層および中間層、下地層がTi、Ta、V、CrおよびMoのいずれか一種以上、好ましくはTiおよび/またはTaを含有し、中間層がSiC系膜である第一の構成の下地層および中間層、または、第二の構成の中間層を設けることが好ましい。
【0105】
そして、本発明では、前述のような母材と下地層との界面、または、母材と中間層との界面に酸素を含有させる。母材の下地層または中間層に接する界面から5nmまでの平均酸素濃度および/または下地層または中間層の母材に接する界面から5nmまでの平均酸素濃度は3〜50mol%、好ましくは10〜40mol%である。酸素濃度がこれより高くても低くても、密着力が悪くなる。母材または下地層、中間層どちらか片方の界面に酸素が含有されていれば密着性が向上するが、母材の下地層または中間層に接する界面から5nmまでの平均酸素濃度、下地層または中間層の母材に接する界面から5nmまでの平均酸素濃度ともに3〜50mol%、特に10〜40mol%であることが好ましい。なお、母材の下地層または中間層に接する界面から5nmまでの平均酸素濃度が上記の範囲であれば、母材がそれより深いところまで酸素を含有していてもよい。また、下地層または中間層の母材に接する界面から5nmまでの平均酸素濃度が上記の範囲であれば、下地層または中間層全体が酸素を含有していてもよい。
【0106】
酸素濃度は、オージェ電子分光法(AES)により測定する。この方法を用いることで測定表面から5nm程度までの酸素量を測定できる。実際には、DLCを成膜する前にAr等で深さ方向に掘って測定すればよい。
【0107】
母材に酸素を含有させる方法としては、自然酸化、250〜750℃程度の熱酸化、プラズマ処理等が挙げられる。
【0108】
中でも、酸素等でプラズマ処理することが好ましい。
【0109】
プラズマ処理は、DCプラズマでもよいが、RFプラズマを用いることが好ましい。
【0110】
用いる処理ガスとしては、Oを含むガス、例えば、酸素、酸化窒素、一酸化炭素等が挙げられ、中でも、酸素を用いることが好ましい。また、ガスにはAr等の不活性ガスを加えてもよい。
【0111】
処理ガスの流量はその種類に応じて適宜決定すればよい。その流量は使用するガスの種類や動作条件などにより異なるが、通常O2換算で5〜1000SCCM程度が好ましい。動作圧力は、通常0.002〜0.5Torr程度が好ましい。
【0112】
高周波誘導コイルに印加される高周波としては、好ましくは周波数1〜50MHz程度、電力が0.05〜5kW程度の高周波電力が印加されるが、これらに限定されるものではなく、プラズマを発生、維持可能な周波数、電力を与えればよい。また、DCプラズマでは、電力は0.5〜30W/cm2程度が好ましい。
【0113】
プラズマ処理の時間としては、0.1〜30分、特に0.15〜5分が好ましい。
【0114】
また、母材の酸素濃度が高すぎる場合、逆スパッタして酸素をとればよい。あるいは、ウェットおよび/またはドライプロセスでエッチングしてもよい。
【0115】
逆スパッタの場合、通常、RFスパッタ法が用いられる。
【0116】
本発明に使用されるRFスパッタ装置としては、RF帯域の高周波を供給しうる電源を有するものであれば特に限定されるものではないが、通常、周波数0.05〜50MHz 、投入電力50〜5000W程度である。
【0117】
使用されるスパッタガスとしては、通常のスパッタ装置に使用される不活性ガスが使用可能であるが、好ましくはAr、Kr、Xeのいずれか、あるいはこれらの少なくとも1種以上のガスを含む混合ガスを用いることが好ましい。スパッタガス圧力は、好ましくは0.002〜0.5Torr、より好ましくは0.005〜0.1Torr程度である。
【0118】
逆スパッタ処理の時間としては、好ましくは0.1〜30分、特に0.15〜10分が好ましい。
【0119】
