JP3776754B2 - Dlcを施したシム - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は自動車等の内燃機関において、カムの回転運動による駆動力を、往復運動に変換する動力伝達系に使用される金属材料製のシムに関し、特に、耐摩耗膜を設けたシムに関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車エンジン等の内燃機関において、カムの回転運動による駆動力を、タペット等の往復運動部材を介して燃料バルブ等に伝達するための動力伝達系が使用されている。カムは、駆動力をタペット等に伝達するように接触対象例えばタペットに固定されたシムの面と当接され高面圧を受けながら摺動するため、カム面もまたシム面も摩耗損傷が激しくなる。特にOHC(オーバーヘッドカム軸)方式のエンジンではカムとタペット(若しくはシム)との間隔の調整作業が重要であり、これらの調整が不十分であると、騒音の発生源になるなどの不具合を生じたり、調整を行ってもこれらの部品の摩耗が激しいと所望の間隔からずれたりすることで、摩擦損失によりエンジン馬力の低下を引き起こし、燃費の低下を招くおそれがあった。さらに相手材とのかじりが発生して使用不可能になってしまうおそれがあった。
【0003】
燃料バルブを開閉するための動力伝達系の若干の例を示すと、図1は突き棒方式の伝達系であり、エンジン出力を伝動するクランクシャフトから駆動される軸1に固定されたカム3は、タペット7の下面に摺接しながら回転する。これにより往復運動するタペット7は突き棒9を介してロッカーアーム軸15に支承されたロッカーアーム13の一端に動力を伝達してそれを揺動させる。ロッカーアーム13の他端は、リテーナー19に保持されたばね17に支持されたバルブ棒21をカム3のタイミングで押圧して燃料バルブ23を開閉させ、燃料をエンジンのピストン/シリンダーに供給する。カム軸1とシム5の間隔は調整ねじ11により調整される。
図2はOHC方式の一種であるダブルオーバヘッドカム(DOHC)方式を使用した伝達系の例を示し、エンジン出力を伝動するクランクシャフトから駆動される軸1、1’に固定されたカム3、3’は、タペット7、7’の上面に摺接しながら回転する。これにより往復運動するタペット7、7’は、その内部にリテーナー19、19’で保持されたばね17、17’に支持されたバルブ棒21、21’をカム3、3’のタイミングで押圧して燃料バルブ23、および排気バルブ23’を開閉させ、燃料をエンジンのピストン/シリンダーに供給および排気する。
【0004】
カムとタペットの当接面は、それらの間隔に依存して或いはばね8の力により大きい摩擦作用を受けるので、カム表面と相手部材の当接面の間には十分な低摩擦性と耐摩耗性を付与する必要がある。この問題を解決するために、特開平11−280419号では図3に示したようにカム3と当接するタペット7の端面に耐摩耗性の高いダイヤモンド状炭素膜(DLC)よりなるシムを設けることが記載されている。しかし、同文献にはダイヤモンド状炭素膜製のシム単独では十分な耐摩耗性が得られず、さらにカム面をRaで0.08μm以下に精密研磨しなければならないと記載されている。
他の対策としては特開平11−280419号に、金属合金基材の上にカム摺動面よりも高硬度な材料例えばダイヤモンド状薄膜を被覆し、その表面を十点平均表面粗さRzが0.07〜0.2μmに仕上げたシムと、焼結金属等の多数の潤滑油を保持する開口気孔を形成したカムとの組み合わせを記載している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
特開平11−280419号に記載された技術では、耐摩耗性の高いダイヤモンド状炭素膜よりなるシムに対して、カム面をRaで0.08μm以下に鏡面研磨しなければならない問題がある。カム面の研磨工程は、手間と時間のかかる工程であり、能率が悪く、コストがかさむ問題がある。
一方特開平11−280419号に記載された技術では、シムの仕上げ面は比較的粗くてもよいが、カム摺動面に多数の開口気孔を形成してそこに潤滑油を保持させなければならない問題がある。
本発明は、カム面やシム面の精密研磨を行う必要が無く、耐摩耗を向上したシムを提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、カムの回転運動による駆動力を、往復運動部材に伝達するための伝達系に使用される金属材料製のシムの改良に関する。
【0007】
1)本発明は、カムの回転運動による駆動力を、往復運動部材に伝達するための伝達系に使用される金属材料製のシムにおいて、前記カムに摺動するように前記往復運動部材の面に固定された前記シムの表面に、Taの珪化物よりなる中間層と、炭素と水素とからなりその組成をCHnをモル比で表したとき0.05≦n≦0.7で表されるダイヤモンド状炭素膜とをこの順に形成してなり、前記ダイヤモンド状炭素膜に、CHxSiyO
(但し0.05≦x≦0.7
0.01≦y≦3.0
0≦z≦1.