また、水素等を用いてプラズマ処理することで界面の酸素濃度は低下する。プラズマ処理は、酸素を導入するための方法として説明した酸素等を用いたプラズマ処理と同条件で行えばよい。処理ガスは、水素以外に、Ar、Kr、Xe等を用いてもよい。また、水素とこれらの不活性ガスを併用してもよい。
【0120】
下地層または中間層に酸素を含有させる方法としては、250〜750℃程度の熱酸化、反応性スパッタ、酸素雰囲気下の蒸着、酸化物の蒸着等が挙げられる。
【0121】
下地層または中間層に酸素を含有させる方法としては、特に反応性スパッタを用いることが好ましい。
【0122】
ターゲットは、通常、目的とする組成の酸化物、下地層または中間層が含有する金属等の酸化物等を用いる。また、下地層または中間層のOを除いた組成のターゲットを用いて反応性スパッタを行ってもよい。
【0123】
スパッタガスには、通常のスパッタ装置に使用される不活性ガスが使用できる。中でも、Ar、Kr、Xeのいずれか、あるいは、これらの少なくとも1種以上のガスを含む混合ガスを用いることが好ましい。反応性ガスとしては、O2 、CO等が挙げられる。これらの反応性ガスは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0124】
スパッタ条件は、本発明の下地層または中間層の成膜方法と同様にすればよい。
【0125】
また、スパッタ前の到達真空度を変えることによっても酸素を含有させることも好ましい。到達真空度は5×10-7〜1×10-2Torr、特に1×10-6〜1×10-4Torrの範囲が好ましい。この場合、反応性スパッタを行う必要はなく、通常のスパッタ法により下地層または中間層を成膜すればよい。
【0126】
また、目的とする組成の酸化物を蒸着したり、酸素雰囲気下で下地層または中間層を蒸着することも好ましい。この場合、蒸着条件は、下地層または中間層の成膜方法と同様にすればよい。
【0127】
次に、上述のような中間層上に設けられるダイヤモンド状炭素膜について述べる。
【0128】
ダイヤモンド状炭素(DLC:Diamond Like Carbon)膜は、ダイヤモンド様炭素膜、i−カーボン膜等と称されることもある。ダイヤモンド状炭素膜については、例えば、特開昭62−145646号公報、同62−145647号公報、New Diamond Forum,第4巻第4号(昭和63年10月25日発行)等に記載されている。
【0129】
DLC膜は、上記文献(New Diamond Forum)に記載されているように、ラマン分光分析において、1550cm-1にブロードな(1520〜1560cm-1)ラマン吸収のピークを有し、1333cm-1に鋭いピークを有するダイヤモンドや、1581cm-1に鋭いピークを有するグラファイトとは、明らかに異なった構造を有する物質である。
【0130】
DLC膜は、炭素と水素とを主成分とするアモルファス状態の薄膜であって、炭素同士のsp3結合がランダムに存在することによって形成されている。DLC膜の原子比C:Hは、通常、95〜60:5〜40程度である。
【0131】
本発明において、DLC膜の厚さは、通常、1〜10000nm、好ましくは10〜3000nmである。
【0132】
DLC膜は、炭素および水素に加え、Si,N,O,Fの1種または2種以上を含有していてもよい。この場合、DLC膜は、基本組成をCHxSiyOzNvFwと表したとき、モル比を表すx,y,z,v,wがそれぞれ、
であることが好ましい。
【0133】
DLC膜のラマン分光分析における吸収ピークは、上記のように1550cm-1にブロード(1520〜1560cm-1)な吸収を有するが、炭素および水素以外の上記元素を含有することにより、これから±100cm-1程度変動する場合もある。
【0134】
DLC膜は、プラズマCVD法、イオン化蒸着法、スパッタ法などで形成することができる。
【0135】
DLC膜をプラズマCVD法により形成する場合、例えば特開平4−41672号公報等に記載されている方法により成膜することができる。プラズマCVD法におけるプラズマは、直流、交流のいずれであってもよいが、交流を用いることが好ましい。交流としては数ヘルツからマイクロ波まで使用可能である。また、ダイヤモンド薄膜技術(総合技術センター発行)などに記載されているECRプラズマも使用可能である。また、バイアス電圧を印加してもよい。
【0136】
DLC膜をプラズマCVD法により形成する場合、原料ガスには、下記化合物を使用することが好ましい。
【0137】
CおよびHを含有する化合物として、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、エチレン、プロピレン等の炭化水素が挙げられる。
【0138】
C,HおよびSiを含む化合物としては、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、テトラメチルシラン、ジエチルシラン、テトラエチルシラン、テトラブチルシラン、ジメチルジエチルシラン、テトラフェニルシラン、メチルトリフェニルシラン、ジメチルジフェニルシラン、トリメチルフェニルシラン、トリメチルシリル−トリメチルシラン、トリメチルシリルメチル−トリメチルシラン等がある。これらは併用してもよく、シラン系化合物と炭化水素を用いてもよい。
【0139】
C+H+Oを含む化合物としては、CH3OH、C2H5OH、HCHO、CH3COCH3等がある。
【0140】
C+H+Nを含む化合物としては、シアン化アンモニウム、シアン化水素、モノメチルアミン、ジメチルアミン、アリルアミン、アニリン、ジエチルアミン、アセトニトリル、アゾイソブタン、ジアリルアミン、エチルアジド、MMH、DMH、トリアリルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン等がある。
【0141】
この他、Si+C+H、Si+C+H+OあるいはSi+C+H+Nを含む化合物等と、O源あるいはON源、N源、H源等とを組み合わせてもよい。
【0142】
O源として、O2、O3等、
C+O源として、CO、CO2等、
Si+H源として、SiH4等、
H源として、H2等、
H+O源として、H2O等、
N源として、N2
N+H源として、NH3等、
N+O源として、NO、NO2、N2OなどNOxで表示できるNとOの化合物等、
N+C源として、(CN)2等、
N+H+F源として、NH4F等、
O+F源として、OF2、O2F2、O3F2等を用いてもよい。
【0143】
上記原料ガスの流量は原料ガスの種類に応じて適宜決定すればよい。動作圧力は、通常、0.01〜0.5Torr、投入電力は、通常、10W〜5kW程度が好ましい。
【0144】
DLC膜は、イオン化蒸着法により形成してもよい。イオン化蒸着法は、例えば特開昭58−174507号公報、特開昭59−174508号公報等に記載されている。ただし、これらに開示された方法、装置に限られるものではなく、原料用イオン化ガスの加速が可能であれば他の方式のイオン蒸着技術を用いてもよい。この場合の装置の好ましい例としては、例えば、実開昭59−174507号公報に記載されたイオン直進型またはイオン偏向型のものを用いることができる。
【0145】
イオン化蒸着法においては、真空容器内を10-6Torr程度までの高真空とする。この真空容器内には交流電源によって加熱されて熱電子を発生するフィラメントが設けられ、このフィラメントを取り囲んで対電極が配置され、フィラメントとの間に電圧Vdを与える。また、フィラメント、対電極を取り囲んでイオン化ガス閉じこめ用の磁界を発生する電磁コイルが配置されている。原料ガスはフィラメントからの熱電子と衝突して、プラスの熱分解イオンと電子を生じ、このプラスイオンはグリッドに印加された負電位Vaにより加速される。この、Vd,Vaおよびコイルの磁界を調整することにより、組成や膜質を変えることができる。また、バイアス電圧を印加してもよい。
【0146】