で表されるダイヤモンド状炭素膜の層を組み合わせるか、またはこれらの組成の一方の組成から他方の組成に連続的に変化した層を形成したことを特徴とするシムを提供する。
好ましくは、上記Taの珪化物はTaSia(a=1〜6)である。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明者等は、従来の技術によるシムに形成したダイヤモンド状薄膜(DLC膜)が、比較的表面粗さの大きいカムと組み合わせて使用されるとき、大きい摩耗を生じる理由を探求した結果、シムの金属基材とダイヤモンド状薄膜の密着性に問題があり、そのため長期の使用が不能となることを見い出した。
本発明者等は、鋭気研究した結果、シムに被覆するダイヤモンド状薄膜の材質を適正に選択することおよび/または適正な中間層を使用することにより密着性を向上し、耐摩耗性を格段に向上することが出来た。
本発明の構成を有するシムを採用すると、カムの表面粗さは0.08μm以下に精密研磨する必要がない。
【0010】
すなわち、本発明は、少なくともシムの面とダイヤモンド状炭素膜との間に、Taの珪化物よりなる中間層を設ける。このような中間層を形成すると、ダイヤモンド状炭素膜に特に制限はなく、Hを含有するダイヤモンド状炭素膜、HとSiを含有するダイヤモンド状炭素膜、またはこれらの組み合わせ、或いはこれらの一方から他方の組成に連続的に組成を変えるダイヤモンド状炭素膜を使用することができる。
【0011】
なお、中間層を使用しなくても少なくともシムの表面に、HとSiを含有するダイヤモンド状炭素膜を形成すれば、耐摩耗性を大幅に向上することが可能となる。この場合に、HとSiを含有するダイヤモンド状炭素膜の上に、さらにHを含有するダイヤモンド状炭素膜を形成することも可能であり、更なる耐摩耗性の向上が期待できるが、中間層の使用に劣る。以下簡単のためにダイヤモンド状炭素膜をDLCと略することがある。
又、本発明では上記のようにシムを処理するほか、カムの表面にもダイヤモンド状炭素膜を直接又は中間層を介在して形成することにより耐摩耗を一層向上することができる。
【0012】
本発明でカムおよびシムの基材として使用できる材料は、従来から斯界で慣用されている任意の材料が使用できる。これらの材料としては例えば各種の炭素鋼や鋳鉄など(ねずみ鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄、可鍛鋳鉄、合金鋳鉄など)、鋳鋼などで、超強靱鋼(SNCM420、SCM440、SCM420、SCR420、H11など)、高速度工具鋼(ハイス鋼:JIS規格のSKH系)、合金工具鋼(ダイス鋼:SKD6など)、マルエージ鋼(KMS180−20など)、オースフォーム鋼、ステンレス鋼(SUS304、SUS430、17−4PHなど)、軸受鋼(SUJ2など)、Al合金(AC4Cなど)、Ti合金等が挙げられる。
【0013】
これらの基材となる金属に対して、適当な条件で焼き入れして材料の硬度を向上させたものを使用しても良い。焼き入れには例えば、高周波焼き入れ、炎焼き入れ、浸炭焼き入れなどが使用できる。
またこれらの基材上か、焼き入れ後の基材に対し、表面硬化処理を施し、その上にダイヤモンド状炭素膜或いは中間層を介在してダイヤモンド状炭素膜をコーティングしても良い。表面硬化処理としては、例えば窒化、浸炭、硼化処理がある。
【0014】
中間層
次に、本発明で使用する中間層は、Taの珪化物よりなる。TaSia(a=1〜6),特にTaSi 2 の層が好適に使用できる。
【0015】
上記(a)の中間層の場合、TaSi a 表したとき、好ましくは1≦a≦6である。aがこれより大きくて珪素が多くなると、母材との密着力が悪くなる。aがこれより小さくて珪素が少なくなると、DLC膜との密着力が悪くなる。好適にはa=2すなわちTaSi 2 である。
【0016】
中間層は、2nm〜5μmの厚さであることが好ましく、さらには5nm〜1μmの厚さであることが好ましい。このような厚さとすることで密着性が向上する。これに対し、中間層が薄すぎると密着性向上の効果が十分ではなくなり、厚すぎると耐衝撃性が悪くなってくる。
【0017】
本発明の中間層は、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等のPVD法や熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等のCVD法によって形成することができる。また、湿式メッキ法、溶射、クラッド接合等により形成してもよい。具体的には公知の方法による。