DLC膜をイオン化蒸着法により形成する場合、原料ガスには、プラズマCVD法と同様のものを用いればよい。上記原料ガスの流量はその種類に応じて適宜決定すればよい。動作圧力は、通常、0.01〜0.5Torr程度が好ましい。
【0147】
DLC膜は、スパッタ法により形成することもできる。この場合、Ar、Kr等のスパッタ用のスパッタガスに加えて、O2 、N2、NH3、CH4、H2等のガスを反応性ガスとして導入すると共に、C、Si、SiO2、Si3 N4、SiC等をターゲットとしたり、C、Si、SiO2 、Si3N4、SiCの混成組成をターゲットとしたり、場合によっては、C、Si、N、Oを含む2以上のターゲットを用いてもよい。また、ポリマーをターゲットとして用いることも可能である。このようなターゲットを用いて高周波電力、交流電力、直流電力のいずれかを印加し、ターゲットをスパッタし、これを基板上にスパッタ堆積させることによりDLC膜を形成する。高周波スパッタ電力は、通常、50W〜2kW程度である。動作圧力は、通常、10-5〜10-3Torrが好ましい。
【0148】
【実施例】
以下、本発明の具体的実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
【0149】
<実施例1>
母材には超硬合金G2を用いた。サンプルの形状はほぼ直方体で、その大きさは縦20mm×横20mm×厚さ2mmとした。
【0150】
まず、母材表面を、処理ガスにO210sccmを用いて、3分間プラズマ処理した。このとき、プラズマ発生用の交流電力は、周波数13.56MHzで0.05kWとし、動作圧力は0.1Torrとした。
【0151】
次に、母材上に、到達真空度を1×10-6Torrにした後、Taをターゲットとして、高周波(RF)スパッタ法により、下地層を成膜速度10nm/minで、50nmの厚さに成膜した。このときのスパッタガスはAr10sccmで、動作圧力は0.05Torrとした。また、投入電力は周波数13.56MHzで500Wとした。また、下地層は、X線測定からアモルファス状態であることがわかった。
【0152】
そして、Siをターゲットとして、高周波(RF)スパッタ法により、中間層を成膜速度10nm/minで、300nmの厚さに成膜した。このときのスパッタガスはAr10sccmで、動作圧力は0.05Torrとした。また、投入電力は周波数13.56MHzで500Wとした。また、中間層は、X線測定からアモルファス状態であることがわかった。
【0153】
ここで、Arで深さ方向に掘っていき、オージェ電子分光法(AES)により酸素濃度を測定した。その結果、下地層の母材に接する界面から5nmまでの平均酸素濃度も、母材の下地層に接する界面から5nmまでの平均酸素濃度も、10mol%だった。
【0154】
そして、この中間層上に、プラズマCVD法によりDLC膜を成膜した。すなわち、Si、C、H、Oを含有する化合物の原料ガスとしてSi(OCH3)4を流量5SCCM、CH4を流量6SCCMにて導入した。動作圧0.05Torrでプラズマ発生用の交流として、RF500Wを加え、セルフバイアス−400Vにて、膜厚1μmとなるように成膜し、DLC膜を設層した。DLC膜の組成はCH0.17Si0.1O0.17であった。
【0155】
このようにして得られたDLC膜を被覆した部材のサンプルについて、耐熱性試験を行った。
【0156】
(耐熱性試験)
図1に示すような炉1を用い、炉1内のセラミック台2上にサンプル3を載置し、炉1内にダクト4を介して大気を導入し、炉1内の雰囲気温度が350℃となるように加熱した。なお、ダクト4は大気導入用であるとともに排気用である。サンプル3の温度が350℃に達した時点を起点にし、サンプル3でのDLC膜の剥離面積がDLC膜全体の10%に達した時点を不可とし、この不可の時点に達するまでの時間を寿命とし、耐熱性を評価した。
【0157】
その結果を表1に示す。
【0158】
<実施例2〜4>
母材のプラズマ処理のパワーと、下地層の成膜の前の到達真空度とを変えて母材および下地層の界面酸素量を表1に示されるように変えた他は、実施例1と同様にしてDLC膜を被覆した部材のサンプルを得、実施例1と同様にして耐熱性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0159】
<比較例1、2>
母材のプラズマ処理のパワーと、下地層の成膜の前の到達真空度とを変えて母材および下地層の界面酸素量を表1に示されるように変えた他は、実施例1と同様にしてDLC膜を被覆した部材のサンプルを得、実施例1と同様にして耐熱性試験を行った。その結果を表1に示す。また、酸素量の少ない比較例1のサンプルは、母材表面の酸素処理のところで、O2をArに変えてエッチングを行うことにより作成した。
【0160】
<比較例3>
下地層と中間層とを設けなかった他は、実施例1と同様にしてDLC膜を被覆した部材のサンプルを得、実施例1と同様にして耐熱性試験を行った。その結果を表1に示す。なお、DLC膜は原料ガスにCH4を用い、膜の組成はCH0.2だった。
【0161】
<比較例4>
下地層を設けなかった他は、実施例1と同様にしてDLC膜を被覆した部材のサンプルを得、実施例1と同様にして耐熱性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0162】
【表1】
【0163】
表1より、母材および下地層の界面酸素量が3〜50mol%、特に10〜40mol%である本発明のDLC膜を被覆した部材は、比較例のものよりも、密着性が向上し、高温条件下で寿命が長かった。
【0164】
また、下地層、中間層を設けなかった比較例3、下地層を設けなかった比較例4のDLC膜を被覆した部材は、高温条件下で寿命が非常に短かった。
【0165】
<実施例5>
中間層をSiCをターゲットとして成膜した他は、実施例2と同様にしてDLC膜を被覆した部材のサンプルを得、実施例1と同様にして耐熱性試験を行った。その結果を表2に示す。なお、中間層の組成は、SiCだった。
【0166】
<実施例6>
中間層を、原料としてSi2H6およびCH4を用い、バイアス電圧−250V、流量60sccm、全圧0.05Torr、RF電力500W、反応温度10分、基板温度200℃、電極間距離4.0cmの条件で厚さ0.3μm に成膜した他は、実施例2と同様にしてDLC膜を被覆した部材のサンプルを得、実施例1と同様にして耐熱性試験を行った。その結果を表2に示す。なお、中間層の組成は、SiC6.1H4.6だった。また、このような中間層はX線測定からアモルファス状態であることがわかった。
【0167】
【表2】
【0168】
このように組成を変えても、本発明の部材は長寿命が得られた。
【0169】
<実施例7〜14>
下地層の組成を表3に示されるように変えた他は、実施例2と同様にしてDLC膜を被覆した部材のサンプルを得、実施例1と同様にして耐熱性試験を行った。その結果を表3に示す。
【0170】
【表3】
【0171】
このように組成を変えても、本発明の部材は長寿命が得られた。
【0172】
また、中間層を、SiC、SiC5.9H4.6としても同等の結果が得られた。
【0173】
<参考例15、16>
下地層の組成を表4に示されるように変えた他は、実施例2と同様にしてDLC膜を被覆した部材のサンプルを得、実施例1と同様にして耐熱性試験を行った。その結果を表4に示す。
【0174】
【表4】
【0175】
このように組成を変えても、本発明の部材は長寿命が得られた。
【0176】
また、中間層を、SiC、SiC6.0H4.8としても同等の結果が得られた。
【0177】
また、下地層のTaをTiに変えても同等の結果が得られた。また、下地層のTaをZr,Hf,V,Nb,Cr,Mo,Wに変えても同様の効果が得られた。
【0178】
<参考例17>
母材には実施例1と同じ超硬合金G2(JIS)を用いた。
【0179】