特に、本発明の中間層はスパッタ法により形成することが好ましい。この場合、目的とする組成に応じたターゲットを用い、高周波電力、交流電力、直流電力のいずれかを付加し、ターゲットをスパッタし、これを母材(基板)上にスパッタ堆積させることにより中間層を形成する。
【0018】
ターゲットは、通常、中間層と同じ組成のものを用いればよいが、Ta等の金属とSi等の金属とをターゲットとする多元スパッタとしてもよいし、反応性スパッタでCやSiを導入する場合はその成分を含まないターゲットを用いることができる。
【0019】
スパッタガスには、通常のスパッタ装置に使用される不活性ガスが使用できる。中でも、Ar、Kr、Xeのいずれか、あるいは、これらの少なくとも1種以上のガスを含む混合ガスを用いることが好ましい。
また、反応性スパッタを行ってもよく、反応性ガスとしては、珪素を導入する場合には、シランガス等を用いる。
スパッタ時の動作圧力は、0.2〜70Paの範囲が好ましい。また、成膜中にスパッタガスの圧力を、前記範囲内で変化させることにより、濃度勾配を有する中間層を容易に得ることができる。
【0020】
スパッタ法としては、RF電源を用いた高周波スパッタ法を用いても、DCスパッタ法を用いてもよい。スパッタ装置の電力としては、DCスパッタで0.5〜30W/cm2程度、高周波スパッタで周波数1〜50MHz、低周波では50kHz〜1MHz、0.5〜30W/cm2程度が好ましい。
成膜速度は1〜300nm/minの範囲が好ましい。
また、基板温度は10〜150℃であることが好ましい。
【0021】
また、本発明の中間層は蒸着法により形成してもよい。蒸着法としては、抵抗加熱方式であっても電子ビーム加熱方式であってもよい。蒸着源には、Ta等の金属とSiとを用いる2元蒸着であっても、中間層と同じ組成のものを用いる1元蒸着であってもよい。1元蒸着でも、膜組成は蒸着源の組成とほぼ同じものが経時的に安定して得られる。
真空蒸着の条件は特に限定されないが、真空度は10-3Pa以下、特に10-4Par以下が好ましい。成膜速度は、通常、1〜300nm/min程度が好ましい。
【0022】
また、中間層は、プラズマCVD法、イオン化蒸着法によっても形成でき、その場合、後述するDLC膜を参考にして成膜すればよい。
【0023】
ダイヤモンド状炭素膜
ダイヤモンド状炭素(DLC)膜は、ダイヤモンド様炭素膜、i−カーボン膜等と称されることもある。ダイヤモンド状炭素膜については、例えば、特開昭62−145646号公報、同62−145647号公報、New Diamond Forum、第4巻第4号(昭和63年10月25日発行)等に記載されている。
【0024】
DLC膜は、上記文献(New Diamond Forum)に記載されているように、ラマン分光分析において、1550cm-1にブロードな(1520〜1560cm-1)ラマン吸収のピークを有し、1333cm-1に鋭いピークを有するダイヤモンドや、1581cm-1に鋭いピークを有するグラファイトとは、明らかに異なった構造を有する物質である。
DLC膜のラマン分光分析における吸収ピークは、上記のように1550cm-1にブロード(1520〜1560cm-1)な吸収を有するが、炭素および水素以外の上記元素を含有することにより、これから±100cm-1程度変動する場合もある。
DLC膜は、炭素と水素とを主成分とするアモルファス状態の薄膜であって、炭素同士のsp3結合がランダムに存在することによって形成されている。DLC膜はCHnで表したとき、モル比で0.05≦n≦0.7である。
【0025】
本発明において、DLC膜の厚さは、通常、1〜10μm、好ましくは10nm〜3μmである。
【0026】
DLC膜は、炭素および水素に加え、Siを含み、O、N、Fの1種または2種以上を含有していてもよい。中間層を使用しない場合は、基材との密着性を向上するために、少なくとも第1層は水素の他にSiを含有すべきである。この場合、DLC膜は、CHxSiyOzと表したとき、x、y、zがそれぞれ、0.05≦x≦0.7、0.01≦y≦3.0、0≦z≦1であることが好ましい。また、複数の層を形成しても良いが、その代わりに、Siを含有する部分からSiを含有しない部分のように、組成が厚さ方向に連続可変となっても良い。
【0027】
DLC膜は、プラズマCVD法、イオン化蒸着法、スパッタ法などで形成することができる。
DLC膜をプラズマCVD法により形成する場合、例えば特開平4−41672号公報等に記載されている方法により成膜することができる。プラズマCVD法におけるプラズマは、直流、交流のいずれであってもよいが、交流を用いることが好ましい。交流としては数ヘルツからマイクロ波まで使用可能である。また、ダイヤモンド薄膜技術(総合技術センター発行)などに記載されているECRプラズマも使用可能である。また、バイアス電圧を印加してもよい。
【0028】
DLC膜をプラズマCVD法により形成する場合、原料ガスには、下記化合物を使用することが好ましい。
CおよびHを含有する化合物として、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、エチレン、プロピレン等の炭化水素が挙げられる。
C、HおよびSiを含む化合物としては、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、テトラメチルシラン、ジエチルシラン、テトラエチルシラン、テトラブチルシラン、ジメチルジエチルシラン、テトラフェニルシラン、メチルトリフェニルシラン、ジメチルジフェニルシラン、トリメチルフェニルシラン、トリメチルシリル−トリメチルシラン、トリメチルシリルメチル−トリメチルシラン等がある。これらは併用してもよく、シラン系化合物と炭化水素を用いてもよい。
C+H+Oを含む化合物としては、CH3OH、C25OH、HCHO、CH3COCH3等がある。
C+H+Nを含む化合物としては、シアン化アンモニウム、シアン化水素、モノメチルアミン、ジメチルアミン、アリルアミン、アニリン、ジエチルアミン、アセトニトリル、アゾイソブタン、ジアリルアミン、エチルアジド、MMH、DMH、トリアリルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン等がある。
この他、Si+C+H、Si+C+H+OあるいはSi+C+H+Nを含む化合物等と、O源あるいはON源、N源、H源等とを組み合わせてもよい。
【0029】
O源として、O2、O3等、C+O源として、CO、CO2等、Si+H源として、SiH4等、H源として、H2等、H+O源として、H2O等、N源として、N2N+H源として、NH3等、N+O源として、NO、NO2、N2OなどNOxで表示できるNとOの化合物等、N+C源として、(CN)2等、N+H+F源として、NH4F等、O+F源として、OF2、O22、O32等を用いてもよい。
【0030】
上記原料ガスの流量は原料ガスの種類に応じて適宜決定すればよい。動作圧力は、通常、1〜70Pa、投入電力は、通常、10W〜5kW程度が好ましい。
【0031】
DLC膜は、イオン化蒸着法により形成してもよい。イオン化蒸着法は、例えば特開昭58−174507号公報、特開昭59−174508号公報等に記載されている。ただし、これらに開示された方法、装置に限られるものではなく、原料用イオン化ガスの加速が可能であれば他の方式のイオン蒸着技術を用いてもよい。この場合の装置の好ましい例としては、例えば、実開昭59−174507号公報に記載されたイオン直進型またはイオン偏向型のものを用いることができる。
【0032】
イオン化蒸着法においては、真空容器内を10-4Pa程度までの高真空とする。この真空容器内には交流電源によって加熱されて熱電子を発生するフィラメントが設けられ、このフィラメントを取り囲んで対電極が配置され、フィラメントとの間に電圧Vdを与える。また、フィラメント、対電極を取り囲んでイオン化ガス閉じこめ用の磁界を発生する電磁コイルが配置されている。原料ガスはフィラメントからの熱電子と衝突して、プラスの熱分解イオンと電子を生じ、このプラスイオンはグリッドに印加された負電位Vaにより加速される。この、Vd、Vaおよびコイルの磁界を調整することにより、組成や膜質を変えることができる。また、バイアス電圧を印加してもよい。
【0033】
DLC膜をイオン化蒸着法により形成する場合、原料ガスには、プラズマCVD法と同様のものを用いればよい。上記原料ガスの流量はその種類に応じて適宜決定すればよい。動作圧力は、通常、1〜70Pa程度が好ましい。
【0034】
DLC膜は、スパッタ法により形成することもできる。この場合、Ar、Kr等のスパッタ用のスパッタガスに加えて、O2、N2、NH3、CH4、H2等のガスを反応性ガスとして導入すると共に、C、Si、SiO2、Si34、SiC等をターゲットとしたり、C、Si、SiO2、Si34、SiCの混成組成をターゲットとしたり、場合によっては、C、Si、N、Oを含む2以上のターゲットを用いてもよい。また、ポリマーをターゲットとして用いることも可能である。このようなターゲットを用いて高周波電力、交流電力、直流電力のいずれかを印加し、ターゲットをスパッタし、これを基板上にスパッタ堆積させることによりDLC膜を形成する。高周波スパッタ電力は、通常、50W〜2kW程度である。動作圧力は、通常、10-3〜0.1Paが好ましい。
【0035】
【実施例】