まず、母材表面を、処理ガスにO210sccmを用いて、3分間プラズマ処理した。このとき、プラズマ発生用の交流電力は、周波数13.56MHzで0.05kWとし、動作圧力は0.05Torrとした。
【0180】
次に、母材上に、到達真空度を1×10-6Torrにした後、TiSi2をターゲットとして、高周波(RF)スパッタ法により、中間層を成膜速度10nm/minで、300nmの厚さに成膜した。このときのスパッタガスはAr10sccmで、動作圧力は0.05Torrとした。また、投入電力は周波数13.56MHzで500Wとした。成膜した中間層のTiとSiのモル比はターゲットと同じであった。また、このような中間層はX線測定からアモルファス状態であることがわかった。
【0181】
ここで、Arで深さ方向に掘っていき、オージェ電子分光法(AES)により酸素濃度を測定した。その結果、下地層の母材に接する界面から5nmまでの平均酸素濃度も、母材の下地層に接する界面から5nmまでの平均酸素濃度も、10mol%だった。
【0182】
そして、この中間層上に、プラズマCVD法によりDLC膜を成膜した。すなわち、Si、C、H、Oを含有する化合物の原料ガスとしてSi(OCH3)4を流量5SCCM、CH4を流量6SCCMにて導入した。動作圧0.05Torrでプラズマ発生用の交流として、RF500Wを加え、セルフバイアス−400Vにて、膜厚1μmとなるように成膜し、DLC膜を設層した。DLC膜の組成はCH0.17Si0.1O0.17であった。
【0183】
このようにして得られたDLC膜を被覆した部材のサンプルについて、実施例1と同様にして耐熱性試験を行った。その結果を表5に示す。
【0184】
<参考例18〜20>
母材のプラズマ処理のパワーと、中間層の成膜の前の到達真空度および中間層の成膜の際のスパッタガスの酸素流量とを変えて母材および中間層の界面酸素量を表5に示されるように変えた他は、参考例17と同様にしてDLC膜を被覆した部材のサンプルを得、実施例1と同様にして耐熱性試験を行った。その結果を表5に示す。また、酸素量の少ない参考例20のサンプルは、母材表面の酸素処理のところで、O2をArに変えてエッチングを行うことにより作成した。
【0185】
<比較例5、6>
母材のプラズマ処理のパワーと、中間層の成膜の前の到達真空度とを変えて母材および中間層の界面酸素量を表5に示されるように変えた他は、実施例17と同様にしてDLC膜を被覆した部材のサンプルを得、実施例1と同様にして耐熱性試験を行った。その結果を表5に示す。また、酸素量の少ない比較例5のサンプルは、母材表面の酸素処理のところで、O2をArに変えてエッチングを行うことにより作成した。
【0186】
【表5】
【0187】
表5より、母材および中間層の界面酸素量が3〜50mol%、特に10〜40mol%である本発明のDLC膜を被覆した部材は、比較例のものよりも、密着性が向上し、高温条件下で寿命が長かった。
【0188】
<実施例21〜24>
中間層をTaSiCをターゲットとして成膜し、中間層の組成を表6に示されるように変えた他は、実施例17〜20と同様にしてDLC膜を被覆した部材のサンプルを得、実施例1と同様にして耐熱性試験を行った。その結果を表6に示す。
【0189】
<比較例7、8>
母材のプラズマ処理のパワーと、中間層の成膜の前の到達真空度および/または中間層の成膜の際のスパッタガスの酸素流量とを変えて母材および中間層の界面酸素量を表6に示されるように変えた他は、実施例21〜24と同様にしてDLC膜を被覆した部材のサンプルを得、実施例1と同様にして耐熱性試験を行った。その結果を表6に示す。
【0190】
【表6】
【0191】
表6より、母材および中間層の界面酸素量が3〜50mol%、特に10〜40mol%である本発明のDLC膜を被覆した部材は、比較例のものよりも、密着性が向上し、高温条件下で寿命が長かった。
【0192】
<参考例25〜31、実施例32〜39>