次に本発明の実施例を説明する。表1に示す組み合わせでシムの表面に中間層およびDLC膜を形成した。
カムおよびシムの素材としてはすべてSNCM420を使用した。実施例の基材の表面粗さはすべてRa=0.1μmとした。シムを真空チャンバーの所定位置に配置し、排気した後、次の条件で成膜した。
【0036】
<中間層の成膜>
表1の中間層はスパッタ法により次の条件で製造した。
使用ガス:Ar(5.1×10-2Pa・m3・s-1)=30sccm
スパッタ圧力:40Pa
投入電力:500W
ターゲット:Ta、Si
膜厚:Ta(第1層)10nm、Si(第2層)90nm
【0037】
さらに、ターゲットを変え同じ成膜条件で表1に示す中間層を成膜した。膜厚を100nmとした。
【0038】
【表1】
Figure 0003776754
【0039】
<DLC膜の成膜>
DLC膜は自己バイアスRFプラズマCVD法により次の条件で成膜した。
DLC1
原料ガス:C24(0.017Pa・m3・s-1
電源:RF
動作圧:66.5Pa
投入電力:500W
成膜レート:100nm/min
膜組成:CH0.21
膜厚:2μm
DLC2
原料ガス:Si(OCH34(0.085Pa・m3・s-1
電源:RF
動作圧:66.5Pa
投入電力:500W
成膜レート:100nm/min
膜組成:CH0.2Si0.10.17
膜厚:2μm
DLC3
原料ガス:Si(CH34(0.085Pa・m3・s-1
電源:RF
動作圧:66.5Pa
投入電力:500W
成膜レート:100nm/min
膜組成:CH0.24Si0.22
膜厚:2μm
【0040】
<評価方法>
DLCをコーティングしないシム(比較例)とDLCをコーティングしたシム及びカム(実施例及び比較例)に、以下の条件を付加して耐久試験を行った。その後シムの摩耗状態を比較した。試験は、DOHCを使用する自動車エンジンにおいて、タペットの面にシムを固着し、カムを当接し回転させる。
条件:カム回転数:9000rpm
試験時間:10時間
作用最大応力:2000MPa
動作環境:オイル中
この条件は商用自動車の一般的な走行における回転数(2000〜4000rpm)に比してはるかに過酷なF1レベルに相当する加速試験であることに注意すべきである。
結果は表2に示す通りであった。
【0041】
【表2】
Figure 0003776754
【0042】
【発明の効果】
表1において耐久性時間を超えるとエンジンの稼働が停止することを示す。本発明の実施例によると、比較例1に対してはもちろんのこと、DLCを使用した公知例に相当する比較例2に比しても極めて耐久性の高いシムが提供できたことが分かる。実施例1〜3から分かるように、本発明では比較例2のような精密研磨をシムの表面に施していないにも拘わらず優れた耐久性が得られているので、工程の短縮とコストの低下が可能となる。
本発明によると、少なくともシムに被覆するダイヤモンド状薄膜の材質を適正に選択することおよび/または適正な中間層を使用することにより密着性を向上し、耐摩耗性を格段に向上することが出来た。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用できるカムおよびタペットを備えた動力伝達系の構造を示す断面図である。
【図2】本発明が適用できるカムおよびタペットを備えた動力伝達系の他の構造を示す断面図である。
【図3】従来のカムおよびシムを備えた例を示す図である。
【符号の説明】
1、1’ カムシャフト
3、3’ カム
5 シム
7、7’ タペット
9 突き棒
11 調整ねじ
13 ロッカーアーム
15 ロッカーアーム軸
17、17’ ばね
19、19’ リテーナー
21、21’ バルブ棒
23 燃料バルブ
23’ 排気バルブ

Claims (2)

  1. カムの回転運動による駆動力を、往復運動部材に伝達するための伝達系に使用される金属材料製のシムにおいて、前記カムに摺動するように前記往復運動部材の面に固定された前記シムの表面に、Taの珪化物よりなる中間層と、炭素と水素とからなりその組成をCHnをモル比で表したとき0.05≦n≦0.7で表されるダイヤモンド状炭素膜とをこの順に形成してなり、前記ダイヤモンド状炭素膜に、CHxSiyOz
    (但し0.05≦x≦0.7
    0.01≦y≦3.0
    0≦z≦1.0)
    で表されるダイヤモンド状炭素膜の層を組み合わせるか、またはこれらの組成の一方の組成から他方の組成に連続的に変化した層を形成したことを特徴とするシム。
  2. Taの珪化物がTaSia(a=1〜6)である請求項1のシム。
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