中間層の組成を表7に示されるように変えた他は、参考例18と同様にしてDLC膜を被覆した部材のサンプルを得、実施例1と同様にして耐熱性試験を行った。その結果を表7に示す。
【0193】
【表7】
【0194】
このように組成を変えても、本発明の部材は長寿命が得られた。
【0195】
<実施例40>
2元スパッタで各ターゲットに投入するパワーを経時変化させて中間層を成膜し、母材側にTiが多く、DLC膜側にSiが多い傾斜構造を有するものとした他は、実施例18と同様にしてDLC膜を被覆した部材のサンプルを得、実施例1と同様にして耐熱性試験を行った。このとき、母材に接する界面から10nmまでのOを除いた組成の平均値はTiSi0.5、DLC膜に接する界面から10nmまでのOを除いた組成の平均値はTiSi10だった。また、母材および中間層の界面酸素量は、実施例18と同じ40mol%だった。
【0196】
中間層が傾斜構造を有するこの部材の寿命は1500hrであり、中間層の組成が均一な実施例18の部材(寿命1000hr)よりも長寿命だった。
【0197】
<実施例41>
2元スパッタで各ターゲットに投入するパワーを経時変化させて中間層を成膜し、母材側にTiが多く、DLC膜側にSi、Cが多い傾斜構造を有するものとした他は、実施例22と同様にしてDLC膜を被覆した部材のサンプルを得、実施例1と同様にして耐熱性試験を行った。このとき、母材に接する界面から10nmまでのOを除いた組成の平均値はTiSi0.5C0.5、DLC膜に接する界面から10nmまでのOを除いた組成の平均値はTiSi8C8だった。また、母材および中間層の界面酸素量は、実施例22と同じ40mol%だった。
【0198】
中間層が傾斜構造を有するこの部材の寿命は1400hrであり、中間層の組成が均一な実施例22の部材(寿命1000hr)よりも長寿命だった。
【0199】
<実施例42>
実施例1と同様にプラズマ処理を施した母材上に、到達真空度を調節した後、中間層としてSiの炭化物(SiC)または炭窒化物(SiC0.4N0.8)を反応性スパッタ法により成膜し、その上に実施例1と同様にDLC膜を成膜してDLC膜を被覆した部材のサンプルを得た。このとき、中間層のOを除いた組成はそれぞれSiCとSiC0.4N0.8であり、いずれも母材および中間層の界面酸素量は30mol%であった。そして、実施例1と同様にして耐熱性試験を行ったところ、中間層のOを除いた組成がSiCのサンプルの寿命は250hrであり、SiC0.4N0.8のサンプルの寿命は230hrであり、どちらも母材と中間層が酸素を含有しない比較サンプルに比べて寿命が延びた。
【0200】
なお、以上、実施例では、母材と、下地層または中間層とに酸素を含有させたが、母材のみ酸素を含有させても、下地層または中間層のみ酸素を含有させても同様の効果が得られた。
【0201】
<実施例43>
母材を工具綱SKD11(JIS)に変えた他は、実施例1〜42と同様にしてDLC膜を被覆した部材のサンプルを得、実施例1と同様にして耐熱性試験を行った。この結果、用いた中間層構成に応じて、同様の結果が得られた。
【0202】
<実施例44>
母材をステンレス綱SUS420J(JIS)に変えた他は、実施例1〜42と同様にしてDLC膜を被覆した部材のサンプルを得、実施例1と同様にして耐熱性試験を行った。この結果、用いた中間層構成に応じて、同様の結果が得られた。
【0203】
<実施例45>
Si(OCH3)4を流量5SCCM、NO2を流量5SCCM、CH4を流量4SCCMにて導入し、膜厚1μmとなるようにDLC膜を成膜した他は、実施例1と同様にしてDLC膜を被覆した部材のサンプルを得、実施例1と同様にして耐熱性試験を行った。この結果、実施例1と同様の結果が得られた。なお、DLC膜の組成は、CH0.13Si0.15O0.26N0.13だった。
【0204】
<実施例46>
CH4を流量10SCCMにて導入し、膜厚1μmとなるようにDLC膜を成膜した他は、実施例1と同様にしてDLC膜を被覆した部材のサンプルを得、実施例1と同様にして耐熱性試験を行った。この結果、実施例1と同様の結果が得られた。なお、DLC膜の組成は、CH0.25だった。
【0205】
【発明の効果】
本発明によれば、特に高温条件下における母材とDLC膜との密着性を向上させ、DLC膜を被覆した部材の寿命を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の耐熱性試験に用いた炉を示す概略構成図である。
【符号の説明】
1 炉
2 セラミック台
3 サンプル
4 ダクト
Claims (8)
- ステンレス鋼、 SKS 、 SKD 、超硬合金( JIS:S 種、 G 種、 D 種および M45 、 46 、 63S から選択した一種)、ステライト、 SNCM または DC 53の何れか一種からなる母材上にダイヤモンド状炭素膜を被覆した部材であって、
母材上に、周期表第4A族(4族)金属(Ti,Zr,Hf)、周期表第5A族(5族)金属(V,Nb,Ta)および周期表第6A族(6族)金属(Cr,Mo,W)のいずれか一種以上を含有する下地層を有し、
この下地層上に、Siを含有する中間層を有し、
この中間層上に、ダイヤモンド状炭素膜を有し、
前記下地層の前記母材に接する界面から5nmまでの平均酸素濃度および/または前記母材の前記下地層に接する界面から5nmまでの平均酸素濃度が、3〜50mol%であるダイヤモンド状炭素膜を被覆した部材。 - 前記中間層が、SiまたはSiの炭化物から形成されている請求項1のダイヤモンド状炭素膜を被覆した部材。
- 前記中間層の組成を、SiCpHqと表したとき
0≦p≦25、
0≦q≦20
である請求項2のダイヤモンド状炭素膜を被覆した部材。 - 前記下地層が、周期表第4A族(4族)金属(Ti,Zr,Hf)、周期表第5A族(5族)金属(V,Nb,Ta)および周期表第6A族(6族)金属(Cr,Mo,W)のいずれか一種以上を、金属、炭化物または炭窒化物のいずれかの形で含有する請求項1〜3のいずれかのダイヤモンド状炭素膜を被覆した部材。
- ステンレス鋼、 SKS 、 SKD 、超硬合金( JIS:S 種、 G 種、 D 種および M45 、 46 、 63S より選択した一種)、ステライト、 SNCM または DC 53の何れか一種からなる母材上にダイヤモンド状炭素膜を被覆した部材であって、
母材上に、周期表第5A族(5族)金属(V,Nb,Ta)の珪炭化物、周期表第6A族(6族)金属(Cr,Mo,W)の珪炭化物、Tiの珪炭化物、Zrの珪炭化物のいずれか一種以上を含有する中間層を有し、
この中間層上に、ダイヤモンド状炭素膜を有し、
前記中間層の前記母材に接する界面から5nmまでの平均酸素濃度および/または前記母材の前記中間層に接する界面から5nmまでの平均酸素濃度が、3〜50mol%であるダイヤモンド状炭素膜を被覆した部材。 - 前記中間層のOを除いた組成をMSiaCb
(ただし、MはV、Nb、Ta、Cr、Mo、W、TiおよびZrのいずれか一種以上である)
と表したとき
0.9≦a≦1.8、
0.1≦b≦1.8、
1.9≦a+b≦3.6
である請求項5のダイヤモンド状炭素膜を被覆した部材。 - 前記中間層が、前記母材側にV、Nb、Ta、Cr、Mo、W、TiおよびZrのいずれか一種以上が多く、前記ダイヤモンド状炭素膜側にSiおよび/またはCが多い傾斜構造を有する請求項5または6のダイヤモンド状炭素膜を被覆した部材。
- 前記ダイヤモンド状炭素膜の基本組成をCHxSiyOzNvFwと表したとき、
モル比を表すx,y,z,v,wがそれぞれ、
0.05≦x≦0.7、
0≦y≦3.0、
0≦z≦1.0、
0≦v≦1.0、
0≦w≦0.2
である請求項1〜7のいずれか一項のダイヤモンド状炭素膜を被覆した部材。
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